IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

54 / 122
如月重工のとある一日 その2



網「社長、次の新兵器の開発企画書をお持ちしました」
如「お、どれどれ……」


スピリット・オブ・アミダウィル

 陸を支配する、超巨大な個体。どっしりとしたその立ち姿には威厳さえ感じる。
 そのサイズにモノを言わせ超圧縮した酸の威力と射程距離は脅威。
 体表に無数の生体兵器を寄生させており、近づいてきた敵性戦力を迎撃させる。
 自爆するとキノコ雲が出来るかもしれない。


アミグロ

 海を支配する、超高速な個体。海上をアメンボみたいにスイスイ走る姿は優雅なことこの上ない。
 その移動速度は音速にも迫るほどであり、通常の海上戦力では相手にならない。
 酸だけでなく、吸い上げた海水による水圧カッターで接近戦も行う。
 自爆するとその海域の生物が死滅すると言われている。


アミダラー

 空を支配する、超強力な個体。ゆらゆらと大空を舞う姿は荘厳で、一枚の絵画のよう。
 制空権を確保し、地上に酸の雨を降らせまくる。地上は焦土になる。
 周囲に霧状の酸を撒き、大抵の攻撃を無効化する。近付くと死ぬ。
 自爆すると世界が滅びるとかなんとか。



網「いかがです?」
如「……網田君、僕は君を見損なったよ」
網「と、言いますと?」
如「こんな企画書なんか書いてる場合じゃないだろう! 早く製作に取り掛かるんだ! 予算ならいくら使ってもいいからっ!!!」
網「流石です社長! それでは全力で作らせていただきます! きっとご満足するものを完成させて見せましょうっ!!!」
如「うん、期待しているよ、網田君っ!!!」


第41話 事件

 それは、IS学園が夏休みに入ってから二日目の時のことだった。

 

(……金が無い……)

 

 真改の財布は、早くも空っぽになっていた。

 

 

 

 ことは前日、夏休み初日に遡る。

 皆と街に出掛けた際、真改は心配を掛けた詫びとしてその日の食事代を持つことにした。

 

 したのだが――

 

「わあ、このクレープおいし~!」

「…………」

 

 特製クレープ。1800円。

 

「むう、これはかなりいい餡を使っているな。生地も素晴らしい……」

「…………」

 

 こだわりタイヤキ。1200円。

 

「杏仁豆腐って、こんなにおいしかったのね」

「…………」

 

 秘密の杏仁豆腐。2000円。

 

「ほう、これが餡蜜か……」

「…………」

 

 季節の果物たっぷり餡蜜。1780円。

 

「ああ、これは良い素材を使ってますわね」

「…………」

 

 女王陛下のチーズケーキ。3400円。

 

「うまうま~♪」

「…………」

 

 ほっぺの落ちるパフェ。2800円。

 

「げぷ……食った食った。美味かったぜ~……」

「…………」

 

 高級料理食べ放題。……5000円。

 

「「「「「「「ごちそうさまでしたっ!!」」」」」」」

「……………………」

 

 みんなの笑顔。プライスレス。

 

(……豚になれ……)

 

 そんなわけで、現在の真改は金欠だった。孤児院に帰る際には何かしらの土産を持って行こうと思っていたのに、これでは帰るための電車賃さえ怪しい。

 

(……仕方あるまい……)

 

 と言うわけで真改は、銀行に行って金を下ろすことにした。仮にとはいえ如月重工に所属している真改には、口座にそれなりの金が振り込まれているのだ。

 

(……何がいいか……)

 

 愛する弟妹、愛してくれる義父に何を贈るべきかを考えながら、真改は外出のための私服へ着替える。

 すると、真改と同部屋である本音がそれに気付いた。

 

「あれ~、いのっちどこ行くの~?」

「……銀行……」

「え?」

「……金欠……」

「うっ……」

「…………」

「…………」

「……金k「ごめんなさい」………………」

 

 さすがに悪いと思ってはいたのか、本音は謝った。だが食い物(と金)の怨みは恐ろしい。真改の目は据わったままだった。

 

「じゃ、じゃあ、私も行く~!」

「……奢らない……」

「わ、わかってるよ!?」

「…………」

 

 と言うわけで、真改と本音の外出が決定した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 街へ出ると、一夏にばったりと出くわした。

 

「……あれ、シン?」

「…………」

「わ~い、おりむーだ~」

「のほほんさんも? 二人でお出掛けか」

「……銀行……」

「え?」

「……金欠……」

「うっ……」

「…………」

「…………」

「……金k「ごめんなさい」………………」

 

