ニーベルンゲン・シックザール〜竜殺しの英雄譚〜   作:ソール

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現実を知っても英雄になりたい

 

 

 

 

 

それを塔を降りたばかりのレアが遠くから、ベルとエピメテウスの戦いを見ていた

 

 

「ベル・・・エピメテウス様・・・・」

 

 

彼らの戦いを見て、これが正しかったのか、今も彼女は迷う。こんなはずではなかった。しかし、ベル達がこう望んでしまった。こうなるのは流石の彼女も予想できなかった

 

彼女がここまで思う理由は、一つだけ

 

それは

 

 

「君は・・・こんなことを望んではいなかったようだね」

 

「っ!?何が言いたいのですか?アポロン様?」

 

「アポロン様か・・・君は本当にイリアと言う名前か?」

 

「そ、そうですけど・・・何か?」

 

「いや、何・・・君がどうしてでも『人間』らしくなくてね。君はあのベル君も救いたくて、更にはエピメテウスも救いたかったのだろう?」

 

「っ!?」

 

「まあ、これ以上は私が言う必要はないな。私の眷属でもないわけだしな。私はヒュアキントスの元へ行く。君は?」

 

「・・・・・・ここで見ています」

 

「そうだろうな。君はそこに居ると言い、そうでなければ『立場』がないだろう?」

 

「・・・・・・・」

 

 

遠く見ていたイリアの後ろから、アポロンが彼女の行動を見て、こんなはずではなかったはずだと、ここまで戦いになるなんて思ってもいなかったのだろう

 

しかし、アポロンはなぜか気づいていた。

 

しかも彼女の『正体』にも、ましてや神だ。アポロンはおそらくイリアの正体を知った。そしてこの計画の発端が彼女であると、それを知りながらも、それ以上は言わなかった。アポロンは自分の眷属でもないことを、これ以上を言う必要はないと、何も言わずに自分の眷属の元へ

 

 

「正しいこと・・・・なんて・・・・案外見つからないのね」

 

 

それが欲しかった。正しいことを見つけようと教えたかっただけ、彼に

 

しかし、それは無理だ。俺たち人間はそれができない。憎悪の全てを知った人間は特に、それが俺たち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間である

 

 

「「うおおおおおおおおおお!!!」」

 

 

分かり合えない。正しいことなんてない。英雄であろうと。所詮は人間だった

 

何かのためには争って、憎んでは争っての繰り返し、これが人間の過ちと言う名の歴史。その中で諦めない。ことを信じられるか

 

つまりは

 

自分次第

 

 

「ここまで言われて尚、ここまで足掻いてまで、戦い続ける意味を示そうとするか・・・・小僧!!」

 

 

「ええ、そうですよ・・・諦めきれないですから、貴方を止めるまで!!」

 

 

「・・・・・その顔、あの男もそうだ。本当に『余計な』ことをしてくれる!」

 

 

「余計なこと?なんの話ですか?」

 

 

突然、エピメテウスが余計なことをしてくれたと発言する

 

しかし、それはなんの話だかわからない。この計画を邪魔をしているからなのか、しかしそれについては、あの男・・・つまりは俺ジーク・フリードも含まれている。どういう意味でそれを言うのか

 

戦いの場であると言うのに、その意味を聞く

 

それは

 

 

 

「俺は・・・・黒竜ファフニールを倒して、世界を見下すつもりだった!!」

 

 

「っ!?黒竜ファフニールを倒す・・・どうして!?」

 

 

エピメテウスが黒竜を倒した後で世界を見下すと発言した

 

なぜこんなことをする男が、黒竜を討伐すると、明らかにこの先の計画であろう発言で間違いない。しかし、黒竜を救って世界を見下すと言うのはどういうことなのか説明を聞く

 

 

「なぜジークさんが倒した世界三大クエストの最後のモンスターを倒して、世界を見下せると言ったんですか?」

 

 

