ニーベルンゲン・シックザール〜竜殺しの英雄譚〜   作:ソール

121 / 201
娘を狙う不届き者

 

食材の買い出しから帰って、酒場ではヘスティアやベルも働きながら、聖夜祭イブのパーティーの準備を始める

 

明日は聖夜祭で夜だけは俺たちヘスティア・ファミリアが使わせてくれるから良いのだが、つまりは明日の夜は営業をしない。その分を今日で補うと店長であるミアが決めた。そのためヘスティアとベルだけでなく、今度はウンディーネとノームも呼んだ。今ホームではグラニとグリフォンとサラマンダーに任せている。ウンディーネとノームを呼ばないとならない程、大忙しさに追われていた

 

 

「悪いなウンディーネ、ノーム。手伝わせてしまって・・・」

 

『いいえ、私もこれくらいはできますので』

 

『遠慮なく、私たちをお使いくださいませ』

 

「助かる。ちなみに『奴の気配』は二人はするか?」

 

『いいえ、そんな魔力の気配はしません』

 

『本当に出てくるのですか?あのノエルもまだ、『力』を発揮していないのですが』

 

「いずれ、力を発揮する時は来る。その時が来たら・・・・ロクでもないことが起きるだろうな」

 

 

ウンディーネとノームにも店を手伝わしているが、それだけでなく二人もノエルが心配でこの酒場にやってきた。二人は見ただけで正体も知っているため、ノエルがこれからどうなるかも存じている。だからこそなのか、その結末を本当に向かってしまうのかと、二人は知ってはいるが、見たことはないため、四大精霊の二人でさえ彼女の存在を初めて見たもので、若干気になりもある

 

でも、もしそうなら

 

悲しいだろうと、二人も彼女に共通点があるから、心配でホームで留守番はできなかった

 

 

「ジーク君、ノエル君といつまでも居られないってわかった上で、こんなことをしているの?」

 

「まあな、しかし楽しい思い出を作ってあげなくては、あの子はいつまで経っても、自分を信じなくなる。人間も同じだ。いつまでも続く命はない。それは君たち神だけだ。俺は僅かな短い者でも楽しい思い出を残してやりたい。それが俺がせめてものの、あの子の父親であることのしてあげられることだ」

 

「あの店員君は、受け入れているのかな?」

 

「君がそんなことを言うのか?彼女のことを知っている癖に」

 

「うん、それはそうだけど・・・・・」

 

「彼女には俺がもう話している。彼女もあの存在は初めて見るようだけどな、それでも嘘ではない程、あの子を愛している。だから彼女もわかっているからせめてものの事がしたい。親になればわかる話さ」

 

 

このままだとノエルのためにはらない。できるのは楽しい思い出を残してあげること

 

結末はもう知っている。これは何があっても覆ることはできない、悲しい結末を得る事になることは、ヘスティアとウンディーネとノームも知っている。俺もシルも、しかしだ。それでもその子のためにできることをしてあげる。そうでなければノエルが苦しむ事になる。

 

もちろんこんな思い出はもう二度と彼女に残ることはないにしても

 

だが、俺は少なくとも親になってしまった。父を知らない俺が何ができるかは知らないが、それでも・・・・・・・

 

 

「アーニャ!これ上手く切れたよ!」

 

「流石にゃ!じゃがいも切り上手にゃ!」

 

「じゃがいも皮切り。本当にうまいにゃ。初めてやるのに」

 

「誰かと大違いね」

 

「ルノア。それは私のことを言っているのですか?」

 

「別に・・・・・あんたのことを言っているわけじゃないわよ?」

 

「なんですか?その間は?」

 

「わかりましたから、リューさんはこっちで食器を揃えましょう!」

 

「ほら!早くしな!もうそろそろ客が来る頃だよ!」

 

「「「「「は、はい!」」」」」

 

「ミア!私上手くできた?」

 

「ああ、よくできたねノエル。初めてにして上出来だ!」

 

「よかったね?ノエル?」

 

「うん!ママ!」

 

「すっかり馴染んでいるだね」

 

「楽しく過ごしているようで何よりだ」

 

 

「パパ!私!すっごく楽しい!」

 

「そうか、お前のためになったのなら」

 

「アーニャが居て!クロエが居て!ルノアが居て!ミアが居て!ベルが居て!ヘスティアが居て!私・・・・・幸せだよ!ママ!パパ!」

 

「ノエルが幸せなら!」

 

「俺たちも嬉しい限りだ・・・・」

 

 

今が楽しいのならそれで構わない

 

俺は彼女の存在を知っているから、結末がわかっていても、今幸せであるなら充分なはずだ。楽しいことは思い出にするべきであり、それが財産となる。ノエルに残ることはないけど、それでも俺はシルは・・・・それを幸せであるはずだと思っている

 

 

 

 

それが長く続かないと知っていても

 

 

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアア・・』

 

 

 

「っ!?」

 

「っ!今の声・・・・やはりか」

 

「ジーク?どうしたの?」

 

「遠くで『奴』の声が聞こえた」

 

「誰?私には聞こえないけど?」

 

「ジーク君?誰が呼んだの?」

 

「シルにもヘスティアにも聞こえないのか、ウンディーネ!ノーム!聞こえたか?」

 

『はい!聞こえました!』

 

『声の方向からして・・・・・ダンジョンの・・・・・16・・・いいえ・・・17階層辺りかと』

 

「やはり、精霊にしか聞こえないか」

 

 

突然耳から、誰かの唸り声が聞こえた。その声は俺とノエル、もしくはウンディーネとノームにしか聞こえなかった。シルや神であるヘスティアにも聞こえなかった

 

