子兎の人形師は何を想う   作:夜空人

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No.14/モウシュウ✖ノ✖サイシュウ

移動の為に飛行船に乗った十人の受験者達。

 

六日間の汚れを落とす為にシャワーを浴びたレツはこんなアナウンスを聞く。

 

《えーー、これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は、二階の第一応接室までおこし下さい。 受験番号44番。 ヒソカ様から、よろしくお願いいたします。》

 

 

+++

 

__ヒソカの場合__

 

 

「まぁ、すわりなされ。」

 

面談トップバッターにして今年度ハンター試験で一番の問題児が、座る前にまず訊いた。

 

「まさかこれが、最終試験かい?」

「全く関係がないとは言わんが、まぁ参考までにちょいと質問する程度のことじゃよ。」

「ふぅん…」

 

ヒソカが最も望まない、戦闘が全くない試験ではないことにとりあえず納得したのか、大人しく座布団の上で胡座をかき、面談は開始される。

 

「まず、なぜハンターになりたいのかな?」

 

最初の質問は、まるで就職の面接じみた志望動機だった。

もちろんヒソカの志望動機が平凡なものであるはずもなく、当り障りのない動機を取り繕う訳もない。

 

「別になりたくはないけどねェ♣」

「けどォ?」

「資格を持ってると色々便利だから♥」

「ホ、例えば?」

「例えば人を殺しても、免責になる場合が多いし♠」

 

何の美点にもならない正直さを発揮して答えるが、ネテロはヒソカの危なすぎる思考に何の興味も示さず、さらさらと言われたことそのままメモしながら、さっさと次の質問に移った。

 

「なるほど。(質問1) では、おぬし以外の九人の中で一番注目しているのは?」

 

ネテロの次の問いに表情は変えぬまま、ヒソカは一拍間を開けたあと、静かに言う。

 

「99番♥ 302番とは手合わせしたし、405番も捨てがたいけど一番は彼だね♣ いつか手合わせ願いたいなぁ♠ くっくっくっ♦」

 

今にも鼻歌を歌いそうなぐらい機嫌よく彼は答えて、低く笑う。

それをネテロは冷めた目で眺めながら、次の質問に移った。

 

「ふむ……。では、最後の質問じゃ。(質問2) 十人の中で今、一番戦いたくないのは?」

「それは、405番……だね♣」

 

顎に手をやり、より真剣みを増した表情だが、ヒソカの答えはほぼ即答だった。

 

「99番もそうだけど……今はまだ戦いたくない……という意味では、302番もそうだが、405番が一番かな♦」

 

単純に「戦いたくない相手」を答えるのではなく、ネテロが言った「今」という部分を重視して彼は答える。 そしてやはり、「今」という部分を重視してヒソカはまた彼独特の不気味な笑みを浮かべ、粘着質な殺気を増幅させて遠慮なくネテロにぶつけながら言った。

 

「ちなみに今、一番戦ってみたいのは、あんたなんだけどね♠」

 

無礼・不躾が過ぎた尊大すぎる発言だが、ネテロはサラサラとヒソカの答えをメモして、そのメモを眺めながらしれっと言った。

 

「うむ、ご苦労じゃった。さがってよいぞ。」

 

しかしあっさりと躱され、ヒソカのぶつけた殺気は虚しくネテロをすり抜けた。ヒソカは思わず殺気を消し、仕方なく立ち上がって部屋を出る。

 

(……くえないジイサンだな♠ まるでスキだらけで毒気ぬかれちゃったよ♣)

 

部屋から出て無視や無反応というより、風に揺れる柳のように何もかもを受け流すその態度に、少し不満気ながらも、ヒソカは肩すかしを食らった気分でそう思い、廊下を歩き出した。

 

 

__ポックルの場合__

 

(質問1の場合。)

 

「注目しているのは404番だな。見る限り一番、バランスがいい。」

 

(質問2の場合。) 

 

「戦いたくないのは、44番。正直、戦闘ではかなわないだろう。」

 

 

__キルアの場合__

 

(質問1の場合。)

 

「ゴンとレツかな。405番と302番のことな。二人共、同い年だからかな。…302番とは戦いたいね。」

 

猫の目のように細めながら、最後の言葉を付け足した。 

 

(質問2の場合。) 

 

「戦いたくないのは、53番かな。戦っても面白そうじゃないし。」

 

 

__ボドロの場合__

 

(質問1の場合。)

 

「44番だな。いやでも目につく。 あと、試験前の戦い、特に初撃の抜刀術から、私のポリシーに反するのだが、武闘家として302番とも、手合わせ願いたい。」

 

(質問2の場合。)  

 

「405番と99番は、まだ子供だ。 戦うなど考えられぬ。そういう意味では、302番も遠慮したい。」

 

 

__ギタラクルの場合__

 

(質問1の場合。)

 

「99番・302番」

 

(質問2の場合。)   

 

「44番」

 

 

__ゴンの場合__

 

(質問1の場合。)

 

「44番のヒソカが一番気になってる。色々あって。」

 

(質問2の場合。) 

 

「う~ん……99・302・403・404番の4人は選べないや。」

 

 

__ハンゾーの場合__

 

(質問1の場合。)

 

「44番だな。こいつがとにかく一番ヤバイしな。…再びの手合わせ、っていう意味なら同業者として99・302番だな。」

 

(質問2の場合。) 

 

「戦いたくないのは、もちろん44番だ。」

 

 

__クラピカの場合__

 

(質問1の場合。)

 

「いい意味で405番。悪い意味で44番。」

 

(質問2の場合。) 

 

「理由があれば誰とでも戦うし、なければ誰とも争いたくはない。」

 

 

__レオリオの場合__ 

 

(質問1の場合。)

 

「405番だな。恩もあるし合格してほしいと思うぜ。」

 

(質問2の場合。) 

 

「そんなわけで405番とは戦いたくねぇな。」

 

