銃は地球人類が生み出した最高の文明の利器である   作:ジャーマンポテトin納豆

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エルフ族の村

 

ネル達と共に森の中を進んだ。

移動速度は遅く2、3日で村へ到着するのは難しそうだ。というのも俺が堕とした翼竜の肉と鱗などを大量に抱えての移動だからだ。

何故そんなに翼竜の肉と鱗を抱えているのか。

それは、彼女達エルフ族はよく言われるような野菜などしか食べない、何てことは無く、しっかりとタンパク質となる魚や野兎、野豚、野鳥を捕って食べているそうだ。

彼女達はその野鳥などの狩りに出て、獲物を探している時に翼竜の群れに襲われたらしく、それまでに捕った野兎や野鳥は全て捨ててしまった。

だから再び狩りをするぐらいならば目の前にある翼竜の肉があるじゃないか、となった。しかしその翼竜達を仕留めたのは俺だから所有権は俺にある。

 

そこでこの森の事を詳しく教えて貰う代わりに翼竜の肉を提供すると言う取引を持ち掛けたのだ。

 

俺は肉何て要らないし、食べるとしても1人だから少し貰えれば事足りる。

それにそんなに持ち歩けないし、何より今の俺に生肉を腐らせない様に持ち歩く手段は無い。

そう言う訳で提案したら彼女達は大喜びでそれを受けてくれた。

彼女達は肉を切り分け、綺麗な大きな葉を何処からか取って来てそれに包み、魔法で凍らせた。あれはかなり驚いた。

 

そんな方法があるのか、と驚き尚且つ彼女達が全員魔法が使えることにも驚いた。

 

彼女達から聞いた話ではエルフ族と言うのは総じて魔法に対して適性が高く殆どの人間が魔法を使えるそうだ。

属性の違いはあれど、全員が使える程のレベルだそうだ。

ただこの場所での生活だからか火属性魔法という物はあるにはあるが使う事が無く、精々が調理の時に火を起こす程度だそうだ。

 

基本は今の様な氷属性に加えて水属性、風属性の3種類だ。

そこに火属性なども加わる。やはりかなりの適性がある様で聞いているだけで驚いた。

 

氷属性は今の様に獲物や備蓄食料の保存のために氷の塊を生み出したり獲物そのものを凍らせたりする。

水属性は水を作り出したりする。

基本的にこの2種類はそちらも使えるという事が多く、実際にこのメンバーの中にも2人いるがその2人はどちらも使える。

風属性は狩りの時に弓で矢を放った時に飛距離を伸ばしたりするために使われる。

 

そう言う訳で肉を葉で包み、凍らせる。

俺は俺の分を切り取り、凍らせてもらう。

 

そしてそれが終わってからふと思ったのだが翼竜の鱗ってもしかすると等価交換の金の代わりになるのではないか?、と。大きさは大体5~7cm前後。

 

 

そう思い鱗を1枚剥ぎ取り、入れてみる。すると思った通り金と同じ役割が出来るだけでは無く金貨の2倍の価値がある。

 

そう言う訳でこの鱗を剥ぎ取りまくった。

滑走路を呼び出したので思いっ切り消費してしまっていたからこれは嬉しい誤算だった。

 

ひたすら無心に剥ぎ取りまくって、途中からはネル達にも手伝って貰った。

流石にタダ働きは申し訳ないので何百枚か渡した。

その時の顔と言ったらもう面白くて面白くてしょうがなかった。

 

え!?これ貰って良いのか!?

 

という顔で全員が全員俺を見て来るものだからついつい笑ってしまった。

まぁ鱗を渡した代わりにしっかりと討伐した頭数分は剥ぎ取って貰った。

それに鱗だけでは無く骨なんかもそう言った対象らしく骨もしっかりと回収した。

 

流石に肉は駄目だったので彼女達は持てるだけ持って出来るだけ無駄にしない様にした。

基本は必要な分だけを狩る。それがエルフのライフスタイルと言う事だそうで肉を切り取る時もしっかりと祈っていた。

まぁ何に祈っているのかは知らないが。

 

そう言う訳で翼竜の鱗を一匹当たり3000枚近く剥ぎ取り、ネル達に渡した分を引くと12匹分なので35500枚という普通ならば一財産どころか大金持ちになれる枚数だ。

翼竜の鱗1枚で金貨2枚分の価値があるのだから、金貨に換言すれば71000枚になる。

 

……国王から貰った報酬よりも遥かに多いじゃないか!?

国王から貰ったのは金貨3000枚だぞ!?それの……24倍!?

うっそだろおい……飛行場が凡そ金貨1200枚ぐらいだったから余裕で回収しちゃったじゃないか……

 

 

 

……俺こんなに大金持ちになっちゃって大丈夫だろうか?

 

 

 

何故こんなにも高額になったのか気になって調べてみたところ分かった事があった。

そもそも翼竜を含めて飛竜や土竜という、竜種は殆ど討伐される事が無い。

 

というのも基本的に硬い鱗に覆われている竜種は俺を覗いた人間の持てる武器でそれらを貫きダメージを与える事は困難だからだ。さしずめ空飛ぶ要塞と言った所か。

それ以外にも空中を飛びながら攻撃を仕掛けてくるから手出しが出来ず、基本的に時間を稼ぎながら逃げ回り、隙を見て一気に逃げ出すのが殆どだ。

 

稀にこの竜種を討伐出来る人間やエルフ、ドワーフはいるにはいるがやはり滅多に無い出来事だ。比較的討伐数が多いのは土竜だが、これは土竜が空を飛べないという事にあるからだ。それでも硬い鱗で全身を覆われており、さながら移動する要塞のような生物だ。

 

比較的柔らかい腹部へ攻撃を集中すれば討伐出来ない事も無いが飛竜、翼竜は飛び回り攻撃が当てられない。土竜はその点飛べないから攻撃は当てやすいが土竜は竜種の中でも特に鱗が硬く、腹の鱗は飛竜や翼竜の鱗と変わらない硬さで、背中側はそれ以上に堅いらしい。

