IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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さて、真改のお見合い相手は誰でしょうか。


第42話 OPERATION OMIAI BREAK(ブリーフィング編)

「ミッションを説明する」

 

 真改の義弟、宗太から驚愕の情報を手に入れた一夏たちは、場所を一夏の部屋に移し作戦会議を行うことにした。

 ブリーフィングを行っているのはドイツ軍最強の特殊部隊〔シュヴァルツェ・ハーゼ〕の隊長を務める、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐である。

 

「お見合い開始予定時刻は、本日のヒトヒトマルマル。作戦領域はここ、高級料亭〔いささぎ〕だ」

「この短時間でよくそこまで調べたな。宗太はお見合いがあることしか知らなかったというのに」

「ふん、この私が率いる精鋭部隊、〔シュヴァルツェ・ハーゼ〕を舐めるなよ。我らの情報収集能力を持ってすれば、この程度は朝飯前だ」

「もう朝ご飯終わってるけどね」

「いささぎは完全予約制で、当日申し込んでも間に合わん。だが買収とハッキングにより、我々全員分の予約を確保した。潜入は問題ない」

「流石は特殊部隊、やることが違うわね」

「当然だ。目的達成のために手段を選ぶ余裕があるほど、戦場は甘くない」

 

 突っ込み所が有りすぎる会話を大真面目にしながら、ブリーフィングは尚も続く。

 ラウラが手に持っている端末を操作すると、空間投影型ディスプレイに地図が表示された。

 

「これがいささぎの見取り図、及びいささぎ周辺の地形だ。各人、頭に叩き込んでおけ」

「狙撃に適しているのはこのポイントですわね」

「落ち着け、狙撃は最後の手段だ。先ずは相手を見極めなくてはならん。……敵なのか、味方なのかをな」

「敵に決まっていますわ。先手必勝、見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)ですわよ」

「セシリア、気持ちは分かる。皆の想いもお前と同じだ。だが作戦に私情を持ち込むな。それはどんな強敵よりも厄介な障害となる」

 

 そもそも作戦自体が私情によるものであることを、この場の全員が完全に忘れ去っていた。

 

「地形は把握したか? それでは敵性戦力の説明に移る」

「さっき敵か味方か見極めるとか言ってなかったか?」

「敵の主戦力はこの男、如月皐月だ」

「「「「「え!? 如月!?」」」」」

 

 あまりにも予想外過ぎるその名前に驚愕する一同。ラウラも忌々しげに顔をしかめながら、しかし声色だけは冷静にブリーフィングを続ける。

 

「ああ。この男はあの如月重工社長の従兄弟だ。歳は離れているが」

「「「「「あ……悪夢だ……」」」」」

「まったくだな。だがいくら絶望的な状況だからといって、それを嘆いている暇はない。たとえ僅かでも、希望がある限り我々は前に進まなければならん」

「ラウラ……うん、そうだね。僕たちが諦めちゃダメだよね」

「その通りだ。……それでは、如月皐月の詳細に入る」

 

 ラウラが再び端末を操作すると、ディスプレイに若い男の写真が映し出された。

 

「……けっこうハンサムじゃない」

「如月皐月、年齢26歳、身長186センチメートル、体重75キログラム。東京大学を首席で卒業し、現在はクレスト・インダストリーに勤務、早くもプロジェクトを一つ任され、数日前に成功させた出世頭だ」

「クレスト・インダストリーって、超一流企業だよね……」

「入社するだけでも相当なモノだが、この若さで既に頭角を現しているか……」

「エリート中のエリートですわね……」

 

 今のところ非の打ち所のない如月皐月のプロフィールに皆が戦慄する。

 お見合い相手の思わぬハイスペック振りに動揺が広がる中、一夏は真改のルームメイトに意見を訊こうと考えた。彼女のマイペースはこういう時にとても頼りになる。きっと敵に呑まれかけている場の雰囲気を和らげてくれる筈だ。

 

「なあ、のほほんさんはどう思う?」

「やだなあもうおりむーったらいつまでこんなところにいるの早くいのっちのお家に行こうよああ楽しみだなあちっちゃいころのいのっちの写真かわいいんだろうなあそれにいのっちのお義父さんにも挨拶しなきゃだしいのっちの弟さんとか妹さんがどんな子か会ってみたいし昔のいのっちの話訊いたりしてみたいしああ本当に楽しみだなあ楽しみ過ぎて困っちゃうなあこんなに楽しみなことが一杯あるだなんて私って幸せ者だよねえうふふふふふふふふふあはははははははははははははは」

