浦女探偵   作:梨蘭@仮面バンドライバー

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凛ちゃんゲスト回後編。凛ママも登場します。
凛ママの名前は見た目のイメージで付けたんですが、ママの皆さんの本名は何なのか、声なしで登場したママの声優さんは誰になるのか等気になりませんか…?色々妄想してみるのも面白いかもしれません。


#21 Dが映すもの/吼えろトリプルマキシマム

「今度こそ全員まとめて殺してあげます。さようなら♪」

 

ウェザーの右手に溜められる冷気。変身を解除され抗う事のできない鞠莉達は完全な窮地へと陥ってしまっていた。

死を覚悟した鞠莉達だが、その時辺りを黒い粘膜のような物質が包み込む。この邪悪な力は、以前果南と鞠莉が淡島で感じたものと同じだった。

 

「これ、あの時の…」

 

「フフフフフ…」

 

「ツバサ…!」

 

笑い声が聞こえたと思うと、地面から邪悪な気配の根源であるテラー・ドーパントが出現した。ウェザーが手から力を抜くと、溜められた冷気はゆっくりと消滅する。

 

「何の用ですか?」

 

「見てわからないかしら?お茶の誘いよ、ことりさん」

 

「それならお言葉に甘えさせて頂きます。では仮面ライダーの皆さん、またお会いしましょうね〜」

 

物質が更に広がると、ウェザーはテラーと共に地面の下へと消えて行く。それと同時に物質はゆっくりと消え去り、辺りは元の明るさを取り戻した。

 

「ことりさん、大丈夫かしら…」

 

ことりの身に危険が迫っていると危惧したあんじゅも物質が消滅したのを見届け、綺羅家へと戻って行った。

敵が完全にいなくなり周囲も落ち着きを取り戻したが、鞠莉が危険な状態なのを思い出したダイヤとルビィは慌てて彼女を介抱した。

 

「何故無茶をしたのですか!!死んでもおかしくなかったかもしれないのですよ!?」

 

「曜の顔を見たら身体が動いちゃったの。だって仲間じゃない、放っておけないよ」

 

「何それ…少しは自分の事も考えたら?手を出したからこうなったんだよ」

 

目を逸らしながら冷たく言い放つ曜だったが、鞠莉はそれでも望みを捨てなかった。まだダイヤと曜が変身できるからだ。

 

「ダイヤ、曜、あとはお願い…!凛の事、助けてあげて…だって私達は仮面ライダー、だから…」

 

「鞠莉ちゃん!!」

 

鞠莉はそう言い残すと意識を失った。ルビィが必死に身体を揺さぶるも、彼女は目を覚まさない。

 

「馬鹿だね…私の為に自滅してその上ドーパントの心配までするなんて。大馬鹿だよ」

 

『馬鹿なのは曜だよ!!鞠莉は命懸けで助けようとしたのに…ふざけんなッ!!』

 

果南の怒号は曜にも、意識を失った鞠莉の耳にも届かない。こうなってしまった今、仲間同士の繋がりさえも崩壊しかけていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

重苦しい雰囲気の中、ダイヤとルビィ、曜は理事長室へと戻って来る。ルビィは眠っている鞠莉をソファーに寝かせ、手当を始めようとする。

 

「ルビィちゃん、手当は気休めにしかならないよ。ガイアメモリのダメージは医学じゃ治す事はできないんだ、本人の回復力を信じるしかない」

 

「そうなんだ…ルビィ達、どうすればいいんだろう…」

 

ダイヤは泣き出すルビィを抱き締め、落ち着かせる。

一方の果南はずっと黙ったままの曜へゆっくりと近づき、胸倉へと掴みかかった。

 

「凛ちゃんを救う方法は1つだけある。それを実行できるのはアクセルだけ…でも曜はそれを断った!」

 

「そんな事より南ことりの居場所を探してよ。今すぐに」

 

「嫌だね、自分の事しか考えてない奴の頼みなんて聞くもんか。そんなに復讐がしたいなら自分の力で探せば?死んでも知らないから」

 

