マクシミリアン・テルミドール
性転換なし。一夏の親友。
通称マックス。二重人格ではない。基本的に輝美、たまに地(乙樽)が出る。テンプレでIS学園に入学、一夏と共に騒がしくも羨ましい学園生活を送るが……?
有澤隆文
性転換あり。一夏とは学園で知り合う。
43代目有澤重工社長として隆文を襲名(!?)した女の子。足が悪くて車椅子だが、会社運営能力、開発力は十分。機体は言うまでもなくアレ。学園生活と社長としての仕事を両立しようと頑張るが……?
リリウム・オ(ウォ)ルコット
セシリアの双子の妹。けどぺったんこ。
ブルー・ティアーズのサポート機を操る。実はセシリアより強いことを隠している。物静かで献身的な性格から、いつしか一夏の心のオアシスになるが、リリウムには感情が欠落していた。しかし原作メンバーのドタバタに巻き込まれていくうちに、リリウムに変化が……?
オールドキング
性転換なし。亡国側。
世界で二人目の男性IS操縦者で、世界に知られるより早く亡国に引き入れられる。オータムとヤンデレ×ヤンデレ。亡国のエージェントとして活動するが、思想家であり異端者であり殺戮者である彼は、次第に……?
途中で挫折したものをピックアップ。けどなにか思いついたら、もしかしたら……?
「ここが僕の家だよ!」
シャルロットに案内された先は、田舎町の片隅にある家だった。
フランスの一般的な造りで、家族一組が生活するには十分な大きさ。しかし決して大き過ぎず、人を雇わずとも自分たちで日々の手入れが出来る家。
見たところそれなりに年期が入っているようだが、しかし汚れている印象は全く受けない。まめに掃除をしていることが伺える。
「良い家だな。温かい気配がする」
「えへへ……ありがとう」
「さ、入りましょう。……オルレアンさん」
「アンジェと。貴女にはそう呼んでもらいたい、ソフィーさん」
「じゃあ、アンジェ。我が家にようこそ。歓迎するわ」
温かい笑顔。
ついさっき会ったばかりの私を出迎えてくれるその笑顔が、とても眩しい。
「はい。……お邪魔します、ソフィーさん、シャルロット」
「うん! いらっしゃい、アンジェ!」
花咲くような笑顔に促され、玄関の扉をくぐる。
途端に、生活の匂いを感じた。この親子らしい、優しい匂いだった。
(なるほど、これが「家」か。……私には、とんと縁がなかったな)
自分の部屋はあったが、家に住んだことはなかった。それはかつても今も同じだ。親は物心ついた時にはいなかったし、引き取られた先でもどうにも浮いてしまい、上手く馴染めずにいた。
故にこういう暖かみのある家庭には、入った経験すらなかったのだが……。
「……いいものだな」
「え?」
「いや、なんでもない。……さて、ソフィーさん、何か手伝えることはありませんか?」
「あなたはお客様なのよ、アンジェ。手伝わせるわけにはいかないわ」
「ですが……」
「もう、頑固ね。シャルロット、家を案内してあげて」
「はーい。行こう、アンジェ。僕の部屋を見せてあげるよ」
「……すいません。お言葉に甘えさせていただきます」
「大丈夫だよ。お母さんの料理はすっごく美味しいんだから!」
「そうか。それは楽しみだな」
シャルロットに手を引かれ、家の中を案内される。しかし正直そこまで広い家ではないので、案内はすぐに終わった。その後はシャルロットの部屋に行き、他愛のない話をして時間を潰す。
「ねえ、アンジェはなんでそんなに強いの?」
「そう大したものではないよ。連中は私を子供と完全に侮っていたからな、隙を突くのは容易かった」
「へえ~、すごいねー!」
「いや、だから大したものではないと……」
「ねえ、僕にも教えてよ」
「む? いや、それは構わないが……」
「やったあ! よし、それじゃあ早速――」
「待て、今からか? ソフィーさんが夕食を作っているのだろう?」
「あ、そっか……それじゃあ、ご飯の後で!」
