ニーベルンゲン・シックザール〜竜殺しの英雄譚〜   作:ソール

181 / 201
生きる道を見失った者

 

 

「ふふふふ・・・・・いいのですか?私を助けたりして、私は敵でもあるのですよ?」

 

 

「その敵に助けられてそんな言葉が出るなんて、お前に立場があるとでも?」

 

 

「それもそうですね」

 

 

「ジーク?いいの?」

 

「もうヴィトーは戦える力はない。武器も持ってないわけだしな。それに敵になったとしても俺に勝つことなんてできない」

 

「あ、そうか、ジークはレベル7だもんね。ヴィトーさんはレベル4だし、確かに敵にも勝てないね」

 

「それになぜこいつがノエルと一緒に居るのか、気になってな」

 

「それは私も気になるね。どうしてこの二人が一緒に居るんだろう」

 

 

「いろいろありましてね」

 

 

俺はヴィトーだけでなく、ノエルにも携帯食料を渡しておく、敵を助けるのは確かに信用はできるはずもない、しかし、ノエルがこいつを助けることがどうしても気になるため、ヴィトーを助けるために

 

人に幸福を共有する精霊が、幸福なんて望んでもいない、破滅ばかり望んだ破綻者みたいな男をなぜ助けるのか、ノエルがなぜこのようなことをするのか、ここは見定めることにする

 

 

「それで、お前はなぜノエルに助けられているんだ?」

 

 

「ふふ・・・・彼女が言うには『神様』にお願いされて助けるよう言われたそうです」

 

 

「神?まさかエレボスか?」

 

 

「さあ・・・・そこまではわかりません、ただ優しい神様だと、言っていましたよ?」

 

 

「すまないが、聞いてもいいか?お前は神に彼を助けるよう言われたのか?」

 

 

「うん、ふわーっとしてて、おそらに抱っこしてもらって、眠ってたらいわれたの。『あいつを助けてやって欲しい』って」

 

 

「まさか眠っている精霊に、神託を与えたのか」

 

「そんなことあり得るの?」

 

「神なら可能だ。眷属や精霊に眠っている夢の中でお告げをしてくる。神が天界に居ようともな、神託は夢の中で告げてくるんだ。おそらくノエルはヴィトーの主神であるエレボスに神託を告げられたんだ」

 

 

神託

 

基本的に神託と言うのは天からお告げとして告げられるとは言われるが、それはどんな時か

 

 

それは夢の中である

 

 

眠っている夢の中で神がお告げをしてくる。それが神託である。実際に神が現れ出会すのではなく、夢の中で声だけを聞いてお告げをされる。ノエルはそれを聞いたらしく、その通りにノエルはイヴィルスでもあるヴィトーを助けた。神の神託により、しかし、その神とは誰なのか。こいつを助ける奴など、一人しか居ない

 

 

 

それはヴィトーの元主神である『エレボス』である

 

 

 

ノエルの言うことは、『あいつを助けてやって欲しい』と言われた、奴をあいつ呼ばわりで助ける神などエレボス以外居ないだろう。こいつはイヴィルスで散々人殺しだってした。それでも奴を助けるとしたら主神以外居ないだろう

 

天に逝ったエレボスが精霊であるノエルに神託を告げるとは、随分と眷属のことを心配しているようだ

 

だが、この男は果たして喜ぶかどうか

 

 

「お前、あれだけ破滅を求めていたのに、今になって主神に助けられているようだが、お前は喜ぶか?」

 

 

「ふふふ・・・・・そうですね、正直思いますよ。なぜ今更助けられているのか」

 

 

「もうどこにも居場所がないからかもな、もうイヴィルスは完全に消えた。タナトスも消え、クリーチャーも消え、エニュオももうこの下界を去った。もうお前以外イヴィルスを名乗る者もいない。つまりはお前は完全に孤独、誰も助けてくれないから、ノエルを送り込んだ。そういうことじゃないのか?」

 

 

「孤独ですか・・・七年前から私は孤独ですよ、今更何をそんな・・・・・」

 

 

「だが、この先どう生きていく。もうお前にできることはない。もうお前と一緒にオラリオを破壊する者も居なければ手段もない。そんなお前は、いや、未だにオラリオの滅びを目指すか?」

 

 

「いいえ、それはもう無理だと諦めています。貴方達の強さを思い知らされましたから。特にベル・クラネルに・・・・」

 

