1度燃え尽きた英雄が再び立ち上がるのは間違っているだろうか 作:レアシイ
「ベル・クラネル、白髪赤目で歳若いヒューマン…戦闘経験無し、オラリオに来た理由は英雄になりたいから……ねぇ」
昨日エイナちゃんから教えて貰った新人の情報を反芻する、ダンジョン前での待ち合わせになっているがそのような姿は未だに見当たらない
(ま、俺が早く来ただけなんだけどね)
俺はいつも待ち合わせには早く来るようにしている、早く来ている先輩を目にした時の反応で大体その新人がどんな性格か分かるからだ。
(ま、どんな奴が来ても面倒は見るけどね)
とはいえその辺は心配していない、エイナちゃんの紹介でもあるし彼女がめちゃくちゃ心配していたので歳は10代くらいだろう、それに横柄な態度も多分ギルドでは見せなかったことも伺える。
そう思いながら待っていると1人のヒューマンの男が人混みを掻き分けてこちらに向かっていた、白髪に赤目、恐らく彼がベル・クラネルだろう
「お前さんがベル・クラネルかい?おじさんがレインだ、よろしく」
(ふん…体幹もブレブレ、足音を殺す癖もなし、かといってヒョロヒョロな訳でもなく筋肉はしっかりついてるな…普通の農村出身って感じかな)
「あ、べ……ベル・クラネルです!今日からよろしくお願いします!」
(性格も特に問題なさそうだな、純朴で優しそうな少年だ)
「おう、じゃあさっそくダンジョン行こうか、どれくらい動けるのかも見てみたいしね」
「はい!頑張ります!」
そして2人はダンジョンへと足を進めた
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「ふっ!はぁ!」
視線の先ではベルがコボルト相手にナイフを振るっていた
(あれはギルドで支給された1番最初のやつか、ナイフはベルのファイトスタイルとよくあっているな)
通常ヒューマンは軽い武器を選ぶ傾向がある、俺もロキファミリアのアイズも槍とレイピアだが比較的軽い得物だ。というのも重い武器をヒューマンが持っても力と耐久が伸びやすいドワーフには敵わない、杖を持っても魔力が伸びやすいエルフには敵わない、素早さも獣人やアマゾネスには敵わないだろう、だからヒューマンは軽い武器で臨機応変に対応できる武器に落ち着く事が多いしそれは間違っていない
それにベルは特に素早さを活かしたヒットアンドアウェイを徹底している、恐らくダンジョンに潜るのは初めてだが武器の特性と自分の得意な事が噛み合った戦い方をダンジョンに潜って数10分で身につけていた
(だが…あれは頂けないな…)
「ベル!モンスターが攻撃してくる時目を瞑ってるぞ!ちゃんと目は開けとけ!」
「はい!」
これは珍しい事じゃない、特にベルの様な元一般人には多い事だ、人間は危害が加えられそうになると反射的に身を竦ませ目を瞑ってしまう、これは人間の本能の一つだ。だがそんなことをダンジョンでしてしまえば当然のことだが攻撃を避けられずに食らってしまう、その上ベルはモンスターの攻撃モーションが見えた瞬間からモンスターから離れてしまう、あれではヒットアンドアウェイでは無くただのビビりだ
(センスはいいんだがなぁ…痛みを怖がるのも初心者はよくあるしこの辺は直していかにゃならんなぁ)
今まで見てきた新人にも同じような奴はいたがそいつは今も生きて冒険者をしているから多分大丈夫だと思うが
「せやぁ!」
観察して悪い点を洗い出しているとベルがコボルトに突進を喰らわせ怯んだ所にナイフで一撃与えコボルトを倒した
(攻撃することに躊躇しないのはいい事だな)
偶にいるのだ、ダンジョンのモンスターといえど傷つけることを躊躇ってしまう優しい人間が、ダンジョンのモンスターも斬られたら血が出るし傷を痛がりもする、それを可哀想と思ってしまうのだ。
「ベル!そろそろ疲れたか?」
「い…いえ!まだいけます!」
(嘘だな、ダンジョン初日で相当緊張しているはずだ)
それに声音の端々から疲労が滲んでいる
「ベル、体調は正直に言え、不調を隠すことはお前だけじゃなくてパーティーメンバーにも迷惑をかける」
これは本当のことだ、パーティーメンバーが疲労で肝心な時にぶっ倒れて全滅したパーティーを知っている、コンディションの共有はダンジョンで最も重要な事の一つだ、これはしっかり言い聞かせないと変な責任感や遠慮で不調を隠されては堪らない、今はまだいいがこれから下層に潜る際には体調1つで仲間の生死をも左右する場面に遭遇するだろう
「は…はい…すいません、実は少し疲れました…」
「おう、だと思った。じゃあもう1つ下の階に行くか」
「え?」
「疲れてる時にいかに実力を発揮できるかも大切だぞ、さぁ行くぞ」
そう言ってベルの腕を掴んでズルズル引きずっていく
「え?え?ちょっ!ちょっと待ってくださーい!」
ベルの悲鳴はダンジョン内に響いて誰の耳にも入ること無く消えていった。
短いし話進まないけど許してクレメンス