彼女の存在が居るとわかった時、もしかしたら奴も近くに居るのではないのかと俺は勘づいた。ノエルと言う『珍しい存在』は奴に目を付かれやすい、しかもここまで『共鳴』するとは、本当にノエルと言う存在は、オラリオだけにしか居ないにしても、やはりアレと共鳴してしまうのでは、いつまでもノエルが普通にこの先も生きていけないと思った

 

そして、もし奴の声が聞こえたら、次にノエルが取る行動は

 

 

「呼んでいる・・・・誰?」

 

「ノエル?」

 

「こっち?・・・・ううん・・・こっち!」

 

「ノエル!?どこ行くの!?」

 

「やはり『吸い寄せられる』か、シル!追いかけるぞ!ノエルはダンジョンに行く気だ」

 

「え!?なんで!?」

 

「ノエルと同じ存在が居るからだ」

 

「同じ存在・・・って・・まさか!?」

 

「ああ、とにかく、行くぞ!ノエルが見失う前に!」

 

「うん!」

 

 

ノエルはその声に導かれて呼ばれたのか、勝手に酒場を出ていく。向かう先はダンジョン。

 

ダンジョンで誰にか呼ばれたのか、特定の者にしか聞こえない声に、ノエルはその声に向かっていく。無論一人で行かせるわけにわけにもいかないため、俺とシルが後を追いかける

 

 

「ちょ!?ジーク君!?店員君!今からダンジョンに行く気!?」

 

「ジークさん!?シル!?二人でノエルを追うつもりですか!?」

 

「パンドラボックスはある!いつでも戦闘可能だ!」

 

「ノエルを放っておくにはいかないの!あとはお願い!ミア母さん!少しお店出るね!」

 

「ジークさん!シルさん!」

 

「まったく・・・・聖夜祭のイブだと言うのに・・・・」

 

 

突然俺とシルが急にノエルを追うと言って、酒場の働きをサボって急にダンジョンに行くことに、ベルやヘスティア達も驚く

 

まあ、仕方ないのだが、事情も知らない者からすれば、俺とシルのいきなりの行動に驚いて当然である

 

だから

 

 

「いきなりどうしたんでしょうか、ジークさんとシルさんも」

 

「ノエルも変でした。一体何を言って今からダンジョンに・・・」

 

「そこの神様、そこの精霊二人も、このガキ共に説明した方がいいんじゃないかい?」

 

「店長君は知っているんだ・・・・うん、そうだね。ウンディーネ君、ノーム君」

 

『これはベルさん達にも・・・』

 

『ノエルさんのことを話すべきかと・・・』

 

「ノエルのこと?」

 

『『実は・・・・・』』

 

「ノエル君はね・・・」

 

 

ミアが話すべきだと、ノエルを知っているヘスティアとウンディーネとノームが話す

 

いきなり不可解な行動を取ったノエルも、それに理解している俺やシルも、なぜこんなことをするのか、知っている三人がノエルの真実を話す

 

無論結末も含めて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノエル・・・ノエル!!」

 

「あ・・・・・あれ?パパ?」

 

「やはり無意識だったか・・」

 

「完全に呼ばれて夢中になっていたのかな?」

 

「ああ、そうでなきゃベル達に呼ばれても返事もしないで突っ走るくらいだ。俺が今掴んで気づいたんだ。完全に共鳴したに違いない」

 

「ノエルが目的なんだね、だからこの15階層に来ているのに、一匹もモンスターが出てこないんだ。私は初めてここに来たからわかんないけど、普通ならもうモンスターが出てくる場所だよね?」

 

「ああ、ヘルハウンドでも出てきていいのだが、本当に一匹も出てこない。完全に誘い込まれている。しかも声と言うより、『歌声』に聞こえた。奴の歌声でノエルが安全に来れるようにモンスターを引き寄せない『魔除けの歌』を使ったに違いない。だとしたら、奴は相当だぞ・・・・・・」

 

 

ノエルを追って、ダンジョンまで潜っていた

 

しかも階層は15階層

 

その階層まで来ていた。しかもシルを連れて一時間程度でここまで来れた。普通は半日はかかるかもしれない。それも戦うことのできない連れが居るなら、しかし、この階層に来てもモンスターが出てくる気配は一切無い程、ノエルが簡単に突っ走れる道となっていた

 

完全にこの先に待つ『奴』に道を造られて誘い込まれている。

 

 

しかも

 

 

『♪〜〜〜〜〜〜♫』

 

 

「あ!また聞こえる!」

 

「まったく、ノエルを誘い込むために歌を続けるか・・・」

 

「あ!今度は私にも聞こえる!」

 

「今度はシルでも聞こえるか、人間の耳には聞こえる程、声に出しているんだろうな」

 

「ノエルって、そんなに凄いの?」

 

「まあ・・・・回数は一回のみだが、力としては物凄い。下手をするとウンディーネとノームと同格だ」

 

 

ダンジョンの奥底で、何者かの声が聞こえた。しかも今度はシルにも聞こえる

 

その歌を流している者が何者なのかは俺は知っている。しかしまさか、こんな上層の階層で奴が居るなんて、やはりあの男が関係しているに違いないと、こんな聖夜祭の前日だと言うのに余計なことをすると、少し奴らに呆れを少し覚える

 

 

だが、ここで放っておくこともできない。あの歌を流されてはノエルの正気も失う。ここまで来たからには選択肢は一つのみだった

 

 

「シル。このまま先へ進もう。ここで止まっても意味はない。それにこの先に居る奴を見逃すことなんてできない。ノエルの身にも危ないだろうしな」

 

「ここまで来たわけだしね、うん、ノエル。誰かに呼ばれているわけだし、この先に行きましょう」

 

「うん!」

 

 

ここまで来て引き下がることはできない

 

