子兎の人形師は何を想う 作:夜空人
200階に上がったのでレツは改めて、選手登録を行った。
色々と記入事項を埋めて、最後に戦闘希望日の記入を行う。
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端的にココのクラスのルールでは、あらゆる武器の使用が認められ、一度戦闘したら90日間準備期間が与えられ、その間は好きに過ごしてもいい。 準備期間内に闘ったらまた90日間準備期間が貰える。 無論、毎日戦ってもいいし、準備期間ぎりぎりでも問題無い。 但し、その条件を満たさないと、即失格である。
クリアするには10勝が必要である。 これを満たす前に、4敗すると、これも失格である。
クリア後の特典として、フロアマスターへの挑戦権を獲得できる。
***
以上の説明を聞いたレツは、申し込み用紙と睨めっこしていると、背後に気配がしたのですぐに振り向いた。 そこには隻腕の能面男のサダソ、義足覆面の独楽男のギド、車椅子に乗った髪型が特徴的なリールベルト、が居た。 その三人組に、レツは警戒しつつ、話しかける。
「………何か僕に用事ですか?」
「いいや、オレ達も申し込みしたいから、並んでるだけさ。」
それを聞いて、レツは”下に居た人達と同様に”弱いものイジメを目論んでると看破する。 実際に、戦闘日に迷ってはいるので、首を傾げる。
「…うーん……(この人達、馬鹿なの? ……僕の後ろに居て、説明を聞いて、"挑戦権"である事を知ってるはずなのに、その程度の実力でフロアマスターってのに成れると…?)」
何気に酷いことを考えつつ、レツはしばらく悩んでいると、それを見兼ねた受付が発言する。
「…もし、お決まりでないならば、後からでもよろしいですよ?」
「あの、カレンダーはありますか?」
「希望日指定を行うつもりでしたか。 …どうぞ。」
レツは差し出された、カレンダーを見て、めくったり戻したりと、3月と4月を往復する。 行っているのは、日付の計算である。 約束した9月まで、半年も無いのだ。 枠の三日分を、フルに記入して提出する。
「それでは、3月27日・4月3日・4月10日、の一週間ずつでよろしいですか?」
「はい。 それで申込みます。」
「では、こちらの2239号室となります。」
「分かりました。」
受付の人から部屋の鍵を受け取り、レツはその部屋を後にした。
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レツは鍵を貰うが、すぐには行かず、下に降りる。 行き先は、現在180階のゴンとキルアの所___ではなく。
そのまま地上に降りて、裏路地に入り、【紅くなる灼熱/フレイムバースト】を発動させ、わざわざ、腰に出現する刀を、忍び刀のように、背中に吊るす。
能力と【堅】の維持は別であるので、その状態のまま【纏】をして、賭場に向かう。
「はい、テルさん。 今回の配当金は、ゴン選手の勝利が、3000万の1.1倍。 同じく3000万のキルア選手も1.1倍。 4000万賭けました、レツ選手が1.2倍のオッズです。 全問正答で、合計、1億1400万ジェニーです。 どうぞご確認ください。」
「ありがとー!(ハァ。 これで一々、変身しなくても済むね。)」
周囲のざわめきを余所に、受付嬢から1億5000万ジェニー用の自前で用意したジュラルミンケースを、声色を変えてレツは、その中身を確かめてゆく。
