IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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さあ、いよいよ真改のワンオフのお披露目です。


第61話 暴虐(一刀編)

「……あれれえ?」

 

 分厚い装甲の中で、フラッドはガクンと首を傾げた。この狂気に歪みきった少女にも、はっきりと分かる異変が起きたからであった。

 

「なあんか……暗いですねえ?」

 

 突如として、アリーナが暗闇に包まれたのだった。

 だが空を見上げても、まだギリギリ太陽はアリーナ内からも見えるし、照明も問題なく光を放ち、たった二人しかいないアリーナを照らしている。

 

 ――筈、なのに。その光が、フラッドまで届いていない。

 

「……うう~~うんん??」

 

 ガクンともう一度、今度は逆方向に首を傾げる。

 暗くなっても、戦闘には支障はない。元々完全な闇さえ存在する宇宙空間での活動を目的として開発されたISだ、暗視機能くらいはハイパーセンサーに標準装備されている。

 

 故に、問題は暗いことなどではなく。

 

 何故暗いのか、ということだ。

 

「まあ、考えられるのはあ――」

 

 傾げていた首を戻し、前を向く。

 すると視線の先では、真改が右腕を高々と掲げ、佇んでいた。

 

「……あっはぁ♪ 井上さんたらあ、そおんなとっておきを隠してたんですねえ。もう、いけずなんだからあ、きゃはっ♪」

 

 ガコン。

 

 フラッドは自らの専用機、ジャガーノートの武装を構えた。大口径、超高速の砲弾を装填されたスナイパーカノンが、ピタリと真改に照準される。

 

「うふ、うふふふふうふうふうふふうう~。なんだか面白そうですけどお、ワタシのこと、無視しないでくださいよお」

 

 虚ろな両目で真改を見据え、引き金を引く。ドゴンッ!! と轟音が響き渡り、その空気の振動が届くよりも速く、砲弾が真っ直ぐに真改へと食らい付く。

 真改は上体を捻ってこれを回避、そのまま空中高く飛び上がった。

 

「あっはぁ、高いとこ行かないでくださいよお。この子、飛ぶの苦手なんですからあ。ねえねえ井上さあん、降りて来てくださいよお、きゃはははははは!」

 

 フラッドは真改を追おうとはせず、その場から砲撃を浴びせ続けた。ジャガーノートにもPICやスラスターは当然装備されているが、機動力は戦闘ヘリと良い勝負だ。追いかけたところで、追い付くことなど出来はしない。

 ならばこのまま機体を安定させ、砲撃の精度を上げるべきだ。どうせ真改には、この距離で有効な射撃武器などないのだから。狂気の中に残った理性でか、はたまた戦う者の本能でか、フラッドはそう判断した。

 

 ――だが。

 

「当たらないですねえ、当たらないですねえ、全然当たらないですねえ! きゃははははは!」

 

 真改の回避機動が、今までとは違う。隙あらば反撃を仕掛けられるよう、攻め気のある回避だったそれが、今は完全に避けることに専念している。

 真改がそんな、少々追い詰められた程度で勝利を諦めるような人物でないことは、フラッドも理解している。

 ならばこれは、本当の意味で逃げ回っているのではなく。

 

 ――機を待っているのだ。現在起きている不可解な現象、それに関わる、機を。

 

「うふ、うふふふふあはははははは、きゃははははは! なんですかあ!? なんなんですかあ!? 何をしてくれるんですかあ、井上さあん!! きゃはははははははあああ~~!!!」

 

 ――その問いに対する答えは、真改の周囲に現れた、光の帯だった。

 

「……んんん~~??」

 

 例えるならば、オーロラのような輝き。暗闇に包まれたアリーナでは、その輝きは幻想的で、神秘的だった。

 目に見えるカタチとして現れた二つ目の異常現象を、ジャガーノートが解析する。その結果は――

 

「……プラズマ、ですかあ?」

 

 それは、億の桁に達しようかという程の、超高温のプラズマであった。だがそれが分かったところで、謎は残る。それほど高温のプラズマならば、砲弾として撃ち出せばいいのだ。機体の周りに漂わせるなど、無駄でしかない。

 

「……うふ、うふふふふふふふふふ。なぞなぞですかあ? ワタシそういうの、苦手なんですけどお」

 

 そう、無駄でしかないのだ。それも作り出すのに膨大なエネルギーが必要なプラズマの無駄遣い。

 そんな無駄を、真改が、戦闘中にするだろうか?

