IS〈イノウエ シンカイ〉   作:七思

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先日、友人とこんな会話がありました。

私「なんか最近さ、頭洗ってる時に肘がビキイッ! て痛むんだよね。重い物持ったりするのは平気なんだけど」
友「は? なにそれ、ジョ○ョ立ちでもしながら洗ってんの?」
私「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
友「あ、今話しててふと思ったんだけど、ジョ○ョ立ちしながら頭洗うってシャンプーのCMみたいじゃね?」
私「CMぅ?」
友「そう、CM」
私「…………」
友「…………」
私「…………」
友「…………」
「「髪! 洗わずにはいられないッ! 」」


第68話 飛翔

「はい、みなさーん。準備はいいですね? 今日は超高速飛行の訓練をしますよー」

「「「「「はい!」」」」」

「…………」

 

 いよいよ授業でも、キャノンボール・ファストに向けた内容が始まった。ISスーツに着替えた生徒たちが、山田先生の前に整列する。

 

「えーっと、キャノンボール・ファストでは特別に、一般生徒さんたちにもISの増設スラスターなどが貸し出されます。打鉄、ラファール、どちらのもありますよ。種類も豊富ですので、みなさん自分に合った調整をしてくださいね」

「「「「「はい!」」」」」

「…………」

 

 普段の貸し出しでは、変更出来るのは武装くらいで、スラスターや装甲などは通常の物を使わなければならない。それらを下手にいじると事故の確率がはね上がるそうだ。

 専用機持ちでも機体の調整程度までしか出来ず、それ以上は専門のスタッフが必要となる。もっとも生徒の中には、その専門のスタッフ顔負けの知識と技術を持ち、全て自分で行う者もいるようだが。

 

「ではまずは、専用機での超高速飛行を見てみましょう。訓練機とは色々と違いますけど、参考にはなると思います」

「「「「「はい!」」」」」

「えーっと、それでは……オルコットさん、井上さん、お願いします」

「お任せください」

「……承知……」

 

 指名され、機体を展開する。瞬く間に見慣れた銀の装甲が現れ、己の体を包み込んだ。

 その背中には、朧月の通常装備である大型スラスター〔水月〕の他に、翼のようなスラスターが取り付けられていた。

 

「あら……それが真改さんの、キャノンボール・ファスト用の装備ですか?」

「……応……」

「……なんだか、思ったよりも普通そうですわね」

「…………」

 

 見た目はな。

 

 ……見た目は、な……。

 

「どういった性能なのですか?」

「……小型の月船……」

 

 前進に使い切っている月船の推進力を、左右にも向けた物、といったところだろうか。最高速では大きく劣るがそれでも出力は十分、なにより旋回能力が劇的に向上している。直線でもコーナーでも、他の機体に遅れをとることはないだろう。

 ……そんなまともな装備であることが、逆に怖い。

 

 確か、名は――

 

「……〔三日月〕……」

「あら、素敵な名前ですわね」

「……そうか……?」

 

 普通だと思うが。翼の形状をなぞれば三日月の形になる。捻りも何もない。

 

「では、簡単に説明します。皆さん、よく聞いてくださいねー」

「「「「「はい!」」」」」

「まずオルコットさんの高機動パッケージ、〔ストライク・ガンナー〕。これは本来強襲用の装備で、スペック上の機動力はかなり高いです。ヒット・アンド・アウェイが戦術の基本となりますので、旋回もバッチリです」

 

 ストライク・ガンナーは、以前にも見たことがある。レーザービット四基、ミサイルビット二基の計六基を機体に固定し、追加スラスターとして用いるのだ。元々が自立機動兵器であるビットは小回りが利き、六基合わせれば推進力もかなりの物。バランスが取れた名品と言えるだろう。

 

「ふふ……このストライク・ガンナーなら、朧月の速さにも引けはとりませんわよ!」

「…………」

 

 面白い、その機動力、見せてもらおう。

 そして朧月も、三日月により機動力を強化している。容易く負けるつもりはない。

 

「では次に、井上さんの三日月です。もちろん如月重工製ですね」

「「「「「…………」」」」」

「えーっと、スペックデータは……『お代は見てのお帰り』……?」

「「「「「…………ええ~…………」」」」」

「……………………」

 

 ……意味分かって使っているのか、あの社長は。いや、学のある人物ではあるから、意味は分かっているのだろうが……曲解というか、自分に都合良く捻じ曲げて認識している恐れがある。

