IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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え? タイトルがネタバレ?

いやでもこれ思いついた時「俺マジ天才かもw」とか思い上がるくらいしっくり来たんですよ。


第33話 アミダハザード

『やああああっ!』

『だああああっ!』

『…………』

『うわあっ!?』

『あだっ!? ……うぐぐ』

『むう、二人掛かりでも勝てんとは……』

『ああ、くそっ! なんでそんなに強いんだよ!?』

『……さあ……』

『ぐぐぐ……涼しい顔しやがって……』

『しかし、本当に強いな。まるで勝てる気がしない』

『……弱気……』

『む……確かに、気持ちで負けていては、格上相手に勝てるはずもないか……』

『俺は気持ちで負けてねえぞ! なのになんで勝てねえんだよっ!?』

『馬鹿かお前は。気持ちだけで勝てるなら、剣術などいらんだろう』

『ぐぐぐ……!』

『…………』

『……よし! シン、もう一回勝負だ!』

『おい一夏、真改は私たち二人を相手してるんだぞ。少しは休ませて――』

『だああああっ!』

『って、話を聞けっ!』

『…………』

『いだあっ!?』

『……瞬殺か。情けない』

『うっせえ! 箒だって同じようなもんだろ!』

『い、一夏よりは強いぞ!』

『なにおう!? よし、じゃあお前から倒してやるっ!』

『ふん、いいだろう、かかって来い!』

『行くぜ! だああああっ!』

『やああああっ!』

『…………』

『おらあっ!』

『せえいっ!』

『…………』

『うおおおおっ!』

『はああああっ!』

『…………』

『……ま、負けた……』

『ふ、まだまだだな』

『ちくしょう、悔しい……!』

『動きが荒すぎる。次の手が簡単に読めるぞ』

『むむむ……』

『真改を見習え。まったく無駄がない。だから相手に余計な情報を与えないんだ』

『…………』

『動きの無駄か……。例えば、どんなだよ?』

『踏み込みとか、体捌きとか、剣の振り方とかだな』

『戦いながらそんなにいっぱい考えていられるかよ』

『考えなくてもできるようにするための鍛錬だ』

『……無心……』

『この間は少しは考えて戦えとか言ってただろ』

『剣術とは相手との読み合いだ。考え無しの剣など、すぐに手詰まりになる』

『考えるなとか考えろとか、どっちなんだよ』

『必要なことだけ考えて、余計なことは考えるな』

『……一心……』

『……難しいな』

『ああ、難しい。だからこそ、剣の道には極める価値がある』

『極める価値、か……。じゃあ、シンは剣を極めてるのか?』

『……まさか……』

『ええ? こんなに強いのに?』

『真改は私たちと同い年だぞ。いくらなんでも、まだその境地には届かないだろう』

『…………』

『う〜ん、こんなに強いのになあ』

『だがまあ、真改が強いのは確かだな。私たちよりも、ずっと』

『ああ。それに、なんていうか……シンの剣は、すごくキレイだ』

『そうだな、私もそう思う。無駄のない、無骨な剣のはずなのに、つい目を奪われてしまう。舞に通じるものがあるな』

『剣舞ってヤツか』

『剣舞か。うん、まさしくそうだな。真改の剣は、剣舞と呼ぶべきものだ』

『……誉め過ぎ……』

『そんなことねえよ。シンの剣はすごくキレイだ。俺の目標だよ』

『む……まあ確かに、真改の剣はキレイだ。私も、その……目標にしている』

『…………』

『……よし! シン、もう一回だ!』

『まだやるのか。もういい加減に――』

『まだまだやるぞ! 俺は強くなりたいんだ、そのためにはもっと鍛錬しないと』

『なんでそんなに強さにこだわるんだ』

『だって情けねえだろ。男の俺が一番弱いだなんて』

『む……』

『カッコ悪いじゃないか。女の子の方が強くて、男が弱いなんて。だから、強くならなきゃ』

 

 

 

『強くなるぞ! 強くなって、いつか必ず、お前に勝つからな――シン!』

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「侵入者の映像、出ます」

 

 如月重工本社ビルの最深部、極秘開発エリア。

 そこの第五シェルターに避難した本音、如月社長、網田主任、その他数名の研究員たち。

 社内の監視カメラを確認していた研究員の一人が、侵入してきた二人の姿を認めて報告した。全員が監視カメラの映像を映し出すモニターを覗き込む。

 

