酔酒の刃と空飛ぶギロチン   作:黄金収穫有限公司

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第13話:劇終 ~フェイフォンの修行~

 戦いは終わった。

 

 だが、炭治郎たちにすぐ任務が下される事は無く、フェイフォンの勧めでしばらく彼の道場に居候させてもらう事となった。善逸は「久々の休みだー」と無邪気に喜んでいたものだったが、すぐにそれを後悔することになる。

 

 

「ほれ、もっと早く動かんかい」

 

 道場には朝早くから、呑気にパイプをふかすフェイフォンの声があった。お気に入りの煙草を一服しながら椅子に腰かけ、そして伸ばされた足が乗せられているのは善逸の背中。

 

「もう指が折れそうだよ~……」

 

 フェイフォンの足を背中に乗せながら、上半身裸になった善逸は必死に腕立て伏せをしている。それも普通の腕立て伏せではない。フェイフォン曰く「指を鍛える修行」らしく、善逸はつま先と指先を細めの切株に乗せるようにして、全身を支えながら体を持ち上げては下げるという動きを繰り返している。

 

「無理、もう無理ぃぃいい~ッ!!」

 

「諦めるな。諦めたら腹に線香じゃぞ」

 

 しかもこの修行、腕立てをする善逸の腹の下には何本もの線香が突き立てられており、身体が沈むと下の熱い線香で火傷するという鬼畜仕様である。それが嫌なら、意地でも腕立てを続けるしかない。

 

 が、しかし。そんな事を言っても疲れるものは疲れるのである。ついに耐え切れなくなった善逸の体は沈み込み、燃え立つ線香が腹に食い込んでゆく。

 

 

「ああああああああああああああッッ!!」

 

 

 その瞬間、ほとんど反射のように善逸の体が浮いた。線香の熱さに耐え兼ねた脊髄反射であったが、とにもかくにも一応は腕立て伏せの動きを達成している。

 

「ふむ、まだ動けるようじゃな。あと50回じゃ」

 

「いやいやいやいやいやいや!!」

 

 哀れ善逸の懇願は聞き届けられることなく、修行は続けられていく……。

 

 

 **

 

 

「うおらぁあああッッ! せいッ! せいッ!」

 

 そのすぐ隣では、伊之助が背筋を鍛える修行をしていた。丸太で作った鉄棒のようなものに両足をかけ、さらに反対側にある同じ丸太で作った鉄棒のようなものに両腕をかけている。その状態で全身を弓のようにしならせるブリッジを行う。

 

「ふむ、では次のステップに進もうかの」

 

 善逸の修行を別の弟子に任せたフェイフォンが、伊之助をみておもむろに言う。何が始まるのかと伊之助が訝しむのも束の間、フェイフォンはいきなり仰向けになった伊之助の腹の上に座り出したのだ。

 

「じじい!てめぇ―――」

 

「これも修行じゃ。この状態で、さっきの背筋運動(ブリッジ)を続けよ」

 

 フェイフォンによれば、柔軟性も強さの秘訣らしい。それを鍛えるのにはもってこいの修行らしいのだが、とにかくキツイ。いかに老人といえども、人ひとり分の体重を背負ってブリッジを行うのは強靭な肉体を持つ伊之助をしても、容易な作業ではない。

 

「だぁあああッ! くそっ、やればいいんだろ! やってやんよぉッ!」

 

 半ばキレ気味に伊之助は背筋を必死に動かし、高速ブリッジを繰り返し行う。その様子にフェイフォンは満足したような表情を浮かべた。

 見るものが見れば弟子たちを愛しく思う師匠の麗しい師弟愛に見えるのかもしれないが、傍目にはあまりにもシュールな光景であったことは多くの証言者が物語っていた。

 

 

 **

 

 

 そして伊之助の横では、炭治郎が腹筋を鍛える修行をしていた。

 

「はっ! はッ!」

 

 こちらは大きな鉄棒のようなものに足を引っ掛け、さかさまになった状態で上半身を起こすようにして腹筋運動を行う。これはこれで中々に大変なのであるが、こちらにも当然のようにフェイフォン流の謎アレンジが加えられていた。

 

(さっきまでは手首に水が触れていたのに、もう指先まで減っている……!)

