ニーベルンゲン・シックザール〜竜殺しの英雄譚〜   作:ソール

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父として、母として、娘のために

 

 

 

 

 

 

数分前の話

 

 

遠くでベル達が先頭を開始した音が聞こえた。おそらくあちらももう再戦を始まったと予想する

 

そして、俺たちもベルとリュー達に遅れることなく、こちらも戦闘を始める

 

正直苦戦するのは間違いないだろう。オッタルが加わるだけでも変わるには変わるが、それでも強敵なのは間違いない。俺の魔力察知が確かなら、間違いなく階層主のバロール並だなと思っている。昔ロキ・ファミリア時代に49階層にフィン達との遠征で会ったことがあるが、その時から気配を感じたが、今目の前に居るデミ・スピリットと同じ迫力を感じる

 

いわばバロールと同一であると認めて良いだろう

 

どれだけ苦戦するか

は、まあオッタルとアレンが居るから負けようがないのだが、あまりにも協調性が無いほど、自分の強さのことしか考えない単細胞そのものに近い二人だ。別に俺の言うことを聞かなくてもいいが、せめて周りの人間のことを考える動きを少しして欲しいのだが、そんなことを二人は考えるつもりはないだろうから、好きに暴れさせることにした。一応こっちも助けて貰っている立場でもあるからの理由だ

 

 

とにかく、もうデミ・スピリットは待ってくれないと、こちらに目掛けて触手を伸ばしてきた

 

 

『アアアアアアアアア!!』

 

 

「来るぞ!動きまくれ!一つでも当たると骨が折れるぞ!」

 

「テメエに言われるまでもねえ!!」

 

 

とりあえず、全員で散開した。固まっていたら触手の餌食になりやすくなる。ここは全員で散開して、とにかく奴の体に向かって走る

 

 

「ジーク!あの怪物を倒す方法ある?」

 

「あいつの『頭』か『体』だ!花や根に攻撃しても意味はない。奴の体か頭のいずれかを攻撃すれば触手も消えて倒せる!」

 

「要するに本体を倒せばいいのね?」

 

「それなら素早く動いて、触手の間の隙間を通って本体を狙うわ!」

 

 

デミ・スピリットの倒す条件は本体を倒すこと、花びらの中心から出てきている『女の人型』、その本体を倒さないと奴は消えない。あれが精霊の本体

 

つまり魔石は無いから、奴自身を倒す他ない

 

通常のモンスターと違って倒し方も違う。更に厄介なのは、元は精霊なため、怪物になっても

 

 

『全てを焼き尽くせ炎の女王!』

 

 

「っ!?詠唱!?」

 

「やっぱりこの前のセントラルパークに出てきた怪物と同じ!?」

 

 

「ああ!超短文省略詠唱で魔法も来るぞ!しかも『階層全域』だ」

 

 

当然これでも精霊、以前のセントラルパークに出てきたデミ・スピリット同様、魔法も普通に撃ってくる。しかも全て上級魔法、精霊は魔法を司る生き物、怪物になってもそれが可能である

 

階層一帯までやられる。そんな上級魔法を撃たれてたまるかと

 

アレンとオッタルが動く

 

 

「そんな簡単にさせるわけねえだろうが!!」

 

「撃たれる前に、斬る!」

 

「猛者と戦車が!?」

 

「好きにさせてやれ。元々指示を聞くような二人じゃないからな」

 

「兄様・・・・・そういうところは変わらないんですね」

 

「いいのジーク?あの二人好きにやらせて?」

 

「言ったって聞かないんだ。好きにやらせるつもりさ、まあ・・・・・『無理』だろうがな」

 

「え?」

 

「とりあえず好きにやらせるさ、どこまで『通じる』か」

 

 

もちろんそんな簡単に魔法を撃たせまいと、アレンとオッタルが俺たちより先に先陣を切る。

 

俺は助けられている身でもあるため、勝手に行動しているが本当に文句はなく、二人の好きに動いて貰う。まあどうなるかは『見えている』から特に何も言わない

 

 

おそらくだが、多分通用しないと思っている

 

例え、オッタルが居てもだ

 

 

そんなことを思っていると、アレンとオッタルがデミ・スピリットの魔法を刺せないために、先行する

 

 

「消えろ!」

 

「潰す!」

 

「兄様!速い!?」

 

「猛者が大剣を構えた!」

 

 

アレンが素早く、触手の間を通って本体に向けて槍を刺そうとする。オッタルは触手ごと、斬ろうと背中に背負った大剣を手に取って構える

 

この二人なら、大抵の敵ならたった一振りで全て一掃し一刀両断するだろう

 

しかし

 

 

『アアアアアアアアァァァァァ!!』

 

 

 

「にゃ!?」

 

「触手と花びらを壁になった!?」

 

「これじゃあ、本体まで届かない!?」

 

「壁だろうが打ち砕いてやる!!」

 

「壁であろうと斬るまでだ」

 

 

「果たしてできるかどうか」

 

 

当然デミ・スピリットも馬鹿ではない。知能とある精霊と変わりないため、ちゃんと我が身を守る防御方法は持っている

 

だから自身の下半身に付いている花びらで、体を包むように閉じた。これでアレンは素早く動いても本体まで届かない。隙間もない為、奴の自慢の銀槍も届かない程完全に閉じている。それだけでなくオッタルの前に先ほどこちらに伸ばしてきた触手が地面からも現れ、周囲に広がるように壁となって通せんぼのように立ち塞がる

 

そんなことを関係なしに、その壁ごと壊そうとオッタルとアレンは力を振り絞る。あの二人の実力を考えれば突破できるだろう。そんな脳筋戦法で勝てるかどうか

 

 

すると

 

 

『アアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

「っ!?なに!?」

 

「触手と花びらが!?」

 

「凍った!?」

 

 

「やはりか、『氷花系の精霊』だったか」

 

 