「決まっている!神時代に最強となったゼウスとヘラが果たせなかった偉業は俺が果たし、世界を見下して世界の歴史を塗り替えようとしたのだ!そうすれば俺の暗黒歴史が消えるはずだった!それをジーク・フリードに邪魔をされた!あの男も!所詮はニーベルング族!あの英雄一族め!リーブも!俺の邪魔を何千年もしてくる!あの一族は本当に目障りだ!!!」

 

 

「ジークさんの一族が、ニーベルング族・・・それって・・・確かお爺ちゃんが言っていた・・・」

 

 

エピメテウスは、ベルの知らない用語を何度も言って、恨みを露わにする

 

どうやら俺の先祖に、世界に何度も何かよからぬことをした場合、俺の先祖達がエピメテウスの邪魔をしたようだ。おそらく何か恨みが出た分だけ、世界を壊すようなことを何度もしていたに違いない。しかし、それが俺の先祖に何度も邪魔をされて、いつまでも目的は果たされずのままだったようだ

 

そして黒竜を倒して、世界を見下すこと、それは歴史の塗り替え。あれからもう何千年経ったと言うのに、今塗り替えたところで何も変わらないと言うのに、それでも、彼においては受け入れ難い憎しみだった

 

それを忘れることなど、何千年経っても

 

消えない

 

 

「お前も目障りだ!!英雄になりたい願望者と言う偽善者が!!何をわかった上で英雄になりたいと願う!?お前はわかっていない!俺の痛みを!人がどれだけ時間を費やしてまで救いをしたと思っていると言うのに、使えなくなったら即切り捨てられる。お前の仲間であるジーク・フリードもそうだろう!なぜあの男は英雄で居られる!俺のように人に裏切られていないからか!!」

 

 

「っ!?それは・・・・・」

 

 

「その動揺だと多少はあるようだな、これだから英雄はくだらないのだ!英雄は所詮世界を救うための道具に過ぎない。それができなくなったら愚者と扱われる。お前にそんなことが本当にできるのか!それができぬと言うのなら・・・・・英雄になりたいなどとほざくな!!!」

 

 

「な!?く!・・・ぐわああああああ!!!」

 

 

エピメテウスの怒りの炎に、ベルはまたも直撃を受け、後ろへと吹き飛ばされ、後方にあった神殿の壁に直撃し、その壁の残骸と落ちると共に倒れる

 

英雄とは無駄な存在なのか、そもそも英雄と言う存在を求めるのは不幸に繋がるのか、英雄とはこんなにも不幸な存在なのか、その偉大になっていないベルにはわからないこと

 

しかし

 

それは、『俺』を見て大分知っていたことだった

 

 

「小僧。瓦礫に埋もれた今の状態でも言えるか?それでも英雄になりたいと?」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「人に見捨てられるかもしれない覚悟でも、英雄になろうと本気で望むか?」

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

「お前の仲間であるジーク・フリードはどうだ!本当に人に裏切られることなく、他の者たちに讃えられたまま英雄を続けているか?」

 

 

「・・・・・いいえ・・・人に裏切られました」

 

 

「そうだろう!!やはり世界にとって英雄は使い物でしかないのだ!!どれだけ救いを繰り返しても!自分のものは救われない!そんな自己満足にもならない者に、本気でなりたいと思うか!赤の他人のために命を張れるか?」

 

 

「・・・・・・・・っ」

 

 

英雄と言う現実を、古代英雄エピメテウスから思い知らされる。彼の経験上の話でもあるが、実際にもベルは見ているため、その通りだったと思い知っている

 

そう、ベルは見てきた。一ヶ月前、俺が黒竜ファーブニルになった姿の俺の軽蔑を

 

全くもって酷い扱いを受けると言うのは、英雄が生きていくにしては地獄だった。ベルも本当は思い知らされている。英雄になった後の残酷さを見に染みている。俺の一ヶ月前の戦いを経験したベルなら

 

そんなことを考えていると

 

 

変な光景が見える

 

 

「っ!?・・・これは!?」

 

 

突然、エピメテウスの炎の攻撃を受けた胸の場所から、突然黒い炎が溢れ出す。そこから

 

 

彼の見ていた過去の光景を見る

 

 

