IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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前回前書き忘れましたね……まあいつも大したこと書いてないけどな!



オルレアンの騎士 第4話 新たなる剣

「ハアアアアッ!!」

「オオオォォッ!!」

 

 デュノア社のテスト用アリーナ。

 ここで今、我が社のエースパイロットであるクロエ・ルクレールと、期待の新星アンジェ・オルレアンが模擬戦を行っている。

 

 ルクレールは第二回モンド・グロッソの参加者、つまり元フランス代表であり、現在の最有力代表候補生だ。ヴァルキリーでこそないが、いくら才能があろうとISに乗り始めてまだ三ヶ月ほどのオルレアンがかなう相手ではない。この模擬戦は飽くまでもオルレアンに戦闘経験を積ませること、オルレアンが天狗になって才能に胡座をかくことを防ぐことが目的である。

 

 ――いや、目的だった、と言ったほうが正確だろう。

 

「信じられん……クロエ・ルクレールが、こうまで抑えられんとは……!」

 

 凄まじいとしか言いようのない攻防。

 状況はオルレアンが不利だが、まだいくらでも逆転できるだろう。むしろルクレールの方が、オルレアンの気迫に押され気味だ。

 

「ハアッ!!」

 

 ルクレールの専用機、ラファール・リヴァイヴ・カスタムが両手に持つバトルライフルから高威力の弾丸が発射される。

 それをオルレアンは、ラファール・リヴァイヴの両手に近接格闘用ブレード、ブレッドスライサーを展開して切り払った。

 

「どんな反射神経してんのよ……!」

 

 三点バーストを採用することで威力と精度を両立しているバトルライフルだが、オルレアンとは相性が悪い。連射が足りず、かわされるかブレードに全て防がれてしまうのだ。

 

「せいっ!」

「くうっ……!」

 

 隙を突いて、オルレアンが踏み込む。ルクレールは振るわれたブレードをバトルライフルを盾にしつつ退がって回避し、ドラムマガジン式のショットガンを展開して猛連射、オルレアンを突き放す。

 

「これは、想像以上か……!」

 

 距離が離れた二人だが、そのまま数秒、睨み合っている。お互いに仕掛ける隙を伺っているのだろう。

 

 オルレアンは接近戦でこそその才能を大いに発揮するが、射撃もなかなかのものだ。しかしルクレールが操るラファール・リヴァイヴ・カスタムは重火器を大量に装備した機体。通常のリヴァイヴで撃ち合うには流石に分が悪い。

 逆に何故ルクレールが攻撃を仕掛けないかと言うと、当たらないからだ。

 中距離以上での銃撃は、そのほとんどがかわされ、あるいは防がれる。数発は当たることもあるが、その数発を当てるために消費される弾丸の量を考えれば、倒す前に弾切れになることは目に見えている。

 

 故にルクレールはショットガンやマシンガンなどの武器で近距離から弾幕を叩き込まなければならず、それは即ちオルレアンの間合いで戦わなくてはならないということであり。

 射撃戦ではかなわないオルレアンは、待ち受ける猛火の中に自ら飛び込んで行かなくてはならない、ということだ。

 

「素晴らしい! これほどの戦いならば、モンド・グロッソでも通用するぞ……!」

 

 精神を焦がすほどの緊張感が伝わってくる。

 さらに数秒が経ち、このままでは埒が開かないと思ったのか――動いたのは、やはりと言うか、オルレアンが先だった。

 

「往くぞ!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、一気に距離を詰める。

 だがそんな見え見えの突撃は、当然ルクレールに読まれている。両手のショットガンを構え、オルレアンに向けて引き金を絞り――

 

「な……!?」

「何ぃ!?」

 

 驚きの声は、私とルクレールの物。

 オルレアンは、前進中に急上昇してルクレールの銃撃をかわした。しかもその速度から、ただスラスターを噴かしたのではないことが分かる。瞬時加速を使ったのだ。

 

 それは、つまり――

 

「に、二段瞬時加速だと……!?」

 

 二段瞬時加速は、通常の瞬時加速とは比べ物にならないほどに難度の高い技術だ。瞬時加速中の強烈なGを受け流しつつ二度目の瞬時加速を使わなければ、自らの体を傷付けてしまうからだ。

 加えて、機動力特化機ではないリヴァイヴでは、スラスターへのエネルギーの充填にも苦労する筈。確実に成功させるのは、モンド・グロッソのキャノンボール・ファスト部門参加者たちくらいのものだろう。

 

(それを、僅か三ヶ月程度の搭乗時間でやってのけるか……!)

