子兎の人形師は何を想う   作:夜空人

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フェイタンに中国拳法が使えると信じているのは、私だけでは無いはず…!
 カストロの日付は変わる要素がないので、このまま。


No.24/ウツキ✖ハ✖ウソツキ

 レツの捕獲後、シャルナークはアンテナを首裏に刺して、意思を残しはする【携帯する他人の運命/ブラックボイス】を発動し、改めてマチの質問に答える。

 

「オレ達が、此処にいるのは団長の命令でレツの【発】の特訓をしろって。 それでここに来てる。」

「ああ、なるほどね。」

「そういえばマチ姉さんは、こんな所で何してるの? 僕達の中じゃウヴォーとか師匠とかが自主的に来そうな所なんだけど。」

「………ちょっと、団長に伝言頼まれてね。それを言いに来たんだよ。」

「団長に? こんな所にか? 誰ね?」

「………ヒソカ」

「「「………」お疲れ」ね」

「というか、アンタ達が来てるなら、アタシが伝えなくてもよかったじゃないか……」

 

マチは不貞腐れたように諦めのぼやきを続ける。

 

「まァ、【念糸縫合】を何か依頼されてるから、どっちみち会うのか…。」

「ん? マチに依頼って事は、ヒソカ怪我する予定でもあるって事?」

「!?」

「アイツの考える事は分からないから。とりあえず金さえ払えば文句ないし。 だからレツ、そんな目をしても諦めなよ。」

「う~ん……」

「…そういえば、何でいきなり走り出したんだい?」

「」ピシリ

 

シャルナークの質問に、レツは驚きつつも目を向ける。 マチは治療を真っ当する旨を言い、諦める事を告げると、何やらレツは腕を組んで考え出した。 それも気にはなるが、先ほどの逃走について尋ねると、レツは固まってしまい、シャルナークが携帯を弄りだす。

 

「…さ、自分の口で言うんだ。」ピ ピ ピ ピッ

「やめてやめてやめて今までスパルタに血吐かさ続けて、マチ姉さんもとことん追い込んで、限界を超えさせて強くならせるタイプだから、また地獄を見ることに何でもありません。」

「レツ、それはガイコツに心臓マサージするくらい手遅れね。」

 

レツの言葉にフェイタンはツッコミを入れて、レツは震えながら、恐る恐るマチを見る。

 

「マ、マチ姉さん?」

「……………ねえレツ」

「な、何?」ガクガク

 

マチはレツに振り向く。 その微笑みとは別に、目は笑っておらず、生まれたての子鹿の様に震えるレツに彼女は笑ってこう告げた。

 

「お仕置きだよ。」

「  」ギギギ… テクテク

 

 

この場でこそ何も無いが、だからこそより何をされるのか不安なまま、レツは抵抗すら諦め、操られながらも諦観の表情を浮かべて、歩きだした。 

 

 

+++

 

 

レツが受けた罰はこのような内容であった。

 

「焼肉は美味しいね」

「そうだなー」

「特に、人の金で食べるのがまたいいね。」

 

レツの部屋にてマチ・シャルナーク・フェイタンは、焼肉を食べていた。 勿論、常人では有り得ない程の量に、質も兼ねて高級な肉を買い込んであり、持ち運びも金を出したのも、操られたレツである。 レツはジィーと三人が食べている焼肉を見つめていた。 なお今のレツは、てるてる坊主のように、グルグル巻きにマチの糸で吊るされているので、手を伸ばせない。

 

「………食べたいよな?」

「! …べ、別に食べたいと…思って……なんか…」

「そうか、なら全部食べてしまうよ。」

「あァーー!?」

 

シャルナークが焼肉をレツの目の前にチラつかせる。

 

「この馬鹿な末っ子の前で食べよう、それが何よりの罰になる。」

「分かたよ……ん?…この団扇で匂いを嗅がせたら、もと食べたくなるね。」

「いいね、そしてなるべくレツの近くで食べよう。」

「この鬼畜うゥゥゥゥゥ!!!」

 

