子兎の人形師は何を想う 作:夜空人
No.21/ジョウガイ✖ノボリ✖ショウガイ
レツ達、三人は飛行船に乗って、天空闘技場を目指していた。
キルアとゴンは飛行船代で財布がほぼすっからかんになるらしい。 レツも二人ほどではないが、少々危ない。
いざとなったら【絶】で旅団仕込みのスリ、という術や、手元からしばらく放すと消える、宝石の指輪の空売りのような詐欺行為が、なくもないのだが。
日付は、3月に入り、飛行船を降りた三人は天空闘技場に登録する者達の列に並ぶ。
「すごい行列だねーー。これ全部挑戦者なの?」
「ここはハンター試験と違って小難しい条件は一切なし! ただ相手をブッ倒せばいいだけからな。」
列はあっという間に進み、三人は登録窓口に辿り着く。
「天空闘技場へようこそ。 こちらに必要事項をお書きください。」
そう受付は言い、三人は、記入用紙に〈格闘技経験、十年と誤魔化し〉て記入し、登録を済ませた。
「キルア様は2054番、ゴン様は2055番、レツ様は2056番となります。 一階では番号でお呼びしますので、お聞き逃しのないように。 それとレツ様。 その腰の武器は使用を禁じられております。」
「分かりました。」
受付はレツに、腰のコルトパイソンダガーの使用不可を言い、それに応じ、外して鞄に仕舞った。 受付はそれを確認すると、頷いた。
「それでは中へどうぞ。」
三人は中へと足を踏み入れる。 ワーや、ウォーといった、中は熱気で溢れており、16個の小さいリングでは挑戦者達が戦いを繰り広げていた。
キルアが六歳の時の経験を述べ、「200階に昇るのに、二年かかった」と言い、続けて「ヒソカクラスのと戦いたいなら、それより上に行かないとダメだ」ともいう。
そこにアナウンスが流れてくる。
『1973番、2055番の方。Eのリングへどうぞ』
『1985番、2056番の方。Kのリングへどうぞ』
「あ、俺だ。 うぅ~……緊張してきた~」
「ん? 僕もか。」
「そう言えばゴン。 お前、試しの門クリアしたんだろ?」
「え? うん」
「だったらさ、思いっきり押せ。それだけでいい」
「え? 本当に?」
「頑張ろ!」
キルアの言葉にゴンは懐疑的だった。 そこまで力が上がったようには思えなかったからだ。
しかし、キルアは問題ないと親指を立てて笑みを浮かべ、レツも励ます。
レツとゴンはリングへと向かう。
二人の子供の登場に、周囲は小馬鹿にするように笑う。
「おい、見ろよ。ガキだぜ?」
「こっちもだ。」
「おいおい! おまえらぁ! 怪我する前に帰んな!」
野次が飛んでくるが、もちろん二人は気にもしない。 レツの相手は黒髪でガタイの良い男。 審判が近づいてくる。
「ここでは挑戦者のレベルを判断します。3分以内に自らの力を発揮してください。それでは、始め!!」
「ひゃっはー!! 怪我してもしらねぇぞ、ガキィ!!」
男が飛び掛かろうとした瞬間。
「ごっは!?」
男が突如、真上に飛ばされた。 審判や野次を飛ばしていた連中は目を見開いて固まる。 男はそのままアーチを描いて、観客席の最上段に墜落する。
リングには足を相手の顔、とくに顎があったであろう位置に、右足を突き出し、左足で立っているレツがいた。
「う~ん、足のみって、意外と難しいな…。」
ドオオォン!!