「うわああああっ!!? のほほんさんが壊れてるぅぅぅぅっ!!?」

「気をしっかり持て本音! 傷は浅いぞっ!!」

「ほら見てすごく綺麗なお花畑があるよきっといのっちが育てたんだねさすがだなあいのっちどのお花も元気一杯に咲いてるね見てるだけで勇気が湧いてくるよきっとこの子たちもいのっちのこと大好きなんだねだってこんなに一生懸命咲いてるんだもんいのっちにそっくりだよ子供は親を見て育つって言うけどお花も同じなんだね毎日世話してくれるいのっちのことちゃんと見てるんだよあはははははそれじゃあいのっちはこの子たちのお母さんだねあれれということはお父さんは誰だああああああああっ!!!」

「ああ、完全に暴走してるっ!!」

「本音えええええええええっ!!!」

「メディック!! メディィィィィィィィック!!!」

 

 混乱が致命的なレベルにまで拡大した。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「ほらいのっち~、ここ座って~。髪梳くよ~。今日もいのっちの髪は綺麗だね~、こんなに長くて綺麗なんだから、リボンとかすればいいのに~。あ、そうだ、私の髪飾りあげるよ~。とびっきりかわいい、私のお気に入りだよ~。え? そんな大事な物を貰えないって? そんなの気にしなくていいんだよ~、私があげたいんだから~。ほら、してみて~、わあ、かわいい~! すっごく似合ってるよいのっち~! てひひ、私もこれ着けよう~っと。これでお揃いだね~。てひひ、いのっちとお揃い、お揃い~あはははははははははははは」

「本音さん……なんと痛ましい……」

「あたしがいながら、こんなことになるなんて……!」

「くうっ、のほほんさん……!」

 

 部屋の隅っこで膝を抱えて虚ろな眼で虚空に話し掛ける本音の姿に、皆が涙を流す。

 そんな中で作戦指揮官であるラウラは静かに眼を閉じ、一瞬だけの黙祷を捧げる。

 そしてキッと眼を開き、語り出した。

 

「……諸君。悲しむのは後だ。今は作戦に集中しろ」

「……ラウラ、てめえ。のほほんさんがこんなになってるのに、言うことはそれだけかよ!?」

「言った筈だ、作戦に私情を持ち込むなと。我々には倒れた者を気にかけている余裕はない。残った者だけで、作戦を遂行しなければならん」

「ちょっと! 言い方ってもんがあるでしょ!?」

「見損なったぞ、ラウラ……!」

「仲間を見捨てるのが、ドイツ軍のやりかただと言うのですか!?」

「ラウラ、君だって本音の友達でしょ!? そんなことを――」

「私が何も感じてないとでも思うのかっ!!」

「「「「「!!?」」」」」

 

 口々にラウラを非難し出した隊員たちを、その小さな体からは想像もつかない声量で一喝する。

 

 その目尻には、全身から溢れる覇気には似合わぬ、涙が。

 

「本音は私にとっても大切な友人だ。かつての仕打ちを謝罪した時、彼女は笑って私を赦してくれた……!」

「「「「「…………」」」」」

「今でも鮮明に覚えている。あの笑顔の眩い輝きを、その温もりを! そして本音は私の手をとり、優しく包み込んで、日溜まりのような声でこう言ったのだっ!!」

 

『これで仲直りだね~。じゃあ次は、お友達になろ~?』

 

「分かるかっ、その時私がどれほどの衝撃を受けたか、どれほど救われたかっ!! あの瞬間から、本音は私の親友となったのだ……!!」

「ラウラ……」

 

 ラウラの涙は止まることなく、滝のように流れ続ける。だがそれすら意に介さずに、ラウラは魂からの言葉を続けた。

 

「その本音が倒れた。見るも無惨な傷を負って。だが眼を逸らすな、彼女の姿から。そして聴け、その言葉をっ!! 本音はこれほどまでに傷付いても、尚マスターを案じている……!」