「ふふ。横腹が痛くなっても知らんぞ」
私の言葉に一喜一憂するシャルロットを見ていると、自然に笑みがこぼれる。妹でも出来たような気分だ。
「二人とも~。出来たわよ~」
「は~い。行こう、アンジェ」
シャルロットに促され、居間へ向かう。
……すごく良い匂いがする。食欲を刺激されるな……。
「遠慮しないで、たくさん食べてね」
「はい。いただきます」
「いただきま~す」
食卓に並ぶ料理は、どれもフランスの一般的な家庭料理だった。しかしどの料理もひと手間加えられていて、非常に美味しい。
……これが家庭の味というやつか。
「ところで、アンジェ。あなたはご両親がいないって言ってたけど、保護者の方はいないの?」
「一応親戚の家に引き取られたのですが、どうにも馬が合わなくて。それで、半年ほど前に飛び出したのですが……」
「……それは、良くないわ。きっと心配しているわよ」
ソフィーさんの言うことももっともなのだが、それはない。
私は思ったことをすぐに口に出してしまうためか、随分と疎まれていた。飛び出した、とは言ったが、半分は追い出されたようなものだ。
「まさか。かなり嫌われていましたからね、心配などしてはいないでしょう。事実、私を探している様子もありませんでした」
「……そう……。それじゃあ、今はどうやって生活を?」
「廃品回収などを手伝わせてもらっています。見返りにもらえるのは小遣い程度の額ですが、子ども一人が食べていくにはなんとかなります」
「……それは、言葉は悪いのだけれど、ホームレスということ?」
「……まあ、そうなりますね」
「…………」
「…………」
……まずい。ソフィーさんが眉根を寄せている。
物凄く困った顔だ。私の境遇に対して心を痛めているのが分かる。見ればシャルロットも泣きそうな顔だ。この親子は揃って優しいらしい。
「……シャルロット」
「?」
ソフィーさんがシャルロットを呼ぶ。そのまま親子会議へ。
「ヒソヒソヒソ……」
「ボソボソボソ……」
「ゴニョゴニョゴニョ……」
「カクカクシカジカ……」
「…………」
……一体何を話し込んでいるのやら、ちょっとした長話になりつつある。そしてなにやら段々と楽しそうな嬉しそうな幸せそうな顔になっていってるのは何故だ。
「……どう? 良い考えだと思わない?」
「……うん! さすがお母さん!」
「?」
なんだ? なんのことを言っているんだ?
ソフィーさん、なんですかその子どもみたいな輝きに満ちた笑顔は?そしてシャルロット、その笑顔は止めてくれ。眩しすぎて直視できん。
……本当にそっくりだな、この親子。
「ねえ、アンジェ」
「はい」
「私たちと、一緒に暮らさない?」
「……………………はい?」
――――――――――
あまりにも突然過ぎる申し出に思考が停止した。
……は? 今なんと言った?
「もちろん、あなたさえよければ、だけど」
「…………」
……どうやら、私の聞き間違いでもソフィーさんの言い間違いでもないらしい。
つまりは本当に、私に共に暮らさないかと訊いたのか。
「ねえ、どうかな、アンジェ?」
「…………」
……いや、どう、と言われても。
「……本気ですか」
「本気よ」
「……何故ですか」
「何故って……あなたと仲良くなりたいから」
「それならば、共に暮らさずともいいでしょう」
「そうかもしれないけど、一緒の時間が長いほうが仲良くなれるじゃない」
「……今日会ったばかりの私を、何故そうまで信用するのですか」
「あなたは今日会ったばかりのシャルロットを助けてくれたわ。それだけで十分だと思わない?」
「…………」
……なんという。
これほどまでに真っ直ぐな信用を向けられたのは、あいつ以来か。
「……ですが」
「……アンジェ、僕たちと暮らすの、嫌なの?」
「ぐ……!?」
な、なんだ……!? その捨てられた小犬みたいな眼は……!? 抗えんだと!? この私が……!?