耳に鳴り響くこの歌声を放つ奴をなんとかしないとならない。でないと、またノエルが正気ではなくなる。ここは進む他道はない

 

残念ながら俺たちはここまで来たからには進んで、何がノエルを呼ぶのか確かめる他なかった

 

 

歌声はまだ地下にも続き、奥まで進んだ。奥を進んでもモンスターは一匹も出てこない。微かに聞こえる歌声だけがどんどん大きく聞こえてくる。

 

そして17階層

 

ここで歌声が大きく響いていた。間違いなくこの階層で『奴』が居るのだろう。その歌声は

 

17階層の奥のルームの壁から響いていた

 

 

「この壁から聞こえる」

 

「ああ、この奥から気配も感じる」

 

「この壁・・・なんか薄そうだね・・・」

 

「ああ、未開拓領域だな。こんなところにもあったなんてな、でなければここから歌など聞こえるはずもないか。簡単に壊せそうだ。壁を壊す、二人とも下がれ」

 

 

17階層の奥のルームの壁だけやたらと薄かった。岩の壁にして何やら崩れそうな壁面だった。前にも温泉のある未開拓領域を隠した壁と似ている。ここにもそんなものがあったとは知らなかった

 

とにかく簡単に壊せそうなため、俺はグラムを取り出して壁を破壊する

 

 

 

ドカン!!!

 

 

壁をグラムの斬撃で壊す。そして中に入ると、そこは

 

 

「なんだここは・・・・・」

 

「こんなところがあるの?」

 

「いや、俺も知らない。しかし・・・・」

 

「綺麗・・・・・」

 

 

中に入ると、見たことのない光景を目にしていた。それは

 

 

 

 

 

 

 

雪が降る、白い草原だった

 

 

 

 

 

草木は白く、埋まる程ではないが、地面に少しだけ雪が積もっていた。なんとか歩けた。だが、驚くのはそこじゃない。まだここは17階層だ。雪が出るのは氷河のある60階層からのはず、なのにここだけ雪が降るなど、俺でも見たことがない。寒さは普通だな。温度としては十度な程そこまで寒くはないくらいだ

 

これもダンジョンの新たな未知なのだと、そう理解する他なかった。無音で木や草まで白いのは、見たことがない。天上は上が広いのか見えない。こんな真っ白な世界、俺でも見たことがない。これはこれで美しいと俺でも思えてしまった

 

 

「こんな何もかもが白い世界は初めて見るな。こんなところがこんな上層にあるなんて、知らなかった」

 

「ダンジョンとは思えないね」

 

「みんな!白い白いよ!パパ!ママ!」

 

「そうね。みんな白いね。草や木までなんでここまで白いんだろうね?」

 

「俺もわからない。普通は枯れるのが普通だ。なのに葉まで白いのは初めて見る」

 

「しかもとても静かだね。でも・・・・・」

 

「ああ・・・・・・これが無かったら良かったんだがな」

 

「パパ!これなに!?これから歌が!」

 

「これは・・・・・・怪物だ。特定の者にしか聞こえない歌を歌う怪物だ」

 

 

奥まで進むと、とんでもないものを見つける

 

こんな静かで何もかもが白い世界だ、しかも幸いにもモンスターも居ない。こんな場所があるならしばらくはゆっくりしたいと思った

 

しかし

 

そうもいかない。確かに静かにか静かだが、さっきからくだらん歌声をしてくる奴がいる。ノエルが出てくるとなると、絶対に出てくると思った

 

まったくもって、こんな奴が上層に居るとはな

 

目の前に氷で全体が凍った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな白い花びらの中に、人のような形をした怪物、デミ・スピリットが居た。深層種の『タイタン・アルム』である

 

 

 

 

 

 

 

ノエルが現れたと分かった瞬間、俺は絶対にこいつが居ると分かっていた。理由があるとしたらノエルが特別な力を持っているがために、それを欲しがるのがデミ・スピリットだからだ。奴が居るのではないかと思ったが、やはり居たか。しかも花型のデミ・スピリットか、こんな奴がこんな上層に居たなんて、俺も気配でも察知できなかった。その理由はまだこいつが目覚めていないからだな

 

 

「ジーク?これがそうなの?」

 

「ああ、デミピリット。簡単に言うなら、怪物になった精霊だ」

 

「せいれい?」

 

「人の前に現れない珍しい生き物だ。だけど、こいつは俺たちにおいても、お前においても危険な生き物だ。ノエル」

 

「どうして?」

 

「お前を狙う生き物だ。これを好奇心で近づいていい生き物じゃない。とにかく危ない生き物だと思ってくれ」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「ノエルの力が目的?」

 

「おそらくな、まさかここに一体居たとはな」

 

「こういうのってどこにでも居るの?」

 

「そんなことはない。推測になるが、偶然この場所に生まれたのかもしれない。しかしその時にここの温度で凍ったのではないのだろうか、入口よりも奥であるここの方が一番寒い。温度としては・・・・マイナスの温度のはずだ」

 

「確かに、ここに来る前にコートを着て、正解だったね」

 

「そして、この氷を砕くために、魔力を十分に体に補充できてないんだろう。だからノエルを欲しがって、凍ったとしても意識はあるのか、歌でノエルを誘ったのではないのかと思う」

 

「でも、どうしてこの怪物の精霊がノエルが居るって気づいたんだろう?だって凍っていて身動きが取れないはずだし」

 

「そこだよな。凍って動けないはずの精霊が、なんでノエルが居ると分かって歌を歌って引き寄せたのか、奴に気配察知はない。どこでノエルの魔力を嗅ぎつけたのか知らないが、少なくとも、それを『教えた奴』が今ここに居る」

 

「え?教えた人?」

 

 

