銃は地球人類が生み出した最高の文明の利器である   作:ジャーマンポテトin納豆

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山の正体

山の調査をすると決めた翌朝。

直ぐに丘に向かう準備をする。食事を摂ってM4やM9と言った武器の確認と、テント等の物品を格納しハンヴィーを呼び出して走り出す。相変わらず荒涼とした光景ばかりで本当に何も無い。

 

 

あぁ、そうそう。昨日の夜の事だが特に何か問題があったわけでは無く、極々平穏と言うか、寧ろ不気味過ぎるぐらい静かな夜だった。

 

本当に俺以外の生物は居ないのか虫の鳴き声も何も聞こえなかった。本当に無音、俺の息遣いや食事などの作業をする音しか聞こえなかった。

生物の息遣いが全く感じられない、というのはこう言う事なのだろうか?でも何処か視線を感じたと言うか、何かに見られているような感覚があったのだがあれは何なのだろうか?寂しすぎて俺が何も無いのに感じていただけなのかもしれない。

 

 

と、件の足跡などを見つけたオアシスに到着だ。

足跡と尻尾の跡を一応確認しておこう。そう思って立ち寄ってみたのだ。

するとどうだ?足跡が増えているじゃないか。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

思わず声を上げてしまったがそれも仕方が無い。

と言うのも、足跡と尻尾の跡が増えているという事は昨日俺が此処を去った後にこのオアシスにこの足跡と尻尾の跡の主がやってきたという事なのだ。

 

水辺に近い足跡の土も乾いていて来たのはかなり前になる。

足跡の向かう先はやはり同じ方向だ。あの山の方向に向かって伸びている。

 

まぁそれらを色々と調べてみたが足跡や尻尾の跡が増えたぐらいで特に変わっていることは無い。本職の調査員じゃないから分からないが特段変わっている所は無さそうだ。

 

「ん……?」

 

オアシスの中心にある水辺の水位が低くなっている?

いや、気のせいか?……いや、実際低くなっているな。どういう事だ?

 

多分、足跡と尻尾の跡の主が飲んだのだろうか?

 

どういう訳だか分からないがまぁ飲んだという説が濃厚だろうな。

本当かどうかは分からないがその内調査を進めて行けば分かる事だろう。

 

 

 

オアシスから引き揚げて山に向かう。

 

 

ハンヴィーを走らせる事十数分。

近付い手来るにつれてどんどん大きさが際立ってくる。

だが実際に山、と言ってはいるがそこまで高いものでは無く、砂の山の真ん中から大きな一枚岩のような物が突き出ているような感じだ。

高さもそこまで高くは無い。100メートルあるかどうかと言った所だ。それでも俺からすれば十分に見上げなければならない程の大きさなのだが。特にこの裂け目ではアレほど大きい山は無いので実際の高さよりも大きく感じられる。

 

そう言う訳岩の部分の真下の所に来た。

 

「いやはや、こんなにデカい一枚岩なんて見た事が無いぞ……」

 

その岩はとても大きく、そしてとんでもないぐらい生命力に溢れている。パワーストーンか何かか?まぁそこら辺はどうでも良い。

 

周囲を見て回ると、オアシスから続いている足跡と尻尾の跡が此処で途切れているのがやはり気になる。前日にあのオアシスからしか足跡と尻尾の跡が伸びていないという点が気になったがここに来てから余計におかしいと感じる様になった。

 

あと強いて言うならばここだけ砂地であり、そして気温が高いと思われる事ぐらいだろうか。

他の場所は砂と岩が混ざったような感じなのだが此処は本当に砂しかない。

気温が高いと言うよりは砂から発せられている熱の影響だ。砂を触ってみると熱くも無く、しかしながら低い訳では無い丁度良い温度だ。大体35~40°前後と言った所だろうか。風呂の温度としては最高だな。

 

まぁそんな事はどうでも良い。問題はこの岩だ。この岩、赤外線望遠鏡では反応しなかったのに熱を発しているのだ。一体全体、どうなっているんだ?

 

どうすればこんなにも巨大な岩が赤外線望遠鏡(サーモグラフィー)に発した熱を感知されずに居られるんだ?なんらかの魔法か?それとももっと別の方法が?

 

触ってみた所、そこまで熱くは無いが砂よりも10°程高い50°ほどだ。素手で触れば多少火傷するかもしれないがグローブをして触れば問題は無い。

 

しかしどうする?この岩の正体を探ろうにも周りをグルグル歩くだけじゃ何も分からないし、只見上げているだけだ。

 

……登ってみるか?

 

幸い、足場となりそうなでっぱりや溝は沢山あるから登れそうだ。

あの12~4m程の場所にある突起にロープをかけて身体を登ればもっと楽に行けそうだ。同じ様な突起はあちらこちらに点在しているからそれを伝って行けば……

 

よし、それじゃぁ、登るとしよう。

 

 

 

 

 

裂け目に降りて来た時と長さは違うが同じロープを呼び出し、それを突起に引っ掛けるために思いっ切り投げる。

すると今回は一発で上手く行った。本当は地面のどこかにその端を結んでおけるような木などがあれば楽なんだが今回はそんなものは無い。

 

だから引っ掛ける為の鉤を取り付けて登ってみようと思う。

何度か強く引っ張ってみると外れない。

 

これなら行けそうだ、そう思いジャンプしながらロープに飛びついた。だが残念な事にその鉤は全体重をかけた瞬間に外れてしまい、一緒になって落下してしまった。思わず尻を打ち付けてしまい痛みに悶絶した。

 

「いっててて……まさか外れるとはな……」

 

そう呟きながら何度か試してみたが引っ掛ける為の溝が浅いのかどうにもうまくいかない。

 

仕方ない、別の手段を探そう。

 

再度登るための手段を模索する。

鉤では無理だった。こうなったら杭を打ち込んでそこにロープを固定しよう。最初からそうすればよかった。

 

少しの後悔と共に杭とハンマーを呼び出して杭を打ち込む。

カーン、カーン、カーンと周囲に音が響き渡る。

しかし随分と硬いなこの岩。全然刺さらないぞ。

 

そして暫くして漸く杭を打ち終わるとさっきと同じ様にロープを投げて端を杭に無心で固定する。そして反対側から登り始める。足を壁に立て、腕でロープを引っ張りながら登り進める。

 

突起の所まで登り切ると、更に上にある突起に対して先程と同じ様にして登っていく。

上に行けば行くほど岩の硬さが柔らかくなっていた。まぁ砂岩みたいなもんなのか?詳しい事は専門家じゃないから分からないが。

 

頂上付近に登ってきた時に、下に居た時よりも若干だがこの辺の気温とこの岩自体の温度が上がった事に気が付いた。試しに岩を触ってみる。岩の表面温度はだいたい55~60°と言った感じだ。赤外線カメラや赤外線望遠鏡で見ても分からないので手で直接触るしかない。触ってみるとまぁ例に漏れず熱かった。

しっかし本当にこの岩はどうなっているんだ?

