IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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如「たとえ新刊が落ちようと!」
網「いずれ第二、第三の新刊が!」
如「「具体的には冬とかにっ!!」」網
秘「仕事してください」
如「「はい」」網


第53話 舞闘

「あなた、私の妹を……簪ちゃんを泣かせたそうね」

「……?」

 

 ……はて、なんのことか。まったく心当たりがないのだが。

 

「…………」

 

 楯無会長の妹……更識簪、という名だったか。今日初めて聞く名だ。本音はその簪嬢の専属従者らしいが、会ったことはない。

 

「……身に覚えがない、て顔ね」

「…………」

 

 実際にないのだから仕方あるまい。突然そんなことを言われて戸惑っているくらいだ。

 

「……ふう。虚ちゃん、例のものを」

「はい」

 

 楯無会長の指示を受け、虚先輩が生徒会室の空中投影ディスプレイを起動する。そうして表示されたのは、寮の裏手で己が鍛錬をしている映像だった。

 

「IS学園には警備の都合上、各所に防犯カメラが仕掛けてあるの。もちろん、プライバシーの侵害にならないようには注意して配置してあるわよ?」

「…………」

 

 それは知っている。IS学園には国家規模の機密も多くあるので、これは必要不可欠なことであると全員が理解している。故にこの映像があることはなんの問題もなく、それを生徒会が閲覧出来るということにも文句はない。

 

 だが己がここで鍛錬をすることは珍しくない。映像だけではいつのことか――

 

「……ぬ……」

 

 ――ふむ。己の右手に包帯が巻いてある。どうやら臨海学校後、それほど時間の経っていない頃の映像のようだ。

 

「ほら、これからよ」

「…………」

 

 ふと、画面内に一人の少女が映り込む。水色の髪は内ハネの癖毛で、体つきは華奢。後ろ姿なので顔は分からないが、どうやら眼鏡を掛けているようである。

 

 ……なんとなく、思い出して来た。

 

『あ……あの……』

 

 少女は十分ほど己の鍛錬を眺めた後、躊躇いがちに声を掛ける。その声に反応して少女に振り向いた己の眼は、お世辞にも良い眼とは言えなかった。

 

『ご……ごめんなさい……なんでも、ないです……』

 

 その眼に睨まれた少女は蚊の鳴くような声で呟いて、早足で逃げ去って行く。振り返った際に映った顔は、印象こそ違うものの造りは楯無会長に似ている。どうやらこの少女が、楯無会長の妹である簪嬢に間違いないようだ。

 

「……見た?」

「……見た……」

 

 ……確かに、これは実際にあったことだ。簪の目尻に涙が浮かんでいることも確認した。そしてそれが己と目が合ったことによるものだろうことは誰が見ても明らかだが、しかし――

 

「泣かせたわね?」

「…………」

 

 ……今のは己のせいなのか? 確かに少し……いや、結構………………かなり、目つきが悪かったが。それでも、呼ばれて振り返り目が合った、それだけのことだ。これはむしろ、それだけで泣かれた己の方が傷ついて然るべきなのではないか?

 

「泣かせたわね?」

「……否「泣かせたわね?」………………」

 

 話を聞く気は無いらしい。有無を言わさぬごり押しで、己のせいにしようとしている。

 

「あー、なんてかわいそうな簪お嬢様。こんな恐ろしい目に遭うだなんてー」

「……………………」

 

 さらには虚先輩による棒読みの追撃。……なんというやる気の無さだ。

 

「かんちゃ~ん。およよ~」

「…………………………」

 

 本音、それは泣き真似のつもりか? せめて笑顔を隠す努力くらいしろ。

 

「と、言うわけで。私は簪ちゃんの姉として、あなたを許すわけにはいかないわ」

「………………………………」

 

 顔も声色も相変わらず威圧感を持っているのだが、それがかえって滑稽だった。

 ……いや、もしかして敢えてそうしているのか? わざとなのか?