 

 ……天才だ。疑う余地すらなく。

 

「オオオォォッ!!」

 

 そのまま縦に一回転し、ルクレールへ向け急降下。両手のブレードを振り上げる。

 

「な……めるなぁっ!!」

 

 ルクレールは素早くショットガンを持ち上げ、オルレアンに照準を合わせる。

 それに対しオルレアンは、銃口が散弾を吐き出すより、僅かに早く。

 

「ハアッ!!」

 

 左手のブレードを、投げた。

 

「ッ!?」

 

 まさかの行動に、ルクレールが緊急回避を行う。同時にショットガンも撃って行ったが、回避の際に照準がズレ、満足なダメージは与えられなかった。

 仕留め切れなかったことを瞬時に悟り、再びショットガンを構えるルクレール。銃口の先には、奇襲に失敗したオルレアンが――

 

「ぜぇあっ!!」

 

 二撃目の投擲を、放っていた。

 

「ぐあっ!?」

 

 ブレードがショットガンに突き刺さり、ドラムマガジンに装填された大量の散弾が暴発、衝撃と驚愕にルクレールが体勢を崩す。

 

 ……そう、歴戦の猛者であるクロエ・ルクレールが、驚愕している。

 

 無理もない。アンジェ・オルレアンは、ISに乗り始めて三ヶ月足らずの少女は、回避行動中のISが持つ銃に、ロックオンの出来ない投擲攻撃を当てたのだから――!

 

(もはや、天才という言葉すら生温い……!)

「オオオオオォォォッ!!」

 

 雄叫びを上げながら、ブレードを失った両手にマシンガンを展開して突撃するオルレアン。ルクレールは体勢を崩しながら、それでも残ったショットガンをオルレアンに向ける。

 至近距離での銃撃の応酬。このまま行けば、二機のシールドエネルギーはほぼ同時にゼロになるだろう。

 

「私にもっ……! 意地があるのよっ!!」

「ぬうっ……!」

 

 だが、やはり射撃ではルクレールに分がある。

 散弾の嵐がマシンガンの片方を弾き飛ばす。火力が半減した隙に空いた手にアサルトカノンを展開し、とどめの一撃を放ち――

 

「ちいっ!」

 

 ――瞬時加速により、かわされた。

 

(あれほど体勢を崩しておきながら……!)

 

 危ういタイミングで弾幕から逃れたオルレアンは再び瞬時加速を発動、ルクレールに突撃する。

 凄まじい速度だったが、ルクレールはギリギリでアサルトカノンを照準。オルレアンも相当接近しているが、間合いに踏み込むにはほんの僅かに時間が足りない。

 

 そして、一発の爆裂弾が発射され――

 

「ぬううぅあっ!!」

 

 ――オルレアンが盾として構えた、マシンガンを粉砕した。

 

「なっ!?」

 

 亜音速で前進していたために相対速度で威力を増してはいたが、それでもどうにか耐え切った。マシンガンを犠牲にすることで僅かなシールドエネルギーを得たが、同時に武装も失った。オルレアンの武装切り替え速度では、次の武装を展開する時間的余裕はないだろう。

 

(さあ、ここからどう攻める……!?)

 

 オルレアンが無意味な時間稼ぎをするとは思えない。なんらかの勝算がある筈だ。

 

(見せてみろ、お前の可能性を!)

 

 ついに手足の届く距離まで辿り着く。ルクレールが現在展開している武装では近過ぎて攻撃出来ず、オルレアンにはそもそも武器がない。

 

 お互い攻撃手段がない――そう、思ったが。

 

「ぐっ!?」

 

 オルレアンはルクレールの首を掴み、そのまま地表へと急降下を始めた。

 見る見る内に高度が下がり、ルクレールも必死にもがくが、オルレアンの手を外すことができない。

 

(叩きつける気か!!)