そこに音が響き、目を向けるとゴンが右腕を突き出して立っており、その先には巨漢の男がレツと同様に、場外へアーチを描いて、観客席に吹っ飛ばされていた。
ゴンが行ったのは、ただシンプルに押したのは、変わらないのだが、【2】まで開いた筋力と、どうしても身長の関係で、審判から見て、角度が鋭角に突き刺さるように、腕を伸ばしていたからだ。
「な!? なんだ、あの二人のガキ!?」
「どっちもすげぇパワーだぞ!」
「ああ……どっちも観客席に吹っ飛ばすなんて、並大抵のことじゃ出来ねェ。」
レツとゴンの力に周囲がざわつくのをよそに、審判がレツに近づく。
「2056番、貴方は50階へ行ってください。」
「分かりました。」
レツはチケットを受け取り、観客席に戻る。 ゴンも戻ってきて、キルアが入れ替わる様にリングへと向かう。
「50階だって。」
「僕も同じ。」
そのレツの言葉に相槌を返していると、リングで再び、どよめきが走り、 何やら黒髪丸刈りの男が吹っ飛んでいた。
「おいおい、他にもまだ化け物みたいなガキ共がいるぞ!」
観客から注目されていたのはキルアと道着を着た坊主頭の少年。 坊主頭の少年は「押忍!」と挨拶をして、リングを去った。
キルアの方は、首裏、ではなく正面から首に手刀を入れ、変に対抗心を出したのか、その角度から、《観客席飛ばし》を同じく決行した。 対戦相手の被害としては、ゴンはマシだろうが、レツは顎の骨が折れるだろうし、キルアも深い所の顎関節あたりが折れただろう。
レツはその少年が【纏】を纏っていることに気が付くが、この少年のみ、【纏】をしてるのに、《観客席飛ばし》をしなかったのが、不思議に思っていた。 そこにキルアが戻ってきた。
「お疲れ、キルア! 何階?」
「おう。 オレも50階からにしてもらった。金稼ぎたいし、同じ階でしか、対戦は組まれないからな。 ……絶対にレツに勝つからな!」
「こんな観衆の面前で、恥を掻きたいなんて、キルアは物好きだね。」
「また、喧嘩してー さっさと上に行こうよ。」
再びギスギスとし始めるが、それとは別にゴンが仲裁する。 もうこれはお決まりのルーチンと化している。 エレベーターを使い、50階にまで、昇ろうと乗り込む。
エレベーターガールが「ここからは、10階単位で、振り分けられていて、ここの場合、勝つと、60階に。 負けると40階に降りるシステム」という。
「100階をクリアすると、専用の個室を用意してもらえるんだ。」
「「へぇー」」
そこに追加情報をキルアが言い、二人は感嘆していると、道着を着た坊主頭の少年が話しかけてきた。
「押忍! 自分、ズシと言います! お三方は?」
「オレ、キルア」
「俺はゴン」
「僕はレツ」
自己紹介を終えたタイミングで、50階に到着し、四人はエレベーターから降りる。
「さっきの試合、拝見しました。いやー、すごいっすね。」
「何言ってんだよ。お前だって一気にこの階まできたんだろ?」
「そうそう」
「でも、《観客席飛ばし》出来るのに、それをしなかったのは何で?」
ズシの発言に、キルアとゴンが感想を言い、レツは「【纏】をしてるのに、それが出来ないわけがない」と思っていて、質問する。 それにズシはしっかりと答える。
「あんな真似は自分には出来ないっすから。 自分なんかまだまだっす。 ところで皆さんの流派は何すか? 自分は心源流拳法っす!!」
ズシはビシっとポーズをしながら流派を名乗る。 しかし、レツ達は顔を見合わせて、答える。
「別に……ないよな?」
「うん」
「僕は、きちんと教わってるし、ここで『先生』と合流予定だからね。」
「ええ!? お二方は、誰の指導もなくあの強さなんすか……。 ちょっぴり自分ショックっす。 やっぱり自分、まだまだっす。」
そこに拍手の音が聞こえてきた。
「ズシ! よくやった」
「師範代!」
眼鏡をかけて寝ぐせ全開の優男がズシに近づく。 レツはこの男がズシに念を教えているのだと理解した。
ズシがシャツが出ていることにツッコミを入れ、その男は服を直し、発言する。
「そちらは?」
「あ、キルアさんと、ゴンさんと、レツさんです。」
「初めまして、ウイングです。」
「「押忍!!」」
「初めまして。」
「まさかズシ以外の子供が来ているとは、思わなかったよ。 君達は何で此処に? 《レツさんは、念が使えましたね?》」
ズシの紹介に、三人は挨拶をする。 ウイングは発言しながら、【念文字】を右肩の上に書く、という平行思考も要求される、何気に高度な事をやってみせる。
