銃は地球人類が生み出した最高の文明の利器である 作:ジャーマンポテトin納豆
家を貰って1週間後。
今日は王都へ出発する日だ。
王都から派遣された軍と共に俺は向かわなければならない。
ここで問題になって来るのが俺と派遣軍の移動速度の違いだ。
先ず俺は基本的に乗馬なんて出来ない。そりゃそうだ。少なくとも俺は馬になんて乗ったことが無い。
この世界の移動手段は基本は馬なのだが俺はこの世界に来てからも乗ったことが無い。
と言うのも村々からこのリーヴォリの町にそれなりの頻度で物の売り買いの為に来ている。だからもし依頼でその村の方に行くのであればその荷馬車に同乗させてもらうか、それか歩いて行くしかない。
そもそも馬を個人で所有しているなんて貴族や商人、あとは畑を耕す農家ぐらい。
殆どの人間が乗馬の機会なんて騎兵になるでもしなければ有り得ない。
そんな状況での派遣軍と歩調を揃えての王都行きだ。
正直な話、馬車には乗りたくはない。
確かに凹凸の無い道ならば問題は無い。しかし残念な事にそんな道はこの世界じゃ早々お目に掛かれない。
と言うのも町などの道も舗装されてはいるが石畳なのだ。
しかも丸い石。平らに加工された石なんて使っている訳も無い。王都に行けばもしかするかもしれないがあまり期待はしない方が良い。
サスペンションなんて存在していない。車軸と車輪が直接繋がっているものだからダイレクトにその衝撃が伝わって来る。
度合いにもよるが凸凹道に入った瞬間にそれはもう筆舌に尽くしがたい痛みと揺れが襲って来る。尻を打ち付けるだけでなく背中や腕、頭を彼方此方にぶつけ、身体中に痣が出来るなんて当たり前。
揺れも酷い。弱い人は数分乗っただけで簡単に酔ってしまうレベルだ。
しかしハンヴィーに乗った俺に速度を合わせろ、なんて言える筈も無く。
俺が我慢して馬車に乗ってしまえば簡単に事が済む話なのだ。
が!俺は馬車に乗りたくない。
なので派遣軍の速度に合わせてハンヴィーを進めることにする。
色々と面倒な事になりそうなのは間違い無いがそれでも尻をぶつけまくって赤く腫れるよりはいいに決まってる。
最悪、とっとと帰って来てしまえばいいだけの話だ。
どうせ滞在すると言っても2、3日程度だ。
報酬を貰ったらさっさと帰って来よう。
派閥争いやらに巻き込まれたくなんて無いし縛り付けられるのも御免被る。
そう言えば、この世界の悪い所は娯楽が少ない所だ。
まぁ農作業なり洗濯なり全てを人力で行わなければならない事を考えるとそんな事に時間を使っていられない、なんてのもあるんだろう。
しかしそれにしても少ない。
それでも貴族なんかはチェスの様な物をやっているそうだ。
車の中でやるには向かないが。
あぁ、王都までの道のりは死ぬほど暇なんだろうな……
憂鬱の気持ちを抱えながら王都への道のりに備えた。
翌日、王都へ向かう為に派遣軍が町の外に集まっていた。
俺はその指揮官に挨拶をする。と言っても俺がイチローである、と顔を見せに行くだった。後は隊列のどの辺りに俺が居ればいいのかなどを教えて貰った。
それ以外は軽く2、3言葉を交わしてとっとと退散をする。
長居をしても余り意味は無いし。
そして軽く離れてからハンヴィーを呼び出す。
まぁこんなド真ん中にいきなりこんなのが現れたら知らない人間なら誰だって驚く。
実際に大騒ぎになっているし。
中に俺が居るから変に攻撃したり、何て事は無いが。
それでも万が一に備えてM4とM9も呼び出しておく。
ベストのマガジンポーチにもしっかりとマガジンが入っていることを確認する。基本的に俺が車内に居る時に敵が車の近くに来たらM9の方が取り回ししやすい。
だから普段なら3本しか呼び出さないが今回5本M9のマガジンを呼び出した。
運転席に座って出発を待つ。
あー……ゴブリンの大軍と戦っている時は忙しすぎてそのことしか考えられなかったがこうして何も無いとなるとそれはそれで暇だな。
しかも道中話し相手すら居ない訳だし。ボケッと外を眺めながら待っているとドアを叩かれる。
なんだ?出発か?