「果南さん!!なんて事を言うのですか!!曜さんの力でしか凛さんは救えないのでしょう?」

 

「スカルの力で凛ちゃんを助ける方法を探せばいいだけだよ。復讐しか頭にない曜に仮面ライダーを名乗る資格はない」

 

曜と果南は理事長室を出て行き、それぞれの目的の為に行動する。こんな時、鞠莉だったらどうするのだろうか。ダイヤは眠っている彼女を見ながら心でそう考えるのだった。

 

 

 

「はぁ…おかしいにゃ、なんかふらふらする…」

 

その頃、自宅へと帰宅した凛の体調もメモリによって悪化し始めていた。凛は体調の回復を図るべくベッドへと入ってそのまま眠りに落ちる。この時はまだ、自分が死ぬかもしれないという事を彼女は知らないままだった。

 

 

 

「美味しい!お店の場所が見つかってなかったらメニューに入れてたかも!」

 

そして綺羅家。ツバサに招かれたことりは満更でもない様子で出された食事を平らげていた。しかもその量は尋常ではなく、それこそ大食いと揶揄される人の食事量とは比べ物にならない。

 

「よくそこまで食べられるわね。自分の身体をガイアメモリの複数使用の為に改造しているだけの事はあるわ」

 

「気持ち悪っ…」

 

「理亞さん、口の利き方に気をつけなさい」

 

理亞はなおも食事を続けることりの姿に嫌悪感を露わにし、あんじゅから咎められる。

聖良は言葉にこそ出さなかったものの頭の中では理亞と同じ言葉が浮かんでおり、密かに納得するのだった。

 

「それに肝も据わってるわね。こんな状況の中で食事が喉を通るなんて」

 

「何の話ですか?」

 

「とぼけないで。あなたがあんじゅと何かを企んでいるのは知ってるのよ」

 

その言葉にことりの手がピタリと止まる。それを見たあんじゅはいつでもツバサに刃向かえるよう、タブーメモリを取り出し握り締めた。

 

「理亞さんにはメモリの暴走症状が出ているし、聖良さんも困惑している。綺羅家を脅かす存在は誰であろうと容赦しないわ」

 

「…脅かすだなんて、そんなつもりはありませんよ〜。私はただガイアメモリを奥深くまで究めたいだけ。それはあなたもあんじゅさんも同じ筈です」

 

(何、あのコネクタの数…)

 

そう言ってことりは服を捲り、腹部を露出させる。そこには夥しい量の生体コネクタの痕が打ち込まれていた。彼女は数多くのガイアメモリの能力を試すべく、自らの身体も実験体としていたのだ。

ここまで来ると最早怪物である。聖良と理亞は以前ツバサが言っていた『ことりは危険な人物』の意味を改めて理解するのだった。

 

「…ふふっ、面白いわね。あなたにそれなりの技量があるのは事実だし、しばらくここに泊まればいいわ。もう店には戻れないでしょう?」

 

コネクタの痕を見ても微動だにしなかったツバサはそう笑いながら席を立つ。近くの席に座っていた聖良に『ことりさんを監視して』と耳打ちをしながら…

いざとなれば理亞を守れるように、聖良は密かに決意を固めるのだった。

 

(ツバサを切り抜けた…)

 

あんじゅは安堵の息を1つ吐き、タブーメモリを懐へとしまう。そして再びことりの方を見ると、彼女は部屋を出て行くツバサの背を見ながら得意気な笑みを浮かべていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうですか?果南さん」

 

「ダメか。やっぱり凛ちゃんを救うにはアクセルの力が必要なんだ」

 

あれから数時間。日が落ち始める時間帯になるまで果南は検索を続けたが、スピードメモリをブレイクし凛を助けるには曜の力は必要不可欠だった。

 

「でしたらもう一度、曜さんに頼んでみましょう。それでいいでしょう?」

 

「私は嫌。とてもじゃないけど首を縦に振るとは思えない。もう少しだけスカルの力で凛ちゃんを救う方法を探してみるよ」

 

