子兎の人形師は何を想う 作:夜空人
その時点では、28歳と14歳。 年の差はダブルスコア…完全にゲフンゲフン
…シャルナークをどうにか生かして、証拠を突きつけないと!(間違った使命感)
『さぁ 今日は注目の一戦! 破竹の勢いで勝ち上がり、《蹴り上げ》でほとんどの選手を一撃で打ち上げ、なんと無敗で200階に上がるという快挙をなした程の達人! なお、その容姿も優れているため200階に上がるまでに固定ファンが付いている模様です!! そんな見た目に惑わされては痛い目にあうのは間違いなし!! 今、この舞台に舞い降りた少女、レツ選手が早くも登場です!』
“レツちゃ~~~~ん!!”
まだ選手紹介のアナウンスの途中だが、レツに対して野郎どもの野太い応援が響く。
『対するは、200階の隻腕の闘士、サダソ選手!! 戦績はここまで6戦して、5勝1敗とまずまずの戦績を残しています!! 一体この二人は、どんな戦いを見せてくれるのかアァ!?』
***
巨大な歓声に包まれる中、その歓声に混じって舞台を見つめる人間が3人。 キルアはレツの観戦チケットを買い、ゴンと一緒に観戦しようとしたが、念の修行が禁止した旨をウイングが伝え、ゴンは観戦できなかった。 なので、キルアはウイング、ズシと観戦することなり、転売によって、金をフイにすることは無かった。
「くっそ、レツの対戦チケット20万もしたぜ。 チョコロボ君が、1333個も買えるんだぞ、ちくしょーー」
「キルアさん………お菓子換算って、金銭感覚がおかしいっすよ………」
「あはは。まあ、この200階に、というより天空闘技場に女の子が上がって来たのは、途轍もなく珍しい事ですからね。 観客も舞い上がっているのでしょう。 先ほどの声援の通り、噂ではファンクラブもあるとか。 もう一人、選手登録をしない刀を背負った少女の、テルさんと人気を二分しているとも。」
正体はどちらもレツだというのに、なんとも馬鹿な野郎共の派閥争いである。
「このロリコン共………っていうか、もう一人、俺らと同じような奴がいんのか。」
「ですが、金稼ぎのみが目的のようで、刀を扱う為、選手登録をせず神出鬼没なんだとか。」
キルアは悪態を吐きかけ、続いた情報に、「ゴンが知ったら、探そうとしそう」などと考える。
伊達に甘いセリフを吐き、無自覚で口説くゴンではないのだ。 キルアはハンター飛行船の無自覚なレツしか知らない。 もし、この場にレオリオかクラピカが居たら、毒牙にかからないように祈っただろう。
ウイングは情報を足し、「残念ながら、君たちと戦う事はないようですね。」と話す。 次にズシが質問する。
「珍しいって事は、前にもこういう事はあったんですか?」
「あはは、どうだろうね。もしかしたら数十年ほど前ならあったかもしれないけど………」
微妙にウイングの表情が苦笑気味だが、ズシは疑問符を浮かべるにとどめるのだった。 そして今回最も気になる質問を、キルアはウイングに尋ねる。
「なあ、ウイングさん。 レツ、あいつに勝てると思うか?」
「ふむ、念能力者同士の戦いは、何が起こるか分からないのが常。 しかし、今までレツさんは、蹴り一つで、君以外の相手を仕留めてきただけに、今回のサダソとは相性が悪いかもしれないですね。」
「アイツの【見えない左腕】ってやつか?」
「ええ。それに対する対策を、レツさんがどうするのかが、見ものですね。」
サダソは200階でも通算6度の戦いをして、ある程度の戦闘スタイルは知れ渡っている。 その最もたるのが、サダソの念能力である【見えない左腕】と呼ばれる力。掴まれればおしまいと呼ばれるこの能力。
なお、実戦において相手の能力を、あらかじめ知っているなど本来ありえず、レツはサダソに関しては、全く欠片も情報を知ろうとしなかった。 観察眼を養うなら、これもするのでは?と、独自の縛りである。
***
二人は内訳が異なる、笑みを浮かべ、向かい合っていた。
サダソの方は、卑しいと表現するしかないような、笑みを浮かべ、レツは初戦にどこかワクワクしている、高揚感の笑みである。
「くくく。安心しなよ。 ゴンちゃんと同じように、殺さないようにしてあげるからね。」
「よろしく!」
「ポイント&KO制!! 時間無制限!! 始め!!!」
審判が開始を告げ、手を上げるのと、同時にサダソの靡いていた左袖が、不自然に蠢き出した。
レツは早速、【凝】をして注視すると、サダソの無いはずの左袖からは、オーラでできた腕がうねうねと、動いているのを、確認し、その場から後ろへと下がる。
直後、床に何かが叩きつけられたような音がして亀裂が入った。
ズガァン!!「へぇ……」
(変化系の使い手みたい。 だとするなら、具現化で特殊付与の可能性がある。 ……あの左腕には絶対に触れられないね。)
サダソは笑みを浮かべたまま、レツに体を向け、レツは思考を続けていた。
しばらく、サダソの一方的な攻撃と、レツは具現化付与の、観察と分析をする為に、回避し続けるという戦闘が繰り返される。
***
「ウイングさん。あれどうなってるの?」
「あれは自分のオーラを圧縮し手の形に変化させているのですね。それが見えない左腕の正体。自由自在に動くあの腕は少々厄介ですね。捕まるのはお勧めしませんね。」
「師範代にはあれが見えるっすか?」
ウイングも、【凝】を使い観戦していた。念と念の戦いは、【凝】をしつつ相手の念の動きを捉える事を最善として戦う。見えない攻撃であるからこそ脅威となりえるが、それが見える攻撃となってしまえば、脅威は半減する。
「二人にも、修行すればすぐにできるようになりますよ。」
***
「どうしたんだい? 避けるだけじゃ、勝てないよ!」
(…そんな言葉を言うって事は、やっぱり触れて欲しいのかな?)