 ちなみに「お代は見てのお帰り」とは、代金を払うのは見てからでいい、さらには気に入らなかったら金を払わなくていい、といったような意味だ。つまりは「必ず満足させ、金を払いたくさせるだけの自信はある」という、一種の売り文句である。

 

「……え、えっと、説明になってませんでしたが……とにかく、やってもらいましょうっ! さあ、オルコットさん、井上さん! まずは中央タワーの周りを一周してきてください!」

「はい!」

「……承知……」

 

 指示を受け、飛び上がる。同時に視線を、遠くに聳える巨大な塔へ向けた。

 ここ、第六アリーナは、IS学園のモニュメントである中央タワーと繋がっている。中央タワーは記念碑であると同時に高性能な訓練装置であり、加えて第六アリーナ自体の広大さとあいまって、高レベルかつ大規模な訓練が可能だ。自主訓練の場所として人気が高く、予約はかなり先まで埋まっている。授業でも主に高速機動訓練に使われるため、一年生である己たちがここを使うのは今日が初めてだ。

 広い空を飛ぶというのは、なかなかに爽快なものだ。スキンバリアー越しに頬を撫でる風も心地よい。遊泳飛行がてら、早速三日月の性能を試してみようか。

 そう思ってスラスターを噴かそうとしたら、セシリアが不思議そうに尋ねてきた。

 

「あら、真改さん、高速機動用の補助バイザーは使わないんですの?」

「……無用……」

「そ、そうですか……人間離れしていますわね……」

「…………」

 

 セシリアの言う補助バイザーとは、ハイパーセンサーの性能を強化、あるいは特化する物だ。

 拡張領域を使う代わりに、全体的な性能を向上させる万能型。

 視認・ロック可能な範囲を犠牲に、距離と精度を強化した狙撃用。

 ロックオン範囲と速度を徹底的に強化した、高速近接戦闘用。

 基本性能を捨て、障害物の透視能力や電波障害への抵抗力を得た索敵・支援型。

 そして搭乗者への負担は大きいが、視覚情報の処理・伝達速度を高めた高速機動用。

 その他様々な特性を持つ補助バイザーを目的に応じて使い分けるのが、一流のIS乗りである。

 

 が、セシリアの言う通り、キャノンボール・ファスト級の高速競技には必須であるはずの高速機動用のバイザーを、己は使っていない。そもそも、朧月には補助バイザーが搭載されていない。

 何故か? 理由は主に三つ。

 一つは、己には複数の補助バイザーを使い分けるような器用さがないということ。機体から送られてくる情報の質がころころと変わられても対応出来ない。

 もう一つは、朧月は元々、接近戦以外が出来るような性能を与えられていないこと。いくらバイザーによる補助があっても、機体がそれを活かせないのでは意味が無い。

 最後に、高速機動用まで必要ない理由は――己の動体視力と反射神経は、超音速機動にも十分追いつけるからだ。

 もっとも、それはリンクス(己たち)にとっては特別でもなんでもない。ネクストは軽量機であれば音速など容易く超えるし、かつての己の愛刀も、一瞬であれば時速三千キロに達することさえあった。そんな機体を実戦だけでなく、シミュレーターによる訓練で幾度と無く操るリンクスの感覚は、自然と研ぎ澄まされる。

 

「……まあ真改さんは、銃弾すら斬るような方ですし。自分が銃弾並みの速度で動いていても、周りが見えるのでしょうね」

「…………」

 

 そういうことだ。操縦技能が追いつくかは別にして、な。

 

「さて……それでは参りましょうか」

「……応……」

『オルコットさん、井上さん。今回は飛行だけで、攻撃とかはしないでくださいね?』

「了解しましたわ」

「……承知……」

 

 オープン・チャネルに流れてくる山田先生の声に返答する。

 スラスターの準備は完了、いつでも最大出力で起動出来る。

 

『それではっ。3……2……1……GO!』

 

 瞬間、周囲の景色が後ろへと吹き飛ぶ。その中で、セシリアだけが己の横に並んでいた。

 

『加速力はほぼ互角ですわね……少なくとも直線で置いていかれることはなさそうで、安心しましたわ』

「…………」

 

 超音速飛行中に普通に話しても聞こえないので、オープン・チャネルでの会話に切り替える。その直後に聞こえたセシリアの声は、どことなく嬉しそうだった。本来機動力の高くないブルー・ティアーズが、朧月と並んで飛んでいる――それが嬉しいのだろうか。

 

『さすがにお上手ですね、お二人とも。では、チェック・マーカーを表示します。できるだけ多く潜ってくださいね』

「……っ!」

 

 中央タワーに近づくと、その周囲に赤い円が複数現れる。いつだったか、一夏と弾がやっていたレースゲームで似たような物を見た。この中を通れ、ということなのだろう。

 

『楽しそうですわね……行きますわよ、真改さん!』

『……応……!』

 

 最初の円――チェック・マーカーへと飛び込む。通過した瞬間、円の色が青色に変わった。朧月のハイパーセンサーの表示に従い視線を移すと、次の円が浮いている。

 

『お先に♪』

「……っ!」

 

 己に先んじて、セシリアが円へ向かう。加速力が同等でも、旋回からの立ち上がりに差が有る。……操縦技術では、まだ追いつけんか。

 

(……ならば……!)

