ニーベルンゲン・シックザール〜竜殺しの英雄譚〜   作:ソール

194 / 201
シルの正体

 

 

スプーン・アクアの船上レストランをシルと楽しんでいる

 

もちろんコース料理で、前菜、オードブル、魚料理、肉料理、メイン、デザードと、順番に出てくる予定だ

 

ドリンクは果汁ジュースだ、俺もシルもまだ未成年、ワインでも問題ないが、酔って変な気や事を起こしても困るため、それを回避するための飲み物だ

 

 

「君と夕飯を過ごすのは、これで九回目だな?」

 

「ジークも、ファミリア結成してから、ファミリアの人たちで食事をするのが当たり前だから。私とはあんまり食事しなかったもんね」

 

「君も酒場の店員だから、忙しい時が合ったりで無かったりで、お互い暇な時間が合わない。仕方がないことだ」

 

「だから今まで言わなかったけど、ジークって、テーブルマナーが上手いね?」

 

「ああ、これか。故郷でもこんな感じだからな」

 

「え?もしかしてジークの一家って。結構金持ちなの?」

 

「そうだな、金に困ったことはないのは事実だ。とは言っても、金は使う分しか使わないから余りすぎるだけだ」

 

「その服も高そうだし、確かジークって、ファミリア資金とは別の個人の金もあるんだよね?」

 

「ああ、自分で稼ぎもするからな、いざ使う必要な分を稼いでいるのだが、あまり使う時がないため、貯まる一方だ」

 

「それ、ヘスティア様の借金に使わないの?」

 

「本人が作った借金だから、本人が返したいからと、俺には返させてくれなかった」

 

「ヘスティア様らしいね」

 

 

シルはあまりにも俺のテーブルマナーが上手いと指摘され、故郷ではこれが普通と答えたら、俺は金持ちの一家なのかと問われた

 

まあ、金には困っていないが、別にそういう一家で生まれたわけではない。デートであって婚活ではないのだがな、俺がどういう一家なのか気になるようで、色々俺の生まれについて聞いてくる

 

だが、まだ話せないため、金の話にすり替えた。シルがフレイヤ・ファミリアに監視されている理由が秘密であると同時に、俺も彼女に話せない一家の理由がある

 

 

「ジークがヴァンさんを追い払ってくれたおかげで、二人きりでゆっくり話せて良かったわ」

 

「俺は何もしていないさ、君が強く言ってくれたから、なんとかなっただけさ」

 

「一応聞くけど、まだ誰か私たちのデートを見ていたりする?」

 

「君も気づいていると思うが、リューたちが居る」

 

「やっぱり。リューったら、他は?」

 

「俺の主神様と多少の仲間、アイズも居るな」

 

「もう!せっかくのディナーなのに!」

 

「無視すればいいさ、それにフリント達とは違って、邪魔をしないだけ有り難いと思おう」

 

「そうね、そこは感謝するべきところね」

 

 

残念ながら、フレイヤ・ファミリアの監視はもう無くなった。が、俺の関係者が俺たちのデートを監視をしている。

 

見てもいいと言ったが、邪魔するなと、俺の言った言葉は守っているそれだけで良しと、ここは自分達から口を出さないように、無視をして俺たちだけを見ていればいいと、他は気にするなと二人だけで楽しむことを優先する

 

 

「そういえばヘディンさんから聞いた話なんだけど、いいかな?ジーク?」

 

「何か?」

 

 

 

「もしこのデートが成功したら、私と結婚まで望んでいるって聞いたけど、本当?」

 

 

 

「っ!なるほど、ヘディンが口を出したか、確かに君とデートの打ち合わせをした後に、奴が現れ、君とデートしたら最終的にどうするかを聞かれた」

 

 

デート前のシルと打ち合わせをした後、ヘディンにシルとデートをするに至って最終的にどうするかを問われた

 

無論、包み隠さずにシルと結婚を望むと、その時しっかりと発言した

 

それがシルに報告したらしく、それが本当かどうか問われている。間違いなくこれを聞いてくると言うことは彼女も望んでいると見ていいだろう。もちろん言ったことは事実だと、俺自身から明かす