このようにレツはキルアとの話以降、ギャンブルスイッチに偽名で参加し、稼いでいた。 もれなく勝ち確定みたいな、期間限定のボーナスである。 …ちなみに150階ですら、1000万を超える程度しか貰えないので、合計しても、未だ三億を少し超えた程度しか稼げていない。
「それで、テルさん。 貴方も『天空闘技場』に選手登録した方が、金額の効率はいいのですよ?」
「何度でも言うけど、テルの戦いは、この刀の扱いしかできないんだよ。 …うん、確認したよー!」
「やはり、武器の使用禁止が大きいのですね…。 また、誘います。」
「じゃあーねー♪」
そう言い、レツは離れてゆく。 ちなみにレツは和風のキモノ。 このテル状態は、洋風のドレスであることも、一役買っている。
また、『テルと同じ陣営に賭ければ、必ず儲かる! まさに我々を照らす少女である!』というジンクスが流れていた。 50階は賭けれなかったが、ある種の大一番であった、120階のキルアVSレツを的中した以降である。 やはり女というのは、こと【野蛮人の聖地】などと呼ばれる天空闘技場にて印象が弱く見える。 つまり大抵の人はキルアに賭けて、レツの倍率は滅多に見られない、十倍以上の倍率であったので、100万賭けでも一気に膨れ上がった。
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レツは軽快にスキップしながらも、お粗末な尾行を行う人が、居るのに気付いていた。
この天空闘技場において、アホな一部の輩からは、テルはいいカモにしか見えないのだから。
「フン、フフン、フゥーン♫(ハァ、これでやっと"ゴミ掃除"から離れられる…。)」
初めは「どうしようか」とレツは、考えていたのだ。 あっさりと撒く方法はどうなのか。
だが、このタイプの人種は懲りないに決まっているのだ。 これからも付け狙われる可能性が高い、それはメンドくさいし、万が一、変身がバレても、ダメなので却下した。
ほどほどに叩きのめす方法は? だが、その手段はリスクが大きくなる可能性を孕む。
また、目撃者を生かしておくのは、その後、変に恨まれる可能性があるし、数を揃えて、より厄介というより、これもメンドくさくなるだけだろう。
「フフン♪」スィッ
そしてレツは、向かう方角を調整し、闘技場の隅の方の、人気がない場所に移動する。
(どうせ、ラッキーとか、思ってるだろうな。 獲物がわざわざ自分から、ちょうどいい場所に移動しようとしてる、っていう不自然極まりない条件なのに。)
レツはそんなことを考えながら、表情を楽し気に曲がると、いよいよ後ろの追跡者が交渉というより、恐喝に入ろうとする。
「なあ、嬢ちゃん。 俺にはもう後がないんだ。 そのジュラルミンケース、譲ってくれねェか?」
後ろからドスのきいた声がかかり、レツは後ろを振り向く。 男の手には、ナイフが握られていた。 レツは、呆れた表情を浮かべた。
「ハァ~~~………」
「テメェ、何溜め息ついてんだ! いいから早く寄越せ!」
焦ったように語気を荒らげて、ナイフを強調するようにチラつかせた。
(レオリオのナイフ捌きよりも、つたなく弱いのに……何をやってるんだか?)
レツは知らぬ事だったが、テルの賭けに乗っかり、儲かった人はそれなりに居り、正に救いの女神の如く、救済された人物は居るのだ。 ならばこの人物は何か?