 

「それじゃあ、ついてらっしゃい、真改ちゃん。私たちの因縁に、決着を付けましょう」

「……………………………………」

 

 ……なんだろう、チンピラに絡まれたような気分だ。それよりも遥かに質が悪いが。

 

 まあ、まさか本気でこんなことを言っているわけではないだろうが……そう願うが、しかし本当の目的は分からない。その真意を探るために、気は乗らないが、大人しく付いて行くことにした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「一夏! 大変だ!」

「ほ、箒? どうしたんだ?」

 

 俺が日課であるISの訓練をしようと準備していると、ピットに慌てた様子で箒が駆け込んで来た。肩で息をしている幼なじみを落ち着かせ、何が起きたのかを訊く。

 

「そ、それが……真改が生徒会長に勝負を挑まれたんだ!」

「……は?」

 

 ……なんだそれ。いきなり過ぎて意味が分からん。

 

「とにかく、剣道場に来てくれ! 他の皆はもう集まっている!」

「え、ちょ、箒!? ……ああもう、なんなんだよ一体……!」

 

 返事も待たずに駆け出した箒を追い掛けて、剣道場に向かう。そこには結構な人が集まっており、随分と賑やかなことになっていた。いつものみんなと固まっている箒を見つけて、訊ねる。

 

「箒、なんなんだよ一体?」

「分からん。突然生徒会長が真改を連れてやって来て、組み手をするから剣道場を貸してくれ、と」

「は? そりゃまたどうして」

「だから分からんと言っている」

 

 どうやら本当にいきなりのことらしい。箒だけじゃなく、他のみんなも困惑しているようだ。

 

「それで、シンは?」

「今着替えている。そろそろ――む、来たぞ」

 

 その言葉に視線を向けると、更衣室からシンと更識楯無生徒会長が出てきた。二人とも、柔術家が着るような袴姿をしている。その二人の姿に、集まった人たちがおおっ、とどよめく。それに笑顔で手を振る生徒会長とは対称的に、シンはどうにもやる気がなさそうだ。

 

「さて、それじゃあ真改ちゃん。始めましょうか」

「……ふぅ……」

 

 溜め息を一つ吐いて、シンは半歩、右足を横に開いた。全身の力を適度に抜き適度に緊張させた、相手の行動に素早く対応できる状態。だが構えを取らないあたり、本当にやる気がないようである。

 

 ……よっぽど不本意な勝負らしい。シンは戦闘狂ではあるが、しかし無益な戦いは好きじゃないのだ。

 

「……生徒会長、相当出来るな」

「ああ、全然隙がない……というより、掴みどころがない。なんていうか、水みたいな感じだ」

 

 生徒会長もシンと同じような体勢だが、纏う気配がまるで違う。どう攻めればいいのか見当も付かない。するりと受け流される様しかイメージ出来ないのだ。

 

「さあ」

 

 そこから、一歩踏み出して。

 

「行くわよ」

 

 次の瞬間には、既に間合いに踏み込んでいた。

 

「な!?」

「速――!」

 

 動き出しがまったく見えなかった。他のみんなも驚いているところを見ると、ラウラにすら反応出来なかったらしい。

 生徒会長はその勢いのまま、シンの顎目掛けて最短距離を真っ直ぐに、拳を走らせた。

 

 あそこに立っているのが俺だったら、この一撃で勝負は決まっていただろう。だがシンは、上体をほんの少しだけ捻ってそれをかわした。

 

「あら、流石ね」

「…………」

 

 至近距離で目が合う二人。生徒会長はにこりと笑い、シンは眉をしかめる。

 

「それじゃあ、これはどう?」

「……っ!」

 

 そこから始まる、怒涛の猛攻。拳打、掌打、手刀、貫手、蹴り、掴み。攻撃の継ぎ目が存在しない、流れるような連撃。

 それを、シンは紙一重で避け続ける。

 

「これは……どちらも凄まじいな」

「ええ……真改さんの強さは知っているつもりでしたが……」

「うん……これは、勝てる気がしないね」

 

 凄いのは攻撃の激しさだけでなく、それを一分以上続けているのにまるで息が乱れていないことだ。無駄な動きが一切ないから、体力の消耗も最小限なのだろう。

 

 ……まあ、それを全て見切っているシンも大概だが。

 

「これも凌ぐの。ふふ、凄いわね、真改ちゃん」

「…………」

 

 感心したように言う生徒会長。その間も攻撃は止んでおらず、その激しさは増す一方で、さらに連撃の回転を上げていく。

 その速さは、もはや手足どころか身のこなしすら目で追い切れないほどだ。

 

「全然攻めないのね、真改ちゃん?」

「…………」

「しょうがないなあ。それじゃその気になってもらえるように、おねーさん頑張っちゃおうかしら」

「……っ!」

 