 本音とまったく同じ反応だった。

 

「すまん、悪かった。さすがに調子に乗りすぎた。反省してる」

「…………」

 

 どうだかな。最後に一番高いモノを食ったのはこいつだ。

 

「わ、悪かったって。そんなに睨むなよ」

「…………」

「そ、そうだ。みんなに何か買ってくんだろ? 荷物持ちくらいはやるよ」

「…………」

「わ~い、それじゃあいっぱい買っちゃうよ~」

「……ほどほどに頼む」

 

 そんなわけで、三人で銀行へ向かう。到着すると――

 

「動くんじゃねえ!!」

「うわあああ、強盗だあああっ!?」

「だ、誰か警察をっ!」

「動くなって言ってんだろうが! ぶっ殺すぞ!!」

「「「…………………………」」」

 

 ――緊急事態が発生していた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「おら、全員床に伏せろ! 伏せるんだよっ!!」

「おいお前! 金庫に案内しろ! もたもたすんな!!」

「妙なことすんじゃねえぞ! したらすぐにぶっ殺すからなっ!」

「「「…………」」」

 

 銀行強盗だった。人数は五人、全員が銃で武装し、黒い覆面で顔を隠している。

 

「おかしな真似すんなよ! 大人しくしてりゃあ何もしねえ!」

「おい、ぐずぐずすんな! 早くしろっ!!」

「は、はい……!」

 

 一人がスタッフの頭に銃を突き付け、金庫の鍵を開けさせている。残りの四人は店内の客を床に伏せさせ、銃で威嚇していた。

 

 ちなみに銀行に入ったばかりの己たちは――

 

「……えー……」

「わあ~、強盗だ~」

「…………」

 

 あまりにもあんまり過ぎる出来事に、呆然としていた。

 

「あ!? なんだてめえら! おい、てめえらも床に伏せてろ! 逃げんじゃねえぞ、逃げようとしたら撃つからなっ!!」

「「「…………」」」

 

 かなり時間がかかった気がしないでもないが、強盗が己たちに気付いた。やはり銃を向け、他の客たちにするのと同じように床に伏せるよう言って来る。

 

「…………」

 

 さて、どうするか。己たちだけならなんの問題も無いのだが、奴らは人質を取っている。下手な動きは出来ない。

 

「……シン、どうする?」

「…………」

 

 銀行内の様子をもう一度、より詳細に確認する。

 人質は、見える範囲に二十人ほど。あとは奥に数人か。

 強盗たちの持つ銃は、粗悪な回転式拳銃だった。装弾数は少ないが、流れ弾には注意せねば。

 

 取りあえず、注目されている今は大人しくしておいた方がいい。

 

「……従う……」

「……分かった」

 

 まずは床に伏せ、強盗の動向を窺うことにした。連中は見るからに素人だ、いずれ隙をさらすだろう。

 

「まだ開かねえのか!?」

 

 銀行の奥から怒声が聞こえて来る。金庫を開けさせられているスタッフは、恐怖からか手こずっているようだ。

 

「急げって言ってんだろうがっ!!」

「兄貴、やべえぜ! 外が騒ぎになってる、サツが来ちまうぞ!」

「ちい、おら急げ! サツが来るまでに開かなかったらぶっ殺すからなっ!!」

 

 それから数分して、サイレンが聞こえた。警察が来たらしい。

 それとほぼ同時に、強盗のリーダーが奥から出て来た。肩から札束が詰まったバッグを提げている。

 

「くそっ、もう来やがったか!!」

「やべえよ、このままじゃ捕まっちまう!」

「ちい……おい、立て!!」

「きゃあああ!!」

 

 強盗は女性客の一人を立たせ、その頭に銃を突きつける。女性客は恐怖に泣き叫んでいるが、そんなことに構う連中ではない。

 

「や、やめてえ! お願い放して!!」

「うるせえ、大人しくしろ! サツから逃げられたら放してやるよ!!」

「ひいいっ……!」

 

 サイレンの音はもう随分近い。間もなく警察が到着する。

 だがそれよりも僅かに早く、強盗たちは銀行を出るだろう。

 

 警察に対する牽制として、人質を連れて。

 

 ――移動し易いように、一人だけ。

 

「……仕掛ける……」

「よし、行くぞっ」

 

 銀行の出入口付近に伏せていた己たちの横を通る瞬間を見計らい、一夏と二人、同時に立ち上がる。

 

 初撃は己から。先ずは人質を取っている者を狙う。

 

「あ!? てめ――」

 