三人の月達はそう言いながら、ムシャムシャとレツのすぐ近くで焼肉を貪る、レツを包むかの様に美味そうな肉の匂いが漂う…そしてレツの言葉に関しては、はっきり言って、外道上等な真似をする集団だからこそ今更である。

 

「こ、この…! 僕はこんな拷問には屈しないよ!」

 

比較的、温い罰に思えるが実際その通りで、マチは二極論で大別はできないが、それでもアメとムチなら、ムチ側という自覚があるためそこまで怒ってはおらず、(それにしてはこの嫌がらせはある意味エグイが)これは、気まぐれなノリによるものが大きかったりする。 何のお咎めもなしというのも、なんとなくダメに思ったのもある。

 このまま何も喋らず耐え抜くのは厳しいので、考えていたコトを話し始める。

 

「マチ姉さん、明日ヒソカが戦うんだよね?」

「? そう言っただろ。」

「それで考えていたんだけどさ、明日の試合の間に、兄さん達が忍び込んで、機械類仕掛けてくれないかなって。 姉さんの治療を、カモフラージュに使ってさ。」

「……たしかにワタシはピキングもできるが…」

「…ヒソカについては、いつか裏切るだろうとは皆、思ってるだろうけどね。」

「アタシも、アイツの能力はそこそこ知ってるけど、全部ではないだろうしね。」

「そうなんだ。 でも、僕が殺すよ。 その調査に協力してくれないかなって。」

「…アタシは今一度の確認だけだから、大した手間じゃないだろうし、いいよ。」

「ワタシも早く、ヒソカ死んで交代望むよ。」

「でも、ヒソカがそこまで油断してるとは思えないよ。」

「それを承知で、望み薄の上で先生にも頼んでるよ。」

 

シャルナークとフェイタンは機械類である、盗聴器や監視カメラを設置することにも長けており、鍵などのハードルを容易く蹴っ飛ばせるメンツであるのも大きい。 マチは呆れた顔を浮かべながらも了承し、フェイタンも賛同する。

 この場のメンツが、操作系と変化系であるがゆえの性格と、それだけヒソカが何故かクロロに、ワガママを許されていたのも大きかった。

 

「……まァ、ヒソカが死ぬ確率を上げるのも、レツが能力を知っておくのも、いいけどさ___

 

 

 

 

 

ここでシャルナークは(=操作系≒理屈屋・マイペースなので)シリアスな密談の空気を壊す。

 

___そのてるてる坊主状態で、良くその話ができるよね~。」

「……言わないで、僕も無理があるってのは、気づいているんだからさ…///」

 

さらに気まぐれな変化系の二人が追撃を加える。

 

「ホント、そうなんだけどね、解除はしないよ。 自力で破りな。」

「むぅ~~………」プラーン プラーン

「やめるね、ただマヌケな姿にしか見えないよ。」グクッ

「笑いを噛み殺すなぁ……」

 

こんな一幕があって、三人はこの場から退散し、就寝についた。 ちなみについでの嫌がらせとばかりに、撮影をしており、部屋から出る捨て台詞に、「じゃあ、この写真を配布しておくよ~。」と言い、その時のレツの顔と姿は最高に滑稽だったとシャルナークは後に語る。

 

 

+++

 

 そして4月11日。

 

「じゃ、機械類の手配してくるよ。」

「ワタシは侵入の段取りね。」

「はい。 もろもろのお金と、あとチケット。」

「アタシも見ていこうかね。」

 

こんな会話と共に、それぞれバラけ行動を開始する…といっても、ちょっと歯応えがあるゲームレベルだが。 この時点でレツのノルマ金は、ギリギリ四億を割っている。 二人は仕事後、会場に途中参加の予定であるが、三人も一緒に観戦することになり、高い(ヒソカの強さが、最低限分かろうとする目的からすれば15万は破格の安さである。)チケットを購入する事にした。 200階クラスの選手だったので、優先的に購入させてもらうことが出来た。

  