サダソは、そんな挑発とも言える言葉を投げかける。
レツは考え続けるが、実際のところ、サダソの付与は"見えない"や"出さない"ではなく、そもそも"存在しない"が答えなのだが。
しばらく回避し続け、あたりには壊れたリングの破片。 レツはそれを拾って、【周】の投擲による、変化系、具現化系が苦手とする、距離を置く戦い方をする。
ヒュッ「! おっとォ!」 ピシ…ズガン!
(………体制はそれなりに崩れたけど、…ワザとかな?)ヒュ バガァン!
『レツ選手、反撃に転じてきたーー! そして、投げられたあの石は、リング外の床にめり込んでいます!! どんな威力を込めたんだ、あの石にはァァァッ!?』
「な…!? (当たるのはヤバいね。)」
サダソも同じく避けながら、負けじと【見えない左腕】を繰り出す。
そんな遠距離戦が、5分程、続けられる。
***
キルアは目を丸くして、ウイングに問いかける。
「…あのレツが投げた、石に込めた威力は何だ?」
「あれは、【纏】の応用技、【周】ですね。 物体にもオーラを纏い、威力や防御力を上げる技。」
「師範代、もしかして本のページを、壁に突き刺したアレっすか?」
「その通り。 他にもギドが使ったような、独楽の弾く力などもですね。」
その解説に、キルアは武者震いをする。
念の底知れなさと奥深さを、なんとなくだが、理解したのだ。
だが、レツはチマチマとした戦いをするので、しばし愚痴が溢れる。
「ウイングさん!どうなってんだよ! 正直サダソの念が見えねーから試合内容が分からん!」
「そうっすよ! レツさんが見えない何かを躱して、石を投げてる事しか分からないっす!」
「せいぜいサダソの服の左裾の動き具合と、レツの避け方でどういう軌道の攻撃しているか予測するくらいしかできねーよ!」
「すいませんキルアさん!自分そこまで分からないっす!」
流石と言うべきか、元暗殺者の超短期念取得者のキルア。見えない攻撃だろうとも、相手の動きと対戦者の動きから予測する技術は驚嘆すべきである。隣で観戦しているウイングも、素直に感心する程だった。
(ふむ、サダソの戦いは初めて見ましたが、オーラの操作技術は近距離はともかく、手の届く範囲をオーバーしたらとたんに大雑把になる。 今まで新人潰しだけでしたので、その辺りの技術の修練が足りないのでしょう。 あれなら、レツさんが全力を出さずに、直ぐに終わりそう……なのですが、少々相手を警戒しすぎてる節がありますね。)
***
レツは、しばらく同じ工程をし、どうやらあの能力は、「左腕限定」だとあたりを付けた。
ここで、レツは駆け出し、サダソから見て右側に回り、武器がない側面からの攻撃を考える。
近似してるものとして、盾持ちの剣士に対するような、戦い方である。
『ここで、レツ選手、いったーーー!!』
(来た!)
このセリフが誰のものか分からないが、誰もが勝負が動きだした事に少なからず反応した。それは観客席にいた者達もそうだが、対戦者であるサダソもそうだった。
(チマチマとした戦いに、痺れを切らせてようやく来たか! 攻撃をする瞬間、確実にこの【見えない左腕】で仕留める!)
動きは素早く、念の腕では本物とまた感覚が違うので、捉えきれない。
レツの身体能力は確実にサダソよりも早い。 ならばどうするか? 攻めてきた相手に、自由自在に動き、尚且つ近距離が最も動かしやすい【見えない左腕】で持って、カウンターの容量で、捉える。
(今までの5勝と同じく、この勝負も、いただく!)
だが、サダソは念の戦闘にあってはならない、思考停止のような状態だった。 今までレツは蹴り上げて、対戦相手を飛ばしてきた。 故に最も警戒すべき態勢は分かっている。……つもりだったのだ。
(来た!ここだ!)グォン! ガッ ズルッ!
(さらに…!)ドゴォ!!
「(……なに!?)ごぉっ!」ズッ ガァ ズガァン!! モクモク…
『なんとーー! レツ選手、足払いを仕掛けたー! そして、そのまま場外へ蹴り飛ばしたーーー!! っていうか生きてる?』
「クリティカル! アーンド、ダウン!! 3ポインッ!! レツ!!」
サダソはくの字に体を曲げて呻き、二回床に触れながらも、壁に追突した。 そこに審判が行き、「やれるか?」の質問に、首肯を返し、サダソはリングに戻った。
サダソは口から流れた血を拭いながらも、レツを睨みつける。
「やってくれたね……!」
「……何か、隠し玉はないのかな?」
「……いいだろう。後悔しなよォ!!」ドガァン!!
サダソの左袖からオーラが噴き出し、巨大な左手に指は鈎爪のように鋭くなっている。
しかし、倒すことに力を入れたからか、【隠】を使えていない。
再び、蛇のように左腕がうねり、レツに襲い掛かると、轟音が響き、リングの床が砕ける。
だが、巨大になるということは、その分大ぶりになる、ということである。
(…フェイ兄さんみたいな、ダメージによって、威力増大…っぽいけど、逆に回避しやすくなってるのは……)
同じように、レツは近づき足に【流】で、より高速に近づく。 しばらくは、【纏】に目に【凝】をして、オーラを割いていたのだが、その必要がなくなったのである。
当たり前の事なのだが、威力を出すには単純な力と、速度が必要である。
「なっ!?」
サダソが目を見開いて驚き、再度リング外に吹き飛ばされる。
「クリティカル! アーンド、ダウン!! プラス、ポインッ!! 6-0!!」
『正に素早く、そして鋭い攻撃ー!! 一気に6-0の大差ー!! サダソ選手まだやれるかぁ!?』
(…ちょっと、いい練習台かも。 …TKO狙うかな?)