 

『すまない!私のせいでお前の犠牲を重ねてくれたにも関わらず何もできなかった。すまないリンデェウス!』

 

『なぜだ!?なぜ彼らの墓を建ててはくれない!?彼らはお前達のために必死に戦ったんだぞ!なのになぜ墓を建ててくれない!?愚弄するのは俺だけでいいだろう!必死に戦った者たちに尊厳すらもないと言うのか!?なぜだああああああああ!!!』

 

『それが・・・お前達の仕打ちなのか!?それがお前達世界の答えか!許さん!絶対に許さん!それがお前達の仕打ちなら!なら復讐だ!!英雄だとかもどうでもいい!ここから先は復讐だ!!絶対にお前達を恨み尽くしてやる!!!ここまで貶められた報いは払って貰うぞ!!』

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

その胸に秘められた黒い炎が見せた光景、ベルの目だけに見せられた

 

 

それは、エピメテウスの三千年前の記憶だった

 

 

その光景を見た感想をあげるなら、『地獄』と言うものだった。嫌悪、軽蔑、否定、そんなものばかりが最終的に続いた。良かったのは最初なだけ、最後は何一つ原初の炎を齎しても、暗黒なモンスターを倒すことができず、それができなかった瞬間、英雄としての働きができなくなった瞬間

 

誰も彼の存在を否定する

 

英雄をできぬ者には、愚者として扱われる

 

英雄は偉大な者。しかし、それが達成できなければただの愚者でしかない。これが英雄の現実。その偉大な偉業を成し遂げることのできない者には、英雄になる資格はない

 

 

ベルも、その地獄を見てきた。しかもここ最近に

 

 

それは英雄ヘラクレスが、人間ではなく『黒竜ファーブニル』であったこと

 

 

奴を倒すのに、奴の心臓をその身で喰らい尽くすしか奴を倒せない。もちろんその心臓を喰らいついた人間は奴と同じ姿になる。一度俺はそのようなことをオラリオの街中でしたことで、俺が人間ではないことをわかった瞬間、街に住む人間は俺の人権も考えずに化け物呼ばわりと否定された

 

いつの日も、いつまで経っても人間の本質は変わらない

 

何か成し遂げられなかったら信頼を折り、事情も聞かず、人の存在を完璧に否定する。もちろんそれをしたら争う。いつものことだ

 

ある意味俺たち下界の生き物もモンスターだ

 

何が正しかったのか、ベルはこれを見たら余計わからなくなるだろう。正しさを目指すのが英雄だ。しかし、これだけ罵倒するような言葉を聞いて、英雄と言うのが本当に正しい存在なのかと

 

 

今になって、ベルは英雄になる意味を見失う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

ボオ!!!

 

 

「っ!?・・・これは?」

 

 

突然、ベルの胸から黒い炎ではなく、『白い炎』が燃え出す。そこからまたもベルの眼から『新しい記憶』を見る

 

それは

 

 

『ねえジーク?ここまでされてなんでまだ英雄として戦おうするの?』

 

『なに、求められたから戦うだけのことだ。それが英雄としてとは思っていないが・・・少なくとも仲間がそうさせたから、そうして戦うだけだ』

 

 

「これって・・・・・」

 

 

それは『俺とシル』の記憶だった

 

しかもどこか古い教会で話す光景、間違いなく、これはあのウィーネ達をダンジョンに戻す作戦を行う準備前の光景だ

 

なぜこのタイミングでそんな光景を見せられるかは知らないが、今になってベル達の知らない。俺とシルの会話が彼だけに公開された

 

 

『英雄とは勝手に誰かが付ける肩書きに過ぎない。そんなことはもうわかっている。俺だってあいつらのために戦っているわけじゃない。いつ裏切られるかもわからない連中まで俺は守る気はない。俺が守るのは関係を持った人間だけだ』

 

『ジークはベルさん達のために英雄になったんだね』

 