 

~~~

 

 会場は超満員で熱気に包まれていた。

 

「ヒソカの試合がここまで盛り上がるとはね。」

「ヒソカに勝つヒントが見つかるかな?」

「正直、望み薄だと思うけどね。 そこそこマシなのしか居ないハズだし。」

「……それでもヒソカに挑む自信を持てる人ならあるいは…」

 

***

 

『さぁー、いよいよです! 今、フロアマスターに最も近い2人!! ヒソカ選手対カストロ選手! 因縁の大決戦!!』

 

 ヒソカとカストロが登場して、リングに上がる。

ヒソカはいつも通りの飄々とした笑みを浮かべており、カストロはマントを羽織ったままヒソカを鋭く見つめている。 そのままカストロがヒソカに「準備運動にすぎない」などの会話をする。

 

***

 

「そういえば、アイツの能力については言ってなかったね。」

「えっと、オーラをバネ?紐?ゴム?石灰?糊?か何かに変化させる力だよね。」

「…本質にはたどり着いてないみたいだけど、そ。 アイツの能力は、【伸縮自在の愛/バンジーガム】と【薄っぺらな嘘/ドッキリテクスチャー】っていう能力で、【伸縮自在の愛/バンジーガム】は、ゴムの性質が正解。 それとガムの性質を持つものに変える。 至る所に貼ることが出来て、よく伸びて、素早く縮む能力。 【薄っぺらな嘘/ドッキリテクスチャー】は、紙のように薄っぺらいものにイメージを加えて、オーラで見た目や質感を再現する能力。 こっちは触れれば分かってしまうし、ヒソカの肌を保護するものって解釈してるけどね。」

「……良く出来てるね。 ウボォーか、フラン兄さんなら荒野とかで一方的に殺れそうだけど、僕の能力だと…」

 

あらためて、マチの説明と共にレツは自分のパターンを考える。 それとは別に試合が始まる。

 

***

 

 「ポイント&KO制!! 時間無制限!! 始め!!!」

 

早速、カストロがヒソカに飛び出して右手刀を構え、横振りに振るい、ヒソカは頭を屈めて躱す。

 

シャッ「!!」ズギャ

 

 しかし、何故か振り抜かれたはずの右手が、ヒソカの右頬に直撃する。

 

 「クリーンヒットォ!!」

 

ヒソカは横に吹き飛ばされるも倒れることなく、膝立ちになって耐える。 その顔から笑みは消えており、今起こった現象について探るような視線を送っている。

 

『まずはカストロ選手の先制攻撃が炸裂ー!!』

 

カストロは無理に追撃せずに、ヒソカを睨み、挑発を行なう。

 

「本気で来い、ヒソカ」

 

***

 

「………(僕は……)」ギリィッ

「へぇ……」 

 

レツは自分が傷一つ負わすことも出来なかった仇相手に、いともあっさりと一撃を入れたのが気に食わず、歯を食いしばる。(ヒソカの手加減のレベルが違うなんてのは、そう明確には分からないだろう。) マチもカストロがヒソカに攻撃を当てたことに感心する。

 

「今の、戦い方は…」

「この試合中にせめてアイツの能力は見抜きな。」

 

最初から使っている【凝】にも、ますます力とオーラの量が増えつつ、観察を続ける。

 

***

 

 カストロがヒソカを挑発するも、ヒソカはゆらりと立ち上がる。

 

スウー…「本気を出すかどうかは僕が決める♠」

「……そうか。では、早めに決断することだ」ダッ

 

 カストロが飛び出して、左手を鈎爪状にしてオーラを纏って横振りをする。

ヒソカは再び頭を屈めて躱したが、また時間が戻ったかのように左手がヒソカの目の前に戻り、ヒソカの左頬の皮膚を引き千切る。 ヒソカはギリギリで顔を背けながら倒れるように後ろに跳んで、ダメージを減らす。  カストロはジャンプして上からヒソカに両手を叩きつけるように迫る。ヒソカは手で横に跳んで躱し、カストロの追撃も躱していき、ヒソカの顔に目掛けて左ハイキックを繰り出す。 それをヒソカが腕を上げてガードしようとするも、今度はカストロの姿が消えたかと思うと、ヒソカの真後ろに現れて蹴りを叩き込んでヒソカをリングに倒す。

 