確かにデミ・スピリットがここ居るのも不自然な訳だが、そして奴が温度で凍ったにしても身動きが取れない状態であいつがこの階層で移動できるはずもない。それに気配察知なんて奴には無い。なのにどこでノエルの気配を感じ取ったのか

 

 

そんなことはしなくてもわかる方法がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは教えた『犯行者』が居るからだ

 

今、そいつはここに居る

 

 

「そこに隠れてないで、出てこい!ヴィトー!」

 

「っ!」

 

「え?」

 

 

 

「流石は英雄と言ったところですか、英雄ヘラクレス」

 

 

 

「やはりお前の仕業か」

 

「え?あの人は!?」

 

「本当にイヴィルスだったんだね、他の人も居る、もしかして・・・ジークの言っていた神タナトスの眷属?」

 

「ああ、ヴィトーが犯罪者でありながら、誰も通報されずこのオラリオに居たとなれば、奴は今までタナトスの基地であるクノッソスに住み着いて居て、タナトスから少し協力を得ているようだな」

 

 

凍ったデミ・スピリットの後ろから赤い髪の男が現れる

 

 

それはこの前酒場に来て、ノエルを気に入った客・ヴィトーだった

 

 

それだけでなく白いローブを着た教団のような格好をする男達が現れた。恩恵からしてタナトスの眷属で間違いないだろう。ここにノエルが来ると分かっていて、待ち伏せしたに違いない

 

犯罪者らしいやり方ではあるが、そう簡単に事をやらせたりはしないが、まずは奴の目的を聞かねば

 

 

「ヴィトー。ノエルを使って、穢れた精霊を目覚めさせ、デミ・スピリットの力を使って、今上にあるバベルを吹き飛ばして、世界を壊したいのか?」

 

 

「その通りです、そこまで予想が付いているとは流石です」

 

 

「犯罪者の考えなど、狂気として考えれば普通だ。それでなんのためになると言うのか」

 

 

「快楽ですよ!愉快な想像をするだけで激るのですよ!ですが・・・・・彼女は眠ったままなのです。せっかくこの前まで見つけたと言うのに」

 

 

「快楽か、『どこぞの狂気神』と考えることが一緒だが、昔の続きでもしたいのか?七年前の」

 

 

「おや?ご存知だったのですね、私の過去を」

 

 

「俺の知り合いが教えてくれてな、お前の経緯は大体知っている。だからお前をあの酒場の時から警戒していた。何もさせないようにな」

 

 

「ですが、わざわざここまで来てくれるなんて、なんとも英雄と呼ばれた貴方が、随分なざまを見せたものです」

 

 

「逆に避ければ解決できる訳でもない。だからここまで来ただけだ。罠であるのは承知、それでも解決を求めるためにここまで来た。ただそれだけの事。わからない話ではない」

 

 

 

奴の目的はデミ・スピリットを目覚めさせ、バベルを破壊して、ダンジョンに居るモンスターを世界に解き放つこと

 

どこぞの狂気神がしそうな愚行ではある。イヴィルスだけのことはある。

 

避けても何にもならないため、ここまで来たのは罠ではあるのは確かだ。そんな無様な姿をヴィトーは笑う。何がそこまで面白いのかは知らないが

 

だが、俺には別に何もおかしなことはないと否定はしない

 

 

「英雄ヘラクレス、怪物と呼ばれた貴方が、あの黒竜だったとは、余程にも愚かな者ですよ」

 

 

「あ、あなた!!」

 

「よせシル。奴の言うことは事実。この姿を人と呼ぶ者など、ほとんど居ない。この姿になっても否定はない」

 

 

「おやおや、愚かであることは認めるのですね?」

 

 

「ああ、別に否定する部分はない。全て認めた上でこの姿を選んだんだ。現実を背けるよりも、『理想を追い求めるために、現実を向き合う』。常に現実を見て、それに立ち向かう力をいつも強める。それが英雄だ」

 

 

「ん?何が言いたいのです?」

 

 

俺は別に否定する部分はない。全ては受け入れている。否定しても何もならないしな。理想を追い求めるは現実と向き合う。全て受け入れるからこそ、この積み重ねまで辿り着いた。否定して良い事など無い。全て受け入れている。この包帯で巻かれた怪物であっても、俺は肯定する

 

英雄になって、理想を追い求めた結果を見たからこその感想

 

それをヴィトーに言ったが、奴には何も通じない。俺は奴を少し知っているからこそ、この言葉を口にしたのだが、どうやら通じないため、別の話をする

 

 

「昔あの『神』が言っていたのだが。おかしな男が居るから、この眼でしっかり本性を確認したいためにここまで来た」

 

 

「あの神?一体誰のことです?」

 

 

俺はヴィトーの目的を聞いて、何故それを目指してまでこんな事をするのか、望みがある筈だとあの神から聞いたのだが、それを聞いた瞬間、俺はもうこの男は諦めたのだと、分かった

 

そして

 

俺がヴィトーを知っているのは、そのヴィトーを知る神にも出会って聞かされたからだ。ヴィトーは俺がある神から聞いたと言う話に、そのかみが誰なのかは、ヴィトー本人は分かっていない。

 

その神の名前は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エレボス。お前の主神だ」

 

 

 

 

 

「っ!?エレボス様に・・・・会ったのですか!?」

 

 

「七年前にな、ザルドとアルフィアと言うゼウスとヘラの眷属を連れて、俺の故郷にやってきた」

 

 

神の名前は『エレボス』

 

 

そう、元ヴィトーの主神だ。七年前奴は俺の故郷へやってきた。俺の故郷の場所をわかる奴なんて、ゼウスとヘラのファミリアしか居ない。俺の祖父であるオーディン・ファミリアと俺の母の派閥であるトール・ファミリア。我が親の総派閥は、ゼウスとヘラのファミリアと縁があったらしく、その親しみのあったファミリアであるザルドとアルフィアが俺の故郷を知っていたのか、俺に尋ねてきた。とは言っても尋ねたかったのはエレボスだ