 

何故熱を発しているのに熱感知センサーに映らない?

 

何故足跡と尻尾の跡がここまでしか続いていなく、ここで途切れている?

 

ウンウンと頭を捻るがどうも答えは出てこない。

すると、足元が少しばかり揺れた。

 

「お?……っと」

 

グラグラッ、こんな感じに揺れたのだがそれはすぐに収まり何事も無かったかのように再び平穏が訪れる。地震か。

 

さて、どうするべきか?

これ以上大きな地震が来た場合ここに居ては危ない。しかしながら起きるとは限らないしな……このまま調査を続けるべきか、それとも降りた方が良いのか。

 

しかし怪我をしてはどうもこうも無いからな。ロープと杭はそのままにしておいて一旦降りよう。

 

 

 

途中、何度か揺れた。回数が増えるたびに強くなっていき最後の方は本気で振り落とされるかと思った。

 

 

そして地面に降りてふぅ……と一息吐きながら岩をぺたぺたと触っていた時、再びグラグラとかなり強く揺れた。

 

ただし、岩だけが揺れた。

 

「は……?」

 

思わず声を出してしまうぐらい驚愕だった。

だって岩は思いっきりグラグラとかなり揺れているのに何故か地面は一切全く揺れていないのだから、そんな事が起きれば俺以外の誰だって驚くに決まっている。

すると揺れ動いていた岩は何かゴゴゴゴゴゴ……!と言った感じに動き出した。

 

「おいおいおいおい!?!?本当にどうなってんだよ!!!」

 

大慌てでその場を離れる。

何度か転びそうになりながらその場から離れると山はどんどん大きく動き始める。

ものの十数秒で山の全容が分かった。

 

これ山でも岩でも砂でもない、馬鹿デカイ生き物だ。

それもエルフの村で戦った土竜なんかが小さく思えるぐらいのデカさだ。

 

全高は土竜の3倍以上、全長は4~5倍以上。

四足歩行で全身を土竜以上の大きさの鱗で覆われているその姿は土竜なんかとは全く似ても似つかない。

 

すると同じく馬鹿デカい顔をキョロキョロとあちこちに向けている。

何かを探しているのか?探しているとすれば俺だろうな。自身の鱗に杭を打ち込んで登りやがった俺を探しているんだろう。

M4やM9は手元にあるがこんな豆鉄砲じゃ牽制にすらならなさそうだ。まぁそれでも無いよりはマシか?

M4のグリップを握り安全装置を解除、連射に切り替える。

構えたいが下手に敵意を向けるとどうなるか分からないしバレるかもしれない。

 

 

なんとかして逃げたいがこれ程デカいと遠くへ行けば行くほど寧ろ見つかる可能性が高くなる。足元でじっとしているのが吉だろう。そこまで首の可動範囲は広くない筈だ。ならば今いる所から動かずにじっとしていればいい。

と、そう思ったのだが、思っていたよりも首の長さと可動範囲が大きかったのだ。頭だけでなく首全体を動かしている。これは……バレるな。

今からじゃこいつの真後ろに回り込むことも出来ない。

 

足元に居た俺の存在に気が付いたこのデカイ何かは俺をぎろり、と大きな眼で見た。そして大口を開けて、喰われるか!?と思い効かないと分かっていてもM4を向けた瞬間、これまた予想外過ぎる出来事が起きた。

 

『ふむ、気のせいでは無かったか。さて、お前は何者だ?』

 

「!?……!?」

 

喋ったのだ。目の前にあるこのデカイ獰猛そのものと言っても良い様な口と牙を持っている存在が口を動かしながら。

 

……喋りやがった!?嘘だろ!?

 

余りにも驚きすぎて声が出ない。ど、どうすればいい!?俺は何と答えれば良いんだ!?

 

『ふむ、驚いて答えるどころではなさそうだな……』

 

そう1人?1匹か。1匹納得し、器用にうんうんと頷いている。

いやそうじゃないだろ!?もっとこう、その、なんかあるだろ!?(錯乱中)

 

『もしかすると言葉が通じていない?いやしかし言語は変わっていない筈なのだがなぁ……昼寝でもしようと思って眠ったのが……どれくらい前の話だ?どれだけ時間が経っているのか分からんが数千年経っているとすれば、言語が変わっていてもおかしくは無いな。昼寝のつもりが休眠になってしまっていたかもしれないとは……ならば尚更こやつに色々と聞かねばならんな』

 

何かこいつは1人で勝手にうむうむ言いながら納得しているが俺はそれどころじゃない。間抜けな声しか出てこない。

 

「あ……え……?は……?」

 

『おい、しっかり気を保て』

 

そう言って顔で突いて来る。

いや、随分と優しいなこいつ。自分の鱗に杭を打ち込んでよじ登っていたんだぞ?それをこんな呑気にふむふむと頷いているとはどういう事なんだ一体。心が広いのか大らかなのか能天気なのか……

普通なら既にパクリと一息で行かれていてももうおかしくないのだが、と全く別の事を考えている。

 

『おい、大丈夫か?驚きすぎて死んでいるのではあるまいな?』

 

そして尚も俺の身体を顔で突くが俺は衝撃の余りに未だに声が出ない。この状況で俺よりも早く立ち直って言葉を発せられる人間が居るのならばお目にかかりたい。

言っちゃなんだがそれなりに修羅場を潜り抜けて来た自信があるが流石にこれは無理だな。

 

暫く思考停止をしていたり急に思考が戻って色々と考えたりを繰り返して暫くして正気を取り戻した俺は答えた。

 

「……あなたは、誰ですか?」

 

『んお?なんだ言葉が通じるのか。いやはや、良かった良かった。それで、私の正体だったな』

 

何思わず敬語になってしまうような、威厳というか、どこか畏まった態度を取ってしまう様な雰囲気を纏っている目の前の存在。

何処か嬉しそうにそう言うと、身体の向きを変えて俺をしっかりと見た。

 

