銃は地球人類が生み出した最高の文明の利器である 作:ジャーマンポテトin納豆
「装填!」
「撃てェッ!」
「発射ァ!」
装填手が装填完了の声を上げた瞬間に俺が射撃の合図を出す。
砲手が大きな声で叫び、その瞬間に大音量と、土煙を巻き上げながら砲弾が吐き出される。
ドォォン!!!
撃ち出された砲弾は真っ直ぐ土竜に向かって飛んでいく。
ガギン!!
しかしその命中した硬芯徹甲弾は、分厚い何かに弾かれる音を立てながら思わぬ方向に飛んで行ってしまう。かれこれ数十発は撃ち込んでいるのに表面に傷を付ける程度に終わってしまっている。
「装填!」
「撃てェッ!」
「発射ァ!」
先程と同じように数秒の後に砲弾を撃ち込むが……
ガギン!!
やはり弾かれてしまった。
「どれだけ硬い鱗をしているんだ!?」
「クソッ!ここまで守り切ったのになんであんな奴が!」
「うるせぇ!そんな事喚いている暇があったら1秒でも早く砲弾を運んで装填手に渡しやがれ!」
「分かってる!でも本当にどうするんだ!?このままじゃーーーー」
「その先は言うんじゃねぇ!装填!」
「撃てェッ!」
「発射ァァ!」
8.8cm砲のメンバーは必死になってそれぞれの役割を果たしているが……
ドォォン!!!
ガギン!!
それでも土竜の鱗を貫くには至らない。
このままじゃぁじきに踏み潰されて食われる。
土竜は俺達の攻撃が自身に被害を与えるものでは無いと思っているのか、避ける事もせず、こちらへ向かって真っすぐに進んでくる。
避けると言ってもあれほどにデカい図体なら俊敏性もクソも無いだろう。
避けないと言うよりは、移動速度が遅すぎて避けられないと言った方が正しいのかもしれないがどちらにしろ加害を与えられていない時点で俺達の負けだ。
これが戦車砲、それこそレオパルト2やM1エイブラムスと言った現代戦車の使用出来るAPFSDS(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot)などならば貫徹力が硬芯徹甲弾よりも貫徹力が遥かに高く、土竜の鱗をも貫通することは出来るかもしれないが……
「駄目だ、貫通出来ない!」
「どうでもいいからさっさと装填しやがれ馬鹿野郎!」
「装填!」
「撃てェッ!」
「発射ァ!」
撃ち出される砲弾は命中するも虚しく弾かれて行くだけ。
銃座は既に射撃を始めていて、土竜に向かって50もの銃弾で出来た線が伸びていくがそれらは傷一つ与えられずに弾かれて四方八方に飛んで行ってしまうだけだった。
「おい!急いで弾を持ってこい!」
「あぁ!」
「畜生!分かっちゃいたが全く効いてない!」
「そんな事分かってんだよ!何でもいいから撃ち続けろ!そうすりゃ兄ちゃんがやってくれる筈だ!クソ!弾切れだ!」
「了解!…………!装填完了!」
前線の銃座は盛んに土竜に向かって撃ち続けるがやはり全くの意味が無い様だった。
どうやっても、何処に撃ち込んでも全くの効果が見られない。
比較的柔らかい腹部にも幾らか当たってはいる様だが、12.7mmや7.92mmクラスの小中口径では全くと言っていい程に効果が無い。
せめて注意を引き付けられないか……
そう考えた俺は通信で指示を出した。
「全銃座に通達!顔を狙え!幾らダメージを与えられないとは言っても顔に攻撃をされたら注意がそっちに向くはずだ!」
『了解!』
俺の指示が出た瞬間にそれぞれが土竜の顔に向かって射撃をする。
すると流石の土竜も、幾ら効果が無いとは言え顔に向かって何かが飛んで来ると言うのは嫌だったらしく、大きく顔を振って咆えた。
グ”コ”ア”ァ”ァ”ア”ア”ァ”ァ”!!!
至近距離での咆哮だったため、反射的に耳を塞いだ。
しかしそれでも突き抜けて来る大きな咆哮は鼓膜を破るのではないかと錯覚するほどだった。
しかしこれで顔に向けて攻撃すれば注意が引けるという事が分かった。
俺が指示を出すまでも無く銃座からは頭や顔に向かって射撃が開始された。
グ”オ”ア”ァ”ァ”ア”ア”ァ”ァ”!!!