 鋭く踏み込み、拳を繰り出す――かと思いきや、踏み込んだはずの脚で足払いを仕掛けた。シンが片足を小さく持ち上げてそれをかわすと、脚が翻って戻り、残った片足を狙う。

 

 シンはそれを、跳んでかわし――両脚が、地面から離れた。

 

「いただき♪」

 ヒュンッ。

 

 シンを追うように、生徒会長も跳び上がる。くるん、と横に一回転し、突撃槍(ランス)のようなソバットがシンの顔目掛けて繰り出される。

 

 ズドンッ! と重い打撃音が響き、シンが大きく吹き飛ばされた。

 

「真改さんっ!」

 

 セシリアの悲鳴のような声を聞きながら、俺は戦慄していた。

 

 ――今の一撃は、まずい。

 

「……まずいわね」

「……まずいな」

「ああ……完全に、入っちまった」

 

 鈴と箒も分かっているようで、呻くように呟いた。その声に、ラウラとシャルが不思議そうな顔をしている。

 

「確かに危なかったけど、ちゃんと防いでるよ?」

「え!? ……ほっ。良かった、間に合ったのですね……」

「今の一撃は入っていないぞ。お前たちに見えなかったとは思えないが……」

 

 シンは顔の前に腕を翳して、ギリギリのところでソバットを防いでいた。当然、それは見えていたが――

 

「いや、そうじゃなくって」

「私たちが入ったと言ったのは――」

「シンの――スイッチさ」

「「「!?」」」

 

 シンが、翳していた腕を降ろす。防いでもダメージが貫通したのだろう、口の端からは僅かに血が流れていて。

 

「「「な……」」」

 

 その口は。

 

 まるで、研ぎ澄まされた刃に浮かぶ、波紋のように。

 

 ――うっすらと、笑みを形作っていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 非礼を詫びよう、更識楯無。

 

 己は、貴女を侮っていた。ISならば勝ち目はないだろうが、生身であれば所詮は十代の少女、どうとでもあしらえるだろう、と。

 

 なんという傲慢、なんという自惚れか。見ろ、彼女の技の冴えを。才に優れ、そしてそれを見事に練り上げている。

 一夏や箒のような、荒削りながら次第に磨かれていく技を見るのとはまた別種の楽しみ。

 

 ――これほどまでに刃応えのある相手は、久しぶりだ。

 

(……ならば……)

 

 楽しませてもらおう。なに、貴女ならば多少加減を違えたところで、大した怪我は負うまい。それに元々そちらから仕掛けて来たのだ、文句はなかろう?

 

(……では……)

 

 始めるとしようか。

 

 ――闘いを。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

(あちゃあ……これは、見誤ったかも)

 

 強いとは聞いていた。実際に会って、噂以上だと感じた。

 

 けれどそれさえも、彼女の力のほんの一部に過ぎなかった。能ある鷹は爪を隠すと言うけれど、本当に有能な鷹は爪を隠すのも上手いようだ。彼女の強さは、普段の様子からでは絶対に気付けないだろう。

 

(私も全然気付けなかったしね……)

 

 目の前にいる少女を見る。ほんの少し前までとは纏う空気がまったく違う。さっき見せたコワい笑顔は一瞬で引っ込めてしまったけれど、それでも剃刀のように鋭い威圧感を放ち続けている。

 

(まいったなあ……)

 

 ちょっと事情があって、一夏君を鍛える必要があるからコーチを買って出ることにしたのだけど、その前に一夏君の幼なじみで剣の師匠である真改ちゃんの実力を見ておこうと思ったのだ。まあ、簪ちゃんのことも半分くらいは本気だったけれど。

 ついでに私が勝てば話も進めやすくなるだろうと考えたのだけど、その考えは浅はかに過ぎたようだ。

 

「…………」

 

 真改ちゃんが、左足を踏み出す。大きく、一歩。

 その左足に重心を移し、前傾姿勢を取る。右腕を持ち上げ、右手を目の横に。

 

 ――霞の構え。私に真っ直ぐに向けられた右拳が、まるで刀の切っ先に見える。

 

 攻めの気配を隠そうともしないその姿は、こうして相対していても、恐ろしさよりも先に清々しさを感じさせた。

 

「……いざ……」

「っ!」

 

 音もなく、真改ちゃんが踏み込んで来る。間合いに入ると同時、握り締められた右拳を、真っ直ぐに打ち込んで来た。

 

(速いっ!)