「どれどれ……ふむ、さすがはIS操縦者、なかなか若くて美人じゃないか」

「いいですねぇ、解剖したいですねぇ」

「こらこら網田君、そんなことを言うもんじゃないよ」

「おっと、私としたことが。解剖したら一回で終わりですからねぇ」

「そうそう、解剖は最後だよ。せっかくのお客様なんだから、たっぷり楽しませてゲフンゲフン楽しんでもらわないと」

「ではすぐに、おもてなしの準備をしなくてはなりませんねぇ」

「「うふふふふふふふふふふ」」

 

 こんな二人には慣れっこなのか、研究員たちは誰も気にしない。本音ももう慣れたので気にしない。気にしないったら気にしない。

 

「侵入者は今どこに?」

「地下二階です。防衛システムと交戦しながら、さらに下を目指しています」

「まだ二階? 随分のんびりだねえ」

「エレベーターは完全に塞ぎました。侵入者は階段を使って降りています」

「え? 階段使ってるの? バカだなあ、一階ごとにエリアの反対側にある階段なんて、怪しいと思わないのかねえ」

「ですがまあ、その怪しい階段を使わざるを得ないように、エレベーターを徹底的に塞いだわけですからねぇ」

「うふふ、目論見通りってヤツだねえ」

「侵入者はエレベーターを破って地下に侵入、防衛システムによりエレベーターが塞がれたため地下一階に出てそこを探索、階段を発見し地下二階に降り、現在は一階と同じように探索中で……あ、階段を発見したようです」

「ふむ、三階か。三階には何が仕掛けてあったっけ?」

「ダミーの階段です。トラップ付きの」

 

 そんなことを話している内に、侵入者がダミーの階段に飛び込んだ。その瞬間、階段の左右の壁が爆発的に動き、二人の侵入者をサンドイッチし。

 

「「Yeahhhhhhhh!!!」」

 

 歓声、ガッツポーズ、そしてハイタッチ。大いに盛り上がる社長と主任。ものすごいテンションだった。

 

「見たかね網田君っ! あの驚いた顔っ!!」

「勿論ですともっ! 録画もバッチリですよっ!! スーパースローカメラで撮影したので細かな表情変化も完璧ですっ!!」

「今のシーン切り抜いておいてくれたまえっ! 来週のハプニング映像百連発に投稿するからっ!!」

「もう切り抜きましたよっ!」

「さすがだ網田君! 仕事が速いねえ! ……お?」

 

 画面の中で、階段の壁が粉々に砕け散る。その中から、顔を真っ赤にして激怒する侵入者たちが現れた。

 

「そうこなくっちゃ! さあ、頑張ってくれたまえよ侵入者君! もっと僕を楽しませてくれ!」

「面白いシーンを編集してまとめておきましょう! 大作が出来上がりますよっ!」

「「ふははははははっ!!」」

 

 心から楽しんでいる様子の二人。

 その指示を受け、黙々と編集作業を始める研究員。

 

 異様な光景だった。

 

「社長〜」

「うん? なんだね布仏君」

「あの人たちって〜、何が目的なんですか〜?」

 

 本音の質問はある意味当然のものだった。気になるに決まっている。

 実際に質問するあたりが本音のすごいところではあるが。

 

「さあ? 知らないよ、そんなこと」

「心当たりとかないんですか〜?」

「ありすぎて絞り込めないねえ。ウチは色んなところから恨み買ってるし、違法な研きゅゲフンゲフン自慢の技術力のおかげで他にはない兵器やら装置やらがあるからねえ。狙われる理由ならいくらでもあるよ」

「おお〜、でんじゃらすですね〜」

「危険な男というのは、魅力的だろう?」

 

 狙われている危険というよりも社長本人が危険過ぎるのはどうなんだろうと本音は思ったが、それを言っても社長が喜ぶだけだと思ったので言わなかった。

 

「けどまあ、なんで狙われてるのかはわからないけど、誰に狙われてるのかはわかったよ」

「へ〜? 誰なんですか〜?」

「……うふ。うふふ、ふふふふ」

 

 不気味な嗤い声。

 

 研究員たちが、僅かに身を竦ませる。

 

 網田主任も、声をあげずに嗤う。

 

 これと同じモノを一度見たことのある本音は、気付いた。

 

 ――如月社長と網田主任は、怒っている。

 

 社長は、ニイィッと口元を歪ませ、殺意すら滲んだ声色で呟いた。

 

「……ここは生者の世界だからねえ。亡霊には、お引き取り願おうか」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ああああっ!! ムカつくぜっ!! なんなんだよ、ここはよおっ!!」

 