 銃を持つ手をひねり上げ、同時に側頭に蹴りを叩き込む。一撃で意識を失い、崩れ落ちる強盗。

 

「なにを――」

 

 二人目。蹴りの際に振り上げていた脚で、そのまま踵落とし。脳天に直撃し、意識を刈り取る。

 

「このガキっ!!」

 

 残った三人が己に銃を向ける。だが、その背後には一夏が回り込んでいた。

 

「せいっ!!」

「がっ!?」

「ぐえっ!?」

 

 両腕で同時に正拳を繰り出す。後頭部に決まり、二人倒れた。

 一夏は残りの一人に殴りかかったが――

 

「うおおおおっ!!」

 ドンドンドンドンッ!!

「ちいっ」

 

 拳銃を乱射され、踏み込めなかった。銃弾はどうにかかわしたが、その隙に体勢を立て直された。

 

 仕留め損ねた最後の一人は、未だ伏せたままだった本音を引っ張り起こした。そしてこめかみに銃を突き付ける。

 

「う、動くな! 動けばコイツの命はねえぞっ!!」

「のほほんさん……!」

 

 友人を人質に取られ、一夏が戦慄する。

 

 そして、人質にされた本音は――

 

「きゃ~、こわ~い。助けて~いのっち~」

「「…………………………」」

 

 ……放っておいてもいいかもしれん。

 

「おりむーでもいいや~。た~す~け~て~」

「なんか今すっげえ失礼なこと言われた気がする……」

「私を救出して~、弾除けになってよ~」

「あからさま過ぎるだろっ!」

「てめえら、ふざけてんじゃ――」

 

 むにゅっ。

 

「「「「………………………………」」」」

 

 突然の沈黙。

 

 何が起きたのかと言うと、強盗の手が本音の胸に触れたのである。より正確に言えば鷲掴みにしたのである。

 故意ではなく、逃げられないようしっかりと抱え直そうとした結果のようだが――

 

「……お? へへ、なんだよお前、ガキのくせに結構いい乳してんじゃ――」

 ブチィッ!!!

 

 と、何かが切れる音が聞こえた。恐らく錯覚ではない。

 

「――おいで」

「「!?」」

 

 強盗からは死角となる場所に、銀色の球体が現れる。

 

 本音が如月重工から託された多機能型整備ユニット、〔十六夜〕全十機の同時展開だった。その内の一機が、風が逆巻くほどに回転しながら、強盗の頬に抉り込むように突き刺さる。

 

「ぐはあっ!?」

 

 戦闘用ではないとはいえ、直径三十センチ――人の頭並みの大きさの金属球だ。ヘビー級の威力があるだろう。

 

 その衝撃で本音の頭から銃口が外れる。そこを狙って十六夜がもう一機動き、拳銃を叩き落とした。

 

「な、な、なんだこれは!?」

 

 宙に浮く金属球の姿に、強盗が狼狽する。気付けば、十六夜は強盗を完全に取り囲んでいた。

 

「せくしゃるはらすめんとには~」

 

 にんまりと、本音がワラう。

 

 誰が見ても激怒しているのが丸分かりな笑顔だった。

 

「天罰が必要だよね~♪」

 

 そして、十機の十六夜が。

 

 強盗に、殺到した。

 

 

 

 ドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドムドム

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら~」

「ぎゃ、ぐえ、ぶひ、ぶぎょえええええっ!!」

 

 

 

 それは、あまりにも惨たらしい光景だった。

 

 十六夜のラッシュは全方位から叩き込まれているので、強盗は吹き飛ばされることはない。

 またたまに繰り出されるアッパーカットが、強盗に倒れることを許さない。

 

 延々と続く猛打により、覆面の下の顔は元の形が分からないくらいに腫れ上がっているだろう。

 

 

 

 ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ

「むだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだむだ~」

「ヤッダーバァァァァアアアアッ!!!」

「や、やめるんだのほほんさん! 強盗のライフはもう0だっ!!」

「……ちぇ~」

 

 一夏のレフェリーストップが入り、ようやくラッシュが止む。それと同時に、強盗はぐちゃりと崩れ落ちた。

 

「……うわあ……」

 

 一夏が呻くのも無理はない。覆面を剥がれた強盗の顔は、顔というより肉塊のようになっていた。

 

「……のほほんさん、恐ろしい子……」

 

 この出来事により、一夏の本音に対する印象が少し変わったことは言うまでもない。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 その直後、駆けつけた警察官により強盗犯たちは逮捕された。真改、一夏、本音は事情聴取のために警察署まで行き、終わった頃には日が沈んでいた。