『私はお前達人間やエルフ、ドワーフが言う古龍と言う存在だ』

 

「古龍……?いや、聞いたことも無いな……」

 

俺がぼそりと言うと彼?彼女?は首を傾げながら不思議そうに言った。

 

『古龍を知らないとな?ふーむ、それは随分とおかしな事だな。どれほどの秘境で育ったのだ、お主は?』

 

「いえ、私は人里離れた秘境の生まれでも育ちでもありません」

 

『ふーむ……そうすると私が眠りに着いて起きるまでの間が随分と長かったのか?存在が忘れられるほどの年月となると1000年単位という事になるかもしれぬな。ま、その辺は置いておこう。さて、最初の質問だ。お前は何者だ?』

 

「私は、イチローと申します。先程は鱗に杭を打ち込んで攀じ登ってしまい申し訳ありませんでした」

 

『イチロー、と言うのか。何、鱗の事は気にするでない。痛くも痒くもなかったしな。まぁ私の上で何やらやっているので気になって起きたのだ。それで、人間のお前が何故此処にいるのだ?態々来るほどの場所でもあるまい』

 

鱗に杭を打ち込んだ事に関しては怒っていないらしい。何というか、心が広い。見た目に反して随分と大らかと言うか心が広い、器が大きいって感じだな。

ここに居る理由を聞かれたので正直に答える。そもそも隠す様な事では無いし教えても問題は無い。

 

「それは数か月前、この森が発端と思われる大きな異変が発生しました。ゴブリンの変異種が大軍を引き連れ森から現れ、私の住む町を目指して進行して来たり、この森に生息する魔物や魔獣の生息域が大きく変化したり、この森にあるエルフの村が魔獣や魔物から襲撃を受けたりと」

 

『ほぅ。そんな事があったのか。確かに此処最近翼竜や飛竜、土竜やデカミミズを見なくなったのはそのせいか。しかしこんな所に森なんぞ無かったと思うのだがなぁ……それにこの辺りに人間の国なんて無かった筈だしエルフの村の存在も全く知らん。聞いた事も見た事も無いぞ』

 

おうマジか。

という事はだ。この古龍の言っている事を信じるとすればこの龍はエルフの一族がこの森に逃げ込むよりも前から生きて居てロンバルティア王国が建国されるよりも前から存在し、そもそもこの森が存在するよりも前から生きているという事か。

いやいやいや。あんた何歳なんだよ?

 

「おかしなことを聞きますが、貴方は何歳なのでしょうか……?」

 

『ん?私か?そうさなぁ……年齢なぞ数えた事が無いな。そもそも我ら古龍は他の生物からすると寿命が永遠とも取れる程に長いからな。一々数えているようなマメな古龍は居らんだろうさ』

 

スケールデカすぎだろ。一々年齢数えなくなるほどに長生きと言うのが驚愕過ぎる。余りにも凄すぎて返事をしようにも生返事しか出なかった。

それと性別も気になる。見た目は完全に雄と言う感じなのだが声は女性っぽいからな。

 

「はぁ……あ、それと性別は?」

 

『おぉ、言っていなかったか?私は雌だ。そう言えば名前も教えて居なかったな。名はレギンと言う。意味は『命を司る者』だ』

 

「レギンさん、ですね。分かりました。それにしても名前に意味があるんですか。凄いですね」

 

『まぁ我らは名前1つにかなり大きな意味がある者が多い。と言うのも自身の能力から名前を付けることが多い。私は『命を司る者』という意味の通り、私は周りに生命の伊吹を与える。もしかするとこの森の発生原因は私の影響かもしれぬな。まぁ寝ていたから全く記憶が無いんだがな!ははははは!』

 

何というか本当に随分と陽気と言うか愉快な古龍様だな。

しかし、『命を司る者』か。周りに命の伊吹を与えるってなんだそれは。出鱈目にも程があるだろう。神様か何かだぞそれは。

しかも寝てたら周りがオール大森林だった、多分私の影響だな!ってこんだけ広大なオール大森林が育まれるほど寝ていたってどれだけの年数を寝て過ごしていたんだ?

 

「凄いですね。命を司るなんて」

 

『だろう?』

 

うーん、やっぱり随分とフレンドリーだな。あと顔が近い。めちゃめちゃ近い。しかもこれからも話す気満々なのかしっかり足を折りたたんで顎を地面に着けている。

 

まぁ、別に良いんだけどさ。

一連の異変の原因に繋がる何かが分かるかもしれないし、もしそれが手に入れば早期解決が望めるかもしれない。

 

 

 

 

あれから暫く話していたのだが少し思った事がある。

確証は無いから分からないがもしかするとだ。少し考えたんだがレギンさんが目覚めた事によってこの森に異変が起きたんじゃないのか?

 

いや、この説は有り得ない話では無いのだ。

何故ならこうやって目の前にして話していると分かるがとんでもなく存在感とかそう言うのが半端じゃない。

 

魔物や魔獣と言うのは野生動物以上に野生の感と言うのが鋭い。だからこそこれ程の存在が目覚めて動き出したらそりゃ大慌てになるし、自身よりも遥かに強い存在がそこに居るのなら襲われないためにその場から出来るだけ離れようとするのも当たり前だ。

 

『ん?どうかしたか?おかしな顔をしおって』

 

「あー、いえ、その、今回の一連の騒動の大元の原因が何となく分かったような気がしまして」

 

『ほう?その原因とやらはなんだ?』

 

「その、とても言い辛いんですけどレギンさんの目覚めが影響しているかもしれないんです」

 

『私か?』

 

「レギンさんって、目覚めたの何時頃の話ですか?」

 

『うーむ……何時頃だったか……多分、恐らく、十中八九、1年程前の事だな』

 

「1年前か……そうすると合わないな。一番最初が数か月前だし、と言うよりもレギンさんが此処に居るのなら元々翼竜や飛竜、土竜は住み着かない筈……」

 

変だな。先に言った通り、そもそもの話だが翼竜や飛竜、土竜だったらそれに感づいてこんな所に住みつかない筈なのだ。まぁレギンさんの気配を消す技術が俺の想定している物以上だった場合これは覆ってしまうが、レギンさんの話を信じるとすれば丸々1年以上此処でウロウロしていたのに何故その時点で逃げ出さなかったのか、という点が気になる。

とすると他に何か原因がある、という事なのだが。

 