「……いいのか。私は相当な変わり者だぞ。共に暮らすとなれば、苦労も多いと思うが」
「へっちゃらだよ。アンジェは良い人だもん」
「…………」
……良い人、か。そんなものでは断じてないのだがな、私は。
本来なら、この親子の温もりに触れることが出来ただけでも信じがたい僥倖だ。これ以上は望むべくもないのだが……。
「……本当に、いいのか……?」
この温もりは、想像以上に心地良くて。
ほんの僅かな時間だったのに、すっかり名残惜しくなってしまって。
「もちろん。僕たちからお願いしてるんだよ?」
その側に、居られるのなら。
それは、きっと――
「……私は、戦う以外に能がありません。シャルロットを助けたのも、ただ私の才を活かせる場面だったからに過ぎません」
ずっと孤独だった。
ただ一人、あいつだけは私を慕ってくれたが、その想いにすら私は応えられなかった。
「……正直に言うと、私は現代社会に馴染めない、一種の異常者です。色々と、迷惑を掛けてしまうでしょう」
戦うことしか出来ず、戦わなければ生きられない。
そんな私が、この平和な世界に適応出来る筈がない。
だが、それでも――
「……それでも、こんな私でも、受け入れてもらえるのなら」
この温もりは。
この心地良さは。
――手放してしまうには、少々魅力的に過ぎる。
「……こちらから、お願いしたい。……貴女たちと、共に生きることを」
他人を容易く信じるなど自殺行為だ。
頼れるのは己が力のみ。でなければ、人の欲望に容易く呑み込まれる。
それを、嫌というほど学んできた。
だからこそ、私は私のやりたいように、私の魂の赴くままに振る舞って来た。
誰かの為ではなく、私の為に。私自身の為に。
……そんな私が、共に居たいと、感じたのだ。
ならばなにを躊躇うことがある? なにを恐れることがある?
「……ソフィーさん、シャルロット」
私は、もう一度。
私のやりたいように、やるだけだ。
「これからも、よろしく」
――――――――――
アンジェが妙に時代がかったセリフで私たちと暮らすことを了承してくれてから、早いものでもう半年が経った。
話を聞いてみると、アンジェはなんとシャルロットと同い年(全然そんな風に見えない)らしく、今は一緒の学校に通っている。
本来なら、こんなに簡単にアンジェを引き取って、学校に通わせるなんて出来なかった筈なんだけど――
(……まあ、たまのお願いなら聞いてくれる、てことかしらね、あの人も)
正直、あの人を頼るのは嫌だ。私は一人でシャルロットを育てると決めたし、あの人のことはシャルロットに知られないように振る舞っている。
アンジェは早々にシャルロットに父親がいないことに気付いたみたいだけど、そのことについてはまったく話を振ってこない。父親の写真すら家に置いていないことから、何かあると悟って、気を利かせてくれているんだろう。
……騙しているみたいで少し心苦しいけれど、ありがたいのも事実だ。今はアンジェの好意に甘えさせてもらっている。
(……大人びているというか、なんというか。本当に、シャルロットと同い年なのかしら?)
アンジェには子供らしいところがほとんどない。少しの間路上生活をしていたと言っていたし、子供らしくいられなかったのかもしれない。
我が儘を言わず、自分で出来ることは自分でやる。自分で出来ないことは、誰かの力を借りつつ自分で出来るようになる努力をする。
大人でも実行出来ていない人が多いことを、平然とやっているのだ。手が掛からないと言えばそうなんだけど、もう少し甘えて欲しいと思ってしまう。
(せっかく、家族になれたのに……)
初めてアンジェに会った時。
いつの間にか居なくなっていたシャルロットを探して、街を走り回った。子供や若い女性の失踪事件が多発しているという噂を聞いて、不安で押し潰されそうになって、そんな時に聞こえたシャルロットの声に、安心して膝から崩れそうになって。
シャルロットを抱きしめて無事を確かめる私は、シャルロットを助けてくれたという人を見てびっくりした。シャルロットとそう歳の変わらない女の子だったからだ。
そして、その子が浮かべる笑顔が、気になった。
眩しいものを見るような、どことなく、寂しそうな――そんな、笑顔が。
(やっぱり、「家族」に憧れていたのかしらね……)
アンジェの身の上話は、あまり幸福とは言えないものだった。