なんて外を見ると何故かエルフラントさんがそこに居た。
「エルフラントさん?どうして此処に?」
「ん?聞いていなかったのか?私もお前に同行するんだ」
「え?そうなんですか?」
「あぁ。一応付き人、という形になっている」
「でもどうして?付き人なんて貴族でもなんでもないんですが……」
ただ王都に行って報酬を受け取るだけなのに?
なんだったら別に俺が王都に向かわなくても良い気もするんだけど。
「王都に行って変な女に引っかからない様に、って事だ。レイフォード様から直接の命だ」
「俺が変な女に捕まる?それどういう事ですか?」
「文字通りだ。今回の丘での戦い、掃討戦も含めて一番の活躍をしたのはお前だ。しかも未知の武器を扱うと来た。それで狙わない訳が無い」
「でも武器なんて俺にしか扱えませんよ?」
「それでも、だ。それにお前は貴族でもなんでもない。だから取り込んでやろう、って言う奴らが殆ど。報酬を渡すなんてあくまで口実程度に過ぎない。本当の目的はどうやって自分の派閥に取り込もうか、なんてことだろう」
「それじゃなんで領主様は態々エルフラントさんを僕に付けたんですか?」
「簡単な話だ。この町に戻って来て欲しい、という事だ。立地的にはオール大平原にあるこの町は近くに大森林もある。大平原はまだしも大森林の方は全くと言っていいほど調査も何も出来ていない。分かっているのはその森の大深部にエルフの村がある事と中間辺りに大きく深い裂け目がある事」
「でもそれに何の問題が?」
「調査が全く出来ていない、しかもエルフの村と裂け目の正確な位置すらも正確な場所なんて全くの不明。考えてみろ。全くの未知の魔獣や魔物が居ても何らおかしくもなんともない。今はまだそう言った存在が町や大平原に現れていないとは言ってもこれからどうなるのかすらも分からん。そう言った脅威から町を守って欲しいという事だ」
「はぁー、そうなんですか」
「ま、お前を自分の膝元に置いておきたいなんて事も当然あるだろうからな。お前の扱う物は全てが軍人だけでなく為政者にとっては何が何でも手に入れたいモノなんだ。自分達で扱えないのならばその扱える人間を取り込む、なんて発想は当然だ。今回の件だってそうだ。態々王都に呼び出さなくても使いの人間に報酬を持たせてこの町に持ってくればいいだけの話なんだからな」
「うーん……なんだか実感が湧きませんね」
「王都に行けば嫌でも思い知るさ」
そうしてエルフラントさんと話しながら出発の時を待った。
この際ついでと言うのもあれだが、ハンヴィーに乗って貰った。
どうやら馬車での移動らしいのだがエルフラントさんも馬車に乗るぐらいなら自分で馬に乗った方がマシ、とも言っていたので。
まぁハンヴィーなら一人も二人も大して変わらないし。
それとクレイドルさんも一緒に行くらしい。
馬車に乗るそうだが。
戦いの最高指揮官だった、という事で王都に来いと言われたそうだ。
別行動を取るらしい。久々の王都だから報酬を貰ったら好きにさせて貰うとかなんとか。貴族とのやり取りは面倒で嫌いらしいから当然っちゃ当然なのだろう。
しかしあのクレイドルさんが嫌いだ、という程なのか。
……俺も逃げられないものか。
別にパーティーなんて参加したくない。
だったら家で呼び出した食事で全く持って構わないし。
なんて考えている間に出発となった。
道中はエルフラントさんが居たお陰で暇になる事も無くなんだかんだで楽しい物だった。
こちらに来る時は緊急事態という事でまぁ急いでいたらしいから普通よりは短い期間だったらしいが王都に帰る、という事は火急の用件も無いし兵士の疲労も考えてゆっくりとしたものだった。
途中、休憩の時にクレイドルさんに何度か会ったが尻を摩っていた。
やはり痛いんだな……
なのでハンヴィーに乗るか誘ってみたのだが断られた。
「流石に馬車を空にするわけにはいかないからな。御者の面子もある。それに、二人の邪魔をしては悪い」
と、言って馬車に戻って行ってしまった。
いや、前者の理由は分かるが後者はどうなんだ?まさか俺とエルフラントさんがそう言う関係だとでも言いたいのだろうか?
