Side:E(エレアノーラ
窓から僅かな光が差し込む室内には香が焚かれているのか、薄靄がかかったように煙が漂っている。棚にはたくさんの本、そして一見よくわからない生き物の死骸、動くかわからないアンティークの数々が所狭しにおいてある。その部屋の一番奥にこの部屋の住人は居た。紫色のローブをまとい膝裏までの長い髪を器用に編み込んだ女性は、小鍋を火にかけ薬草を煮出している。部屋の雰囲気も相まっていかにも魔女と呼んでくれと言わんばかりだ。しばらく小鍋を凝視していた女性は深いため息を吐いて立ち上がった。長く同じ体勢だったせいもあり、身体の節々を気にしながら唯一の窓に向かう。窓からはこの国の王の居城である城が見える。今頃城では新たな王の継承式が行われているだろう。自身も城に向かうためあらかじめ用意してあった荷物を身にしまい、身の丈ほどある愛用の杖を携える。これが彼女の外出時の服装であり、正装である。少しだけ開けた窓からは、記念すべきこの日に色めき立ち、にぎやかな声が聞こえる。10年前に先王が亡くなり、今の今まで幼かった王女が家臣と何とかこの国を維持し続けたのだから民の支持率も高い。17歳になった王女の王維継承の儀。私もそこに行くだけの地位はあるものの、かたっ苦しい儀式は好きじゃない。先王の時だって渋ったぐらいだ。“王専属相談役”なんてわけのわからないような役職を貰ったもんだが如何せん縛られたくない主義なもんで、時には隣国へ、ある時は森の奥へ、またまたある時は……なんて感じで王を困らせていたのは記憶に新しい。今生の生活にもなれたもんだ。生まれてすぐは大変なんて言うもんじゃなかった。生まれながらに意識は在るしMPはあるし赤ん坊のころはよく泣いて母を困らせたもんだ。まぁ、今なんざとおに母の年も超えて死にかけのババアだが。この歳になってまで思い出すもんじゃないね。珍しく感傷に浸っていた彼女だが何かの反応に疑心を深めた。
「……悪い予感がするね。」
その予感は的中し、突如何かの鳴き声が響き、激しい爆発音、地響きが起きる。幸いにもこの家は魔術的な施しを幾つもしているので家がひっくり返るようなことがない限り無事なはずだが……。急いで家のドアを開け、外に出ると空には強烈な光源を持った塊が泳いでいた。形容するならば、まさに炎のヘビと呼べるだろう。その瞬間、見えるはずもない蛇の眼と目が合った気がした。まずい……。戦場に立ったこともある彼女の長年の感がそう囁いた。急いで開けっ放しの家のドアを掴み内側に入る。勘が正しかったのか、ドアを閉めた途端にドアとは反対側に吹き飛ばされる。幸いにドアをしめ切っていたため、魔術の効果もあり火が入ってくることはなかった。
「これはきな臭いねぇ。」
打ち付けた体を起こし一人呟いた彼女は、今まで使うことのなかった王城への抜け道を開けるのだった。
床の一部を開けて入った地下道はじめついているが幸いにも黴臭くない。片手に持ったランタンを掲げ急ぎ足で向かう。この道を進んで行けば継承の儀が行われている間に繋がるはずだ。それもさっきの爆発で崩れていなければだが。
Side:A
祭壇を前に灰が降る中、一人涙を流していた。それもそのはずである。彼女はこのミリニア国の王女だ。その王女の目の前で、家臣が、仲間が、大切な人が、炎に包まれて行くのを見ることしかできなかった。
祭壇の広間にて王維継承の儀が執り行われる。先王が亡くなり数年ようやく待ち望んだ、待ち望まれたこの時がやってきた。中央に敷かれた真っ赤なカーペットを流行る胸を押さえながら歩く。
「アイシャ様は本日をもって17歳となられた。これより、建国の祖ミリニア一世の定めに従い王維継承の儀を執り行う。」