完全に当たりだと思っていただけにおかしいな。

いや、そもそもレギンさんの時間の感覚が俺達人間とは全然違うから本当かどうかは確証が無いが少なくとも嘘を言っているような感じではないから信じても大丈夫だろう。だってこれだけデカい古龍と言う存在が必死になって、

 

「あれ?何時目覚めたんだっけ?半年前?1年前?何時だっけな……」

 

と思い出そうとしているのだからこれで寧ろ信じるなと言う方が少しばかり無理がある。

 

「レギンさんの主食って何ですか?」

 

『私か?デカいミミズみたいな奴だな。あとは土竜が主食だ。あいつ等は動きも遅いし簡単に狩れる。他にも翼竜や飛竜も食えなくは無いが空を飛んでいるから仕留められない。殆ど食わん。私は過去に何度か食った事があるだけだ』

 

「人間やエルフは襲って食べないという事ですか?」

 

『その通りだな。食べた事は無いが聞いた話じゃお前達人間やエルフ、ドワーフと言うのは雑食性だから旨くないらしい。そんな風に聞かされている物を態々食べる訳が無いだろう。それにお前達は小さいから幾ら食っても腹は膨れ無さそうだしな』

 

そう言う事か。まぁ何というかうん。何て言えば良いのか分からないな。まぁ確かに味云々は置いておくとしても小さいからいくら食べても腹が膨れないと言うのも納得だ。一番の例えは米だな。あれ一粒じゃ腹が膨れないどころか食べようとは思わない。

 

しかしながら茶碗一杯の米ならば話は別だ。

例えとして合っているのか分からないが俺が出来る一番の例えはこれだ。他の穀物に変換しても問題は無いが麦はパンに加工しなければ早々食べないしな。

 

『暫く前はデカいミミズも沢山居たし飛竜や翼竜も多く居たから食事には困らなかったんだが最近は見無くなってしまった。元々我ら古龍は長期間眠っている事もあって数年間ぐらいならば一切食事を摂らなくても大丈夫なのだが何というか、精神的に空腹だ。ここ暫くの間は水しか飲んでいない』

 

「あぁ、だからあのオアシスの池の貯水量が減っていたのか……」

 

『そう言う事だ。そう言えば……お前の言った様に数か月前からおかしな気配を感じるようになってな。その辺りからだな、デカミミズや飛竜や翼竜が居なくなったのは。生物の一切の気配を感じなくなったのもこの頃だ。なんだか一斉に逃げ出したと言う感じがしたぞ』

 

「その気配の正体は分かりますか?」

 

『いや、正確な事は分からん。が恐らく私と同じ古龍の一種だと言う事なら分かるぞ』

 

「その気配に何か感じる事は?こう、良い奴だ、とか悪い奴だとか」

 

一度、そう聞いてみるとレギンさんはふむ、と一度頷いて目を閉じた。何やら探っているようだが気配を探っているのだろう。

 

『私は気配などを感じるのが特別得意という訳では無い。だからかなり抽象的な事しか言えないがそれでもかまわないか?』

 

「えぇ、何でもいいので今は情報が欲しい」

 

『よし。まぁ結果を言ってしまえば此奴は黒だな。上手く隠しているようだが内側にどろどろとしたものを隠し持っている』

 

「それが一連の元凶だと考えても良いという事ですか?」

 

『分からん。だが奴は特に理由も無く周りの生物を殺して回る様な古龍だろう。自分で言うのも変だが古龍と言う存在は聡い。いや、野生に生きる生物と言うのは総じて賢い。人間の様に楽しむ為に他の生物を殺しはしない。生きていく為に必要なだけ。食事、子孫を残す、縄張りを維持する、と言ったようにそれで十分だ。だが稀に居るのだ、そう言った感情を持ってしまう者が。滅多にある事では無いがな。どのような要因かは分からんがそう言った感情に快楽や楽しい、嬉しい、と言う感情を抱いてしまう者もいる。恐らく奴はその類であろう』

 

「それを対処する事は可能ですか?」

 

『難しいだろうな。いや、ハッキリ言ってしまえば無理だな。力関係で言えば私は奴よりも劣っている』

 

レギンさん程の存在が難しい、無理だと言うのであればそれは本当なんだろう。しかし実力行使が出来ないとするとどうすればいいんだ?交渉するか?いや交渉は無理だろうな。殺しに楽しみや快楽を感じる様な奴に話をしても意味は無いだろう。

 

「何か解決するための方法はあるのでしょうか?」

 

『さてな……私は奴の様に戦いが得意でない。私からすれば奴は戦闘特化だな。私の様に命を司ると言うように何かしらの能力があるわけでは無いがその分、戦闘に関してだけ言えばアレはずば抜けている。力で劣っている我らがアレを力でどうこうしようとするのは愚策であろう。力で勝とうとするのであれば同等の実力を持っている奴を連れてくるしかあるまい』

 

そう言うとふぅ、と一息ついたレギンさんは器用に前足で頭をポリポリと掻いた。なんか妙に人間臭い仕草をするもんなんだな。

 

「取り敢えず、ソイツが居る凡その方向や位置は分かりますか?一旦調べてみたいのですが」

 

『分かるには分かる。だが辞めておいた方が得策だと思うがな。我々は敏感だ。特に殺しに喜びを感じる奴なら五感が鋭くなっていて通常よりもずっと遠くから気配を感じるだろう。下手に近付けば狙われて美味しく頂かれるだけだ。言っておくがもし空を飛べる奴だとしたらとてもじゃないが逃げきれんぞ』

 

調べてみようと思ったのだがレギンさんに止められた。

どうやら余程五感やらそう言うのが鋭いらしい。どれほどの距離からバレるのか正確な事は分からないがレギンさんが言って警戒するほどの物だとすると

それに飛行が可能だとすると飛行速度はかなり速いらしい。

 

「どれぐらいの速度で追いかけて来ますか?最高速度は?」

 

『そうだな……音の速さは分かるか?』

 

「えぇ、まぁ」

 

『あれと同じか、それ以上だな。飛行が出来るとしてもピンキリだが、私ほどやそれ以上の巨体を浮かして飛ばすのだ。最低音の速さは出ると思っていた方が良い』

 

音速か。

そんなに早い速度を出す事が出来るのか……

参ったな、それじゃ疾風で対抗出来ない。

速度面もだが武装もレギンさんの鱗を見た感じ、20mm弾じゃ無理そうだな。

 

「あの、レギンさんの鱗の硬さってどれほどですか?あの登った時は杭が刺さるぐらいの硬さだったのでもしかすると結構柔らかい?それとレギンさんは飛べるんですか?」

 