レツはあまりに余裕であり、どこか拍子抜けしていた。 この後のゴンとキルアの教材として考えるくらいには。 サダソは胸を右手で押さえ、ふらつきながら立ち上がる。荒く息を吐き、汗も大量に流れている。
「ぐっ……!」
「やれるか?」
「ああ…!」
ゆっくりと、だが確実にリングに戻ろうとする。 そしてしばらくして戻る。
「これ以上、攻撃するのも、気が引けるから、ギブアップしてくれない?」
「っ! ふざけるなああ!!」
レツは善意の忠告だったのだが、それを挑発と思ったサダソは、【発】を発動する。
「ハァ…」
「なっ!? っ!? なにぃ!?」ズギャ!!
レツは再度、溜め息を付くと、サダソが再び目を見開く。 一気に背中側に回り、首裏に【凝】の手刀をいれ、これまでのダメージもあり、サダソは気絶した。
「サダソ選手、失神KO!! 勝者、レツ!!」
『圧勝です!! レツ選手の無敗伝説は全く止まる気配がありません!! これは今後も見逃せなーい!!』
“ウォオオオオオオォォォ! レツちゃーん!!”
レツは拍子抜けした顔をして、リングを去る。 まもなく、野太い声援が響き、それを予測した観客席の三人は、耳を塞いでいた。
(レツはサダソの治療などしない。 身内には甘く、そうでもない他人はどうでもいい、という考え方は、やはり蜘蛛の《子兎》であるのだ。)
+++
レツは試合を終えて、部屋に戻ろうとしていた。
「──レツ!」
だがエレベーターの扉が開いたその時、真っ正面に現れたのは、キルアだった。
「あ、キルア。……どしたの?」
レツは朗らかにしたが、しかしそれに反して、キルアの表情は険しかった、ので訪ねてみた。
それにキルアは歩きながら話すので、会話する為にもレツも歩いていた。
「お前、応用技なんてのも使えたんだな。」
「…ああ、うん。 使えるよ。」
「……レツは何時、念について知ったんだ?」
「二年前になるかな。」
「ここで、『先生』と合流するって言ってたよな?」
「? うん。」
しばらく雑談しながら歩いていたら、いつの間にかゴンの部屋に来ていた。
「あ! レツ、大丈夫? 怪我してない?」
「うん。 大丈夫。」
「そっか! 良かった!」
「試合はレツの勝ちだったんだけど、それでさ、今は言えねーけど、ゴン。ウイングじゃなくてレツの『先生』に教わるってのは――」
「駄目だよキルア。どうせそんなこと言って、ウイングさんとの約束をなかったことにするつもりでしょ?」
「ちぇっ。お堅い奴だなぁ。」
「それに、なにかしらお金あたりを要求されるかもねー。」
「そこは心配ねーよ。」
「まぁ、そうだけどさ。」
ゴンもレツの練度が分からなかったので、心配していたのだ。 レツが返事をしてると、キルアが(ゴンに対する抜けがけが嫌なのであって、)ズルを打診する為に、連れて来ていたのだ。 そんなちょっとした会話があった。
~~~
そして、レツはテルモードになって、配当金回収に来ていた。
「はい、テルさん。 今回の配当金は、サダソ選手とレツ選手の戦いで、レツ選手の勝利。 掛け金は5000万で、2.5倍になり、1億2500万でした。 どうぞご確認ください。」
「ありがとー!」
配当金の倍率が良いのは、そこそこの情報通なら知っている、今回戦ったサダソは、別名【新人ハンター】と呼ばれている。 つまりデビュー戦であったレツの勝ちを予想した者は多くなかった。
「テルさん。 やはり的中率100%を誇っているのですね。 改めて、貴方も『天空闘技場』に選手登録した方が、金額の効率はいいのですよ?」
「う~ん…ごめんなさい。 テルはー」
そこに返事を出そうとすると、訝しげな声がかかる。
「……何をやてるね、オマエ……」
「あ! フェイ兄ちゃん!! …っていうことで、4月にはココを離れるから、もうダメなんだよねーー……」
“ノォオオオオォォォ-!!” “嘘だ…嘘だァァァァ!!”
レツを見つけ、声をかけたのは、クロロに派遣されたレツの師匠の一人、フェイタンである。 声色を変えたまま、テルとして返事を出す。 その声音に、奇々怪々としかフェイタンには写らず、さらに眉を顰める。
「…何をやたね、オマエ…」
「そうですか…。 どうかお元気で。」
「うん♪」
だが、二人はファン、特に過激派の考えを甘く見ていた。
天空闘技場はその性質上、熱血漢や喧嘩っ早い者が、集まりやすいと言える。
“行かないでくれーーー!!” “あの野郎を仕留めちまえ!!” “粛清だー!!”
「うわわわわ!!?」タタタタ
「……???」ヒュン ベキィ!