「何時間もかけてそれを検索しても出てこなかったんでしょう?凛さんの命だって懸かってますし…」

 

曜に協力を仰ぐしか方法はない。しかし果南はそれを良しとしなかった。

すると、2人の間に訪れた沈黙を破るようにガタンと椅子の音が鳴った。ルビィが立ち上がったのだ。

 

「もう意地張ってちゃダメだと思う。ルビィが曜ちゃんを説得してみるから、果南ちゃんももう1回考え直して。お姉ちゃんは鞠莉ちゃんの事を看てあげてね」

 

「ちょ、ルビィ…行ってしまいました」

 

「なんかルビィちゃん、大人っぽくなったよね」

 

果南とダイヤは、格納庫から出て行った大人らしいルビィの対応を見て思わず驚いた。以前の人形事件で探偵としての経験を積んだからだろうか。

 

「まぁ、私の妹ですから」

 

「何それ、自分は大人っぽいアピール?ルビィちゃんの方がよっぽど落ち着いてるよ」

 

「えぇ!?そうですか!?」

 

「そうだよ!…にしても、なんかルビィちゃん見てたら意地張ってるのがバカらしくなっちゃったよ」

 

そう言う果南の顔は吹っ切れたように笑っていた。これなら心配ないだろう。ダイヤもそう果南に笑いかけるのだった。

 

 

 

一方、浦女を出たルビィは海未に連絡を入れて曜の居場所を聞き出し、会いに向かっていた。曜は一瞬気まずそうな顔になるも、その場から去ろうとせずにルビィと話す事にした。

 

「で、私の所に来たと…」

 

「ごめんね、やっぱりこのままは嫌だからちゃんと話そうと思って…」

 

「いや、果南ちゃんの言う通りだよ。今の私は復讐しか頭にないから『仮面ライダーじゃない』って言われても返す言葉がない」

 

「…そっか」

 

「でもそう言われても構わないよ。南ことりは人の命を何とも思わない奴だし、このまま放っておいて犠牲者が出てからじゃ遅い。だから絶対に倒さないと」

 

「うん、ルビィわかったよ。曜ちゃんも凛ちゃんの事が心配なんだよね?」

 

「えっ?なんでそうなるのさ」

 

曜はルビィに軽蔑されるかもしれないのをわかった上でそう言ったつもりだったのだが、ルビィから返ってきた答えは予想とは異なるものだった。

 

「曜ちゃんは今『復讐しか頭にない』って言ったけど、それでも次の被害者が出ちゃうかもしれないのを気にしてるからだよ。本当に復讐したいと思ってるなら自分の事しか考えられなくなっちゃうと思うんだ」

 

「なるほど。それで?」

 

「鞠莉ちゃんや果南ちゃん、お姉ちゃんに出会った事で気づかないうちに曜ちゃんの考えも変わってるんだよ。この前ルビィも『探偵を始めてから大人になった』ってお姉ちゃんから言われたし、自分の変化って自分じゃ気づけない事が多いみたい」

 

「それは私も思うよ。ルビィちゃんに言われた通り、正直前みたいに頭に血が上った感覚がないからね。もし今日まで鞠莉ちゃん達に出会わなかったら、今の私はもっと暴走してたかもしれない」

 

「じゃあ、ルビィ達に協力してくれますか?」

 

感謝しないといけないね。そう呟いた曜にルビィは改めて力を貸して欲しいという事を伝える。

 

「今回はルビィちゃんに一本取られちゃったなぁ…凛ちゃんの家に行ってみようか。実は高校に住所聞いてたんだよね」

 

ヘルメットを被りながら駐車させておいたバイクの座席を指差す曜。ルビィは口を三日月形に変形させ、嬉しそうに後部座席へと座り込んだ。

高校から聞いた住所を頼りに10分程バイクを走らせると、『星空』と彫られた表札のある一軒家に到着する。凛の家は特別金持ちで大きいという訳でもなく、ごく一般的な家庭だった。ルビィがインターホンを押すと、ドアから茶髪の女性が顔を出した。その顔立ちはどことなく凛に似ている。