単純に調子に乗って、ギャンブルスイッチにのめり込んだ結果、『破産者』になるまで、ギャンブル中毒を発症した者の末路である。
「………」
「おい!近づくんじゃ___」
レツは一気に駆け出し、下手に男が大声を出す前に、先手必勝で左手の【紅くなる灼熱/フレイムバースト】で喉を掴み、焼き潰した。 男の表情が、驚愕のちに恐怖に染まっていく。
「___!!! __! ~~~!」パクパク
色々、考察はしたが、いっそのこと、尾けてるやつを殺すのが、良かったのだ。
その方法ならば、恨まれて、あとあと変な刺客を送り込まれることもないので、限りなくリスクは小さいのだ。
(ハァ。 ……クロロ兄さんなら、こんな尾行に気づくかどうかの特訓もあったんだろうなー…。)
レツは内心で溜め息を付く。 観察眼を養うのもウソではないし、初めから「尾行するぞ、注意しろ」などと、忠告しては意味がない、というか有り得ないシチュエーションだろう。 クロロは、まさに計算し尽くされた教育プランを練っている。
「さてと、練習台、願います。」
レツはそう言い、刀を腰に戻した。 それを隙と見て、男は無様に、様々な体液を漏らしながら、逃げようとする。
「スゥー…ハァッ!」
「~~~!!」
レツが抜刀すると、男の右足が切断され、血が溢れる。 男はそのまま、ほふく前進で、進もうと足掻く。 このようなカモを使ってレツは、ノブナガ直伝の技、【居合】の特訓をしていた。
ノブナガが人体を斬ったときは、形を保ち続け、刀を鞘に戻すか、触れない限りずっとそのままであるのだ。
「…う~ん…また失敗しちゃった…。」
レツはそんな事を呟き、足を失って確実に訪れるであろう死に、怯えて、逃げたくて、でも逃げることなんて、できなくなった、そんな絶望に満ち溢れた顔を男は浮かべる。
「さてと。」
「_? _!?」
男は声になっていないが、レツが【癒しの碧玉/ホーリーヒーリング】で治癒をする事に戸惑う。 だが、その「助かるかも知れない」なんてのは糠喜びである。 男の上半身の血に塗れない下着を脱がし、再度服を着せて、抜かりなくレツは、腕と左足と、最後に首の練習を、男が失血死する前に練習した。
レツはその服と、ケースを持ち、少しばかり離れる。
「さてと…。」
レツはそう呟くと、ここ最近の一連の流れになった、工程をする。 具体的には、服の襟と袖を縫い合わせ、袋を作り、ジュラルミンケースの中身をドサドサと入れる。 そのまま空になったケースは、二重の意味で、念入りに壊す。 所詮、ジュラルミンケース自体の、値段は高くても、50階の報酬より、安いのだ。
その袋を持って、ずっとレツの名で、借りてるアパートの一室に放り込む。
「フゥ~~~…。 200階からは、賭けれるみたいだから、こんなことをするのも最後かー。」
そしてレツは自分の部屋になった2239号室に、憂いがなくなって、軽快な足取りで戻っていった。
~~~
レツが部屋に戻ると、テレビに
『 戦闘日決定!!
225階闘技場にて
3月27日、午後3時スタート!!』
と書かれていた。
(そっかァ~。 やっぱり、あの連中かな? まあ、考えてもしょうがないよね。)
こんなことを考え、レツは就寝した。
ここからの四日間、ケースの大きさにより、疑いを持たれても、つまらないので、鞄に数百万すつ、忍ばせて預金として増やした。
+++
そして3月24日。 ゴンとキルアが200階に上がる日である。
レツは少し考えた結果、今しがた、190階のゴンとキルアの勝利分も、200階闘士となり、レツとしても賭けれるようになったが、やはり微量でも大きく、レツとテルの二重賭けを行い、5000万ずつ賭けて、2000万をあぶく銭として、回収し、3億5000万を突破した。
(ハァー、さっさと終わらないかなー……)
レツは二重登録の分の金を預金するために、巷の銀行と違い、一回の最大預金額は、1000万であるが、その時間を待っていた。 今頃はゴンとキルアが、登ってしまっているのに、レツは何処か呑気なのは、【200階選手は、全員、念能力者である】ことを知らない為である。
+++
一方、未知のフロアに足を踏み入れる事になったゴンとキルア。 そして説明をする、女の運営と、この場にはもう一人。 ヒソカ=モロウが居た。
ヒソカは電脳ネットのちょっとした裏技の説明をしていた。
「まあ、いずれここに来るのは、予想できたがね♦ そこで、ここの先輩として君達に忠告しよう♥」
ゴンとキルアは、息を呑み、ヒソカは続ける。
「このフロアに足を踏み入れるのは、まだ早い♠」ヒュ
ヒソカが軽く手を仰ぎ、その風を受ける、二人。
「この資格は、レツが知ってる♦ その資格を手に入れるのが、どのくらい早いかは君達次第♦」
キルアが吠えるが、にべもなくヒソカは取り合わない。 ソレに警戒しつつも、無理に二人は進もうとし、ウイングに止められ、引き返した。
~~~
エレベーターが一階に着き、ドアが開くと、預金を終えたレツが部屋に帰る為に、上がろうと鉢合わせした。
「ん? なんで、一階に降りてきてるの? 200階で登録した?」
「それがね、受付に行こうとしたら、ヒソカが居て、その圧迫感を突破する為に、本当の”念”をウイングさんが教えてくれるって。」
レツは純粋に疑問に思い、質問すると、ゴンが答えてしまう。
「………ヒソカ?……!!」ゴッ!