しかしそれが土竜の気に随分と触ったのか、土竜はもう一声大きく咆哮すると、さっき頭を振っても振り払えなかったその存在の大元を探す為に目を下に向け、自分に攻撃を加えて来る存在を探し始めた。
そして銃座を見つけるとそれに向かって声を上げ、前足を振り下ろした。
「不味い!逃げろ!」
反射的に俺はそう叫んだ。
流石に狙われた事が分かっていたのか、MG42と弾薬箱を持ってすぐさまその場を離れた。
巻き込まれると思われた銃座もそれぞれ退避して行く。
ズドン!!!
大きな音と共に狙われた銃座とその近くにある銃座を一撃で破壊し、前進を再開。
しかしながら周りにもまだ同じようなのがあると分かると横っ腹を向けて潰しにかかる。
そして退避して来たメンバー達は俺の居る8.8cm砲座まで後退して来た。
しかしながら完全に無傷とはいかず、逃げ遅れたり巻き込まれたりして複数名が死傷。
重傷の人間はそのまま応急処置を施して後ろに下げ、それ以外の者達に矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「MG42のメンバーはMG42と弾薬箱を持って走り回りながら土竜の顔に攻撃を加え続けろ!1、2回の短連射をしたら即座に離脱だ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
「M2の連中はこの砲座の両側面に大急ぎで再展開!再展開終了後、即座に射撃を開始しろ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
「行けぇぇ!良いか、生き延びることを最優先に考えろ!気を引くことも重要だが死んだら元も子もないからな!」
M2とMG42、それぞれに指示を出して行動に移させる。
MG42は指示通りにあちこちを走り回りながら土竜の顔に向かって撃ちまくる。
M2は重量があるから機動戦には向かないから砲座の両側面から土竜に向かって撃ちまくるがやはりダメージは与えられない。
MG42は顔へ攻撃をしているからか土竜の注意を引きまくって、あっちへこっちへ逃げ回りながら撃ち続けている。
そして俺達8.8cm砲も負けずに横っ腹を見せている土竜に向かって撃ち続けるがやはり鱗を貫くには至らない。
戦車みたいに正面だけが分厚い装甲という訳では無く全周囲が硬い鱗に覆われている。だから何処に向かって撃っても弾かれてしまう。
本当にどうすればいい?どうすればあいつの硬い鱗を貫く事が出来る?
8.8cm対戦車砲の100mで200mm以上の貫通力じゃぁ無理だ。
今だってもう既に300mの近距離で砲弾を撃ちこんでいるのに弾かれているのだから100mの距離になっても貫通は期待できないだろう。
となるとそれ以上の貫通力を持つ武器が必要となる訳だがそんな物は基本的に大口径の対戦車砲になる。
だがそんなものを呼び出しても今すぐに使える訳も無い。
各種操作方法を覚えなければならない。勿論そんな時間はある訳が無い。
そもそも今の状況だって漸く、ギリギリの上で成り立っている様なものなのだ。
一歩でも踏み外せば真っ逆さまに、二度と登って来られない谷への落下の開始だ。
必死になって策を考える。
するとふと思い出したのだが対戦車火器の中に貫通力が8.8cm砲よりも遥かに高威力の物があったはずだ。
…………!あった!