 

 炭次郎の両手には、小さなお猪口が握られていた。そのお猪口を使って、地面に置かれた壺の中にある水を掬い上げ、腹筋運動で状態を起こした際に鉄棒に括り付けられた木製バケツの中に水を移すのである。

 

「お前さんは筋がいいな。特に言う事もない。訓練を続けよ、継続は力なりじゃ」

 

「はいっ!」

 

 威勢よく答える炭治郎。正直、3人の中では一番教えやすいのが炭治郎だった。こちらの修行はフェイフォンもあまり煩く口出しするようなこともなく、だいたいの要領を伝えてからひたすら反復練習をするに任せている。

 

 もっともその間、ひっきりなしに指で砕いた胡桃を食べていたのを善逸と伊之助が目撃しているから、単に指導を横着しただけなのかもしれないが。

 

 

 **

 

 

 そして3人の鬼殺隊員が外で訓練を受けている頃、禰豆子はというと、こちらはこちらで謎修行の洗礼を受けていた。

 

 日の当たらない屋内にはいるものの、フェイフォンの弟子たちの協力もあって修行を続けている。

 

 フェイフォンの謎修行は、鬼だろうが女だろうが容赦はない。その修行は老若男女の例外なく、教えを受ける者をカンフーの達人へと鍛えあげていく。

 

 

「~~~~~っ!」

 

 

 禰豆子がしているのは、足腰を鍛える修行だ。馬歩の構えと呼ばれる伝統的なカンフーの修行で、粘り強い足腰を作るとされている。方法は早い話が、空気イスだ。

 

 だが、フェイフォンが編み出した馬歩の修行はそれをさらにグレードアップさせたもの。禰豆子は空気イスの状態をキープしつつ、両腕を前に突き出している。よくよく見ると禰豆子の頭と両肩、そして両膝の上には熱々のお湯が入った茶碗が乗せられているではないか。

 

「ん、――」

 

 この訓練、実際にやってみるとわかるがかなりキツイ。ついに耐え切れなくなった禰豆子がバランスを崩した瞬間―――。

 

 

「ん~~~~ッ!?」

 

 

 見事に茶碗の中身が零れ落ち、全身にこぼれた熱湯を浴びた禰豆子があまりの悶絶する。鬼殺隊特有の人権ガン無視の修行なので、もちろん軽く火傷するほどの熱さだ。いくら禰豆子が鬼の力による再生能力を持つとはいえ、年頃の少女にするような修行ではない。

 

 しかし勿論、そんなことで修行の手を抜くようなフェイフォンではない。その代わりといってはなんだが、新しい刺激を与えることで修行の辛さを和らげようとする。

 

「ふむ、ちと疲れているようじゃな。ほれ、儂秘蔵の酒でも飲むか? 人間の血とか肉より美味いと思うぞ」

 

 特に悪気もなく禰豆子に酒を勧めるフェイフォン。この時代であれば一応は合法なのであるが、禰豆子の口が酒瓶に触れる直前、どこからかそれを聞きつけた炭治郎がすっ飛んできたという……。

 

 

 **

 

 

 そんな感じでフェイフォンの謎修行は1週間ほど続いた。日中はひたすら修行に明け暮れ、昼と夕には豪勢な中華料理をたらふく食らい、夜には浴びるように酒を飲む。

 

 やがて修行が終わってフェイフォンたちと別れたあと、炭治郎たちは一様に同じ感想を抱いた。すなわち―――。

 

 

(((酒っていいな)))

 

 

 

 

 

 

 

 

  ―――劇終 THE END―――

 

 

   




 カンフー映画名物・謎修行シーンは外せないと思ってラストに無理やりぶっこみました。

 今回をもって、本作は完結です。最後まで読んでくださった読者の皆様に感謝いたします。

 粗の多いストーリーと文章でしたが、こうして最後まで走り切ることができたのは、ひとえに読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

 
 ※NGシーン集は検討中

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