 

 このまま地表に激突すれば、ルクレールのシールドエネルギーは底をつくだろう。これは武器を失ったオルレアンの、最後の攻撃。

 

 ――だが。

 

「こ……のおっ!」

「っ!?」

 

 ルクレールはハンドガンを展開し、オルレアンの胸に突きつける。間を置かずに引き金を絞り、そのまま連射。

 

 こちらも、追い詰められているルクレールにとって最後の攻撃だ。

 

 ――オルレアンが耐えきるか、ルクレールが攻めきるか。

 

「「オオオオオォォォォッ!!!」」

 

 そして、地表に激突する、直前で――

 

『……シールドエネルギーゼロ。勝者、クロエ・ルクレール』

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 模擬戦後の更衣室で、ルクレールさんに会った。彼女は栗色の髪を拭きながら、気さくに声を掛けて来た。

 

「お疲れ様、オルレアン」

「お疲れ様でした、ルクレールさん。素晴らしい試合でした。ありがとうございました」

「あなたこそ。噂には聞いてたけど、それ以上ね」

「いえ、そんな。結局負けてしまいましたし」

「当然よ……と、言いたいところだけど。かなり危なかったわ。機体の差が無ければ、負けていたのは私だったでしょうね」

「まさか。二度は通用しないような手ばかりでしたから。それで勝てなかったのですから、次も勝てないでしょう。……地力が違います」

「それでも、あなたは若いんだから。これからどんどん強くなって、私なんかあっという間に追い抜くわ。……悔しいけどね」

 

 そう言うルクレールさんの顔は確かに悔しげだったが、同時に晴れやかでもあった。

 

「前回のモンド・グロッソじゃ、良い結果を残せなかったからね。それでも国内大会じゃ、私は負け無しだった。……IS開発だけじゃなくて、パイロットの育成も遅れてるのよ、フランスは」

「…………」

「けど、あなたが現れた。あなたなら、きっとモンド・グロッソで優勝できる。あなたなら――二人目のブリュンヒルデになれる」

「……そこまで買っていただけるとは」

「けど、決して買いかぶりではないわ。さっきの試合を見た人なら、誰だってそう思うわよ」

 

 そう言って、ルクレールさんが右手を差し出す。

 そして少し寂しそうな、しかし何かを決意したような表情で。

 

「……フランスをお願いね、オルレアン。私じゃ力不足だろうけど、訓練に付き合わせて」

 

 私はルクレールさんの手を取り、応える。

 

「……よろしくお願いします、ルクレールさん」

「クロエって呼んで。あなたとは仕事上の同僚じゃなくて、友達になりたいから」

「分かりました、クロエさん。それでは私のことも、アンジェと」

「うん。これからよろしくね、アンジェ」

 

 ……これは、ただ友情を交わしたわけではない。

 

 フランス最強の戦士から、フランスの未来を託されるということだ。

 

「あなたに認めてもらえたこと、誇りに思います」

「ありがと。それじゃあ私は、世界最強の最初のコーチになったことを誇りにするわ」

「はは、それは流石に気が早過ぎでは?」

「そうかしら? あとほんの数年よ」

「……期待に応えられるよう、励みます」

 

 ……重い。これが、国の期待を背負うということか。欲望の温床でしかなかった企業とは比べ物にならない。

 

 ……これを、私は滅ぼしたのか。

 

(……過去を悔やんでも意味はない。今は、前に進まなければ)

 

 全身全霊を懸けて、この期待に、応えよう。

 

 それが、償いになるかは、分からないが。

 

 それだけが。今の私に、出来ることだから。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……どうだ?」

「素晴らしいデータが取れました。……ご覧ください」

「……おお……!」

 

 ディスプレイに表示されたデータは、今まで見たこともないようなものだった。オルレアンがIS適性値だけでなく、戦闘そのものの才能も凄まじいことが伺える。

 

「機体がパイロットに追いついていない。……逆はよくありますが、こんなことは初めてです」

「素晴らしい。至急、オルレアンの専用機に反映しろ」

「はい。このデータを使えば、他にない機体が組み上がるでしょう」

「……第三世代型に出来そうか?」

 