 

 

「ヘディンの言うことは間違いない。確かに俺は結果を求めるなら、それがいいと言った」

 

「本当に!?私と!?」

 

「ああ、しかし、なぜヘディンが君にそんなこと言ったのだろうか、なぜそんなことを奴に言われたのか、心当たりはないか?」

 

「それね、ヘディンさんがもし私と結婚したら、ジークをフレイヤ・ファミリアに所属するようにって頼まれたの」

 

「だからシルに最終目的まで話したのか、しかし、それは無理だ、君が来てもらわねば、なぜなら俺はヘスティア・ファミリアに入団してから半年しか経っていない。コンバージョンができるのは、派閥に所属してから一年経たなければ、派閥変更できない今の状態では不可能だ」

 

「じゃあ、結婚は今すぐにしたとして。一年経った後にフレイヤ様の眷属になるってのはどうかな?」

 

「すまない。シル。それでも断りたい。結婚は俺も望んでいるが。しかし、どうしても俺は君をヘスティア・ファミリアに来てほしい。理由はどうしてはわかるか?」

 

「もしかしてアレンさん達?」

 

「その通りだ。あいつらが面倒だから入りたくない。もっと酷く言うなら今でもあいつらは・・・・ヘディンやヘグニはともかく、本当に君と俺が結婚することに関しては本音言うと反対しているからな」

 

「まあ!オッタルさんもアレン達も私とジークが結婚することに反対をしていると言うの?」

 

「君に直接言う勇気はないと思うが、それだけ君を想うのは俺だけじゃないと言うわけだ」

 

「もう!私がジークに恋をして何が悪いって言うのよ!!」

 

「理由があるとすれば、俺が他派閥であることと、その恋が俺ではなくアレン達で合ってほしいと言う嫉妬だろうな、君を愛しているのは俺だけじゃないってことだ」

 

 

ヘディンに俺と結婚した際は、俺を姉上のファミリアに引き込むよう頼まれた、しかし、シルの頼みでも引き受けることができない

 

 

問題は眷属であるアレン達が居るからだ

 

 

あんな協調性もなく、過激と思い込みで戦闘を引き起こすあの問題児どもの仲間になりたくない。オッタルとへディンとヘグニはなんとかなりそうだが、あのフリントと言い、身勝手な行動が多すぎる、全ては姉上のためと言っているが、それが人の迷惑でしかならない。そんな連中の派閥になど入りたくない。力に溺れた『駄獣共』の派閥になど、入っても苦労しかないと思った

 

それに

 

 

 

『シルの夫になった』時はもっと大変になるだろう

 

 

 

だから平和しか望まない俺たちヘスティア・ファミリアに来てほしいと頼む。こっちの方がまだ平和でやっていけるからな

 

 

「理由はわかったけど、でも・・・・結婚してくれるのは嬉しいな」

 

「君は・・・俺でも良かったのか?結婚を望んでいるのは結果として俺が望んでいる話だ。まだ決まったわけではない上に、君は了承したわけでは・・・・」

 

「ううん!私はジークのことが好き!それこそ結婚がしたい!だからジーク!私と結婚して!」

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

まさかこんな簡単に結婚が成立するとは思いもしなかった。まだ色々決めることがあるだろうに、なのに彼女は俺が結婚を望んでいると言った途端、なんの躊躇いもなく了承した

 

 

 

彼女も俺が好きだと言ってくれて、とても・・・・・・『助かってはいた』

 

 

 

だからなんで『次の言葉が出せない』?