 

 

暗黒の男神・エレボス

 

 

この男神が、俺の母であるトールの間に子供ができたと、どこからか聞いて、神の間に生まれた人間を見たいと、わざわざ俺の故郷に足を運んでやってきた。おそらくその時が、ここオラリオの暗黒期前の話だろう。オラリオを攻め込む前に俺に会いたかったに違いない

 

その時、彼はヴィトーの話をしていた

 

少し皮肉な事を言う現実味のあることしか言わない男でも、理想を夢見て生きてきたらしい。しかし、それが叶わないと知って絶望をして、自分が拾ってやったと、昔エレボスに教えてもらった

 

その話を今、本人を前にして話す

 

 

「エレボスが言っていた。英雄に憧れた子供が居たって、英雄の物語を理想にしていた夢見る子供が居たと、それがお前だ。ヴィトー」

 

 

「私が英雄に憧れたと・・・そんな馬鹿な話が・・・・」

 

 

「俺の言う言葉が信じられないのなら好きにすればいい。だが、エレボスの言う言葉まで疑うことができるか?」

 

 

「っ・・・・・・・」

 

 

「人間であるお前でも、英雄が作り上げてきた理想を信じられなくても、自身の主神までは信じられないわけがない。少なくとも七年前、まだ英雄を望んでいたエレボスからすればな」

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

「ジークはあの神様のことを、昔に会っているの?」

 

「ああ、ゼウスとヘラのファミリアが黒竜に敗北して以来、誰も英雄を望むようなことはしなくなった時代で、エレボスはこのままだと、誰もが弱くなってしまうと、強さを求めないで絶望に浸るのではないのかと、彼は話していた。七年前、だから誰も英雄を求める強さを得るような前を剥かせるためにエレボスは人々のために悪党になった。七年前のエレボスの目的は俺はもう事前に聞いたから、俺は七年前を知っているんだ。シル」

 

「そうだったの。神エレボスは他になんか言っていた?」

 

「『君は英雄になりたいかい?』と。俺に言ってきたな」

 

 

 

「っ!」

 

 

 

「それで・・・・・なんて答えたの?」

 

「俺はこう言った」

 

 

昔、エレボスに質問された

 

 

英雄になりたいかい、と

 

 

神々は本当に英雄神話を作るのが好きなようだ。俺は当時そう思う。俺の父がどんな人だったかは知らない。俺はベルみたいに英雄に憧れて育ったわけじゃない

 

俺はエレボスに、そう質問されてこう答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は英雄を求めていないけど、英雄のような強い戦士になって誰でも守れる人でありたいと」

 

「英雄のような強い戦士に?」

 

「ああ、俺は昔から英雄ではなく、戦士に憧れて生きていた。まあ俺の一族って全員そういう人間だった。戦場に生き戦場に死ぬ。それが俺たちフリード家、戦士の一族だからだ」

 

「戦士って・・・・何?」

 

「ノエルと言う、家族を守る、敵と戦う人の事だ」

 

 

英雄のような強い戦士に

 

英雄は誰でも守れる強い存在、俺は英雄になりたいではなく、戦士を目指して生きていた。英雄なんて大層な事を望んでいなかった。家族や故郷を守れるどんな敵をも倒す戦士に、俺はそれを目指していた

 

 

「それを理想と呼んでも良いはずだ。理想とは夢でもあるんだ。俺は家族を守るためにそれだけを目指して強さを求めてきた。ただ当たり前のことをしてきただけなのに、ノエルやシル。それだけを守るために。気づいたら・・・・こんな化け物の姿になっても英雄になっていた!」

 

「っ!?ジーク!?」

 

「パパ!?何その顔!?」

 

 

 

「英雄ヘラクレス!?その姿を晒すのですか!?」

 

 

「何度も言ったはずだ。俺はこの姿になっても、家族を守るために、全てを守るために己を捧げて強さを得てきた。真の姿だ!」

 

 

俺は奴に、左半分汚染された黒竜の皮膚を、包帯外して、ヴィトーに見せた

 

ノエルも良い顔をしていないが、それでも俺は全員に見せるように何もかも隠さずに曝け見せる。英雄を目指してどうなったのか、それでも英雄を目指す理想が間違いだったのか

 

今、ヴィトーにわからせるために、英雄と言う存在が理想として本当に間違いか、彼に教えるために

 

 

「英雄はそんなに無駄か?まあ確かにみんなに頼られてばかりで面倒な程だろう、確かに俺も英雄なんて呪いみたいで嫌いだとは思っている。しかし、俺は英雄が望む理想を今でも俺は望んでいる!現実に抗うためにな!」

 

 

「英雄が望む理想だと・・・・それはなんだ?」

 

 

「救済だ。苦しむ者たちを救う救済だ。俺は家族を守るために、この怪物の姿になることを選んで。この身で怪物を喰らうことを選んだ。それでも家族を守るためならと躊躇いもしなかった。なぜそんなことをしたと思う?ヴィトー」

 

 

「な、なぜとは・・・・・・」

 

 

「怪物になっても俺を家族と呼んで信じてくれる仲間が居た。だから俺は今でも英雄として呼ばれたんだ」

 

 

「っ!?」

 

 

「ノエル。俺は・・・・怪物か?」

 

「え、ううん・・・・パパは・・パパだもん!」

 

「そうか・・・・シルは?」

 

「私は変わらないよ。ジークはジークだもん」

 