 

硬さの順で言うと土竜>飛竜>翼竜、と言った形だ。

それ以外にも竜種は存在するがオードソックスな竜種はこの3種だ。

というかこの3種類以外俺は知らない。

 

まぁ疾風から撃ち出された20mm弾を翼竜の鱗では防げなかったという事か。

これが飛竜や土竜になったら20mm弾で効果があるのかと聞かれると多分無理そうだ。M2ならなおさら貫通出来ないし、5.56mmや9mm弾では傷を付けられるのかどうかすら怪しい。

 

今の装備じゃ全くの太刀打ちが出来ないな。

態々自分から討伐しに行く事なんて無い。絶対に無い。

 

流石に全部金として入れてしまうのは勿体無いし、何よりエルフラントさんに心配を掛けてしまうのだからそのお詫びと言うのもあれだが、鱗を幾らか取って置いてネックレスか指輪でも作って贈ろう。

 

まぁ翼竜の鱗の色って1匹1匹違う。

赤や濃緑が多いが青っぽいのも居るししかも磨けばかなり綺麗に光りそうだ。

聞いた話からすると普通の宝石なんかよりもずっと貴重そうだから多分怒られた後に喜んでくれるだろう。

 

あ、そう言えば逆鱗とか言うのは無かった。翼竜には逆鱗が無いらしい。飛竜や土竜にはあるらしいが何故無いのかその辺は不思議だな。

 

金として入れずに各種類の色の鱗を10枚ずつ程残しておく。

小型のリュックを呼び出し、その中にタオルで包んで入れる。するとその事を不思議に思ったのかネルが話しかけて来た。

 

「その鱗はどうするのだ?」

 

「あぁ、これ?加工して首飾りか指輪にしようと思ってるんだ」

 

「ほう、それは誰かに贈るのか?」

 

「そうだな。よくお世話になっている女性が居るからその人にな」

 

「なんだ、イチローも案外やるじゃないか」

 

俺が捕まえたと言うより、奇跡が起こったからエルフラントさんとああいう仲になれたのだと思う。

 

取り敢えずそれ以外は全て入れてしまう。

そんな多い数を持ち歩ける事が出来ないからな。ハンヴィーかバイクでも使う事が出来ればもっと持ち運べるし移動も楽なんだがなぁ……

 

 

 

俺の格好は上下迷彩服に戦闘靴を履いている。

ネル達と合流してから余裕が出来たのでパイロットスーツから迷彩服に着替えさせてもらった。

ベストにマガジンポーチを3つ、それぞれ2つづつ入れられる物とM9用のマガジンポーチも取り付けてある。鉄板は重量が嵩む為に入れていない。それと右側の腰にコンバットナイフを1本。

あとはブッシュハットを被っている。ヘルメットでも良いのだが重いし蒸れる。その上伏せ撃ちをしたときに邪魔だ。それと翼竜の鱗を入れてある小型のリュックを背負っている。

 

総重量はM4が約2,7kgとM9が約1kg。銃本体だけで3,7kg。

それに5.56mm弾210発全て足すと約2,5kg。マガジンを含めると3kg程にもなる。更にM9用の9mm弾が45発なのでマガジンと足すと1kgくらいか。

弾薬だけで3,5kg。

迷彩服上下とブッシュハットで1~2kgあり、戦闘靴も両方で2kgはある。

ベストとマガジンポーチが1kgくらい。

ナイフは1kg無いな。多分5~600gか。

それと翼竜の鱗は1枚当たり100gと見た目と反して随分と軽い。それが30枚なので3kg。

 

合計で15kgにもなる。

エルフラントさんやクレイドルさんの鎧は全部で3~40kgもあり、更に剣が5kgもある。

それと比べると軽いのだろう。しかしこの森の中で行動するには重すぎることに変わりは無い。

 

 

それに比べて彼女達の格好は森の中で動き回るのに支障がない様、かなりの軽装で行動していた。基本は全員が弓を装備し、矢はそれぞれ20本ずつ。矢の数は折れたりしたときに困らない様に比較的多めに持ち歩いているそうだ。

そこに短剣と小さなナイフの2本と後は水。

これだけで行動しているのは驚きだ。

格好は皮鎧なので見た目ほど重く無く、全て合わせても5~7kgぐらいか?

俺と比べると天と地程の差があるな。

 

しかし1人当たり10kgの鱗と更に20kgづつの翼竜肉を持ち歩いているから総重量は35kg以上と俺よりもずっと重い。

にも関わらず移動速度は俺と変わらず、しかも余裕がある。

寧ろ俺の速度に合わせてゆっくり進んでくれているのだから驚きだ。

 

水はこの森の中では確保が難しいらしく、それだけは確実に持って来ていて、他の食事は現地調達で十分やって行けると言う。魔法で生み出せるには生み出せるがそれも限度がありやはり自身で持って行かなければならないらしい。

 

彼女達はやはりこの森での移動にかなり慣れており、まだまだ疲れている様子が無い。

俺も体力に自信はあるから疲れてはいないが慣れていない土地、地面を歩くのが意外と疲労が溜まってしまうのかもしれない。

 

 

 

 

 

今のところ、特に何か問題が起こる様な事は無く、順調に進んでいた。

「探知」で700m範囲内に何かしらの反応があった場合、確認はしていないが危険が及ぶ可能性を考えて全て避けて進んでいた。

追いかけて来る魔物や魔獣も居るには居たが、襲い掛かって来る方向も何もかも分かっている為に簡単に対処が出来た。

 

だがネル達は俺の探知で魔物や魔獣を避けているのにも関わらず、俺が幾ら大丈夫だと言っても、それでもガッチリと警戒をしている。最初に俺と話している時の感じは何処に行ったんだ?と思うぐらいだ。

それどころか行き過ぎなぐらい周りを警戒している。

 

剥ぎ取っている時も、休憩中も常に交代で3人の歩哨を立たせ、用を足している時は必ず3人は一緒に付いて行き、身体を拭く時は一人ずつ。寝ている時は歩哨を四方位に立たせ交代で寝る。尚且つ寝ている者も装具は一切外さずそのまま。

 

何時でも何かあれば対応出来る、そんな感じだった。

流石に幾ら何でもこの森に慣れているのだから行き過ぎているような気がするのは気のせいなのだろうか?それともそれ程この森が危険という事か?