 

 かなり際どいタイミングだが、しかしどうにか避けられそうだ。そして左腕の無い真改ちゃんは、手による連撃には限界がある。脚による攻撃も得意らしいけど、しっかりと踏み込んだ後では一瞬だけ出すのが遅れるから対応出来る。

 この隙に、反撃を――

 

「疾っ……!」

「な!?」

 

 拳を避けた瞬間、腕が折り畳まれて肘打ちが繰り出される。なるほどこれなら、両手を使った連撃よりもよほど速い。

 

 だけどこんなの、相手がどう避けるかまで完全に見切っていないと、出来る筈がないのに――!

 

「くうっ!」

 

 首を捻ってどうにかそれもかわすが、今度は畳んだ腕を一気に広げての裏拳。これをかわすことは出来ず防御したが、衝撃が骨を軋ませた。

 私の動きが止まり、真改ちゃんは蹴りを放った。寒気がするような風切り音と共に迫る脚を身を屈めてかわして、後ろに跳んで距離をとる。

 

(なんとか体勢を――!?)

 

 ……居ない。そんな、気を逸らしてはいないのに、一体どこに――!?

 

(……上っ!?)

 

 信じられない。なんて跳躍力、完全に頭上を取られた!

 

「疾っ!!」

 ゴウッ!

「くっ!」

 

 縦に回転しながらの、強烈な踵落とし。こんなのを受ければ腕ごと頭をかち割られる。だから退がって避けるしかなかったのだけど、恐ろしいことに真改ちゃんは空振りした勢いのままにさらに一回転して、二撃目の踵落としを放ってきた。

 

「つあっ……!」

 

 ……危なかった。今のは本当にギリギリだった。

 それでもどうにか避けられた。これほどの大技を外して、真改ちゃんも流石に体勢を崩している。今の内に仕切り直しを――

 

「!?」

 

 ――足が、動かない。突然のことに、つい視線を落としてしまう。

 

 そして、分かった。何故足が動かないのか。

 

 真改ちゃんは、踵落としを空振りした足で、足の指で、私の袴の裾を掴んでいた――

 

(まさか……あの大技が、ただの目眩ましだなんて……!)

 

 これでもう、逃げられない。だから攻められる前にこちらから攻めて、真改ちゃんの拘束を振り解くことにした。

 

「ふっ!」

 

 掌打を放つ。今の真改ちゃんは片足立ちの不安定な姿勢だし、この至近距離だから、回避も防御も簡単ではない筈。

 

 だけど――

 

「……っ!」

 

 突き出した腕を取られる。その反射神経に驚いている隙に軽く引かれ、思わずそれに抵抗するように、引かれた腕に力を入れた。

 

 ――入れて、しまった。

 

「っ!?」

 

 その瞬間に、引かれた腕を今度は押され、同時に掴まれている足を払われた。上半身に後ろ向きの、下半身に前向きの力を加えられて、ストンと床に倒された。

 急いで立ち上がり、同時に腕を振り解く。だけど、どちらも出来なかった。そうしようとして力を入れた瞬間、体がふわりと浮き上がったからだ。

 

 立ち上がろうとする力。振り解こうとする力。それらを取られた腕から操作されて、全て上向きの力に変えられたのだ。

 

(これは……まずい……!)

 

 空中では思うように身動きがとれない。高々と放り上げられたこの状態はかなり危険だ。

 せめて真改ちゃんの動き出しを遅らせるために、牽制を――

 

「っ!?」

 

 気付いた時には、遅かった。

 

 真改ちゃんは、私を投げた次の瞬間には、私の真下まで踏み込んでいて。

 

 固く握った拳を、鳩尾に――

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 シンが最後の一撃を放とうと、生徒会長の懐に踏み込む。しかし生徒会長もただではやられず、その一撃に合わせてカウンターで拳を叩き込み、シンを突き放した。

 

「ぬ……!」

「っと、とっと……」

 

 こめかみに一撃を受け仕留め損ねたシンと、どうにか無事に着地した生徒会長。

 再び距離が離れた二人は、そのまま数瞬睨み合う。

 

 そして――

 