「「!!?」」バッ
当然、レツの怒りは吹き出し、一気に荒々しい【練】となる。 その圧に、二人は一気に飛び退き、警戒する。
「レツさん!!」
そこにウイングの一喝が入り、ハッとしたレツは、【練】を解除する。
「………落ち着きましたか?(…それにしても、この二人の天性の感性は、素晴らしいものがある…。)」
「……うん。」
そうなったところで、二人は改めて近づく。 そこにキルアが質問する。
「…今のが、念?」
「ええ、その通りです。」
「ゴメンね。 もう憚ることもないね、僕の【練】の所為。」
それには、ウイングが答え、レツも謝る。 キルアはさらに発言を重ねる。
「…レツはいいのかよ? …オレの家の件は…さ。」
「ああ、あの言葉はウソ。」
「ハアアァァァァ!!?」
平然とレツは答え、ゴンも目を丸くし、キルアの声が響く。
「なんで、そんなウソついたの?」
「あの言葉について、僕が半人前なのは本当。 でも、それだけだと、教えないことについて、信じてくれないでしょ?」
「そんな事はない!」
「いや、あるだろ。 オレもだけど、特にゴンは納得しないね。」
今度はゴンが疑問を出し、レツはそれにも答える。 ゴンは勢いだけで発言をし、キルアの冷静なツッコミが冴え渡る。 レツとウイングは会話を続ける。
「でしょ? ……でも、そっか…。 ヒソカが登録できないように、邪魔してるのか…。 ということは、」
「ええ、これから私が念を教えます。 200階クラスにいるのは、全員が念能力者ですから。」
「あ、だから止めに行ったんですね。」
「その通りです。 …レツさんはどうしますか?」
「う~ん…ちょっと気疲れしてるから、もう休むよ。」
「そうですか。 …くれぐれも、注意してください。 無理だけはしないように。」
「分かった、ありがとう。」
そして別れようとすると、最後にゴンが話す。
「俺達も直ぐに行くよ。 だから待ってて。」
「ゴンも気をつけてねー! ついでにキルアもねー!」
そんな言葉を交わし、別れた。
~~~
レツはエレベーターに乗り、自分の部屋へと戻ろうとする。
「(……僕の部屋は、受付に行く道がT字路になる、その先なんだけど…)……何!?」
そんなことを考え、歩いているとレツの目の前に、トランプが一枚、眼前を過ぎる。
「ククッ♦」
「…ヒソカッ…!!」ゴッ
レツはヒソカを見つけるなり、苛立たし気に睨みつける。
勿論、当のヒソカは、レツから向けられる、ひりつくような殺気に、快感を覚え、恍惚とした表情を浮かべる。 その距離を保ったまま、二人の間に濃密な殺意が渦巻いた状態のまま、ヒソカは話し始める。
「というか、キミはゴン達に、ついてなくていいのかい? …もしかしなくても、このクラスにいるのは、念能力者のみという事を、知らなかったのかな?」
「…今、僕も下で会ってきて、それを知った。 …不本意だけど、二人を止めてくれたことには感謝してる。」
「別にそれはいいさ♥」
そう感謝など、ヒソカには縁遠いものである。 彼は徹頭徹尾、自分のために活動をしてるだけなのだから。 そのあたりは、彼もやはりハンターなのである。
レツからすれば、この場に会話するのも嫌だが、元々修行しに来ている身なのに、斬りかかっても意味がない、と判断する。 嫌な顔を浮かべたまま、レツは話す。
「…もう行くよ。」
「アララ♠ ゴンが来るまでの間、ヒマ潰しになってよ♦」
「やだよ。 誰が殺し合う仇に、付き合わなきゃならないといけないのさ。」