 

 

 

俺は今完全に思考を停止している。彼女の了承は得た。ファミリアの移籍に関してはまだ決まっていないのに、俺は『彼女のすべて受け入れることができない』。なぜか次の言葉が出せない。望む通りの結果はもう得た。あとはこれに返事をすれば良いだけ

 

 

なのに、答えが出ない

 

 

まさかとは思うが、それだけもうわからなくなったのだろうか、これで結果を得たのに、あとはそれに返事をすれば望む通りなことになるのに、俺は何も言えなかった

 

 

そのタイミングで

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ちや!!!!!」

 

「「待って!ジーク!」」

 

 

「っ!ロキ?エイナに?ペルセフォネ?」

 

「ロキ様!?」

 

 

 

「げ!?ロキ!?」

 

「アイズさん!?アイズさんの主神様ですよ!?」

 

「あら?ロキちゃん?」

 

「ロキ!?どうしてここに!?」

 

「エイナ!?」

 

「ペルセフォネさん!?」

 

 

「どチビに、アイズたんも居たか、ジーク!その婚姻はウチは反対や!」

 

 

「なぜ叔母上殿達が?」

 

 

「ジークがあの酒場の店員とデートをするって、今日のお昼にエイナちゃんとペルセフォネちゃんから聞いたんや!それで途中で自分が見つけたから後から着いてきたんや!」

 

「ジーク!シルさんとの婚姻は私たちは認めません!!」

 

「そうです!考え直して!ジーク!」

 

 

答えが出なかった瞬間、奥の入り口からドレスを着たロキ、エイナ、ペルセフォネが現れる

 

三人が現れたことで、隠れて食事をしていたヘスティア達が、隠密行動を取ることもなく、ロキ達の登場に驚いて姿を表す。まあ、気配で居ることは丸わかりだから、別に出てきても驚かない

 

とにかく、ロキたちは勢いよく、俺とシルのテーブルにやってくる

 

 

「それで?なぜ彼女と婚姻をしてはならない?ちなみに、エイナとペルセフォネはわかるとして、叔母上はなぜ?」

 

「当然やろ!!この店員はジークは思っているようなただ可愛い女の子やない!!」

 

「なるほど、ではシルはどういう女性なんだ?」

 

「男遊びが激しくて、なんでもかんでも魅了し、自分の欲しいものはなんでも手に入れるためなら外道な手段も使う!そんな最低な女や!」

 

「ほう、そうか、エイナ、ペルセフォネ。俺は見てもいいと言ったが、邪魔するなとも言ったはずだが?」

 

「デートをするのは良かったけど、婚姻はダメ!!これじゃあ結婚前提のデートだよ!」

 

「私も結婚まで決めるなんて聞いてないよジーク!そこまでは流石に納得もできないよ!」

 

「まだ決まったわけじゃない。だが・・・・・・・本人はもう簡単に受け入れてくれるようだがな」

 

「そうです!ロキ様も、エイナさんやペルセフォネさんも、私たちが決めることに関係のない人は反対しないでください!」

 

「じゃかしい!自分にウチは叔母と呼ばれるなんて絶対に嫌や!ましてや自分に!」

 

「ジークに恋をしているのは貴方だけじゃあありません!」

 

「そうです!私もジークと結婚を望んでいます!こればかりはシルさんでも譲れません!」

 

 

結婚までするなんて聞いてない

 

確かにデートをするって言っただけで、最終的に結婚までしようとするのは流石に聞いてないらしく、エイナもペルセフォネも反対、ロキはシルに叔母と呼ばれたくない。余程シルが嫌いなのか、甥っ子である俺の嫁が、シルなのが納得いかないようだ

 

 

「ジーク君。ごめん、もうバレているから姿を出すけど、それは僕も反対かな」

 

「ほう、ヘスティア。君もか?」

 

「主様、その婚姻は独断で決めたことですよね?」

 

「その通りだ、ウンディーネ」

 

「主様の故郷の者である、オーディン様には伝えましたか?」

 

「いや、していない。爺さんには何も」

 

「私も主の婚姻に口出すつもりはなかったですが、その方はやめた方がよろしいかと、主が良くても、オーディン様が認めないかと・・・」

 

「お前もか、他は?」

 

「ジーク。私もヘスティア様にその店員のことを聞いた、お前は本気でその店員と婚約するつもりか?」

 

「シルが、危険だからか?フィルヴィス?」

 

「あ、ああ」

 

「ジーク。私もヘスティア様にシルさんのことを聞いた。私も・・・その人が怖い。そんな人と結婚するの?ジーク?」

 

「アイズもか、ベルは?」

 

「あの・・・・・僕はそこまでシルさんのことは知らないですけど、でも・・・・・・なんか今日のシルさん、なんか変です」

 