 

「ベルさんがクノッソスでヴィトーさんを止めていたの?」

 

「ああ、あいつなら二度倒したくらいだから、問題ないと思ったが、予想以上にやられたようだな」

 

 

「まったく、あの少年の正義感は、貴方でも驚かせますよ」

 

 

「それがあいつだからな」

 

 

これからどう生きていくか、ヴィトーに問いかける

 

またオラリオを破滅を齎すようなことをしようとしても、もう手段はない。もうヴィトー以外のイヴィルスは滅んだ。クリーチャーも居ない、デミ・スピリットも全部片付いてある。

 

もうヴィトーに破滅を追い込むことはもうできない。手段はもう無い

 

もうイヴィルスとしての悪行は果たせない。だからこれからどうするのかと、ヴィトーに問いかける

 

今ベルにやられた後で、奴にできることなど何一つない。それでも奴はまだ生きている。それで奴はこれからどうするのか

 

 

 

「じゃあ・・・・・貴方が私を殺してくれますか?」

 

 

「っ!?」

 

「お前はそんなに破綻をしなければ気が済まないのか?どうかしているな」

 

 

「ええ、それが私です」

 

 

 

ヴィトーが求めたのは自殺だった

 

 

もうオラリオを崩壊させる手段はない。もうイヴィルスとしては動けない。もうできることは何もない。オラリオを破滅させることは不可能となった

 

なら

 

 

自分が破滅すればいいと、何もかも終わりだと思い込み。もう自身の終わりを選んだ。そうまでしてこの世の全てに無意味を感じるのか、この世界がそんなに嫌いなのかと、ヴィトーの考えには本当に理解できない。どこまでも歪んだ男だ

 

 

「私がここから幸福を得て、普通に生きることなど無理な話なんですよ。私はイヴィルスの幹部、断罪で死ぬしかありません」

 

 

「エレボスの助けまで無にしてまでか?ノエルに今助けられて、お前はそれでも死を望むか?」

 

 

「だからこそですよ」

 

 

「ん?今更だからか?」

 

 

「ええ、私は今更あの男に助けられるなど、不愉快でしかないのです。あの男を信じられなくなった、私は・・・・」

 

 

「お前、確か過去にエレボスに見捨てられたと言ったな?お前が少しでも理想を追い求められるように、今のオラリオに居る冒険者の強さを知ってもらうために、お前を見捨てたのではなく、学ばせるためにここに置いて行ったんじゃないのか?」

 

 

「何を知ったことを・・・・・」

 

 

「お前のことは知らん。だが、エレボスは知っている。あの男神は最後まで人間を信じた神だ。あの男は七年前人間を愛しているがために『オラリオの悪を名乗って、倒される役をやった』と、俺は知っている」

 

 

「っ!?」

 

 

「ジーク。ジークが七年前を知っているのは私もわかっていたけど、その主神であるエレボスが当時何をしようとしていたのかも知っているの?」

 

「ああ、七年前の当時のここは『暗黒期』と言うのだろう?それを引き起こしたのは確かにあの男神エレボスだ。それもオラリオのため、理想を信じ続けた男神だ」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

エレボスは下界やそこで生まれる子供を愛していた

 

 

しかし、人間は弱い。その弱さを強みに変えて欲しかった。この下界では生きていくにはそれが必要だった。当時のオラリオはどうだったかは知らない。だが、ゼウスとヘラのファミリアが黒竜に負けて以来、誰も強さを求めない。安定の平和で喜んでいただろう。その当時のオラリオは

 

その時はまだ脅威な敵が残っていたと言うのに

 

 

だから立ち上がらせたいと、エレボスが敵になった

 

 

確か・・・・あのゼウスとヘラの最後の眷属であるザルドとアルフィアも敵になってオラリオの敵になったと聞いた、かなりの癖ではあるも、そのかつてオラリオの最強と言われた派閥の眷属を相手にしてでも勝ったと聞いた。だがこれで、オラリオは大きく成長すると、エレボスは判断し消えたと、ヘルメスがここで七年前何をしていたのかを聞いた

 

その戦いをする前に、奴とザルドとアルフィアが俺の故郷に訪ね、俺に『人間を愛する神』だと、奴が自己紹介してきた時に言ってきたのを覚えているように、人間の強さを信じていた。それがどんどん強くなり、やがてはあの『英雄』と呼ばれるような、『理想』をエレボスは信じていた