 「クリーンヒット!! &、ダウン!!」

 

『カストロ選手の一方的な攻撃が吸い込まれるように当たるー!! 一気にポイントは4-0! しかし……今のは……気のせいでしょうか!?』 

 

***

 

 周囲は今目にした不思議な光景にざわついている。

レツはカストロの能力を見抜く事が出来た。

 

「……あの人の能力は、自分自身を増やす…力、だよね。」

「正解。 あのマントも一役買って、間近でやられると分かりにくくなってる。」

 

 二人はカストロが攻撃の瞬間に残像のように増えて、素早く背後に回っている姿をしっかりと捉えていた。

 

「…………(あの人は僕が殺したいと願い続けて、実際には傷一つ付けられなかったヒソカを…)」

 

***

 

「なんにせよ、もう待たない。 次で腕をいただくぞ。 まだ、もったいぶるならそれもよかろう。」ググ…

 

 しばらくカストロとヒソカの会話が続き、カストロが裂帛の気合と共にオーラが膨れ上がり、両手を鈎爪状にして、段々とオーラが集まっていく。

 

「出たぞ! 【虎咬拳】!」

「カストロの方が先に本気になったぜ!!」

 

「行くぞ!!」カッ

 

 ヒソカはまだ余裕綽々で立っている。 カストロは顔を顰めて駆け出し、ヒソカに猛スピードで迫る。すると、ヒソカが左腕を突き出す。

 

「あげるよ♥」

「! ふん! 余裕か罠のつもりか!? どっちにしろ腕はもらった!!」

 

 ヒソカの左腕にカストロが両手を挟み込むように振るう。 しかし、当たる直前にカストロが消え、ヒソカの背後に現れる。

 

「こっちのな」ボンッ

 

 カストロは両手で噛み千切る様に振るい、ヒソカの右腕を肘手前から千切り飛ばす。ヒソカの右手が宙に舞い、観客がどよめく。

 

***

  

レツは拳を握りしめて爪が食い込み、血を流し出している。

 

「(………なんでだろ……何でこんなに…悔しいんだろ…!!)うっ…うぅっ…」ポロ… ポロ…

 

ヒソカが腕を伸ばしていたとはいえ、真摯に挑んでいて、怪我を負わせたカストロに非はない。

 レツは自分自身への情けなさと怒りで腸が煮えくり返っているのである。

 

 そこに作業が終わった、二人が合流してくる。 ちなみにフェイタンは、あのドクロのバンダナが特徴的なのであって、軽く服を着替えていれば、ここに居るようなエンターテイナー気分が強い、所謂エンジョイ勢の者達には、会場に来ても誰も気に止めないので来ることができてる。

 

「ん? ヒソカの腕を飛ばす位の鍛えられた能力者なんだ?」

「……? にしては、アイツ大したことなさそうよ。」

「ワザと腕伸ばして捧げたんだよ。 まったく、なにしてんだか……」

 

 シャルナークとフェイタンは疑問点を出し、マチはヒソカの行動に呆れつつも説明する。 そして、三人はレツが三つの意味で嘆きの感情を抱いてるのは、理解はしている。 ヒソカとレツがこの場に居て、一回も挑まなかったというのは考え難い。 彼らとて感情の一切が無い、機械的な人非人ではない。 されど、常に力が物を言う世界で生きている彼らには、そこまで問題ではなく、慰める必要はないと考える。 思考の淵にあったかは定かではないが、下手な慰めは逆効果になる以上は有り難かっただろう。 運が悪いといった偶然ではなく、強者に負けた実力の無さが悪いのだ。 強ければ何も問題はなく、負けた方が悪い。 そういう世界を生きているがゆえに。

 

***

 

「私は念によって【分身/ダブル】を作りだすことに成功した。もちろん【分身/ダブル】はただの幻影ではなく、消えるまではそこに実在するもう1人の私。それは【分身/ダブル】の蹴りを受けて実感しただろう。お前は2人の私を相手にしなければならない。これが念によって完成した真の虎咬拳。名付けて【虎咬真拳】!!」