「こう言っている限りだ。見ろ。怪物となった俺を家族として扱った。今でも英雄と扱う馬鹿も居る。でも俺を頼りにしている。だから問う。これでも英雄とは最悪なものか?ヴィトー?」

 

 

「何を言っているのです?」

 

 

「何もかも諦めたから周りや前が見えなくなったのか?お前は現実を知りすぎたが故に、理想と言う目標も立てずに生きて、前を見失って立ち止まっただけの、ただ悪党に身を流すだけの流れ者、いつからお前は理想を信じない不信者になったんだ?英雄神話を信じ続けたエレボスの最後の眷属でもあると言うのに」

 

 

「ぐ!?」

 

 

エレボスは少なくとも英雄が現れる理想を信じていた。これは嘘ではない。俺は七年前に彼にしっかりと聞いた。ゼウスとヘラの眷属達がファフニールに全滅に追いやられて以来、一年前黒竜ファフニールを俺が倒すまでは、誰もが英雄を目指そうともダンジョンの下層に行って強さは求めなくなって度々弱くなっていく姿を彼は見た

 

世界も神々も英雄を望み、その神話を刻もうとする。英雄を求めるのは破滅を意味すると言う意味もあるのに、人々が弱くなっていく姿をエレボスは見たくないと言った

 

 

理想は幻か?英雄は無駄か?

 

 

理想は人間の目標だ。英雄は人間の中で偉大な存在だ

 

 

目標を建てて生きて強くなっていく、そして誰もが讃える英雄となって更に強くなる。この世界を英雄神話であるなら、それを目指して生きていくのも強みになるはずだ。それを諦めるから幻だと思うから無駄だと思うから、強くなることをやめて、悪に染まると言う弱さを身につけてしまう

 

 

単純にヴィトーは眼が眩んだだけに過ぎない

 

 

そんな男になってしまったと、エレボスが七年前に俺に教えてくれた。変にいつも笑うあの子供だが、理想のためになんでも信じてやってきた。それが一度のある現実を思い知ることで全て諦めてしまったと、彼に教えて貰った

 

 

「エレボスは、英雄なんて目指してない俺にもいろんな事を教えてくれた。お前もそうじゃないのか?」

 

 

「・・・・・・・黙れ」

 

 

「エレボスの最後は知らない。バベルの天辺で天に還ったと聞いた、しかし最後の最後まで人間の成長を信じた。英雄になれる理想を最後まで信じたに違いない」

 

 

「黙れ・・・・黙れ・・・・」

 

 

「お前も英雄を信じたんじゃないのか?英雄になって誰かのためになりたかったんじゃないのか?英雄エピメテウスや英雄フィオナや英雄アルゴノォトや英雄アルバートや英雄シグムンドのように、誰かを救えるような理想を信じたんじゃないのか!エレボスの信じた英雄神話を」

 

 

「黙れ!!!!!」

 

 

「・・・・・・・」

 

「この人・・・・」

 

「ヴィトー・・・・」

 

 

「はあ・・・・はあ・・・はあ・・・」

 

 

信じたはずの理想は、現実が破壊した。しかしそれでも終わりはない。何度でも信じることはできる。その思い込みがあれば、ヴィトーはそれを完全に諦めた。だから悪に染まった。何もかも悪い目で見て見失った

 

『あいつ』なら、そんな事を知っても諦めないだろうに

 

 

「ヴィトーさん。辛そう・・・・」

 

「え?」

 

「わかるのか?ノエル?」

 

「う、うん・・・・幸せになれなかった人・・・なりたくても・・・なれなかった。私のように・・・・」

 

「ノエル・・・・」

 

「そうか、お前は・・・・」

 

 

ノエルがヴィトーの辛さを見て悲しむ

 

理想を目指しても目指せなかった者、幸せになりたくてもなれなかった者、ノエルがヴィトーに共感したのは間違いない。望んでも諦めてしまう、望みは信じ続ければいつか叶うものだと、それを信じ続けられるかと言う人間の度胸も必要になる。それが客観的に無かった二人、ノエルは俺とシルから大切なものを貰ったことで望みは叶った

 

でもヴィトーには、それを実現してくれる家族も仲間も居なかった

 

 

「エレボス様は・・・・私を捨てたんだ。もういい!もういい!!!」

 

 

「「「っ!」」」

 

 

「もう聞きたくない!そんなものは英雄になった貴方が言えることだ!それはこんなことになっても言えるのか!!!」

 

 

ヴィトーは過去に主神に見捨てられたのか、遂には主神も信じられなくなったのか、もう俺の伝える現実をも聞きたくないのか、俺たちを排除しようと、手を上げると、周囲に食人花のヴィオラスが地面から出てきた

 

芋虫の姿をしたヴィルガも居る。どうやらタナトスから怪物までも貰ってきたようだな

 

 

「怪物共を呼び出したか・・・」

 

 

「これだけ敵に囲まれても、同じことが言えるのですか?」

 

 

「現実を今まで見ていたお前が、俺の現実を突き付けられるのが耐えられなくて、聞きたくなくて遂には黙らせようと、武力行使に出たか、どこまで現実逃避をする気だ?」

 

 

「それだけ減らず口が出せるのなら、この状況も上手く打開できるのでしょうね?英雄なら!」

 

 

『『『『『ガア!!!』』』』』

 

 

「ジーク!」

 

「う!パパ!」

 

「・・・・・・・」

 

 

周囲に居たヴィルガとヴィオラスが多数こちらに迫ってきた。敵に囲まれた状態でもまだ俺の戯言が言えるのかと、怪物を突きつけられても綺麗事が言えるのかと、英雄なら解決して見せろとこの現実を今度は俺に突きつける

 

シルとノエルは怯えて、俺の後ろに隠れる、しかし、俺は怯えることなく、そのまま微動だにしない。襲撃されて敵が迫っているのに反撃も避けようとしない

 