 

 

 

 

 

道中、休憩中に紙にマッピングした範囲を印刷する事も忘れない。この辺りは2日目の夜までに印刷していた範囲では無く、まだ印刷をしていない場所だったからだ。

 

途中、何度か紙に印刷した地図を見たが特に変わった事は無かった。

そして翼竜を剥ぎ取った日から5日後、漸くエルフの村に到着した。

 

「イチロー、ここが私達の村だ」

 

「おぉ……!これは凄いな……」

 

思わず声を上げてしまう村の様子だった。

その村がある場所は疾風で飛んでいる時に見た、森にしては違和感のある場所だった。

どうやら巨木の上に家を作り、家同士を吊り橋のような物で繋いでいるという、宙に浮いている村だった。それに地面にも建物が幾つかあり、村の範囲を柵で囲っている。

 

そのエルフ達が吊り橋の上を行き来しているのはかなり幻想的な光景だ。

 

かなり高い所にある。

そこまでは良いのだが、何か違和感がある。

軽く見渡すと気が付いた。

 

何というかこう、幾らここが危険なオール大森林の中とは言え余りにも殺気立っているというか、ピリピリしすぎているのだ。

それに村の中から本来はする筈の無い血の匂いが漂ってくる。

獲物の解体をするにしてもここまで血の匂いがするか?

 

それに全体を見ても明らかに村人の数が村の規模と釣り合わない。

こんな昼間なのだからもっと多くのエルフが活動している筈なのだ。

エルフが夜行性なんて聞いたことも無ければネル達にもそんな事は欠片も見られなかった。

 

 

諸々を考えると明らかにおかしい。

どういう訳だかは知らないが普通ならば何百年もここで暮らしているのだから寧ろ安心して普通にしている方が自然なのだ。

 

俺の様に森の外から調査に来たのなら四六時中周りを警戒し続けるのは当たり前だし、何より見知らぬ土地で周りに何も見覚えの無い物ばかりなのだから寧ろ俺がもっと警戒しなければならない。

 

しかしながら住み慣れている筈のエルフ達までこんなにも警戒しているのはおかしい。

しかも地面の上に建てられた建物からは人の気配がせず、無人の様だ。

 

「イチロー、早く来い。地面の上にいつまでも突っ立って居たら危険だ」

 

「危険?ここは村の中だよな?何故だ?」

 

「いいから早く。あとで説明するから」

 

「あ、あぁ……」

 

村の様子を詳しく見る前にネルに手を引かれ巨木の上に建てられた家々に案内される。上から梯子を下ろしてもらいそれを使い上って行く。

 

ネル達の様子も肉を切り分けていた時とは随分と変わっている。

彼女達もどこかピリピリとしている。

 

梯子を上り、通路に上がる。

すると下から見上げた時も感じたがかなりの高さにある。

大体30m程の所にあり、低くても25mくらいの所にある。

 

なんというかツリーハウスが沢山あってさらにそれらが吊り橋などで繋がっているような感じだろうか?一本の木に上下に連なって建てられている家は梯子で上下に行き来出来るようになっている。

 

此処に立ってみて感じたがやはり男としては色々と擽られるものがあるな。浪漫だ。

 

しかしこれだけ高い位置にあるのならば翼竜や飛竜の様に上からの攻撃には弱いが下からの攻撃に対してはかなり強い筈だ。

 

確かに上からの攻撃に対しての警戒は必要だろう。

だが何故下に対してもこれほど警戒する必要があるのか?

 

この高さなら弓などの武器での攻撃も上を見上げての攻撃だから寧ろ上から一方的に撃ち下ろす事が出来るではないか。それなのにも関わらずこれほど下への警戒が高いのだおかしい。

 

「取り敢えず村長の所に行く。翼竜に襲われた事と、イチローの事の報告、あとは成果の報告だな。と言っても全てイチローが関わっているから付いて来て貰うぞ」

 

「あぁ。村長に挨拶したいからな。あとは数日間の滞在許可を貰いたい」

 

「挨拶は全然構わないが、村の様子を見て貰えば分かるがもしかすると滞在許可は貰えないかもしれないぞ」

 

「構わないさ。なんにせよ挨拶は必要だと思うからな」

 

「そうか。それなら付いて来い」

 

そう言う訳で村長の元に行った。

村長の家は他の家よりも大きく存在感のある家だった。

巨木は幹自体もかなり太く、直径が余裕で8m程はあるような太さを誇り、並大抵の重さなどではビクともしない。そもそも一軒家が丸々木の上に建てられているのだからこの巨木は驚くレベルだ。

 

そして村長の家に入る。

 

「村長!ネルです!狩りから戻って参りました!」

 

「どうぞ入ってください……」

 

中から聞こえてくる声は何故か随分と弱々しい声だった。

いや、おかしいぞ。

 

そしてドアを開けて中に入ると、家から普通する事のない血の匂いが充満していた。

にも拘らず窓も開けていないのだから完全に籠ってしまっており、酷い匂いだ。

血の匂い自体も流れて直ぐの匂いでは無くかなり暫く経ったものだった。

 

ベットに近付くと、そこには重症を負った痛々しいエルフの女性が横たわっていた。見た目は恐らくかなり若いと思われるが片目は包帯のような物で覆われており、左足は無く、右腕は骨折をしているのか添え木をして同じ様に布で固定されていた。