 

「こ、こんにちは!黒澤ルビィですっ!」

 

「あなたは凛ちゃんのお友達?」

 

「はい!…といっても今日知り合ったばかりなんですけど…」

 

「いいよいいよ!わざわざお見舞いに来てくれたんでしょ?…あっ、ちなみに私は母の明日美です。よろしくね〜」

 

凛の母と名乗る女性・明日美の顔には、どこか子供のようなあどけなさが残っている。曜とルビィは大学生くらいの姉だと思っていたので、見た目の若々しさに少々面食らうのだった。

 

「立ち話も何だし、どうぞ上がって!外も夏真っ只中で暑いだろうし、冷たい物用意するね♪」

 

娘の友達が来て舞い上がっているのか、いかにもご機嫌といった感じで小さくスキップを踏みながら台所へ歩いて行く明日美。凛の幼さが残る性格はおそらく彼女似なのだろう。

そんな事を考えていると、曜の目には数々のメダルやトロフィー、賞状の飾られたショーケースが飛び込んできた。メダルやトロフィーの色は銀や銅、賞状に書かれた文字には2位、3位という惜しい結果が収められているのが分かる。だがその反面、金色の物や1位の賞状等はどこにも見当たらない。

 

「あの子ね、中学の頃からずっと陸上やってるんだけど、今まで1位を取った事は一度もないんだよね」

 

ショーケースを眺めていると、明日美が紅茶の入った2本のグラスを置きながら話しかけてくる。

 

「何度も悔しい思いをして、その度に練習も頑張ってるんだけどいつも惜しいところで負けちゃって…私はどちらかといえば好きな事を楽しんで欲しいから『結果なんか気にしなくてもいい』って言ったんだけど、凛ちゃんはそうじゃなかったみたい。ここまで悔しい結果が続いちゃったんだもん、そりゃあドーピングしてでも勝ちたいって思っちゃうよ」

 

「ドーピングって、お母さんは凛さんが何をしたのか知ってたんですか?」

 

「薄々だけどね。ここの所遅刻ギリギリの時間になって家を出る事が増えたからおかしいと思って、この前こっそり部活の練習を見に行ったの。そしたら陸上選手でも出せないようなスピードで走り出したから、私びっくりしちゃった」

 

明日美はガイアメモリを使っている、命が脅かされている等細かい事までは知らないようだったが、凛が何かしらのドーピングをしていたのには勘づいていたらしい。

 

「やめさせようとは思わなかったんですか?」

 

「どんな理由があろうとも陸上を取り上げるなんてできなかったからね。でも母としては心配なんだよね…もしかしたら途中で体調が悪化しちゃうかもしれないし、不正がバレたら多くの人から後ろ指差されちゃうし。だから明日のマラソン大会も行かせるべきか迷ってるの」

 

曜は明日美の口から出たマラソン大会という単語に反応する。彼女の言うマラソン大会というのは、先程海未と少しだけ話した沼津で開催される大会で間違いないだろう。凛はそれにエントリーしていたのだ。

 

「…今、凛さんは?」

 

「部屋にいると思うよ。良かったら会ってあげて?」

 

曜はゆっくりと立ち上がり、凛のいる2階の部屋へと上がって行く。部屋のドアをノックすると、中からは『いいよ〜』と力の抜けたような声で返事が返ってきた。

 

「凛ちゃん、お邪魔するね」

 

「け、刑事さん!凛の事、捕まえに来たにゃ!?」

 

「それが目的ではないよ。凛ちゃん、悪い事は言わないから明日のマラソン大会に出るのはやめた方がいい。このままメモリを身体に残しておくと死ぬらしい」

 

「凛が…死ぬ?」

 

「事実だよ。だからこうして忠告しに来た」

 

「…それでも凛は出たいにゃ。だからメモリを抜いてもらおうとことりちゃんについて行ったんだよ」

 

「えっ?」

 