「えーと、まぁ強くなるためなんだけど。」
「僕も同じ。《はい、使えます。》」
「キルア、ここの経験者なんです。」
それに相槌をしながら、レツも【念文字】で会話する。
「そうか… ここまで来るくらいなんだから、それなりの腕なんだろうけど、くれぐれも相手と自分、相互の体を気遣うようにね。《ここで【発】の特訓ですか?》」
「「「押忍!!」」《もう、完成していて、ここで使いこなす訓練です。》」
ウイングは頷き、ゴンとキルアは返事と思い、レツはそれに納得と理解をする。 すれ違ってるようで、二つの目的に同時に答えたのである。
そのまま四人は、受付にて、チケットを出し、152ジェニーという缶ジュース一本分のギャラを貰う。
そこでキルアは、自販機で缶ジュースを買って、この闘技場のファイトマネーの相場を話す。 その話に、ゴンは疑問を出す。
「200階だと、大体いくらになるの?」
「んーとね、正確に言うとオレ、200階に言っちゃった時点で、やめちゃったから、わかんないけど、190階で勝った時は、二億くらいだったかな。」
そのキルアのコメントにズシとゴンは、どんなお菓子なのかと夢想し、レツは困惑しながら聞いていた。 何せ、クロロに「五億は稼げ」と言われてるのに、これでは達成できそうにないからだ。 そこでレツは質問する。
「他にも、金稼ぎの方法ってあるの?」
「ん? …ああ、ギャンブルスイッチって言って、どちらが勝つか賭けをするんだ。 勝ち目の倍率に応じて、配当金が変わる。 …だけど、選手登録したオレたちは参加できないぜ。 金払ったら、観戦はできるけど。」
「なるほどね。(…あー、僕の能力で、変身すれば、そう簡単にバレないように、挑戦しろと。)」
キルアは「もう一試合、組まされる可能性がある」と言い、四人は控え室に入る。 ベンチに座り、さらに続けて「この階程度なら、楽勝」といい、しばらく雑談する。
そしてアナウンスの呼び出しが始まる。
『2054番、キルア様』
「お、お呼びだな。」
『1963番、ズシ様。 57階、A闘技場へお越し下さい。』
「うえ!」
「あら。」
「押忍!! 胸をお借りします!」
「ああ、まあクジ運、クジ運。 次、頑張れよ。 じゃ、先にな。」
「うん。 二人共頑張って。」
「いや、本当にズシはついてないね。」
「上の階で待ってるぜ。 ゴン、レツ。」
最後のキルアの言葉に、ズシはゴクリと唾を飲みながらも、その部屋から出ていった。
「あんなにハッキリ言わなくったって良いのに。」
「でもそれが本当だから、仕方ないよ。」
そのゴンの言葉に、レツが発言する。 しばらくすると、再びアナウンスの呼び出しが流れた。
『2055番、ゴン様』
「お、俺の番!」
『2056番、レツ様。 57階、B闘技場へお越し下さい。』
「「………」」
二人は顔を見合わせ、苦笑する。
「えーっと、ゴン、試験のヒソカのプレートと言い、クジ運なさすぎない?」
「あはは、それは分からないよ。 とりあえず、その会場に向かおう。」
~~~
『さあ、皆様、お待たせしましたァーーーーーー!! こちらも隣のA会場と同様、”少年”同士の戦いです! しかしこちらも___』
レツはそんなアナウンスを聞いて、フラッシュバックしていた。
男と思われ、四角い石のリング。 観客も居る。 違うのはアナウンスの存在くらい。 これは致し方ない。
多分、一番悪いのは、レオリオである。 耳年増の原因である、キキョウは善意であるのに対し、三次試験のセクハラ事件は、完全に悪意といえば悪意であるのだ。 それらの要素が綺麗にかみ合ってしまったが故の……ある意味悲劇だった。
対戦相手のゴンはゴクリと唾を飲んだ。
(……やばいかも。 なんかレツ、能面みたいな顔して、どこか怒ってる…)
そう、そのツケを理不尽に払わされるのだ……。 そんな緊張とは、別に紹介が終わってしまったアナウンス。 審判が合図を取る。
「ポイント&KO制!! 時間無制限!! 始め!!!」
その宣言がなされると同時に、レツは駆け出した。 これには理由として、【絶】で心を落ち着けようと頑張っていたが、念は心が顕著にでてしまう。 長くは持たないと判断し、今の致命傷が特にない状態の内に仕留めるが吉と判断した。 ……その速度に、帽子が外れてしまうが。
__隣のA会場では、ズシがK.Oしないことに業を煮やした、キルアが本気を出してしまう所だった__
ドゴォ!!