「ぶべぇ!?」
テルにすがりつこうとする者。 またフェイタンを撃破すれば、しばらくは居てくれるなどと考えたり、フェイタンの格好も相まって、「悪いお兄ちゃん(実際に、悪人ではあるが。)から、テルちゃんを救い出してみせる!」などと、間違ったヒロイズムに酔い、フェイタンに攻撃を仕掛ける者などが出た。 当然、迎撃しながらフェイタンは、よく分からないまま、この場から逃げたレツを追いかけていった。
~~~
しばらく遁走をして。 不機嫌オーラ丸出しで、レツを睨みつけつつ、フェイタンは尋ねる。
「……いたい何をやたね、オマエ……」
「だってフェイ兄さん」
「ワタシに口答えするとは良い度胸ね。剥ぐよ」
剥ぐ場所を限定されないのが余計に怖い。フェイタンの殺気、もとい不機嫌オーラが更に増幅し、レツは小さく縮こまる。
勿論、フェイタンの実力なら、あの程度の連中など苦にはならないのだが、流石に数が多いのと、一人一人は弱く、フェイタンの戦闘意欲を満たせない。 その癖、絶え間はしばしばある、嫌がらせじみた攻撃と思うのだ。
では拷問などのサディスティックな趣味は、とも思ったが、それも数の多さでできなかった為である。
「さあ、答えるね。 さもないと、始めは指からね。軽く爪はぐ」
「…えっと、じゃあ~
レツはクロロから出された課題を説明してゆく。 幾分かマシになったが、根本的な疑問は解決していない。 だが、それはレツが隠す意味がなく、それをフェイタンも理解しており「知らないのだろう」と判断し、それ以上の詰問は無かった。
「…それで、どうしてああなる…? ……それにしても、逃げるとか、信じられない行動ね。」
「うっ……」
続けて言われた言葉に、流石に逃げる必要は無かった自覚があったので、レツは青ざめ、ばつが悪そうにさっと目を逸らした。 しかしレツが、目をそらしたせいで、フェイタンの殺気は更に大きくなる。
「当初のプラン五割増しで、鍛え直してやるね。 表出る良い。」
「いゃ────!」
フェイタンは、猫のように脱力して、無駄かつささやかな抵抗を示す、レツの首根っこを掴んで引きずって行った。 地獄1stシーズンの開始である。
~~~
引きずられて、少しばかり広い荒野。 レツは、サファイアの指輪を付けて、新能力の【蒼流星の指揮/ブルーメテオタクト】を試しに見ることにした。
「来るといいね、レツ。」
「………!!」
細剣を握りしめ、まっすぐ突っ込んでくるレツ。
「バカか、正直に正面から敵に向かってくることはないね。」ハァ
フェイタンはため息を吐きながら、それを手で振り払う。
「まるでお遊戯ね」
「………!」
「この半年で考え、作り上げたにしてはいい能力ね。しかし……それだけね。一撃一撃にたいした威力が無い。 オマエのそれは、ただただ速い力、使えているだけ。 使いこなせてないね。」
「そ、それは……」
「能力が有ても、レツの体はそのスピードに慣れていない…まァ、徹底的に扱いてやるね。 楽に過ごせると思わないよ…」
その結果は酷評であったが、それも仕方ない。 ようやくスタートラインに立ったような物だからだ。 フェイタンはゆったりした造りの上着を脱いで軽装になると、【絶】状態を保つように指示した。
「今のレツの弱点は、防御の技術が無さすぎるね。 だから基本的に全身【絶】の通常組み手。けど要所要所で【硬】の打撃混ぜていくから、攻防力も見極めてガードするよ。」
レツは、その言葉に顔を引きつらせる。 僅かでもオーラ配分を少なく見積もってしまったら重症、それ以前にオーラ込みの攻撃をガード出来なかったら、重症確定の組み手のどこが優しいのだろうか。
レツが異議のある顔をしていると、フェイタンは珍しく、とても機嫌良さそうににこりと微笑んで、言った。
「重症を負ても、続きができるのがオマエのいいトコロよ。」
そう、レツは【癒しの碧玉/ホーリーヒーリング】を所有しており、そう簡単には病院送りの怪我も自前で完治する。 一つの指輪は、24時間で再生する。 ストックは三個あるので、一つ使い切ったところで、終わらない。 そしてサドっ気全開のフェイタンの笑みは、ひたすら薄ら寒いだけだ。
その目は確かに心から笑っているが、それは獲物を前にした捕食者のそれであり、吊り上がった唇の隙間からちらりと舌が覗いた。 フェイタンがここまで積極的なのは、ヒソカが早く死んでくれることを望むからである。 一つ目は、このような速さを扱う為の訓練。
~~~
フェイタンは小柄な容貌もあって一目ではそうと見えないが、強化系のフィンクスと手合わせをして同等の結果を出せる、かなりの肉体派である。そしてその強さの秘訣は、類い稀なる格闘テクニックによるものだ。さらに、いつも手にしている仕込み傘の剣に始まり、あらゆる暗器類の扱いにも精通している。
「…ッ!」
「甘い、ね!!!」ドッ
バァァァ「がはぁ!」
たとえば、フェイタンから見て完成度が遥かに低い、レツのナイフ術を見切り、《鷂子入林》を叩き込み、吹っ飛ばすとか。
そして怪我をしても、オーラと緑の指輪さえ、あればたちまち回復し、指輪の数を見越して、フェイタンはほとんど容赦というものがない。刺す、殴り潰す、骨を折るなどは既にデフォルト。 ───フェイタンは異様に機嫌が良かった。
「もう治たか。 いいことね、次々いくよ」
薄ら寒い笑顔でそう言い、嬉々としてどこから出したものやら拷問具を取り出している。
さすがのレツも顔を引きつらせて、必死にならざるを得なかった。 二つ目は暗器術。
~~~
今日も今日とて、【蒼流星の指揮/ブルーメテオタクト】の訓練中。 どこからか聞きつけたのか、男たちが徒党を組んで、数が居れば有効と思ったのか、襲撃をしてきた。