「それは残念♠ キミとの戦いは面白いのに♣」
そんな会話をし、レツはそのまま道を進んで、就寝しようと、部屋に戻った。
+++
ゴンとキルアは、【纏】を覚え、ヒソカの殺気を突破する。ゴンは「手間が省けた」と言い、ヒソカは「いい気になるなよ♠ 念は奥が深い♦」といい、ヒソカは両人差し指を立てる。
すると指の間でオーラが蠢き、オーラで♠マークを作り、さらに髑髏マークへと変える。
そこからヒソカは、立ち上がって「このクラスで1勝出来たら相手になろう♥」と言って、ヒソカは背を向けて歩き出し、そのまま照明の少ない暗い廊下に消えていった。 それを見送ったゴン達は登録をするために受付に向かう。 例の如く、レツに絡んだ、三人組が、ゴン達にも絡む。
「俺、いつでもOKです!」
そう言って受付に、申込用紙を提出したゴンは、後ろに立っている面々の方を振り向いた。
「だってさ。」
「元気がいいボウヤだな。」
サダソ、そしてリールベルトと、ギドもまた、ゴンの後について申込用紙に記入をした。
キルアはその様子をなんとなく見ていたが、ふと口を開き、言った。
「……なあ。 レツっていう、オレ達を負かした、子供の選手は強いの?」
「200階に上がってきてからは、まだ試合をしてないから、何とも言えないがね。 ただ、俺と三日後に初戦を行うよ。」
サダソは、いやらしげに口元に笑みを浮かべながら、そう発言し、ゴンとキルアは顔を見合わせる。そして受付の係から部屋の鍵を渡された二人は、受付を後にした。
+++
翌日の3月25日。
レツは起床するなり、ゴンの対決のカードを見つける。 死ななければ、治療できるので、止める事もなく、ギドが勝つ方に賭けて、もれなく配当金を回収。
冷たいようだが、一度こうなってしまったら、一緒にいたであろう、キルアも止められなかったという事だ。
ならば、自分が今更注意しても、引き下がらないと判断し、自分の目標達成を優先するくらいには、合理的に考える事にした。
+++
3月26日。
ゴンの部屋に、キルアとレツは来ていた。
「キルア、症状は?」
「ああ、右腕、とう骨に尺骨が完全骨折。 上腕骨亀裂に肋骨が三ヶ所、完全骨折に亀裂骨折が12ヶ所。 全治、四ヶ月だとさ、このどアホ。」
「……ゴメン。」
そのゴンの言葉にしばらくキルアは説教をする。
「~~~この程度で済んだ事自体、幸運なんだぞ!!」
「まあまあ、でも神経が逝ってないなら、大丈夫だよ。 じゃ始めるよ。」
「……そういや、それも念か?」
「うん。 そうだよ。」
そこにコンコンと、ドアのノックが鳴る。
レツは【癒しの碧玉/ホーリーヒーリング】を行使中なので、キルアが「はいよーーー」と返事をし、ドアを開ける。 そこにはウイングが居て、ツカツカと歩いて行く。
「…レツさん? それは回復系の【発】ですか?」
「……【発】を尋ねることは、タブーだと理解してます?」
傍までウイングは近づいて、単純さが出てしまった質問に、レツは聞き返す。
「それは確かにそうですね。 ですが、今は【発】を止めてください。」
「…分かった。」
レツが治療を停止すると、ウイングはゴンに平手打ちをする。 そのまま説教を行った。 キルアが「あ、それ、オレが言っといた。」と発言し、ウイングは安堵する。
「ホントにごめんなさい」
「いーーーえ、許しません! キルア君かレツさん。 ゴン君の完治はいつ頃になるか知ってますか?」