 

 

「絶対悪を名乗ったエレボスは、このオラリオで敗北した。それはこの世界の可能性を示すために」

 

 

「何が言いたいのです?」

 

 

「お前はこの世界は灰色に見える。この世界に意味などないと感じるか?」

 

 

「ええ、私はそう思います。この世界で理想なんて無駄なんですよ」

 

 

「なら、お前に言いたいことがある」

 

 

「なんですか?」

 

 

 

エレボスは七年前、このオラリオで絶対悪を名乗って、このオラリオに所属する冒険者に敗れた。しかしあの男神はそれを望んでいた

 

結局のところ、何がしたかったのか、エレボスのしたかったことが、今のヴィトーには理解できていない。絶対悪を名乗ってこのオラリオで敗北する目的、エレボスはそれを望んでいた

 

それはなぜか

 

 

それは

 

 

 

 

「お前にも教えたかったんじゃないのか?絶対悪を名乗ったあの男神でさえ、このオラリオで敗れた。それは『絶対悪を名乗った者でも打ち倒せる力を持ったこの世界は。理想を実現させる可能性がある』と、『この世界は捨てたものじゃない』と、この世界が灰色にしか見えないお前に、この世界の色と言う理想を見せて理解して貰いたかったんじゃないのか?」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

「今でも、ノエルを使って貴方を助けるくらいだから、貴方にこの世界の美しさを見せたかったじゃないのかと、私も思います」

 

「シルも、わかっているようで何よりだ。悪くないさ、この世界でも、お前はこの世界でも生きれる。なぜならお前はこの世界で生まれたのだから、そしてこの世界を天に逝くまで愛し続けたのがあの男だ。信じてもいいはずだ。むしろ悪に堕ちても何も変わらない、ただ自分が惨めになるだけだ」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

ヴィトーはこの世界に絶望した

 

 

現実を知った彼は夢を見るのをやめた。子供の時はいろんな夢を見ていたのかもしれないが、しかし、世界と言うのは残酷であり、夢物語ではなかった

 

どんな理想を追い求めたかは知らないが

 

今の彼にはこの世界が灰色にしか見えないほど、もうこの世界で何を追い求めても無意味だと、幸福に生きれるような世界ではないと、悪へと堕ちた。悪でしか生きられないと、夢を捨てた。

 

 

まだこの世界で生きていると言うのに、生きていればまだいろんなことを知れると言うのに、この世界で理想を追い求めると言う実現の可能性を、ただただ信じると言うことをすればいいだけ

 

エレボスはこのオラリオで敗れた。ゼウスとヘラの眷属も居ながら

 

 

エレボスと言う絶対悪である強大な敵を倒して平和を作ったこの世界、オラリオなら、理想を追い求めることだってできるはず

 

 

少なくともこの世界は捨てたものじゃない。それを知ってもらう為にも、ヴィトーをここへ置いていった。それを理解してくれるかはわからない、しかし、今死んで終わらせようとするあまり、天に今いるエレボスには未だにヴィトーには理解できていないと、ノエルを送り込んだようだ

 

 

「死んで終わるくらいなら、もう少し生きてまだ自分の知らない世界を見てくると良い、お前はまだ生きている。過去に何度人殺しをしようとも、生きて罪を償うなり、生きていれば何度でもできるぞ。この世界でなら、なぜならこの世界は絶対悪を名乗ったエレボスを打ち倒した世界だ。少なくともこの世界で理想が無駄だとは限らない。問題は自分だ。自分の心の弱さの問題だ。世界のせいにしても無駄なことだ」

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

「ジークは英雄になってこのオラリオを何度も救った。それも理想の内に入ります。ジークが望んでなかったとしても、夢になるようなことはしています。死んで終わるより、今からでもやり直したらどうです?」

 

「ヴィトー?・・・やり直す?」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

俺とシルの言葉で、もうイヴィルスを名乗るのをやめて、普通に生きて、望む理想を目指すべきだと助言はする

 

悪に堕ちても、ここで死んでも何一つ良いことなんてない。だったらここから一からやり直して生きていく方がいいと、俺は一応これから行先を助言する

 

 

がしかし

 

 

 