『私の鱗の硬さは分からんなぁ……そもそも比較対象が土竜くらいしか分からん。土竜以上の硬さと言うのは確実だ。杭が刺さると言うのは私は鱗の上から岩やら泥やらを纏っているからだな。こうすると色んな連中からバレなくて済む。飛べるか否かという質問に関しては飛べない。そもそも翼など無いしな。見た通り四足歩行で動きは鈍い方だ。それでも土竜やデカミミズを捕まえて仕留める事ぐらいは余裕だ』

 

聞いただけでも凄いな……

正直な所、今現在俺が携行出来る武器じゃ全く歯が立たないのは確かだ。最もレギンさん相手に喧嘩を売る気は更々無い。

 

万が一その、騒ぎの元凶?の古龍を相手にするとなると音速以上の速度が出せる乗り物で尚且つ8.8cm砲弾を易々と弾く土竜の鱗以上の硬さを持つ鱗を貫通出来る程に攻撃力が高い武装を搭載出来なければならない。

 

レシプロ戦闘機では歯が立たない。追い付かれてパクリ、と行かれて終わりだ。

間違い無くジェット戦闘機の速度が必要になる。武装は……空対空ミサイルは駄目だな。

 

理由は近接信管を装備しているから。

近接信管と言うのはまぁ簡単に言えば直撃しなくても爆発してその破片と爆風などで被害を与える為のものだ。

 

時限信管と違う点は、時限信管は設定した時間で信管が起動して爆発する。だから時限信管の調整を少しでも失敗すると全く予想しない場所で爆発する事になる。

それに比べ、近接信管と言うのは信管そのものがレーダー波を出していて予め設定されている距離に航空機が入ると爆発するという物だ。

 

聞いた限りではとても便利に聞こえるだろう。

所が実際のところそうではない。まぁ確かに航空機相手なら有効だろう。だが装甲を持つ相手に対しては全くの無力になってしまう。と言うのも近接信管は直撃して爆発するのではなく目標に近付いて一定の距離で爆発する。

これでは装甲目標、特に硬い物への攻撃は効果が無い。

 

そして今回目標とするのは硬い鱗を持つ古龍だ。

そんな相手、しかも下手な戦艦なんかよりもずっと硬いだろう。

 

それを考えると対艦ミサイルの方が有効かもだろう。

まぁ貫徹力云々は置いておくとしてもそれなりに打撃が与えられるのはそれこそ戦艦の主砲クラスでも無ければ無理だ。いや、戦艦の主砲弾程度の貫通力では無理かもしれない。

 

鱗の硬さは最低、戦艦クラスの重装甲を想定しておいた方が良い。

 

確か戦艦大和の一番分厚い部分の装甲厚は主砲正面の防盾といわれる部分で650mm。

戦艦大和の装甲は大和自身の主砲弾を弾くぐらいらしい。こんな厚さと硬さを誇る装甲を貫通する為には46cm砲を超至近距離で直撃させるしかない。

 

だが考えてみて欲しい。

そんな主砲を単体で呼び出せるはずも無いし、呼び出すとすると大和本体を丸々呼び出さなければならない。「等価交換」の短所である運用する兵器はその運用に必要な人員が揃っていなければ呼び出せない。

大和の最大乗員は3333名と何処からそんな人数を連れてくればいいのか。どうやっても集められない。もし集められたとしてもそれら全員の各種訓練を施さなければならないのだが、先ず前提として俺がそれらすべての扱いが出来るようになってそれを教えなければならない。

 

全ての各種訓練を全て同時に覚えられる訳もなく。

1つ1つをバラバラに習熟してそのたびに教えて完璧に使いこなせるまでになるまでだ。基本的に最低限習熟するまでに最低限3か月ほど掛かる。完璧にするとなると半年以上は掛かるだろうか?まぁある程度こなせる様になったら任せても良いのだが事故が起こる事を想定するとまぁ半年は拘束されると想定しよう。

 

……何年掛かるんだ?という話になる。無理だ。どれだけ役割や部署、科があると思っているんだ?それら全部を半年ずつだとしても1年で2部署だけだ。3か月だとしても4部署。いや本当に無理がある。

 

それにもし扱えるとしても砲弾を命中させられるか?と言う事だが音速で飛ぶ目標に命中なんて期待できない。それどころか逆に一瞬で全員が殺される未来しか見えない。

 

そう言う訳で対艦ミサイルを大量に叩き込んで無理矢理仕留めるしかない。

まぁ対艦ミサイルが鱗を貫通する事が出来ればの話だが。

 

『しかしながらイチローよ、どうしてそこまで解決しようとしているのだ?』

 

「先程お話しした通り、かなり危険が迫っています。自惚れている訳ではありませんが私達がゴブリンの大軍を仕留めていなければロンバルティア王国も、エルフの村も滅びて居た事でしょう。それどころかロンバルティア王国だけでは無く周辺国家もゴブリンの大軍に呑まれてそれこそ二度と人間やエルフ、ドワーフその他の種族はそれこそ男は殺され女は只の苗床として扱われて居た筈です。エルフの村も縄張り関係が大きく変わったことで大打撃を受け、死者も数多く出ています。その元凶が分かっていてそれをなんとかして止められるのだとしたら私は手を尽くして止めたい」

 

『それは偽善か?それとも只の蛮勇か?自己満足か?誰かに押し付けられたのか?』

 

「分かりません。偽善なのか、蛮勇なのか。ですが少なくとも蛮勇では無いと思っています。勝算が無ければ戦いなんて挑みませんし、何より俺が死ぬことで悲しむ人が居るから何としてでも生きて帰らなければならない」

 

『ふむ』

 

「それに自己満足だ、と言いましたがその通りです。事実私がロンバルティア王国国王からは森の調査をせよ、との命を受けているだけなのですから態々その元凶に殴り掛かる必要は無いでしょう。押し付けられたとも仰いましたが依頼主と依頼を受ける者、私の事ですがその両者の同意の上で今回の事は進んでいます。他者から見てもこれは押し付けでは無いでしょう?」

 

『ならばその国王がお前を騙しているのかもしれんぞ?』

 

「それは無いでしょう。まぁ自分の他人を見る目はどうかは分かりませんが少なくとも国王はその様な事をする方では無かったと、記憶していますから。それにもし騙されていたとしたら気が付けなかった自分のせい。しっかりとやり返してどこか秘境のような所でも探して引き籠りますから」