アンジェと同じような、あるいはもっと過酷な境遇の人が大勢いることは勿論知っている。でも、実際に会ったことはなかった。だから色々と先入観があったのだけれど、アンジェはそれを見事に裏切ってくれた。
……あんなに真っ直ぐな眼は、見たことがない。だから余計に、アンジェがあんな顔をしていたことが許せなかった。
それで、アンジェに笑って欲しくて、「一緒に暮らそう」と言ったのだけど……。
(……我ながら、強引な誘いだったわね……)
……まあ、結果オーライではあったわけで。
私たちと暮らしている間、アンジェはあの時のような寂しげな笑顔を見せていない。家の手伝いをしてくれる時も、シャルロットと遊んだり護身術を教えてくれている時も、心からの笑顔を浮かべてくれてると思う。
(それが一番の収穫よね)
アンジェはとても真っ直ぐで、真面目な子だ。
騎士道精神と言うのか、曲がったことが嫌いで融通が効かないところがある。それは美徳だと思うのだけれど、やっぱり他人と衝突することも多いみたいで、それがアンジェが家を飛び出した理由かもしれない。
そんなアンジェが、私たちといる時には笑ってくれている。それはきっと、誇っていいことだと思う。
(まだ小さいのに、不思議な子……)
いつの間にか、私はアンジェを本当の娘のように思っていた。シャルロットも、お姉さんが出来たみたいに思っているだろう。
だからアンジェにも、私たちのことを家族と思っていてくれるといいのだけれど。
(……大丈夫)
自惚れかも知れないけれど。
それについては、心配いらないと思っている。
「ただいま、お母さん!」
「ただいま、ソフィーさん」
「お帰りなさい、シャルロット、アンジェ」
学校から帰ってきた二人を出迎える。
満面の笑顔のシャルロットと、そんなシャルロットを見ながら静かな笑みを浮かべるアンジェ。
その様は、本当の姉妹のようで。
「ほら、手を洗ってうがいをして。晩御飯ができる前に、宿題を終わらせてしまいなさい」
「は~い」
「さて、シャルロット。今日は全部自分で出来るか?」
「大丈夫だよ。昨日アンジェに教えてもらったからね」
「ふふ、そうか。それでは、答え合わせを楽しみにしていよう」
そんな遣り取りをしながら部屋に行く二人を見送る。
……まだアンジェは私を名前で呼ぶし、敬語で話すけれど。それでも最初の頃よりは、随分遠慮がなくなってきてる。
(もう少し、時間がかかるだろうけど)
少しずつ――私たちは、「家族」になっている。
とりあえず、当面の私の目標は。
「いつかあなたに、「お母さん」って呼んでもらうからね、アンジェ」
――――――――――
三人で過ごした、幸福な時間。時はあっという間に過ぎ去った。
私はかつての体格に近付き調子が出てきたし、シャルロットは段々とソフィーさんに似てきた。
学校にも慣れ、少ないながらも友人が出来た時には感動した。なにやら私を講師とする護身術教室みたいなものが出来つつあるのには驚いているが、それも日々を潤す要素の一つだ。
(……平和、か。想像以上に、いいものだな……)
私には縁がないと思っていた。
だが今は、この日常を満喫している。
人は変わるものだと、身を持って知った。
(良い変化、なのだろうな)
かつての私からは考えられないほどの変わりようだが、悪いものではあるまい。シャルロットは私を姉のように慕ってくれているし、ソフィーさんも本当の娘のように接してくれている。
……「お母さん」とは、気恥ずかしくて、まだ呼べていないが。
(……だというのに、困ったものだ)
こんな素晴らしい日々に、一体なんの不満があるのやら。自分でも分からないが、私はいつからか、少々退屈に感じていた。
(……性分、か。死んでも変わらぬとは、本当に――困ったものだ)
それを自覚したのは、とある大会がテレビで放送されているのを見てからだった。
――第二回モンド・グロッソ。
ISという兵器を用いて行われるスポーツの、三年に一度開催される世界大会である。
(在り方はまるで違うが……やはり、似ている)
ISとは、数年前に篠ノ之束という人物が開発したマルチフォーム・スーツである。本来は宇宙開発用に開発されたのだが、現行のあらゆる兵器を凌駕する性能、そしてその性能を全世界に知らしめることとなった「白騎士事件」により軍事利用されるようになり、瞬く間に世界のパワーバランスそのものとなった代物だ。