俺としてはこんな美女と付き合えるのは願っても無いが幾ら何でもそれはエルフラントさんに失礼だろう。
まぁそう言う関係でも無いので態々否定する事も無い。
そして、王都に到着した。
まず目に入って来たのは王都全体をグルッと囲んで作られている高さが20mはあろうかという城壁。
かなり頑丈そうだ。
「エルフラントさん、あの城壁は?凄いですねー」
「あぁ、あれは王都全体を囲っている城壁だ。300年前に戦争で一部の敵軍が王都まで攻め上がって来てな。それから建設が進められているんだ。壁自体は完成している。それの補強や増設、壁上に武装を施す為の工事が今でも続けられている。老朽化も進んでいたりもするからそれの改修も常に行われている状況だ」
「へー、そうなんですね」
「元々は王城から20km程までを囲んでいたんだが、それからもう一つ外側に増設したんだ。それを切っ掛けに今じゃ4重の壁が完成済み。5つ目の壁も建設中だ」
「2つぐらいで十分な気もするんですけど」
「まぁ、備えておいて損することは無いからな。それに公共事業として人を雇っているから貧しい職の無い人間に仕事と給料を与えるという意味もある。今建設中の壁もどれだけ早く完成しても数十年は掛かる。まぁその分だけ国庫の金が無くなって行くんだが、変な事に使うよりはマシだ」
「まぁ確かにそうですね。でも実際に使わないなら意味が無いのでは?」
「それがそうでもない。隣に帝国があるのは知っているな?」
「えぇ」
この帝国と言うのはこの国の西側に存在する大きな国家の事だ。
軍事力も大きく周辺諸国を併合、傀儡化したりしてその勢力を伸ばしている。
対抗できるとすれば西にもう一つある大きな国だその辺は今は良いだろう。
「帝国とはそれなりの頻度で小競り合いが起きている。もし帝国との戦争に突入ともなればこの国の国力では到底勝ち目は無い。だからもしそう言う事が起きても問題が無い様にという事だ」
「そこまで差し迫っているんですか?」
「さぁな。本当かどうかは分からんが最近小競り合いの頻度が上昇傾向にあるそうだ。恐らく強硬偵察だと思う。何時になるか分からないが仕掛けて来るのは間違い無い」
そうなのか。
いや、こんな城壁を作らなきゃいけない程、帝国は強大という事だろうか。
「これ、戦争になったらどうするんです?食料とか」
「食料に関しては問題無い。第2城壁と第3城壁の間は穀倉地帯と牧場なんかがあるからな。穀物と肉、野菜の生産に問題は無い。ただ資源に関しては何とも言えない。かなりの量の備蓄があると聞いているがそれでも全面衝突ともなれば1年は何とかなるだろうがそれ以上は分からん」
「でも鉱石とかは?イリオル大山脈からですか?」
「そうだ。あそこは我が国の領土だからな。輸入したりしなくても問題はない」
そう言えばこの国の地理は結構恵まれている。
この国は東にオール大森林、東のオール大森林の真ん中辺りから北、そして北西の方向に掛けてイリオル大山脈が存在する。
そしてそれを跨いで幾らか言った所までがこの国の国土だ。
なのでそちらからの敵の侵入はまずない。西か北からの敵は防がなくてはならないが北にはこの国と同じような中小国家しかない。
西に帝国ともう一つの大きな国しかない。
イリオル大山脈に付いて言えば、鉱石の産出で有名だ。鉄、銅などの戦争をするには不可欠な鉱物が大量に取れる。金や銀の産出もある。
そしてこの大山脈の鉱物資源を産出する場所の近辺には古くからドワーフが住んでいる。
どれくらい昔から、と聞かれてもものすっごい昔からとしか俺は詳しくないので言えないが。
ドワーフが住んでいる為、金属加工品に関しては国内随一、他国なんかよりもよっぽど優れている。
そのドワーフの作った武具は通常の物よりも遥かに性能が優れており、この国では王都に駐留している5個騎士団を始め、精鋭の部隊には人数分+予備が配備され、それ以外の部隊も予備は少ないが人数分は配備されているのだとか。
これは他国も知っている事で、エルフラントさんも鎧と剣もドワーフ製だそうだ。
各領軍も基本的には領が給料などを負担するのだが、武具に関して一定以下ならば国から支援を受ける事が出来る。
この国は、帝国との戦争の準備に関して相当準備をしているらしい。