「なるほど、お前でもそう言うか」

 

「みんな、そこまで本人を前に言うのは、流石に言い過ぎよ?」

 

 

「なんなんですか!?あなた達は!?私の何が悪いって言うんですか!?」

 

 

ロキ達に続いて、ヘスティアたちもシルとの婚姻は反対の声を出す。何がそこまで彼女と婚姻することに問題があるのか、アイズはシルが怖いらしく、本当に彼女と結婚するのかと問われる

 

まだ決まってないことに皆は反対をし、流石にシルもここまでみんなに言われて不満いっぱいで言い返す

 

確かに婚姻は俺とシルが決めることであって、皆に反対意見は出せないと思うが

 

そんなことを言っていると

 

 

「随分と好き勝手にシルの悪く口を言うにゃ!」

 

「ちょっと流石に言い過ぎじゃない?ペルセフォネも?」

 

「ウチらもジークがシルと結婚することには反対だけど」

 

「流石にここまで皆さん、シルに言葉攻めをしなくても良いのでは?私もシルがジークを婚姻するのは反対ですけど」

 

 

「お前達も出てきたか、リュー、アーニャ、クロエ、ルノア」

 

 

「酒場の店員達やな!」

 

「ルノア!貴方には悪いけど、私も『ロキ様からシルさんのことを聞いたら』、そうはいかなくなったの!!」

 

 

「っ!なるほど、だから今シルに問い詰めているのはそれが理由か」

 

 

突然、皆がシルに問い詰めや反対の声ばかり出していると、店員のフリをしていたアーニャ達も姿を表して、シルを助ける。俺との結婚は彼女達も反対だが、店員仲間として、シルの味方をする

 

そしてペルセフォネが、なんでそこまで反対を出すのかわかった。やはりロキがここで文句を言うのも、シルの全てを話した故か。

 

 

 

だが、このままでは口喧嘩になってしまう。船内でこんなことをしてしまえば、他の客にも迷惑だ

 

 

これは、こうするしかない

 

 

「リュー、アーニャ達も、ちょっと時間稼ぎを頼めるか?」

 

「え?」

 

「なんにゃ?」

 

「何をする気にゃ?」

 

「別にいいけど、何をする気?」

 

「これを使うから、足止めでいいからロキ達を止めてくれ」

 

「丸いボール?ジーク?何それ?」

 

「これか?これは・・・・目眩しだ」

 

 

ボン!!!!

 

 

「な!?煙!?」

 

「煙幕!?主のマジックアイテムです!!」

 

 

話が終わらない様子だと思い、これ以上ロキ達の話を聞いても、反対ばかりで話が進まない。それに流石にここまでシルの悪口ばかり聞きたくない、シルがどんな人間であろうと、彼女から俺にどんな想いを抱いているか確認するため、これ以上ロキ達の口論に付き合わずに、煙玉を出して、煙幕を巻き起こし

 

俺はシルをお姫様抱っこして、この船から脱出する

 

 

「シル!食事は終わった。この船を出よう!金は払ってある!」

 

「え!?きゃあ!ジーク!出るって、もう船は出港をしているんだよ!?」

 

「水を足場にする!」

 

「水を足場に!?どうやって!」

 

「任せてくれ、リュー!アーニャ達も頼む!」

 

「は、はい!」

 

「了解にゃ!」

 

「わかったにゃ!」

 

「とりあえず了解!」

 

 

「ジーク!待ちや!」

 

「ちょ!?ジーク君!?まさか駆け落ち!?」

 

 

リュー達にロキ達の足止めを任せ、俺はシルを抱き寄せて、船の甲板の後方に出て、水路に向かってジャンプをする

 

シルはどうやって逃げると俺に問いかける。確かに船は出航して逃げることはできないと思っている、いや、ここは俺が水路の水を操ればいい、そう、こうやって

 

 

「エレメンタル・ゼーレ!!波よ!」

 

「え!?それってジークの精霊魔法!」

 

「来い!ウェーブサーファー!!」

 

 