 

~~~

 

受験番号302番が呼ばれ、レツが応接室に入る。

 

「まぁ、座りなされ。」

 

ネテロは他の受験生たちと同じように声を掛け、レツは座布団の上に行儀良く正座で座る。

 

「まず何故、ハンターになりたいのかな?」

「う~ん、ハンターにはなりたいわけでもないかな。…あと、戸籍がないから身分証明にあると便利だよって兄さんに言われたから、っていうのが受け始めた時の感想。」

「今は違うと?」

「うん、綺麗なものを集めるのに、良さそうに思ったからかな。 …まだ分野らしいのは、決めてないけど。」

「なるほどのぉ。(…分野によっては、直弟子とウマが合うかも知れんのー。)」

 

そんなことを思いながら、ホントの目的は【発】の制作であり、メンチから聞き、四次試験の時、レツに付いていた試験官の報告を受けているネテロは、これも本物に感じつつ、次の質問に移る。

 

「ふむ。では、おぬし以外の9人の中で一番注目しているのは?」

 

この質問に、腕を組み首を傾げるレツ。

 

「……405番と99番に294・403・404番が距離感が分からないかな。 …良い意味、では注目してる。 嫌な意味なら、44番。」

「ふむ……。 ……では、九人の中で今一番闘いたくないのは誰かな?」

「今は合格を優先したいから、44番と301番の使える人、かな。 あれ、言って良かったのかな…。」

「構わんぞい。 それはこちらも把握しとるからの。」

「なら、良くないけど良かった。」

 

+++

 

以上の面談結果をもとに、ネテロは筆を走らせる。 その結果を見て、愉快そうに笑う。

 

「ほぉ! 思ったより偏ったのぉ!」

 

出来上がったものを見た試験官達は目を見開いて、それを凝視する。

 

「会長……これ、本気ですか?」

「大マジじゃ。」

「…確かに本気の目ですな。」

「ほ、本気の目、なんだ…あれ。」

 

ネテロが本気かどうか、ブハラが確認すると、ヒェヒェヒェと笑いながらネテロは肯定する。

サトツ曰く、本気であるらしく、メンチが確認する。

 

「これで、勝てば晴れてハンターの仲間入りじゃ。」

 

最後にネテロはそう締めくくった。

 

 

+++

 

四次試験終了から、三日後。 飛行船が到着したのは、審査委員会が経営するホテルで、試験終了までは受験生の貸しきりになっている。と、ネテロが説明する。

 

そのまま最終試験官でもある、ネテロは試験のルールを説明し始める。

 

「最終試験は、一対一のトーナメント形式で行なう。」

 

体育館並みの大きな格技場に、おそらく試験官のハンターであろう黒服の男たちとともに受験者たちを集めたネテロは、布をかけたホワイトボードを前にそう言う。

 

「その組み合わせはこうじゃ!!」

 

ネテロが布を取り払うと、そこにはひどく歪なトーナメント表であり、露わになった組み合わせに受験生は目を見開く。そのトーナメント表は、ネテロの性格の悪さを如実に表したものとなってある。

 

(う~ん、これはヤバイかも。)

 

レツの一回戦の相手は、ギタラクルであり、ただでさえ勝ち目が薄い、もしくは無いのに、次にあたるのは対抗心目当てで、確実に昇るであろうキルアである。 はっきり言って使えない時点で、苦戦しないのだが、無駄に目覚めさせて、操作系の約束を反古にされても嫌なのだ。

 

「最終試験のクリア条件だが、いたって明確じゃ。たった1勝で合格である!!」

 

続く受験生の驚きをよそにネテロは続ける。

 

「つまりこのトーナメントは勝った者から抜けていき、敗けた者が上に登っていくシステム。 つまりこの表の頂点は、不合格を意味するのじゃ。 不合格者は一人、誰にでも二回以上、勝つチャンスが与えられている。 何か質問は?」

「組み合わせが公平でない理由は?」

「うむ。当然の質問じゃな。」

 

ボドロの質問にネテロは頷く。

 

「この組み合わせは今までの試験の成績をもとに決められておる。簡単に言えば、成績のいい者にチャンスが多く与えられているということじゃ」

 

その言葉にキルアがピクリと反応する。

 

「それって納得いかないな。もっと詳しく点数の付け方とか教えてよ。」

「キルア… ゴンにまで対抗心だしてどうするの。」

「はぁっ!?」

 

レツは頭に手をあてて、(レツも乗っかったのだが)キルアにとって図星な所を遠慮なくぶっ刺した。

 

「な、何言ってんだ!? 俺が一体いつ、そんなもん気にした!?」

「今、審査基準を食って掛かって訊いたのに言い訳の余地がないよ。 散々、対抗心バリバリで僕とキルアは三次、四次と争ったじゃないか。 その前科がある時点でさぁ…。」

 

不満を言い当てられたキルアは、悔しいやら恥ずかしいやら腹が立つやらという、いくつもの感情が一気に湧き上がって若干パニくるが、道連れにカウンターをレツにも入れようと足掻く。

 

「……じゃあ、レツは気にしてねーのかよ。」

「…多分、目的を見失わない事を優先してるんだと思う。(”舌”を最優先にしているとハンター試験、全て通してそう感じるね。) だからヒソカからプレートを奪ったゴンが優先。目的が無いキルアや、見失なっていた僕が下。 そのあたりだと思うから飲める。」

「…まあ納得できねーけど、百歩譲ってそれはいい。 だが、レツとしてはヒソカより下も飲めるっていうのかよ!?」

「ここまで、説明してなんで分からないかなぁ。 もしヒソカがそんな人物なら、試験前で僕。 あと、一次でゴンとクラピカとレオリオは死んで、ここに居ないよ。 兄さん達は戦闘狂じみてる人もいるからね。 そのあたりだって予想する。 ほら、目的に正直じゃん。」

 

その反論にキルアはカウンター材料がなくなってしまったので、引き下がるしか無かった。

シレっと言うレツの発言を聞いている四人、ヒソカは感嘆、ゴンは嬉しさ、クラピカとレオリオは戦慄しながらも、納得する。

 

(う~む、一番大事な印象値の部分を当てられてしまったな。 そうじゃ。若人よ、目的を見失ってはいかん。………ワシのようにな。)

 

ネテロはそんなことを思いつつ、続けて説明する。

 

「戦い方も単純明快。武器OK、反則なし、相手に『まいった』と言わせれば勝ち! ただし……相手を死にいたらしめてしまった者は即失格。その時点で残りのものが合格。試験は終了じゃ。よいな!」

 

そのルール説明にレツは聞く。

 

「ちょっと待って、僕達は試験が終わるまで、この格技場から出られないんだよね? 食事とかはどうするの?」

 

レツの質問に受験生は訝しげな表情を浮かべるが、ネテロの性格の悪さを知っている試験官、ゴンの性質をある意味、一番把握しているヒソカは驚かない。 それが必然だからだ。

 

「ホッホ、心配無いぞい。試験がおわるまで、このホテルは貸切じゃ。 ゆえにその辺りは手配済みじゃ。」

 

そのネテロの言葉に納得したレツは頷く。

 

~~~

 

「それでは、最終試験を開始します。 第一試合! ハンゾー対ゴン!! 前へ!」

 

ハンゾーとゴンが前に出て、他の受験生は壁際に寄る。 立会人を務める試験官がまずは名乗った後、ハンゾーは四次試験では受験生一人一人に試験官が尾いていることを語る。ハンゾーはそのまま礼を言っておくというのに、レツは思う。

 

(…二人共ウボォー並に似た者同士で、折れないだろうな。 実力差とか関係なく、どちらも長引くこと確定。 …一日はかかるかな? 殺したら失格だしね。)

 

「それはそうと、訊きたいことがあるぜ!」

「何か?」

 