「部活で能力を使ってるうちに気づいたにゃ。最初は『これで勝てる!』って嬉しくなったんだけど、みんなから急に足が速くなった理由を聞かれたり期待される度に後ろめたくなっちゃって、好きでやってる事なのに全然走る事が楽しいって思えなくなったの。だから凛は自分の力でマラソン大会に出て1位を取りたい。勿論能力は使わない、自分で使えるように治してもらったから大丈夫」

 

「そういう問題じゃないんだよ!話聞いてなかったの?メモリは身体に残っているだけでも生命力を蝕んでいく。その状態で負担をかけたら…」

 

「マラソン大会に出られるなら死んでもいいにゃ!ガイアメモリに頼っちゃった事もあったけど、それでも練習は頑張ってきた!1位が取れるかもしれないのに諦めたくない!!」

 

「自分の命も大事にしなよ!!簡単に死んでもいいなんて言わないで!!みんな凛ちゃんの事を心配してるし、それで死んだら悲しむ人が…」

 

そこまで言いかけたところで曜は言葉に詰まる。同時に思い出すのは、ことりを倒そうと格納庫を飛び出そうとした時に鞠莉から諭された言葉…

今自分が凛に言っているのは、あの時彼女に言われた事とほぼ全て同じ内容だったのだ。

 

「…そんなに出たいんだね?」

 

「凛は本気だよ」

 

「でも命に関わるリスクを放っておいてまで大会に出るのは認めない。だから明日、大会が始まる前に会場に来て。凛ちゃんの身体の中のメモリを抜いてあげる。私の仲間が見つけた…あなたを救う為の処置で」

 

「刑事さん…ありがとにゃ!」

 

凛はそう言って笑い、拳をぎゅっと握り締めた。曜の声を聞いて駆けつけたルビィもその様子を見て、安心したような表情を浮かべるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、曜は大会のスタート地点で凛と果南達の到着を待っていた。開始時間まであと1時間を切った時、タイミングよく2人の人影がこちらへ駆けて来た。果南とルビィだ。

 

「あっ、果南ちゃ…」

 

曜が果南の名前を呼びかけたその瞬間、果南は腕を上げ曜の頬を勢いよく殴りつけた。

後から追って来たダイヤはその行動の意図が理解できず、慌てて果南を引き止める。

 

「何してるんですか果南さん!理由もなしに殴るのはぶっぶーですわ!」

 

「ダイヤ知らないの?これは漫画とかでもよくある仲直りの為の儀式なんだよ。これぐらい鞠莉も知ってるからね?」

 

「そ、そうなのですか…?よくわかりませんわ」

 

「なかなか粋な事を知ってるんだね。私もだけど!」

 

困惑するダイヤを脇目に果南は曜へと歩み寄り、手を差し伸べる。曜もその手を取り、2人は固い握手を交わし合うのだった。

 

「話はルビィちゃんから聞いたよ。メモリの摘出方法を教えるからよーく聞いてて」

 

果南はルビィが書いたであろうイラストを曜に見せ、メモリを摘出する方法を1つ1つ丁寧に説明し始める。

 

「おーい、みんな〜」

 

「凛ちゃんだ!」

 

果南が説明し終えるのと同時に凛も到着する。これで準備は整ったように思われたが…

 

「皆さん!奇遇ですね〜」

 

逆方向からはさも偶然を装ったかのようにことりが現れた。

 

「南ことり…!」

 

「ここで会えたのも何かの縁…ついでに片付けてあげます!」

 

\ウェザー!/

 

ことりはウェザー・ドーパントに変身し、戦闘態勢に入る。曜も復讐心から戦い出してしまうのではないか。果南達は身構えたが…

 

「悪いけど今はあなたの相手をしてる時間はないんだよね。凛ちゃんを助けるのが先」

 

「この前も言ったでしょ?そんな事は不可能だって」

 

「方法ならあるよ。しかもそれは私にしかできない事だから」

 

「そうなんだぁ…でもさせないよ?」

 

「あら、それはこちらの台詞ですわよ?」

 

\スカル!/

 

「変身、ですわ!」

 

\スカル!/

 