俺は自身のレアスキルである四大精霊の魔法が使える。エレメンタルゼーレを発動をさせて、ウンディーネの魔法を使う

 

その名は『ウェーブサーファー』

 

波を引き起こし、その上に乗ることができ、そのままサーファーのように、波に乗って移動できる移動水系魔法。ウンディーネの魔法を使って、ロキ達から逃れる

 

 

「ジーク!どこへ行くんや!?」

 

「ジーク君!頼むからそのシル君と駆け落ちはやめてくれ!僕でもそれは許さないぞ!」

 

 

「邪魔するなら、逃げるだけだ。これ以上シルの悪口も聞きたくない。この場は逃れさせて貰う!」

 

 

そう言って、俺はシルを連れ去って、どこかへ逃げる

 

これ以上何を言っても反対意見しか出されない。だが、約束したはずだ邪魔だけはしないと、だが婚姻まで及ぶつもりならと流石に我慢できずに邪魔された

 

なら、こちらは逃げるのみ

 

なるべく二人だけになれる場所を探して、そこへ不時着する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェーブサーファーで移動していると、ちょうど良い場所をシルが見つけてくれる

 

 

「ジーク!あの『英雄橋』はどう?」

 

「っ!人の気配が一才しない。流石だシル。あそこにしよう」

 

 

俺たちはいつの間にか繁華街まで戻ってきてしまったのか、英雄橋のある水路まで目的地を考えずに逃げてしまった。しかし、運よく人の気配はしない。二人だけになれるにはちょうど良いとそこへ不時着する

 

 

「コースは全て終わったにしても、あのタイミングで叔母上が来るとは。ペルセフォネもエイナも、この事態をなんとかできるのはロキだと、相談したんだろうな」

 

「もう皆さん、酷い!私がそんなに悪い人に見えるの!ただジークと婚姻することに何をそんな酷いことを言われなきゃならないのよ!」

 

「皆、君の性格を知った上での行動だろう。しかし、流石の俺も、あそこまで皆に君の悪口をただ聞いているのは、気分としては不快だ。だから君を無理矢理ここに連れて来たわけだが」

 

「ありがとう。ジーク。私のために気遣ってくれて・・・・」

 

「俺も君と二人だけになりたかったからな。邪魔をしない約束も破った。こればかりは俺も我慢できずに、主神の命令を無視させて貰った。話が違うからな」

 

 

いくら主神でも、仲間でも、家族でも、限度がある。流石にそこまで言われるのは侵害であるわけだ。もうそうなっては独断行動を取るしか、このままデートをさせてくれないと思った

 

それと、流石にあの皆の言い草は俺も我慢ができない。他人がどう言おうと、決めるのは俺とシル。例え俺のために反対意見を出すにしても、他者は関係ない。

 

これ以上邪魔されないためには、逃げ出すしかなかった

 

そして逃げた先が

 

 

「英雄橋か・・・・・」

 

「そういえば来るのは久しぶりだね?」

 

「ああ、できるなら、俺はここへ来たくなかった」

 

「どうして?」

 

「これがあるからだ」

 

 

 

「ジークの銅像?黒竜殺しのヘラクレスとして。大英雄アルバートを超える人になったんだよ?喜べないの?」

 

 

「すまないが、俺は喜べない。なぜなら俺は大英雄と呼ばれるような器は持っていないからだ。黒竜ファフニールを殺したのも、兄上の仇を取っただけだ。世界の偉業だとしても、俺は目的のために動いただけだ。壊していいか?」

 

 

「ダメだよ。以前ジークが雷帝の名でセントラルパークにあった銅像を壊したけど、今度はギルドがジークが遠い所で黒竜ファフニールを殺したことで、アルバート様が成し遂げなかった古の竜を討伐して。ジークも『大英雄半神ヘラクレス』として銅像にされるだけの偉業があるんだよ!これで英雄橋は完成したんだから壊しちゃダメ!」

 

 

英雄橋は俺は来たくなかった。自分の銅像があるからだ

 

英雄橋とは、この下界で歴史に名を刻まれた英雄達の銅像が集められた橋だ。フィアナやアルバートなど、下界に名を轟かされた英雄達の像が橋の両側に交互に設置されている

 

