この話は外伝のネタを思いつかなかったので外伝の代わりとして考え始め、作者が悪ノリした結果生まれたモノです。外伝のように本編と全くの無関係というわけではなく、しかし全てが本編に準じた内容というわけでもありません。ただ「こんなこともあったらイイナー、あるカモナー」という妄想の産物です。
つまり、緩くてアホな頭の悪い話ですので、あまり真面目に読むと損します。キャラ崩壊も盛りだくさんです。そのことを踏まえたうえで、お読みください。
「おーい、エムぅ。居るかー?」
エムが自室の端末で、過去の戦闘データを見直し復習している時のことだった。突然、扉を乱暴にノックされたのは。
「お、鍵開いてるな。入るぞ……って、居るなら返事しろよ」
「…………」
色々とツッコミどころのある入室をして来たのは、エムの同僚であるオータムであった。普段からいがみ合っているエムの部屋にオータムがこうして自らやって来るなど、エムの記憶では初めてのことである。
「……何の用だ。見ての通り、私は忙しい。失せろ」
「はっ、何言ってやがる。いつでもできることをやってるってことは、暇だってことだろ」
「…………」
端末のディスプレイを見てエムが何をしているのか察したのだろう、オータムは間髪を入れずにそう返した。それはいくらでも反論の出来る言葉であったが、それすらも面倒くさい。エムは無視を決め込んで、机に置いてあったヘッドフォンを着けノイズキャンセラーのスイッチを入れる。
が、そんなエムの行動を全く気にせず、オータムはエムのヘッドフォンを取り上げた。
「……何をする」
「あのな。この私が、用も無しに、お前の部屋に来ると思うか?」
「例え用があったとしても、お前に部屋まで来られるのは不快極まる」
「お前がどう感じようが知ったことかよ。私が、お前に用が有るって言ってんだ」
「…………」
エムはかなりイラッと来た。嫌味ったらしく笑うオータムの顔を今すぐ吹っ飛ばしてやりたいと心から思った。
だが感情に任せて行動するなど、ガキか、忍耐のない無能のすることだ。そのどちらでもないエムは視線だけオータムに向け、とりあえず話を聞くことにした。
「……それで? 何の用だ」
「買い物に行く。付き合え」
「……………………」
エムは無言のままISを起動し、レーザーライフルをオータムの顔に突き付けた。我慢のし過ぎは心と体の健康に良くないと考えたからであった。
「おいおい。こんなところでそんなもんぶっ放せば、お前の部屋から壁がなくなっちまうぜ?」
「構わんさ。その代わりに、お前が存在しない世界が手に入るのなら」
「厨二乙www」
「………………………………」
危うくマジで撃つところだった。だが鋼の精神力で、ギリギリ踏みとどまる。
エムは自分に言い聞かせた。落ち着け、冷静さを失うな。これはこの女の罠だ、私を煽って怒らせ、その姿を指差して笑うつもりだ、そういう策略なんだ。そして罠も策も、正面から踏み潰すのが真の強者というもの。わかっていながら敢えてはまり、突破して力の差を見せつけるのが強者の戦い方だ。
……あれ、撃ってよくね?
「…………………………………………買い物、だと?」
必死に怒りを押さえ込み、エムは搾り出すように聞き返した。賞賛に値する寛容さであった。
「ああ。髪が短くなっちまったからな、それに合う服買ってこねえと」
「一人で行け」
「私みたいな美人が一人で街歩いてるとな、バカな男どもが群がって来るんだよ。うざったいだろ」
「そんなもの、全部食ってしまえばいいだろう、蜘蛛らしく」
「一山いくらの安物食うくらいなら、お前を食った方がマシだ。性根のねじくれたクソガキだが、顔はそこそこ好みだしなあ、ヒヒヒ……」
「……………………」
そういやこいつレズビアンだった。艶めかしく舌なめずりするオータムの姿を見て思い出し、エムの背筋に悪寒が走る。
――もしかして今、結構ヤバイ状況?