 第三世代型ISは、主にイメージ・インターフェイスを用いた兵器の搭載を目標としたものだ。そしてイメージ・インターフェイスは、オルレアンのように才能で機体を操る者と相性が良い。

 

「勿論です。彼女しか扱えない物になるでしょうが」

「構わん。どれほどじゃじゃ馬であろうと一機でも完成させれば、国を納得させられる」

 

 そうすれば、引き続き国の援助を受けられる。オルレアンの才能を示してやれば惜しみはすまい。いくらでも引き出せるだろう。

 二機目以降の開発は、それからでも遅くはない。

 

「では、我々の好きに作っても?」

「ああ、徹底的に尖らせてやれ。オルレアンが乗るのだ、いくらやっても、やり過ぎということにはならん」

「分かりました。では、そのように」

 

 そして我が社も、オルレアンにはいくらでもつぎ込むつもりだ。オルレアンの専用機が完成し、それを乗りこなすようになれば――もはや、無敵と言っても過言ではあるまい。

 

(クク……まったく。ようやく私にも、運が向いてきたか)

 

 それも特大の幸運だ。オルレアンの存在だけで、我が社は今までの遅れを取り戻しても釣りが来る。

 機体の開発しかり、パイロットの確保しかり。

 

 ……だがここまで話が上手く行き過ぎると、一つ気掛かりなことがある。

 

(……オルレアンの保護者が、まさかあの女とはな)

 

 一年ほど前に子供を引き取りたいなどと言って来たが、まさかそれがオルレアンだったとは。まったく興味がなかったが下手なことを騒がれても面倒なので、ろくに調べもせずに手を回したが……。

 

(ふん。だが、考えようによっては、これも好都合だな)

 

 いざとなれば、利用できるだろう。要はオルレアンを我が社につなぎ止めておければいいのだから。

 

(しかし、オルレアンは知らんのか? あの女のことだ、話していない、ということも有り得るが……)

 

 問題はそこだ。

 オルレアンが私とあの女の関係を知らずに我が社に来たのか、知っていてあえて我が社に来たのか。

 それが分からなければ、対処が遅れる可能性もある。

 

(だが、急いで確認する必要もあるまい。下手に藪をつついて蛇が出てはかなわんからな。ゆっくり、時間を掛けて探ればいい)

 

 そう、今はそんなことよりも優先しなければならないことが山ほどある。まずは目先のことから片付けて行かねば。

 

「さあ、開発を進めろ。……急げよ、他社もオルレアンの存在を知る頃だ。引き抜かれん内に、オルレアンが気に入る物を作れ」

「お任せを。これほどの素材を得られたことで、皆かつてないほどにやる気を出しています。そう遠くない内に、完成させますよ」

「うむ。期待しているぞ」

 

 オルレアンを他社に取られることだけはあってはならない。そうなれば、我が社は終わりだ。

 

 だが逆に、オルレアンを確保し続けることが出来れば、我が社の未来は安泰だ。

 

(ク、ククク……。本当に、良いモノを得た。さあ、頼むぞ、オルレアン。お前の活躍に掛かっているのだ。我が社に、そして私に、栄光を齎してくれ――!)

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 数ヶ月ぶりに、ようやく我が家に帰って来れた。

 

 妙に緊張してしまって、玄関先で一つ深呼吸。気持ちを落ち着けてから、扉を開ける。

 

「……ただいま」

「……あ!」

 

 私の声を聞きつけたのか、家の奥からシャルロットの声が聞こえた。

 次いでパタパタと駆けてくる音。すぐに鮮やかな金髪が見えて、それが真っ直ぐに、私の胸に――

 

 ズドムッ!!

