「アンジェ・オルレアンさん?」
「はい。そうですが」
IS適正簡易検査会場で検査の結果を待っていると、スーツ姿の男に声を掛けられた。男は一礼してから名乗りをあげる。
「申し遅れました。私はこの適正検査の責任者です」
私のような小娘相手にも礼儀正しく接する様は流石責任者を任せられるだけはあるが、問題は男が浮かべる笑顔だ。
目が全く笑っていない。相手の警戒を解きつつ隙を狙う――そんな狡猾さが伺える笑顔。
「そのような方が、私にどういったご用件でしょうか」
男に対する警戒を表に出さないように、不思議そうな顔を作る。
私は決して賢いわけではないが、戦闘以外の修羅場もそれなりにくぐっている。腹を探るのは苦手でも、隠す分には問題ない。
「オルレアンさんの適性値なんですが、非常に優秀でした。それで我が社の社長が、是非ともオルレアンさんにお会いしたいと」
……ふむ、スカウトということか。
AMS適性とIS適正にはなにかしらの関係があるのか、どうやら私は才能に恵まれているらしい。
「デュノア社の社長が?」
「はい。外に車を用意してあります。よろしければ、本社までお願いしたいのですが」
「……分かりました。それでは、家族に連絡をさせてもらってもよろしいでしょうか」
「もちろんです。ご家族の方を心配させるわけにはいきませんから」
そう断ってから、会場に設置されている電話に向かう。数コールして、ソフィーさんの声が聞こえた。
『はい、デュノアです』
「私です、ソフィーさん」
『あら、アンジェ。どうしたの?』
「今、IS適正簡易検査の会場にいるのですが――」
『……!!』
電話の向こうで、息を呑む気配がした。
……やはり、なにかしらの――それもあまり良くない関係があるようだ。
(……さて。如何にすべきか……)
――――――――――
『今、IS適正簡易検査の会場にいるのですが』
「……!!」
……心臓が止まるかと思った。
電話の向こうでアンジェが告げた言葉は、私にとってそれくらい恐ろしいことだった。
「……ISって、あの……?」
『ええ、そのISです』
思わず分かりきったことを訊いてしまう。そして返答は、やはり分かりきったものだった。
「どうしてそんなところにいるの?」
『ISには前々から興味がありまして。出来れば乗りたい、と思っています』
「そう……なの……」
特におかしなことじゃない。ISはここ数年、世界中の興味を引きつけているものだ。その証拠に、IS学園の受験倍率は数万倍と言われている。
だから、アンジェがISに乗りたいと言うのは、まったく不思議なことじゃない。
問題は――
「……それで、どうして電話を?」
『……私のIS適正値は、優秀だそうです。それで、デュノア社の社長が会いたいと』
「…………」
……想像通り。そして、当たって欲しくなかった想像だった。
『……やはり、何か関係が有るのですね』
「……!!」
アンジェの声は真剣で、確信を持ったものだった。
――誤魔化せない。
そう感じて、正直に話すしかないと思った。
……何より、アンジェに嘘は吐きたくなかった。
「……シャルロットの、父親なの」
『……やはり、そうですか』
「知っていたの?」
『いえ。ですがなんとなく、そうなのではないか、と』
シャルロットに父親がおらず、家には写真すらない。
例えばシャルロットが幼い時に、あるいは生まれる前に死んでしまったのだとすれば、私と父親が写っている写真くらいはあっていいはずだ。それすらないということは、私が飾るのを避けているか、初めから写真自体がないということになる。
……そうなれば、その理由になりそうな事情なんて、大して多くない。
「……私ね、デュノア社の社長の、愛人だったの」
『…………』
「シャルロットを身ごもったことを知ったら、あの人は私を捨てたわ。この家と、親子が生活していくのに困らないだけのお金を渡して」