見つけたのはパンツァーファウスト3。
装甲の種類にもよるが700mmという8.8cm砲の3.5倍の貫徹力を持つ。
幾つかに分けられているのだが今回は緊急性が高いので組み立てたまま呼び出す。
このパンツァーファウスト3は使用する弾頭にもよるがトーチカを破壊する為のバンカーファウスト、爆発反応装甲に対応できる二重弾頭のタンデムHEAT弾も撃つ事が出来る。あとは照明弾も撃つ事が出来るし、訓練用の演習弾なんかも使用が出来る。
まぁ今の所照明弾や演習弾の使用予定は無い。
なんなら爆発反応装甲もこの世界には存在しないから使わないだろうし、トーチカ何て物も無い。まぁ建物に対して撃ち込むことはあるかもしれないが出来ればそんな事は無い事を願いたい。
今回呼び出したのは成形炸薬弾と本体だ。
他にも暗視照準具やテレビモニターを利用したリモコン式の発射架台、センサーを用いた自動発射架台などもある。Dynarangeと呼ばれるレーザー距離計と弾道計算機を組み合わせた電子式照準具も使用出来るがそんなもんは必要無い。
パンツァーファウストにも種類があるが、第二次大戦時に使用されていたパンツァーファウストは貫徹力200mmと8.8cm砲と大して変わらない。
それを使っても8.8cm砲弾が弾かれる鱗には意味が無い。
だからこいつを使おう。
鱗の硬さがどの程度かは分からないが700mmの装甲を貫通させる事が出来るのだからこれが弾かれたらもうお手上げだ。エルフ族の皆を連れてこの森から出るしかない。
しかしそうならない様に、このパンツァーファウスト3であの土竜の腹に穴を開けてやるしかない。
「ちょ、何をしているんですか!?」
「あの土竜に接近してこいつを叩き込む!8.8cm砲じゃ埒が明かない!」
俺が何かをやろうと準備をしている事に気が付いた1人が俺を止めようとする。
「あれに近付くんですか!?止めてください!死んでしまいますよ!?」
「こうでもしなきゃこの村どころか皆纏めて土竜の胃袋に放り込まれるか踏み潰されて死ぬかのどちらかだけだ!」
砲座のメンバーと言い合いながらパンツァーファウスト3の準備を進める。
確実に必中させたいから出来るだけ接近して撃ち込む。50mくらいなら何とかなるかもしれない。
準備をしながら砲座のメンバーに指示を出す。
「俺が土竜に向かって行っても射撃はそのまま続行!出来るだけ数を撃ち込んで俺へ注意を向けさせない様にしてくれ!砲手に指揮を任せる!」
「……了解!」
最後に俺はそう言ってパンツァーファウスト3を抱えながら接近していく。
頭上をM2の射撃や、MG42の移動しながらの射撃が土竜の鱗に着弾しては弾かれて行く様子がはっきりと見える。
それだけでは無く数秒に一度の間隔で8.8cm砲弾が土竜に向かって空気を切り裂き、揺らしながら飛んで行く音も良く聞こえる。
「クソ!土竜の奴、こんなに面倒掛けやがって!」
パンツァーファウスト3を背負い全力で走って行く。掘った壕や銃座を飛び越えたり避けて進んだりする。
そしてどうにかこうにか50mの辺りまで接近する事が出来た。
しかしMG42の射撃から受ける苛立ちで遅いながらもあちらこちらへ動かし、その度に地面が揺れ、土が舞い、MG42を操作しているエルフ達がバランスを崩しながらも走り回る。
「うわぁぁァァ!?!?」
叫び声が聞こえてくる。
その方向を見るとバランスを崩して倒れたエルフの1人が土竜の足の下に居る。
恐怖で足がすくんだのか、動く事が出来ず悲鳴を上げている。
なんとかして助けたい。
そう思った瞬間に土竜の足が下ろされ踏み潰された。
「……クソッ!」
俺がもっと早くここに居れば。
パンツァーファウスト3の準備を終えて撃って居れば。
そもそも俺が注意を引きつけろ、何て命令しなければ。
そんな風に後悔の思いが身体中を縛る。
だがそんな風にしてはいられなかった。
あのエルフの死を生かすか殺すかは俺次第なのだ。
今此処で打ちひしがれても土竜は殺せない。
改めて目の当たりにした死に足が少し震えながらもパンツァーファウスト3の射撃準備を整える。
プローブ(信管)を伸ばし、弾頭を本体に挿し込む。
そして肩に担ぎ、狙いを付ける。
狙いは足だ。
左の横っ腹を見せながら大暴れしているが、50mなんて近距離だ、撃って直ぐに命中する。
クソ!動くんじゃねぇ!
幾ら遅い動きとは言っても狙いを付けるには十分に障害となる。
10秒程照準を付けては外れ、照準を付けては外れを繰り返す。
すると、俺が何かをしようとしているのを察知したMG42のメンバー達が一斉に右側に向かいながら射撃を始めた。
その瞬間、土竜も顔を右に向け進もうとする。
土竜の注意を右に逸らしてくれたのだ。
今が好機だった。
「発射ァァァ!」
声と共に引き金を引いた。
ドシュゥゥゥゥ!!!