 

 技術で劣るのは、元より承知。その不足を補うために、特化した力を求めた。

 そして如月重工は、己の願いを酌んでくれたのだ。その作品(子供)である、朧月ならば――!

 

「疾……っ!」

 

 水月と月輪の同時起動。加速しつつ、素早く旋回する。それにより、セシリアの後ろにぴたりと付いて、二つ目の円を抜けた。

 

『ふふっ……負けず嫌いですわね、真改さん……!』

『……当然……!』

 

 これは試合などではない、デモンストレーションに過ぎない。ストライク・ガンナーと三日月の、ただの試運転だ。

 だが、それでも。

 ただ無様に、負けるつもりなどない。

 

『わわっ、井上さん!? 無理しちゃダメですよ!?』

『承知っ!』

『絶対承知してませんー!』

 

 山田先生の悲鳴を無視し、更に加速。三つ目の円を潜る頃には、セシリアと並んでいた。

 その己の姿を見て、セシリアの笑顔が上品な貴族のものから、戦士のそれへと変わる。

 

『では、踊りましょう……わたくしのステップに、付いてこれまして!?』

『……上等……!』

 

 更に勢いを増し、四つ目の円へ向かう。どちらが遅れることも、先んじることもない。

 まったくの互角の勝負。二人で螺旋を描くように飛翔する。

 

『真改さんと初めて戦った時でしたか……わたくしが円舞曲(ワルツ)に誘ったのは』

「…………」

 

 そんなこともあったか。まだ半年も経っていないのに、妙に懐かしい。

 あれから己も、セシリアも腕を上げた。あの時は打鉄で勝ったが、今ではそれは不可能だろう。朧月でもかなり苦戦するのだから。

 

『ふふ……こんなステップでは、真改さんは満足できませんわね。ではもう少し、テンポを上げましょうか』

『……応……!』

 

 ストライク・ガンナーの、三日月のスラスターが雄叫びを上げる。最大出力の噴射により、旋回中でありながら速度を増していく。そして、その先には――

 

『山田先生、なかなかにスパルタですわね……!』

「……っ!」

 

 連続して並ぶ、赤い円。セシリアの言う通り、この速度で全て潜るには厳しい配置だ。

 だが、減速するつもりなどさらさらない。それはセシリアも同じなようで、二人して顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

 

『さあ――』

『――行くぞ……!』

 

 ゴウッ! と、翼が風を切る。三日月の噴射口が向きを変え、素早く旋回する。

 

『はっ!』

「疾っ……!」

 

 塔の周囲を、螺旋階段を上るように周りながら上昇していき、次々と円を通過する。見る見るうちに地上が遠のき、ついに塔の頂上に辿り着いた。

 

『さすがです、お二人さん! では、戻ってきてくださいー!』

 

 上昇から降下へ。しかし円はまだ残っており、それどころか配置はさらに難易度が上がっている。

 

 ――面白い。

 

『もちろん、全部潜りますわよね?』

『……当然……』

 

 息をつく間もなく旋回を繰り返しながらの高速飛行。全身にかかる強烈なG。敵はおらず妨害もなく、それでも心地よい緊張感に満ちた時間。

 

 ……なるほど。キャノンボール・ファスト、思った以上に楽しめそうだ――!