「う~ん。ごめんね、真改ちゃん。身に付いた習慣で、つい手が出ちゃったわ」

「…………」

「私の負けよ。最後の一撃、あなたが止めてくれなかったら、今頃胸に風穴が空いてるもの」

「…………」

 

 生徒会長の言葉を受けて、シンも気配をいつもの調子に戻す。どうやら、生徒会長の言うことは本当らしい。

 

「いやあ、強いわね、真改ちゃん。おねーさん、自信なくしちゃうなあ」

「…………」

 

 ニコニコしながらシンを誉める生徒会長に、呆れたような視線を返す。本気で言ってるのかどうか、この人はイマイチ読めない。

 

「それじゃあ、汗かいちゃったし。戻りましょうか。お茶をご馳走するわ」

「…………」

 

 そう言って、生徒会長はシンをつれて去って行った。

 

 ……え~。これだけ集まったギャラリーは無視かよ……。

 

「……強いな、マスターは。まさかこれほどとは」

「そりゃあな。ああなったシンは千冬姉とも互角に戦ったんだ。三年前にな」

「……その時のシンって、まだ中学一年生だよね?」

「とんでもないですわね……」

「……ん? 時が合わんな。箒は何故知っていたのだ?」

「織斑先生とのことは知らん。私が知っているのは、私の父と戦った時の真改の姿だ。……あれには、度肝を抜かれたものだ」

「……うわあ」

 

 あ~、あの時か。あれも凄まじかったな……。

 

「あれからまた強くなったしね。今なら、また千冬さんとも互角に戦えるんじゃないの?」

「かもなあ。そればかりは、実際にやってみないと」

「見たいような……怖いような……」

 

 まあ、多分千冬姉とシンが戦うことはないだろう。もう随分前から、あの二人は戦おうとしていないしな。

 

「む~。いくらいのっちでも、楯無お嬢様に勝てるとは思わなかったな~」

「うお!? 居たのかのほほんさん!?」

「今来ました~」

 

 むう、気づかなかった……。

 

「……うん? 楯無お嬢様?」

「うん~。あのね~、カクカクシカジカなんだよね~」

「まあ、そうなのですか」

「え!? 今のわかったの!?」

「しかし本音、真改の実力はお前も良く知っているだろう? 何故勝てるとは思わなかったと?」

「うん~、それはね~」

「それは?」

「IS学園の生徒会長はね~、学園最強じゃなきゃいけないのだよ~」

「……え?」

「つまり、更識楯無生徒会長は、IS学園で最強ということか?」

「そうそう~。それに楯無お嬢様は~、ロシアの国家代表なんだよ~」

「国家……代表!?」

「あ、あの歳で!?」

 

 ええと、二年生だから……俺と一つしか違わないんだよな……。

 

 ……うわ、すっげえ。

 

「だから楯無お嬢様は~、ISでも生身でも最強だったんだけど~」

「ISはともかくとして、生身最強はマスターになったというわけか」

「さすがいのっちだね~。楯無お嬢様に勝てる人は、なかなかいないよ~」

「俺からしてみれば、シンに本気出させるほうがすごいんだけどな」

 

 普段俺たちと生身で戦う時、シンはかなり手加減している。あまり力に差がありすぎると、鍛錬どころじゃないからだ。

 シンに本気を出させた人物は、千冬姉と箒の親父さんしか知らない。

 

「けどどうしていきなりこんなことを? のほほんさん、なんか知ってるんだろ?」

「ん~。知ってるけど~。楯無お嬢様に口止めされてるし~」

「そこをなんとかっ」

「むう~。けど私は布仏だし~。更識の言うことは聞かないとなんだよね~」

「う~ん、仕方ないか……」

 

 お家の事情となれば仕方ない、無理に聞き出すわけにはいかないな。これは生徒会長に直接聞くしかなさそうだ。

 

「それじゃ~、訊きに行く~? 生徒会室に戻ると思うけど~」

「そうだな……行くか。なんでこんなことしたのか、知っておきたい」

「ほいほ~い。六名様ご案内~」

 

 トコトコ歩き出したのほほんさんを追い掛けて、生徒会室に向かう。先ほどの勝負について盛り上がっている剣道場の喧騒が、これから起こる波乱を暗示しているような気がした。

 

 

 




たった今ドリルパイルというのを思いついたんですが、なんかグラインドブレードと被るな……。

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