『…………』
「シャルロットには、話してない。私は、一人でシャルロットを育てると決めたから。あの子には、余計なものを背負って欲しくなかったから」
『……申し訳ありません。貴女にとって、辛いことをしてしまった』
アンジェの声は沈んでいた。責任感の強い子だから、自分を責めているのだろう。
「気にしないで。あなたには、隠し事をしたくなかったから」
『……シャルロットには、話すのですか?』
「……まだ、勇気が出ないわ」
『分かりました。では私も、悟られないよう注意します』
アンジェのその言葉はありがたかったけれど、同時に申し訳なくなってしまう。
だって、アンジェには話して、シャルロットには話さないということは――
「……ごめんなさい」
『……?』
「私、あなたとシャルロットを区別してる。二人とも、私の大事な娘だって、思ってたのに」
私は結局、アンジェのことを部外者と思っているのだろう。
身内だからこそ話せないことを、アンジェには話した。それは、アンジェに対する裏切りなのではないか。
『シャルロットは当事者です。話せないのも、無理はありません』
「……でも」
『それに。不謹慎ではありますが、貴女の沈んだ声から、私を大事に思ってくれていることが良く分かりました。……私には、それだけで十分だよ――母さん』
「……!!」
電話越しでも分かる、照れくさそうな声。
そんな声で言われた言葉が、信じられないくらい嬉しくて。
……どうしよう、涙が出てきそうだ。
『それでは、この話は断ります。これから家に――』
「待って。アンジェは、ISに乗りたいんでしょう?」
『……ええ。ですが――』
「なら、行ってきて」
『……いいのですか?』
「いいのよ。いっつも真面目一徹の娘が、初めて我が儘を言ってくれたんだもの。応えてあげなきゃ母親じゃないわ」
『……ありがとうございます、ソフ――』
「ただし!!」
『?』
「私のことは、さっきみたいに「母さん」と呼ぶこと。それに、そのかしこまった敬語も禁止よ」
『……分かり――いや。分かったよ、母さん』
「……うん。それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい、アンジェ。晩御飯までには帰るのよ」
『分かった。……ありがとう、母さん』
そうして、電話が切れる。
その頃には、最初に感じた恐怖は微塵もなくて、ただただ嬉しくてたまらなかった。
――ようやく、アンジェに母親と認めてもらった。
その喜びと誇りだけが、私の胸を満たしていた。
――――――――――
母さんの許しを得て、デュノア社の本社に来た。その最上階の社長室に通され、デュノア社長に面会する。
「はじめまして、オルレアン君。私がデュノア社の社長だ。今日はよく来てくれたね」
「はじめまして。アンジェ・オルレアンです」
デュノア社長は優しげな笑顔を浮かべているが、その目に宿る狡猾さは先ほどの男の比ではない。母さんの話と併せて、決して心を許していい相手ではない。
「君の検査結果を見せてもらったよ。素晴らしい才能だ」
「お褒めに預かり、光栄です」
「はは、そんなにかしこまらなくても良いのだよ。君はお客様なのだからね」
小娘相手にご機嫌取り、か。
話しているだけで怖気が走る。この男が人間に見えない。腹に底無しの欲望を溜め込んだ、怪物だ。
「それで、私に会いたい、と聞いていますが。お忙しい身でしょうに、一体どのようなご用件で?」
「うむ。実は君に、我が社のパイロットになってもらいたいのだよ」
予想通りと言うか、他に考えられないと言うか。頭に「テスト」と付かなかったことが意外ではあるが。
「……私を? デュノア社ほどの規模を持つ会社であれば、優秀なパイロットはいくらでもいるでしょうに」