デミ・スピリットの体の色は緑色なのが基本だったんだなが、奴の体も下半身の下から根が青いから『水氷系』のデミ・スピリットでないのかと思ったが

 

正解なようで、奴の下半身の花は全て皮膚の上から氷を張れて守れる方法でもあるようで、アレンとレベル7のオッタルの攻撃も簡単に防げられてしまい、弾かれて一旦下がる

 

しかし、その間に、デミ・スピリットの詠唱が終えてしまい

 

 

『アアアアアアア!ファイヤーストーム!!』

 

 

「ち!くそ!!」

 

「く!」

 

「兄様!?」

 

「まずいよ!?あの魔法が!?ジーク!」

 

 

「ああ、なんとかする」

 

 

結局魔法を崩すことができずにファイヤーストームを打たれてしまった。あれだけ大口叩いておいて崩すことができないとはな、これが最強ファミリアの一角の団長と副団長だとは笑える話だ

 

今はどうでもよく、詠唱をし終えて花びらが開き、姿を現した時には奴の手のひらから小さい火の玉が出現し、その火の玉は俺たちの前にある地面に落下しようとしている

 

その地面に触れる前に

 

 

「ふ!」

 

「ジーク!?」

 

「ジークの左手で掴んだ!?」

 

 

俺の『左手』でファイヤーストームの火の玉を掴んだ

 

普通なら体で防げる魔法ではない。が、今の俺の左腕はファーブニルの左手、以前にもファーブニルそのものに変身して、俺はデミ・スピリットの魔法を掴んで防いだ

 

それが左手でそんなことができるなら、今回も

 

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

 

「く!」

 

「にゃ!?」

 

「またジークが手のひらの中で防いだ!」

 

 

衝撃まで抑えることはできなかったが、俺の左手の中で炎の波だけは抑えることができ、奴の攻撃を収めることができた

 

やはりファーブニルの硬化能力ならデミ・スピリットの魔法も簡単に防げた。前もそれでできたのだから、人間姿になっても、左腕が侵食しているから成功できると思ったが、思った通りになって安心した

 

ま、これでもう結論が出ただろう

 

 

「おい、気は済んだか?これでもお前らだけで突破できるのか?」

 

「あ?何言ってやがる?」

 

「まだわからないのか?これだけの防御を持っている奴に、お前らだけで力だけで勝てるのかと言っているんだ。オッタル。お前は?あれを一人でなんとかできると思うか?」

 

「いや、確かにあれは俺一人でも倒せるかわからないが、ジーク。何が言いたい?」

 

「決まっている。今ここに居る全員で協力して倒す。これしかない。癪や反吐だと思っているかもしれないが、そうするしか奴を倒せる方法がない。体が凍ることができる『強化種』のデミ・スピリットだ、あんな怪物、今この場に居る全員の協力しか勝てない」

 

「は!?テメエふざけて言ってんのか!?」

 

「なら、あれをどうやって倒す?音速で動いてもあの触手と花びらが盾になってお前でも倒しきれなかった。今の現状を見てもそんなことを言うのか?」

 

「俺が無力だと言いてえのか?」

 

「初戦で何もできなかったんだぞ?どう考えても一人でなんとかできるレベルじゃないと、理解できないのか?速さや力があればなんとかなると思うな」

 

「テメエ・・・・」

 

 

一旦全員下がって、この先の行動を話し合う。自由に戦わせても勝てない程、埒が明かない。ここで一人一人がバラバラに本気を出しても勝てるものじゃない

 

だからここで協力しないと倒せないと、アレンとオッタルに協力を求める。そうでなければ倒せないと、あのデミ・スピリットの実力を今知ってそうするべきだと作戦を建てた

 

しかし、オッタルはともかく、アレンは未だに一人でやると駄々をこねる。一撃目を塞がれたと言うのに、それでまだ何かできると思うこいつの考え方には浅はかとしか言いようがない

 

どんな敵にも速さと力だけあればいいと言うわけではない。いろいろ考えて戦略を練るのも戦法の内だ。いつも戦略を考えるヘディンが苦労しているのが想像につく。

 

 

「オッタル。俺に策がある。俺の指示に従う覚悟はあるか?でなければ、お前の力だけでもなんともできない。俺の言う意味がわかるか?」

 

「このままだと全滅か、情けない話かもしれないが、今の俺だけでも足りないと言うことか」

 

「そういうことだ、お前は人の話をちゃんと聞いてくれるから助かる」

 

「やっぱりダメね」

 

「それぞれ戦っても敵うはずないって、フレイヤ・ファミリアはどうやって今まで強くなったの?」

 

「無論、力任せだ。だろうアーニャ?」

 

「まあ、そうにゃ、兄様は特に・・・・」

 

「テメエら、好き放題言いやがって」

 

「それくらい、助けに来たのに敵に歯が立ってない事で、お前も立場がないと言っているんだ。正直俺も助けられて文句を言える立場もないかもしれないが、助けに来ておいて全然敵に歯が立ってない時点で、お前も文句を言える立場ない。どこまで傲慢で居るつもりだ?今のお前を『シル』が見ているんだぞ?助けに来たのに敵に勝ててないなど、無様であることくらい、お前は気づかないのか?」

 

「っ!減らず口叩きやがって」

 

 

言うなら、今の敵に勝てない姿を晒す俺たちは恥だ

 

後方でシルやノエルが見ていると言うのに、未だに敵を倒せていない。こんな無様な話、俺は受け入れることはできるが、傲慢ばかり吐き散らすアレンは、それが理解できないのだろうか、ベートと言いアレンと言い、少しは人の話を理解することができないだろうか、それほど獣人らしい性格をしていると思うが

 

 

これでわかる通り、バラバラで戦っても意味はない。一人一人が力を振り飾っても敵う相手ではない。だからここで力を合わせないと、勝てないと俺はこの敵の勝つ方法がないと考えつく

 

 

問題は説得だ。オッタルはともかく、アレンが聞くかどうか、選択肢を迫らせる

 