よくしゃべる奴だと内心で呆れながらマスタが先を促すと、ハンゾーは改めて試合のルールを確認した。

 

「勝つ条件は『まいった』と言わせるしかないんだな? 気絶させてもカウントは取らないしTKOもなし。」

「はい……それだけです!」

(なるほど……、こいつはちっと厄介かもな)

 

それを横目にレツはキルアに話しかける。

 

「キルア、キルア。」

「なんだよ…?」

「絶対ヒマになるからさ、どっちが勝つか賭けない?」

「ハァ? …ゴンには悪いが、絶対あのハンゾーの方の勝ちだろ。」

「じゃあ、僕はゴンだね。 賭けた理由は、どちらも似た者同士だから。」

「どういう意味だというのだ?」

「僕は大量にパズルのピースは出した。 ヒマになるんだし、クラピカも考えなよ。」

 

最後のクラピカの質問には答えずにクイズを出し、生真面目なクラピカは腕を組み、本当に本気で考える。

それとは、別に試合が「始め!!」の号令ともに開始される。

 

開始と同時にゴンが横に全力で走り出すが、ハンゾーは音も出さず一瞬でゴンの目の前に移動する。

 

「!!」

「おおかた足に自信ありってとこか。認めるぜ」

 

ハンゾーは鋭い手刀をゴンの首筋に叩き込む。舌打ちしながらキルアはイラつきを持ったまま、レツに話しかける。

 

「今のを見ても、ゴンに勝ち目があるっていうのか? 賭けはやめさせねーけど。」

「やめる? 僕が? それともゴンが? …僕に対してだったらやめないよ。 あとチップはどうする?」

「………なら、命令権を一つ行使できるで。」

「いいよ。」

 

そのレツの反応に毒気を抜かれたキルアはチップを決める。

 

「さて、普通の決闘ならこれで勝負ありなんだがな……」

 

ハンゾーはメンドそうに呟きながら、ゴンを仰向けにして体を起こし、意識を覚醒させる。

 

「ほれ、目ぇ覚ましな」

「っ……!」

 

ゴンは意識がはっきりするも、体が思うように動かず吐き気と目眩を起こす。

 

「気分最悪だろ? 脳みそがグルングルン揺れるように打ったからな。分かったろ? 差は歴然だ。早いとこギブアップしちまいな」

「……嫌、だ!」

 

即答したゴンに、ハンゾーはゴンの側頭部を平手で強く叩き、脳を再び揺らす。ゴンは 脳を強く揺さぶられたゴンは強烈な吐き気に耐え切れず、嘔吐してしまう。 気絶出来るほどではないもの……完全に攻撃ではなく拷問の手段を用いて彼は冷たく言う。

 

「げほっ!……おえっ!」

「よく考えな。今なら次の試合に影響は少ない。意地張ってもいいことなんか1つもないぜ。さっさと言っちまいな。」

「………誰が言うもんか!」

 

直後、ハンゾーは冷めた目で眺めながら次は腹部を蹴り上げる。脳がダメなら内臓を痛めつけることにしたらしい。ハンゾーは、どこまでも合理的に痛めつけられる拷問ゴンは再びうつ伏せに倒れて呻く。

 

(いや、ハンゾーさん、あなたがそれを言う?)

 

そんなツッコミを心の中で入れるレツ。それとは別に試合は、ハンゾーの「言え」という問いかけにゴンは答えず、意地を張り立ち上がろうとする。 直後、ゴンの腹部に拳が突き刺さり、再びうつ伏せに倒れて呻く。その姿にレオリオがたまらず叫ぶ。

 

「ゴン! 無理はよせ! 次があるんだぞ! ここは――」

「レオリオ」

 

何げに思考をやめてはいない、クラピカが呼び止める。

 

「お前がゴンの立場ならまいったと言えるか?」

「死んでも言うかよ! あんな状態でえらそーにしやがって!」

「じゃあ、ゴンも同じだ!」

「分かってる、分かってるよ!! だが言うしかねぇだろ!」

「矛盾だらけだが、気持ちはよくわかる。(ここは引け! ゴン!! 自滅するぞ!)」

 

レオリオの矛盾な意見にクラピカも頷く。

プロハンターでも、ここまで子供に拷問なんて行為を冷徹に割り切れる者は、ごく少数であろう。 そんな拷問に耐える少年に、メンチは戦慄しながら呟く。

 

「全く……会長の性格の悪さときたら私たちの比じゃないわよ。気軽に『まいった』なんて言える奴がここまで残れるわけないじゃないの。一風変わったどころか、とんでもない決闘システムだわ……!! あのコ、やばいわよ。(あ、いや、いっそ死んだらいい方、下手すれば一生ハンター試験を受けるどころか、日常生活すらままならない後遺症を残す結果になってもおかしくないけど、念を使えるあのコなら治せるか。 …だから、冷静なのかしら? でもそれは、あのコが勝つっていう結果にはならないわよね。)」

 

その戦慄はすぐさま解除され、先程レツが言った、クラピカに対しての質問にメンチも考え出す。

 