「おい! その女の子を解放しろ!」
「そんな小さい子を痛めつけるなんて、卑怯者め!」
特訓内容は、もはや拷問の域に到達した内容と、テルに今回は水色の髪をしたレツ。
ええ、完全にロリコンに対する、闇の斡旋業者にしか見えないフェイタン。
今はその誘拐に抗おうとする、青い少女の奮闘。 それを助けに来た、という見方になる。
レツは一つ気になっていた技のことがあり、これを利用することにした。
「あ、ありがと……」
「良かった、……こちらで保護する。」キッ
近付いて来るフェイタンに怯え、レツはまるでレイプ魔にでも襲われているかのような反応を見せる。 演技なのか真なのかは、彼女がこれまで受けた仕打ちを思えば、それも仕方の無いことではあるが……
フェイタンは訝しげな顔になり、レツはその人達の背中から、【念文字】を使い「あの真っ直ぐに向かう技の実演をして欲しい。」と書く。 それにフェイタンは投げやりながらも応じた。
「ひぅ………!」
「ささと来るね。」
「おい! 怯えてるじゃないか…! それ以上は武力を行使する!」
「……お前たちじゃ、ワタシを止める事は出来ないね。」
「ほざけェエーーーー!!」
そして大勢の攻撃を、フェイタンはあっさり駆け抜けては、首と胴体を切り離していく。
ハァ「アホなことやらせないでほしいね。」
「…今の技はどうやっているの?」
「……これはただの突き技。 純粋に速度だして突進する。」
「僕の一番最初の状態みたいな…? でも、それは出来ない。」
「そうね、普通は直線的な攻撃は、カウンターを狙いやすい…こちらのメリットは直線と短い分、速いだけね。 …そうね、これも習得してもらうよ。」
ということで、三つ目は純粋な最速、カウンターを見切り、最小限の動きで回避する術。
レツ本人は気づいていないが、これにより生存本能の速度のセーブの上限が上がった。 見ることもできない速度を、無意識でも出せる訳が無いのだ。
~~~
余談だが、格闘のメッカ天空闘技場に師匠と弟子で足を運ぶのはさほど珍しいことではないが、師匠が選手登録をしていない場合、その個室はもちろん用意されない。同伴者は選手としての弟子の部屋に共に寝泊まりするか、もしくは天空闘技場の外に宿を取るかのどちらかだ。 先の襲撃で、フェイタンは後者であることを強制された。
ちなみにしばらくは行方不明としか、表現が仕様がない状態だったが、キルアから、生存報告を尋ねられ、レツはきちんと連絡した。
…兄のシゴキに耐え抜いた者同士なのか、憐憫と同情が籠っているのが、よく伝わるメールであったとか。
+++
そして、4月2日。
ようやく解放されたレツは、部屋に戻った。 レツは心身共にボロボロであり、今日は動きたくない気分であった。 とりあえず、【絶】をしながら体を休めることにしたが、どんな修行だったのかと、久しぶりにレツに会えるのも会って、ゴンとキルアも部屋に来ていた。
「…なんかレツ、やつれてない?」
「……ああ、ゴン。 生きて会えて嬉しいよ……?」
「ねえ、お前、誰? オレの知ってるレツではない気がする。」
キルアの言うことも、もっともであろう。 精根尽き果てているレツは、完全に人が変わっている風というか、目が虚ろであった。 決して、ハイライトオフ的な病みでは無い。
「……そんなんで明日の試合かよ」
「準備は大丈夫?」
「いつでも戦えるようにしとくのが普通ってさ。 まァ負ける気はしないけど。 」
レツは部屋に備え付けられていた、飲み物を飲みながら、余裕全開で言う。
ゴンとキルアは、先の試合から、そう簡単にレツが負けるとも思っていないが、あまりにも油断しているように見えて不安になる。
「……それにゴンにも集ったのはムカついてるんだ。 面白いものをみせてやれると思うよ。」
「え? これは俺の所為なんだからー」
「うん、これは僕の自己満足だから気にすることはないよ。」
「「………」」
レツの小悪魔っぽい悪戯な笑みに、二人は何をするつもりなのか、怖いものと興味半分で二人は黙った。
+++
4月3日。
『さぁ 今日は注目の一戦! 200階では二戦目の試合となるレツ選手! 早くも再び、登場です! なおも無敗伝説を守るのかーー!?』
“レツちゃ~~~~ん!!”
『対するギド選手は闘技場ですでに6戦。ベテランと呼べますが戦績は十日前にゴン選手に勝ち、合計6戦して、5勝1敗という記録を残しています!! 一体この二人は、どんな戦いを見せてくれるのかアァ!?』
***
巨大な歓声に包まれる中、その歓声に混じって舞台を見つめる人間が3人。 言わずもがな、キルア・ズシ・ウイングである。
「くっそ、レツの対戦チケット、30万台に値上がってやがる。 チョコロボ君が、2000個も買えるんだぞ、ちくしょーー」
「それよりも始まるっすよ。 今の自分達との差が良く分かると思うっす。」
「そうですね。 先日、ゴンくんと戦いましたので、よく違いが分かると思いますよ。」
***
「ポイント&KO制!! 時間無制限!! 始め!!!」
戦いが始まり、ギドが独楽を杖の上に並べ、臨戦態勢になったのだ。
『出ました!! ギド選手の舞闘独楽!! 独楽を自在に操り、敵を攻撃するという、彼独特のスタイルです! レツ選手はどのように攻略するのか!?』
「行くぞ!【戦闘円舞曲/戦いのワルツ 】!!」
ギドから独楽が打ち出され、技を繰り出す。 そのかけ声とともに、凄まじい回転がかかった十個の独楽が、舞台に広がる。
「はは、どうした!? 怖くて動けんか!?」ガツン!