恐らくそれ以外にも傷はあるのだろう。

 

「村長、体の具合は如何ですか?」

 

「見た通り、良くありませんね……」

 

ネルが村長に話しかけると先程よりもずっと弱々しい声でそう答えた。

なんとかして身体を起こそうとするが力が入らないのか少しも動く事が出来ない。

 

「そうですか……余計な事をお聞きしてしまい本当に申し訳ありません……」

 

「それで、皆さんに怪我はありませんか……?」

 

ネルは申し訳なさそうに謝る。

村長は自分の身体の状況なのにネル達の事を気に掛けているあたりとても優しい人なのだろう。

 

「途中、翼竜の群れに襲われましたが事無きを得ました」

 

「翼竜の群れ……!?本当に無事なのですか……!?」

 

「はい。彼のお陰で。17匹は居るのにそれを瞬く間に堕とし、さらに私達は怪我をしましたが、彼はそんな私達に治癒魔法を掛けて下さり傷は全て治っております」

 

「彼……?彼とはそこに居る人間の男性の事ですか……?」

 

「はい」

 

ネルはそう聞かれると返事をして俺に挨拶をするように目配せをして来た。

そして彼女の視界に入れる場所に立ち、挨拶をする。

 

「イチローと申します」

 

「イチロー様、と言うのですか……ネル達を助けて頂き本当に有難うございました……」

 

弱々しい声で俺に礼を告げて来る。

しかし様呼びは止めて欲しい。

今言う事では無いがむず痒い。

 

「いえ、大した事では無いので気になさらないで下さい」

 

「彼は、翼竜の群れに襲われていた私達を空を飛ぶ何かで助けてくれたのです」

 

「空を飛ぶ……!?うっ……御伽噺のようですね……それは本当なのですか……?」

 

流石に空を飛んでいる何かで、と聞くと驚いたが痛みが走ったのか直ぐに落ち着いた。

 

「はい、私だけでは無く他の者もそれから降りて来るところを見ております」

 

「そうですか……それは信じるしかなさそうです……」

 

「そしてそれだけでは無く襲われたせいで捨てざるを得なくなった狩りの成果を、翼竜の肉を分け与えてくれたのです」

 

ネルがその説明をすると村長は俺を見てもし頭を下げられるのならば本当に地面に頭が付いてしまうほどに頭を下げているだろう雰囲気で礼を言って来た。

 

「そうですか……イチロー様、此度の事は本当にありがとうございます……!出来れば何かお礼がしたいのですが残念ながら私はこの様です……どうかご容赦ください……」

 

「いえ、お礼をされるほどの事ではありませんし、そこまでの事をしたという認識もありません」

 

「ですが翼竜の肉まで分けて頂いて……これで何もしないと言うのは……」

 

「そうですか……それなら今のこの村の状況を教えて頂く事と、数日間この村に滞在したいのでその許可を頂きたいのです。あとは森の事を教えて頂きたい。この3つで十分です。食事などは自分で何とかしますし、もし食料状況が悪いと言うのならば提供する事も出来ます。もし迷惑だと言うのならばお断りして頂いて構いません」

 

本当は森の詳しい事も聞きたいのだが流石にそれは躊躇われる。

村の状況を聞くのはもし俺に出来る事があれば手助けをしてあげたいからだ。

ネル達を助けた時から乗りかかった船どころかもう既に船には乗ってしまっているのだからこのまま突っ走ってしまおう。

 

俺にだって損得勘定はある。

それを考えた時、もし彼女を助けた場合に得られる情報が恐らくとても貴重だ、と判断したからこそ助けるのだ。

 

「本当にそれだけで良いのですか……?」

 

「はい。正直な事を申しますと私はロンバルティア王国国王の命でこの森の調査に来たのです。しかし少々問題が起きてしまい……」

 

「そうですか……それぐらいならば幾らでもどうぞ……村への滞在はお好きなだけ、お好きな時に滞在していただいて構いません……」

 

この村の状況の説明と村への滞在許可を得られた。

一応の目的は達成したと言えるな。

 

「有難うございます。それではまず、村長の治療からしましょうか」

 

「治療……!?ですがこれ以上ご迷惑をお掛けする訳には……」

 

「気にしないで下さい。このぐらいならばお安い御用です」

 

「すいません……すいません……本当に有難うございます……!」

 

彼女は少し涙声になりながら俺に謝罪と感謝をする。

いやだって流石にこんな状態の彼女を前にしたら出来る事があるのだからやってあげたいという気持ちにはなる。

それにこの状態じゃ話をしてもらう以前の話だ。

 

それに、この村は彼女以外にも怪我人が多く存在する気がする。

村長さん1人の出血量じゃどうやったって嗅覚が特別良い訳でも無い俺が血の匂いを嗅ぎ分けられる訳が無いからな。

 

 

 

治療のための準備をする。

まず呼び出したのは綺麗な水と消毒液。それと忘れてはならないのが手術をするときに人体に対して投与を行う麻酔だ。

 

呼び出したのは局所麻酔と呼ばれるもの。

 

全身麻酔というのはまぁイメージ的には眠ってしまうという物だ。いや、どちらかと言うと薬物によって意図的に意識を失わせると言った方が正しいか。

 

そして局所麻酔というものは、よく戦争映画などでモルヒネだ、と言いながら注射しているような感じだ。その名の通り意識は失わずその部分の痛みや苦痛だけを取り除く事が出来る。村長さんの怪我の程度は見た感じでしか分からないが片目の損傷に加え左足欠損と右腕骨折もあるというこれ程の重傷は本来、全身麻酔を使う事が普通なのだが全身麻酔の扱いはかなり難しく、容態の急激な変化も有り得る為に医学のド素人の俺には明らかに手を出すべきではないと判断したからだ。