「あ、おかえり~いのっち~。今日はちょっと遅かったね~。え? 剣道部行ってきたの? それじゃあ試合してきたの? なんだ~言ってくれれば応援に行ったのに~、もう水臭いな~。それじゃあシャワー浴びといで~。あ、私も一緒に入ろっかな~。え? ダメ? もう~遠慮しなくていいのに~、ほら背中流してあげるから~。え? 無用? ぶ~ぶ~、ちょっとくらいいいじゃん、もう、いのっちは恥ずかしがりやさんだな~。あ、それじゃあ私が背中流してもらおっかな~あはははははははははははは」

「本音……」

「そこまで、シンのことを……」

「そうだ、本音にとってマスターはただのルームメイトではない。互いに心を許し合い、鋼が紙切れに思えるほどに固い絆で結ばれた親友同士なのだ。

 その本音が倒れた。志半ばで、多大なる無念を遺して。なら我々がすべきは、その本音の周りに蠅のように集り、ただやかましく嘆くことか?」

「……いや、違う。そんなんじゃねえ、俺たちには、やらなきゃならないことがある」

「そうだ、倒れた者を悼み祈りを捧げるのは後だ。それはしっかりとした場を設け、厳粛な儀式の下に行われるべきだ。戦場という穢れた場でやるべきことではない」

 

 ちなみに一夏の部屋はかなりすっきり片付けられており、穢れとは無縁である。

 

「では今すべきことはなんだ? 戦場における手向けとはなんだ? 

 ……決まっている。作戦成功、即ち勝利の報告、ただそれだけだ。倒れた者を敗者にするなど許されない。あいつは勝利の為の礎となったのだと、あいつがいたから私たちは勝てたのだと、いつかそう語り継げるよう、全力を尽くすことだけだ」

「ラウラさん……」

「それでも諸君らがまだ泣き足りないというのなら、それも構わん。赤子のように泣いていろ。負け犬のように鳴いていろ。

 ……だが、私は戦う。たとえ一人でも、戦い抜く。刺し違えてでも、本音の無念を晴らしてみせる。それが本音の友人として、真友会の同志として、私が出来る唯一の手向けだからだ」

「……そうだな、その通りだ。俺たちが間違ってたよ、ラウラ」

「ああ。仲間の墓前に供えるべきは、敗北の涙ではない。勝利の酒だ」

「……ごめんなさい、本音さん。今はあなたを置いて行きます。ですが必ず、真改さんを連れ戻してみせますわ……!」

「誓うよ、本音。僕らは最後の一人まで、全身全霊を懸けて戦い抜くって」

「さあ、ブリーフィングを続けて、ラウラ。情報を制するものが戦を制す、でしょ?」

「うむ。それではいよいよ、作戦の概要に入る。一言一句聞き漏らすな、質問及び意見のある者は挙手しろ。そして全て理解し、全て記憶しろ。それが――勝利への、第一歩だ」

「「「「「応っ!!」」」」」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「それでは先ず、役割分担からだ。目標への接近は、一夏と鈴に任せる」

「へ? 俺たち?」

「マスターは気配の察知能力に優れている。並の者では近付くことも出来ん。だがお前たちはマスターの癖を熟知している。それは大きなアドバンテージだ」

「なるほど、確かにシンが周りを警戒する時のパターンなんかは、ある程度は知ってるからね」

「待て、それなら私も知っているぞ」

 

 同じ幼なじみなのに自分だけ外されたからか、それとも一夏と鈴のペアを危惧してか、箒が待ったをかける。だがそれを、ラウラは冷静に諫めた。

 

「箒、確かにお前もマスターの幼なじみだが、少々ブランクが空き過ぎている。お前の力を疑うわけではないが、不安要素は極力排除しなければならない」

「……分かった。ここは引き下がろう」

 

 これにはラウラも驚いた。てっきり箒はもっとごねると思っていたからだ。

 

「ほう? 随分物分かりがいいな」

「作戦に私情は禁物なんだろう? 勝利のためだ、仕方ない。……頼むぞ、一夏、鈴」

「……任せとけよ」

 

 箒の信頼の眼差しに、一夏は力強く頷いて答えた。箒の頬がちよっと赤くなったことには気付かなかったが。

 