 

 ちなみに何故ここまで長引いたのかと言うと、真改が無口過ぎて中々話が進まなかったこと、本音が若干過剰防衛気味だったことが理由として挙げられる。

 

「……結局」

「なにもできなかったね~」

「…………」

 

 金を下ろすことも出来なかったし、買い物も勿論出来なかった。銀行強盗事件に巻き込まれ、解決したら一日が終わってしまったのだ。

 

 三人は微妙に疲れた溜め息を吐きながら、IS学園への帰り道を歩いて行く。

 

「……明日……」

「ん~?」

「……また……」

「……うん。そうだね~」

「荷物持ちやるって言ったからな。買い物終わるまで、付き合うよ」

「お~、さすがおりむー、かっこいい~」

「…………」

 

 目的は、確かに果たせなかったが。

 

 しかし、それで良かったのかも知れない。

 

 友人たちと過ごす時間は、思っていた以上に、心地良くて。

 

 明日も同じ温もりを感じられるのなら。それはきっと、良いことなのだろう。

 

 いつも通りの無表情の下でそんなことを考えながら、真改は友人たちとの会話を楽しむのだった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……てことがあったんだよ」

「あっはははははははは!!」

 

 銀行強盗に巻き込まれた時のことを話したら、腹を抱えて爆笑しだしたのは鈴である。失礼なやつだ。

 

「笑い事じゃねえよ。大変だったんだからな、こっちは……」

「いやだって、強盗に巻き込まれてしかも解決するだなんて、B級映画の主人公みたいじゃない!!」

「それは言うな、自覚してるから」

 

 ちなみに、あの事件から一週間ほど経っている。事件の翌日は何事もなく買い物が終わり、シンは先日大量のお土産を抱えて孤児院へと帰って行った。俺は二次移行した白式のデータ取りやらなんやらで、学園に居残りである。

 そして食堂に朝食を食べに来たらたまたまみんなとタイミングが被ったので、一緒のテーブルで食べているのだ。

 

「けど中々出来ることじゃないよ。正義感が強いんだね、一夏は」

「いや、そーいうわけじゃないんだけどな……」

 

 シャルはそう言って誉めてくれるが、気恥ずかしくて素直に受けられない。

 だって正義感だぜ? そんなこと真顔で言われたら、体が痒くなっちまう。

 

「なんていうか、ほら、普段ISの馬鹿でかい銃向けられてるだろ? だから拳銃くらいじゃあまり怖くないんだよな」

「それは良くない傾向だぞ。いくら専用機持ちでも、ISを展開していない時はシールドバリアーも絶対防御も無いのだ。生身の体には、拳銃の威力でも十分な脅威だ」

「む……そ、そうだよな……」

 

 照れ隠しに言った言葉により、ラウラに叱られてしまった。

 だが確かにその通り、世界最強の兵器であるISも、展開していなければ意味がない。特に俺はここにいるみんなよりも展開速度が遅いのだから、咄嗟に展開しようとしても間に合わないこともあるだろう。

 

「まあ一夏さんほどの腕前なら、拳銃相手でもそうそう遅れを取ることはないでしょうが。

 ……ところで一夏さん、真改さんの買い物とは?」

「ん? ああ、あいつ最近家に帰ってなかったろ? だからみんなに土産持って行こうって考えたらしくて、それを買いに行ったんだよ」

 

 セシリアからの質問に答える。俺は事前にシンから聞いていたが、あいつのことだ、訊かなければ答えないだろう。他のメンバーは知らなかったようだ。

 

「……あの孤児院か。優しく温かく、それでいて厳しさもある、実に良い所だったな」

「そっか、箒はもう随分長いこと行ってないんだよな。えーと、六年前だから……今箒が知ってて残ってるのは、宗太と小夜くらいか?」

 

 あの二人は今のあそこでは最古参だ。シンがIS学園に居る間は、宗太と小夜が年長者である。他はみんな卒業してしまったし、あとは箒が引っ越してから入って来たので、面識があるのは彼らだけだろう。

 

「いのっちのお家か~。一回行ってみたいな~」

「頼めば連れてってくれると思うぜ。シンだって友達のこと紹介したいだろうし」

 

 あそこは結構大きいから、みんなで行っても大丈夫だろう。それにあそこにあるシンの花壇はかなりの力作だ。あれだけでも見に行く価値はある。

 