 

~~~

 

ゴンはまいったと言わず、ハンゾーはひたすらゴンを攻撃すること、三時間。

 

「もう……3時間だぜ。」

「もはや血反吐も出なくなっているぞ。」

 

ポックルとボドロが慄くように言い、回復の力を体験していても、思いつかない、また思いついたとしても、止めるであろうレオリオが、遂に我慢の限界を迎え、怒鳴る。

 

「いい加減にしやがれ…! ぶっ殺すぞてめェ!! 俺が代わりに相手してやるぜ!」

 

その言葉に黒服とレツが止める。

 

「ダメだよ。 ハンゾーもゴンと同じタイプ。 …もう、答えを言っちゃうと、仮にゴンとハンゾーの実力が逆でも、同じようにこうなる。 間違いなく、千日手になるんだ。 それを覚悟して行っている。 …これを回避するには、どちらかが殺して、失格になる覚悟を決めるしかない。(ホントはそれがもっとも良さそうなんだけど。 ゴンもだけど、ハンゾーもヒソカが助けに入って、何かしらであいつが失格のルートになればなぁ…。)」

(…なるほどな。 食事などを確認したのは、その為か…。 だが、それは……!)

「(…ヒントをもらったが、余計にめんどくさいってことが分かっちまったな…。)…見るに耐えないなら消えろよ。これからもっと非道くなるぜ。」

「なんだと…!」

 

思考しながら言い放つ、ハンゾーの言葉にレオリオのみ乗り出そうとする。 クラピカはその答えに納得はしたが飲めていない、がまだ見守ることにした。

 

「一対一の勝負に他者は入れません。 仮に、この状況であなたが手を出せば、失格になるのはゴン選手ですよ!!」

 

その審判を務めている試験管の言葉にレオリオは怒りをこらえ仰け反る。

黒服が止め、レツは自分の言葉を聞かなかったレオリオを一旦、無視しキルアと小声で話す。

 

(というか、まだ温いほうだよね。)

(うん? 電流で気絶していたのにあれ以上の拷問知ってんのか? レツ。)

(僕でも回復させることが出来ない、目や歯の破壊。あと、無理やり回復させての煉獄拷問とか、かな。)

(お前の家、オレん家よりイカれてーねーか? ソレ。 …まぁ、炎や毒、電気を使ってないからな。)

 

やがて、血反吐も出なくなる程の拷問にゴンが、耐えて耐えて耐え抜いた。その結果、ついにハンゾーが『取り返しのつかない結果』も辞さなくなった。

 

「腕を折る」

 

ハンゾーの言葉にレオリオ達は息を呑む。

 

「本気だぜ。言っちまえよ! まいったと!」

「……い、嫌だーーー!!」 ボギッ

 

会場に耳障りな音が響き、左腕を折られて悶絶し、床に額を押し付けるようにして腕を押さえて悶えるゴンに、ハンゾーはさすがに後味悪そうな顔をしつつも言う。

 

(流石に許容できないかな…? 【凝】! オーラの流れは断絶した感じで澱んでいない。 …やっぱりハンゾーは優しいね。アレならさしたる問題もなく治療できる。)

「……さぁ、これで左腕は使い物にならねぇ。」

 

ハンゾーはゴンを見下ろして、言い放つ。しかし、その顔に余裕は一切ない。すると、隣から殺気が溢れてきて目を向けると、そこには歯を食いしばって怒りに震えるレオリオがいた。

 

「クラピカ、止めるなよ。あの野郎がこれ以上何かしやがったら、ゴンにゃ悪いが抑えきれねぇ……!」

「止める? 私がか? 大丈夫だ。恐らくそれはない…!」

 

クラピカも目を見開いている。瞳が赤く点滅しており、怒りに震えている。 レツはそれを見ながら、キルアに相談する。

 

(キルア、気絶させて。)

(まぁ、殺されてもおかしくないしな。たかが左腕が折られたくらいで騒ぐ程度なら、な。)

(そういう事。僕達は、二人よりは、)

(ゴンの覚悟と意地を優先する。)

「(…まぁ最後の望みだけど呼びかけるか…。あとハンゾーにも怒りが向かない言い方となると…)二人はなんでそんな騒いでるのさ?」

「……お前、今、何て言った?」

 

一通り思考してレツは、レオリオの逆鱗に触れるように言い放ち、当然レオリオもクラピカもキレかける。

 

「僕達のような人間にとって、まだまだ甘い範囲で収めてくれてるハンゾーも責めれないし、お門違い。」

「あれでか…? あれが優しいだと…?」

「その程度で怒るなら、クラピカは復讐に向いてないよ。 自分がアレをやることになるって覚悟は? レオリオはともかく、クラピカは怒れない。 それにレオリオも。 …大前提にハンターは、どちらかというと密猟者の討伐もあるし、賞金首ハンターなんてのもいる。 総じて、僕達、闇寄りの拷問や、殺しが必要な職業だね。それでも我慢出来ないなら、ハンターに向いていないよ。 だから、ここで辞めるってどちらかが宣言すれば終わるよ。 ある意味、資質がないって判断にもなるから試験官達も納得するでしょ。」

「けどよぉ……けどよぉ……!」

 

そんな三人の会話に気付いていながら無視して、ハンゾーはゴンに言う。

 

「痛みでそれどころじゃないだろうが、聞きな。俺は『忍』と呼ばれる隠密集団の末裔だ。忍法という特殊技術を身につけるため、生まれた時から様々な厳しい特訓を課せられてきた。以来十八年、休むことなく肉体を鍛え、技を磨いてきた。お前くらいの年には人も殺している。 レツの言うとおり、まだ優しい範囲だ。」

 

何故かいきなり片手で逆立ちをしながら語りだすハンゾー。 キルアとレツは、ちゃんと聞いていたが、彼らからしたら自分の家と同じような環境なので、「いばる程のことかよ。(な?)」と内心で切って捨てられる。

 

「こと格闘に関して、今のお前が俺に勝つ術はねェ!!」

 

いろんな意味で報われない反応をされていることに本人は気付いていないのか、ハンゾーは自分の身体能力を誇示する為、体を支えるのを掌から五指に、そして指の数も一本一本減らしてゆき、ついには人差し指一本で逆立ちをしたままキメ顔で言う。

 

「悪いことは言わねェ。 素直に負けを___」

 

するとゴッ!! と、ハンゾーの鼻っ柱に強い衝撃が走って、指一本で体全体を支えていたハンゾーは当然、派手に倒れる。同時に、ゴンは自分の入れた蹴りの衝撃に折れた左腕が耐え切れず、彼も転んで倒れた。 だが、すぐに体を起こして、左腕を押さえながら涙目で言った。

 

「って~~くそ!! ……でも、痛みと、頭はすこし回復したぞ!」

「よっしゃァアア! ゴン!! 行け!! けりまくれ!! 殺せ! 殺すのだ!!」

「それじゃ負けだよ、レオリオ…… (だが、冷静になるとそうだな。…今はその技術を観察し、盗もう。)」

 

ゴンの反応に便乗して、レオリオもテンションが上がって無茶苦茶なことを言い出し、逆に冷静さを取り戻したクラピカが静かに突っ込み、レツの話のことを考える。そんな声など聞こえていないようで、ゴンはハンゾーに言い放つ。

 

「十八っていったら、俺と六つしか違わないじゃん。それにこの対決はどっちが強いかじゃない。最後にまいったって言うか言わないかだもんね。」

 

その言葉にハンゾーが飛び起きる。打ちつけた痛みで反射的に出た涙と鼻血を流しているのに決め顔をして、ぬぐう前に起き上がった。

 

「わざと蹴られてやったわけだが……」

「ウソつけー!!」

 

レオリオがツッコむ。 ハンゾーはそれを無視して、鼻元を拭う。

 

「分かってねぇぜ、お前。俺は忠告してるんじゃない。命令してるんだ。俺の命令は分かり辛かったか? なら、もう少し分かりやすく言ってやろうか?」

 

ハンゾーは脅かすように刃を見せつけて言う。

 

「脚を斬り落とす。二度とつかないようにな。取り返しのつかない傷口を見れば、「ハンゾーさん、それ僕が治療できるから脅しになってないよ。」………空気読め、テメェは!!」

「いや、だってあまりのピエロっぷりについ…。 今のハンゾーは、ヒソカ以上に道化師の格好が似合うよ。」

 

そのセリフをついついレツがインターセプトしてしまい、空気が緩んでしまう。

 

「(あとで、リアルファイトだ、このガキ! それはそうと、ありったけの殺気を出すか。)…ならば、目を横一文字に潰す。 流石にこれなら治療できねーだろ。 今度こそ、取り返しのつかない傷を負れば、お前も分かるだろう。だが、その前に最後の頼みだ。『まいった』と言ってくれ。」

 

気を取り直し、再度脅すと、殺伐とした緊張感が蘇る。

 

「それは困る!!」

 

しかし、速攻でその空気は持たなかった。 その言葉に全員がポカ~ンとしてしまう。

そのまま、ゴンはその何とも言えない空気の中、真っ直ぐに堂々と言い放った。

 

「脚を切られちゃうのも、目を潰されるのもいやだ! でも、降参するのもいやだ! だからもっと別のやり方で戦おう!」