「そんなことを・・・今更できるわけがない!!」

 

 

「っ!ふ!」

 

「ジーク!」

 

「問題ない。掠っただけだ、やはり聞く耳はなしか」

 

 

「そうですよ!今更幸福を得るだななて、今まで多くを手に掛けた私には、できないことです!」

 

 

わかってはいたが、やはりヴィトーは苦し紛れながら、まだ悪を名乗ろうと反撃をしてきた。ここで抗って俺に殺されようと、ここで奴は俺に攻撃をしてくる

 

エレボスに縋ってはいたのに、奴の助けを無駄にしてまで俺に殺されようと死を選ぼうとする

 

それだけ今更幸福に生きようと、理想を追い求めて生きるなどできないのだろう。それだけ心が疲弊して行ったのか、今から普通に生きるなど、彼にはできなかった

 

 

「そんなに嫌か?今更普通に生きるのが、過去で数々の人殺しをしたにしても、今からその贖罪をすればいいだろう」

 

 

「冗談ではありません!今更真っ当に生きるなど、私にできるわけがない。私は悪でしか生きれないのですよ!」

 

 

「完全に前を見失ったか、少しでも希望に望みをすればそんな見苦しい考えもしないだろうに」

 

「そんなにも貴方はイヴィルスとして生きたいのですか!?」

 

 

「諄い!私が普通に生きて幸福を求めるなど、不愉快極まりないんですよ!今更理想など私にはない!!!」

 

 

ヴィトーはもう悪の道しかないと、俺とシルの言葉に耳を傾くことはなかった

 

彼には不愉快でしかなかった。今までずっと悪として生きてきた。そしてエレボスに見捨てられた憎しみもある。今更ここで悪をやめて善良になるなど、彼にとっては不満だった

 

今までの悪行が無駄になることが彼にとっての汚点よなってしまう、そんなに悪だけが彼の全てなのか、もうヴィトーは誰の言葉も気はない程、無我夢中になった

 

 

「なるほど、もうお前が人の言葉など聞かずに、俺に殺されることを選ぶか、だが俺はもうそこまで哀れなお前を殺す気はないな、ここまで歪んだ奴を斬る意味も、お前をやる価値もない。だからお前は戦闘不能になるまで追い込むのみだ」

 

 

「そうですか・・・なら、これはどうです!!」

 

「ん?」

 

 

「あ!?ノエル!?」

 

「なるほど、人質か、ノエルを殺されたくなければ、自分を殺せと?そう言うことか?」

 

 

「察しが早くて助かりますよ。さすがは英雄です」

 

 

生憎、ここまで落ちぶれた奴を斬るなど、流石に俺も面倒だと感じ、せめて何もできぬよう痛めつけるで十分だと、戦闘不能な状態に追い込むが

 

 

ヴィトーはノエルを人質に取る

 

 

俺に殺して貰えないとわかったら、なら殺して貰う理由を作ろうと、ヴィトーは近くに居たノエルを人質に取る

 

流石に人質を取れば、もう自分は善良になれないと、もう理想を完全に諦めて、苦し紛れの悪をまだ貫く

 

 

「ヴィトーさん!やめてください!」

 

 

「やめて欲しければ、私に追いつき、私を殺しなさい!」

 

 

「っ!どこかへ移動する気か!」

 

「ジーク!」

 

「ああ、追いかける」

 

 

「わーい!追いかけっこ!人質!」

 

「貴方は黙っていなさい」

 

 

ヴィトーはノエルを担いで、どこかへと連れ去る

 

自分をより殺してもらえるよう悪足掻きを続ける。ノエルを助けたければ追いかけて来いと、ノエルを人質にして、どこかへ連れていく

 

ノエルは精霊である為、あまりに自我が薄く、今自分が何をされているかの状況すらあまりにわからないまま、ただの遊びだと思い、子供の無邪気な笑顔を晒して、ヴィトーの言う通りにしている

 

 

ヴィトーの悪足掻きに付き合わされるとは思いもしなかった。しかしどこへ行く?死場所でもあると言うのだろうか、奴がなぜこの場ではなく、ノエルを連れ去って別の場所へ移動するのか理解できない

 

 

まさかとは思うが

 

 

 

 

 

『エレボスが送還された場所』へと向かうのだろうかと

 

 

確信はないが、俺は奴の行動を予測してそう推測した

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。