「そうだな。折角の長期休暇だ、一度訪ねてみるのもいいな」

「ええ、今度真改さんと相談して、皆さんの都合が合う日に行ってみましょう」

「うん、僕も賛成。……あ、そうだ。ねえ一夏、そこってやっぱり、シンが小さい時の写真とかあるの?」

「ああ、あるぜ。どれも仏頂面で写ってるけどな」

「「「「!!」」」」

 

 突然、セシリアとシャルとラウラとのほほんさんの眼の色が変わった。超怖かった。

 

「マスターの子供のころの写真か……」

「チビ真改さん……じゅるり」

「わあ、どんなだろうな~。シンって結構背が高いから、ちっちゃいシンはすごく見てみたいな~」

「うんうん、いのっちはかっこいいけど~、かわいいいのっちもいいよね~」

「…………」

 

 ヤバい、みんなシンの写真に興味津々だ。そして唐沢さんなら、頼めば喜んでアルバムを開くだろう。もしかしたら小夜のコレクションまで出てくるかもしれん。

 実は割と恥ずかしがり屋なシンはキレるかもしれない。そしてその原因が俺だと知れば、タダじゃ済まないだろう。

 

「シンの写真だけじゃなくて、一夏のもあるわよ」

「「「「!?」」」」

「ああ、確かに何度か一夏も一緒に写っていたな。あれがずっと続いていたのなら、結構な数があるんじゃないか?」

「え~っと……どうだろう、百枚くらいか?」

「「「ひゃ、ひゃく!?」」」

「一夏の写真がそれだけあるってことは……」

「マスターの写真はそれ以上か……!」

「百枚……一夏さんと真改さんの写真が、百枚……!」

「これは、是非行かねばなりませんな~」

 

 希望だったのが決定に変わるのが分かった。もはやどうしたところで、彼女たちを止めることは出来まい。

 

「しかしそれほどの付き合いですか。その孤児院の方たちとは随分仲が良ろしいのですね、一夏さんは」

「俺だけじゃない、千冬姉もあの人たちには昔から世話になってる。何度も遊びに行ってるしな」

「き、教官も? まさか、教官の写真もあるのか!?」

「ああ、数はあんま多くないけどな。高校時代のとかがあった筈だぜ」

「おお……!!」

「家族ぐるみの付き合いってやつだね。素敵だなあ」

「家族ぐるみっつーか、家族みたいなもんだよ。少なくとも俺はそう思ってる」

「おお~、ホントに仲がいいんだね~」

「……まあ、ずっと良かったわけじゃあ、ないんだけどな」

「「「「「?」」」」」

 

 思わず呟いた俺の言葉に、全員が訝しげな顔になる。

 この場で唯一事情を知っている鈴だけが、沈痛な面持ちをしていた。

 

「……じゃあ、今度みんなで行くか。シンに案内頼まなくても俺は場所知ってるし、なんならシンに黙ってサプライズで行くってのも――」

 

 と、そこで。

 

 俺の携帯が鳴った。

 

「うん? 誰から――って、宗太か。噂をすれば影ってやつだな」

 

 孤児院の料理担当からの着信だった。

 宗太からの電話自体は、シンの様子なんかを訊きにたまにかけてくるので珍しいことじゃない。

 

 だから俺は、特に不思議に思うこともなく、その電話を取った。

 

「もしもし、宗太? なんか『い、イチ兄かっ!? 大変なんだ!!』……どうした? 随分慌ててるな」

 

 電話越しの宗太の声は、かなり切羽詰まったものだった。

 あまりに大声だったので、他のみんなにも宗太の声が聞こえたのだろう。鈴のジェスチャーに従い、みんなにも聞こえやすいように携帯をスピーカーモードにする。

 

『だから、大変なんだよっ!! シン姉が――』

「――え?」

 

 なに?

 

 シン? シンが、どうしたって?

 

 突如告げられた名前は、予想外のモノではなかったが。

 

 それを伝える声からは、何故かひどく不吉な気配がした。

 

「……シンが、どうしたんだ?」

『シン姉が、シン姉が――』

 

 

 

 そして、全員が息を飲みながら。

 

 

 

 続く言葉を、待った。

 

 

 

『シン姉が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――お見合いすることになったんだよっ!!!』

 

 

 

「「「「「「「………………………………」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!?!?」」」」」」」

 

 

 

 ちなみにこの絶叫は、広大なIS学園の隅々にまで響き渡ったという。

 

 

 




強盗の一件はあっさりしすぎかもしれなかったですね。けどこの二人(ていうか真改)なら、相手が特殊部隊でもない限り無問題でしょうし。

さて、次回からはしばらくカオス回が続きます。苦手な方、嫌いな方は、タイトルがシリアスっぽくなるまでお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。