「な……っ、てめーー自分の立場わかってんのか!? 勝手に進行すんじゃねーよ、なめてんのか!! その目に耳あたりも、マジでたたっ切るぜコラァーーー!!」

 

 あまりのわがまま発言に、レオリオとクラピカは顎が外れそうなほど口を開けて唖然として、ヒソカは耐えきれなかったのか低く笑いだし、それにつられて堅物そうなボドロも「…失礼。」と言い噴き出す。

当然ハンゾーはブチ切れて怒鳴り散らすが、それくらいでゴンは揺るがない。このくらいで揺らぐのなら、ハンゾーは一時間足らずで試験に合格しているのだから。

ゴンは相変わらず真っ直ぐにハンゾーを見据えて答える。

 

「それでも、俺は『まいった』とは言わない!」

 

 言い切ってから彼は、しれっと付け加える。

 

「そしたら、血がいっぱい出て俺は死んじゃうよ。その場合、失格するのはあっちの方だよね?」

「あ、はい!」

 

マスタの答えにゴンは胸を張って、ハンゾーにまたもや堂々と提案する。

 

「ほらね。それじゃお互い困るでしょ。だから、考えようよ。」

「あ~~~、ゴン?」

「何?」

「ハンゾーも君と似てるから、どんな勝負でも互いに「まいった」って言わないし、今から、ポイント制とかを付け足してルールを決めるところまで、漕ぎ着けたとしても、両方合格になる手段を模索するか、負けても「もう一回」って言う結末が見えるよ? だから三日三晩以上、終わらないんじゃない? …究極的には、どっちが餓死するか、になるよ?」

 

そうレツが付け足すことによって、さらにカオスになる。ハンゾーの脅しは完全に自分の墓穴となり、逆にゴンによって脅される結果となったのに、そのゴンの脅しも意味がない、ということである。

 

「……! ……!!」

 

ハンゾーは二人の意見に何も言い返せず、だからと言って先ほどまでと同じような拷問も出来ずにタジタジとなってしまった。 ハンゾーは歯軋りをして必死に突破口を探り、剣をゴンの額に突き立てる。 再び空気が張り詰める。

 

「やっぱりお前は何にも分かっちゃいねぇ。死んだら次もくそもねぇんだぜ。片や俺はここでお前を殺しても、来年またチャレンジすればいいだけの話だ。俺とお前は対等じゃねーんだ!!」

 

だが、追い詰められているはずのゴンは全く揺らいでいない。対する有利だったはずのハンゾーは汗を流し、間違いなく追い詰められていた。 それを見ながらキルアはレツに小声で話す。

 

(レツ、実際ハンゾーの言うとおりだろ。戦闘技術に実力差がありすぎるのに、何故試験が始まる前から、こう予測できた?)

(ん? ……似てる人を知ってる、からかな?)

 

実際に空気を壊して攫うのは、クロロの団長モード、子供モードでもそうである。 意地の張りあいでは、強化系三馬鹿が気に入り、彼ら自身もそうなることがある。 そのリアルファイトはコインルールが無かったら、今のようになるだろう。

 

「何故だ。たった一言だぞ……? それでまた来年再チャレンジすればいいじゃねぇか。命よりも意地が大切だってのか!? そんなことでくたばって本当に満足か!?」

「親父に会いに行くんだ」

 

ハンゾーの叫びにゴンは全く揺らぐことなく、力強く言った。

 

「親父はハンターをしてる。今は凄く遠いところにいるし、一度も会ったことはないけど。それでも会えると信じてる。でも、もし俺がここで諦めたら、一生会えない気がするんだ。だから退かない」

 

「退かなきゃ……死ぬんだぜ?」

 

己に誓う様に言うゴンと、改めて剣を突き立てて告げるハンゾー。 それでもゴンはやはり揺らがない。

数秒見つめたハンゾーは目を瞑って、突き付けていた刃物を引いた。

 

「(理屈じゃねーんだな……)まいった。俺の負けだ。」

 

武器をさらしの中に仕舞いこんでハンゾーはゴンから背を向けて、降参を告げた。

 

「俺にはお前は殺せねぇ。かと言って、お前にまいったと言わせる術も思い浮かばねぇ。俺は負け上がりで次に賭ける。」

 

そう言って、ハンゾーはゴンの前から去ろうとするが、何故かゴンは不満そうな表情を浮かべた。

 

「そんなの駄目だよ、ずるい!! ちゃんと二人でどうやって勝負するか決めようよ!」

ピキ「……言うと思ったぜ。馬鹿か、てめぇは!! てめぇはどんな勝負をしようがまいったなんて言わねぇよ!! …いみじくもレツが言ったとおり、俺もな!」

「だからって、こんな風に勝ったって嬉しくないよ!」

「じゃ、どうすんだよ!?」

「それを一緒に考えようよ!」

 

無茶苦茶理論をまだ展開するゴン。 とうとうハンゾーは坊主頭に青筋を浮かせる。

 

「要するにだ。俺はもう負ける気満々だが、もう一度勝つつもりで真剣に勝負をしろと。その上でお前が気持ちよく勝てるような勝負方法を一緒に考えろと。こーゆーことか!?」

「うん!!」

「アホかーー!!!」

 

かなりイイ顔で返事をしたゴンだったが、ハンゾーの素晴らしいアッパーで吹っ飛んで今度こそ完全に目を回し、試験官に担がれて、控え室で手当を受けることとなった。

 

「おい、審判。俺の負けだ。しかし、そいつが目覚めたら、きっと合格を辞退するぜ。一度決めたら意志の強さは見ての通りだ。不合格者はたった一人なんだろ? ゴンが不合格ならこの後の戦いは全て無意味なものになるんじゃないか?」

「心配ご無用。ゴンが何と言おうと合格じゃ。それは変わらんよ。仮にゴンがごねて儂を殺したとしても、資格が取り消されることはない。」

「なるほどな。」

 

そしてハンゾーは、次の試合まで待機すべく、部屋の脇に寄る。

 

「…意外だったな。 ハンゾーも似た気質だから、最低でも丸一日はかかると思っていたから確認したのに。」

「そんなにか? あと、空気を壊しやがって、レツ、後でリアルファイトな。」

「…………なんで、わざと負けたの?」

「……わざと?」

 

レツの発言にもキルアの発言にも、ハンゾーはやや心外そうに言う。 そのキルアはどこか拗ねているような顔をして、もう一度訊いた。

 

「殺さず、『まいった』と言わせる方法くらい心得ているはずだろ、あんたならさ。」

 

キルアの疑問に、数秒間の沈黙が落ちる。 同じ疑問を抱いていた者はハンゾーの答えを待ち、気付いていなかった者はおそらくキルアの言葉で気づいたのだろう。 ゴンにとって大事な人を傷つけるという脅迫の方が有効であるということに。 ゴンも「親父に会えない気がする」という『妄執』に囚われたが、ハンゾーの方にも「ゴンにまいったと言わせる術が無い」という『妄執』に囚われた、と言えなくもないのだ。

その疑問に、ハンゾーはほんの少しだけ考えてから答えてやる。

 

「俺は、誰かを拷問する時は一生恨まれることを覚悟してやる。その方が確実だし、気も楽だ」

「?」

「どんな奴でも痛めつけられた相手を見る目には、負の光が宿るもんだ。 目に映る憎しみや恨みの光ってのは、訓練してもなかなか隠せるもんじゃねー」

 

しかし、質問とはあまり関係のないハンゾーの自分語りが始まって、キルアは意味がわからないと言いたげな顔になる。 それを気にせず、ハンゾーはそのまま語る。

 

「しかしゴンの目にはそれがなかった。信じられるか? 腕を折られた直後なのによ。 あいつの目はもう、そのことを忘れちまってるんだ」

 

言われて、キルアも思い出す。 ゴンのあまりにも真っ直ぐな、真っ直ぐすぎてハンゾーすら通り過ぎて見ていなかった、あの眼を。

 

「気に入っちまったんだ。あいつが。 あえて敗因をあげるなら、そんなとこだ」

 

ハンゾーは自分の敗因をそうまとめたが、キルアは納得しかねる顔をしていた。 しかし、どうして納得できないのかが自分でもわかっていないキルアには、それ以上何を訊けばいいのか、どこを反論したらいいのかがわからずに黙り込んでいると、レツが賭けの中身を言う。

 

「さ、賭けは僕の勝ち、だね。」

「……おう。 だが、もう一度なら……!」

「ここから先は賭けは成立しないと思うけど……。」

 

キルアは意外にも素直に負けを認め、例のギャンブルの悪癖がここで初めて露呈する。 レツはその事に、対戦カードを思い返しながら、話す。 そこにハンゾーが割り込み、話し出す。

 

「おい、なんだ? 賭けって。」

「ああ、今の試合、どっちが勝つか賭けていたんだ。 結果はレツの勝ち。」

「おし、あらためてリアルファイト確定な!」

 

キルアはうすら寒いものを感じたのをごまかすようにレツとハンゾーにバトルになるよう、告げ口した。

言い返しやゴンの回復は、次の試合の関係上、審判によって遮られたので、今は後回しになる。

 