 

 ――答えは、否。

 

 ならばこれは、エネルギーを無駄にしているのではなく。

 

 エンジンを回す際に発する、熱や音のように。

 

 ただ、無駄になってしまうというだけのこと。

 

「あははははは! きゃははははは! 井上さあん、早くう! 焦らさないでくださいよお!」

 

 では、それほどに膨大な無駄を出してまで、一体何をしようというのか。

 

 ――そして。

 

 それほどに膨大な無駄を出せるほどのエネルギーが、一体、どこから来ているのか――?

 

「きゃははははは! 早く早くう! ねえ、井上さあん! きゃははははは!」

 

 答えは、簡単だ。

 

 何故突然、アリーナが暗くなったのか。

 

 それは、真改が。朧月が。

 

 「光」という「エネルギー」を、奪い尽くしているからだ。

 

「きゃははははは! うふふ、うふふふあははははは――は?」

 

 真改の周囲を漂う、光の帯。

 

 それらは奪った光が漏れ、その光に熱せられプラズマ化した空気だ。

 

 触れるもの全てを焼き尽くすそのプラズマも、真改にとっては副産物に過ぎず。

 

 その副産物を吹き飛ばして、顕現したのは。

 

「……ええっとお~」

 

 それは、光の柱だった。

 

 地上に降りた真改が、高々と掲げた右腕。

 

 そこから伸びるのは、天に届かんばかりの、眩く巨大な、紫色の極光の柱。

 

「……あら。あらあらあらあ」

 

 その光景に思わず呆然とするフラッド、その身を包むジャガーノートの装甲に、熱風が押し寄せる。極光の柱に熱せられた空気が凄まじい勢いで膨張し、爆風のような衝撃を産み出している。足元の土が赤熱され、真改の周囲だけがマグマのようになっていた。

 

 ――そして、その中心から。

 

「……オ」

 

 鋭い視線に載せた、殺気と共に。

 

「オオオオオ」

 

 轟音を掻き消すほどの、雄々しい咆哮と共に。

 

「オオオオアアアアアアァァァアアアアッ!!!」

 

 二の太刀要らずの剛剣が、降り下ろされた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……うふふ。うふ、あははは、あははははははは。きゃあああははははははあああああははははははあああ~~~!!!」

 

 渾身の力を載せて繰り出した一撃は、すんでのところでかわされた。

 

 ――否、正確に言えば、当たりはした。咄嗟に体を開くと同時に瞬時加速を発動させたジャガーノートの胸部装甲に、ほんの僅かに掠めた。

 

 そしてそれだけで、手足を除いたほぼ全ての装甲が蒸発し、フラッドの狂笑が表に現れていた。

 

『いやいや、すごいねえ。あんな状態になっても、まだ強制解除されていないだなんて。流石は拠点防衛用、本当に徹底的に破壊されない限り動けるわけだ』

「…………」

 

 突破されたら終わりな以上、撤退する余力を残しても意味はない。最期まで踏みとどまり戦い続けることこそが役目なのだから。

 

 故に、ジャガーノートを止めるためには。

 

 エネルギーを完全に枯渇させるか、若しくは――

 

「きゃははははは! いやあんもう、脱がされちゃいましたあ! あ~~れえ~~、きゃははははははははは!」

『けれど、そのジャガーノートにこれだけのダメージを与えるなんてねえ。想像以上だよ、朧月のワンオフ・アビリティは』

「……当然……」

 

 ……一応断っておくと、フラッドのISスーツは無事だ。消滅したのは装甲だけで、フラッド本人は無傷である。いくら敵とはいえ、少女の裸体を成人男性に晒させるのは気が引ける。

 

「まったくう、どうしましょうねえ!! ワタシの一張羅が台無しですよう!! きゃはあ、うふふふあはははきゃははあははははうふあひゃはははあははははははははああああ~~~!!!」

『けれどまだ、油断は禁物だよ、井上君。ジャガーノートはまだ、その戦闘能力を完全には失っていない。アーセナルもなくなったみたいだけど、当たれば一撃で墜ちることには変わりないんだからね』

「……応……」

 

 先の一撃で、朧月のエネルギーもかなり消耗してしまっている。フラッドのダメージを考えても、状況は精々、五分より僅かに己が有利な程度だろう。油断などすれば、一瞬でひっくり返される。

 

「……んんん? …………あ~あ。残念ですねえ、せえっかく盛り上がってきたのにい。そろそろ帰ってきなさい、て言われちゃいましたあ。あっはぁ、カラスが鳴いたら帰りましょお!! きゃははははは!!」