 如月重工本社ビル、地下十階。

 侵入者の二人、八本の装甲脚が伸びるISを身に着けた二十代半ばくらいの女と、同じくISを身に着け六機のビットを引き連れた、十代半ばくらいの少女。

 そのうちの女の方が、苛立ちを隠すことなく声をあげながら、壁からせり出して来た六連装ガトリングタレットを粉砕する。

 

「一体どんだけ罠仕掛けてあんだ!? 軍事基地だってこんな防衛システムは備えてねえぞ!!」

「うるさい、黙って進め」

 

 少女が女の声に不機嫌そうに答えながら、天井から生えてきたプラズマタレットを吹き飛ばす。

 地下の通路はかなり広く、IS二機が並んでもまだ少し余裕がある。侵入者たちは互いの攻撃しにくい範囲をカバーし合いながら、次々出てくるオートタレットを破壊しつつ進んでいた。

 

「余力を残しておけ。この調子だと、何階まであるか分からない」

「言われなくたって分かってんだよ、そんなことは!」

 

 見つけた階段を慎重に確認しつつ降りる。

 二人は最初はエレベーターをぶち抜いて一気に最下層まで降りようと考えていたのだが、エレベーターの底を破った瞬間エレベータートンネルの壁が動き出し、トンネルを塞いでしまったのだ。

 なんとか地下一階に飛び込んでぺしゃんこになることは防いだが、エレベータートンネルは通れなくなった。仕方なく階段で一階一階降りていたのだが、そこに待ち受けていたのがおびただしい数の防衛システムだったのだ。

 

 最新技術を惜しげもなく使った、なのに時に妙に古臭い(例:パイルバンカー吊り天井)罠を突破しながら進んでいる二人は、弾薬を節約するために今は格闘攻撃メインだ。エネルギーはともかくとして体力が保つか心配である。

 

「ちいっ、キリがねえな……!」

「ガードが固くて、地下エリアの情報はほとんど手に入らなかったらしい。あとどれだけあるのやら」

「一般の会社を襲うなんざ、楽な仕事だと思ったのによお……!」

 

 だが会社どころか、要塞顔負けの防衛システムが待ち受けていた。しかもセオリーとか使い勝手とか無視した愉快型兵器も多々あり、歴戦の猛者である二人が何度も不意を突かれていた。

 次が読めない状況に、精神的な消耗も激しかった。

 

「! 階段だっ!」

「次は二十階か」

 

 階段を降り、廊下に出る。

 素早く意識を巡らし、どんな罠が待ち構えているか確認する。だがどういうわけか、この階には罠は無かった。

 

 否、無いのではない。有るに決まっている。

 有るが、機能していない。誤作動とは考え難いので、如月重工が停止しているのだろう。

 

「……何考えてやがる」

「気を付けろ……」

 

 凄まじい緊張感が神経を焦がす。

 二人の額から一滴の汗が流れ落ちる。

 

 今まであれほどの罠が仕掛けられていたのだ、なにもない、などということがある筈がない。

 

 慎重に、しかし迅速に、静まり返った廊下を進む。

 

「なんだ……何を考えてやがる……」

「……不気味だな……」

 

 そうして、神経を尖らせながらある程度進んだ時。

 

 不意に、廊下のスピーカーから声がした。

 

 

 

『本日ハ晴天ナリイイイイイィィィィッ!!!』

「「………………」」

『あー、あー、マイクテストマイクテスト』

『社長〜。順番が逆ですよ〜』

『あれ? そうだったかね?』

 

 緊張感の欠片もなかった。

 

「……なんだよ、このバカは」

「……知るか」

『やあやあ侵入者のお二人さん! はじめまして、僕がここの社長だよ!』

「「ああ……道理で」」

 

 二人は色々と納得した。

 

『君たちは〔亡国機業(ファントム・タスク)〕のエージェント、でいいのかな?』

「なっ……?」

「てめえ……なんで知ってる?」

 

 それは如月社長の言葉を肯定しているのと同義の反応だった。

 しかし如月社長が確信を持って質問して来ていることは確かであり、隠しても意味はないだろう。

 