 

『くっ、厳しくなってきましたわね……!』

「……っ!」

 

 ゴールはもう間近。しかし進むにつれ、難易度はどんどん上がっていく。次第に、通過というより円の端に引っかかるような形になってきた。

 このままでは、全ての円をクリアするのは難しいだろう。さて、どうするか――

 

『く……はっ、せい!』

「……っ!」

 

 見れば、セシリアも辛そうだ。ストライク・ガンナーの扱いには慣れているはずだが、これだけ無茶な飛び方は初めてなのだろう。

 それは己も同じこと。月船は最高速はともかく、こんな激しく旋回するようなことは出来ない。総合的な機動力は三日月の方が上であり、その分性能の全てを引き出すことは難しい。試運転なしの最初の飛行では限界がある。

 

 ……だが、己の力量不足は、他で補えばいい。今己は、一人で飛んでいるのではないのだから。

 

『セシリアっ!』

『!』

 

 呼びかけると同時、セシリアに手を伸ばす。その意図を一瞬で見抜いたセシリアが、己の手を取った。

 

『さあ、踊りましょう――真改さん!』

『……付いて来い――セシリア!』

 

 お互いの手を取り合って、同時にスラスターを噴かす。朧月とブルー・ティアーズ、三日月とストライク・ガンナー。二機の性能を組み合わせ、さらなる機動力を発揮させる。

 

『次、行きますわよ!』

『……応……!』

 

 水月を起動。その急激な加速は、本来なら体勢を崩す、無理矢理なタイミングだった。だがセシリアが基点となり、歪みのない鋭い弧を描く。

 その回転の勢いを月輪で増幅し、セシリアを振り回すように旋回させた。セシリアは己から与えられる運動エネルギーを上手く使い、制御して、その力が進行方向と重なる瞬間にスラスターの出力を上げ、今度は己を引っ張った。

 その連携により、単機では有り得ない旋回と立ち上がりで、ほとんど速度を落とすことなく円を潜っていく。

 

『ふふふ……武は舞に通ず、でしたか? 素晴しいステップですわ、真改さん!』

『……お前こそ……!』

 

 スラスターの噴射光を纏い、くるくると回る。時に鋭く、時に緩やかに。

 

 その様は、まさに――

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「すごい……」

「まるで、踊ってるみたい……」

 

 飛び出したシンとセシリアの姿は、中央タワーから送られて来る映像で俺たちにも見えていた。最初は普通に(それでもかなりハイレベルだったけど)飛んでいた二人は、折り返してきてから協力してチェック・マーカーを潜り抜けていた。

 その様はみんなが言う通り、踊っているかのようだ。

 

「ほう……見事な連携だな」

「相性がいいんだよね、シンとセシリアは」

「いや、確かに戦闘での相性はいいが……」

 

 中距離から遠距離での射撃が得意なセシリアと、至近距離での格闘戦が得意なシン。この二人はお互いの短所を補い合う、隙のないコンビだ。

 けどそれは戦闘での話。まさかこんな形でも抜群の連携を見せるとは……。

 

「……楽しそうだなあ」

 

 セシリアも、そしてシンもうっすら笑ってる。まあやっぱり、親しい人にしかわからない程度に、だけど。別にバトルじゃなくっても、スポーツというか、競技が好きなんだよな、シンは。お互いが鍛え上げた能力をぶつけ合う、っていうのが。

 今はああして協力してるけど……きっと付いて来れなければ置いてくつもりだ。それはセシリアも同じだろう。相手の力量に合わせるのではなく、お互い全力で「競って」る。その上で、さらにお互いを高め合ってる。

 ライバルであり、パートナーでもあり。そんな相手との勝負は、そりゃ面白いだろう。

 

「む……最後のチェック・マーカーだ」

 

 箒が呟いたのが聞こえて、意識を二人に戻す。すると、ちょうど最後の円が青色に変わるところだった。

 

『……ふふ』

『…………』

 

 チェック・マーカーを抜けた瞬間、二人は手を離した。それと同時に、揃って一気に加速する。

 ――ラストスパートだ。

 

『はああああっ!!』

『オオオオオッ!!』

 

 最大速度で、真っ直ぐこっちに突っ込んで来る。ここからスタートしたからか、二人にとってゴールもここになってるらしい。

 

 ……これは、まずい。

 

『ちょ、二人ともー!? ストーップ、ストップですー!』

 

 山田先生が大声+身振り手振りで止めようとするが、聞いちゃいねえ。あの速度じゃ、直接轢かれなくても衝撃波で吹っ飛ばされる。……熱くなり過ぎだ、シンには割とよくあることだけど。

 

「ほら先生、逃げますよ!」

「わーん、人選間違えましたー!」

 

 他の生徒たちは既に危険を察知し、逃走している。俺は咄嗟にISを展開し山田先生を抱え――ようとしたら箒がものすっげえ眼で睨みながら山田先生をひったくって行ったので、仕方なく衝撃波から庇うように箒の後を付いて行った。

 そして間もなく、甲高い風きり音を立てながら――

 

 ――ビュゴゥゥゥゥゥゥッ!!!