『むむ、逃げる気みたいだねえ。ちょっとそこ行くお嬢さん、飴ちゃんあげるからこっちにおいで」

「ええ? なに味ですかあ?」

「うなぎボーン味」

「わあい、くださいくださあい!」

「…………」

 

 突然開放回線に切り替えた社長とフラッドの会話。凄まじくやる気と緊張感を削がれる。

 だが、フラッドは本当に近付いて来た。それを社長の甘言に惑わされたと考えるほど平和呆けしているつもりはない。何かしらの策に基づいた行動なのは間違いないだろう。

 

「知らない人から物をもらってはいけません、て言いますけどお。人の好意を無下にするだなんて、失礼ですよねえ」

「まったくだねえ。渡る世間は紳士ばかりなのにねえ」

「まったくですねえ。うふふ」

「うふふふ、ふふふ」

「「うふふふふふふふふふふふ」」

「…………」

 

 真面目にやってくれ――と言いたいところだが。まあ、至極真面目なのだろう、本人たちは。

 

 そして、そんなことをしている内に。

 

 フラッドが、間合いに――

 

「……疾っ!」

「ところがあ、どっこいしょお!!」

「……っ!?」

 

 踏み込んだ瞬間、フラッドが、飛んだ。

 

 手足の装甲をパージし、どうにか残っていたのだろう、予備と思われるスラスターを展開し、飛んだ。

 

 ――真上に、飛んだ。

 

「……ちいっ……!?」

『あれ?』

 

 その直後である。置き去りにした装甲が、爆発したのは。

 威力で言えば、大したものではない。だが目眩ましとしては効果があり、僅かに怯んだ一瞬の隙に距離を取られた。

 

 そして、そのまま――逃げた。

 

「…………」

『……ふむん。改造されてるんだから、逃げる機能が追加されてることも考えるべきだったねえ』

「……迂闊……」

 

 本来アリーナは遮断シールドに覆われているのだが、今回の戦闘は学園が設定したものではない。故にフラッドの逃走を妨げるものは何もなく、一直線に飛んで行く。

 

『なるほど、重い武器と装甲を捨てれば、ジャガーノートも結構スピードが出るんだねえ』

「…………」

 

 それでも、元々高速戦闘を想定している朧月には及ばない。出遅れたとはいえ、今から追えば追い付けるだろう。

 だがその場合、追い付く場所は街中だ。敵の増援が来る可能性があるし、そうでなくとも一般人を巻き込むことになる。

 

 最初の一歩を先んじられた時点で、己の負けだ。

 

『やれやれ、連中にはまた逃げられたねえ。……ついでに、また収穫もあったし。なんか以前も似たような感じだったねえ。これはあれかな、ジンクスってやつかな?』

「…………」

 

 だとするのなら、嫌なジンクスだ。……いや、ジンクスとは元々、縁起の悪いもののことを言うのだったか?

 

『〔白銀月夜(しろがねつくよ)〕、か。どうやら、光の屈折率を操作する能力のようだねえ。かなり限定的みたいだけど』

「…………」

 

 朧月のデータによれば、初めから人工的に指向性を与えられた光――例えばレーザーなどは操作出来ないようだ。月光は自らの武装だから、例外のようだが。

 

『これはかなり強力だよ、井上君。君も小さいころ、虫眼鏡で太陽の光を集めて紙に火をつけたことが――なさそうだなあ、井上君は』

「…………」

『まあとにかく、光は集めれば集めただけ、温度が高くなる。周囲の光、それに月光の光。これらを屈折させ、循環させ、増幅させ、収束させ、放出する。その威力は――見ての通りだよ』

「…………」

 

 広大なアリーナには、ジャガーノートの砲撃による傷痕が無数にあるが、それらが目立たなくなるほどの特大の傷痕――アリーナの端から端までを派手に抉る傷痕がある。

 

 ……もはや傷痕というより、ちょっとした谷だ。どうしよう、埋めようにも土は大量に蒸発してしまっている。己一人での修復は不可能だ。

 仕方ない、ここは社長の力を借りるか。

 

「……社長……」

『お掛けになった番号は、現在使われておりません。もう一度、番号をお確かめになってお掛け直し下さい』

「………………………………」

 

 ……となると、このまま捨て置くしかあるまい。これだけの騒ぎ、いずれ先生たちがやってくるだろう。彼女らに任せるとしよう。

 

 ――己には、他にやらねばならんことがある。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

『ピンポンパンポ〜ン(↑)。織斑一夏君、織斑一夏君。第四アリーナまでおこしください。一年一組、織斑一夏君。第四アリーナまでおこしください。ピンポンパンポ〜ン(↓)』