 

ここまで問答を繰り返してレギンさんは俺の顔を、いや眼をジッ……っと見詰めた。1分か2分かか。それとももっと長くなのかは分からない。どちらとも一言も発さずに、見続ける。俺はレギンさんの目の力に圧倒され、レギンさんは俺のナニカを計ろうとしているのだろう。

 

その間、この付近にはレギンさんと俺しか居らず2人の呼吸音しか聞こえなかった。

 

 

 

 

そしてレギンさんが暫くぶりと感じられるほどの時間の後、口を開いた。

 

『お前の思いはよく分かった。好きにすると良い。だが私は手伝うことは出来ん。私が共に挑んだところで足手纏いにしかならん。私は大人しくここで見守る事にする』

 

「構いません。元々これは私が言い出した事ですし、他者にそれを押し付け手伝って貰おうという考えは更々ありませんから」

 

『納得してくれるのならば構わん。しかしイチローよ、戦うとなったらどうやってやるのだ?行っておくが剣や弓程度では傷一つ付ける事は敵わんぞ?それに飛ばれでもしたら風圧だけで吹き飛んで死ぬぞ』

 

「考えはあります。まぁ鱗に傷を確実に傷を付けられるか、といわれると五分五分かそれ由も私の方が分が悪いぐらいの可能性はあります。空を飛ぶという問題に関しても一応解決の目途は立っています」

 

さっきも言ったが勝算が無い戦いに挑むつもりはない。

まぁそれでも現時点では殆ど希望的観測に傾いている。

 

『そうなのか?私には到底そんな事が出来るとは思えんがな』

 

「確かに鱗をどうにかしないと内部に攻撃を加えられません。ですが可能性はあります。空を飛ぶ、速度が音よりも早いという点に関しては完全に掛けでしかありません」

 

鱗を貫通して内部にダメージを与えられるか、という質問に関しては正直な話、空対艦ミサイルの性能次第だ。幾ら破壊力があっても鱗を貫通出来なければ意味は無い。どちらに転ぶかは分からないが恐らくだがこの問題に関しては何とかなるんじゃないか、と思っている。

 

『……まさかお前も空を飛ぶなどと言い出すわけではあるまいな?』

 

「そのまさかですよ。ただ出せる速度にも上限がありますし、相手が俺よりも遅い速度である事に掛けるしかありません。機動性に関しては完全にこちらが負けていますから。速度で負けていたら振り切る事も出来ませんし」

 

問題はこっちだ。

先ず前提として疾風で戦った翼竜はホバリングが可能で起動性能に関して言えば翼竜が圧倒的に上だった。勝っていたのは速度と攻撃力だがこの2つのどちらかが欠けていたら間違い無く今ここに俺は居ない。

 

そして元凶の古龍の話だが、未知数な点が多すぎる。

まず機動性に関して言えば古龍が上だろう。翼竜以上の機動性があると見て間違いない。それにレギンさんと同等、もしくはそれ以上の知性があるとすればより厄介だ。

頼みの綱は速度だが、音速飛行できる戦闘機、例を挙げるならばF-35『ライトニング』、F-22『ラプター』があるがこの2機種に空対艦ミサイルを何発も積んで高機動戦闘を行えるかどうかには疑問がある。

速度だけ見ればSR-71『ブラックバード』がマッハ3.2を発揮できるが戦闘機が行うような機動は確実に無理だろう。 

 

求められるのは最高速度が音速を超えていて、尚且つ多数の空対艦ミサイルを搭載可能、更に万が一の時に戦闘機動もこなせるという三要素がなければならない。

 

まぁこれは後々考える事にしよう。今考えたらキリが無い。

 

 

レギンさんは俺の話を聞いてとても驚いている。

 

『なんと!?人間の扱う魔法はそこまで進化したのか……いやはやこれは本当に寝すぎたかもしれん』

 

「いえ、人間全員が使える訳ではありませんし、魔法でもありません。もしかすると訓練すれば使えるようにはなるかもしれませんが現状、それを扱えるのは私だけです」

 

『ふーむ。固有魔法の持ち主か、はたまたそれに準ずる能力の持ち主か。まさか進化した鳥人間ではあるまい』

 

鳥人間?……あぁ、ハーピィの事か?彼らは飛べるそうだからまぁ名前が出て来てもおかしくは無いか。

ハーピィ、翼人族はロンバルティア王国にも少なからず住んでいるらしいが基本は山岳地帯などの高地に住んでいるから滅多に見ることは無いらしい。俺も見た事が無い。

どこかで聞いた話ではイリオル大山脈の尾根付近のどこかに住んでいるらしい。

 

 

 

 

 

それからレギンさんに色々と質問されながらこちらも質問をしたりした。

 

「レギンさん、以前、とっても数日前なのですがこの裂け目の底に降りる前に生物が発する熱を感じる事の出来る道具を使いました。勿論何処にも生物はいない。なのにレギンさんは居た。確かにレギンさんを見ましたがどうしてかその時に反応が無かったのです。もし宜しければ理由を教えて欲しいのです」

 

『ふむ、それは恐らく私の張った結界によるものだな』

 

「結界?それはなんですか?」

 

『まぁ結界にも多数の種類があるが基本は魔法に分類される。その時に私が張った結界は気配を消す結界と熱を遮断する結界だ。と言うのも翼竜に始まり飛竜、土竜と言った竜種は基本的にだが目が悪い代わりに熱を感じ取って獲物を探したり危険から逃げたりする。その点古龍は他の生物よりも体温が高い。だからそのまま駄々洩れにしておくと狩りが出来んのだ。だからだな』

 

あれか?要は蛇や蜥蜴と同じ感じだろうか?