因みに王都にその帝国軍の一部が王都まで攻め上がって来たそうだ。
そりゃ二度と好き勝手やらせて堪るかってなるか。
だけど国力的に国境線での防衛は無理があるから万が一そうなったら此処で引き付けて叩いてやろうって事か。
持久戦をするならこれ程好都合な立地は無いわけだし。
「もうそろそろ門を潜れるだろう。そしたら王城に向かう」
「了解です」
「それと、流石にこいつから降りた方が良いぞ。巡回している衛兵に捕まったら面白くない」
「そうですね。リーヴォリの町じゃこれに乗っていてもみんな驚かなくなりましたから感覚がおかしくなってました」
「毎日毎日こんなものを町の近くで走らせていれば誰だって慣れるさ」
エルフラントさんの助言に従ってハンヴィーから降りる。そしてM4とM9をしっかり装備し、ベストも着る。
話を聞く限り、治安も良いようだし問題は無いだろうと思われるが、まぁそこは念の為だ。
そして壁門を潜る。
「おぉ……!」
これはすごい!
この世界に来てからリーヴォリの町と依頼で向かった村ぐらいしか見てこなかったからか、途轍も無く発展しているように見える。
街並みもしっかりと整っていて、こう、何というんだろうか?職人街、と言ったような感じだな。
煙突から煙が、あちらこちらから空に向かって伸びている。
そんな俺達を見て、近付いてくる身形の良い馬車あった。
そして身形の良い人間が。こちらに向かって来る。
「イチロー様と、エルフラント様で間違いありませんか?」
「えぇ、そうです」
「それは良かった。どうぞこちらへ。馬車で王城までご案内致します」
「クレイドルさんは?」
「ラウナー様は既にお乗りになっています」
「そうですか。なら行きましょうか」
そうして馬車に乗り込む。
その中には御者さんが言っていた通りクレイドルさんが座っていた。
「どうだった二人共。二人だけの空間で何かなかったのか?」
「何言っているんですか。途中会ったりしていたでしょう」
「別にそう言う事の一つや二つあっても良いと思うんだがなぁ」
「団長、黙って貰えますか?」
「おぉっとこれは失礼。これ以上喋ると大変な事になりそうだ」
そんな冗談を言い合いながら馬車は出発する。
街並みはしっかりと整備されている。
王城に向かうその間、エルフラントさんに王都の説明を受ける。
クレイドルさんは寝てしまった。
「この辺は工房と、そこで働く者達の居住区画が併設されている場所だ。東側は工房区画と居住区画で北と南、そして西は穀倉地帯だ」
「何故穀倉地帯の方が多いんですか?」
「基本的に帝国との戦争となった場合は国民全員を城壁内に収容する事を想定しているからな。武器ならば一日に職人が複数作る事が出来るが食料はそうもいかない。備蓄はあるが備蓄が無くなってしまえば後は収穫期の生産を待つしかなくなる。配給にしろそうでないにしろ、食料生産に比重が偏るのは仕方が無いことだ」
「そうなんですねぇ」
「そうなんだ」
もし、穀倉地帯に行けば、城壁の内側とは考えられない程の驚く程の穀倉地帯が広がっているに違いない。
これは、収穫期になったら辺り一面黄金色に輝く事だろう。
……見てみたいな。
馬車が通る道と歩行者が通る道が分けられていて、さらに言えば馬車用の道は王城方面に向かう道と、外側へ向かって行く道とが分けられている。これのお陰でスムーズに馬車が進んでいく。
城壁と城壁の間は凡そ20km程。かなり広い。まぁ300年も掛けての工事ならばそれもそうなのか。
まぁいいや。その辺は俺が気にしても仕方が無いことだし。
それから暫く、王城に到着した。
「うぉ……でけぇ……」
思わずそんな声が出てしまうほど大きな城だった。
そもそもこんなデカい建築物なんてこの世界じゃ早々見る事が出来ない。
精々が2、3階建てのこの世界だ。
どれだけの時間と金を使って作ったのか物凄く気になってしまう俺はやはり貧乏性なのか。
城門の前に来ると、門番の人が開ける。
この馬車は王家の物だとエルフラントさんも言っていたから紋章とかで分かったんだろう。俺はさっぱり分からないが。
そして城門を潜るとこれまたビックリするほど綺麗な光景が目に飛び込んでくる。
庭、庭園か?しっかりと手入れが施され、王城の壁は真っ白だ。大理石かなんかか?まさか石灰とか?