ウェザーがこちらへ襲いかかろうとした瞬間、スカルに姿を変えたダイヤが間一髪でそれを受け止めた。

 

「私も仮面ライダーだという事をお忘れなく」

 

「小賢しい真似を…!」

 

「皆さん、ここは私が食い止めます!凛さんは頼みましたわ!」

 

「ダイヤちゃん、ありがとう!」

 

スカルがウェザーの相手をしている隙に、曜達は凛の元へ駆け出す。

 

「それじゃあ曜、早速変身して!凛ちゃんはここから離れない程度に高速移動能力を使って適当に走り回って!」

 

的確な指示を受け、曜と凛は言われた通りに行動を開始する。果南曰くメモリはドーパント化…凛の場合は高速移動能力の使用中にしか排出できないらしい。

 

「凛ちゃん、すぐに助けてあげるから!」

 

\アクセル!/

 

「変…身っ!!」

 

\アクセル!/

 

続けて曜はアクセルに変身、果南はライブモードに変形させたバットショットを向かわせながら左手に持ったデンデンセンサーのライトを当て、高速移動で見えなくなった凛の位置を特定する。

 

「ちょ、みんな!何してるの!?」

 

「凛ちゃんに死んでもらいます!」

 

\エレクトリック!/

 

凛の後を追って来た明日美が異変に気づきそう尋ねるが、アクセルは迷う事なくそう告げる。

すると飛んでいたバットショットがピピッと音を鳴らし、凛にエレクトリックが正確に命中する位置を示した。

 

「曜、今だよ!」

 

「了解であります!」

 

アクセルが電気を纏ったエンジンブレードで凛を切ると高速移動能力が解除され、足元にスピードメモリが排出された。凛は息をしていない為、摘出が成功したのだ。

すかさずアクセルは横たわる凛に近づき、エンジンブレードで凛の心臓に軽い電気ショックを与える。凛は『うっ』と発しながらゆっくりと目を覚ました。

 

「…あれ?凛、生きてるにゃ」

 

「凛ちゃん!!良かった…」

 

先程まで悪かった体調もメモリが排出された事により嘘のように消え去った。明日美は無事に蘇生された凛に抱きつく。

そこへ到着したスカルも凛の無事を喜び、ウェザーは摘出されたスピードメモリを信じられないといった様子で見ている。

 

「どうやら上手くいったようですね!」

 

「死なない限り排出できないのにどうして…何をしたんですか!?」

 

「勿論、凛ちゃんは一度死んでるよ。だからメモリを摘出できた」

 

「そんな事はわかります!!それならどうして凛ちゃんが生きてるんですか!!」

 

「簡単な話だよ。死ぬ事でしかメモリが排出されないなら一度心臓を止め、メモリに死んだと認識させて電気ショックで再度心臓を動かせばいい。電気は人を生かす事も殺す事もできるからそれを利用したんだよ」

 

「仮面ライダーの力はただ戦うだけじゃない。人を救う力でもあるんだよ!」

 

アクセルはスピードメモリを拾い、ゆっくりと握り潰し粉々に破壊する。それを見たウェザーは強い怒りのあまり激しく身体を震わせていた。

 

「許さない…強力な能力を手に入れるチャンスだったのにッ!!」

 

ウェザーは近くに立っていたスカルの腹を殴り飛ばし、アクセルへと襲いかかる。一発目の拳はエンジンブレードで何とか防ぐも、その一撃は怒りが乗っているからか相当重い。

 

「ただ殺すだけじゃ生ぬるい。あなた達は凍らせて砕き殺す!!」

 

拳に力が加わり、アクセルは後ろへとスリップする。ウェザーは腰に取り付けられた武器・ウェザーマインを取り出しそこから伸びたチェーンでアクセルとスカルに同時攻撃を浴びせる。防戦一方に追い詰められた2人だが、その時ウェザーへとファングがぶつかり果南の手中に収まった。

果南はファングをメモリモードへと変形させてスイッチを押す。その腰にはダブルドライバーが。

 

\ファング!/

 

「行くよ!」

 

『OK!ひと暴れしましょう!』

 