しかし強大過ぎる兵器は、世界を滅ぼしかねない危険を孕む。軽々には使えない。
逆にまったく使わないというわけにもいかない。兵器には抑止力――つまりは力を示すことで敵を抑えつける役目もあるからだ。
そこで、スポーツとしてのISが発展したわけだ。全ての兵器を凌駕するISの性能、そしてそのパイロットの能力が、即ち軍事力の目安となる。大規模な試合や大会も、軍事演習に比べれば金もかからない。むしろ客を呼べる分、莫大な利益を得られるほどだ。
(…………)
そんなISが世界に認知されることになった「白騎士事件」とやらに若干の既視感を覚えたものだが、それについては考えても仕方ない。既に終わったことであり、今更何が出来るわけでもないのだから。
……さて、そのISだが、もう一つ、忘れてはならない奇怪な特性がある。
それは、「女性にしか動かせない」というものだ。
(……兵器として、致命的だと思うのだがな……)
それは最早「欠陥」と呼ぶべき特性だが、とにかくその特性のせいで、ISは世界に大きな変化を齎した。
――極端な女尊男卑。
ISとは世界最強の兵器であり、ISに比べれば他の兵器はガラクタ同然。ISとはまさに武力の象徴であり、そのISを動かせるのが女性だけであるということは、世界の武力を担うのは女性であるということだ。
世界各国の軍隊はすぐさまISを配備し、それまで使われていた兵器は維持費がかかるために大幅に削減。当然、その兵器を使っていた軍人――戦車乗りやパイロットたちはリストラの憂き目に遭った。
軍には女性が増え、国を守るのは男性ではなく女性になった。次第に「ISを動かせる女性の方が、男性よりも偉い」という思想が浸透していき、気付けば世界中が女尊男卑の世の中になっていた。
これは、今まで男尊女卑の時代が永く続いたことの反動でもあるのだろうが――
(愚かな。力だけが全てではないと謳っていた者たちが、力を手にした途端に意見を翻すとはな)
つまりは、そういうことだ。
男女平等だのなんだのと騒いでいた連中が、率先して男性を貶めている。そして世間も、そんな連中に便乗して無責任に騒ぎ立てる。
それだけでも既にかなり不快ではあるが、なにより不快なのは――
(……腑抜けが。牙の折れた負け犬でさえ、見苦しくとも吠えるというのに)
そんな馬鹿な女共に刃向かおうとすらしない、去勢されたかのような男共だ。
そういう連中は自分が男というだけで女を見下していたのだろうが、そう考えるとなんと馬鹿の多いことか。
弱者には強気に出て、強者には尻尾を振る。貫くべき信念も守るべき矜持もなく、ただ楽に生きることしか考えてない。
そんな生き様で、果たして己を誇れるのだろうか。
(誇り……とは、少し違うのだろうが……)
思い出すのは、一人の傭兵。
自分たちの時代が終わったことを身を持って味合わされながらも奮い立ち、才無き身で足掻き続け、ついには最強をも超えるであろう存在となった男。
せめてあの男の万分の一くらいの気概は見せて欲しいものだ。届かぬのなら、届くまで前に進むという、気概を。
(まったく、不快だ)
この平和な世界も、大きな歪みを抱えている。
その歪みの最たる原因は、やはりISだろう。馬鹿な女も、腑抜けの男も、ISが開発されなければここまで増えることはなかったろう。
……いや、ISが悪いのではない。ISは所詮、道具に過ぎないのだから。
悪いのは、道具に振り回される人の心だ。
……そう、道具は道具だ。人が道具を使うのであり、人が道具に使われるなどあってはならない。生活を楽にする便利な道具は無数にあるが、道具を使う時、どちらに主導権があるのかを常に考えなくてはならない。
――しかし、そこまで分かっていながら。
(……不快だが……)
それでも、私は。
やはり、剣を捨てられないらしい。
(これも、私の弱さの現れか。剣以外に取り得がないとは)
だが、だからこそ純粋だと言ってくれた者がいた。
ならばせめて、このたった一つの取り得を極めるとしよう。
己の全てを懸けて打ち込めるものがあるというのは、幸福なことだと思うから。
――と、いうわけで。
「……ここか」
私は今、無料で受けられるというIS適性簡易検査の会場に来ていた。
「最強の兵器。いくら歪んでいようと、心躍るものがあるな……」