馬車から降りて、白の中に通されると無駄に天井の高い物凄く豪華な内装だった。
ヤバい、今更緊張して来たぞ。
すると俺達の目の前にやって来た、いかにもな執事のお爺さんが俺達に恭しく、とはまさにこの事か。と思うように頭を下げてきた。
「イチロー様、ラウナー様、エルフラント様、ようこそ王城へいらっしゃいました。私は執事長のカルマン・レイウェン、と申します。皆様が王城に御滞在される間、お世話させていただきます。お気軽にカルマン、とお呼びください」
「これはこれは……初めまして。イチローと申します。残念ながら私には姓が無い、というよりは覚えていないので、そのままイチローと呼んで下さい」
「コルネー・エルフラントです」
「クレイドル・ラウナーと申します」
「それでは皆様、どうぞこちらへ。先ずはお部屋にご案内させて頂きます。その後、国王陛下に謁見、という流れでございます。その後は自由時間となっておりますので是非、王都の町に行ってみてください。戦勝パーティーは3日後ですのでそれまではどうぞごゆるりとお寛ぎ下さい」
カルマンさんの案内の元、王城で俺達が滞在させて貰う部屋に案内される。
そして入って再び度肝を抜いた。
豪華すぎる!
豪華すぎてビビった。
地球の一番豪華なホテルの一番豪華な部屋ですら足元に及ばないのではないか?と思ったぐらいだ。
いや、地球の物を知らないからその辺は何とも言えないが……
「本当にこの部屋で合ってますか……?」
「お気に召しませんでしたか?」
「むしろ逆です。豪華すぎてちょっと驚いたというか……」
「そうでしたか。ご安心下さい、このお部屋はイチロー様のお部屋で間違い御座いません」
「そうですか……有難うございます。というか俺なんかが使っても良いのですか?その、生憎と私は私自身を保証出来る様な立場と身分ではないのですが」
「何を仰いますか。ゴブリンの大軍を退け、そして元凶である変異種のゴブリンを討伐し、しかも本来ならば派遣軍の仕事である掃討作戦にも参戦して頂いた。これ程の功績を、そして我がロンバルティア王国を救っていただいたのです。このぐらいなどまだまだでございます」
と、何故か嬉しそうに話すカルマンさん。まぁそう言う事ならそれで納得するけど。
いやぁ、こんな部屋に案内されるとは思っても居なかったぞ。
多分これ、夜落ち着かなくて寝れないぞ?
いや、ベッドは家にある奴や、お世話になった宿なんかよりも遥かにフカフカで最高の心地なんだけど。何というか、別問題なのだ。
家にあるベッドが恋しい。
部屋に関しては奥からエルフラントさん、クレイドルさん、俺と言う順番だ。
特に文句はないのでそのままという事になった。
そして、部屋に荷物を置いて王様に謁見しに行く。
というか俺、そう言う時の作法なんて知らないぞ?
その辺の事をカルマンさんに聞いてみたら、
「国王陛下はそのことについて承知でいらっしゃいます。もし粗相をしても気にしないとおっしゃられておりました。普段通りの英雄が見てみたいと」
と言っていたが、礼儀作法に関して許してくれるのは有難いのだが普段通りの英雄が見たいって俺に何を期待しているんだ?