「……わかった。今回だけは付き合ってやる」
エムは少し考えて、渋々ながら了承した。何やら
だから、髪を切られてしまったオータムの気持ちも、分からないではないのだ。オータムは自分の髪質を活かした、緩やかに波打つ長い黒髪を、とても大切にしていて。
いつも、自慢気に靡かせていたから――
「よし。んじゃ後は、新入りを連れて――」
「待て。奴を連れて行くのか?」
「ああ。アイツあのタッパだろ、貸そうにもサイズ合う女物の服がないんだよ。今は男連中の部屋あさって見つけた服を着せてるが、いつまでもそのままってわけにもいかねえし。そこら辺の面倒を見てやってくれって、スコールに頼まれてな」
「一人で出かけるのが嫌だったんだろう? 奴がいるなら、私も行く必要はないだろう」
「ふざけんな、あんな無口なヤツと二人きりだなんて空気が重すぎるだろうが。お前は盛り上げ役だ」
「お前こそふざけるな」
一度了承した以上、それを覆すのはあまり誉められることではない。それに最近任務が続いており、今日は久しぶりの、丸一日何も予定のない日だったのだ。だからこそ、今日の内に復習を済ませておこうと思ったのだが――
(……まあ、明日も大きな予定はない。今日一日くらいならいいか)
そうして、オータムと罵り合いながら、エムは外出用の服へと着替えた。
本人さえ気づいていないが。
その顔は、ほんの少しだけ、笑っていた。
久々の外出を楽しみにする、普通の少女のように――
「おいなんだよ、随分貧相な胸だな。ちゃんとバランス良く食ってるのか?」
「やっぱり貴様は殺す」
今度こそ、レーザーライフルがぶっ放された。最大出力で。
――――――――――
「おい新入り、居るか――げっ」
「おや? おやおやおやあ?
「ちっ……
「ワタシがどこでナニしてたってえ、オータムさんには関係ないでしょお? あっはぁ、何様のつもりなんですかあ? きゃははははは!」
オータムがエムを連れて訪れた部屋には、先客が居た。鮮血に彩られたかのように赫いウェディングドレスを着た少女、フラッド。オータムは彼女が嫌いで、苦手だった。同じく嫌っているエムには良識がないが、フラッドにはそれに加えて常識までない。さらに付け足せば理性すらも少々どころではなく欠けている。
単純に、話していて疲れるしストレスが溜まるのだ。いつかメチャクチャに犯してやろうと思っている相手の一人である。
「ちっ……おい新入り、お前、友達は選べよな。そいつはウチの中でも最悪の部類だぞ」
「?」
「……ったく。あのな、コイツは――」
「まあ待て、オータム。そんなことを言っても、シャッテにはわからない。何せ外に出たのは……外にも世界があると知ったのは、つい最近なんだ」
「……ああ、そうだったな。ちっ、赤ん坊と同じってことかよ、こんなデカイくせに」
つい最近、オータムたちの仲間になった新入り――シャッテは、フラッドとちゃぶ台を挟んで向かい合い、ちょこんと正座していた。穢れを知らない子供のような眼でオータムを見上げる、まだ顔立ちに幼さを残す黒いショートヘアの少女が、立ち上がれば180センチを越える長身の持ち主であることを、オータムたちは知っている。
「なーにやってんだよ、シャッテ。お前の話し相手としちゃ、そいつは難易度が高すぎる。初心者にはスコールがオススメだな、アイツは話し上手だから」
「あんな腹黒女を勧めるとはな、お前も中々のゲスだ」
「ぶっ殺すぞ」
そんなことを話していても、シャッテはただ黙って、オータムたちを見上げるばかり。何を言っても無駄だと考え、オータムは舌打ちし、今度は質問してみることにした。
「……んで、何やってんだよ」
「あっはぁ、ご存知ないんですかあ? オータムさあん。オータムさんには、ちょおっと新しかったかもしれないですねえ、きゃははははは!」
「別にそんな新しいモンでもねえだろ。……それが何かは知ってるっての。ただなんつーか、マジでやってる奴を生で見たのが初めてだったんだよ」
シャッテとフラッドの間にあるちゃぶ台、シャッテに与えられた部屋の中で数少ない物であるその上に、プラスチック製のカップが12個、重ねられていた。カップをピラミッド型に積み上げ、崩しながら元の形に重ねる――という
「ふっふっふう~。シャッテさんの実力をもってすれば、この程度はお茶の子ホイホイです。さあ、シャッテさん! やあっておしまいなさいっ!!」
「了解」
フラッドがノリノリで言うと、シャッテは目を細め、カップを並べ始める。3個、6個、3個と。
「「「「…………」」」」
シャッテとフラッドに、緊張感が満ちる。釣られて、オータムとエムも真剣な顔で、カップを見つめた。
――そして。
「っ!!」
シャカカカカカカカカ!!