「相手はあのマスターだ。最大限注意し、必要以上には絶対に近付くな。息を殺し、足音を殺し、気配を殺し、周囲に溶け込め。背景やオブジェクトだけではない、他の客たちさえも利用しろ。森の中ならば、木の葉も隠しようがあるだろう」

「わかった、任せなさい」

「ガキの頃にシンとの隠れん坊で鍛えた隠行、見せてやるぜ」

「隠れるのに見せてやるとはこれいかに、とか言わないよね?」

「………………………………言わねえよ」

 

 シャルの先制攻撃により出鼻を挫かれた一夏はしょんぼりした。

 

「作戦前に士気を下げるな。……二人はマスターに気取られないギリギリの距離から動向を窺い、会話の内容を逐一報告しろ。相手の人格を見極めるためには最も重要な役割だ、しくじるなよ」

「そういえば、警戒するのはシンだけでいいのか? 相手の方は?」

「如月皐月は武術を修めてはいない。マスターが気付かない気配に、この男が気付くとは思えん。だが視界には入るなよ、如月皐月本人には怪しまれなくとも、如月皐月の瞳に映った姿からお前たちに気付くくらいのことはやってのけるぞ、マスターは」

「了解、気をつける」

 

 そんな馬鹿なと思うかもしれないが、皆の中での真改はほとんどビックリ人間という認識であった。

 

「では次、箒とシャルロットは周囲の警戒を行え」

「周囲?」

「マスターたちからは隠れられても、店内にいる全員の目からは隠れ切れない。客や店員に行動を怪しまれれば、そこからマスターに感づかれるおそれがある。それを防ぐために、一夏と鈴のサポートをしてくれ」

「なるほど、要は見張りだね」

「そういうことだ。細かいことにも気が回るシャルロット、長く剣道を続け勘が鋭い箒、お前たちにしか出来ない任務だ」

「……分かった。全力であたらせてもらう」

 

 そんな遣り取りを眺めながら、ラウラも人を乗せるのが上手くなったなーなんてことをシャルロットは思った。

 

「最後に、セシリア。私と一緒に来い」

「役割は?」

「私は後方から状況全体を見渡し、全員に適宜指示を出す。そしてお前は私が指定するポイントに着き、準備しておけ」

「なんの準備ですの?」

「決まっている、狙撃だ。如月皐月が不埒な真似をした場合――構わん、射殺しろ」

 

 とんでもないことをさらりと言ってのけるラウラ。最後の手段は割と早い段階で実行されそうである。

 

「――お任せを。必ずや、一発で仕留めてご覧に入れますわ」

 

 そしてセシリアは、瞳を潤ませ片手を胸に当てながら、うっとりとした様子でそう答えた。その姿はとても十代とは思えないほどに妖艶だった。

 

「全員、各々の役割は把握したか?」

「「「「「応っ!!」」」」」

「いいか、この作戦は一人一人が自らの役目をまっとうするだけでなく、全員が全員の役目を理解しお互いの穴を埋め合わなければ、成功は有り得ない。そして我々に、失敗は許されない」

 

 ラウラの言葉に全員が表情を引き締める。その身体から発せられるオーラは、まさしく軍人のそれであった。少佐の階級は伊達ではないと、声に出さずとも全員が感じていた。

 

「最終確認を行う。ミッションの目的は、我がマスター、井上真改のお見合いの偵察。お見合い相手、如月皐月の人格を検証し、マスターに相応しくない俗物であった場合はお見合いを妨害、それ以前の下衆であった場合は対象を撃滅する。

 ……総員、認識に相違はないか?」

「「「「「サー、イエッサー!!!」」」」」

 

 特に練習したわけでもないのに、全員ビシッと敬礼が決まった。

 ちなみに「サー」という呼称は男性に対し用いるものなのでこの場合は適さないが、そこは雰囲気である。

 

「……マスターはどう贔屓目に見ても恋愛経験豊富とは言い難い。だからと言ってクズに騙されるほど愚かでもあるまいが、それでも万一ということがある。我々のサポートが必要だ」

 

 この場にいる全員も恋愛経験などほとんど無いが、それを突っ込む者も皆無であった。

 ボケばかりが集うブリーフィングは、ノーブレーキどころかアクセルを踏み抜いているかのように際限なく加速しながら、明後日の方向に突き進んで行く。

 