『君らのことは知らないよ。僕が知ってるのはその機体さ』

「機体だと……?」

『アメリカの第二世代型IS〔アラクネ〕。それに、イギリスの第三世代型試験機〔サイレント・ゼフィルス〕。どちらも強奪されたISだねえ』

「「…………」」

『そして、強奪した組織は――亡国機業』

「……よく知ってるじゃねえか」

『うふふ。極秘って聞くと、どうにも知りたくなっちゃうんだよねえ』

『女の子の秘密もですか〜?』

『それは別にどうでもいいや』

『おりむーから聞きましたよ〜。朧月使って、いのっちのプライベート覗き見してたって〜』

『ああ、そんなこともあったね。けど大丈夫、未遂に終わったから』

『なるほど〜、それなら大丈夫ですね〜』

『そうだろう? うふふ』

『そうですね〜。てひひ』

『うふふ』

『てひひ』

「話を進めろよ」

「放っておけ。話よりも歩みを進めるぞ」

「そーだな。てめえと同意見てのは癪だが、アレと話してると頭がおかしくなりそうだぜ」

 

 心底呆れた顔で二人が言い、次の階に降りるための階段を探し始める。

 そこでまた社長の声。

 

『まあ君らが何を目的にしてるのかはわからないけど、僕の作品(こども)を渡す気はないよ』

「けっ、なにが僕の作品(こども)だよ。盛大に使い捨ててやがったくせによ」

『わかってないねえ。道具というのは目的があって産み出される。その目的を果たしたのなら、それが道具の幸福だ。だから僕たちは、作ったものは必ず使い切る。使いもせずに死蔵するだなんて、僕たちに言わせれば命に対する冒涜と同義だよ』

「だから私たちが使うと言っている」

『言っただろう、道具には目的があるって。その目的は僕たちが決めたんだ。だから、僕たちが認めた人にしか託さない』

「……ふん。交渉決裂、だな」

「まあ最初っから力ずくでもらってくつもりだったし、やることは変わんねえよ」

『ま、そうだろうねえ。うん、それじゃあ頑張ってくれたまえ。……けど、一つ忠告しておくよ』

 

 忠告? と、侵入者たちが足を止める。

 

 社長の声に、道具云々のくだりとはまた違った真摯さがあったからだ。

 

 そして、低く、力のある声で。

 

 

 

『ここは僕たちの城だ。たったの二機で攻め落とせると思うなよ、小娘ども』

 

 

 

 宣戦布告をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうだい今の? なかなかキマってなかった?』

『ばっちりでしたよ〜』

『そうだろう! いやあ、今のハッタリで逃げ帰ってくれないかなあ。そうすると僕としても助かるんだけどなあ』

『どうでしょうかねぇ。亡国機業のエージェントなら優秀でしょうしねぇ。難しいんじゃないですかねぇ』

『う〜ん、やっぱりそうかなあ……』

『あ、社長〜』

『うん? なんだね?』

『マイクのスイッチ入ったままですよ〜』

『あ』

「「………………」」

 

 

 

 台無しだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「けど実際どうしようか。彼女たち、かなり腕が立つよ。格闘戦ばかりなのに、ほとんど被弾してない」

「タレットや他の罠だけでは抑えきれないでしょうねぇ」

「となると、ここは……」

「私の出番ですねぇ」

 

 網田主任がニヤリと笑う。

 かなり不吉な笑みだった。

 

「君の新兵器、存分に活躍させてやってくれたまえ」

「……うふふ。では、御披露目と行きましょうか。私の自慢の子供たちをっ!!」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 それは、侵入者たちが地下三十階に到達した時のことだった。ここも罠が機能しておらず、二人は一層慎重に階段を探していた。

 

 その様子を見た如月社長が「孔明の罠」とか言って面白がってたのは侵入者たちの預かり知らぬことであった。

 

「止まれっ」

「……なんだ、この音は?」

 

 ――――カサカサカサカサ――――

 

 通路の壁の向こうから、何か音がする。

 

 それも、かなり数が多い。両側の壁からひっきりなしに聴こえて来る。

 

「気を付けろ。今度はただの罠ではないようだ」

「ちっ……なんだ、こりゃあ。気味悪いぜ……」

 

 ――――カサカサカサカサ――――

 

 音はまだ続いており、段々と移動している。

 二人は最大限の警戒をしながら、少しずつ進んで行く。

 

 そして。

 

 ――バァンッ!