「……楯無さんの声だ……」

 

 それが意味することはただ一つ。

 

 ――逃げられない――

 

 ガックリと項垂れる。一筋縄ではいかないと思っていたが、やっぱりか。

 

 第四アリーナ。

 ……アリーナ。アリーナかあ。広いなあ、何する気なんだろう……。

 

「……仕方ない、行くか……」

 

 無視したら、後でなにされるか分かったものじゃない。いや、後でどころか、次の瞬間には刺客が現れて、俺をアリーナまで拐って行くかもしれない。

 ……やるぞ、あの人は。それくらいやるぞ。本当にやるぞ。微塵の躊躇もなく、平気でやるぞ。

 

 ――だから、俺には選択肢などないのだ。

 

「……て、あれ? みんな?」

 

 アリーナのピットに行くと、入口のところに四人のメイドと一人のチャイナ娘がいた。……まだ着替えてなかったのかよ。俺もだけどさ。

 

「抽選会に行ったんじゃなかったのか?」

「いや、行ったのだが……」

「なんか、拍子抜けするくらいに普通だったわよ。籤引いて、それでおしまい。結果は後で発表します、ってさ」

「そりゃあ……かなり意外だな。あの社長なら、絶対なにか仕掛けてると思ってたんだけど」

「うん。……その分、発表の時が怖いんだよね……」

「文化祭終了時に、ということでしたから、最後にそれはもうすごいことをしようと企んでるに決まっていますわ……」

「行動に一貫性があるのに先が読めないとはどういうことだ……」

「アイツの思考を理解しようってのが、そもそも間違いなんだよ」

 

 基本的に目上の者には礼儀正しい箒やシャルまで、如月社長には言いたい放題だ。ある意味、人望があると言えなくもない。

 

「それで、どうしてここに?」

「さっきの放送を聞いてな、一体何事かと――」

「お、ちゃんとみんな来てるわね。感心感心」

 

 後ろからの声に振り返ると、そこに居たのはやっぱり楯無さんだった。手に持った扇子をぱん! と開くと、そこには「良い子」と書いてあった。

 

「みんな来てるって……呼ばれたのは俺だけじゃありませんでしたっけ?」

「一夏君を呼べば、みんな来るでしょ?」

 

 そう言って、楯無さんはくつくつと笑う。その意味はいまいち理解出来なかったが、しかし実際に言葉通りになっているのだから、納得するしかない。

 

「ええっと……それで、なんで俺を呼んだんですか?」

「いやいや。一夏君には特訓に付き合ってあげた貸しがあるでしょ? それを返してもらおうと思って」

「…………」

 

 やっぱりあれは貸しとしてカウントされていたのか。ただでさえ逆らえないというのに、もう完全に手も足も出ない。まな板の上の鯉状態である。

 

「生徒会も出し物があって。一夏君には、それを手伝ってほしいの」

「……まあ、いいですけど。それで、出し物って?」

「演劇よ。お題目は――」

 

 ぱん! と再び開かれた扇子。いつの間に変えたのやら、そこには「童話」と書かれていて。

 

「――シンデレラ、よ」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 目の前には、客席を埋め尽くす観客たち。その視線は、これから始まる出し物(みせもの)に対する期待に満ち溢れていた。

 

『むか~しむかし、あるところに。シンデレラという名の少女がいました』

 

 今俺は、マントに冠という、絵本に出てくる王子様みたいな格好をしていた。執事から王子って、どんな出世のしかただ。いや、王子は王様の子のことだから、たとえ革命に成功してもなれるもんじゃないんだが。

 

 とにかく、俺は今王子の格好をして、アリーナに作られた特大の舞台装置のど真ん中に突っ立って、楯無さんのナレーションを聞いていたんだが――

 

『――シンデレラは、地上最強の兵士でした。あらゆる任務、あらゆる戦場において最高の結果を出し、無数の死線を潜り抜け灰燼を被ったその姿があまりに美しかったことから、いつしか〔灰被り姫(シンデレラ)〕と呼ばれるようになったのです』

「……え?」

 

 今、なにか。

 

 かなーり、おかしくなかったか?

 

『しかしいかなシンデレラと言えど、所詮は人の子。寄る年波には勝てません。次第に自身の衰えを感じ始めたシンデレラは、自分の後継者を育てることにしたのです』

「…………え?」

 

 ……ちょっと待て。これってシンデレラだよな? 童話のシンデレラだよな? シンデレラストーリーの語源になってるあのシンデレラだよな?