「皆も知っている筈だ。臨海学校の折、我々が無理矢理に聞き出した、マスターが好いている者のことを」

 

 その時一夏はその場に居なかったが、後に皆から聞いている。

 

 真改の、好きな者は「故人」という言葉を。

 

「どのような人物だったのか。どのような関係だったのか。……マスターの言葉からは、詳細までは分からない。だがあの様子から、マスターが今も尚その者を想い続けていることは容易に想像出来る」

「ええ……あの時の真改さんは、とても悲しそうでしたわ」

「いつ知り合ったのかも分からないけど、シンはそいつのことが本気で好きだったんだな」

「私も、そんな話は聞いたことがなかったが……」

「けど、シンは中学では結構モテてたのに一度も付き合おうとはしなかったわよ。何人かはそれなりに仲がいいヤツもいたのに」

「……きっと、すごく一途なんだよ。シンらしいね」

 

 事実は想像の枠を遥かに超越した内容なのだが、それを知る者はいない。

 

「マスターの想いを穢すことだけはあってはならない。マスターが何故今回のお見合いを受けたのかは不明だが、しかし如月皐月のプロフィールを見る限り、無理矢理お見合いの場に引っ張り出すことも可能だろう。

 ……許せるか? こんな非道が」

「「「「「否っ!!」」」」」

「私も同じだ。許せる筈がない。ならば我々がすべきことはなんだ? 大恩あるマスターのために、我々がしてやれることはなんだ?」

「決まってるだろ。……シンを、守るんだ」

「やらせはせん。たとえ、如月重工と全面戦争になろうともな」

「シンにお見合い話持ち掛けるってのに、このあたしを通さないなんて良い度胸じゃない」

「真改さんのためならば、わたくしはマクミ○ン大尉さえ超えられますわ」

「シンは僕を助けてくれたし、色々なことを教えてくれた。いい加減、恩返しをしないと」

「そうだ、我々のすべきことはただ一つ、井上真改を守ること。

 ……マスターがあの変態の親戚になることだけは、なんとしても防がねばならん」

 

 そう、如月皐月が如月社長の従兄弟であるということは、万一真改と結ばれた場合、想像するだけで怖気が走るような事態になるのだ。

 

 全員が全員、それを危惧しているのだった。

 

「いいかっ! 我々に退却は許されない! 何故なら我々の後ろには、命に代えても守らねばならぬモノがあるからだっ!!」

 

 今までで一番の大声を出すラウラに、全員が居住まいを正す。キリッとした闘志に満ち溢れる眼で見据えているのは、これより赴く戦場、そしてそこに待ち受ける怨敵である。

 

「退がっても死ぬ! 進んでも死ぬ! ならば一歩でも多く前に出て死ね!! 奴らに教えてやれ、我らの命は奪えても、魂まで穢すことはかなわぬとなっ!!」

 

 夏の暑さに頭をやられたとしか思えないテンションで、ラウラの演説は続く。

 

「倒れた者は置いて行け! たとえそれが愛する者であってもだ!! その屍を道とし、ただひたすらに前へ進め! 前へ! 前へ!! 前へっ!!!

 そして誰か一人でもいい、敵の懐へ辿り着き、その牙を喉笛に突き立ててやれっ!!!」

「「「「「おおおおおおおおおっ!!!!」」」」」

 

 近くの部屋から苦情が来そうなくらいの怒号だったが、みんな怖がって部屋に近付こうとさえしなかった。

 

 故に、この狂行を止める者は誰もおらず。

 

「――往くぞっ!! 総員、出撃っ!!!」

「「「「「サー!! イエッサー!!!」」」」」

 

 最後まで方向性を間違えたまま、身勝手な私情による作戦が開始された。

 

 

 




 送り込まれた如月社長からの刺客!
 その方面ではほぼ無力な真改を守るべく、真友会精鋭部隊が出撃する!
 果たして、彼等のミッションの成否は……!?

如「ふはははははははっ! 邪魔はさせないよ、諸君!!」
一「な、こんなの情報になかったぞ!?」
箒「ええい、なんのためのブリーフィングだ、馬鹿馬鹿しいっ!!」



 次回っ! 「待ち受ける変態の罠」!! 乞うご期待!!

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