言っちゃあれだが俺に何かを期待されても困るんだが……
元は普通の人間だぞ?
しかも格好もこのままでいいのか?迷彩だぞ?
物凄く変なんだが。城の中じゃかなりどころか滅茶苦茶浮いている。擦れ違う人全員が俺を二度見、三度見するし。
町の人やエルフラントさん、クレイドルさんは見慣れたのか何も言わないからそれに慣れてしまっていたのか。
それに今更だが四六時中この格好だから気にした事が無かった。
森の中だったり林だったりと緑の多い場所で依頼をこなすことが多く、基本的に服装は迷彩だ。それに戦闘靴だし。
実用性に関してはピカイチなんだがファッションとしては無理だ。
Tシャツも同じような物しかないし。
でもカルマンさんが何も言わないんだから問題は無いのだろうが、さすがにちょっと心配だ。
そんな事を考えながらやって来た謁見の間。
謁見の間ってなんだ?聞いたことも無いぞ。扉でけぇ。
そして中から声がする。
なんて言っているのか分からないが、その声が終ると同時に扉が開く。
ギィィィィ……
謁見の間めっちゃ広いな!?
しかもその先にある玉座になんかめっちゃ偉そうな人が座ってるし。
あ、あの人が国王か。
てか何時まで進めばいいんだ。
クレイドルさんとエルフラントさんが止まったので俺も一緒に止まる。
しかし何故俺が真ん中なんだ。
端が良かった。
そして二人が膝を付く。
おぉ、何かかっこいい。
「おい、お前も頭を下げて膝を付け!私達の真似をしろ!」
そう言う事は入る前に言って欲しかった。
じゃない。取り敢えず真似をしないと。
見様見真似で同じ動きをする。
すると、何故だか足音が聞こえて来た。
ん?立って歩くのか?なんて思って横を見ると二人はちゃんと居た。
そうすると誰の足音?
と思うのは自然だと思う。
訳が分からず考えていると頭上から物凄い威厳のある声を掛けられる。
「面を上げよ」
ビックリして思いっきり顔を上げてしまったが如何やら間違いだったらしい。
二人共少ししか顔を上げていない。上からぎり見えるか見えないかぐらいだ。
あ、国王とガッツリ目があっちゃった……
やべぇやべぇ。どうしよう。まさか不敬罪とかで死刑?それは勘弁して欲しい。
必死になって頭の中で色々とグルグル回転させて考えるがどうにもならない。
これどうすればいいんだ!?
そんな俺の心中を知ってか知らずか、国王はニヤッと笑ってから大きな声で笑いだした。
「わはっはっはっはっは!!いやいや、すまんすまん。ついからかってしまった。どうか許してほしい」
「へ?」
間抜けな声が出てしまった。
だが言わせてもらいたい。先程までは顔も雰囲気も全てが威厳ある者だったのに今はただ爆笑してニヤニヤしているだけのお爺ちゃんだ。
誰だってこんな差を見せられてはそうなる。
「余はロンバルティア王国国王、ディストニウム・ハンシュルト・ロンバルティア。よくぞ参られた、英雄よ。歓迎するぞ」
再び声が戻って、自己紹介を始める国王。
いや、いきなりの事過ぎて全く頭に入らないのですが。
そんな自己紹介が終わってニコニコされても物凄く困るんですが。
「陛下、そんなにいきなり詰め寄られては皆様が困惑してしまうでしょう?」
「それもそうか。いや、すまんかったな英雄殿」
「え?あ、いえ、お気になさらず……」
多分王妃?だと思うんだけどその人も国王の傍に来て窘める。すると国王が今気が付いたように言って謝罪をしてくる。そんな謝罪をされた俺がそんなしどろもどろになりながらも答えると、ニッと笑って俺の顔をジッと見る。そして気が済んだのかエルフラントさんとクレイドルさんにも声を掛けた。
「他の二人もしっかりと顔を見せてくれ」
「「はっ」」
二人が顔を上げ、国王は俺を含めて顔を見るとうんうんと頷いて言った。
「此度の働き、誠に大儀であった。執務が残っている故今は話を聞きたくても聞けないのが残念だ。どうか許してほしい。代わりと言っては何だがこの王城と、王都を存分に楽しんでいって欲しい」