なぜなら

 

下手に『動いてはいけない』からだ

 

 

「悪いな、俺は英雄と呼ばれるあって、これで終わりじゃない」

 

 

「なに?」

 

 

「俺には・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間が居ることを」

 

 

そう言って、ヴィルガスとヴィオラスが迫ってきた瞬間

 

 

 

「ファイア・ボルト!!!」

 

「ルミノス・ウインド!!!」

 

「にゃあ!」

 

「ふ!」

 

「は!!」

 

 

「っ!?なに!?」

 

 

「ベルさん!?リュー!?」

 

「アーニャ!クロエ!ルノア!」

 

「やはりここまで来てくれたか」

 

 

 

俺が微動だにしなかったのは、後方から炎と風、追撃を仕掛けてきた。ベル、リュー、アーニャ、クロエ、ルノアが必ず後から駆けつけてくると信じていたからだ。

 

このタイミングで来るのも、後方からベル達の気配を感知していたが故に、ここまで来てくれたと言うなら、ノエルの事は知った上で、心配になってここまで来たに違いないと見た

 

しかし、ここは未開拓領域、どうやってここまで来たのか

 

 

「ジークさん!やっぱりここに居たんですね!」

 

「ベルさん。どうしてここに!?」

 

「ジークさんが、オクルスでここに居ることを事前に連絡をくれたんです」

 

「いつの間に!?」

 

「ここに入る前に、軽く一言伝えておいた」

 

 

来てくれると信じて、ベルの腕輪にある宝石に、シルとノエルがここのルームの景色に見惚れている間に、軽くこの場所の階層とルーム先を軽く事前に教えた

 

だからベルたちはここへ来れた

 

 

「まさか仲間を呼んでいたとはですね・・・」

 

 

「呼んではいない。俺の仲間は仲間想いで、ノエルが心配なだけでここへ来ただけだ。俺は何もしていない。ただ来ると思って場所だけ教えただけだ」

 

「おかげで、なんとかここまで上手く辿りつけました」

 

 

「まさか、貴方も来るとは・・・・リュー・リオン。アストレア・ファミリアの最後の生き残り」

 

 

「そういう貴方も、あの神エレボスの最後の眷属、七年前は、私も忘れません」

 

 

「私も貴方とこうして会うのは初めてではありますが、貴方のファミリアを忘れたことはありませんよ。正義の女神の眷属」

 

 

「ここであの時の続きでもしたいがために、貴方もここへ来たのですか?」

 

 

「七年前の続きはもう終わりました。終わらせようとせず、まだ悪事を働く貴方を止めに来ただけです」

 

「もしかして昨日の店員?」

 

「イヴィルスだったんだ」

 

「なんか胡散臭い香りがしているにゃと思ったにゃ、まさか本当の犯罪者だったにゃんて」

 

 

七年前に暗黒期で戦った敵同士のヴィトーとリュー

 

七年前は二人は直接会うことはなかったらしい、ヴィトーはリューは有名でありアストレアの眷属であることは知っている、リューは昨日俺が教えるまでは敵であることは認識していなかった、まさかリューもあのエレボスに、眷属が居たことは知らなかっただろう、だが今日直接、ある意味因縁のある敵同士に出会った

 

七年前の苦しみを乗り越えたリューとそれを続けようとするヴィトー

 

過去の因縁のある敵同士が今ぶつかる瞬間だった

 

 

「よくここまで来たな、ここまで来たなら、ノエルが何者かヘスティアから聞いたな?」

 

「はい、ジークさんはそれを知った上でここに来たんですよね?」

 

「ノエルが幸せであるなら、それを目指すべきだ。この子はそういう存在なんだ。俺はノエルの父親として彼女の望む道をしてあげる」

 

「シル、貴方は?」

 

「私も知っているわ。もちろん全てわかっているわ。それでもノエルのためにならないから」

 

「パパ、ママ、何を言っているの?」

 

 

「おや、まだその子に自信の事を教えてなかったのですか?」

 

 

「ああ、ノエルに伝わるかもわからないしな、まだ教えてはいない。自覚を持つかもわからない子だからな」

 

「パパ?なんの話をしているの?」

 

「そろそろ話そう。伝わるかわからないけど、お前のことを教えよう」

 

 

まだノエルに自信の正体を俺とシルは明かしていなかった。信じて貰えるかもわからない上に、本人がわかっていなかった。だからどのタイミングで伝えるか考えていた

 

でも、今なら伝えるしかいない

 

もう目の前にデミ・スピリットも居るわけだ。伝えるほか無い。もうここまでになったなら

 

 

 

 

 

 

「ノエル・・・・・お前は『精霊』なんだ」

 

「精霊?」

 

「そう・・・確か『思い出の精霊』なんだよね?」

 

「ああ、人の幸せを感じる精霊だ」

 

 

伝わるかわからないが、もう包み隠さずに俺とシルは彼女の正体を本人に明かした

 

 

思い出の精霊

 

精霊にも種類があるのだが、その中でもノエルはそれでも『上位精霊』の珍しい精霊でもある。ユニコーンよりも貴重な精霊だ。人の幸せを欲しがり。人の禍福の間を感じ取る、人の姿で、初めは貧しい格好で、不幸な姿を現し、誰かと縁を結んでは思い出を作る。別名では『幸福の精霊』とも呼ばれる。

 

 

もちろん本人は未だに理解していない。そういう存在なんだ。何があろうと自信の存在を認識することはできない

 

しかしだ

 

 

自信が人間ではないことを知ったらショックを受けるのは間違いない

 

 

「パパ・・・ママ・・・・私は人じゃないの?」

 