「ゴフゥッ!?」

 

 ――鳩尾に突き刺さった。

 

「ぐはっ、ごほっ、げほぉっ……!!」

 

 凄まじいダメージだった。息が出来ない。パキケファロサウルスの突進頭突きを受けたような気分だ。いや、アレの頭突き説は間違いだったんだっけ? 詳しくは知らんが。今度調べてみるか。

 

「…………」

「ぐふっ……っ、はあ、はあ、……ふう……」

「…………」

「……た、ただいま、シャルロット」

「……お帰り、アンジェ」

 

 酸欠による混乱からどうにか抜け出し、ジト目で私を睨む妹に挨拶する。

 しかしシャルロットは、プイッとそっぽを向いて私を見てくれない。

 

 ……怒らせてしまったか。

 

「すまない、シャルロット。遅くなってしまった」

「……まめに帰って来るって、言ったのに」

「本当にすまない。仕事が忙しくて、それに私が必要だと言われてしまってな。どうしても抜け出せなかったんだ」

「ふーんだ」

「……参ったな」

 

 シャルロットはいまだかつて見たことがない程にご立腹だった。どうすれば許してもらえるのだろう。

 考えていると、家の奥からシャルロットと同じ金髪の女性が現れた。

 

「お帰りなさい、アンジェ」

「ああ。ただいま、母さん」

 

 母さんはシャルロットの様子を見て、苦笑を浮かべる。

 

「ほら、シャルロット。機嫌直しなさい。アンジェだって忙しいのに、無理して帰って来たんだから」

「ふーんだっ!」

「あらあら」

「はは……」

 

 困った笑いを上げる私に、呆れ顔の母さん。

 すると母さんはイタズラを思いついた子供のような顔になり、私と目を合わせる。

 

 そしてアイコンタクト。……面白い、了解した。

 

「じゃあアンジェが帰って来たし、今日はご馳走でも作りましょうか。……アンジェ、手伝ってくれる?」

「分かった。ついでに、ここ最近のことでも話すよ。シャルロットは聞いてくれそうもないしな」

「………………え?」

 

 愕然とした声を上げるシャルロット。

 背後で母さんが物凄くイイ笑顔をしていることにも気付かない。

 

「そうね、怒ってるシャルロットは手伝ってくれないかもしれないものね」

「ああ、謝っているのに、相手にしてくれない。これは下手に言い訳をするより、しばらくそっとしておく方が良さそうだ」

「あ、あっ……!」

 

 シャルロットが慌て始める。……もう一押しか。

 

「残念だな。シャルロットに会うことを楽しみにしていたのだが。土産話もあったのだがなぁ」

「それは残念ね。仕方ないわ、シャルロットは聞いてくれないだろうし、私にだけ聞かせて?」

「う、ううう……!」

 

 シャルロットが涙目になってきた。

 

 ……どうしよう、滅茶苦茶可愛い。私にいじめっ子の気質があるとは知らなんだ。

 

「そうだな。では母さん、聞いてくれるか? 話したいことが沢山ある。二人で話そう。シャルロットは放っておいて」

「そうね。私も話したいこと、聞きたいことがいっぱいあるわ。二人で話しましょ。シャルロットは放っておいて」

「わ、わかった! わかったよ!」

 

 ついに堪らなくなったのか、シャルロットがうがーっ! と吼えた。

 そのままの勢いを維持し、頭を下げる。

 

「ごめんなさい! アンジェを困らせたくて、怒ったふりをしました!」

「うむ、素直でよろしい」

「もう、なんで僕が謝ってるの!? 約束破ったのはアンジェなのにっ!」

「いや、それは……なあ、母さん?」

「ええ、それは……ねえ、アンジェ?」

「「ふふふっ」」

「あーもう! 二人ともズルイ!!」

「「ふふふふっ」」

「笑うなーっ!!」

「「あははははっ!!」」

 

 うむ、やはり我が家はいいな。ここ最近の疲れが吹き飛ぶようだ。

 

 そうして、笑い止まない母さんと、余計怒ったシャルロットとの三人で、食事の支度をした。久しぶりの家族三人での食事はとても美味く、何より温かいものだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 夜。

 

 データをもう一度取りたいとデュノア社から呼び出しがあり、社に戻ることになった。

 

「……もう行っちゃうの?」

 

 寂しそうに眉根を寄せるシャルロット。その頭を撫で、目を真っ直ぐに見て謝る。

 

「すまない。……今度こそ、出来るだけ早く帰るよ」

「……本当に?」

「ああ。私のデータはほとんど取り終わっている。長引いても、今回よりは時間はかからないよ」

「……うん」

 

 もう駄々をこねたりはしないが、やはり寂しさは隠せないのだろう。泣きそうな顔をしている。

 こうなるだろうと思っていたので、事前に用意しておいた物を懐から取り出す。

 