「お、おおおっ!?」
「速いっ……!」
カップが、2個の小さなピラミッド、1個の中のピラミッドになる。それらが瞬く間に崩れ、2個の中のピラミッドに。
「なんて正確な動きだ……!」
エムも驚きの声を上げる。その間に2個のピラミッドは崩れ、一つの大きなピラミッドと、一つずつのカップに。
「す、すげえ……!」
シャココココココココ!!
それらが、また崩れ。
最後に、3個、6個、3個と重ねられた。
「タ、タイムはっ!?」
「5秒……ジャストっ……!」
「なっ、そ、そんな……!?」
それは、恐るべきタイムであった。いまだかつて、世界で誰一人として見たことがないほどの。
「あっ……と言う間の出来事……! 長年守られてきた記録が……今……塗り替えられたっ……! 一瞬でっ……!」
「更新……! 呆気なく更新……! いとも容易く……破られた……! 世界最速がっ……!」
「目にもとまらぬ早業、神業……神速……! まさに神速っ……!」
「風が語りかけます……! 速い……速過ぎるっ……!」
「…………」
「…………」
「…………」
「それで、ナニしに来たんですかあ?」
「ああ、実はオータムがな……」
「シャッテ、服それしか持ってねえだろ? 買いに行こうと思ってな」
「おお~! それはナイスアイデアですねえ! オータムさんにしては」
「てめえはいつも一言多いな、しかもわざと」
オータムの額に青筋が浮かぶが、しかし誰も気にしない。
「それじゃあ、ワタシも準備しますかねえ」
「オイコラ、てめえも付いてくるつもりか」
「当たり前じゃあないですかあ、あっはぁ♪ ワタシとシャッテさんはあ、一心同体ですよお」
「……それは、末恐ろしいな」
「それじゃあ、行きますかねえ」
「ふざけんな、誰がそんな狂ったみてえに赤いドレス着たヤツと出かけるかよ。せめてまともなカッコして来い」
「まったくう、オータムさんはワガママさんですねえ、歳に似合わず」
「てめえマジでぶっ殺すぞ」
「さっさと行くぞ」
呆れたようにエムが言い、一同は部屋を出る。
「それじゃあ、着替えてきますねえ。ちゃあんと待っててくださいよお? きゃははははは!」
「……置いてこうかな」
「さっさと行ってこい。四人とも休日が重なるのは滅多にないぞ」
「うふふふふううう~、シャッテさんとお出かけですねえ、初めてですねえ! いえ~っ!!」
「ん」
背伸びして高々と手を伸ばすフラッドと、胸のあたりで構えるシャッテのハイタッチ。そして元気良く駆け出すフラッドの背中を見送って、オータムとエムが歩き出す。
「お~い、シャッテ! 早く来い!」
「了解」
呼ばれて、シャッテも歩き出す。三人は一足早く、外に出るための準備を始めた。
――――――――――
「なあ、
「なんですかあ?