「勿論、私は我が社のパイロットたちは他社のそれになんら劣ることはないと思っている。だが君の才能はそれすらも凌駕し、さらにはまだまだいくらでも伸びるほどに若い。可能性では比べ物にならんのだよ」
褒め殺し、か。どうやら、よほど私を手に入れたいらしい。
事前に調べた限りでは、デュノア社はIS開発に乗り遅れている。最近発表されたラファール・リヴァイヴは相当な名機のようだが、第二世代型のISだ。他の大会社が第三世代型の開発に取り掛かり始めている時期に第二世代型を出している時点で、デュノア社が置かれている状況が危機的なものであることがうかがえる。
本来ならば、パイロットの確保に力を割く余裕は無い筈。それでも私を欲するということは、IS適正というのは、ISの開発にも影響があるのだろうか。
「私の適正ですが、どれほどのものなのですか? そういえば、まだ結果を聞いていませんでした」
「ふむ。オルレアン君、ブリュンヒルデは知っているね?」
「はい。第一回モンド・グロッソ優勝者、織斑千冬。ISのパイロットを目指す者に、彼女を知らぬ者はいません」
「ああ。第二回モンド・グロッソは何故か決勝を辞退したが、戦っていれば勝ったのは彼女だろうと言われている」
「私もそう思います。他のヴァルキリーたちも凄まじい実力者でしたが、その中でも彼女は格が違った」
本来ならば「ブリュンヒルデ」の称号はモンド・グロッソ総合優勝者に贈られるものだが、しかし現在ブリュンヒルデを名乗ることが許されているのは、決勝を辞退した織斑千冬だけだ。
それほどまでに彼女は圧倒的で、彼女こそが最強だと世界中が認めている証である。
「その後、どういうわけか引退してしまったが、今でも最強であることは間違いないだろう」
「それで、そのブリュンヒルデがどうしたのですか?」
「……実はね。君の適正値は、ブリュンヒルデに匹敵するほどだった」
「な、そんな……!? 私がですか!?」
……流石に驚いた。
第二回モンド・グロッソのブリュンヒルデの試合を見たが、まるで装甲の隅々にまで神経が通っているかのように滑らかな動きをしていた。
あれほどの動きを可能にするだけのIS適正が私にもあるのだとしたら、かつてのそれに劣らぬ戦いが出来るだろう。
「分かるかね? 君はその歳で、世界最強に最も近い場所にいるのだよ」
「なんと……」
「私たちは君の名前を聞いた時、運命的なものを感じた。まるで神話を目撃しているかのような衝撃を受けたよ」
「私の名、ですか」
……フランスの救世主、あるいは愛国心の象徴として世界中に知られている、ジャンヌ・ダルク。
彼女には「聖女」などの二つ名がいくつかあり、その内の一つが――
「……「オルレアンの乙女」。君はまさしく、我らが祖国、フランスのために神が遣わしたのではないか、と。そう思ってしまうのも、無理からぬことだろう?」
正直、僅か十九歳で命を落とした悲劇のヒロイン(活躍を考えるとヒーローの方が正しいかもしれないが)に例えられても微妙なところだ。
だが話題としては、これ以上のものはそうはあるまい。
最強と名高いブリュンヒルデに匹敵するほどの適正を持つ者が突然現れ、しかもそれはオルレアンという名の少女だった――
……出来過ぎだろう。
「君に来てもらえれば、我が国のIS関連の事業は大きく発展する。そして君なら、必ず国家代表になれるだろう」
「……私はまだ、ISに乗ったこともないのですが」
「だが才能は十分過ぎるくらいだ。君ならばすぐにISを自在に操れるようになる。我々も、全力でサポートさせてもらうよ。……君にとっても、悪い話ではないと思うが?」
そしてデュノア社長は、一拍置いて。
「……どうかね? 我が社に、そしてフランスに、君の力を貸してくれないか――アンジェ・オルレアン君」
「…………」