大きな発射音と共に弾頭が撃ち出される。
無反動砲だから、反動は無く後ろに向かってカウンターマスが一気に噴射された。
弾頭は直後に安定翼が展開してロケットモーターに点火、加速しながら土竜に向かって飛んで行った。
ドォォン!!!
飛んでった弾頭は、土竜の左後ろ脚の太腿に見事に突き刺さった。
そしてその堅強な鱗を貫き炸裂。8.8cm砲弾ですら弾いた鱗と、土竜の肉を吹き飛ばした。
ク”カ”ア”ァ”ァ”ァ”ア”ァ”!?!?
先程までのこちらの恐怖を煽る様な咆哮では無く、今回の声は痛みに対して叫んでいるものだった。吹き飛ばされた足はそれでも尚歩き続ける。
マジかよ!?こんなもんをブチ当てられたのにまだ歩けるのか!
もうここまで来ると、土竜に対して感じる思いは畏敬の念だった。
しかし今ここで攻撃の手を緩める気は無かった。今こいつを殺さなければ俺達が餌になってしまうのだから。
土竜は自身の足を吹き飛ばした攻撃をしてくれたその存在をとんでもないぐらいの怒りが籠った目で探し回る。
しかし俺も馬鹿じゃない。
撃った直後に移動を開始し、今は股の下を通って反対側に陣取る。
見上げた土竜の腹は鱗で覆われていて確かに硬そうだった。
再度、プロープを伸ばして弾頭を挿し込む。
そして狙いを付け、引き金を引く。
先程と同じ様に鱗を貫通し炸裂。右後ろ脚の膝の裏側辺りに着弾した。
すると爆発で膝の裏にある筋やその他諸々の筋肉を吹き飛ばしたのか先程よりも大きくよろめき後ろ足の膝を遂に地面に付いた。
ク”カ”ア”ァ”ァ”ァ”ア”ァ”!?!?
土竜は痛みによって絶叫しながら尻尾や健全な前足、頭や首を振り回し、暴れまわる。
足からは血が流れ続けている。
……出来るだけ早く楽にしてやろう。
早めに楽にさせてやるために頭を狙うのが良さそうだが暴れられては止めを刺せない。だから両前足にパンツァーファウスト3を叩き込んで大人しくさせる。そして動けなくなった頭に向けて撃った。それでも左右上下に振るっていた為に狙った頭部に当たらず首に当たってしまった。
しかしながらその首への一撃で、絶命させる事が出来た。
直ぐには絶命させるには至らなかったが、それでも10秒程で痙攣を始め、更に10秒程で動かなくなった。
「……やったのか?」
「い、イチローさんがやってくれたんだ……」
「兄ちゃんがあの土竜を仕留めたんだ!」
「「「「「「ウォォォォ!!!」」」」」」
皆が土竜の周りに集まり、土竜が死んだという事が分かると一斉に喜び出した。
まぁそりゃそうだろう。一時は攻撃が一切通らず、俺も本当に不味いと思ったぐらいなのだから。
エルフの皆は村を守り切れた事に大喜びし、抱き合ったり肩を組んだりしている。
中には泣いている者もチラホラどころか結構な人数が居る。
しかし俺は今喜んではいられない。
戦後処理とでもいうべきだろうか、要は後始末をしなければならない。
魔獣や魔物の死体の片付け、怪我の手当て、遺体の埋葬。他にも色々とやらなければならない事は沢山ある。
俺はM2とMG42、弾薬、交換用銃身を格納して空薬莢を回収しておく。銃本体の状態を完璧にして、もしまた襲撃があった場合に備える。8.8cm砲も一度格納。砲弾なども纏めて回収する。
それと同時に怪我人の回収だ。
本当は戦死者の遺体も回収し、しっかりと埋葬したいのだが怪我人の治療が最優先だ。
喜んでいる所に水を差すのは悪いとは思うが今は先にやることをやって貰わないとな。
「皆さん!喜んでいる所申し訳ありませんが怪我人をこちらに連れて来てください!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
指示を出すと皆は特に何かを言うわけでも無く、それぞれ動いてくれた。
担架を呼び出してそれに載せて連れて来て貰う。
怪我人の重軽症の度合いはやはり多岐に渡った。
土竜が暴れた時の衝撃や余波によって吹っ飛ばされたり、踏みつけられて足や腕が潰されている者、骨が折れている者と様々だ。