そう言うと、王妃と何人かの人を連れて何処かに行ってしまった。
どうすりゃいいのか分からないので二人を見ると、王様が完全に見えなくなってから立ち上がった。それに倣って俺も立ち上がる。
そしてエルフラントさんに怒られた。
クレイドルさんは触らぬ神に祟りなし、と言わんばかりにそっぽを向いて逃げて行った。いやちょっと助けてくださいよ、なんて思ってももう手遅れ。
エルフラントさんに部屋に引きずられていき、そこでしっかりお説教を喰らい最低限の礼儀作法を叩き込まれた。
その後は部屋に居るのもあれだし、という事で王都の観光をする事に。
別に1人でもよかったのだが迷子になりそうだったのでエルフラントさんを誘ってみたら付いて来てくれる事に。
有難い。でも今更だがこれって多分護衛の人とかが付いて来るんじゃ?と思ったがその通りだった。カルマンさんに観光に行って来るというと当たり前の様に護衛の人が4人程付いて来ることになった。
しかもエルフラントさんに気を使ってなのか全員女性。
場違い感凄い。
改めて説明させてもらうとこの世界の軍隊は男女ともに入隊が可能だ。
それも戦闘職種である歩兵や騎兵、弓兵にも普通に女性が居る。勿論後方支援系の方に居る女性が多いのだが実際の所、割合で言えば五分五分。
平民から貴族に至るまで例外なく軍門を叩けば入る事が出来る、という訳だ。
まぁそんな話は置いておいて。
そもそもの話、女性5人の中に男一人と言うのはかなり変だ。
何より気まずいというか、居ずらいのが4人とも美人なのだから余計にそう感じてしまう。
いや、別に嫌という訳ではない。俺だって男だしそれなりにそう言う欲求はある。
まぁエルフラントさんは顔見知りだし、何だったらちょっと色々あったからそれなりに親しい。失礼だが簡単に言えば慣れている。
しかし4人は今日が初対面の人達である。
そんな人達に囲まれたら普通に緊張するしなんだったら怖いとさえ感じるだろう。
まぁそんな事を気にしても全く意味が無かったのだが。
簡単に言えばこの4人、良い人達だった。
王都の事を何も知らない俺に懇切丁寧に説明してくれる。
食事、洋服、アクセサリー関連の店。まぁその辺は基本的に高価な店が多いので今の俺には全く手が出せない。
報酬が出れば行けるんだけど。
今の俺は殆どすっからかんなのだ。ハンヴィーの燃料を往復分+多少の予備、M4、M9の弾薬をマガジン7本×3回分。
これで精一杯。
あとは此処に来る道中で食料の呼び出しで使ってしまった。
家が貰えて、王都行きが間近に迫っていたこともあって依頼を受けられなかったことがここに来て響いてきた。多分報酬は戦勝パーティーの時に貰えるんだろうが、それまでの今日と明日、明後日の昼までは王都を見て回れることは出来ても買い物とかは一切できないという事だ。
まぁ見ているだけでも十分楽しいのでその辺は全く問題は無いが。
さて、取り敢えずの所、王都に到着した初日である今日はエルフラントさんと王都を観光して、夜を迎えた。
王城に帰ると既に夕食の準備がされているらしくエルフラントさんは、
「国王陛下に食事に招かれたのだからちゃんとした格好でなければならない。私も着替えて来るが、お前もくれぐれも、その恰好で来ることが無いようにな。もしその恰好出来たら張り倒す」
と言いながら部屋に戻って行った。
いや、この格好で来るなも何も服をこれしか持って居ないんですが。
流石に無いだろうと思いながらメニュー蘭で確認してみれば、一応あるにはあった。
軍服としての正装が。
というよりも制服があったのだ。
しかし呼び出すことが出来なかった。
金が足りないので。
流石にあのエルフラントさんの目はマジだったのでどうすればいいのか悩んだ挙句、カルマンさんに相談したところ。
普通に貸してくれた。
いや、最初っからそうすればよかったじゃないか。
という事で服装はクリア。
これでなら行っても問題は無いだろう。
