酔酒の刃と空飛ぶギロチン   作:黄金収穫有限公司

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第2話:赤鼻老人

 

 

「お客様!困ります!あーっ!いけません!あー!お客様!あーっ!あー!」

 

 

 店員が半泣きの声で弱弱しく制止する音がむなしく響く。

 

 10分後、食堂の奥には小さな山が作られていた。

 

 小山の材料は昏倒したガラの悪い男たちだ。その周囲では台風でも通ったかのように荒れていて、椅子はひっくり返り、机は真っ二つに割れ、地面には食べかけの中華料理が無残に転がっている。

 

 

「お前らバカなのぉ!? 任務前にチンピラと殴り合いとか、どういう神経してんの! ねぇ!?」

 

 この凄惨な状況を引き起こしたのは主に2名の鬼殺隊員であり、残るもう一人の隊員から絶賛説教中である。

 

「こんな派手に店ぶっ壊して、弁償できると思ってるの!? 任務外だし、これ絶対に俺たちの給料から引かれるよ! どーしてくれんのさ!?」

 

 口から泡を飛ばし、ぜいぜいと荒い呼吸でまくしたてる善逸。

 

「知らない酔っ払いに売られた喧嘩を買って弁償とか馬鹿じゃなぁい!?」

 

 かれこれ10分以上もこんな調子であった。このまま放っておけば永遠に説教を続けそうな勢いである。

 流石にずっと黙ってるわけにもいかないと感じたのか、炭治郎が抗議を試みる。

 

「いや、でも先に手を出したのはあの男たちだし……あんな風に6人がかりで武器まで持ち出して、お爺さんを寄ってたかって脅すのは良くないと思うんだ」

 

「俺はなんとなく面白そうだから殴り合いに入ってみた」

 

 あはは、と照れくさそうに頭をかく炭治郎に対して、伊之助は腕組みしてドヤ顔である。そんな二人を見て、善逸は「はぁ~~~~」と大きくため息を吐いた。

 

「……お前ら、反省する気ないだろ」

 

「してる、よ?」

 

「してる」

 

「はいそこ、流れるように嘘つかない! 疑問形で言われても信じられると思う!? 無理だよね! はい、ウソ確定!」

 

 

 善逸が背後に他人の存在を感じ取ったのは、その時だった。

 

 ついに店員が弁償を取り立てにでも来たのだろうか。思わずびくっと振り返ると、そこにいたのはあの酔っ払い老人であった。

 

「うわ出た。元凶の酔っ払いのじーさん」

 

「元凶とは失礼な。それに儂は酔っ払いなんて名前じゃないわい。このクソガキが」

 

 いきなり初対面の相手をクソガキ呼ばわりするお前も大概失礼だけどな、と心の中でツッコミを入れる善逸。喉まで出かかった言葉を飲み込み、改めて目の前の老人を観察してみる。

 

 ―――はっきりいって、変な爺さんだ。

 

 見たところ服もボロボロ気を使ってる様子がないし、髪も雑に切っているせいかボサボサだ。手首にはいかにも酔っ払いですと言わんばかりの瓢箪が括り付けられているし、酔っているせいか赤らんだ鼻が良く目立つ。

 

「しっかし、兄ちゃんたちも強いのぉ。あのチンピラ共、地元じゃ有名なヤクザで腕っぷしも悪くは無いんじゃが、お前さんたちはそれ以上じゃ」

 

 かか、と酔っ払いが大きく笑う。手首に括り付けた瓢箪から豪快に酒を飲みつつ、話しかけている間にも地面で伸びているチンピラから賭け金を集めるのを忘れない。豪快なようで、どうにもケチくさい。

 

「いや、俺たちはその……」

 

 炭治郎が言いよどむ。鬼殺隊の隊員であることを隠している訳ではないが、あまり大っぴらにするものでもない。もっとも、これだけの大乱闘を起こした後では否が応でも目立つのであるが。

 

「お主ら、ひょっとして鬼殺隊か?」

 

「え、いや、まぁ、そうですけど……」

 

 

「奇遇じゃな、儂もじゃ」

 

 

 ブフウッッッ!!

 

 心を落ち着けるために茶を飲んでいた善逸が見事に噴いた。

 

 

「げほげほっ……ちょ、じーさん今なんて言った!?」

 

「奇遇じゃな、儂もじゃ」

 

「じーさん、鬼殺隊員だったの!?」

 

「なんじゃ、悪いか?」

 

「いや、悪いっていうか……」

 

 ちらり、と善逸は食堂の惨状を横目で見る。

 

 鬼殺隊員が食堂で賭博やってちゃ駄目だろ。しかもあの調子だとかなり日常的にやってるっぽいし。

 

 だが、それはさておき、目の前の老人が鬼殺隊であれば色々と説明はつく。

 

(道理で強気だったわけだよ。いざとなればそこら辺のチンピラ5、6人をぶん殴るぐらいわけないし)

 

 勿論それはそれで大問題な気はするが、それ以上は敢えて考えないようにした善逸であった。

 

「でもじーさん、隊服着てないじゃん。日輪刀もないし」

 

「あー、それな。儂の隊服と日輪刀は今、質屋に入れとるからな」

 

 おいこら。

 

「別に売った訳じゃないぞ。あくまで一時的に預けてるだけで、今日の勝負に勝てばすぐにでも取り戻せる」

 

 そう言って老人はチンピラたちから巻き上げた銭を袋に入れ、どうだと言わんばかりに見せつける。どうにもがめついジジイである。

 

 

「んで、そう言うお前さんたち何でこんなところで油売ってるんじゃ? 鬼殺隊のくせに」

 

 お前が言うな、というツッコミを呑み込み、善逸は任務で中国人商館を探している途中、道に迷ったことを説明する。

 

「なぁじーさん、ひょっとして中国人商館がどこにあるか知ってたりしない? それなら俺たちだいぶ楽になるんだけど」

 

「ああ、中国人商館か。それなら知ってるが、別に行く必要はないぞ」

 

「え? なんで?」

 

「だってあの任務、依頼出したの儂じゃからな」

  




 カンフー映画といえば食堂での乱闘、あと赤鼻の老師
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