で、レギンさんは獲物に感づかれない様に自身を結界で隠したという事か。

 

「でも獲物は1匹もいないですよ?」

 

『いやな?もしかすると馬鹿な奴が来ないか、と思っていてな。あぁ、言っておくがお前を食べる気は更々無いぞ』

 

「分かってますよ」

 

サーモグラフィーに映らなかった理由が分かった。

こうして色々と話をした。実に一週間ぶりに誰かと会話したので俺も随分と話してしまった。

 

まぁレギンさんは誰かと話すのは下手をすると数千年ぶりとか言っていた。

改めてスケールの違いを思い知った。

 

 

 

あとはレギンさん、妙に人間臭いというか何と言うか。

初対面の俺にやたらとフレンドリーな気もしたがどうやら先ほども言ったように久しぶりに誰かと話せて嬉しかったらしい。だからついつい長話になってしまったんだそうだ。

 

 

 

 

 

結局俺達は日が落ちてからも話続け、結局就寝したのは日を跨いでからだった。

明日は本格的に元凶である古龍の討伐に向けて色々と考えなければならない。出来れば討伐と言う手段以外で解決することが望ましいがそれでも準備を進めなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

そう言えば昨夜の視線の正体はレギンさんだったのか、と聞くのを忘れていた。まぁどちらにしろ今気にする様な事では無いから別に構わないのだか。

 

 

 

 

 

 




近接信管について詳しく。
別名Vaiable-Time fuze信管(これ以降はVT信管と書きます)。このVT信管と言うのは太平洋戦争中の米軍の情報秘匿通称から取られたものです。現在の正式な呼称はProximity fuze。
この信管の事をマジックヒューズと呼ぶこともあります。
此処で間違えることが多いかもしれないのが、マジック・ヒューズという名前の信管があったわけでは無く、この信管そのものをマジック・ヒューズと呼称していただけです。


第二次世界大戦中の米軍が使用していたのはMark53型信管という物です。
この近接信管、電波を発してそれの反射によって一定の範囲内に居る航空機や艦船を攻撃するという物なのですがそもそものこの電波を使用して命中率を高めようと言う考えは1920年代から既にあり、試みられていた事です。

アメリカが1から開発した、という訳では無く(いや、アメリカも開発を行っていたのかな?)第二次世界大戦が勃発したころにイギリスからアメリカへ近接信管関連の先進データが送られて、という風になります。



当然のことながら電波を使用するので電波を発する為の高周波発信機、電波を受け取る為のアンテナ、そしてそれらを稼働させるためのバッテリーや諸々を伝達するための真空管回路と様々な部品が数多く使用されており、構造は複雑、そして高コストとなっています。

発射から炸裂までの流れは簡単に書くと以下の通りです。

1.
砲弾が撃ち出され、砲弾本体から電波が出されます。

2.
電波が敵から跳ね返ってきます。

3.
その電波を受信すると発した時の電波と受け取った時の電波の周波数の違いを検出します。

(ここら辺はドップラー効果やらなんやらとややこしいので割愛。因みにドップラー効果と言うのは観測地点との相対的な速度差によって異なった周波数が検出される現象の事。分かりやすいのは救急車のサイレンの音です。あれ、遠くから近づいて来る時と横を通る時、遠ざかっていく時とサイレンの音が違うでしょう?あれです)

4.発信する周波数と受信する周波数の差が一定の値を超えるとそこで爆発。

この辺で真空管の進化系みたいなサイラトロンとか言うのも出てきます。真空管との違いは信号を増幅させる際に線形には出来ないという事です。はい、これでサイラトロンに関しての説明は終わりです。理由は余りにも複雑すぎて詳細を書こうとすると作者も訳が分からなくなるから。そもそも初期の電子回路ってマニアック過ぎて作者も分からん……
それにこれ以上書くと、「そもそも何のことを書いていたんだっけ?」となります。



とまぁ、だいたい上記のような流れになります。
最後に信管の種類ですが、サイラトロンの他にも2つ搭載しています。

先ず1つ目がサイラトロン。

2つ目がドップラー効果の検波器。
これは先程説明したドップラー効果の周波数の差を検知するための真空管です。この真空管は発信機の役割も兼ねています。

3つ目はハイパスフィルタ、と呼ばれる真空管です。
VT信管がVT信管としてあるためにはこのハイパスフィルタが必要不可欠で、これが無いとVT信管はクソの役にも立たなくなります(個人的意見)。

と言うのもこのハイパスフィルタの役割がとても重要で、周波数の検出パターンの補正、作動時のタイムラグの補正、断片の散布パターンの補正を担当しています。
まぁ簡単に言えば、兵器としてまともに扱えるように精度向上を担っている物です。これが無いと上記3つの役割を担当する部品が無くなり、これらの補正や補助装置が無くなると、意図しない場所での炸裂、運用制限されたりと多数の問題が出てきます。

(皆さんこう思ったでしょう?めんどくせぇ、訳分からんと。大丈夫、作者も書いてて思いました。字面にするとクッソややこしいな……、と)




さてここでクソややこしくて良く分からない仕組みや開発の話から戻って運用について書いて行こうかな、と思います。

まぁこのVT信管の有名な話から持ってくるとすると、一番最初に戦果を挙げたのは1943年1月の事です。有名なガダルカナル島の近くでの出来事です。軽巡洋艦ヘレナによって九九式艦上爆撃機が撃墜されたのが初の戦果です。

マリアナ沖海戦でも使用され、日本軍機に大きな損害を与えました。
ですが、マリアナ沖海戦の一方的敗因の理由の一つに近接信管に多数撃墜されたからだ、という説やそう言う事を言う人も居ますが実際には優秀なレーダー網とそれを駆使した航空管制による効果的、効率的な迎撃と航空機の性能差によって引き起こされたものです。

その様子を取って、「マリアナの七面鳥撃ち」という事を聞きますがこれは近接信管による戦果ではありません。日本軍機が米艦隊の上空に到達する前に既に大半が撃墜されていて対空砲火で撃墜されたのは378機中19機とかなり少ないです。

そしてあまり知られて居なさそうなので書いておきますがマリアナ沖海戦時に米軍艦艇が発射した近接信管付き砲弾は大量生産が間に合っておらず全体の20%程度でした。


特別攻撃に対して絶大な効果を発揮した理由は「レーダーピケットライン」という、まぁ簡単に言ってしまえば索敵線のような物です。これと戦闘機による迎撃、射撃式レーダーや近接信管を使用した対空砲火、回避運動という合わせ技によるものです。

一部描写ですが、「永遠のゼロ」や「僕は君のためにこそ死にに行く」という映画の作中でも描かれていますが多数の敵戦闘機によって特攻機がバタバタと落とされて行って居るシーンがあります。

これを例に説明すると、
1.
先ずレーダーピケットライン上に展開したピケット艦が特攻機を探知。その情報を旗艦である空母に伝えます。

2.
先の時点で警戒を強め、空母のレーダーに特攻機を捉えると戦闘指揮所(CIC)から迎撃戦闘機に対して最適位置に向かう様に指示が出ます。

3.
戦闘機の迎撃を掻い潜った特攻機に対して対空射撃が開始されます。しかしながら特攻機は迎撃戦闘機によって落とされて辿り着く事が出来なかった事も少なくない様です。