答えは初めから決まっている。元々そのために来たのだから。
デュノア社長は私を利用するつもりだろうが、それは私も同じだ。相互利用の関係には慣れている。
「……私でよろしければ、手伝わせていただきます」
「おお……! ありがとう、オルレアン君!」
私の手を取って喜んでみせるデュノア社長。
その時に、一瞬だけ見えた。
恐らくはこの男の地だろう、欲望の色に染まった、醜い笑顔を。
(それでいい。その方が、気兼ねなく利用できる。……だが、鴉殺しの山猫を、容易く飼えると思うなよ)
こうして、私はデュノア社にパイロットとして招かれることになった。
今日のところは一旦帰り、また後日、親の許可を貰ってから正式に決めるとのこと。
……では、帰るか。
私の、家族の元に――
――――――――――
「お帰り、アンジェ!」
「ああ。ただいま、シャルロット」
うむ。帰る家があるというのは素晴らしい。この温かい笑顔を毎日拝める私は幸せ者だろう。
……だがこの笑顔も、しばらくは見れなくなるのかもしれんな。
「今日はどうしたの? 随分遅かったね」
「少々野暮用があってな。待たせてしまったか?」
「ううん、待ってないよ。ただちょっと心配しただけ」
「む、それは心外だな。これでも少しは腕に覚えがあるのだが」
「アンジェが少しどころじゃないくらい強いことは知ってるけど、それでも女の子なんだから。あんまり遅くならないようにしないと」
「……そうだな。善処する」
シャルロットには悪いが、これからは帰りが遅くなるなんてものではない。
あまり心配させたくはないのだが、こればかりは仕方ない。
「お帰りなさい、アンジェ」
「ただいま、ソ――んんっ。……母さん」
ついいつもの癖で名前を呼びそうになったが、その瞬間母さんがなにやら怖い笑顔になったので、慌てて言い直す。
……すると。
「………………え?」
シャルロットの呆然とした声が聞こえた。
が、それを無視して母さんは話を続けた。
「ちょうど今、晩御飯ができたところよ。手を洗って、うがいしてきなさい」
「分かった。……ふむ、なんとか言い付けを破らずに済んだか」
「………………あれ?」
夕飯までには帰るようにと言われていたが、思ったより遅くなってしまった。だがまあ、どうにか間に合ったようだ。
「さて、今日のメニューは?」
「それはテーブルに着くまでのお楽しみよ」
「む……まさか、ご馳走か?」
「うん。今日はアンジェの初我が儘記念日だからね、ちょっと頑張っちゃった」
「………………ううん?」
しきりに首を捻るシャルロットを放置して食卓に向かう。
すぐにテーブルが見えて――おお、これは想像以上のご馳走だ。うむ、見るからに美味そう――
「ち、ちょっとちょっと!?」
「む。どうした、シャルロット?」
「どうしたじゃないよ! 今アンジェ、お母さんのこと母さんって呼んだ!」
「……なにかおかしいか?」
「おかしいよ! 朝は名前で呼んでたでしょ!?」
「……そうだったか?」
「そうだよっ! お母さんズルいっ! 僕もアンジェに――ええっと!」
なにやら狼狽えているシャルロット。
「……僕もアンジェのこと、お姉ちゃんって呼ぶっ!」
「……それだと逆じゃないか?」
「アンジェにどう呼んでもらうかじゃないの?」
「………………あれ?」
そのまま再び首を捻り始めたシャルロットであった。
――――――――――
「……シャルロットは?」
「ようやく寝た。何があったのか、よほど気になるらしい」
「ふふっ。あなたと私、どっちに嫉妬してるのかしらね」
くつくつと楽しそうに笑うが、これから話すのは少々重い話だ。それが分かっているので、母さんもすぐに真剣な顔になる。
「……どうだった?」
「随分と気に入られた。どうも私には、ブリュンヒルデに匹敵するほどのIS適正があるそうだ」