~~~

 

「第二試合! ギタラクル対レツ!! ……それでは……始め!!」

 

審判の試験官が合図を告げる。 しかし、さっきの試合に感化されたのか、熱くなりつつある場の空気と異なり、ギタラクルとレツは動かなかった。 せっかくの機会なので、レツはまず指を立てて、【念文字】で『【発】は抜きで、ご教示願います』と書き、ギタラクルは頷いた。

それを確認したので、レツはしばらく一方的に攻撃するが、ギタラクルは翻弄していく。 …その中でも、攻撃するのが優先される、体の中心沿いに攻撃を仕掛け、無言で格闘方法を教え込む。 また、足技も多用する方法という、ギタラクルとレツ、四次で接触したヒソカや、卓越した武人のネテロ位にしか分からなかった。 小一時間は戦っただろうか。やがて、身体を動かすことさえ激痛が伴うようになっていったレツは倒れ込んでしまった。 またしても拷問が始まるのか、と思いきやギタラクルの方が『まいった』を宣言。なお、しっかり自力で回復するので、救護室に行かず、レツは観戦を続ける。

 

以下、第三試合、ヒソカ対クラピカ。

 

試合開始直後から、クラピカは臆すること無くヒソカへと突撃し、勇猛果敢に攻め始めた。 対するヒソカはどう見ても手を抜いていており、明らかに手加減しているヒソカとクラピカが闘ったあと、攻防を見る限りでは実力の拮抗したいい勝負に見えないこともないが、その表情を見ればどちらが優位かは一目瞭然であった。 歯を食いしばり、必死に食らいつくクラピカに対して、ヒソカは非常に気持ち悪い舌なめずりまでして、随分と余裕な表情だ。 周囲の人間が固唾を飲んで見守る中、ついにクラピカの剣の片方がヒソカのトランプの斬撃によって両断され、使い物にならなくなる。 一瞬怯んだクラピカの、その僅かな隙を突いて肉薄したヒソカは、何故かクラピカに攻撃するのではなく、顔を寄せ、クラピカの耳元で何かを囁くヒソカが、その直後に負けを宣言。 クラピカの勝利、ヒソカの負け上がりとなった。

 

第四試合はハンゾー対ポックル。

 

先ほどの温い拷問を時間をかけて行ったのを反省したハンゾーは、速攻でゴンと同じような展開を辿らせ、

 

「……悪いが、アンタにゃ遠慮しねーぜ?」

「っ!? ……ま、まいった。」

 

この一言が決め手となり、ポックルがあっさりと負けを宣言した。

 

第五試合、ボドロ対ヒソカ。

 

この試合も一方的なものであった。 必死に攻め、防ぐボドロを、圧倒的実力差で以ってヒソカは遊びながら翻弄していく。 嬲るようなヒソカの攻撃により、やがて傷つき、倒れこむボドロ。そしてまたもやその耳元に顔を寄せ、何事か囁くという不気味な行為を行うヒソカ。 しかし今度はヒソカではなく、ボドロが負けを宣言した。 これもしっかりレツが回復を行う。 もう、自分の合格は決まり、残量を節約することに、そこまで意味を持たなくなったためである。

 

第六試合、キルア対ポックル。

 

レツがあそこまでボコボコにされた男に勝てば、間違いなく自分が優秀であり、今までの意趣返しになると考え、キルアが「悪いけど、次の人と戦って、レツに勝ちを証明したいんでね。」と自信たっぷりに言い、負けを宣言する。

 

第七試合、レオリオ対ボドロ。

 