「検査希望者は、整理券を受け取って順番に並んで下さ~い」
受付の人に促され、列に並ぶ。見れば、列に並んでいるのはまだ幼さの残る少女ばかりだ。世界に唯一のIS操縦者育成施設であるIS学園が日本の高校にあたる機関であるから、当然と言えば当然なのだが。
「さて……」
私がISに興味を持った理由は、主に二つ。
一つは、先も述べたように私は剣を捨てられず、最強というものにどうしても惹かれてしまうからだ。つまりは単純にISに乗りたいというものである。
そして、もう一つは――
(……フランス最大のIS開発企業、デュノア社、か。そう珍しい名でもないし、まさかとは思うが……)
――――――――――
「し、社長っ!!」
私が現在開発中の新型ISについて、開発責任者たちと会議を行っている時のことだった。我が社の幹部の一人が、血相を変えて会議室に飛び込んできたのは。
「なんだ、騒々しい。今は会議中だ、出ていけ」
「承知していますっ! ですが、早急にお知らせすべきことが……!!」
「……なに?」
この会議は、他国のIS開発企業に遅れを取りつつある第三世代型ISの開発についての会議だ。今はまだ、実戦に耐えうるような第三世代型は開発されていない。だが早ければ来年にでも、どこかが第三世代型を完成させるだろう。
だというのに、我が社は試作、実験すら満足に行えていないのだ。急がなくては、ただでさえIS開発において他社に大きく遅れているというのに、その差が致命的なものになる。
つまりは、我が社の未来を左右するほどの重要な会議だということだ。そしてこの男がそれを知らぬ筈はなく、その会議を中断してでも伝えねばならないほどの緊急事態ということか。
「……報告しろ」
「はっ。こちらをご覧ください……!」
男が差し出して来たのは数枚の資料。内容は、今日フランスの片田舎で行われているIS適性簡易検査の結果だった。
私はどこかが第三世代型を完成させでもしたのかと身構えていたため、少々拍子抜けし――
「な……なんだ、この数値は……!?」
想像を遥かに超えるその内容に、驚愕した。
「どの適性値も、歴代のヴァルキリーたちと比べても遜色ありません。特に近接戦闘の適性値は、あのブリュンヒルデ、織斑千冬にも匹敵します……!」
「なっ、馬鹿な、ブリュンヒルデに……!?」
「そ、それは本当かね!?」
途端に、会議室が騒がしくなる。なにせあのブリュンヒルデ、織斑千冬にも匹敵するというのだ。
現役時代は他の追随を許さぬ圧倒的な強さを見せつけ、引退した今もなお最強の名を欲しいままにする、文字通りの世界最強。
それに匹敵するIS適性値だと? 一体何者だ……!?
「おい! この少女は今どこにいる!?」
「け、検査会場です! 検査結果待ちで……」
「社に呼び出せっ!! 大至急だっ!!」
「は、はいっ!!」
「いいか、このことは他言無用だ! 万に一つも、他社に漏らすなっ!!」
「「「はいっ!!」」」
慌ただしく走り去って行く男に一瞥だけくれて、再び資料に目を落とす。そこに記載されている数値は、どれも信じられないほどに高い。
(しかもまだ十二歳だと? 迂闊、これほどの逸材を、今まで見逃していたとは……!)
見れば見るほど、興味を惹かれる。
素晴らしい、この少女を我が社のモノに出来れば、開発は飛躍的に進む……!
(名前もまた素晴らしい。これぞまさしく、神が我が社に遣わした聖女だ……!)
この少女をどう使えば効果的なデータを取れるか、会議室内で様々な意見が飛び交う。
有用なモノが多々含まれるそれも、今は私の耳には入らない。私の意識は、資料に載せられた写真、そこに写る金髪の少女に釘付けになっていた。
(必ず……! 必ずや、手に入れなければ! ……いや――)
「必ず手に入れるぞ……アンジェ・オルレアン――!!」
キャラ紹介:ソフィー・デュノア
シャルママ。名前も含めてほぼオリキャラ。
一児の母とは思えないくらい若くて美人。そして優しい。シャルの人格は大体この人譲り。
偶然出会ったアンジェをすっかり気に入ってしまい、いきなり「うちの子にならない?」的なおさそいをしてしまうような、割とスゴイ人。
シャルもアンジェもしっかり者すぎて全然手が掛からないのがちょっと寂しい。
仕事は……なんでしょうね。私的にはパン屋さんとかそんなイメージなんですが。