「私、言ったよな?」
「ナニをですかあ?」
「まともな服着て来いっつったろうがっ!!」
「ええ~? カワイイじゃあないですかあ」
「ざっけんなあ!! そんなコスプレしたイカレロリっ娘と街なんざ歩けるかあっ!!」
「きゃははははは! もしかしてえ、オータムさんて、自分はマトモなつもりなんですかあ? きゃははははは!!」
「コロス……ぶっ殺す!!」
「落ち着け、オータム。街中だぞ」
「冷静に」
「ぐぅぅぬぅぅぅ……!」
うなり声を上げて、フラッドを睨むオータム。そのフラッドは、まるで血に浸したかのように赫い、ひらひらのゴスロリドレスを着ていた。少なくとも、街を歩く格好として適切とは言いがたい。
「くっそぅ……目立たずに行くつもりだったのに」
「それは初めから無理だったと思うが。コイツがいては」
「?」
エムが溜め息交じりに指差したのは、フラッド――ではなく、シャッテだ。本人は何を言われているのか分からないというように、首をかしげるだけ。
だが確かに、エムの言う通りシャッテは目立っていた。フラッドも目立ってはいたが、それは先にシャッテを見て、そしてフラッドに目が行くという形だ。
何せ、シャッテは――
「……まあしょうがねえか、このタッパじゃ。頭一つ出てるもんな」
そう、シャッテは背が高い。成人女性であるオータムよりも頭一つは高いのだ。
それに加えて。
「ったく、相変わらずむしゃぶりつきたくなるような体しやがって……じゅるり」
「……変態」
「ド変態ですねえ」
「変態?」
「ちっげえよ! つかシャッテに変な言葉教えんな!」
強化施術によるものか、シャッテはスタイルが良かった。オータム曰く「パリコレレベル」、スコール曰く「負けた……」、エムはノーコメント。
そして顔も整っている。オリジナルである真改に良く似ているが、彼女と違い眼に鋭さがない。生まれてから一年ほど、研究所を出てからはほんの数週間だ。真改の眼はあらゆる地獄を潜り抜けてきたが故のモノであり、遺伝子的な理由ではないのだ。
シャッテ自身も常軌を逸した経験をしているとはいえ、他に比較する対象がない。自分の過去が異常であることが分からないのだ。だからシャッテの眼が真改のそれと違うのは当然であり、仕方のないこと。なので、外見の歳相応の――否、それよりずっと子供らしく、純心な眼をしている。
そんなシャッテが着ている服は男物の、どこででも手に入りそうな質素なもの。しかしそのせいで、豊かな胸が布を押し上げる形になっている。道行く男たちの鼻の下が伸びているのはそれが原因であった。
「……立ってると余計人目を集めそうだ。さっさと行こうぜ」
「そうだな」
というわけで、四人は歩き出す。その先には、大きなショッピングモールがあった。
――――――――――
「あっはぁ♪ 人がゴミのようですねえ!」
「人ごみって言えよ」
「違う?」
「ああ、人ごみのごみは「混んでいる」という意味で、捨てるゴミとは――」
「マジレスかよ」
賑やかに話しながら、テクテク歩く。最初の目的地は、女性専用の服屋。入るとすぐに、店員が愛想よく話しかけて来た。
「いらっしゃいませ! どのような品をお求めですか?」
「ああ、コイツのをな」
オータムがシャッテを指差すと、店員はシャッテの顔を見上げる。
「まあ、素敵な方ですね。モデルをしてらっしゃるんですか?」
「モデル?」
「あー、いや違う。コイツ見ての通り、素材は良いのにファッション全然知らねえし、興味もなくてさ。良さそうなの何セットか見繕ってやってくれよ」
「かしこまりました! ふふ、腕が鳴りますね。久々に楽しめそうです……じゅるり」
「「…………」」
どことなく不安そうな顔で店員に連れて行かれるシャッテと、それを微妙な顔で見送るオータムとエム。そしてオータムが口を開く。