「シャルロット、後ろを向け」

「?」

 

 疑問符を浮かべながらも、素直に振り返るシャルロット。

 その背中に流れる、黄金の輝きと絹の手触りを併せ持つ髪を手に取り、懐から取り出したシャルロットへのプレゼント――薄紅色のリボンで纏めた。

 

「あ……」

「詫びのしるしだ。……どうにか、これで許してくれ」

「……ううん。初めから、怒ってないよ」

「……そうか。それは良かった」

 

 リボンなど結んだことがなかったので少々乱れてしまったが、それでもシャルロットは喜んでくれたようだ。

 

「では、行ってくる」

「うん。無理しないでね、アンジェ」

「ああ、大丈夫だ。シャルロットと母さんを心配させるようなことはしない」

「うん。それじゃあ、行ってらっしゃい、アンジェ」

 

 笑顔を作って見送ってくれる妹に、微笑みを返す。

 そして振り返り、迎えの車に乗り込んだ。

 

「もういいのですか?」

「はい。お待たせしました」

「いえ。それでは、出します」

 

 運転手と僅かに言葉を交わすと、車が動き出す。

 車内から家を見ると、シャルロットと母さんが手を振っていた。向こうからは見えないだろうが、私も手を振り返す。

 

 シャルロットはそのまま、見えなくなるまで手を振り続けていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 それからさらに数ヶ月が経った、ある日のこと。

 

 私はデュノア社のピットに呼び出された。

 

「オルレアン君。ついに、君の専用機が完成した」

「おお……! 待っていました」

 

 うむ、待ちわびたぞ。やはり一次移行の出来ない訓練機では、動きに制限があるからな。

 

「それで、私の機体はどこに?」

「はは、そう急がなくとも、すぐにここに――む、来たか」

 

 噂をすれば影。絶妙なタイミングで、ピットにコンテナが搬入されて来た。

 

「お待たせしました」

「うむ。……では、オルレアン君。紹介しよう。我が社にとって初の第三世代型IS、我々が総力をもって作り上げた、フランスの救世主たる君に贈る機体だ」

 

 ガコンッ、と。

 

 重々しい音を立てて、コンテナが開く。

 

「機動力、運動性能、反応速度に特化させた機体だ。それ故にとんだじゃじゃ馬になってしまったが、君ならば問題無く扱えるだろう」

 

 そこに在ったのは、深い青色の装甲。

 

 右の肩には、威力に優れたアサルトカノン。

 

 左の肩には、連射と小回りが利くチェーンガン。

 

「そして、この機体の名だが。……君はどうやら、騎士というものに憧れというか、こだわりがあるようだからね。それに相応しいものを考えた」

 

 両の腰に二振りの剣を佩き、威風堂々と佇むその姿は、まさに騎士の纏う甲冑そのもの。

 

 

 

 これが、私の――

 

「かの英雄、聖騎士(パラディン)ローランが、シャルル王より賜った聖剣――」

 

 

 

 

 ――私の、新たなる(つるぎ)

 

 

 

「――〔デュランダル〕だ」

 

 

 

 




キャラ紹介:クロエ・ルクレール

 言わずともオリキャラ。名前がすでに厨二。
 20代半ば、髪は栗色のセミロングの美人、それなりにナイスバディ。明るく人見知りしない性格で、面倒見の良いお姉さん。
 第二回モンド・グロッソではフランス代表として参戦したが、序盤で敗退した。第三回に向けて訓練に明け暮れていたが、自分を遥かに上回る才能を持ったアンジェと出会い、希望を託す。

 専用機はラファール・リヴァイヴ・カスタム。通常のリヴァイヴより防御力と安定性が強化されているのに加え、三点バーストのバトルライフル、大型ドラムマガジンのショットガン、ヘヴィマシンガン、アサルトカノンなどの重火器を多数装備し、接近戦ではハンドガンを使う、射撃戦に特化した機体。
 シャルが機動力を活かして近~中距離で相手を翻弄しながら戦うのに対し、クロエは精度と厚みを両立させた火力で中距離から蜂の巣にするスタイル。シャルがアルゼブラ、クロエがGAとイメージすると分かりやすいかもしんない。

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