「ええっ? ブリュンヒルデって、あの?」
シャルロットを起こさないように小声ではあったが、かなり驚いている。
……まあ、そうだろうな。なにせあのブリュンヒルデだ。第二回モンド・グロッソの放送は家族三人で見たので、彼女の強さは母さんも良く知っている。
「そ、そんなに凄かったの……?」
「ああ。それで、デュノア社のパイロットにならないか、と」
「……そう」
「熱く語られたよ。それほどの才能とオルレアンの名を持つ私は、神が遣わした聖女だそうだ」
途端に母さんの顔が曇る。デュノア社長の言い回しに嫌な思い出でもあるのだろう。
「大仰な例えを持ち出して、相手を酔わせ、誘導する。……そんなところか」
「そうね。……私はそれに、騙されてしまったわ」
「…………」
母さんの年齢から逆算すれば、シャルロットを産んだ当時、成人どころか子供とすら呼べるような年齢だった筈だ。そんな若い女性を妊娠させた挙げ句に捨てるなど言語道断だが、今はそれを持ち出す時ではない。
「……アンジェは賢いのね」
「いや、育った環境が特殊だっただけだ」
「……ごめんなさい」
「こっちこそ。……この話題はよそう。謝罪合戦になりそうだ」
「……ええ、そうね。……それで、どうするの?」
「……受けることにした。ブリュンヒルデの戦いを見てから、私はISに惹かれている。……乗りたいんだ、どうしても」
「……そう」
母さんの表情が、見る見る沈んでいく。私をデュノア社長に預けるのが不安なのだろう。
……無理もない。私が同じ立場――例えばシャルロットがデュノア社長の元へ行くことになったとしたら、私も平静ではいられないだろう。
「……すまない、母さん。我が儘を言って」
「謝らなくていいのよ、アンジェ。言ったでしょう? あなたが我が儘を言ってくれて、私はむしろ嬉しいくらいなのよ?」
「……ありがとう」
優しい笑顔を浮かべる母さんに、心からの感謝を述べる。
相当な不安が有る筈なのに、今はそれを微塵も表情に出していない。
……なるほど。母は強し、か。
「ありがとう、母さん。貴女の娘になれて、本当に良かった」
「それは私のセリフよ、アンジェ。……あなたとシャルロットは、私の誇りよ」
「なら、私は。母さんの娘として、シャルロットの姉として、恥じることのない活躍をして見せよう」
「そんなことはいいの。ただ、無理だけはしないでね」
そう言って、母さんはそっと私を抱きしめた。
……この温もりよりも戦いを求めるなど、愚かに過ぎる在り方だが。
それでも私は、剣を捨てるわけにはいかない。
私が、私であるために。
「いつでも帰ってきなさい。待ってるから。私も、シャルロットも」
「ああ。必ず、帰ってくるよ。……ここが、私の家だから」
――――――――――
「えぐ、ぐすっ……」
「泣くな、シャルロット。今生の別れではない。それどころか、いつでも戻って来れるんだぞ?」
「それにしたって、昨日教えてくれたって良かったじゃないか!」
「こうして泣かれると、分かっていたからな。……言い出せなかった」
「うぐっ、うううぅぅ……!」
泣き止まないシャルロットの頭を撫でる。
こんなことをしたことがなかったので大分乱暴な手付きになってしまったが、シャルロットは私の手を振り払おうとはしなかった。
今日から私はデュノア社で働くことになるのだが、ただパイロットとしてISに乗るだけでなく、様々なデータ取りにも参加しなくてはならない。よって、デュノア社のすぐそばにある寮で生活することになる。学校も辞めて、勉強はISについてのそれと並行してデュノア社に教わる。
……それはつまり、この家を出るということだ。
「ほら、シャルロット。あなたがそんなんじゃ、アンジェが行けないでしょ」
「うぐ、ひっく……! ……アンジェェェェェ……!」