 

 十メートルくらい先にある左右のドアが、同時に勢い良く開く。

 

 その奥。

 

 部屋の、中から。

 

「「…………い…………」」

 

 カサカサと。

 

 青い体表の。

 

 二メートルくらいありそうな、巨大な。

 

 大量の――広い廊下をあっと言う間に埋め尽くすほどに、大量の。

 

「「いやあああああああああああああああっっっ!!!」」

 

 ――ダニに良く似た生き物が、現れた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 ――――カサカサカサカサ――――

 

「いや! いやあっ! いやあああああああああああああああああっ!!!?」

「うわああああああっ!!? 来るな寄るな来るな寄るな来るな寄るなああああああっ!!!」

 

 カサカサ。カサカサ。キイキイ。キュイキュイ。カサカサ。ビュウッ。

 

「ひいいいいいっ!? なんかっ、なんか吐いたああああああっ!!?」

「いやああああっ!!! か、かかった!! かかったああああああっ!!!」

「し、シールドエネルギーにダメージが……!? さ、酸だっ! 強酸だぞこれっ!?」

「どこのエイリアンだよおおおおおおっ!!?」

 

 カサカサ。カサカサ。キイキイ。キュイキュイ。でっていう。

 

「くそ、なんなんだよこいつら!? マジでなんなんだよおおおおおっ!?」

「知るかああああああああっ!!」

 

 ドカアッ!!

 突如後ろから音がした。慌てて振り向くと、またも扉をぶち破って――

 

「まだいるのかよおおおおおおお!!?」

「か、囲まれたっ……!!」

 

 ――――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ――――

 

「「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!??」」

 

 前後を挟まれ狂乱状態に陥る二人。その隙を突かれる形で、生体兵器の接近を許してしまった。

 

 ビョーン。ビョーン。ビョインビョインアミダァ。ぴと。

 

「ぎゃああああああああああああああああああっっっ!!?!??!?!!? せ、背中にぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいっっっ!!!?!?」

「うひいいいいぃぃぃぃっ!!!」

「とって!! とってええええええぇぇぇえええええええええええ!!!」

「来るなあああああああああっち行けええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

 スラスターを噴かせば一発なのだが、そんなことに気づけるような冷静さは当然失われている。

 絶叫しながらくるくる回るが、二メートルのダニ(っぽいナニカ)のハグ力は尋常ではなく、引き剥がせない。

 そんなことをしているうちに前の生体兵器たちもだんだん近づいて来ており、もはや進むも地獄、退くも地獄な状況。

 

 ならば、どうするか――

 

「と、突破だっ! 強行突破だっ!!」

「異議なしいいいぃぃっ!!」

 

 思考によるものではなく、身に染み付いた習慣による判断であった。弾薬やエネルギーの温存など完全に忘れ、武装を乱射しながら生物兵器の群れに突っ込む二人。

 撤退せずに前に出るあたり、仕事に対する真面目さがうかがえなくもない。

 

「「うわああああああぁぁぁぁっ!!!」」

 

 雄叫び(悲鳴)をあげながら、スラスターを全開に噴かす。

 吐き出された無数の弾丸が生物兵器を蹴散らし、出来た隙間に機体を滑り込ませる。

 

 ――だが。

 

 カサカサ。カサカサ。ドンドンドン。ばきゅーんばきゅーん。キイキイ。キュイキュイ。ちゅどーん。

 

「「爆発したああああぁぁぁぁっ!!!?」」

 

 廊下が紅蓮の閃光に埋め尽くされる。

 爆音に混じり侵入者たちの悲鳴が聴こえたが、社長と主任の歓声に塗り潰された。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……」

「手足切り落として目ん玉くり抜いて鼻削ぎ落として耳引き千切って心臓抉ってそれから……」

 

 何事かをブツブツ呟きながら、幽鬼のような足取り(実際は浮いてるが)で廊下を進む侵入者二人。

 タレットもしょっちゅう出て来ては攻撃してくるが、殺意の波動に目覚めた二人の敵ではなかった。起動した瞬間にバラバラにされ、足止めにもならない。

 

「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……」

「両断して八つ裂きにしてバラバラにして粉微塵にしてすり潰して焼き尽くしてそれから……」

 

 不穏当なことを呟きながら、間髪入れず飛び出してくるタレットを一つ残らず粉砕しながら、凄まじい殺気と共に破壊を撒き散らして進む。

 

 次の階段を探して、ゆらゆら、ゆらゆらと。

 

 

 

 

 

 

 しかしその二人の頭上。

 

 突然、なんの前触れもなく。

 

 天井が、ガバリと開いた。

 

「「……い……」」

 

 そこには。

 

 あの、青色の体表が。

 

 視界を覆い尽くすほどに、大量に――

 

「「いやああああああああああああああああああっ!!!!」」

 

 

 

 




如月重工社訓

一つ 「造る」という言葉を使うべからず。「造った」なら使ってもいい。
一つ 予算案は最後に提出するべし。
一つ あ、僕のハンコは机の上に置いてあるから。

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