『おーーっとカストロ選手、そのままのネーミングだーー!!』

「次は左腕を頂く。まだ下らぬ余裕を見せていたいか?」

「う~ん、そうだなぁ♦」

 

 ヒソカはゴン達を'青い果実'と称するように、彼は《食人鬼/カニバリズム》と呼ばれる人種である。 そして自分の腕の肉を噛み締めるヒソカが抱いているのは、やる気でもなければ、まして喜びでもない。

 

「……ちょっとやる気、出てきたかな?」

 

 彼はいま、失望したのだ。

 

「じゃあ、今度は僕の番♥ 予知能力をお見せしようか♣」

 

右腕を脇に挟んでスカーフを取り出すと、右腕を覆い隠す。 次にヒソカはスカーフを上に放り投げた。

 

***

 

ゴシゴシ(【凝】!!)

 

涙を服の袖で拭き、心機一転と再びオーラを目に集めるレツ。 四人の眼には勢いよく天井に飛んで張り付く右腕が映る。 そして、13枚のトランプが舞い、観客達の目には右腕がトランプに変わったように見えただろう。 それにシャルナークが質問する。

 

「ん! レツ、今ヒソカから、何本のオーラが出てる?」

「……まず、トランプに十三本。 スカーフに一本。 真上の右腕に一本…だよね。 随分と伸びるし、枝分けも出来るんだね。」

「正解。 それも含めて、厄介なんだ。」

「……でも、ヒソカの【隠】にも気づいてないみたいよ。」

 

レツが回答すると、マチが補足をし、フェイタンも呆れる。 天井の右腕とスカーフに纏わりついたオーラはヒソカの右腕と繋がっており、地面に散らばったトランプからもオーラが伸びていて、ヒソカの左手に握られているのが分かる。

 

***

 

左手を右腕の傷口に突っ込むという、突然の奇行に、四人も流石に顔を顰める。傷口から手を抜いたヒソカの左手指には血濡れのトランプが挟まれていた。 その一連の奇行にトランプを手で弾き落としたカストロは、再び突撃せんと構える。

 

「下衆め……。二度とふざけた真似が出来ぬように、左腕もそぎ落としてくれる!!」

 

 右側のカストロが叫ぶと、左側のカストロが走り出す。

 

 すると、ヒソカがまた左腕を捧げるように突き出す。 その瞬間、ヒソカの切り落とされた右腕の傷からオーラが伸びて、後方に控えたままのカストロの顎に付着する。

 

「さっきから言ってるだろ? あげるよ♥」

「っ! ならば、望みどおりにしてやる!!」

 

 前に出たカストロは虎咬拳で、ヒソカの左腕を右腕同様引き千切ろうとする。 その数秒前に、天井に張り付いていた右腕とスカーフが、目にも止まらぬ猛スピードで、ヒソカの右腕に繋がり傷口を隠すように覆う。

 

ドガァン「っ!? な、なに!?」

 

 右腕で、カウンターを喰らったカストロが驚き、その姿が靄のように消える。

 

「やはり【分身/ダブル】の方で攻撃してきたか♦ まァ、カウンターをくれてやるんだけどね……こっちで♥」

 

 ヒソカは繋げたように見せかけた右腕を見せつける。 カストロは激しい動揺に汗を滲ませて、無意識に一歩後ずさる。

 

「くくく♣ これも手品です♠ さて、どんな仕掛けでしょう?」

 

 ヒソカが笑いながら右腕を掲げる。 カストロはそれを見て、僅かに冷静を取り戻す。流石にこれほど異常なことが起これば、何かの念能力であろうことは想像つくだろう。

 だから、これは最終通告。

 左腕の献上を結果として行わなかったのは、自分が最強だという自信はあるが、だからといってヒソカは幻影旅団を甘く見てなどいない。 戦闘中に目撃できたその方向から、少なくとも三人は居る旅団員との両腕という部位欠損の上、一対多数のリンチではさすがに不利であることくらい冷静に判断している。