\ジョーカー!/

 

自身の脳内に響く溌剌とした声。そう、鞠莉が目を覚ましたのだ。

 

「「変身!!」」

 

\ファング!ジョーカー!/

 

果南はファングメモリと転送されて来たジョーカーメモリをドライバーに挿し、水色の風を纏いながらWへと姿を変えた。

 

「鞠莉ちゃん!目が覚めたんだね!」

 

『Yes!もうピンピンしてるよ!』

 

「会場に行こうとしたから保健室のベッドに寝かせておいたんですが…起こしてしまったのですか?」

 

「ダイヤと曜がピンチだったからね。という事で鞠莉、ちょっと手伝ってよ」

 

『Of course!!』

 

\アームファング!/

 

鞠莉は果南より先にファングの角を1回押して腕に白い刃を出現させ、ウェザーを連続で切り裂いた。そこへ体勢を立て直したスカルとアクセルも加わり、それぞれの武器を使いながらウェザーを追い詰めていく。

 

「っ…どうしてあなた達は諦めないんですか!私に勝てない事なんてわかってるのに!!」

 

『確かにあなたは強いわ。でもそれは諦める理由にはならない。力を1つに合わせればMiracle successが起きると信じてるから困難にも立ち向かえるのよ!』

 

「そうだね!助けられないと思っていた凛ちゃんを助ける事ができたのは、復讐に呑まれかけた私を仲間が繋ぎ止めてくれたからだよ!」

 

アクセルはWと遠くから戦闘を見守るルビィを見ながらそう言う。鞠莉の言葉があったから、ルビィが自身と向き合ってくれた事で離れてしまった仲間と想いが繋がったから。だから今の自分がここにいるのだ。

 

「それが力の源になってると言うなら…全部私が壊してあげますよ!!」

 

ウェザーが力を込めて手を振ると巨大な竜巻が出現し、こちらへと向かって来る。昨日の戦闘でWとアクセルを吹き飛ばしたものよりも遥かに大きい。

 

『Big tornadoが来てるけど…私達の力をことりに見せつけてあげましょう!仮面ライダーの力と仲間の絆を!』

 

「やってやろうじゃん!曜とダイヤもマキシマムで行こう!」

 

「はい!」

 

「よし!復讐だけに囚われてた過去も、仲間を信じなかった私も…全部含めて振り切るよ!!」

 

\ファング!マキシマムドライブ!/

\スカル!マキシマムドライブ!/

\アクセル!マキシマムドライブ!/

 

『Timingを合わせてトリプルマキシマムよ!』

 

4人は横一列に並び、それぞれのマキシマムドライブを発動させる。そして足にありったけの力を込めそれを竜巻へとぶつけるのだった。

 

「「「「ライダートリプルマキシマム!!」」」

 

ファングストライザー、ライダーキック、アクセルグランツァーのトリプルマキシマムが命中した瞬間、巨大な竜巻は水色のものと紫色のもの、そして赤いものの3つに分裂しウェザーの方へと向かって行った。

 

「何これ…きゃぁぁぁぁっ!!」

 

3色の竜巻が完全に命中した瞬間、その場で巨大な爆煙が発生した。アクセルはそれが収まった後に変身を解き、ことりを確保しようとウェザーのいた場所へと走って行く。

 

「南ことりもウェザーメモリも見当たらない。逃げたのかも」

 

「なかなかしぶとい方ですわね…」

 

「ま、凛ちゃんを救えただけ良しとしよっか。今回は曜のお陰だよ、ありがと」

 

そう笑い合う3人の方を遠くから見ている者がいた。赤いロングコートに身を包んだ女性…それは曜に仮面ライダーの力を与えた人物・ディライトだった。

 

「いいわねぇ。強くなってきたのデース」

 

ディライトは外国人じみた言葉遣いでそう呟くと、音もなく何処かへと姿を消すのだった。

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ことりさん、どうしたの!?」

 