 

「アレン、お前に選択をして貰う。今すぐ俺たちと共に協力するか、お前一人で独走して倒せるかもわからない戦いをするか、どちらか選べ」

 

「決まっている!テメエと協力なんてできるか!なんで俺がテメエの言うことを聞かなきゃならねえんだ!」

 

「兄様!」

 

「アレン、あのお方の指示を忘れたのか?」

 

「オッタル、テメエまでこいつの言うことを聞くのか?あの方の言うことを聞くのと、こんな奴の言うこと聞くのは別問題だ!」

 

「本当にわからない奴だな、お前は」

 

「なんだと!」

 

 

こんな追い詰められた状況で、まだ俺に反発な行動を取るとは、本当に情けない奴だと思った

 

俺もアレンのことは嫌いな方だ。だが、状況と言うのもあるだろうに、それに協力は今回だけ、今回だけ我慢すればいいのに、何をそんなに俺との協力がしたくないのか理解できない

 

こいつのこういう時だけの意地は本当に骨が折れる程意味がわからない

 

まったく、一人で何ができるのかと

 

 

思っていると

 

 

「パパ、大丈夫?」

 

「っ!ノエル?シル!何をしている?あれ程下がれと言ったはずだ」

 

「ごめんねジーク。ちょっとノエルをお願いしていい?」

 

「今?一体何を?」

 

 

突然後方から、このルームを出るように言ったはずのシルとノエルが俺たちの方に近づいて現れる

 

なぜ下がらずにここまで戦場に来たのか、それを答える前に、なぜかノエルを一旦に俺に任せて、シルは一人でスタスタと、アレンの方に近づく

 

 

「っ、なんですか?」

 

 

「・・・・・・・・ふ!」

 

 

次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「「「っ!?」」」

 

「ママ?」

 

「シル・・・・」

 

 

「う!な、何を!」

 

 

「まさか、『貴方』がアレンにこのようなことをするとは!?」

 

 

シルが前々から大胆なことをするなとは思っていた。まあそれが彼女なのだから仕方がないのだが

 

しかし今の彼女の行動には流石に驚いた

 

もしかしなくてもここに居る店員仲間であるアーニャ、クロエ、ルノア、そしてフレイヤ・ファミリアの団長であるオッタルでも驚く。彼女がこんな行動に出るなど俺だって眼を疑った

 

 

それは

 

 

 

アレンの頬をビンタした

 

 

 

見たことがない。彼女が人に暴力を振るなど、それだけアレンの言動にもう我慢ができないのだろう。こちらに来た時シルが微妙に怒った顔をしているのに気づいてはいたが、まさかアレンに対してだとは思いもしなかった

 

そして彼女はアレンに怒る

 

 

「何をじゃあありません、アレンさん?私言いましたよね?アーニャや他の人と協力してくださいと?何が気に食わなくてそんなことを言っているんですか?」

 

「っ・・・俺は別に・・・・」

 

「いい加減にしてください。ジークは何も貴方が頼りないからこんなことを言っているわけじゃあありません。本当に貴方だけじゃあ勝てないからみんなで協力して共通の敵を倒すと言っているだけなんですよ!なんの根拠もなしに人の言う事に文句ばかり言ってないでしっかりやることくらいやりなさい!!」

 

「・・・・・・・・」

 

 

「ジーク。初めてだね?シルが貴方以外に怒るだなんて」

 

「彼女の行動には毎回驚かされるが、それだけ我慢できなかったのだろうな、アレンの言う事に」

 

「兄様、余程ジークが嫌いみたいにゃ」

 

「アーニャのお兄さんって、あのロキ・ファミリアの凶狼みたいね」

 

「そんな感じだ。お前も苦労するな。オッタル?こいつを仲間に持つと」

 

「まあな。しかし、俺も見たことがない、まさかあの人がここまでするとは、余程お前に轢かれたのではないのかと思う」

 

「俺か?そうだろうか、ま、少しだけ『母』になっているからだろうがな」

 

 

どうやら遠くではあるが、シルはアレンの言動をしっかり聞いていたようで、もう我慢できずに頬を叩いてでもわからせるようにした

 

それだけ『彼女』も苦労しているのだろう。ここまで言って理解できないなんて、意地なんて程ではない。もはやワガママに近いだろう。もう少し人の言葉を理解できる奴になって欲しいものだ

 

 

アレンを怒るシルはまさしく母が子を叱る姿だった

 

 

「ジークの言う通りです。力任せが全てじゃあありません、そんなに力に溺れると、『本当にアーニャ』を失いますよ?アレンさん?」

 

「っ!・・・・・・ちい」

 

「兄様?」

 

「・・・・・・」

 

 

シルがアレンにしっかり本気を出さないとアーニャを失うと忠告をする。まさかとは思うが、あんだけクズ呼ばわりしておいてアーニャを大事にしているようだ。そういう素直さがないところはベートと同じだ。そんなに誰かを想うことを素直になるのが弱さだと思うのか、それで強くなれると思っているのだろうか、浅はかな奴だと俺は思う

 

それだけ聞くと、アレンもやっと協力する気になったのか、何も言わずに俺に近づく

 

 

「おい、勝てるんだろうな、テメエの策で?」

 

「手段はある。まず説明するが、あの氷はただの氷ではなく、奴の魔法だ」

 

「な!?あれ魔法なの!?」

 

「でなければオッタルの太刀筋ですら弾かれるはずがない。かなりの魔力を吸ってほとんどの魔力を上級魔法に注ぎ込んでいるんだろう。触手や花までも凍らせると言うことは、おそらく奴本体も凍ることができるに違いない」

 

「嘘でしょ、それじゃあ・・・」

 

「ミャー達の攻撃が通じないってことにゃ!?」

 

「そういうことだ。あれを砕く方法は一つ。炎系の魔法で溶かすしかない」

 

「炎系の魔法か・・・・」

 