 

局所麻酔が素人でも扱えるという訳では無く、あくまで今回はどちらの方が安全性が高いかという観点で選んだだけなので危険なことに変わりは無い。

 

局所麻酔として選んだのはモルヒネだ。

よく映画などでも使われている麻酔薬で、鎮痛作用は強力だ。だからこそ軍などで使用されるのだろう。有効限界が無いのも特徴的でより強い痛みに対しては容量を増やして使う事が出来る。

 

 

それと簡易的な血液型調査キット。

 

そして異物などが入り込んでいた場合にそれを取り除く為のピンセットなども。

あとは綺麗な布と包帯、ガーゼを大量に。

それと止血剤。

 

それ以外に呼び出したのは軍用のIFAK応急処置キットだ。

これが応急処置キットだと馬鹿に出来ないのだ。

 

基本的に戦場での死因の多くは大量出血による失血死と気道閉塞の2種類に分けられる。その2つに対しての対応が出来るし、恐らく今回も出番がある。

 

内容物はかなりの数がある。

 

 

 

CATターニケット:患部を圧迫して出血を止めるための止血帯×1

 

バンテージ:片手でも患部に巻くことのできる包帯×1

 

圧縮包帯:圧縮された伸縮性のある包帯×1

 

外科用テープ×1

 

経鼻エアウェイ:気道を確保するために鼻腔から挿入する管×1

 

外科用ゴム手袋:感染防止用のゴム製手袋×4

 

戦闘負傷者記録カード:負傷者の処置内容や時間を記載するためのカード×1

 

マジックペン:記録カードに書く為のペン×1

 

ガーバーストラップカッター患部を露出させるため衣類を切る道具×1

 

アイシールド:負傷した眼球の保護をする為のアイカップ×1

 

チェストシール(バルブ付き):気胸の処置に使う機密性の高いシール×1

 

 

 

以上だ。

これらの出番が無いと言い切れず呼び出しておいた。

というのも、今回は足を切開し開き血液の流れを止めるという事が出来ない。

露出している血管そのものを閉めてしまえば良い話だがそれでは俺の技量が無く危険だ。だからこれらを活用して治療を行う。

 

 

 

 

その前に俺は綺麗な服に着替えないと。

両手と、肩の辺りまでしっかりと洗い流す。

そして新しく綺麗な衣類を呼び出して着用。

 

「お聞きの通り多少は治癒魔法が使えますのでそれを使って治療します。それに加えて私独自の治療も施しますが、もしかするとかなりの痛みがあるかもしれません。その時は我慢せずに伝えてください」

 

「はい……」

 

痛みがあった時は即座に知らせるように言っておく。

というのも、余りの痛さ故に下手をするとショック死の恐れがあるからだ。程度と場合によってはその場で一旦手当てを中断せざるを得ないかもしれない。

先ずはどこが一番重傷なのかを確かめ、優先順位を付けて治療を施す。

 

 

だが一番は左足の欠損なのは明らかだ。

今も出血は続いているようだし早急に治療を行わなければならない。

優先順位的には今の所左足欠損が最優先。

 

脈拍を手首の部分で確認を取ると、やはり弱いな。

出血量が多かったのだろう。それに加えて食事などの栄養状況も良くなかったのか。

いずれにせよ理由は複数存在するだろうし、断定は出来そうに無い。

あとは感染症のリスクだがこれは高いだろう。そもそもこの世界に消毒や細菌、ウイルスという概念がまず無いからそれはしょうがないのだが。

 

 

 

 

 

健康状態の確認が終了したら最初に右目と右腕の状態を確認しておく。

 

先ずは右目。

ゴム手袋を着用し、更にその上から念の為に消毒液をかけておく。

そして包帯をずらて見てみる。

……かなり酷いな。右目を含めて鼻の少し右側辺りからこめかみの方まで大きな傷が残っている。まず触られた感覚、目は見えるのか、色覚に異常が無いかと動かせるかを確認しなければ。

 

「少し触りますね。触られた感じがあればなんでもいいので出来るだけハッキリと声を出してください」

 

「あぅ”っ”……!!痛いです……!」

 

「すいません、ありがとうございました」

 

触覚はまだ機能しているな。

痛みを感じるという事はそう言う事だ。もしかすると触覚として痛みを感じているのではなく、怪我をしているのだから痛いと言う幻覚かもしれないが。 

 

「右目は見えますか?」

 

「はい……」

 

視覚に異常は無く見えている、と。

それならいい。見えていないと流石に骨が折れる。

治癒魔法で視神経を再生させれば何とかなるかもしれないが失敗するとあとが無い。

 

「そしたら俺の指に合わせて動かしてみてください」

 

俺の指示の通り、右左上下と動かす。

よし、眼球周りの筋肉にも異常は無さそうだ。

ただ右と下に動かす時に少し動かしづらそうにしていたので軽く損傷しているかもしれない。

 

「色の見え方に何かおかしい所はありませんか?」

 

「大丈夫だと思います……」

 

「それではこの色は?」

 

「緑……」

 

「これは?」

 

「赤です……」

 

「それじゃぁこちらは?」

 

「青です……」

 

色覚にも異常は無くしっかりと判別が出来ている。

うん、傷の見た目は酷いが眼球やそれらの神経にダメージは殆ど無いようだ。

 

次は右腕の骨折だ。

 

「次は腕を触ります。痛いと思いますが少しだけ我慢してください」

 

「はい……」

 

触ると、骨にヒビが入っているのが確認できた。

骨折ではないな。これなら治癒魔法を掛ければ完治できるくらいだな。

 

「目の傷は酷いですが恐らく問題は無いと思われます。治癒魔法などで十分事足ります。腕の方も骨折では無くヒビですのでこちらも治癒魔法で対応できます」

 

「そうですか……」

 

