酔酒の刃と空飛ぶギロチン   作:黄金収穫有限公司

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第5話:打倒「片腕会」

  

 神奈川県一帯を根城とする新興の地元ヤクザ・片腕会が根拠地にしている倉庫街は、夜でもにぎわう横浜港の埠頭近くにあった。

 

 黙々と走り続けたフェイフォンの後について辿り着いた先が、この倉庫街である。聞けば斧頭会の前身は、この周辺の港湾労働者たちからなる組合だったらしい。

 

「ま、倉庫というのは仮の姿でな。実態は密造酒の製造工場だ」

 

「じーさん、やけに詳しいな」

 

「儂もたまに飲むからの」

 

「………」

 

 何でこんな人を育手にしちゃったんだろう。フェイフォンを見る善逸たちの視線は、ジト目のそれであった。慢性的な人員不足を理解しつつも、もう少し鬼殺隊は人事制度を見直す必要があるのではないか。

 

 

「さて、そろそろ敵が来てもいい頃合いだとは思うんじゃが……」

 

 そう言って、倉庫街を見渡すフェイフォン。倉庫といっても、炭治郎の近くの村にあるような貧相な掘っ立て小屋ではない。高さは軽くお城にも匹敵する程で、日本ではまだ珍しいレンガ造りの城塞のような建物であった。それが幾つも連なっており、夜の闇に佇む様子は中々の威圧感がある。

 

(あ、これヤバいやつだ……)

 

 ぶるっと身震いする善逸。ここまで来れば、鬼特有の禍々しい気配が嫌でも伝わってくる。

 とはいえ、広い倉庫街ともなればピンポイントで居場所を探し出すのは困難だ。ひょっとしたら空間転移系の血鬼術を使える鬼がいる可能性もある。

 

「どうします? フェイフォンさん」

 

 炭治郎の問いに、フェイフォンの出した答えは完結だった。

 

「決まっている。男子たるもの、正々堂々と正面突破じゃ」

 

「ですよねー」

 

 見張り役のチンピラたちが気付いて近づいてくるよりも早く、驚異的な脚運びでウォン・フェイフォンは埠頭を進んでいく。そして炭治郎のように鼻が利くのか、善逸のように耳が利くのか、あるいはただの勘なのかは知らないが、彼特有の感性を生かして選んだひとつの倉庫に接近し、重厚な正面扉へと近づいていき、そして。

 

 

 ―――本日2度目の轟音が、夜の横浜港に響いた。

 

 

「……またか」

 

 これ、横浜中の寝てた人がびっくりして起きるんじゃなかろうか。そう善逸が心配するほどの爆音が、夜の静寂に包まれるべき埠頭で鳴り響く。その音はあたかも怒れる龍神が大地に落とす雷鳴の如く、善逸たちの鼓膜を揺るがした。

 

「もう問題はないな。行くぞ」

 

「……へい」

 

 深く追及する事なく、善逸は短く答えた。もう色々と突っ込むのも面倒になってきたからという気分的な理由と、文句をつける相手であるフェイフォンが既に倉庫内部に向かって走り出していたという物理的な理由の2つからなる。

 

 

 薄暗い倉庫内に踏み込んでやや進むと、突然、フェイフォンの足が止まった。

 

「あ、師匠だ」

「えっ、師匠!? どこ?」

「あ、いた。ししょーーー!」

 

 そこにいたのは、誘拐されたフェイフォンの弟子たちだった。

 

 意外なほどあっさりと見つかった弟子たちは縄で古典的に縛られてこそいるが、幸いにも大きな怪我などはないようで、誰かが鬼に食われたようにも見えない。

 弟子たちは現れた炭治郎ら5人を見て安堵の表情を浮かべており、むしろ簡単過ぎて炭治郎たちの方が面食らう程だった。

 

「おお、お前たち無事だったか!」

 

 喜びの表情を浮かべてフェイフォンが近づいていこうとすると、突然バタン!と大きな音が響く。

 

 

「そこまでだ、このクソ野郎どもがァ! 今日という今日こそ、てめぇら纏めてぶっ殺してやらぁッ!」

 

 

 4人が入ってきた部屋にある扉という扉が開き、下品な罵声が飛んでくるのを善逸たちはゲンナリとしながら聞いていた。同時に外からドタバタと大勢の足音が近づいてくる音も聞こえてくる。

 

(まっ、そんな気はしてたんだよねー)

 

 内心でひとりごちる善逸。周囲を見渡せば、こちらの10倍はあろうかという人数に包囲されている。しかも各々が手斧だけでなく、棍棒やら刀やらで武装しており、中には猟銃を持っている者もいた。

 

「完全に待ち伏せされたね、炭治郎」

 

「ああ。道理で抵抗が少なかったわけだ」

 

「んで、どうするよ? やるか?」

 

 伊之助がぎらり、と二振りの日輪刀を振り上げる。

 

「退屈してたところだ。この程度の雑魚なら丁度いい肩慣らしになる」

 

「雑魚だと!? 言ったなイノシシ頭!」

 

 伊之助のナチュラル煽りは雑魚……もとい、斧頭会のチンピラたちにも聞こえたらしく、いとも簡単にヒートアップしていた。

 

 

「思う存分やっちまえ、野郎ども!」

 

 ボスらしきチンピラが吠えると、一斉に斧頭会の雑魚たちが各々の武器を振り上げて突進してきた。

 

「しゃらくせぇ、かかってこいやァ!」

 

 伊之助が叫んだ。そのまま片腕会のチンピラ相手に日輪刀で斬りつける気満々の同期を見て、炭治郎と善逸はぎょっとする。

 

 ――鬼殺隊は本来、鬼から人を守るための組織である。いかにヤクザといえど、ただの人間相手にその超人的なパワーを振ってよいものなのか。

 

 

「ちょ、まずいって伊之助! 俺たちの敵は第一に鬼だ!人間じゃない!」

「そうだぞ落ち着け! 鬼ならともかく、人間を殺したらチンピラでも色々ヤバイって!」

 

「あン?」

 

 しかし同期2人の言葉は届かなかったようで、伊之助は二人を引きずったまま刀をぶんぶんと振り回す。

 溜まりかねた炭治郎はフェイフォンの方を見て、伊之助を制止するよう懇願した。

 

「フェイフォンさんもなんか言ってください!」

 

「うむ」

 

 フェイフォンはゆっくりと息を吸う。そして心を落ち着けるためか、手首にくくりつけた瓢箪からぐびっと一口の酒を飲んだ。それから、おもむろに口を開く。

 

 

「ええい面倒じゃ、全員まとめて儂が相手してやる! いっぺんにかかって来んかい!」

 

 

 まがりなりにも鬼殺隊の育手ともあろう老人が吐いた言葉は、どっちがヤクザだか分からないようなセリフであった。

    




 すでに気付いている方もいるかもしれませんが、片腕会のモデルは『カンフー・ハッスル』の斧頭会で、名前は『片腕ドラゴン』からです。片腕ドラゴンことジミー・ウォングさん演じる主人公とその弟子たちがどう見ても悪役なので……。
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