「俺らでも持ってねえぞ」

 

「私にもそんな魔法はないよ。ジーク」

 

 

「ああ、だから俺の『ムスペルスヘイム』を全員の武器に付けるしかない」

 

 

デミ・スピリットが触手や花びらを凍らせるのは間違いなく奴の魔法だ

 

しかもオッタルとアレンの一撃を防げるのであれば上級氷系魔法。そんなただのステイタスだけの力だけでは勝てない。スキルか魔法でない限り、いや、あの氷は砕けない程の強度。それを突破できるのはやはり炎で溶かすしかない。それも上級の

 

だからこそ

 

 

今俺の左の人差し指で、全員の武器にルーン文字を描く。そこから炎が噴き出す

 

 

「にゃ!?槍の先端から炎が!?」

 

「私の短刀にも!」

 

「これは・・・・ジークの魔法か」

 

「テメエ、こんなこともできんのか?」

 

 

「このムスペルスヘイムだけな。これに書かれたところだけ炎が出る」

 

 

「ねえ、ジーク?私は手甲だけど、これ手が燃えているとかじゃないよね?」

 

 

「手に熱さは感じていると思うが、別に手が燃えているわけじゃないから安心しろ。これで奴の氷も簡単に砕ける」

 

 

皆の武器にルーン文字を描いたことで、そこから炎を噴き出した。ルノアは武器ではなく手肉弾戦であるため、手甲にルーン文字を描いて手甲が燃えている。決して手が燃えているわけではないと伝える

 

ムスペルスヘイムだけ、武器を燃やして、擬似魔剣のように刃から炎を放出させることができる。言うなら炎を帯びた武器だ

 

とにかく、これでデミ・スピリットに対抗できる魔法を手にした

 

あとは、あの二つの壁を壊して奴本体を倒すだけだ

 

 

「これでデミ・スピリットに対抗できる。まずは壁だ。あの触手の壁を壊す。もちろん壊されないよう別の触手が襲ってくるだろう。オッタルとルノアで触手の壁を壊せ。アーニャとアレンは飛んでくる触手を素早く斬れ。あれが邪魔で壁を壊せない。クロエは俺と共に花びらを斬るぞ。これならあの奴の体の下半身になった花びらも壊せる。今ここに居る全員で奴を倒す。一人でも欠けたら負けると思え。こんなことを言われなくてもわかっていると思うが、いいな?」

 

 

「「「はい(にゃ)!!!」」」

 

「「ああ!!」」

 

 

「よし、それじゃあ・・・・・行くぞ!!」

 

 

「パパ!」

 

「ノエル!パパを信じましょ?パパ達なら絶対に乗り越えるって」

 

「ママ・・・・・うん!パパ!頑張れ!!」

 

 

今ここに居る全員でデミ・スピリットに挑んで走った

 

体格からしてフィンたちが59階層で出くわした奴の強化種ってところだろう。おまけに全身氷化できる魔法付き。勝てる見込みがあるかと言われら

 

俺たちの連携次第だ

 

まあ、後ろでシルとノエルが居るんだ。ヘマをすれば二人が殺されてしまう。そんな二人の前でもうヘマなんてしないだろう。もう相手がかなりの強敵だと気付いたからには

 

全力全開であるのみ

 

 

『アアアアアアアアアァァァ!!!』

 

 

「頭上から来るぞ!アーニャ!アレン!」

 

「兄様!」

 

「必死に付いて来い!!」

 

「はい!」

 

 

上空から雨のように触手が降り注いでくる。それに迎え撃つはアーニャとアレン、音速に動ける二人なら、降り注ぐ触手の雨も自慢の槍で砕いでいた

 

やはり触手が凍っていても、俺のムスペルスヘイムを帯びれば簡単に砕くことができる。どうやら奴の氷魔法は皮膚だけではなく、体の中まで凍るようで、アーニャとアレンが触手に攻撃する度に、結晶が砕けるように崩れていく

 

 

そしてアーニャとアレンが触手を砕いている間に

 

壁を壊す

 

 

「オッタル! ルノア!」

 

「黒拳!」

 

「ええ!まさかあの猛者と戦うとはね!一緒に行くわよ!」

 

 

オッタルとルノアが触手の壁を壊すために先行する

 

二人の肉弾戦方なら力もあって砕けるはずだと、俺とクロエはただひたすら二人に付いて行き、前方に立ち塞がる壁はルノアとオッタルに任せる。二人が上手く壊してくれることを信じて

 

そして先行したルノアとオッタルが壁に近づいた

 

 

「はあ!!」

 

「はああああああああああ!!」

 

 

二人は力を振り絞って壁にオッタルの斬撃とルノアの打撃が壁に直撃する

 

すると

 

 

バリン!!!

 

 

「よし!砕けた!」

 

「まだだ!まだ壁はあるぞ!」

 

「嘘!?まだあるの!?」

 

「これなら行けそうだな。黒拳。この先は俺がやる!」

 

「猛者!?あんた何を!?」

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

「嘘!?すご!?」

 

「後ろにあった壁も!猛者が次々と壊してく!?」

 

「流石はこの街でたった一人のレベル7だ」

 

 

壁は見事に氷が砕け、なんとか壁を突破したのだが、まだ本体には届かない程遠い

 

なぜなら職種の壁は一つだけではなく、何重にも触手の壁を後方に作られていた

 

しかし、オッタルが必勝法を見つけ出すと、一人で突っ込み。後に続く壁をどんどん壊していく。なんとかオッタルが率先してくれるおかげで、なんとか道が開く

 

その勢いに俺たちが続く

 

しかし

 

 

『サンダー・レイ!!!』

 

 

「っ!?あの怪物から雷の砲撃が来る!?」

 

「俺が止める!下がれ!」

 

「ジーク!」

 

 

デミ・スピリットも触手だけで防御は固めない。魔法も撃ってくる

 

撃ってきたのはサンダー・レイ。雷系の上級魔法だ。喰らったら間違いなく体が灰になる危険な魔法

 