「医者は2ヶ月って言ってたけど。」
「あと、もう話すけど、確かに僕の【発】は回復系です。 だから1ヶ月位に短くなってると思います。」
キルアはシレっと嘘を付き、レツは神経質ゆえに引っかかるが、実際の途中治療の見込みを言う。 それらにウイングは「分かりました」と言い、1ヶ月の念の勉強を禁じた。
つまり念で行っている、レツの回復も含まれる。 そして”誓いの糸”を結び、レツは【凝】でそれを見ると、念を宿しているのを、確認できた。
スッ《【神字】ですか?》
「《そうです》 ……キルア君、ちょっと」
「ん?」
「……ああ、レツさんも。 無理にとは言いませんが……」
「いいですよ?」
しっかりとレツは、人差し指で【念文字】を書き、ウイングと意思疎通する。
キルアを呼ぶのはともかく、レツも呼んだほうが、一応は不自然では無い、と判断したのだ。
~~~
ゴンの部屋を出て、三人はそこからそう遠くない休憩スペースにやって来た。
ウイングが「君たちの本当の目的は何なのか」とキルアに問い、まずレツが「【発】の反復練習です。」と、キルアも改めてそこで知る。 ウイングは既に知ってるので、ポーズとして、頷く。
次にキルアが答え出す。 そしてゴンがギド戦のあの状況で、「スリルを楽しみ、命がけで修行をしていた」ということに話が流れると、ウイングの顔色が僅かに変わり始めた。 そんな彼に気付いたキルアは、静かに言う。
「……もう、遅いよ。もう知っちゃったんだから、オレも、ゴンも。教えたこと後悔してやめるんなら、他の誰かに教わるか自分で覚えるかするだけ。」
だから責任を感じることはない、とキルアは淡々と言った。
「オレの兄貴もヒソカもレツも、念の使い手だったんだから、遅かれ早かれオレもゴンも念に辿り着くようになってた。」
「……まぁ、このままだと、僕の『先生』を尾行してまで、習得しようとしただろうね。 ……いくら、僕が秘密にしようとしても、限界があったよ。」
レツの言葉に、キルアとウイングは、その『先生』によって、ゆっくりと念を起こしてもらった、というオーソドックスな方法と推測し、それとは別に二人の言葉にウイングは、考え込むように無言になった。
「…………で、どーすんの? ……俺らの『師匠』、降りんの?」
「途中で降りる気はありませんよ。 むしろ伝えたいことが山ほどあります。」
ウイングは揺るぎないしっかりした声で言い、さらに続ける。
「ズシが宿で待ってます。 君も一緒に修行するといいでしょう。」
「……いや、いいや」
「え?」
キルアの返事に、レツに対抗心を燃やしまくって、特に120階での叫びは記憶に新しい。 そのような場面からして、すぐ飛びついてくると思っていたウイングは、意外そうな表情を浮かべた。
「ぬけがけみたいで、やだからさ。ゴンが約束守れたら一緒に始めるよ」
そう言って、くるりと背を向けて早足で歩き出したキルアに、
「キルア君、ゴン君に燃える方の"燃"の修行なら認めると言って下さい!」
ウイングは声を投げかけた。「"点"を毎日行なうように」という彼の指示に、キルアは遠ざかりつつも、片手を上げることで返事をし、レツも付いていくように、去っていった。
___そして翌日の3月27日。 レツの200階デビューの相手、サダソ戦に望んだ。
テル状態の、偽りのレツの声音は、『DEATH NOTE』の弥海砂を、イメージしてもらえれば。 ちなみにテルの名は、ただのアナグラム。