「「ゴハッ」」ゴキベキ
「「やば(べ)っ」」
『どちらも、場外まで楽々、ふっとんだァーーーーー!! これは素人目に見ても、カンペキ病院送りコース直行ォォーーーーー!!』
ゴンの肋骨が折れるだけで済むのは、元々強靭な肉体な上、さらに《試しの門》にて強化されてるのと、レツが足技に不慣れであり、その蹴りを喰らった結果。
一方、ズシの肋骨が折れてしまったのは、キルアが純粋にパワーアップしてるからだ。 そして二人は気絶……せず、不屈の闘志で、立ち上がりかけ、意識を明確に持ってはいるが、審判が「やれるか?」と、聞くも、リングに戻れなかった。
『ゴン選手、立てませんーーー!! ダウンによる、K.Oで、レツ選手の一発勝ちーーー!! そして、レツ選手はあの髪の長さからして、この天空闘技場では、大変珍しい、女性選手だったようです!! 今後も、TKO勝ちを収めた、隣のキルア選手に、今回は負けてしまった、二人の少年にも、期待しましょうーー!』
そうアナウンスが流れ、試合は終わった。
「ゴン! 大丈夫!? しっかりして!」
「アイタタタタ……、うん、大丈夫。 レツが治してくれてるし。」
そして試合が終わり、これで気兼ねなく手を貸すことも出来るようになり、落ち着いたレツは、ゴンを【癒しの碧玉/ホーリーヒーリング】で、肋骨を治療してゆく。 治療が終わったあとに、二人はその会場を後にした。 お互いに隣の会場であり、キルアもそのモニターを見ているので、この57階の会場裏で合流し、レツはもれなく、ズシの治療も行った。
~~~
三人は、そのまま60階に上がり、キルアとレツはファイトマネーを貰う。 ゴンは40階に落ちる事となり、ファイトマネーが貰えなく、宿代の問題が生じて焦るが、本来の力なら容易く、金を貰えるはずなのを、二人は理解しており、一時的な借金で手打ちとなったが、実際の所、些細な問題である。
「ありがとう、二人共。」
「どうってことねーよ。 すぐに返せるようになるだろ。」
「それにこんな組み合わせになっちゃたら、どっちみち避けられなかったよ。」
それにゴンがお礼を言い、キルアはぶっきらぼうに答え、レツも話す。 そこにゴンから疑問を出す。
「………そういえば、俺達の試合は、キルア達のかなり後だったのに、同時に決着って、ズシ、強かったの?」
「ああ、ちょっと手こずっちまった。」
「けっこう~~~」
そうゴンとキルアが会話していくのを見ながら、レツはズシの【纏】のカラクリだとわかっているが、おいそれと言うわけにはいかないので、どう対応しようかと、困惑していた。 ……つまり無言で考えに没頭してしまったので、
「~~~い! おいレツ!」
ハッ「……何?」
「いや、だからズシの師匠が言っていた、”レン”って何か? っていう話。 ……お前、まさか知ってるのか!?」
当然怪しく、特にキルアからは一層、疑われる。 レツは考えた結果、知識のみを教えた。
「えっと、『先生』とかは、”意志の強さ”とかって、言ってたから、それかな?」
「レツは知ってるの!?」
「いや、そう喋ってるのを聞いてるだけで、本当にそうかは分からないよ。」
「ふーん。 …でも、あの打たれ強さは、それだと説明つかねーな…。」
ゴンが食いつき、レツは上手く誤魔化そうと、頑張った。
キルアは完全には納得してないが、レツの言い方は、『先生』、ズシの『師範代』といった、特定の大人の技術と思い、これ以上、レツを問い詰めても何も出ないと判断した。
レツは目的が違うのを知ってるので、ゴンに謝りつつ、「最上階を目指す」事を、宣言し、ゴンも乗っかり、レツは200階までのハンデしか、教えられておらず、詳しくは知らないので、同じく乗っかった。
……ちなみに、レツは帰ってから冷静になると、男装だった自分にも非があったので、公衆の面前では、あまりやってこなかった、女性と分かる格好をした。 その格好はジャポンの誇る文化の宝、キモノである。
~~~
3月7日。 落ちた分、少々遅れたゴンが、個室を手に入れた。 ちなみにキルアとレツも、110階を突破し、『押し上げのゴン』・『手刀のキルア』・『蹴り上げのレツ』という二つ名に、ゴンは一敗したとはいえ、そこからずっと一発で仕留めてるので、『観客席飛ばし』を行い続ける、未成年組として、人気を博していた。 もれなく、ゴンは二人に借金は返している。 キルアは《100階の壁》というのを説明するが、まあ杞憂なので割愛する。