万全に治療されたボドロは万全であり、延期など起こらず、しっかりと戦いその末、僅かに戦闘能力が上であった、レオリオが勝った。

 

~~~

 

第八試合、キルア対ギタラクル。

 

「始め」と声がかかるなり、自分の強さを誇示したい、キルアは実戦において、圧倒的有利である先手必勝を狙う。すぐさま後ろに周り、気絶を狙おうとするも躱される。 続けて攻撃を仕掛け続けるキルア。 その間に顔に刺さっていた針を引き抜きだしたギタラクル。

やがて顔が戻ると、ここにいるはずのない、有り得ないと思っていた、自分の恐れている人物に、完全に萎縮してしまったのだろうキルアは、おそらく無意識に、一歩後ずさる。

 

「兄……貴!!」

「や」

 

 

キルアの驚愕で彩られた声が響き、素顔を露わにしたイルミは気軽に声を掛けるのに対して、キルアは冷や汗が噴き出して、思わず右脚が一歩後ろに下がる。

 

(……あれ? ここで自分からバラすんだ?)

 

レツはそんなことを思い、首を傾げる。それとは別に事態に困惑する周りの人間を置き去りに、マイペースにキルアに軽く挨拶をして、事実確認を問いかけた。

 

「母さんとミルキを刺したんだって?」

「まぁね。」

「母さん、泣いてたよ。」

「そりゃそうだろうな。息子にひでぇ目に遭わされちゃよ。」

「感激してたよ。あの子が立派に成長してて嬉しいってさ。」

「はぁ!?」

 

家庭内暴力では済まない惨劇を聞かされてツッコミを入れるレオリオだが、続けて放たれた言葉にずっこけ、その他の人間は脱力、もしくは困惑した。

 

「『でも、やっぱりまだ、外に出すのは心配だから。』それとなく様子を見に行くように頼まれてたんだけど。奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいなんてね。俺も仕事の関係上資格を取りたくてさ。」

「……別にハンターになりたかったわけじゃないよ。ただ、なんとなく受けてみただけさ。」

「……そうか。なら、心おきなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから。」

 

断言するイルミの言葉に、キルアは更に汗を流しながらもイルミを睨み返す。

 

「お前は熱を持たない闇人形だ。何も望まず、何も欲しがらない。陰を糧に動くお前が唯一歓びを抱くのは、人の死に触れたときだけ。お前は俺と親父にそう造られた。そんなお前が何を求めてハンターになると?」

 

分かり辛い愛情だが、レツには分かってしまい、兄の『妄執』に囚われる。

 

(……こんな、とこまで似てるんだね。)

「確かに……、ハンターにはなりたいと思ってる訳じゃない。 だけど、俺にだって欲しいものくらいある。」

「ないね。」

 

しかし、イルミは即座に否定した。自分の言葉は、キルアの本意ではないだろうとは分かってる。だが、そんなものを持って欲しくないから。 弱ければ、何も得ることが出来ない現実を知っている。 今はまだキルア自らが持つのはダメと考える。 せめて一人前になってから。 そんなことは、表に出すこともない。 憎まれていた方が気が楽だから。

そうとは知らぬキルアは、もうその答えに怒りを覚えることなどなかった。 そんなことしても、この長兄は何も聞いてはくれない、何も響かないことだって、この十二年間で学びつくして諦め続けてきた。

だが、ここで諦めてしまえば、次はくるのか。 様々な選択を迫られた試験の中で、本当に向き合うのは、『今だ』ということを理解できたから。

 

「ある! 今、望んでることだってある!」

「ふーん 言ってごらん。何が望みか?」

 

興味がないどころかキルアの叫びを言葉として認識しているかも怪しく思えるほど、気の抜けた相槌を打たれたが、珍しくイルミは続きを促し、キルアは僅かに躊躇する。

 

「どうした? 本当は望みなんてないんだろう?」

「違う! ……ゴンと……友達になりたい。 レツとライバルでありたい。」

 

キルアは俯きながら言う。

 

「もう人殺しなんてうんざりだ。普通に二人と友達になって、普通に遊びたい。」

「無理だね。お前に友達なんて出来っこないよ。お前は人という者を殺せるか殺せないかでしか判断できない。そう教え込まれたからね。今のお前にはゴンが眩しすぎて、測り切れないでいるだけだ。 レツとは今は勝てず、殺せないからだ。 友達になりたいわけじゃない。」

「違う……」

「彼らの傍にいれば、いずれお前は二人を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試したくなる。何故ならお前は根っからの人殺しだから。」

 

そこにレオリオが一歩前に出る。

 

「キルア!! お前の兄貴かなんかか知らねぇが言わせてもらうぜ! そいつは馬鹿野郎でクソ野郎だ、聞く耳持つな!! ゴンとレツと友達になりたいだと? ふざけんな!! お前らとっくにダチ同士だろーがよ!!」

「……!!」

「少なくともゴンはとっくにそう思ってるはずだぜ!! なんならレツに聞け!」

「え? そうなの? …どうなの? レツ。」

 

二人が目を向けると、レツは左目から涙を流して答える。

 

「おい? …どうしたんだレツ!?」

「……僕もそんなのが居なかったから、『分からない』としか返せない。 この涙は、教育まで死んだ兄さんに似ていたから……」

 

その意見にイルミは望外の保証を手に入れ、一つ安心する。自分は間違っていない、と言い聞かせる。 他の人は慄いていた上、言質をレツから取れなかったのが予想外でもあった。 なんとかレオリオは再度、怒鳴る。

 

「…だが、ゴンは絶対そのつもりだぜ! バーカ!!」

「そうか……。まいったな。ゴンの方はもうそのつもりなのか。」

 

顎に手を当てたイルミは数秒考えて、決められたシナリオ通りに動かされる人形のように言う。

 

「よし、ゴンは殺そう」

「「「!!」」」

 

キルア、レオリオ、クラピカが目を見開く。

 

(…本当に優しいね。 分かりづらいけど、殺る気なんて感じられない。 これを言ったらキルアの兄だし、同じよう反発するだろうけど。)

 

レツはそんなことを憶う。 実際にイルミは【練】を使っていないのだ。 絶句するキルアや受験生、試験官達をよそに、イルミは相変わらず舞台上で演技をするように言葉を続け、観客たる周囲の反応とは別に、レツは人形師として違和感を感じる。

 

(…? なんだろ…? どこか歯車があっていない人形劇に見える…?)

「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから。」

 

そう言うとイルミは扉へと向かい始める。

 

「彼はどこにいるの?」

「ちょ、待ってください。まだ試験は……あ」

 

止めようとした試験官の頭にイルミは針を突き刺すと、試験官の顔が歪に変形し始めて、苦し気に呻く。

 

「あ……? アイハハ……」

「どこ?」

「ト、トなりノ控え室ニ……」