しかし

 

俺には通用しない

 

 

「ジーク!?大丈夫なの!?」

 

「問題ない!俺にとって雷は俺の体の一部でもあるんだ。こんなものは俺の力の充電に変わりない!」

 

「魔法の砲撃を吸収している!?」

 

「俺に構わずに行け!!」

 

「行くよ!クロエ!」

 

「わかったわ!」

 

 

デミ・スピリットの砲撃は俺がグラムで受け止めた

 

俺に雷系の魔法は通用しない。逆に吸収してしまう。俺は雷神の母の血を持つ子供。雷など俺の食い物。デミ・スピリットの魔法でも俺は体に雷を吸い取って力の充電に変える

 

その間にオッタルが作った道を通って、ルノアとクロエが本体まで走る

 

 

「ルノア!飛ぶよ!」

 

「ええ!あの花びらをぶっ壊す!」

 

「「はああああああああああ!!」」

 

 

二人はそのまま大きく振り絞って奴本体へと飛んだ

 

もちろんデミ・スピリットは体を守るために花びらで体を包む。もちろん花びらは凍る。それでもルノアの手甲とクロエの短剣は俺のムスペルスヘイムでまだ燃えているため、対策はある

 

しかし

 

 

ビュン!!!

 

 

「な!?」

 

「まだ触手が!?」

 

 

花びらの後ろから、まだ残っていたのか多数の触手が伸びてきた。せっかくオッタルが壁を壊して道を作ったと言うのに、やっと本体まで届いたと言うのに

 

また触手に邪魔されるなど、これではキリがないと思っていた

 

だけど

 

 

「ふ!」

 

「にゃ!」

 

「アーニャ!?」

 

「ヴァナ・フレイア!?いつの間に!?」

 

「さっさと行け!」

 

「行ってにゃ!」

 

「ナイス!」

 

「ありがとうね!」

 

 

アーニャとアレンが素早く後方からの触手をも全部片付ける。どうやらなんとか援護するためにここまで辿り着いたようだ

 

おかげでルノアとクロエが本体を守る花びらの壁を壊せる

 

 

「ルノア!行こう!」

 

「うん!本気で!」

 

 

ルノアとクロエは本体を守る花びらに向かって飛んだ。そしてそのまま唯一最後の壁を破壊する

 

 

「「はああああああああああああああああ!!」」

 

 

『ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

「よし!」

 

「これで本体を狙える!」

 

 

なんとかルノアとクロエが本体を守る下半身の氷の花びらを燃やして砕いた

 

これで本体を守る術はなくなり、あとは本体を倒せばこの戦いは終わる

 

しかし

 

 

『閃光よ駆け抜け闇を切り裂け・・・』

 

 

「ちょ!?」

 

「また魔法!?」

 

「あの詠唱・・・・ライトバーストか!」

 

 

残念ながらデミ・スピリットはやられてばかりではなく、また新たに魔法を繰り出してきた。詠唱を聞いただけで俺はなんの魔法だが気づく。ライトバースト。上級閃光砲撃魔法だ。そんなものを撃たせたら、被害が周囲に広がって酷くなる、後ろに居るノエルとシルが巻き込まれる

 

超短文詠唱で止めることはできない。できることは一つのみ

 

 

俺のルーンブレイクでぶつけて押し切るしかないと判断し

 

 

「ルーンブレイク発動!!」

 

「ジーク!」

 

「決める気!?」

 

「これしかない!」

 

 

即座に俺はルーン文字をグラムの刃に描く

 

描いた文字は黒い雷に変わり、グラムの刃が黒い雷を纏い、俺はそのまま魔法を撃とうとするデミ・スピリットに突っ込む

 

デミ・スピリットのライトバーストか、俺のヴォルスング・サガが強いか、俺の力次第である

 

 

『ライト・バースト!!!』

 

 

「ヴォルスング・サガアアアアアアアアア!!!」

 

 

奴がライトバーストを発動した同時にこっちも切り札を放つ

 

ライトバーストを押し返すために、今度はヴォルスングサガは砲撃ではなく突きでデミ・スピリットへと突っ込んだ

 

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

 

 

俺の雷とデミ・スピリットの閃光がぶつかり、そこから大きな衝撃が広がる。どちらも押し負けることなく、ただ力だけがぶつかり合う

 

 

『アアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

「ジーク!負けちゃダメにゃ」

 

「ジーク!なんとか勝って!」

 

「ジーク!頑張れ!」

 

 

アーニャとルノアとクロエが俺に応援を掛ける。今俺しか奴の魔法を押し返すことができる。だから今は俺がこの場を切り開くしかないと、俺も力を振り絞る。全然奴との距離を縮めることができずに、俺が奴の魔法を押して止めているが

 

今の俺に負ける気がしなかった

 

 

なぜなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ!パパ!!」

 

「勝って!ジーク!!」

 

 

 

「・・・・・・・ああ、絶対に負けるものか!!!」

 

 

『っ!?』

 

 

後ろの方で、ノエルとシルが必死に俺に応援を掛けてくれ

 

子と妻から捧げられた応援、その言葉を聞いて、本当の父親になった気持ちになり、今まで芽生えることのなかった。感情が爆発し

 

 

俺のあの謎のレアスキル、『フレイ・リーベ』が発動する

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

『アアアアア!?』

 

 

「何!?」

 

「ジークの体から!?」

 

「ピンク色の光が出てきて発光している!?」

 

 

俺のレアスキルが発動し、俺の体からピンク色の光が体を包んで発光し、まるでオーラを纏うように、ライトバーストから俺の体を守っていく

 

それだけでなく

 

 

「これで終わらせる!!」

 

 

「ジークが!?」

 

「魔法を押し返している!?」

 

 

先ほどまでまだどちらも押し返すことなく、その空中で攻撃をぶつかり合っていた。しかし俺がレアスキルを発動した途端、デミ・スピリットのライトバーストを押し返す

 