「次は足を見ます。ですが恐らくかなりの痛みが襲うと思うのでそうしたら知らせてください。あと舌を噛まないようにこの布を噛んでいてください」

 

最後に左足だ。

まずは万が一出血した場合に備えて止血帯を巻く。

膝の辺りから無いので太腿の付け根辺りに止血帯を巻き、強く引き絞る。

 

「う”う”う”う”う”!?!?!?」

 

「すいません、少しだけ我慢してくださいね!」

 

かなりの痛みがあるのか大きな声で唸っている。

だがこれをしないと本当に出血多量で死にかねないのだ。

 

そしてしっかリ絞り切った後、少しだけ緩める。

完全に血の流れを止めるのではなく少しだけ流すのだ。そうする事で細胞の壊死を防ぐ。

 

そして患部の包帯を剥がす。

 

うっ!?これは酷いな……

 

見た感じ千切れ飛んだ、と言った所だろうか。

斬られた、噛み切られたという感じではない。

断面が斬られたにしては汚すぎるし、歯形がないので噛み切られたという訳でもない。

 

「貴女の千切れた足はまだありますか?」

 

「分かりません……」

 

「ネル、まだ村長さんの足は取ってあるか確認してきてもらえるか?もしかすると繋げられるかもしれない」

 

「わ、分かった!」

 

ドアの向こうで待機していたエルさんに確認してきてもらう。

かなり賭けな部分があるが治癒魔法を掛けながらくっ付けようとすれば繋がるかもしれない。まだ試したことも無いからどうかは分からないがやってみる価値はある。

流石に未だに治癒魔法で欠損を治せるほどの力は無いがこれならば出来るかもしれない。

 

「よし、それじゃぁ足の治療を始めます。最初に鎮痛剤を打ちますが、恐らく左足の感覚が無くなるかと思いますが心配しないで下さい。もし違和感を感じたらすぐに教えてください」

 

「分かりました……」

 

「イチロー、足は取ってあるらしい。氷属性魔法で凍らせてあると言っていた」

 

「分かった、そうしたらそれを持って来て」

 

「分かった」

 

ネルにもう一度頼んで取って来て貰う。

解凍しなければならないのでその時間も込みだ。氷漬けでかちんこちんの状態で繋げられるはずがないからな。

 

そしてモルヒネを注射する。

 

効果が出るまでの間に村長さんの血液型を調べておく。

すると村長さんの血液型はA型。

 

なのでA型の輸血用パックを呼び出しておく。

そもそも今までにかなりの出血をしていたのか明らかに血が足りないと見て取れる。

その血液を補うと言う意味合いもあるから多少多めに呼び出す。

 

 

そうこうして準備を行い暫くすると感覚が無くなって来たのか触っても反応しなくなった。

よし、そうしたらいよいよ治療の開始だ。

 

先ずは水でしっかり洗い流し更に消毒液をかけ、消毒を行う。

洗浄、殺菌は基本中の基本だ。

そしたら軽く拭き取り水では流せなかった断面に入り込んでいる異物、小石や木の破片を取り除く。

 

拡大鏡を使用して出来るだけ早く取り除く。掛かった時間は40分程だ。

そうしたら再び消毒液をかける。

 

ここまで来たら輸血の開始。

 

そうしたら針を刺しチューブを繋げる。

そしてチューブを輸血パックに繋げ、血を流し始める。

止血帯を緩めて血の流れを増やす。

 

暫くすると断面の血管から先程までよりも多い血が流れ出る。

しっかりと血の流れがあるという事だ。

 

幾らか汚い血を流し切っておく。

 

そしてやはり血の流れが思ったよりも多く流石に完全に止血帯を締める訳には行かず、血管をクリップで止めておこう。

 

細い血管はどうにもならないので所謂大動脈、大静脈を始めとした太い血管を中心に止める。この太い血管の止血をするだけで十分止血に成りえる。

そしして止血帯を若干緩める。

 

これぐらいの出血量ならば輸血で十分何とかなる。

 

「村長さん、今の所の意識はどうですか?朦朧としたり、ぼーっとしたりはしていませんか?」

 

「大丈夫です……」

 

「寒いとかは?」

 

「ありません……」

 

今の所問題は無いな。

受け答えもしっかりしているし、意識もしっかりしている。

 

心電図とかは流石に無いので脈は俺自身で計らなければならない。

ちょくちょく手首の所の血管で確認を取るが、輸血をする前よりもマシになった気がする。

 

あとはネルが千切れた足を持ってくるのを待つだけだ。

 

「イチロー、持って来たぞ」

 

「ありがとう」

 

数分後、ネルが持って来た千切れた足を断面に繋げ治癒魔法を掛ける。

止血帯を締めて、クリップを外す。それからネルが持って来た足を治癒魔法で繋げる。

暫くすると、内側から徐々にくっ付き始め、30分もすると完全にくっついた。念の為に更に30分治癒魔法を掛け続ける。

 

……よし、これで左足の治療は完了か。

確認するが異常は見られず恐らく問題は無い。ただ幾ら消毒したとはいえウイルスや細菌の侵入が考えられる。後々の経過で必要なら抗生物質などの投与も考えなければならない。

 

「左足の治療は終わりました。次は顔の治療に移りますね」

 

「有難うございます……お願いします……」

 

それから同じ様に顔の治療を行った。

モルヒネを打ち効いたら全体的に洗い流し、異物を取り除き消毒を行う。

女性なのだから顔に傷が残るのは好ましくないだろうから丁寧に行う。

幸い出血も無いので左足の様に出血に気を配る必要は無い。ただこめかみの方は少しだけ血が流れているがそれでも指を軽く切った程度なので治癒魔法を掛けてしまえばすぐに治るだろう。

異物を完全に取り除いたらもう一度洗い流して消毒し、終わったら治癒魔法をかけ終了。

 

次にヒビの患部に治癒魔法を掛け、終了し触った時にヒビの感触が無かったのでこちらも完了。

 