事実、沖縄戦を回想したある日本軍大佐によれば、

「常に多数の敵戦闘機が待ち受け、その追撃は執拗であった」

と言っています。
おっと、話がずれました。


閑話休題。


話を戻しましょう。
よく言われるかどうか分かりませんが、近接信管単体でも絶大な効果を発揮する、と思っていたりする方や、言われる方がいますが違います。

VT信管の運用条件ですが、そもそもの話で実戦レベルで使用出来る、扱う事の出来る国と言うのは限られています。
まず前提条件と言うか、レーダーによる高度な火器管制システムやそれらの運用が出来ないといけません。
VT信管と「レーダーによる高度な火器管制システム」と言うのは切っても切り離せない、VT信管を運用する上での必須条件となります。

何故かと言うと、レーダーによる火器管制システムが整っていない国がVT信管を使用するとVT信管の加害範囲に敵が収まる状況を作り出せないのです。まぁ簡単に言えば戦闘機などによってVT信管の加害範囲に敵を誘導する事が出来ないと言う感じでしょうか。

これ、たかが火器管制レーダーだろ?関係無いんじゃね?と侮っていると大間違い。
射撃方向や角度の精度がこれまでにない、と言うほどに高められて漸くその時点でVT信管がまともな運用、まともな効果を発揮する事が出来ます。


通常の時限信管であれば、最適な方向や角度で射撃しているのに時限信管のタイミングで敵を仕留めそこなってしまうのです。

射撃精度は完璧、もっと手前で、もっと奥で炸裂して欲しい、と言った感じに。

そこにVT信管があれば本来堕とせずに突破を許してしまっていた敵も撃ち落とせるようになる訳なんですが、ここで運用できる国はアメリカぐらいなものです。

第二次世界大戦中の話をするとレーダーによる火器管制が整っている国はアメリカとイギリスのみ。
逆に整っていない国は日本、ドイツ、イタリア、フランスです。
これは先程の運用条件云々の話とリンクします。
アメリカレベルにレーダーが発達して火器管制システムが構築されていないとまともな運用すら出来ないんです。


しかしながらVT信管を運用出来ない国が技術的に劣っているという訳では無く、日本やドイツのレーダーが世界的に劣っていた、という訳では全くありません。寧ろドイツなんかは結構凄かったりする。

レーダーを使用して火器管制を行える環境が整っているかと言うやつですが、ぶっちゃけた話、日本やドイツ、イタリア、フランスは技術的に見てその年代であれば普通です。


要は、普通の技術の国とオーバーテクノロジーの国って言う比較なだけです。
アメリカやイギリスが凄すぎるだけの話。

米軍が此処までレーダーを発達させたのには理由があり、当時米軍は欧州戦線と太平洋戦線の2つを持っていました。
この2つの戦線の違いを書くとすると、欧州戦線は意外と戦艦同士の殴り合いが在ったり、複葉機に苦戦して結局沈められた戦艦も居ます。戦艦対戦艦の殴り合いが意外にも多かった。

しかしながら太平洋戦線は日米同士の空母対空母や戦闘機対戦闘機といったガチムチの戦艦、空母対航空機と言う構図でした。それを考えると寧ろ艦対空戦闘に関して言えばドイツやイタリア、フランスと比べると優秀だと考えても良いぐらいです。



日米同士の戦いは太平洋を舞台にあれだけ熾烈な戦いを両者ともに繰り広げ、どちらも散々に航空機の威力や脅威を味わったらそれを解決するために装備の開発、試行錯誤、圧倒的経験があります。

それでもアメリカ、イギリスと日本の間にはどうやっても超えられない壁があります。
しかしながら防空や地対空戦闘に関しては一概には言えないので、経験と装備が勝っていたぐらいに思っていた方が良いです。

まぁ日本の戦い方は欧州に比べるとね……


此処で結局何が言いたかったのか分からなくなってしまいましたが、要はアメリカとその他の国を比べるのがおかしいんじゃね?という事でした。
ドイツやイタリア、日本も決してアメリカと比較した時に低く見過ぎる必要は無いという事です。



VT信管を使用しても航空機はそう簡単に堕とすことは出来ません。
だって600km/hとかでビュンビュン飛び回る飛行機をVT信管の加害範囲や電波の範囲に収めるのも難しい。
更に行ってしまえば対空射撃で敵機をバッタバッタと落とすのは不可能に近いです。

アニメ「ジパング」でドーントレスをミサイルなどで簡単に堕としてますが、普通に考えてください。音速の何倍もの速さで飛翔するミサイルを早くても400km/hかそこらのレシプロ機に向かって撃つのですからそりゃそうなるわな、という事です。

更に行ってしまえば対空戦闘での撃墜割合は戦闘機での迎撃が殆どでVT信管や射撃管制、火器管制と言うのは全体の割合の約20%ほどらしいです。
普通は航空機での攻撃は航空機が墜としていると言う感じです。

VT信管を使ってもあくまでも、撃墜しやすくなったというだけです。


この近接信管は戦後大きく発達し、今ではより高精度になりミサイルや魚雷などにも使われ目標の検知方式の種類は電波式、光学式、音響式、磁気検知式等、多岐に渡ります。




纏めると、

1.VT信管の概念は結構昔からあった。

2.
構造は滅茶苦茶複雑、コストは高い。

3.
炸裂までの流れも難しい。

4.
違う種類の真空管を3つも搭載してる。これだけでもう頭がショートしそう。

5.
運用するにしてもしっかりとした設備やらなんやらが整っていないとまともに扱えな
い。

6.
そんなのを運用できるアメリカやべー。

7. 
必ずしもアメリカと比べて他の国が技術的に劣っていた訳ではないという事。

8. 
VT信管を使っていたからと言って簡単に航空機をバッタバッタと撃墜させられない。


こんな感じでしょうか?
何というか全然まとめられている感じがしないのは気のせい……


あぁ、そうそう。知らない人も居るかもしれないのでちょっとした豆知識?
CICとレーダーの組み合わせによる迎撃の発祥はイギリスです。まぁバトル・オブ・ブリテンとかありますもんね。
それと今更ですが近接信管の研究は実戦配備に至らなかっただけでドイツと日本でも行われていました。









長くなってしまいましたが後書きはこれで終わりです。
後書きだけで5000字もあるって……本文をその分書けばいいのにと思いますが筆が乗っちゃったから仕方が無いのです。





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