俺のヴォルスングサガがライトバーストを押し切った

 

そしてそのまま本体へ

 

だが

 

 

『アアアアアアアア!!』

 

 

「ぐ!うおおおおおお!!」

 

 

「あの怪物!魔法を一旦切って!手を凍結させて!ジークの剣を防いでいる!」

 

「嘘!?あともう少しなのに!」

 

「あの腕に凍った盾をなんとかできれば、突破できるにゃ!」

 

 

あと一歩のところで、俺のルーンブレイクを防がれてしまう

 

デミ・スピリットはライトバーストを一度切って、自身の手を凍らせて、盾のよう腕をクロスして、俺のヴォルスングサガを防ぐ

 

あと一歩だと言うのに、まだ足りない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、そうでもない

 

 

「テメエだけで戦ってんじゃねえ!」

 

「勝手ながら、俺も混ざらせてもらう!」

 

「っ!アレン、オッタル」

 

 

後ろでアレンとオッタルの声が聞こえた

 

どうやら俺だけに任せるつもりもなく。加勢に来た訳ではないと思うが、倒すべき敵を倒そうと、俺の両端からアレンやオッタルも自身の武器でデミ・スピリットの凍った腕を壊す

 

 

「っ!共に押し返すぞ!」

 

「テメエに言われるまでもねえ!」

 

「押し潰す!」

 

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

「兄様!」

 

「行けええ!」

 

「勝て!三人とも!」

 

「パパ!」

 

「ジーク!」

 

 

俺とアレンとオッタルが全力を絞って奴の凍った腕を破壊しようと押し潰す

 

あの協調性のなかった二人が、今やっと力を合わせて敵を倒す、まさかこんな時が来るとは思いもしなかった。こんなタイミングで共闘できるとは、今はありがたい

 

三人の力が入れば、流石のデミ・スピリットの凍った腕も

 

 

 

バリン!!!!

 

 

簡単に砕けた

 

 

『アアアアアアア!?』

 

 

「終わりだ!」

 

「ぶっ潰す!」

 

「叩く!!」

 

 

「「「うおおおおおおおお!!!」」」

 

 

デミ・スピリットの両腕は俺たちの断撃で砕けた。そしてこれでもう防げるものはない、あとは奴の体を真っ二つにするだけ、奴の両腕を砕いでからそんな時間もかかることなく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬で三等分に、首も体も顔も、俺とアレンとオッタルの武器で一刀両断に斬り裂かれた

 

 

『ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!???』

 

 

 

「やったにゃ!」

 

「怪物が斬られた!」

 

「体が崩壊していく!」

 

 

デミ・スピリットの本体を斬り裂かれたことで、悲鳴と同時に自身の体が灰になる。花びらも触手も、体全体が灰になって崩壊する

 

これで見事にデミ・スピリットが討伐された

 

 

「ふう・・・・・終わった」

 

「手こずらせやがって」

 

「中々に強敵だった」

 

「ジーク!」

 

「パパ!」

 

「兄様!」

 

「全員無事?」

 

「なんとか生き残ったの?私たち?」

 

「ああ、俺たちの勝利だ」

 

「やったにゃ!」

 

 

誰一人欠けることなく、しっかり生き残ってデミ・スピリットの討伐を成功させた

 

これでヴィトーの企みは潰えた。バベルを吹き飛ばすことはもう不可能。デミ・スピリットの魔法で吹き飛ばすことは確かにできた。ここは17階層で数発魔法を打てばバベルを吹き飛ばせたが、そのデミ・スピリットはもう倒したことで、ヴィトーの計画はこれで潰えた

 

 

「ジーク、あとは・・・あのヴィトーさんだけ」

 

「ああ、あとはあいつだけだ」

 

 

あとはヴィトー本人を倒すだけ

 

そうすればこの事件は解決する。この聖夜祭の前日で奴の計画は完全に潰える

 

だが

 

 

「その必要はないぞ」

 

「え?」

 

 

 

「ジークさん!」

 

「終わったんですね!そちらも!」

 

 

「リュー!ベルさん!」

 

「やはりベルが倒したか」

 

「ベルお兄ちゃん!」

 

 

ヴィトーを倒しに行くはずが、ヴィトーが居ると思われる方向からベルとリューがこっちに来た。

 

リューがベルの肩を背負っていた。ベルのボロボロの姿を見て間違いなくヴィトーを倒したと見抜いた。やはりベルなら必ず倒すと俺は信じていた

 

見事上手くやり遂げたようだ

 

 

「やったんだな?」

 

「はい、彼を止めました」

 

「頑張りましたね、ベルさん」

 

「ベルお兄ちゃんすごい!」

 

「ええ、彼は上手くやりました」

 

「流石にゃ白髪頭!」

 

「やるじゃない!」

 

「流石はジークの仲間ね!」

 

「こいつ、一人であの野郎をやったのか?」

 

「そういうことだ。ラビット・フットもジーク同様、強くなっている。これからどんどん強くなるだろうな」

 

 

ベルはヴィトーを止めたのは間違いないとして

 

彼もイヴィルスの幹部を倒すと言う実績は大きい。それだけ強い敵を退けたと言うのは新しい強さと経験を得たに過ぎない

 

彼はもう、ただの子供ではないと言うことだ。あまり興味を持たないオッタルとアレンからすれば、そう思われてもおかしくないだろう。それだけベルはまだ子供だと思われていた。しかし、子供だからこそこれからの成長に見込みはある。彼はそれを成し遂げたのだ

 

だからヴィトーを倒せたんだ。英雄になりたいために、新しい強さを得ると言う目標に向けて

 

 

すると

 

 

 

「まさか・・・・彼女を簡単に倒してしまうとは・・・・」

 

 

「観念するんだな、もうお前の計画は崩壊した。お前の願いは叶わない」

 

「あいつが今回の黒幕か」

 

「そういうことだ」

 