___そして。
『2054番、キルア様』
「お、決まったか。」
『2056番、レツ様。 123階、B闘技場での対戦となります。 翌日、闘技場へお越し下さい。』
「ふぅ~ん。」
ゴンは個室を手に入れたばかりだというのに、この二人の120階クラスを賭けた勝負の為に、ギスギスとした空気にしやがるので、怒ってもいいはずなのだが、冷や汗を流して、無言であった。
「「………」」
「……えっと、 二人共頑張ってね!」
「うん!」
「おう!」
その言葉をゴンから貰い、二人はそのまま無言で別れ、英気を養った。
~~~
『さあ、皆様、お待たせしましたァーーーーーー!! 再度組まれました、少年と少女の対決!! 二人共、それぞれ一発で『観客席飛ばし』を行い続けた二人! どちらがその無敗伝説を守るのかーー!!』
二人はその会場で、瞳に静かに闘志を燃やして、相対していた。 キルアはただただ睨み、レツも声音が堅くなる。
「………」
「なんだよ!」
お互いに、眉を寄せて、そのまま睨み合いを続ける。
『何やら、険悪な雰囲気! だがこのライバル関係も青春でしょう! それではいってみましょーーー!』
そのアナウンスを最後に、審判が、彼らの間近くまで進み出た。
「ポイント&KO制!! 時間無制限!! 始め!!!」
まず仕掛けるのは、一つ冷静になっているキルアからだった。
(まずは、様子見……)
「!?」
『こっ……これは──!?』
開始の宣言とともに、スゥ──……と霧が広がるような動きでもって、キルアの姿が広範囲でぶれ……、幾人ものように見えた。歩行速度に緩急をつけることで残像を見せる、暗殺術の基本歩行術【暗歩】の応用技、【肢曲】。
レツはくるりと目を丸くする。 フェイタンと戦った事が無いため、初見ではあるのだが、念では珍しくもない。 落ち着いてレツは、自分の周囲を囲むようにして残像を見せるキルアを、足は動かさず、目線だけで追った。 残像ということはわかるが、念など使っていない純粋な“技術”であるだけに見破るのは至難の技なのだ。
「な、なに! 何で攻撃が効かない!」
「随分と攻撃が軽いねェ、キルアァ?」
静かで流動的な動きから突如繰り出した鋭い手刀、今まで殆どの対戦相手を一撃で吹き飛ばして、今回は地に沈める技だが、しかしそれは、【凝】でレツは的確にガードした。
「ちぃ! ナメてんじゃねーぞレツゥ!」
「よっと。」
「何ィ!?」
キルアの追撃を軽く避ける。 レツの動きが予想外だったのか、ここでレツも【纏】に抑え、攻撃に転じた。 やはり一撃では仕留められないどころか、明確にダメージがあったのかも怪しい。 武者震いとともに、キルアは初めて笑みを見せた。 そして様子見は終わりとばかりに、二人はすぐに地面を蹴る。
シャシャシャシャシャ!
双方から凄まじいスピードで繰り出される連続攻撃。だが、打撃音は、しない。
「うわ~~~~~」
またしても、『押し上げ』の一発で、《100階の壁》とやらに躓くことなく、あっさりと勝負を終えて、観客席にて観戦をするゴンは、友人たちのその攻防に感嘆の声を出した。
……いや、あれを攻防、と呼ぶのは厳密には正しくない。それは、キルアもレツも、お互いの攻撃を全て《避けて》いるからだ。
キルア、というより暗殺者は、〈『戦闘』になる前に、致命的な一撃を与える職業。〉
レツ、というより念能力者は、〈一撃もらうだけで、致命傷、というか脳が破壊されるのもありえる、操作系能力者の存在。〉
それぞれの考え方は異なるが、ガードという行為は致命傷を避けることは出来ても、それが論外に近い、という考えであるのだ。
よって、出てくる引き出しの中身は同じ。 ゆえに、彼らは出来る限りの攻撃を避けていなし、しかもその回避の動きもどこまでも最小限で無駄がない。 そうすることで、ガードのダメージを排するばかりか体力の温存も行なっているのである。少年少女の戦いとは思えない、かなり戦闘に慣れた動きであるのだ。
「貰っ──」
目にも留まらぬ戦りあいの中、レツが見せた左手の隙に、キルアが抜かりなく反応する。
「な!」
ニヤリ、と嘲笑を見せた、レツが右手をキルアの目前に翳した。 基本的に足技のみだったが、保険として、キモノを選んだのはこのため。 ヒラヒラと表面積が広い袖はキルアの視界を奪うためである。 そして左を確実に殺そうと集中力を一点に集めていた彼は、それに反応するのが一瞬、遅れた。
───ドォン!