『ああ、俺にとって英雄はそれだけのためにあればいい。俺を英雄として求めてくれる仲間のために戦えばいい。英雄である形は人それぞれだ。俺は君を守るために化け物であろうと、この力で君やベル達を守り続ける。これが俺の英雄の定義だ。何かのためになるならそれは英雄の資格になるはずだ。俺は望んでいないがな』

 

『ジークは、仲間のために英雄になったんだね』

 

『全てを守るのはできない。人間は弱い生き物だ。だけど、仲間のためにはできる。俺は仲間が英雄として求めたから英雄としての働きをする。それでいいはずだ。人の罵倒も全部受け入れる。憎しみも苦しみも全てを超えてこそ英雄だ。それを・・・・ベルにわかってほしい』

 

 

「っ!・・・・」

 

 

『あいつなら本物の英雄になれる。少し人に対して甘い所が大きいが、それでもそこがあいつを英雄にさせる。優しい英雄になれるだろう。あいつは俺の痛みも受け入れてくれる。あいつには俺の英雄の姿を見てどう思うか、いい試練になる。より英雄になるにはいい教訓になる。どんな苦しみを持つ人間をも受け止めてくれる英雄になって貰いたい。それが俺がベルを英雄として教えることだ』

 

 

「どんな苦しみを受け止める・・英雄に・・」

 

 

俺がベルに託したい想いが、話されていない話を聞いて、ベルは今になって託されていた思いがあったのだと、俺からそんな大事なことを教わった。今になって

 

それを聞いた。ベルは

 

 

「ぐ!・・・・・ぬ・・・く!!」

 

 

「っ!?なぜ立ち上がる?これだけ言ってまだわからないのか?」

 

 

「わかりますよ・・・でも・・・だから英雄になるのを諦めろって言うんですか?」

 

 

「なに?」

 

 

「僕はそれでも英雄になりたい。英雄になって信頼の天秤に置かれるのもどれほどかわかりました。貴方がどうして世界に復讐するのも」

 

 

「っ!小僧・・・・炎を通して何を見た?」

 

 

「貴方の過去の全てです。貴方が歴史を塗り替えようとしているのは、過去に貴方と共に戦った人達の、墓に名前を刻むことができなかった人達を、今に伝えることですよね?」

 

 

「小僧・・・俺の過去を知ったと言うのか、これだからこの炎は厄介でもある。だが、それでもまだ諦めぬというのか!!俺の過去を見ておいて!」

 

 

「・・・ジークさんに託されていますから!」

 

 

「なに?ジーク・フリードにだと?」

 

 

「ジークさんは本当に僕を英雄にしてくれようとしているんです。あの人は先に貴方と同じ偉大さを手にした。その全てを僕に教えてくれる。その偉大な英雄になるために、僕はもっと強くなって英雄になりたい!!あの人が僕に託しているから僕は絶対に何度でも立ち上がる!」

 

 

「なんのためにだ?」

 

 

「決まっています!苦しんでいる人達を助けるために英雄になりたい!!貴方の苦しみも僕が受け止める!絶対に貴方を止め切るまで諦めない!!」

 

 

「あのジーク・フリードも、所詮はニーベルング族・・・いろんな英雄を導きもする・・・おのれ!!!こんな小僧にも英雄の道を教えるか!!こうまで言われて、現実を知った上でまた戦うと言うのか!小僧!!!」

 

 

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

再度ベルは立ち上がってエピメテウスに勝負を挑む

 

何度だって立ち上がる。これで終わりになんてならない。現実を知っても、英雄が最悪な終わりを迎えるだけにしても、それでも英雄になりたい

 

その望みを叶えたいために、諦めることはできない

 

俺に想いを託され、そしてその夢に近づくために試練を何度も潜り抜けた。そして今も、その試練を今もしている

 

これも英雄になるための試練

 

 

古代英雄の苦しみを断ち切るための、英雄に辿り着くための試練

 

 

その試練を乗り越えるために、ベルは諦めずにエピメテウスを止めるために、神器魔剣を振りかざす

 

苦しみを受け止めるのも英雄、人間の悪意を越えるのも英雄の試練

 

これを超えるために。ベルは古代英雄を相手に立ち向かう

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