 

ヴィトーがよろけながらも俺たちのところまでやってきた

 

ベルは倒したとしても殺したわけではない。ベルに人殺しはできない。生きているからこそ、今俺たちがデミ・スピリットを倒してしまうことに、驚きはしていると思うが、なぜかわかっていたような口をしていた

 

まさかとは思うが、こうなることを分かった上でこんなことをしたのだろうか、意味が得たかどうかは怪しいが

 

とにかく、これで計画が崩壊したことを伝える

 

 

「ヴィトー。これで終わりだ。それでもお前はこれからバベルを破壊するべく、何かまた計画を練るか?」

 

 

「ふふふ、それは私を見逃してくれるのですか?」

 

 

「正直言って、もうお前など殺す価値もない」

 

 

「っ!」

 

 

「ここまで変なことで拗らせたお前を殺す気にもなれない。言うならお前の相手をするのが飽きたと言ってもいいだろう。言ってくることも屁理屈だしな。これがあのエレボスの最後の眷属だとは、正直・・・・愚かな者だなと思った。エレボスはこんなわけのわからん奴まで眷属にしたとはな」

 

 

「私が愚かですか・・・・・エレボス様の何を知った上で・・・そのようなことを・・・」

 

 

「なんだ?エレボスの侮辱は許さないか?こんなことをしたお前がそんなことを言うとはな。そうだな・・・・あえて言うなら、エレボスは人間を愛した神だ」

 

 

「っ!?」

 

 

「お前が愚かであろうと、人間で愚かだからこそ愛したのだろうな、弱いことを知った上でそれでも強さを目指した、それが人間の偉大な強さでもあり、その功績の果てにこう呼ばれる、英雄と」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「神は英雄になれない。しかし人間は英雄になれる。何が違うか知っているか?神は全知全能で弱さがない。しかし我々人間は弱い。そして弱いからこそ、神には想像のつかない力を発揮する。その力を身につけて神が成し得ないことをするのが英雄だ。英雄になれる人間を愛したのだ。それがエレボスの愛だ。眷属であるお前がそんな人間の愚かさも愛せぬほど、人間の奇跡をも信じないお前になってしまったのか?」

 

 

「ぐ、ぐううううう!」

 

 

「あの人、信じたくても信じられなかったのかな?」

 

「ノエル?」

 

「あの人、多分信じたいんだけど、自分の限界を知ったから誰も信じられなくなったのかも、本当はパパからいろんなことを知りたかったのかも、パパは英雄だから」

 

「ノエル?どういう意味?」

 

「ママ、あの人は多分パパが言うことを自分でも分かっていると思うの。本当は自分でも弱いって分かっているから、その弱さがあまりに自分に限界があると知ってしまって、いろんなことを望むことが無駄だと思っているのかも、あの人は・・・・本当は信じたかったのかも」

 

「ノエル・・・・・・」

 

「だそうだ。ヴィトー。お前は今どう思っている?」

 

 

「私が人を信じられない・・・・・・だと」

 

 

道を踏み外した。人間らしく

 

今のヴィトーは俺から見れば犯罪者ではない、ただ人間不信になった人間そのものである。悪に堕ちたと言うより、悪しか進む道がなかった。弱いからなのか、不信だからなのか、弱さを理由に何もかも諦めた男

 

現実を知った上で夢を見なくなった。ただの現実主義者なのか、それとも

 

 

「貴方が今また何かしてきても、僕は絶対にまた貴方を止めます」

 

 

「・・・・・・・やはり、貴方だけは不愉快です」

 

 

「・・・・・」

 

 

「何を無駄に頑張って、そのようなことをするのです。何をしても無駄だと言うのに、理想を掲げたところで・・・・何も叶わないだけです。それなのに、頑張る貴方の姿が不愉快です」

 

 

「それでも・・・僕は諦めきれないですから」

 

 

「っ!?・・・・・・・く!」

 

 

ヴィトーとベルは言うなら真逆の存在だ

 

現実主義のヴィトーと理想主義のベル。どっちか正しいかと思えば、ほとんどの者はヴィトーの方だろう。現実を知って思い知るのも人生においては必要なこと。だが、それ故に先を見据えやすく、前を見失いやすい

 

そしてベルは、我が儘ながら自身の望むままに夢や理想を目指していろんな現実から抗い続けてきた。だから敵わない敵も諦めずに立ち向かうことができ勝利もした。もちろん現実を知ってなお

 

本当にヴィトーを止められるのはベルだけだと思っている。

 

現実を知ってもなお、それでも夢や理想を追い求め続けるベルなら、夢を諦めたヴィトーを止めることができる。だから今でもベルは何度でも彼の現実を思い知らされても諦めずに挑み続ける

 

 

だが、ヴィトーは

 

 

「ふふふ、そうですか・・・・次に会う時も同じことを言えるかどうか・・・またの機会をお待ちしていますよ」

 

 

そうしてヴィトーは、何やら丸い球体を取り出した

 

 

「あれは・・・・爆発系のマジックアイテムか!」

 

 

「ふ!」

 

 

「ちい!待ちやがれ!」

 

「よせ!アレン!」

 

「ジーク!テメエ何しやがる!?」

 

「死にたいのか!あれはただの爆破アイテムじゃない!」

 

 

 

ドガアアアアアアアン!!!