「どうも」

 

無理矢理針を刺した試験官からゴンの居場所を聞き出したイルミは、扉に向かって歩き始める。レオリオ、クラピカ、ハンゾーや試験官達が扉の前に立ち塞がり、レツは参加せずにその場を動かずに突っ立っていた。レツに立ちふさがるよう三人は言ってたが、首を振ったためである。 それとは別にイルミは扉に悠然と進んでいて、封鎖を優先した。 その距離からレオリオが言う。

 

「レツ! お前、兄に似ていてもゴンを殺すとかいうやつが、本当にそうなのか!!?」

「………」

 

その怒鳴りは聞こえるが、殺す気を感じないイルミなのに、酷くズレてるように聞こえるので、動かなかった。 一応イルミに目を向けて、『バラしてもいい?』と【念文字】を送ると、針が飛んでくるので首を振って躱す。

それはレツにとっては『否定』という意味合いと伝わるが、他からすれば勿論、異なる。

 

「おい!? …レツ、今殺されかけてんじゃねぇーか! それでもか!?」

 

続くレオリオの発言にもレツは沈黙する。そのままイルミは続ける。

 

「俺達の事なんか別に、君にわからなくてもいいよ。そこ退いてくれる?」

 

その発言に対して、誰も引かないのを見て、イルミは続ける。

 

「まいったなぁ……。仕事の関係上、俺は資格が必要なんだけどな。ここで彼らを殺しちゃったら、俺が落ちて自動的にキルが合格しちゃうねぇ。 うーん」

 

そしてしばらく考え込んでいたイルミだが、突如「そうだ!」と、いかにも名案という風に、しかしやはり棒読みで言い放つ。 「下手すぎる演劇だなぁ」とレツは感じていた。

 

「まず合格してから、ゴンを殺そう!」

 

ビク、とキルアの身体が大きく震えた。全身に、尋常でない量の汗が流れだす。

 

「それなら仮にここの全員を殺しても、オレの合格が取り消されることはないよね。」

「うむ。ルール上は問題ない」

 

倫理上大問題な発言も、ネテロは眠そうな覇気のない目で淡々とそう返すと、イルミは僅かに頷く。そして、嫌な汗をだらだらと流しながらもイルミの背中を見つめているであろうキルアに言う。

 

「聞いたかい、キル。オレと闘って勝たないと、ゴンを助けられない」

 

イルミは振り向き、オーラをゆっくりと増幅させ、”ただ”の【練】を行った。レツとヒソカにはイルミの淀み無く広がるオーラが見えたが、他の受験者には、そしてそれを向けられているキルアには、得体の知れない圧倒的なものとしか感じられないのだ。

 

「友達のためにオレと闘えるかい? できないね。なぜならお前は友達なんかより、今この場でオレを倒せるか倒せないかのほうが大事だから。 実際にさっきレツに攻撃した時も、お前は見捨てて動かなかった。 それが唯一の本性だからね。 そしてもうお前の中で答えは出ている。」

 

──オレの力では、兄貴を倒せない。“無理はせず、100%殺れると思った時のみ実行する。” 続くイルミの言葉にも反論しない。

 そんな家族の『妄執』に囚われるキルア。

 

「“勝ち目のない敵とは闘うな”。オレが口をすっぱくして教えたよね? 俺と戦って勝たないと、ゴンは助けられない。」

「動くな。──少しでも動いたら、戦い開始の合図とみなす。同じくお前とオレの身体が触れたその瞬間から戦い開始とする。止める方法は一つだけ。わかるな?」

 

オーラをまとったイルミの手が、ゆっくりとキルアに近付いてゆく。キルアの緊張が極限まで張りつめるのが、全員にわかった。 レツもこれを繰り返されてきた事、特に琴線に触れてしまうと喰らったこともあるが、流石にわざわざ嫌な感じにしたオーラを目の前に近づけさせられたら気分が悪い。オーラや念の存在を知らないキルアにしてみれば、ケタが違う恐怖感と不快感なのだろう。

 

「だが……忘れるな。お前がオレと闘わなければ、大事なゴンが死ぬことになるよ」

 

キルアは、端から見ても気絶してしまうのではないかと思うほど緊張している。レオリオが再度大声でキルアに声援を送るが、聞こえているのかいないのか、彼はゆっくりゆっくりと近付いてくる兄の手から目を離せないまま、とうとう言った。

 

「──…………まいった。オレの……負けだよ」

 

レオリオ、クラピカが驚愕に目を見開く。キルアは完全に俯いていた。もう緊張はしていない。 人形の糸は切られ、演目は終わったのだ。 イルミはそんな弟を見遣り、一瞬黙って、僅かに失望するが、同時に安心したように、初めて笑みを浮かべて軽く手を叩いた。

 

「あーよかった、これで戦闘解除だね。はっはっは、ウソだよキル、ゴンを殺すなんてウソさ。お前をちょっと試してみたのだよ。」

 

レツは「やっぱり」と思う。クロロやらのおかげで、嘘を見破るのはわりと得意だ。イルミは初めから、ゴンを殺す気などなかった。 正しく失敗をしないように、試してみた、もしくは確認したのだ。

 

「でも、これではっきりした。お前に友達をつくる資格はない。必要もない。」

 

失望感があるイルミはキルアの頭を撫でながら、ゆっくりと、しかし半ば本気で言った。

 

「今まで通り親父やオレの言うことを聞いて、ただ仕事をこなしていればそれでいい。ハンター試験も必要な時期がくればオレが指示する。今は必要ない。」

 

その後は、抜け殻のようになったキルアは、クラピカやレオリオのどんな言葉にも反応することはなく、じっと下を向いて、次の試合になった。

 

「…レツはなんかねーのか?」

「…これはキルアにとって大事なこと。 誰も手を貸しちゃダメなんだよ。きっと。」

「それでも、さっきの攻撃などはどうなのだ?」

「…あれは、死ななきゃセーフっていう、僕達独特の考えのやりとり。 だから特に思わないよ。」

 

レオリオの言葉にレツは意見を述べる。続けてクラピカが確認するが、それにも闇の世界としての意見が帰ってくる。 納得はせずにひとまずは、次の試合が始まるのでそれを見ることにした。

 

「……最終試合! キルア対ボドロ!」

 

そう宣言がされると同時に、ボドロは、すっと構えを取る。

 

「──子供と闘う拳は持たぬが、手合わせ、ということであれば良かろう。殺しあい___」

 

ボドロはそれを言い切る事なく、審判の「始め!」という宣言がなされないまま、キルアの鋭い爪が、正面からボドロの心臓を破壊した。 そんなキルアの答えにレツは話す。

 

「…キルア、『家族』と向き合いなよ。 これが、僕のチップの使い道。」

「……………おう…………」

 

それ以上、キルアは何も言うことなく扉の向こうに消えた。

ボドロの身体から驚くほど大量に流れ出していく真っ赤な血が残され、レツの【癒しの碧玉/ホーリーヒーリング】をもってしても、流石に心臓の再生などは出来ない。蘇生不可能なほどに完璧に殺された、ということだ。 後味の悪い雰囲気のまま、審査委員会はキルアを不合格とみなした。

 

       ___こうしてハンター試験は終わりを迎えた___

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