 

 シンデレラって、そんな話だったか? なんか着替えたら、台本も何も読まずにいきなり放り込まれたからよく分かってないんだが。

 

 これってまさか――「普通の」シンデレラじゃ、ない?

 

『弟子たちは強く美しく成長し、いよいよ最終試験の時が来ました。シンデレラは、集めた弟子たちに語ります。

 

「私はただひたすらに、強くあろうとした。そこに私が生きる理由があると信じていた」

 

 そして発表される、最終試験の課題。それは舞踏会に参加する隣国の王子、その王冠に隠された軍事機密を奪取することでした。

 その困難さに怯みもしない弟子たちの姿に、シンデレラは満足そうに頷き、続けます。

 

「やっと追い続けたものに、手が届いた気がする。

 

 ――〔灰被り姫(シンデレラ)〕。その称号は、この試験をクリアした者にこそ相応しい」』

「………………え?」

 

 ちょっと待ってよ。

 

 その隣国の王子って。

 

 もしかして。

 

 ――俺?

 

『師の言葉を受けた少女たちが、舞踏会に突入します。王子の王冠を手に入れるために。最強の称号を手に入れるためにっ!

 そして今! 舞踏会開始の(ゴング)が鳴り響きますっ!!』

「ええええぇぇぇっ!!?」

 

 既に嫌な予感、ていうか確信しかしない。一刻も早く、ここから逃げ――

 

「もらったあああああ!!」

「のわあっ!?」

 

 突然、凄まじい覇気と共に、鋭い刃が襲いかかって来た。その襲撃者は、純白の布地に丁寧に銀をあしらった、美しいシンデレラ・ドレスを身に纏う――

 

「って、鈴!? なにすんだよいきなり!?」

「うるさい、大人しくしなさいっ!!」

「ぬおおおっ!?」

 

 再び襲い来る斬撃を、飛び退いて避ける。鈴の両手には、苦無のような形の、飛刀という中国の手裏剣が握られていて――てちょっと待て、まさかそれ本物じゃねえだろうな!?

 

「てやあああっ!!」

「いやあああっ!?」

 

 鈴は小柄な体を活かした軽快なフットワークで距離を詰め、左右の連撃を繰り出した。バックステップでその間合いから逃れるが、逃げ遅れた前髪が数本、ハラリと――本物かよ!? 冗談じゃねえぞっ!!

 

「ああもう、逃げるな!」

「無茶言うなっ! くそ、なにか――」

 

 逃げ回りながら、身を守る物を必死に探す。するとセットの一つであるテーブルの上にトレイを発見した。

 藁にもすがる思いでそれを取り、盾として構え――

 

 ガチュゥン……!

「…………へ?」

 

 いきなりの、火花と衝撃。鈴の飛刀ではない。なんだ、とその理由を探ると、トレイに赤い光点が。

 

「そ、狙撃……?」

 

 それは、スナイパーライフルのレーザーポインター。

 

 つまり――

 

「正気かセシリアアアアアァァァっ!!!?」

 

 続けて放たれる銃弾。サイレンサーでも付けているのか、銃声もマズルフラッシュもない。俺は生存本能が鳴らす警鐘だけを頼りに、銃弾をかわす。

 

「ヤバイヤバイヤバイ、これはヤバイ……! こ、殺されるっ、このままじゃ殺される……!!」

「「「一夏ああぁぁぁっ!!」」」

「うひぃぃぃぃっ!!?」

 

 見れば、箒、シャル、ラウラもまた、こっちに突撃して来ていた。

 

 ――ああ、もう。

 

 なんだよ、一体。

 

 なんなんだよ、一体――!?

 

 

 




白銀月夜(しろがねつくよ)

 朧月のワンオフ・アビリティ。光の屈折率を操作して周囲の光や月光の光を集め、一気にぶっぱなす。つまりは月光の溜め斬り。
 見た目のイメージは、ジェットとスティグロのブレードを合わせた感じ。もしくはMASS BLADE(TE)。
 ちなみに屈折率を操作すると言っても集めるのがメインなので、ステルス迷彩みたいなことはできない。


フラッド

 オリキャラ。ラウラをも上回るナイスバディ(笑)の持ち主で、ファントム・タスクのロリ担当。
 オータムと仲が良く、どれくらい仲が良いかというと会うたびに「年増(オールド)さん」「まな板(フラット)」とあだ名で呼び合い拳で語り合うほど仲が良い。


ジャガーノート

如「「なにこれほしい」」網

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