 

 

 

「うわ!?」

 

「下がれ!」

 

 

ヴィトーはそれだけを言うと、地面にその球体を投げ込んだ。そして大きな爆発が起き爆炎を巻き起こした

 

その衝撃はあのタナトスの眷属同様の自害爆破と変わりない程だった。アレンはそうはさせない素早くヴィトーの命を狩り取ろうと走ろうとしたところ、俺が腕を掴んで止めた。でなければアレンは死んでしまうかもしれなかったからだ。爆発に巻き込まれても殺すつもりだったのだろうが、それは出来ないほど、爆破が少し長く続いた

 

なぜなら奴が使った爆破アイテムは

 

 

 

『炸裂爆弾』

 

 

爆破が広範囲で破裂する危険なアイテムだ。いくらアレンでも体がバラバラになるかもしれない爆発アイテムだ。

 

 

しかし、数秒で爆破が終わると、そこにはヴィトーの姿はなく

 

 

遺体らしき者も何一つなかった。近くでヴィトーの気配と魔力を感知した。どうやらどこかに逃げられる場所を用意していたのか、もうこのルームから脱出したようだ

 

追いかける気はなく、今は一件落着と言うことで、俺は奴がどこに逃げたのか言うことはなく、次に現れても必ずベルが止めてくれるはずだと、俺は仲間の決意を信じてあえてヴィトーがどこに逃げたのか言わなかった

 

それにシルとノエルが無事だ。これで十分なはずだ

 

 

「ち、見す見す逃がしやがって」

 

「お前、本来の目的を忘れていないか?シルを守るのがお前とオッタルの仕事だろう?おまけに仕事を放棄して勝手な行動を取る。だからシルに叩かれると、そんなことも分からなかったのか?」

 

「テメエ、俺らに助けられておいて、減らず口が叩ける立場じゃねえだろうが」

 

「加勢は感謝する。しかし、本来の目的を忘れて敵の殲滅を優先するのは、どう考えても仕事放棄だ。その忠告をしただけに過ぎない。それにまたくだらんことを言っていると、またシルに叩かれるぞ?それでもいいなら罵詈雑言に好きにしろ。そこまでは助けない」

 

「ちい・・・・・」

 

「アレン、あのお方の仕事を放棄するのであれば、あのお方に背くと言うことか?先ほどあの娘に言われてまだ暴れ足りないなら、俺が相手になるぞ?」

 

「っ・・・・・・・くそが」

 

「相変わらず血の気しか無い連中だ」

 

 

これで解決したのに、まだ暴れ足りないのか、追い討ちを掛けようとするアレン、そんな仕事をするのが目的ではないと言うのに、本来の仕事を忘れてあり得ないと、アレンの言うことはベート並みに俺は呆れる

 

とにかく、あいつは放っておいて、全員の無事を確認する

 

 

「無事か?みんな?」

 

「大丈夫にゃ」

 

「全員生き残ったわ」

 

「怪我人は・・・・少年だけね」

 

「ベルさんの怪我は私がある程度直しておきました」

 

「ベルだけか、大丈夫か?」

 

「大丈夫です。リューさんが少し直してくれ他おかげで、今は動けます」

 

「全員無事で何よりだ」

 

 

なんとか全員生き残った。少しベルが負傷をしているが、リューの回復魔法で治療は済んでいるようで、ちゃんと地上に帰れるだけの体力は回復していた

 

そして、ノエルもシルも無事で済んだ

 

 

「パパ!大丈夫!」

 

「ああ、お前も無事でよかった」

 

「ジーク。またこんなに無茶をして」

 

「そうでもしなきゃ守れない。とにかく二人も無事だったんだ。これでいいじゃないか」

 

 

ノエルもシルも無事

 

これだけで満足、父らしいことをできたのかなんて分からないが、大事な家族は守れた。父親として守るべき者が守れたのだから、俺にとってはこれで良かったと思っていた

 

 

「お二人とも、今回はありがとうございました」

 

「いいえ、私とアレンはあのお方に頼まれただけですので」

 

「俺もです。俺はこれで失礼します」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「兄様!今日は助けてくれてありがとうございました!」

 

「・・・・・・・・」

 

「礼を言う二人とも、今回は助かった」

 

「テメエのためじゃねえぞ」

 

「わかっている。それでも感謝だ」

 

「ジーク、また会おう。その時はお前に挑ませてくれ」

 

「お前と同じレベルになったらと、ファフニールの力を制御できたらな」

 

 

それだけを俺とシルとアーニャに言って、この階層からオッタルとアレンは先に出ていく。姉上の指示とは言え、助けてもらったことは事実なため、お礼は言っておく。アーニャもお礼は言うが、相変わらずひねくれているのか、なにも言わずにこの場を去る。シルにはしっかり返事する癖に

 

オッタルは一応返事はするものの、やはり黒竜ファフニールの力を手にした俺に勝負を挑みたいのか、次会う時は万全な状態で挑ませて欲しいと言われる。ファフニールを倒した実績があってもレベルがまだ足りない上に、まだ制御ができていないから、挑みようが今はないが、

 

いずれあの男と戦う日が近づくと先を予想する

 

まあ、それよりも

 

 

「もうここに用はない、俺たちも帰ろう」

 

「うん!ミアおばちゃんのところに帰る!」

 

「危ないから手を繋ごう。ノエル」

 

「うん!ママ!パパも!」

 

「ああ、わかった」

 

「コラ!イチャちゃつくなにゃ!」

 

「本当にすごいムカつく!」

 

「今だけ、本当にシルが許せないんだけど!」

 

「・・・・・・・」

 

「皆さん!?なんでそんなにシルさんを睨むんですか!?そしてリューさんは無言になりながら握り拳見せないでください!?」

 

 

俺たちもすぐにここを出ていく

 

ノエルも救えた。もうここでする事は何もない。あとは酒場に帰ってゆっくり休むだけ、今日は聖夜祭の前日でもあるんだ。せっかく祭りでこんなことになったが、せっかくの祭りを台無しにするわけにはいかない。帰ったら皆のために俺が美味しい料理を、一番の物を作ってあげようと予定に入れる。この戦いでノエルと本当の家族になった気分で、良い一日なれた気がする

 

 

今日は波乱なこともあったが、それでもノエルと本当の家族になれた

 

 

忘れらない一日なれたと

 

 

俺は思っていた

 

 

明日の聖夜にはもっとノエルとシルと幸せな一日を送れると、感情を抑えられた俺が、明日の楽しみを感じていた

 

 

 

 

 

 

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