 

 

 

途中なんどか輸血パックを交換したが出血量が多かったっぽいからそれはしょうがない。

 

「村長さん、治療は終わりました」

 

「有難うございます……」

 

「まだ安心は出来ないので暫くの間はしっかりと食事を摂って安静にしておくこと。もし何か異変があればすぐに知らせてください。熱が出たとか、気分が悪くなって来たとか本当に簡単なものでも良いのですぐに知らせてください。命に関わる場合がありますから」

 

「はい、分かりました……本当に有難うございました……」

 

未だに麻酔が効いているのか怪我をした部分は動かせないようだがどちらにしろ今日一日は身体を動かす事は無理だろう。

 

なんなら暫くはリハビリをしないとならないから普通に立って歩けるようになるのは順調に行っても1、2カ月は先の話だ。

多分、目と腕は足に比べ軽い方だったし大丈夫だと思う。

 

そうして村長さんの治療は終わり。

これは疲れるな……何というか普通に戦っている時よりも全然疲れる。

慣れもあるのだろうが、命が掛かっているという精神的負担もあるのかもしれない。

 

 

そして忘れかけていたが感染症を抑えるための薬を点滴で打っておく。

こうすれば発症する事を抑えられるはずだ。必ずしも100%防げるという訳ではないので油断は出来ないからしっかりと気を付けておく必要があるが。

 

 

 

 

 

暫くすると幾らか余裕が出て来たのか口を開いて話し始めた。

 

「イチロー様、本当に有難うございました」

 

「いえ、気になさらないで下さい」

 

「それと一つだけお願いがあります……」

 

「はい?」

 

「どうか、他の村人も助けては貰えないでしょうか……?」

 

「他の村人?元々考えてはいたので構いませんが……」

 

村の中に入った時から何となく分かっていたがやはり怪我人が居るのか。

それも多分大勢。やはりこの村に来て直ぐに血の匂いがしたのはそのせいだろう。

村長さんを治療する時に考えたことは大当たり、という訳か。

 

「どうかお願いします……私の様に大怪我を負っている者がまだ居ります。対価は必ず、どのような形になったとしてもお支払い致します……!私の事をお好きなようにして頂いても構いません!ですからどうか、どうか……!」

 

起き上がることは出来ないが、それでも必死に頼み込んでくる。

いや、治療するのは構わないが対価なんて必要無いって。

そもそも村長さん自身を対価として渡されても困る。俺にはエルフラントさんがいるし。

 

「対価なんて必要ありませんよ。強いて言うならば既に先程要求した村への滞在とこの村の状況説明、あとは森の情報で十分です」

 

「ですがこれだけの事をして頂いたのに何もお返しをしないと言うのは……」

 

村長さんは納得してくれそうにない。

うーん、正直これ以上金を貰っても困る。翼竜の討伐でとんでもない金額を手に入れたのだからもう必要は無いのだがなぁ……

 

あ、そうだ。

 

「村長さん、そこまで対価を支払いたいと言うのならば一つだけお願いしても良いですか?」

 

「は、はい……!何なりと……ですがどうか村人には手を出さないで下さい……」

 

「大丈夫ですよ、そんなことはしません。取り敢えず要求するのは、リーヴォリの町はご存知ですか?」

 

「勿論です。あの町はこの森に最も近く、何かを買いに行ったり売りに行く時は基本的にあの町ですから」

 

「あの町に使いの人間を出して欲しいのです。帰ると言っていたのに既に5日も経ってしまい私の親しい友人や大切な人はとても心配していると思うのです。ですからどうか私の無事を伝えるための使いを出してください」

 

「そ、それだけ……?本当にそれだけで宜しいのですか……?他に何か無いのですか……?」

 

「えぇ。これ以上何かを望んでも罰当たりになってしまいますから」

 

「……どうしてそこまでしてくださるのですか?」

 

「え?うーん……なんででしょうか。私にも分かりません」

 

「そう、ですか……」

 

「しいて言うならば『困った時はお互い様』という事ですかね」

 

俺はそれ以上その場に留まらず、村長さんの家を出た。

そして外に立っていたネル達に村長さんを綺麗な家に移す事、そして村長さんの家をしっかりと綺麗にすることを言い、頼んで怪我をしている村人の元へ連れて行って貰う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪我人が収容されている家の中に入る。

そこには苦痛に呻くエルフ達が横たわっていた。

 

「うっ!?これは酷いな……!」

 

「ここに居る怪我人は全員で170人だ。その、本当に全員治せるのか……?」

 

「分からない。努力はするがどうしようもない場合もあるからその辺りはしっかりと覚えておいてくれ」

 

「勿論だ。他に何か手伝えることはあるか?」

 

「何人か手伝いを連れて来てくれ。流石にこの人数を1人で何もかもやるのは無理がある。それと何処か空いている家の部屋を1つ貸してくれ」

 

「分かった」

 

 

 

 

そして村人の治療を始める。

先ずは1人1人診断を行い、優先度順に分けていく。

基本的に四肢欠損や出血状況によって優先度を変える。

 

「あんた誰だ?人間か?何故この村に居る?」

 

「ちょっとした事情がありまして。今はそれを説明している暇は無いので後で説明させて頂きます」

 

「そうか……」

 

トリアージの為に診断をした人が話しかけて来た。

明らかに俺の事を警戒しているようで態度や言葉、目からも簡単に分かるぐらいだ。

取り敢えずこの人は優先度は中ほどだな。

1人1人の診断でゴム手袋を取り換え、次の人に移る。

 

四肢欠損の場合は止血帯と止血剤を使い応急的に止血をしておく。

漸く分け終え、それから優先度順に治療をして行く。

 

 

 

聞いた通り、怪我人は村の人口300人中170人にも上り、さらに言えばその殆どが男性で、男女比で言えば男154人女16人。

かなり重症の人が多く良くて骨折、欠損という具合で本当に多岐に渡った。

 