「あの店員、見張っとけ」
「わかった。……フラッドはどうする?」
フラッドは店に着くや否や、フリフリの服ばかりが置いてある謎のコーナーに突入していた。そこに居たそういう趣味をお持ちのお姉さん方からは、早くもキャーキャー言われてアイドル状態である。
「ほっとけ。バカな騒ぎを起こすようなら、他人のフリして置いて行く」
「名案だな、それで行こう」
エムはシャッテと店員を追いかけ、店の奥へと消えて行った。オータムは溜め息を一つ吐き、
「……さて。ちょいと不安だが、私も服探すか」
ガリガリと頭を掻きながら、歩き出した。
――――――――――
「へえ、なかなかいいじゃねえか」
「ありがとう?」
ニヤニヤと笑いながら言うオータムに、シャッテは首をかしげる。褒められていることは分かったが、なんで褒められているのかは分からないからだ。
「さっすがあ、シャッテさんですう! ナイスですねえ!」
「……くっ!」
ダメージジーンズにブーツ、青いチューブトップに白いジャケット。体のラインを強調しつつ動き易くもある、活動的な服装であった。
そんなシャッテの胸を見て、エムが悔しそうに呻いた。
「お気に召しましたでしょうか?」
「ああ、いい感じだな。んじゃ、残りの服はここに送っておいてくれ」
「かしこまりました!」
オータムやスコールが使うダミーの住所を書いた紙を渡すと、店員は疑うこともなくそれを受け取った。
「はいは~い! ワタシの分もお願いしますう!」
「あ、コラてめえ!」
「かしこまりました!」
「おいコラァ!」
フラッドも便乗した。店員は躊躇しなかった。
「私のも頼む」
「かしこまりました!」
「てめえもか!? いつの間に買った!? 後で整理すんの私なんだぞ!?」
エムも便乗した。店員はノリノリだった。
「さて、それでは次に行くか。まさか買い物だけで終わるつもりはないだろう?」
「待てやコラ。まさか代金まで私持ちじゃあねえだろうな?」
「連れ出したのはお前だ。金もお前が払うのは当然だろう」
「そうそう、オータムさんは年長者なんですからあ。気前良くポ~ンと、オトナのヨユーってやつを見せてくださいよお!」
「お金ない」
「くっそぉ、このクソガキどもがあ……こちとら今月厳しいんだよっ……!」
「知ったことか、お前の浪費癖のせいだろう」
「ぐぅぬぬぬぬぅぅぅ……!」
ギリギリと歯噛みするオータム。心配そうな顔のシャッテ。無視する二人。
四人は、次の店に向かって歩き出した。
――――――――――
「そろそろランチにするか」
「おい仕切んな」
「お腹空きましたあ! ご飯にしましょお!」
「空いた」
「……ちっ、仕方ねえな。……じゃあ、何食うか」
「野菜だな」
「はあい! パスタに一票入れまあす!」
「お米」
「イタリアンに決定だな」
意見が割れなくて良かった――オータムは本気でそう思った。シャッテはともかく、エムとフラッドは厄介だ。頑固というか、ワガママなのだ。揉めると、最悪このショッピングモールが消滅するだろう。フラッドのISはそういうの得意だし、フラッド自身も躊躇しないし。
「さて、美味そうな店は……」
「あそこ」
「ん?」
シャッテが指差す方を向いて見ると、確かにイタリアンの店があった。しかし他にもイタリアンの店は見える範囲にいくつかあるのに、何故そこなのか。
「一番良い匂い」
「サメかお前は。……まあいい、その鼻を信じるとするか」
というわけで、その店へと入って行く。途端に、オータムたちにも感じられるほどの香りが鼻腔を満たした。
「お、こりゃアタリっぽいな」
「さすがだな、シャッテ。正直、ショッピングモールの飲食店になど大して期待もしていなかったが」
「美味しそうですねえ、ここのスタッフの皆さん、拉致っちゃいましょうかあ? きゃははははは!」
「「やめろ」」