 これはヒソカが仕事の呼び出しに行かず、旅団員がレツにどれだけ味方をするのか絶対的に情報が足りず、分からなかったのが大きい。 その理由もそうだが、それ以上にこの上ないチャンスになるので、このような'不味い果実'なぞに、戦闘欲と性欲がつながっており、少しでも美味しくしたいという、自分の自慰行為のせいで、その期待を自ら捨てなくてはならない、もしくは不完全燃焼の状態でレツを壊さなきゃならないなど、ヒソカには許容できず、バカバカしいことこの上ないというのも大きい。  

 その最期の確認にもカストロは目に【凝】を使わなかった。

 

「君の【分身/ダブル】を作る力は素晴らしい♦ だが、もうネタは分かった♣ そこからどんな攻撃が来るかも想像がつく♠ それに対処する方法もね♥」

 

 ヒソカはゆっくりとカストロに歩み寄る。

 

「くっくっく、どうした? こわいのかな」

 

 後ずさったカストロに向かって、ヒソカは冷めた声で言った。 カストロはヒソカのトリックを、まったくもって見破れていない。 だが逆にヒソカは、カストロの能力を既に完全に見切ってしまっている。二人のその差異は、既に滑稽なほど。タネのばれてしまった手品はつまらないだけでなく、見ていてなんだか虚しいものだ。 

 

「非常に残念だ♠ キミは才能にあふれた使い手になる……そう思ったからこそ生かしておいたのに」

 

 そして観客でさえそうなのだから、奇術を扱う者から見れば、それは既に腹立たしくさえ思えるものだろう。それはいま舞台に立っている希代の奇術師もまた、例外ではない。ヒソカは表情を険しいものにして、言った。

 

「予知しよう、キミは踊り狂って死ぬ♠」

 

 ヒソカが今、抱くのは、失望と、怒りだ。 それは、期待をかけていたせっかくの“青い果実”が、間違った育て方をしたせいで、中身がスカスカのつまらないものになってしまっていた、その虚しさからくるもの。

 

「そんなことも、知らなかったのか……♠」

 

 振り向いたヒソカの目が、ぎらりと輝いている。しかしそれは“凝”のせいだけではない。その目には、情けなく地に落ちて腐ってしまった果実に対する蔑みが、深く宿っていた。

 

「くっ……! だ、黙れええ!!!」

 

 カストロは完全に冷静さを失って【分身/ダブル】を発動して飛び掛かる。 ヒソカは本物のカストロに目を向ける。

 

「なっ!?」

 

 カストロは驚いて、後ろに下がって距離を取る。

 

***

 

「これで終わりだね。」

「まったく……あんなヤツに腕捧げて治療しないとならないなんてね。」

「もう行くよ。」

「………(仕掛けが割れてるとつまらない人形劇だな…)」

 

シャルナークの発言を皮切りに、二人も追従し、レツも無言で立ち上がり観客席を後にした。

 

 リングでは【分身/ダブル】の弱点、『戦いの最中についた汚れは再現出来ない』ことをカストロに告げるヒソカの姿があった。

 ヒソカはカストロの顎に付けていた【伸縮自在の愛/バンジーガム】を発動して、右腕をロケットパンチ&アッパーカットの要領で、カストロの顎を殴って脳を揺らす。

 ふらついたカストロを確認したヒソカは、今度は体中に付けていた【伸縮自在の愛/バンジーガム】を発動して13枚のトランプがカストロに向かって飛ぶ。

 カストロは脳震盪で【分身/ダブル】どころかまともに動けない。 そしてオーラで強化されたトランプがカストロの全身に刺さり、全身から血を流す。 ヒソカの予知通り、人形のように踊り狂いながら、カストロはゆっくりと後ろに倒れて行く。

 観客達はその光景を顔を青くして見つめ、ヒソカはこの後の口直しを楽しみにしてリングから立ち去った。

 

 

+++

 

そしてヒソカの部屋。

 

「前から思ってたんだけど、今日の試合見ててハッキリしたよ。 あんたバカでしょ。」