廊下に出ると、クレイドルさんとエルフラントさんが既に待っていた。
「おぉ……!よく似合っています」
「そうか?俺は余りこう言った服装は好きじゃないんだがなぁ」
「私よりはマシですよ。着ているというよりは着られている、と言った方が良いですし」
クレイドルさんはスーツか燕尾服だか分からないがそれを着ている。
そして筋肉が凄すぎてパツパツだ。胸のあたりと腕が主に。
変な動きをしたら千切れ飛んでしまうだろ。あれは。
もっと大きなサイズが無かったのか、と考えたがクレイドルさんがきているんだから問題は無いのか。
「エルフラントさん、とてもお綺麗ですね」
「ありがとう。まぁ、こんな格好なんて初めてなんだが似合っていたようでなによりだ。それよりも、お前こそちゃんとした格好で来たとは驚きだ」
「エルフラントさんが言ったんでしょう?」
「お前が正装用の服を持って居ない事なんて丸分かりだったからな。カルマンさんに言えば貸してくれただろう?」
「えぇまぁ」
「私もこういう服は持って居なかったからな。貸してもらったんだ」
「そうだったんですね」
歩きながら話す。
さっきの謁見したところと同じような所かと思っていたのだが、如何やらそうではないらしい。
晩餐会なんかをやる時はあれと同じぐらいデカい所でやるらしいが今回は人数も少なく、何より国王自身が近くで話をしたいから、という事らしい。
そして何処かの部屋の前に着いた。すると扉が開き、その先には国王と王妃、それに見覚えの無い50代程の夫婦と思われる二人と更に20~30代の男女が6名にそれよりも若い10代~20代ぐらいの少年少女達が10人程。
「おぉ!良く来てくれた!さぁこちらに来てくれ!」
何故だか物凄く上機嫌な国王に部屋の真ん中あたりに連れて行かれる。
「紹介しよう。今回の件の英雄であるイチロー殿にラウナー殿、エルフラント殿だ。三人とも、こっちの面々は私の息子夫婦と孫達、そして曾孫達だ」
国王一家勢揃いですか。
これ今此処が吹き飛びでもしたら大変な事になるな。
「イチローです」
「クレイドル・ラウナーと申します」
「コルネー・エルフラント、と申します」
それぞれ自己紹介をする。そして国王一家との夕食会が始まった。
それから始まったのは国王一家とは思えないほどの無駄にフレンドリーな会話だった。
その雰囲気に充てられてやらかしてしまわないか終始緊張しっぱなしで何を話したのか全く覚えていない。
多分、俺の戦い方とかそんな感じだったと思うんだが……
3時間程の夕食会を終えて漸く解放される。出された無駄に豪華な食事の味も全く覚えていない。というか緊張しすぎて口が乾いて水ばっかり飲んでいた気がする。
その日は結局緊張疲れで部屋に戻って、この世界に来て初めての風呂に入った。
風呂も無駄に装飾に凝ったりしていてちょっと引いてしまった。
どういう原理なのか聞いてみると鉱山で発見される魔石(鉱脈付近で可視化出来る程に濃く溜まっていた場所で土に埋もれて長い年月をかけて生成されるものらしい)を使う事によって出来るそうだ。
コスト的にもかなり掛かるが初期投資に必要な金額だけだそうで、魔石自体は魔力を込めれば何度でも使用できるから長期的に見れば安上がりになるそうだ。
魔石かぁ……
いつか購入して俺の家にも設置したい。
正直、井戸から水を汲み上げてそれで身体を洗うでもいいのだが、考えてみて欲しい。
井戸水である。地下から汲み上げるのだから当然冷たい。
そんなんで真冬にでも身体を洗えばどうなるか。当然風邪を引く訳だ。体が資本な職業柄、そんな事になれば稼ぎが無くなるし、この世界の医療は魔法に頼りきりで全く進歩していない。
風邪でも余裕で死ねるのだ。冗談抜きで。
だからそんな事にならない様に風呂が欲しい。
いつかイリオル大山脈に行って魔石を購入しよう。
そんな決意を胸に抱きながら、ベッドに潜り込むと疲れもあってか直ぐに寝てしまった。