「あれ。」
「クリーンヒット! 1ポイント・レツ!」
左にかまけてガラ空きになったキルアの右横っ腹に打ち込んだ回し蹴りに、審判の判定が飛んだ。 しかし当のレツはキョトンと目を丸くし、吹っ飛んだキルアもまるで猫のように空中で宙返りをすると、綺麗に地面に着地した。
『はっ……速────い! あまりに速いッそして無駄のない攻防! 少年少女の戦いとは思えない熟練者的な試合です! いっそ美しいとすらいえる動きでした、見蕩れて実況を忘れてしまった私を許して下さ────い!』
実況が叫び、大歓声が沸き起こる。
「う~ん、やっぱり足のみでは仕留められそうに無いな…。」ポリポリ
「そう簡単に終わるかよ。」フン
レツはハンデを満たせなさそうな事に頭を掻きながら言い、一方、鼻を鳴らし、キルアが姿勢を正した。避けるのは不可能、そして左を攻撃しようと右手を伸ばしていたためガードすることもできなくなっていたキルアだったが、咄嗟にそのままレツから受ける蹴りの方向に自ら動き、ダメージを半分以下に減らしたのである。
(実戦慣れしてるね(やがる)。)
そのようにお互いを評した。
レツのフェイント・囮としての隙の作り方は非常に自然で、いかにも本当に気を抜いてしまったかのように見えたし、そのあと自分の服を生かして袖を目隠しに使うあたりも、教科書には載っていないタイプの、実践的な戦法である。
また、今しがた咄嗟にダメージを受け流すために、同じ方向に飛ぶ、キルアの技術も、それ相応に経験が無いと、見切りもできずに、モロに喰らうだう。
形振り構わなくなった人間というものは、何をしでかすかわからない。それは“試合”では絶対に経験することのない状況であり、だから大会優勝の有段者と百戦錬磨のチンピラが殺しあいをしたとき、実際にやられるのは大概前者だと言われているのだ。
同業者として、お互い、実力者から教えを受けている、二人はそう確信した。
(でも僕(オレ)だって、実戦経験なら負けない(てねえ)。)
しかしお互い、闇の道のプロとして、かなりの数の人間を殺してきている。 お互い、その経験は負けずとも劣らないはずだ、と自負する。
(う~ん、でもキルアから首裏に一撃もらってるんだよなぁ。)
レツとしては、今の戦闘経過に、一点のみ不満がある。 先に攻撃を貰ってしまい、それなりに痺れが来る、という点。 なので、お馴染みの足に【流】をして、
「フッ!」
「なッ!」
キルアの目にすら、辛うじて映る速度で、首裏手刀の、お返しである。 無論、キルアもまともに食らうはずもなく、咄嗟に吹っ飛ばされながらも、レツを見据える。 だが、それは決定的な隙でもあり、連続して、レツは手刀をいれ続ける。 素で32トンを誇る、キルアと違い、どうしてもレツは【纏】のみの瞬間ダメージ効率は劣る。 それを理解してるからこその、連撃。
『手刀! 手刀! 手刀! 無慈悲な連続攻撃ーーー!! 見せました、レツ選手の本気です!』
「クリティカル!! プラス2ポイント・レツ! 3対0!!」
レツは【制約】の関係で、持久力を増している。 念を知らない、今のキルアにとって、それはどうにかダメージを減らしても、一方的に蓄積されてしまえば、無視できないものとなるのだ。
リング上の、二次元座標の回避は得策ではないと判断し、たまらずともいう、キルアは上空に高く跳び上がった。 しかしそれは決定的な隙でもある。 レツもまた、ニヤリ、と笑みを浮かべると、膝を曲げ、一気に飛び上がった。
『た、高────い! レツ選手、キルア選手より高いジャンプです! そしてその服装に───マニアの皆さんがカメラを構えています、さあどうなる──ッ!?』
「ソレッ!」
「グッ!!」
純粋な身体能力で跳び上がっただけのキルアに対し、【凝】によって足のみにオーラを凝縮して飛んだレツとでは、当たり前だが、その速度と高度は段違いである。
そしてそのガラ空きの腹に拳を叩き込もうと、レツは振りかぶり、キルアはその攻撃を腕にクロスガードして防ぐ。