突っ立ったままじっと動かないレツに、ギドが高笑いする。 そしてその時、独楽と独楽がぶつかり、一直線にレツの正面に向かって行く。
***
「バカ、避けっ……!」
「マズいっす…!」
キルアとズシはが思わず席を立つ。 しかしレツは動こうというモーションを全く見せなかった。 「ゴンの二の舞になる」と二人は冷や汗を浮き上がらせた。 だが二人の予想に反して、レツは【練】で防ぐ、もしくは回避すると思っていたが、落ち着いてサファイアの指輪を付けた。
***
「【蒼流星の指揮/ブルーメテオタクト】!」
「何!?」
『あーっと……戦ってる最中ですがレツ選手の姿が…青い髪と水色のドレスに変わったァアアア! 正に、劇的な技術に、劇的な舞台の、劇的な演出だァアアア!』
全ての独楽を右手に出現した細剣で弾き落とし、いなし、軌道を変える。 たまにレツ自身にあたりそうな独楽は、【逸】をレベル差でもって、実現し逸れていく。 ギドがその光景に「信じられない」というような、ひっくり返った声を出す。 アナウンスもその演出に、観客の声も最高潮になる。
***
観戦していた念を深くは知らない二人は、ギドと同じような声に感想を抱く。
「…え? 今、武器が急に現れなかったすか?」
「あれは、オレも知らない新しい武器だな。 ……それはそうとして、なんで独楽がことごとくレツから逸れていくんだ!?」
「新しい武器が出るのは、【発】の一種。 独楽が逸れるのは高等応用技の一つですね…。」
ウイングも、目を丸くしていた。 おそらく、レツの念技術の習得率は世界最年少クラスだろう。 ゴンとキルアの天才ぶりにも散々度肝を抜かれてきたが「こちらも負けずとも劣らずだ」と彼は世界の広さを実感していた。
***
「くっ……! ……ええい、これならどうだァ!?」
ギドが叫び、更に独楽を増やす。 数が増えたことでぶつかり合う回数も増えた独楽は、数個がいっぺんにレツ目がけて飛んでゆく。 だがやはりレツは全く動じない。
──それから、およそ5分。
「まさか、あれで終わりなのー?」
「ふ、ふざけやがって……! ならば、これでどうだァッ!」ギュァン!
レツはまたしても拍子抜けした言葉を述べる。
打開策を出そうと、風を切る音を立てて、ギド自身が大きな独楽のように回転を始める。
『おお────ッとギド選手、出ました必殺奥義・【竜巻独楽】! 攻防一体のこの技に攻撃は効きませんっ、あらゆる攻撃はその回転に弾き飛ばされること確実、今までも幾人もの選手がその犠牲になってきましたっ!』
「どうした!? 【戦闘円舞曲/戦いのワルツ 】はまだ続いているぞ! 防戦一方ではどうにもならんぞ! さらに行くぞ!! 【散弾独楽哀歌/ショットガンブルース】!!! これならば、対処しきれまい!!」
ギュンギュンと回り続けるギドは、ただいなし続けるだけのレツにさらに追撃を加えんと、技の重ねがけをする。
「……なら、こうだよ!」ガキン ガン ギン
『なーんと、レツ選手、独楽の動きを変えて、全て相殺した──ッ!』
次にレツは、【戦闘円舞曲/戦いのワルツ 】の独楽は先に操作されているが、【散弾独楽哀歌/ショットガンブルース】の方の独楽は、動きが止まってしまった。 それに細剣の剣先を突き刺し、それをギドに向けた。
「馬鹿めっ、どんな攻撃をしかけようとこの回転で跳ね返して──」
***
レツはふわりと右手を振りかざす。
『なーーーんと!! レツ選手、ギド選手の【散弾独楽哀歌/ショットガンブルース】を繰り出したーーーー!! これはどういうことだーーー!!?』
「は!?」
「どうなってるすか!?」
ウイングは口角を上げて微笑み、このような常識が通用しないレツの演出に、弟子たちがうんうんと唸っている様子を、気づかれないように少し楽し気に見つめる。 戦闘中なら隙だらけになりそうな行為だが、今は修行中。 念能力者同士の闘いは、考えながら行う事も必須。いわゆる戦闘考察力。それに観察力や洞察力。それが相手の能力を見抜く力になる。 無論念に限らず、相手の戦い方を見抜く事にも役立つだろう。
(さて、どういう結論になりますかね………)
ウイングは、先の未来を楽しみに思い、このトリックはここでは解説しないことを選んだ。
***
「なっ、何!?」
ギドも度肝を抜かれる現象であった。 レツはわざと、似てるように【逸】の逸れる方法をとった。 そんな彼女に【散弾独楽哀歌/ショットガンブルース】を繰り出すということは、自分の【竜巻独楽】とぶつかれば数発は弾けても、同じく十個以上となると、怪しいというのを認める事になるのだ。 念は思い込みが、完全ではないが、現実になってしまう。 特にこのレベルなら尚更。 そして彼の本来の系統は、強化系。 【竜巻独楽】は操作も要求されるが、対して【散弾独楽哀歌/ショットガンブルース】は直接相手に独楽を投げつけているため、放出系の威力が高まるのである。 元々の練度が違いすぎるのもあって、そのまま偽りの連撃を食らってしまう。
ガッ キィン バキッ「わ、わっ、ぐわっ」ドシャアッ
「面白かったよ。」バキィィン
ギドの一本足の義足を持つ身体が床に倒れ込む。 素早くレツが駆け寄って見下ろす形で、細剣を突き下ろす。
『な、なんとぉ!? レツ選手! ギド選手の鉄の義足を打ち砕いたあぁぁぁっ!! これもどんな威力が込められているんだあの剣にはァァァッ!? これは勝負あったぁ! 義足が壊されては最早ギド選手に対抗する術ないでしょう!! なおも無敗神話は続く──!!!』
「──ギド選手、試合続行不可能! 勝者! レツ選手!」
“イイぞー、レツちゃんー!” “変身、可愛かったぞー!”