「ああ、人ではない。しかし、これだけは忘れるな、ノエル」

 

「例えノエルが人間じゃなくても、私とジークの子よ」

 

「え?私のパパ、ママで居てくれるの?」

 

「当然だ。それに俺も人間じゃない。俺は竜で、お前は精霊だ。人間じゃない親子であるなら、より悪くないだろう?」

 

「私もノエルが精霊でも気にしないよ、ノエルは私とパパの立派な娘だもの」

 

「パパ・・・・ママ・・・・うん!パパ!ママ!私!パパとママの事大好き!」

 

「ああ、俺も愛している」

 

「例え今だけだとしても、私もジークも貴方を愛している」

 

 

「物凄く憎たらしいにゃ・・・・」

 

「ムカつくわね・・・マジで」

 

「シル・・・・ノエルと言う娘用意して、母親気取りするなんて、本当にせこい女よね、シルって」

 

「ちょ!?皆さん!何を怒っているのですか!?別に悪いことではないですよ!?ですよねリューさん?」

 

「・・・・・・・・」

 

「なんで黙っているんですか!?何か言ってくだい!」

 

 

もちろん精霊であろうと、子供に過ぎない。自身が親とは違う存在なことにショックを受ける

 

しかし、それでも俺とシルは親だと、何があろうと変わらない。ノエルが精霊であろうと、俺だってファフニールの二代目の『ファーブニル』と言う黒竜。三大クエストの最後のモンスターでもある。竜である俺をノエルは父親だと、俺とて変わらない。ノエルが出会った時から精霊であることを知っている。それでも俺もシルも常に親として、ノエルを子として愛している

 

それは、決して嘘ではない。嘘ではない幸せの愛なんだ

 

それを示した

 

何かアーニャ達が酷くこちら睨む顔をしているが、何を言っているのか、少し小言過ぎて聞こえなかった

 

そんな示しをすると

 

ヴィトーがもう本性を隠す気がないのか、更に嫌な顔を晒す

 

 

「くだらない・・・・・何が愛だ。そんなものなど、所詮その子を惑わすための嘘だ」

 

 

「勝手なことを言わないでください!これは嘘なんかじゃあありません!」

 

 

「っ!?」

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「シル・・・・・初めてだな、俺以外にそんな怒鳴るようなことを言うとは」

 

「ママ?」

 

 

「この子を愛しているのは嘘なんかじゃない。貴方と一緒にしないでください!貴方は主神に見捨てられたからそんなことが言えるだけで、私たちの愛まで嘘と言わないでください!これが絶対に嘘だなんて言わせない!この子の前でふざけたことを言わないでください!」

 

「ママ・・・・」

 

「はあ・・・はあ・・・ごめんなさい。どうしても、こればかりはどうしても、聞き流せないの」

 

「ノエルの母である理由だ。何も間違っていないさ、ノエル。お前のために少しヴィトーの発言が許せなくなっただけだ。母として怒ったと思うんだ」

 

「う、うん。ママ?大丈夫?」

 

「大丈夫。ごめんね。変なところを見せて、我慢できなかったの。ノエルと親子になれたことを嘘にはしたくなかったの」

 

「初めて見た。シルってあんなに怒るんだ?」

 

「私も初めて見た。アーニャ?あんたは?一番付き合いが長いし、一度はこんなシル見たことないの?」

 

「ないにゃ。怒るときは何度かあるけど、あんな叫ぶ程怒るのを見るのはウチも初めてにゃ」

 

「シルさんって、ジークさんのことについて物凄く動揺な姿を晒しますけど・・・・」

 

「私もあんなシルは初めて見ました。それほどノエルを想っていたのでしょう」

 

 

シルは我慢できなかった。ヴィトーの発言が許せなかったのか、ベル達やノエルの前で怒りの顔を晒した

 

怒号で叫ぶ彼女など、俺でも見たことがない。あのなんでも笑う彼女が、初めて俺以外にも怒りを露わにするなど。余程ヴィトーの言葉が許せなかったのだろう。本当の家族ではない、けど家族として幸せに過ごしてきた

 

それを嘘であるはずがないと、シルは全力で否定した。

 

彼女も家族を得られる幸せを得たから故の言葉だった

 

 

「ヴィトー、お前の言葉を聞き続けるのもシルは耐え難いだろう。これ以上戯言を言われても面倒だ。もうそろそろ決着を付けるぞ」

 

 

「ええ、こちらもあなた方の家族ごっこに付き合うのもうんざりですからね。ここで終わらせるとしましょう!」

 

 

「シル。ノエルと一緒に後ろに下がれ」

 

「うん!行こうノエル!」

 

「あ!パパ!」

 

「大丈夫だ。ここは俺たちに任せろ」

 

 

お互い、これ以上話し続けても、ぶつかり合うことは変わらないと判断した瞬間、話し合うのをやめて、本来である戦いを始める

 

 

「ベル。予定通り奴はお前に任せてもいいな?」

 

「はい、任せてください」

 

 

シルはノエルを連れて、なるべく遠くへと後方に下がった。この戦いは間違いなく激戦になる。こちらは俺を含め、ベル達五人と、ヴィトーとそのイヴィルスの団員とヴィオラスとヴィルガの多数と、まだ氷漬けにされて目覚めていないデミ・スピリット。ヴィトーの方が多勢。こちらは立ったの六人。勝てるかわからないと思うような戦況ではあるが

 

 

「全力でかかれ!!」

 

「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」

 

 

「蹴散らしなさい!!」

 

「「「「うおおおおおお!!!」」」」

 

『『『ガアアアアアアアアアア!!!』』』

 

 

それでも激突する

 

こんな聖夜前であると言うのに。聖夜に似合わない血塗られるような戦いの激突が始まった

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。