『───レツ選手の服装は、《蹴り上げ》と同様、やはりスパッツ! スパッツでした! 抜かりなく、ニつの意味で磐石! またしても何やら控えめなブーイングが巻き起こっております!』
50階でゴンに勝った後、キモノの女性姿で挑み、それ以降、このお決まりの悪ふざけのアナウンスも、レツにとっては《蹴り上げ》である以上、聞き慣れたものである。
それとは別に、空中であるがゆえの、自由落下のダメージが重く、先の連続攻撃に、一瞬、立ち上がるのが遅れた。
キルアは顔を顰め、ダメージによる、疲労で動かない身体に必死で力を入れた。 完全にマウントを取られた身体を起き上がらせられる可能性は皆無に等しく、レツの折り曲げた足首は、キルアの足をがっちり押さえ込んでいて、腕も、もれなく【凝】で、押さえ込んである。
「クリティカル!! アーンド、ダウン!! プラス、3ポイント・レツ! 6対0!!」
『こうなっては、立ち上がる事も、反撃の余地もないでしょう!!』
そう、アナウンスが入り、2~3分程、それを観察していた審判。
そしてこのように身体の動きすら封じられたら抵抗することも出来ない。キルアが目を見開いた。 動揺とショックが入り交じった顔で理解した。 こうなってはもはや手はない、完全なる敗北、詰みだ、と。
「勝者、レツ!!」
「僕の、勝ちだーーーー!」
「チ、チ、チクショウがァァァァァァッ!」
これ以上は、何も変化がない上、逆転の余地が無いと、審判が判断を下し、レツの勝利宣言に、俯いた顔を悔しさに歪めて歯を食いしばって響き渡るキルアの慟哭が、激闘終幕の合図となった。
~~~
「スゴかったね~。」
「うん。 久しぶりのまともな戦いだったよ。」
「………」
ゴンの感想に、のんびりとレツは答える。 キルアはどこか不貞腐れて、また訝しげにレツを警戒しており、それにゴンは苦笑して、キルアに話を振る。
「キルア~、すねてないで、元気だしなよ。」
「すねてねーよ!! オレが気になったのは、初撃が入った時の、首裏の硬さ! レツに聞きたいんだけどさ、やっぱりお前、”レン”、正しく知ってんだろ!」
「だから、聞きかじっただけって、言ってんじゃん。」
キルアの質問に、このままレツはすっとぼけるつもりだった。 その答えに眉を寄せるが、ゴンは根本的に「ズシに聞こう」と提案する。
~~~
三人は、ズシの元に行き、ズシは、一連のそれを語る。
「~~~以上す!!」
「分かんねーよ!!」
「というか、レツさんに聞けば、いいじゃないすか。」
そしてズシはレツの恍け続けた成果を壊した。 勿論、悪気は無い。 ゴンとキルアは振り向きレツを見る。
だが、この’ロビー’にて、キルアとレツは、シルバとキキョウの伝達ミスのツケを味わった。
やがて思考が纏まったのか、レツは眉間に皺を寄せて忌々し気に言葉を零した。
「あ~~~、キルアの家から、キルアの婚約者にされちゃって、教えるわけには行かないんだよ。」
「おい、どこの誰が言ってんだよそんな事!」
「あ、そうだ! 忘れてた!」
「婚約すっか!!?」
キルアは、「なんでこんな時に!! 」と呻き、ゴンとズシは喰いつく。 呻きながらも、明らかに正気ではないと判断し、レツに対する、不意打ちじみた精神分析な攻撃を仕掛けた。
「しっかりしろーー! オレ達、兄弟の候補ってだけだろうが!!」
「はぁう!?」
叩かれた衝撃で我に返ったのか、レツはどこか、グルグルとしたその瞳には混乱が解除され、何をやらかしたか理解し、一筋の冷や汗を流していた。
正気を取り戻したレツにホッと安堵しつつも、キルアとしては困惑を隠せない。
そしてぎゃあぎゃあと喚き立てる様に、カオスになったのを止めたのはウイングである。
「ズシ! あなたはいつから人に物を教え、勝手に人の習熟を暴露できるほどに、物を収めたのかな?」
その注意の後、ウイングに部屋に案内され、キルアとゴンは、ウイングの、見えない障害のソレを味わった。
~~~