一方、綺羅家にあるあんじゅの部屋には服のあちこちが裂け手足に幾つも切り傷を作ったことりが戻って来ていた。トリプルマキシマムはウェザーの蜃気楼の能力で防いだ事でメモリブレイクは免れたものの衝撃波を完全に防ぐ事はできず、大きなダメージを負ってしまったのだ。

 

「危うくメモリブレイクされるところでした…仮面ライダーの強さは思った以上かもしれません」

 

「無事で良かったわ。私達が悲願を成すまでは絶対に負けないでね、ことりさん」

 

「はい。その為にも色々と準備はしているので」

 

ことりには仮面ライダーとツバサを倒す為の策がまだあるようだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

Report(報告書)

 

Rin was about to be arrested for possessing Gaia Memory, but she was able to participate in the marathon without incident thanks to the explanation that You was a successful victim. Moreover, the result is the 1st place! Her many years of hard work paid off and made me as happy as I was.

And one more good thing. You can now truly believe in you's friends. Kotori hasn't been arrested yet, but I want to believe that something has changed in her.

(凛はガイアメモリを所持していた罪で逮捕されそうになったが、曜が上手く被害者であると説明したお陰で彼女は何事もなくマラソン大会に出場する事ができた。しかも結果はなんと1位!彼女の長年の努力は報われ、私まで自分の事のように嬉しくなった。

そしていい事はもう1つ。曜が心から仲間を信じる事ができるようになったのだ。ことりはまだ逮捕されていないが、彼女の中で何かが変わったと私も信じたいと思う)

 

久々に報告書を書き終えた鞠莉は一息つき、パソコンを手に部室へ向かう。

しかし到着し中へ入った瞬間、何やらダイヤが般若のような顔をしている。その視線の先には頭にハテナマークを思い浮かべてるであろう果南が。説教中だろうか。

 

「な、何…?ダイヤ?」

 

「果南さん、先日あなたはこのダンボールの中にエロ本が入ってると仰ってましたよね?」

 

「言ったけど…」

 

「取り除こうと思って開けてみたらどこにもそんな物が入っていなかったんですよ!!あれは私を騙したのですか!?」

 

「騙してないから!ていうかあれ本気にしてたの!?冗談のつもりだったんだけど…」

 

鞠莉にはダイヤの顔がますます般若に近くなったように見えた。彼女は昔から冗談半分でもからかってしまうとこのような顔になる。流石お堅い系生徒会長と呼ぶべきか。

 

「怒っているのはそれだけではありません。中に入っていたのが全てお父様の物だった事です!イメージダウンに繋がるような言動をするとは何と無礼な!!あなたは本当にお父様を尊敬していたのですか!?」

 

「あ、剛の物が入ったダンボールだから怒ってたのね」

 

それを聞いた鞠莉は怒っても仕方ないと思った。それにしても沸点が低いような気はするが。

 

「師匠の物が入ってるなんて知らなかったんだよ!そんな怒る事ないじゃん!」

 

「うおぉ黙らっしゃぁい!!今日という今日は反省するまで許しませんからね!?」

 

「ヤバイヤバイ鬼が来た!!ルビィちゃん逃げて、鬼が来たよ!!」

 

「逃げるのですか!?なら地獄の果てまで追い回しますわよぉぉぉ!!」

 

果南は悲鳴を上げながら部室を飛び出し、ダイヤはドスドスと足音を立てながらその後を追って行った。これは面倒な事になりそうだ。鞠莉はトイレから戻って来たルビィと2人で取り残される。

 

「ダイヤは追いかけ回す足は速いからねぇ…できるだけ怒らせない方がいいよ?」

 

「しばらく『足が速い』って言葉は聞きたくないよぉ!!」

 

その日、果南とダイヤが校内を走り回った事によって探偵部全員が叱られたのは言うまでもない。




<次回予告>

???「夢に変な怪物が出てきて眠れないんですぅ!!」

曜「な、なんて悪夢だ…」

ルビィ「さぁ、あなたの罪を数えルビィ!」

鞠莉「Loveは言葉にしないと伝わらないのデース!!」

次回 Bで甘い恋/結末は悪夢かワンダーランドか

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