骨折1つをとっても複雑骨折や折れている場所も腕、足、腰骨、肋骨、背骨、頭と本当に色々だ。
他にも木や地面に叩きつけられて内臓が破裂しているなんて当たり前だった。
この村に来た時と同じ様に怪我人の手当てをして行く。
傷口や患部の消毒、異物の除去、治療。
そうして全員の治療が終わった。
しかしながらやはり治療中に亡くなってしまった方は居るし、それに腕や足を失い、失明をしてしまったという人、土竜の咆哮を至近距離で浴びてしまい鼓膜が破れたりして聴覚に異常や、耳が聞こえなくなってしまった人も数多い。
しかし今はクヨクヨしている場合では無い。
一刻も早く遺体を回収し埋葬しなければならない。
「皆さん、怪我人の搬送ありがとうございました。次は遺体の回収です。辛い事だとは思いますがお願いします。村の広場に遺体は集めて置いて下さい。それと遺体の身元、名前が分かる方はこの紙に名前を書いてその遺体の上に置いておいてください。それが終わったら魔獣や魔物の死体の片付けをお願いします。素材や肉などはお渡しします。ですが土竜の死体は解体して肉はお好きになさって下さい。ですが鱗は調査したいので残しておいてくれると有難いです。調査が終わり次第鱗も差し上げますから」
そう指示を出す。
すると先程までは怪我人達や仲間達と話していたのだが俺が言ってからは殆ど話さず、最低限の必要な会話以外はしなかった。
まぁそれもそうだろう、以前の襲撃で68人、そして今回の襲撃で47人。
併せて115人にも上った。
今回の死者の主な原因は土竜との戦いで吹き飛ばされたりして内臓へのダメージが原因で24人、踏み潰されたりした事が遠因で23人。
半々、と言った所だった。
広場に並べられた遺体は全部で29名。
この29人は即死だったと思われる。踏み潰された23人以外の6名は吹き飛ばされたりした時に内臓へのダメージが余りにも大きすぎたからだろう。
まだ内臓破裂などで死んだ者は幸福だったかもしれない。
身元の判別が付けられるし、家族の元へ帰れるのだから。
踏み潰された遺体は身元の判別を付けることが難しく、ギリギリ身体的特徴を見て恐らく、アイツだろう、コイツだろうと言うレベルだった。
DNAでの判別も出来ない。
思わず、俺にはもっとやれることがあったのではないか、そうすれば死者は出なかったのでは無いかと思い、唇を噛み締めてしまった。
それぞれ29人の遺体の上には布が掛けられ、更にその上に名前が書かれた紙を置いてある。その布は血と泥で汚れていた。
その傍で縋り付いて泣いている人は家族だろうか。
残念ながら俺は怪我の治療は出来たとしても死者を生き返らせる事は出来ない。なんなら怪我人ですら死なせてしまう事もあるのだ。
せめて出来る事と言えば、遺体に頭を下げる事ぐらいだった。
それらが終わってから魔獣や魔物の死体を片付けた。
と言っても俺が呼び出したガソリンをかけて火を点けて焼き払うと言う雑なやり方になってしまったが早めに片付けないと悪臭や伝染病や感染症が蔓延する可能性もある。
衛生的な面で見ると放っておけないのだ。
あとは稀に起こるアンデット化だかゾンビ化を防ぐと言う意味合いもあるから手を抜くことは出来ない。
それを行う前に使える部位の剥ぎ取りは終わっていた。
土竜の死体は解体する前に写真を撮ってから肉の切り取りを行った。骨や牙、筋と言った全ての部位を剥ぎ取り、鱗も全て剥ぎ取った。
しかしながら俺にはそれら全て必要無いので、研究者に渡す分と個人的に報酬として受け取った幾らかを除いてその全てをエルフ族に渡した。
報酬も要らないから全てそちらの自由にしていいと言ったのだが満場一致で渡された。
そう言う訳で頭蓋骨と他の骨を幾らかと鱗を200枚が俺に対して報酬として支払われた。
そして怪我人の治療も全て終わり、感染症予防の点滴を打ったりと言う事も全て終わった。
それら全部が終わったのは日を跨いで太陽が再び登り始めた頃だった。