「そうかもね♥」

 

部屋に入って、“仮止め”状態だった右腕を外したヒソカを椅子に座らせるなり、マチは言った。

 

「わざわざこんなムチャな戦いかたしてさ。あれって何? パフォーマンスのつもりなの?」

「さァ?」

「ま、あたしはもうかるからいいんだけど」

「おや♥ ちゃんとシテくれるんだね♥」

「はァ?」

 

ヒソカは一つ確認を、わざわざ言い方に癖をつけて尋ねると、マチは懐疑的な声を上げる。 続けて、ヒソカはその理由を述べる。

 

「レツに会うたびに殺気をビシビシと叩きつけたり、実際に斬りかかってくるからさ♥」

「アタシは、一人前になって、アンタには万全な上で倒されての交代を望むからね。 それじゃ止血からね。」ヒュン

「おいおい♠ もう少し優しくしてよ♥」

「いいから、オーラ消して。 それで腕持って。 いくよ、【念糸縫合】」

 

 マチは、素晴らしい手際でヒソカの両腕を念糸で縫い繋ぐ。 ヒソカが具合を確かめるように指先を動かした。

 

「いつ見てもほれぼれするねェ♥」

 

 見事に元通りくっついた腕に、ヒソカは感嘆の声を上げる。

 

「間近でキミの【念糸縫合】を見たいがために、ボクはわざとケガをするのかも♥」

「いーから右手5千万、払いな。 ほれ、とっとと。」

「ちゃんと、キミの口座に振り込んでおくよ♥」

「ところどころ、ちぎれてるけど、あとは自分で処置してね。」

「サービス悪いねぇ♥」

「アンタの【伸縮自在の愛/バンジーガム】と【薄っぺらな嘘/ドッキリテクスチャー】使えばなんとかなるでしょ。」

 

最近の治療のサービスだったら、レツの力と合わせて、リハビリ無しで完治させてるが、ヒソカが患者の場合はレツに恨まれてる以上、絶対に見れないコンボである。

 

「…ああ、隠しておいた方がいいかな♥ その方が自力で元に戻したっぽいもんね♥」

 

そのままヒソカは傷口の偽装を行い、マチの能力の発言に、ヒソカは気まぐれだろうと、判断し同じく気まぐれ以上の意味を持たないが、ヒソカは自分の能力の『核』である、昔の菓子の名前といったのを話す。

 

「君達には全部、レツにも見えてたんだろう?」

「まァ、そうだけど。 …仕上がりはまだまだだけど。」

「そうか♥」ゾクゾク

 

いずれは来るその未来に思いを馳せつつ、カストロとの戦いの回想をした後、マチはメッセージを伝える。

 

「肝心の用事、伝令メッセージの変更よ。 8月31日正午までに、「ひまな奴」改め、「全団員必ず」ヨークシンシティに集合!! …あと、コードネームも決まって、アンタは《卯月》だよ。」

「……団長もくるのかい?」

 

動きを止めながら、マチのほうを見ないまま、ヒソカが言った。

 

「おそらくね。今までで一番大きな仕事になるんじゃない? 今度黙ってすっぽかしたら団長自ら制裁にのりだすかもよ。(…結局、能力の成り立ちのみだったね。 ダメ元だったし、仕方ないか。)」

「それは怖い♥」

 

 ため息をつきつつ、マチは肩の荷物を担ぎなおした。

 

「ああ、ところでどうだい? 今夜♥ 一緒に食事でも……」バタン

 

ヒソカがくるりと振り向いた時には、既にマチは部屋におらず、静寂だけが部屋に横たわった。

 

「……残念♥」




シャワーを浴び終わり、ヒソカは鏡を通して、背中を見る。

「ん、あ またはがし忘れた♠」ピリ ペリリ

はがし終わり、重ねて呟く。

「蜘蛛か… 新しいオモチャも見つけて、いずれ挑んでくれるし…♥ そろそろ狩るか…♥」

 パァアアン!! スゥゥーー……

レツが執心している、色々な事を知らない”遺品”であるところの、蜘蛛の《卯月》のイレズミは、偽りであった___
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