レツは口出しを何もせず、そしてその帰り道。
「ウソ!?」
「ああ。 話はもっともらしいしけど、それだけじゃ説明できないんだ。 なあレツ? 何でお前達は、あんな打たれ強いんだ?」
ゴンは驚きつつも疑問を出し、キルアは流石に疑りながら、質問をレツにする。 レツは内心、その洞察力に舌を巻きつつ、”燃”で誤魔化す。
「だから言ってんじゃん。 ウイングさんのは本当だよ。」
「いーや! あれは”意志の強さ”なんかで、どうにかなるレベルを超えてるね! 絶対、他に秘密があるだろ!」
「…………(さて、どうしようか? …流石に限界が近いような…)」
キルアは冷静にツッコみ、レツは困りながら黙る。 何よりキルアの疑り深い視線ならともかく、ゴンの「俺達にウソはつかないよね!」という、好奇心全開の目線が、いたたまれない。
「フゥ~~~。 ……ならさ、コレが見える?」
「「………何も見えないよ(ぜ)。」」
「これを見えるようにするのが、本当とだけ。 これ以上は、僕が怒られるか、死んじゃう。」
「何で?」
「キルアの家からして、僕みたいな半端者が吹き込むとダメだからね。」
「「………」なるほどな。」
という事で、レツは【念文字】の’0’を作りつつ、一部真実を話した。 二人の意見にレツは答え、ゴンは後者の意味が分からずに発言する。 レツは虚実を混ぜて、嘘のゾルディック家を盾にする旨の発言をする。 ゴンは顔を顰めて納得はせず、キルアはスッと得心が行った。 二人共、レツに死んでほしい訳ではないので、諦めた。
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この後は、20階分、仲良くゴンとキルアはレツに蹴落とされたが、レツ含め、三人は淡々と、階層を登っていった。
そして、3月20日。
『レツ選手!! 一発KO勝ち!! 今までキルア選手以外、どんな相手も一度の《蹴り上げ》で沈めてきました!! この天空闘技場では果てしなく珍しい少女闘士に、是非とも皆様、今後もご期待しましょう!』
そんなアナウンスを聞きながら、レツは200階クラスに足を踏み入れる事となったた___
このバトルが、もう一つの書きたかった事! ようやっとたどり着いた!!
ゴンとキルアの格好が変わってるのに比例して、レツも考えました。
基本はノブナガの服の長さ、ただしマチの服のカラーリングであり、キッチリと着ている。 作中でもあるように、スパッツで、完全ガード。 ゆえに足の動きを阻害したり、等は無い。
髪は純粋なストレートロング。 髪飾りも特になし。
参考イメージ:『空の境界:両儀式 着物姿ver (※帯ではなく、黒い腰紐)』
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天空闘技場には、以下のルールがあると解釈してます。
①・選手登録したファイターは、ギャンブルスイッチに参加できない。 200階選手になって、初めて賭けれる。
《これはヨークシン編で、金策に戻らなかった事から、ほぼ確実。
また、八百長試合し放題にもなってしまう。 200階以上の選手は、天空闘技場サイドからすれば、高い値段が付く、商品であるので、ファイトマネーが貰えなくなる以上、可能になるかと。 キルアが知らないのはこのため。》
②・一回、その階のクラスを突破したら、落ちてもう一回、金額は貰えない。
《よくある、200以下、無限ループは、天空闘技場の運営側が破産するかと。
また、天空闘技場の二つ名に、【格闘のメッカ、野蛮人の聖地】というだけなので、もし、それが許されるなら、金稼ぎ関係の二つ名が無いのが、不自然なので。》
③・選手の個室には、最低限1~2個の監視カメラがある。
《これは、あると判断してます。 理由は、ファイター=商品である、天空闘技場側からすれば、暗殺、ないしは毒奇襲による、それは避けたいはずなので。 ……しかしプロの闇の人間からすれば、まるで意味がない程度にはガバガバ。》