男の負傷者が多いのは何かしらの戦闘が行われた、と考えるべきか。

 

怪我の程度は個人個人で様々で村長さんの様に足を失っていたり、腕、目が見えなかったり、腹部を大きく損傷し内臓が見えていたり、内臓そのものにダメージがあった人も居たが、どれも何とかして治療した。

 

しかしながら千切れたりした足や腕が無く繋げる事が出来なかった人。

断面の部分が壊死を起こし、繋げるどころか寧ろ切断をしなければならなかった人。

片目、両目を問わず完全に視力を失った人。

半身不随になってしまったりと様々な障害を抱えてしまった人も多く、残念ながら治療をしている時に亡くなられた方が43名ほど出てしまった。

 

それ以外にも俺がこの村を訪れる前に亡くなった方が25人居るらしく、合計して68人の死者となった。

 

 

亡くなった原因は元々、俺が来るまでに手当と言っても無理矢理血を止めたり、消毒などの医療的概念が全く無く既に感染症を引き起こしていて何とかして薬の投与などで症状を抑えたり治そうとしたりしたが完全に手遅れで何ともならなかった人が22人。

あとは大量出血による失血死と失血性ショック死。残りの全員がそうだった。

輸血しても間に合わない程に血を失い、更には傷とは別の箇所、肉で覆われている場所からの出血があったりして止血が間に合わずに、というものだった。

そもそも出血箇所の特定する事も出来なかった人も居たりと出来なかった事は数多かった。

なぜそのような状態で今まで生きて居られたのか分からない様な人も居たのでもう少し頑張ってくれれば助けられた。

 

俺が来る以前に亡くなった方の死因は分からないが恐らく同じようなものだろう。

 

 

俺自身は医者ではないからしょうがないと言えばしょうがないのだがそれでも目の前で救えない命があるのは悔しい限りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

丸々4日間を治療や手当、それ以外に感染症が蔓延しない様にあちらこちらを消毒して回る事に費やし、負傷者の殆どが男だったので足りない人手を補うためにあちらこちらを走り回った。

 

亡くなった43名の埋葬や、治療後の感染症などを抑えるための点滴や欠損などの重傷で未だに身体を動かす事が出来ない人への食事の配給、その他諸々。

 

しかし本当に怪我人の殆どが男なのは不思議でしょうがない。

やはり何かしらの戦闘があったと考えるべきか。

細かい傷などがどう見ても普通の生活を送っていくうえで負うはずの無い物ばかりだったからだ。

 

それについては村長さんから聞けるから放っておくとして目下の課題は食事だ。

というのも基本的に呼び出せる食事の中に消化の良い物なんて欠片も無いのだ。だから出来るだけマシな物を選び呼び出しているのだが、基本的にパン食や野草、野菜に肉が殆ど。

米なんて食べたことが無い人しか居なく、提供した時に、

 

「こいつは本当に食えるのか?」

 

と警戒されてしまった。

まぁそりゃそうか。俺だって見た事も無い聞いた事も無い初めての食い物だったら警戒する。そもそも食えるのか分からないのだからえぇ……?これ何……?となる。

だから俺がその場で食って安全だという事を証明した。

 

流石に携行食をそのままはいどうぞ、と渡せない。

だってあれ基本的に戦場での食事でしかも消化の事なんてお構いなしの高カロリーだからだ。

 

そう言う訳で携行食ではなく米単体で呼び出し、おかゆを俺が作った。

塩や少量の胡椒を入れ、味もしっかりとつけてある。

 

エルフ族はあまり濃い味を食べることが少なく、俺の味付けでは濃いと言われた。

まぁ森の中だし塩は取れそうにも無いからな。胡椒なんかの香辛料は森の中で調達出来るから慣れていたが。

 

調味料というかおかずとして海苔も呼び出したな。海苔は自分で起き上がって食べられる人限定で渡した。

美味い食事と言うのは食べるだけで活力に繋がるから出来るだけ美味しいものを提供できるように努力をした。

怪我をしていなかったり元気な人はもうガッツリと翼竜肉を食らっていた。

 

この状況になってからというもの、村を守ることを最優先に考えていたから狩りへ満足に行く事も出来ず肉を食べるのも随分と久しぶりだと言っていた。

 

 

 

 

 

さて、村人の今後の話をするとすれば、生活を送る上で少なくとも四肢のいずれかを失ったり視力など何かしらを失っている場合は恐らく今までの生活に戻ることはかなり厳しい。いや、この森での生活は殆ど他者に頼って生きなければならなくなる。

 

地面に降りれば登る事が出来ず、これから先の人生はこの木の上にある家で一生を過ごさざるを得なくなるのは分かり切っていた。そこら辺は役割分担で出来る事をやればいいが、腕を失っている人は難しいな。

 

 

そんな訳で過ごした4日間は村中を駆け回り色々とこなしていた。

血などで汚れた家や部屋の徹底した清掃と殺菌処理。

汚れたシーツやベットを全て総取り換えし、衛生状況の改善を行った。

 

今の所容態が急変したりする人は居らず、順調に回復に向かって行っている。

本職の医者ではないからあれだが出来るだけ変化を見逃さない様に周りにも手伝って貰っている。

 

最初は俺自身に対して警戒していたがまぁこの期間で随分と打ち解けた。それどころかかなり親しくなったと思う。村の様子もかなり落ち着き、怪我人も大分体調は良さそうだ。

 

 

 

 

うん、今も1回見回ってきたが全員順調に快方に向かっている。

この分なら余程の事が無い限り問題は無いだろう。

さて、そしたら村長さんの所に向かうか。色々と聞きたいこともあるし、話をすると約束したのにもう丸々四日が経ってしまっている。

 

そう言う訳で村長さんの家に向かった。

 

 

 

 

 






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