しかしながらエルフの皆はそれだけ時間が経って居るのにも関わらず、戦闘や戦後処理で疲れているだろうに寝ずに俺のやっている事が終わるまで待っていてくれた。
「皆さん何故?疲れているでしょう?」
「何言ってんだ兄ちゃん。最初にこの村に来た時に怪我人を治してくれて、それが終わってからもこの村を守る為に手を貸してくれて、今だって怪我人の治療をしてくれてたじゃねぇか。色々と指示を出したりもして一番疲れている筈なのは兄ちゃんの筈なのに一番働いている兄ちゃんを放って寝てなんて居られるか」
そう言って皆揃って頷いてくれた。
「それで、終わったのか?」
「えぇ、終わりました」
「よし、それじゃぁ死んだ皆を弔うから是非参加してくれ」
「分かりました」
所謂葬式と言うやつだろうか。
それに参加する為に、血で汚れた服を変え、手や足、顔を洗った。
着替えたのは普段通りの迷彩服だが、これしか着れる物は無いから許して欲しい。
「イチローさん、どうぞこちらへ」
「失礼します」
エリカさんに案内された場所に座った。
そして始まる弔い。
「hgutlPsxbvnWmhdafq-----」
エリカさんがエルフ語で何か唱え始めた。
すると幾らか唱えた後、亡くなったエルフの身体から何か出て来た。
それは既にこの村に来る前と、来た時の治療で亡くなった方が埋められた場所からも。
淡い緑色の光が115個、宙に浮く。
「rtunkmsdxcEqlp」
そして最後に少しばかり大きな声でエリカさんが何かを言った。
「「「「「「rtunkmsdxcEqlp」」」」」」
すると生き残った村人全員でそれを唱える。残念ながら俺は唱えることが出来なかった。だからせめてもの思いで心の中で
(どうか、安らかに眠ってください)
そう念じた。
すると浮かんでいた淡い緑の光球は徐々に薄れて行った。
幾つもの光が俺の所に飛んで来て周りをクルクルと回ってから消えた。
その光はどこか温かかった。
そしてこれで弔いは終わったらしい。
村人が切り取った土竜の肉や魔獣、魔物の肉を調理し、振る舞い始めた。
「イチロー様、弔いに参加して頂いて本当に有難う御座いました」
「いや……」
「……どうかされたのですか?」
「あぁ、なんでもないんだ。ただ、今見た光景が信じられなくて」
「そうでしたか。今、宙を舞っていたのは死者の魂です。私が唱えていた言葉は死者を死後の世界へ送る為の呪文と、安らかに眠れるように、という呪文なんです」
「それじゃぁあの緑の光は……」
「はい、死者の魂です。本来魂という物は見えませんがその時だけ可視化されたのです。最後に家族や友人に会えるように」
「そうなんですか……1つ聞いても?」
「えぇ、良いですよ」
「最後に魂が消える前に、俺の周りを幾つもの魂がクルクルと回って言ったんだ。なんでだか理由が分からない。俺は友人でもなければ家族でもないのに」
「それは、恐らくですが死者が貴方に感謝を伝えようとしたのだと思います」
「感謝?」
「はい。村を救ってくれてありがとう、家族を救ってくれてありがとう、必死になって自分を助けようとしてくれてありがとう。理由は様々でしょう。ですが感謝を伝えたかったという事には間違いない筈です」
「言い切れる理由は?」
「イチロー様の周りを飛んだ魂達は、温かかったでしょう?」
「あぁ」
「それが一番の証拠なんです。冷たければ感謝を伝えたいという訳でも無いし、何よりも寄って来ませんから」
「そうだったのか……」
エリカさんと話しながら先程の現象の説明をしてもらった。
そして今、皆で食べて飲んでいるのにも理由があり、死者への供養という事らしい。
だからイチロー様もどうか食べてください。飲んでください。
エリカさんにそう言われた。
だから、俺はその時だけは救えたかもしれない、もっとうまくやれたかもしれないと言う思いに蓋をして、仮面を被って食事をした。
なーんだか知らない間に日刊ランキングに載っていた……
これも読者の皆様のお陰です。
ありがとうございます。今後もどうぞよろしくお願い致します。