迎えに来たデュノア社の車のことなどまるで意に介さずに、シャルロットは泣きじゃくっている。
これほどまでに好かれていることが嬉しくあったが、そんなシャルロットを泣かせてしまっていることが心苦しくもあった。
「すまない、シャルロット。……出来るだけ、まめに家に帰るようにする」
「絶対だからね!? 約束だよっ!?」
「ああ、約束だ」
抱きついて来たシャルロットの背中を、あやすようにさする。
……やはり、温かいな。
「いいか、シャルロット。私が留守にする間、お前が母さんと家を守るんだ。護身術を教えてやっただろう?」
「うん……けど、僕はアンジェみたいに強くないよ」
「お前は母さんの娘で、私の妹だ。……お前は強いよ、シャルロット。それは私たちが、一番良く知っている」
「……うん」
そう言うと、シャルロットは私から身を離した。
ぐしぐしと涙を拭い、泣きはらして真っ赤になった目で、真っ直ぐに私を見る。
「……行ってらっしゃい、アンジェ! 頑張ってね!!」
「ああ。……では」
ずっと、自分のために戦ってきた。
そしてこれからも、自分のために戦い続けるだろう。
――だが。
「行ってきます。母さん、シャルロット」
今の私は、ただ戦いだけを求めているわけではない。
私の母に、私の妹に。
――胸を張れる、騎士となりたい。
(良く見ておけ、シャルロット)
ここからが、始まりだ。
かつては殺戮の道具に成り下がった私が、本当に求めていた戦いを。
最期に一度だけ味わえた、あの戦いを。
――今度こそ。
(私の、剣をっ!!)
アンジェ・オルレアン
ステータス
攻撃力:A+
機動力:A
耐久力:C
コジ魔力:C
運:D
スキル
鴉殺し:ランクB
強者との戦いを求める心。どれほどの強敵と相対しようと、いかなる苦境に陥ろうと、決して戦意が衰えることはない。逆に相手が弱過ぎたり状況が有利過ぎたりする場合は戦意が落ちる。
心眼(偽):ランクB
天性の読みと見切り。達人の域。特に近接戦闘において真価を発揮し、防御、回避、反撃を可能とする。
戦闘続行:ランクA−
生き残るための能力ではなく、最期まで戦う能力。肉体の欠損などの物理的な理由以外、つまり疲労や苦痛で戦闘力が衰えることはない。
大切なものが出来たことで、僅かにランクが低下している。
オルレアンの乙女:ランク不定
ジャンヌ・ダルクの再来、神の遣い、天使と呼ばれる。フランスの国家と国民を味方につけることが出来る。活躍と行いに応じてランクが上下する。
宝具
固有結界・騎士庭園(ガーデン・オブ・キャバルリィ):ランクEX
対人宝具。
決闘場を展開する能力。発動するとアンジェと相手の二人だけの空間が展開される。
特別自分が有利になるような効果は無いが、撤退、投降が出来なくなり、どちらかが戦闘不能になるまで解除されない。
アンジェと相手の戦意が極めて高くなり、かつ双方の合意がある場合のみ発動出来る。
井上真改
ステータス
攻撃力:A
機動力:A+
耐久力:C
コジ魔力:C
運:C
ORCA:ランクD
目的の為には如何なる犠牲をも辞さず、仲間や自らの命さえ捨てる、鉄の意志。
現在はORCAではないため、ランクが低下している。
心眼(真):ランクB
たゆまぬ鍛錬と膨大な戦闘経験による読みと見切り。達人の域。防御を抜き、回避に追い付く能力。
一心一刀:ランクA
極限の集中力と不屈の精神力。敵や戦況に戦意を左右されず、いかなる精神攻撃も無効化する。
無心無刀:ランクA
肉体に刻み込まれた戦闘技能。咄嗟の状況において、脊髄反射をも上回る速度で対応出来る。
宝具
月光:ランクA
対人宝具。
膨大なエネルギーを極狭い範囲に収束することで、圧倒的な破壊力を生み出す光の剣。
その熱量はあらゆる物質の沸点を超越しており、文字通りに「斬れぬ物はない」剣だが、唯一零落白夜だけは例外。
妄想乙。