「どわあああああああっ!!?」

 

 どうやら着地したらしい、二人は地面を派手に抉りながら減速していく。10メートルくらいのブレーキ痕を刻んでようやく止まり、そして――

 

「ふ……ふふふ……オーッホホホホ! やった、勝ちましたわー!!」

「……ふぅ……」

 

 満面の笑顔で高笑いを上げるセシリアと、少々悔しげながらも清々しい顔のシン。俺にはほぼ同着に見えたのだが、僅差でセシリアが勝っていたようだ。

 

「ふふ……これでキャノンボール・ファストはいただきですわねっ!」

「……次は、勝つ……」

「ふっ、本番でも負けませんわよ!」

「……あー、お二人さん。盛り上がってるとこ悪いんだけどさ……」

 

 舞い上がった粉塵が晴れると、そこには真紅の装甲があった。箒の紅椿だ。

 そしてその腕の中には――

 

「ふ……二人とも……」

「「……あ」」

 

 眼鏡の下の瞳を潤ませ、全身をプルプルと震わせて、一生懸命に怒りをあらわにする山田先生の姿が。

 

 ……正直全然怖くないけど、二人はしまった、という顔になった。つい熱くなってしまったことに気がついたらしい。

 

「む、無理はしないように、って言ったじゃないですかー! なのに、なのにあんな飛び方してー!! 着地までこんな強引にー!!!」

「す、すみませんでした!」

「……謝罪……」

 

 涙目になりながら、腕をぶんぶん振り回す山田先生。肩が脱臼しそうな勢いだけど、大丈夫か?

 しばらくして、山田先生は叱り疲れたのか腕を振り回し疲れたのか、肩で息をしだした。それから深呼吸を一つ、息を整えてからキッとまなじりを吊り上げる(迫力? ねぇよんなもん)。

 そんな山田先生の様子にセシリアは苦笑を浮かべ、シンはため息を吐いた。

 

「と、に、か、くっ!! 私の指示を守らなかったお二人には、もう高速飛行訓練の実演はさせませんから! させませんからね!? させませんったらさせませんから! ぜーったい、させませんからね!?」

「「……はあ……」」

 

 ……さて、この決意がどれだけ持続するのか。

 

 ……数日かな。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「……ふぅ……」

 

 今日の飛行訓練は、なかなかに疲れた。三日月は初めての使用だったし、全身に掛かる負担は戦闘のそれと大差がない。それに慣れなければ、長丁場の本番では最後までペースを保てはしないだろう。

 

「…………」

 

 そしてなにより、セシリアとの実力差。今日の試運転では僅差だったが、それは妨害なしという制約あってこそのもの。三日月は月船と同じく月影と月蝕は装備出来ないので、朧月に遠距離攻撃の手段はない。元々遠距離戦に長けたブルー・ティアーズでは、妨害手段に差がありすぎる。セシリアの攻撃を避けながらでは負担も増え、機動の無駄も多くなる。そうなれば、当然――大差で負ける。

 

「……く……」

 

 だからこそ、面白い。機動は戦闘における基礎、キャノンボール・ファストはこれを磨くに絶好の機会。自らの不足が良く分かり、どうすればより強くなれるか、その道を示してくれる。

 そして普段とは違う形で、皆との競争、共闘が出来る。

 

 ――なんという、僥倖か。

 

「……くっくっく……」

 

 如月重工から預かった三日月も、その性能の全容はまだ測りきれない。朧月との親和性からすれば、コイツも相当気に入ったようだ。己次第で、まだまだ力を引き出せるだろう。

 

「……く……」

 

 形は違えど、これもまた戦い。互いの肉体と技術と、精神のぶつかり合い。

 

 ……困ったものだ、我ながら。

 

 負けたというのに。……否、負けたからこそ。

 

「……いざ……!」

 

 血沸き、肉踊る――!

 

 

 




飛翔というと、私はゼノ○アスを思い出します。
あれは名作だった……やったことない人には是非ともやっていただきたいものです。

PS3のスペックをフルに活かしたリメイクを作ってほしいです。



……あ、投稿遅れてすみませんでした。まあ色々あったんですよ、ええ、色々と。

上司「あ、七思ー。今月、休み無しでいいよねー?」
私「ええ、いいですよ」
上司「あ、残業9時までお願いできるー?」
私「ええ、いいですよ」
上司「あ、休日手当てとか残業代とか出ないけど、いいよねー?」
私「ええ、いいですよ」
上司「んじゃ、明日俺結婚記念日でさー。しばらく旅行行ってくるから、よろしくねー」
私「ええ、いいですよ」



私「……死なねえかな、あいつ」

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