+++
レツは試合が終わり、さっさと部屋に戻り休息を取ろうと、エレベーターに乗り込んだ。
「──レツ!」
だがエレベーターの扉が開き降りると、真っ正面に現れたのは、白い銀髪を持つ少年だった。
「あ、キルア。……どしたの?」
レツは、それなりに朗らかにしたつもりだったが、しかしそれに反して、キルアの表情は険しかった。
「お前、アレどーやったんだよ」
「あれって?」
「……今日の試合だよ!」
「ああ、面白かったでしょ?」
急いた様子で、キルアが険しい声を飛ばす。 興奮しているらしく、妙なテンションのまま喋る。
「なあ、あれ念にしたって全然、オカシイ気がするぜ! あんな技の応用はともかく、コピーなんて!」
うまく騙せてることに、レツは心の中で笑みを浮かべながら、返事をする。
キルアからすれば、レツには様々な武器があるのが分かっているが、もし敵対する上で恐ろしいのが、相手の能力を即座に自身のものにする常軌を逸した念能力。
手の内を明かせば明かすほどに、不利になるその理不尽さ。 プライドがあるがゆえに、いつかはレツに勝てる事を目標にしているからこそ、勝てる未来への展望が、全くもって広がらない。
「昨日の様子といい、お前どんな修行をしてんだよ?」
「(どんな修行ときたか~)……僕が受けている修行を聞いて、休息後に自分達にも適用しようと思っているだろうけど、今のキルア達では無理だよ。」
「何でだよ! 修行を受けている立場のレツが判断することじゃないだろ!?」
「でも基礎がないとダメだっていってたし。 ねェ『先生』?」
レツは、柱の影によく知る人物の気配があるのに、うっすらとだが感じており話しかける。
そこから姿を出すのは、勿論シャルナークが迎えに来ていた。 フェイタンは表立って動けない、というより純粋に一々、はっ倒すのがメンドくさいので、この階には来ていない。
「うん! ちゃんと基礎を怠っていないみたいだね。」
「それは当然だよ。」
「で、話を聞いていたけど、同意かな。 これからも行っている修行は、まだまだと見えるね。」
「な!?」
レツに食いかかるキルアに対して、シャルナークも何の義理立てもないが、修行の続きをするには、さっさと離れるのが良く、そのためには同意する旨を伝え、それに納得してもらう方が良いと判断した。
だがそれは仕方ないことである。 今のキルアとゴンはまだ基礎を固めている段階であり、’点’を日々こなし、よりオーラを増大・安定させなければ、レツがしている修行を受けてもあまり効果は見込めないだろう。
「僕も始めの内は修行の大半が’点’と【纏】だったよ。 基礎をしっかりと築いていないと後の修行に響く事になるんじゃないかな?」
「……分かったよ。 しばらくは’点’を続けるよ。 ただし! 修行が解禁になったら、絶対に修行内容を教えてもらうからな?」
「え、それは無理。」
「何でだよ!!?」
レツの答えにキルアは少しでも得をしようと粘る。 だが、レツはあっさりと断る。
「いや、自分の手の内を積極的に明かすとか、正気?」
「ぐっ…!」
そう、レツは誰でもできることと、【発】も上手く誤魔化すことを図っている。 そしてキルアは呻きながらも納得せざるを得なかった。 そして悔し紛れに、キルアは特大の爆弾を放り投げた。
「そういえば、この人がレツがハンター試験で「便利屋扱いされてる」先生か。」
ビクッ「ちょっ、キルア!?」
「…レツ、オレの事、そんな風に思っていたんだァ~。」
そうキルアが発言すると、ピシリと空気が凍る。 レツが恐る恐る振り向くと、シャルナークは、表情はそれはもう優しげな微笑であるのに、その怒気ときたら、静かにドス黒く渦巻いているのである。 当たり前だが、事実であると本人が理解していても、人の口&陰口&末っ子にすら言われてしまうのはいい気にはならない。
そしてそんな笑みを浮かべて、シャルナークは言った。
ガシッ「よし、訓練の量、五割増しだね。」
「キィルアァァァァ!! 恨むからねェーーーー!!」ズルズル
「ザマァ」
シャルナークは、猫のように脱力して、無駄かつささやかな抵抗を示す、レツの首根っこを掴んで引きずって立ち去った。 地獄2ndシーズンの到来である。
キルアは、いつぞやの暴露系カウンターが成功した事が、爽快だったのだろう。 清々しいモノが混ざった愉悦な笑みを浮かべていた。
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そして連行される道すがら、シャルナークは興味本位で質問する。
「そういえば、あの少年は何?」
「あ~……僕に、クロロ兄さんが示した縛りを破らせた子とだけ。」
「へェ~え!」
そのレツの返答には、正直予想外でもあった。 あの少年がレツに足技縛りの禁を破らせたと知ったのだから。 そして表に出て、修行内容を伝える。
「それじゃ、操作系に多い、操るモノに依存しすぎて、体術が疎かになりがちでもある。 まずはそこからだね。」
「っ!!」
「それに言われてから、構えるようじゃまだまだ未熟。」
シャルナークは一瞬でレツに詰め寄って、両手で銃短剣を握っているレツの腕を弾く。
「なっ!?」
「操作系はその性質上『操るための操縦桿』が必須。相手に刺すか、自身で振るうとか、またはその両方。 刺される前に、その動きを止めてやれば、レツの新しい能力は簡単に封じられるんだよ。」