「この日を迎えることが出来たのも皆のおかげ。嬉しく思います。ことに、摂政ブルネク。私が今日あるのは、あなたが私を我が子のように慈しみ育ててくれたおかげ……。どんなに感謝の言葉を重ねても足りません。」
黄色を基調とした装備(正装)を着た老年の男性が畏まり礼をする。
「勿体ないお言葉にございます、アイシャ様。このブルネクにとっても本日は人生最良の日。今はなき陛下からアイシャ様を託されてから、はや10年……。今日よりミリニアは、王女アイシャ様と共に新たな歴史を刻んで参るのです。
――皆の者よ!!アイシャ様を今まで以上にもりたて、歴史あるミリニアをさらに発展させていこうではないか!!」
問いかけるようなブルネクの演説に集まった神官や兵士たちが盛り上がり、国への忠誠を誓う。
「……嬉しく思います、ブルネク。そして皆、どうかアイシャに力を貸してください。ミリニアの未来をより良いものにする力を。皆の言葉、皆の暮らし、幸せあってこそのミリニア。女王として共に、歩んでまいりたいと思います。」
「それでは王位継承の証、ミリニアの腕輪を。」
「――はい。」
アイシャが腕輪を取ろうとしたとき、遠くから不思議な音が聞こえた。それは叫び声のような何かで、今日という日を祝う街中でhはありえない音だ。
「……何か聞こえませんでしたか?」
「聞える……と、申されますと?」
ブルネクとの問答もつかの間、城内に激しい爆発音と地響き、吹き込んできた風が燃える匂いを通路から運んでくる。
「皆の物よ!!式は中止だ!!文官は退避!武官は警戒態勢を取れ!」
「誰か!私の武具を!」
侍女が用意してあった装備を持ってくる。式典用のドレスであったため戦闘には不向きだ。しかし、この急な時に着替えている暇はない。ドレスをたくし上げ、邪魔な部分を引き裂いていく。急いでブルネクの後を追い、城下の見えるテラスに出るとそこは地獄だった。幼いころから親しんだ風景は真っ赤な炎に包まれ、そこら中から煙が上がり住民たちの悲鳴が聞こえるようだった。それもすべて宙を泳ぐように飛び回っている火の龍がしたのだろう。
「っなんてことを!!」
ぎろり、と龍の眼がこちらを向きせん滅をするかのように突っ込んでくる。
「アイシャ様!!」
ブルネクが前へ出るがどうにかなるものではない。龍はそのまま二人の突き飛ばすかのように城内に躍り出た。
「アイシャ様!ご無事ですか!?」
アイシャとブルネクは運よく、式典用に掛けてあった長い旗にぶつかり、それがクッションになってそんなにダメージを追うことなく落下することが出来た。しかしこの場にいた武官たちはどうだろうか。あたりを見渡せば半数の兵士たちは地に倒れ戦力に数えることが出来ない。
「――私は大丈夫です!しかし、この怪物はいったい何故に、どこから!?」
確かにこのような魔物が自然発生することは珍しい。いや、無いに等しい。近年の魔物の発生事例もここまで大きなものはなかったはずだ。そう考えるうちにアイシャの前を近衛兵が固めていく。
「アイシャ様はお守りします。」
「怪物の相手は私どもが!」
「皆、危険です!!下がって!!」
「アイシャ様こそお下がりください。」
「ブルネク……。」
「なに、このような怪物なぞ、我が剣の前には敵ではありませぬ!!近衛たちよ前へ!行くぞ!怪物め!!」
兵士たちをブルネクが先導し、炎のヘビに切りかかる。流石近衛兵で、この緊急の事態でありながら剣先はぶれることなく正確に切紡いでいく。これはいけるのでは、と思って瞬時に蛇が炎に包まれ、炎が消えたときにはそこに大切な人の姿はなかった。
アイシャ:CV明坂聡美さん
ブルネク:CV青野武さん がされています!(公式詳細)