空いてる席を見つけ、座る。ちょうど四人掛けのテーブルだ。目立つフラッドとシャッテを奥に押し込んで、オータムとエムが廊下側に。
各々がメニューを決め、フラッドが呼び出しボタンを連打すると、店員が慌ててやってくる。
「お、お待たせしました!」
「いや、別に待っていない」
「悪いな、コイツ馬鹿で」
「ごめんなさい」
「あ、いえ……そ、それで、ご注文は?」
「ペパロニのピッツァとエスプレッソを」
「サラダと、トマトの盛り合わせ。あとカフェラテ」
「ラザニアをお願いしまあす! あ、デザートにい、ティラミスも!」
「リゾット」
「はい、少々お待ちください」
そして、待つこと数分。続々と料理が運ばれて来た。テーブルに載せられるたびに新しい香りを楽しめて、四人がゴクリと喉を鳴らす。いただきます、とフラッドとシャッテが唱和し、料理を食べ始めた。
「このピッツァ、激ウマだぜ」
「新鮮で瑞々しいな。ドレッシングもオリジナルだ、実に良い味をしている」
「もしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃもしゃ」
「美味しい」
全員が夢中で食べ続け、あっという間に料理がなくなる。次いで運ばれて来たデザートをフラッドがむっしゃむっしゃしいてる間に、三人は飲み物を飲み干した。
「満喫したぜ……」
「想像以上だったな」
「おかわりします! え~と……」
「太る」
「ファッ!?」
シャッテの必殺ワードにより、フラッドはおかわりを諦めた。さしものフラッドも、太るのは嫌らしい。
「ふあ~……食ったら眠くなってきたな。帰るか」
「……そうだな」
「ええ~? ワタシまだ、遊び足りないですよお~。もっと街中で銃乱射事件とかやってみたりしたいですう!」
「「やめろ」」
「ダメ。危ない」
「危なくないですよう、こう見えてもワタシ、強いんですからあ」
「でも、ダメ」
「むぅぅぅ……しょーがないですねえ」
((……危なかった……))
割とマジでホッとしたオータムとエム。シャッテを見る目にちょっと尊敬が混じった。まさかフラッドを制御出来るとは。
「さて、帰ろうぜ。頭のイカレたロリっ娘が暴走する前に」
「そうだな、本当にやりかねんからなコイツは」
席を立ち、会計を済ませ、店を出る。拠点に戻るために。
――この、まどろみのような日常から、逃れるために。
「……やっぱさ。性に合わねえな、こういうの」
「そうだな。……そこそこ、楽しかったが」
「そうですかあ? ワタシはイイと思いますけどお。ちょおっとシゲキが足らないですけれどねえ、きゃははははは!」
「……ん」
楽しそうに笑うフラッドの頭に、シャッテが手を置く。撫でるということは、知らなかったけれども。
ただ、何も知らない少女も、感じたのだろう。
この、狂いし小さな少女の傷を。
「……さ、帰ろうぜ。明日からは、また殺し合いの日々だ」
だから、気持ちを切り替えた。こんな日常は、自分たちには似合わない。ただほんの少し、気まぐれを起こした時に、また立ち寄ればいいだけ。
ずっと浸かっているわけにはいかないのだ。そうすると、戦えなくなってしまうから。
だから、帰ろう。
自分たちの、
「ああ~! ドラグーン先生の新作、「うみみゃぁのなく頃に」が発売されてますう~!」
「なんだよそりゃあ、惨劇通り越して喜劇じゃねえか」
「それ以前に話にならないだろう、文字通りの意味で」
「ゲーム?」
オータム→乱暴者で口が悪いけど割と面倒見の良い長女
エム→ぶつくさ文句言いながらも付き合ってくれる次女
シャッテ→世間知らずで天然で素直で無口な三女
フラッド→お姉ちゃんたちに会いたくて精神病院から脱走して来た四女
新オリキャラ・シャッテの紹介も兼ねてたり。あとフラッドがしばらくお休みになりそうな気がするので。