「ぐっ……!」
「それに牽制も兼ねて、その銃でもある武器を選んだんだから、当たらずとも撃鉄を引かないと。」
「……ッ!」
「あとは、刺すタイプなら投擲術とそれを利用した連続攻撃。 それと___」
シャルナークは掌底をレツの腹に入れる。
「………!!? がはっ!?」
「この考えてくれた【浸】の特訓。 やっぱり完成させると便利だからね。」
もれなくフェイタンにも協力してもらって、純粋な体術の向上が要求されるのが一つ目。 投擲術が二つ目。 【浸】により、何度も倒され、血反吐を吐いて転がる事になる攻撃が三つ目であった。
+++
4月9日。
レツは解放されるや直ぐに怨嗟の声を上げながら、キルアに遭遇した。
「キィルアァァ……よくもやってくれたねェ……!!」ピキピキ
「完全な逆恨みじゃねーか、オレは悪くない!」
「暴露したのは違うと思うけどなァ……!」
「アハハァ~~……ヤベッ」ビュン
「あ、待て!!」ダッ
そんなアホな追いかけっこがあったとか。 普通はこんな公共の町を巻き込むのは怒られるのだが、何故か周りの人達の顔は、ホッコリとしていたという。
+++
そして4月10日。 レツは三戦目の相手、リールベルト戦に望む。
『さぁ 今日は注目の一戦! 未だ無敗である、華凛な少女、レツ選手が再び登場です! 今日は初めから、銃のような物を腰につけての登場!! 対するは、200階の闘士、リールベルト選手!! 戦績は7戦して、5勝2敗とそこそこの戦績を残しています!! 一体この二人は、どんな戦いを見せてくれるのかアァ!?』
「ポイント&KO制!! 時間無制限!! 始め!!!」
レツは早速、ダイヤモンドの指輪を付け、【舞い踊る僕の人形劇/ステージオンマインドール】を発動させる。 その新しい変身に、アナウンスも声援も大きくなる。
『なーんと、レツ選手、今度は白いッ! また別の変身です!! そして銃を乱射したーーー!』
レツは、先手必勝でリールベルトの腕を潰さんと、腕を狙う。 これは初めから鞭を構えなかったリールベルトの失態である。
「!!! (【爆発的推進力/オーラバースト】!!)」
飛んでくる弾丸に、たまらず能力を使う。 その方向にあっさりとレツは【流】で近づき、左腕にコルトパイソンダガーを突き刺す。 その左目が見えなくなる、未知の体験に、再び【爆発的推進力/オーラバースト】を発動するといった発想に至ることなく、残る右腕にも、もう一本の銃短剣を刺される。
これで完全に詰みであり、リールベルトは実害が無くとも、失神してしまうほど精神が脆い人物である。大抵の人間ならパニクる視界と聴覚を失い、そのまま失神した。
「リールベルト選手、失神KOとみなし!! 勝者レツ選手ーーー!!」
『なーんと、電光石火の如く勝負がついてしまいました!! 未だレツ選手の無敗伝説は続くーーー!!!』
あまりの速さにリールベルトの鞭を使う【双頭の蛇による二重唱/ソングオブディフェンス】などの力、キルアたちの勉強要素も、限りなく薄いまま決着が着いてしまったのだった。
+++
レツは、シャルナークとフェイタンと合流し、三戦を見て問題点を挙げる。
「勝つことは勝てた、けど。 熟練した人との経験かな…?」
「う~ん、中距離、遠距離にも対応できる人が望ましいかな。」
「ワタシの能力も、対応するけど即死させてしまうよ。」
「…レツ? シャル? フェイ? …こんなトコでなにやってんの?」
三人は順番に新たな課題を語っていく。
そこに声がかかった。 その人物を見て、三人は再び順番に言う。
「……熟練した実力者で。」
「……中距離、遠距離にも対応できて。」
「ワタシのような即死ではないね。」
「……何?」
その人物、マチは訝しげに眉を寄せる。
ここでレツは、地獄の再来を恐れて、《子兎》のコードネーム通り、脱兎の如く逃げ出した。
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理想
マチ シャル フェイ レツ
(? ゚_ ゚ ) (;゚Д゚) (#゚Д゚) ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘
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現実
マチ シャル レツ フェイ
(? ゚_ ゚ ) (*^^) ε=ε= ピタッ(T_T) (=_=)ヒュバッ
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レツはあっさり捕まり、\(^o^)/オワタ という表現が相応しい、表情を浮かべた。
むしろ逃げ出す、という最もやってはならないであろう対応を、今回のケースの場合、特にマチに対して取ったので、チクられることによる、地獄3rdシーズンは確定になるだろう。
幸いにも、明日の4月11日は、ヒソカの戦いがあるらしく、先送りにはなった。
レツの妙な、新人狩り連中の過大評価と、もはやアイドル扱いされたレツ(とテル)に、フェイ&シャル・ザ・ブートキャンプの課題発見という、三本立てでお送りしました。
何気に、キルアが脅してしまったから、戦う事がなかったけど、サダソって実際の戦闘中に【凝】を使い続ける、いい練習台だったと思うんです。