実は以前までは完成していなかった。

 

理由はこの下界で地上で古の竜である黒竜ファフニールを倒し切れなかったから、それを追い払ったアルバートは当時は下界最強だった。その隣にアルバートのライバルである魔剣士シグムンドなど、隣に象は置いてあっても

 

 

 

アルバートの前に、銅像は以前まではなかった

 

 

 

その意味はアルバートに並ぶ程の英雄と言う器は存在しないからだ。そこだけは空白の席。その席に着きたいのなら

 

 

アルバートが倒せなかった黒竜ファフニールを討伐すること

 

 

下界の最強の怪物だったファフニールを倒した者だけが、そのアルバートの前の席に、銅像を建てられる

 

 

 

 

それが俺となった

 

 

 

俺と言う、『黒竜殺しのヘラクレス』が、半神半人の大英雄が、皆の知らぬ地で果たした。これにて英雄橋は完成。下界は救われたも同然。そのためアルバートの前に俺の銅像が建てられた。おそらくヘルメスが手を回したに違いない、俺がファフニールを殺したのは事実だが、その代償に俺も奴の力を手に入れて奴そのものになった。怪物になった事実があると言うのに、それでも英雄であることには変わりないと、討伐した事実を下界全体にばら撒き

 

アルバートを超えた、現在最強の英雄として名を轟かされた。望んでもないと言うのに、世界は英雄を望んでいる。それこそが不幸の始まりだと、なぜわからないのだろうか、本当に俺には理解できないな

 

 

「まったく、こんな銅像を建てられても、俺は英雄を名乗る気はないぞ、シル」

 

「だよね、ただ家族の仇を取っただけだもんね?」

 

「そうだ。殺したことが事実だとしても、俺は英雄ではない。ただの復讐者だ」

 

「でも・・・・・私にとっては英雄だよ」

 

「っ!・・・・・・・」

 

「ジークはみんなや私のためにも、いろんな苦しみを背負ってでもみんなを救ってきた。そんなジークを私は英雄と呼びたい」

 

「そうか、英雄を名乗る気はないが、君に言われたり思われるのなら悪い気はしないな」

 

 

英雄の肩書きなど、心底どうでもいい

 

しかし

 

シルに思われたり言われたりすると、悪い気分ではない、むしろ嬉しい限りだ。そう思うなら俺はシルだけの英雄になりたかったな、いつ掌返しする人類よりも。俺は常に俺を信じてくれるシルだけ居ればいい

 

そう、思っていると彼女からある一言を言われる

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから私は・・・・ジークを『オーズ』だと思っている」

 

 

「オーズ・・・・・・それは?」

 

 

 

 

「私が求める英雄。私だけのオーズに」

 

「君まで英雄を求めるとはな、だが・・・・それが俺であるなら、それも悪い気はしないな」

 

 

シルはオーズを求める

 

彼女が言うにはそれは英雄と呼ぶ。つまりはシルの英雄だ。それが俺だと言われる。本当にそうなのか疑う所だが、俺は彼女に言われて嫌ではなかった。

 

彼女のためになんでもしてきたはずだ。だからその報われが俺を救ってくれる。彼女のために生きていると過言でもない。これは言い過ぎかもしれないが、それでも俺はシルの全てを理解したい

 

俺がオーズなら

 

 

「オーズ。君が望む英雄で、俺であるなら、君はオーズである俺に何を求める?」

 

「私の夫になって欲しい。それが私の望みであり、それが私の生きる理由。私の愛する人」

 

「それが・・・・・俺であると?」

 

「うん、ジークが・・・・・・私のオーズ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

俺がオーズで、彼女の夫になって欲しい名前、それが俺であると彼女から言われる。彼女が望んでいることだ、俺は今まで通り、彼女のために答えてあげるのが俺の行動だ

 

だが

 

 

 

今この場を持ってしてでも、俺は『何も答えることができない』

 

 

 

普通ならここで、『俺がオーズならば』と伝えて彼女と婚姻する。しかし、それができない。その言葉を出すだけができない。その気もない。完全に今の俺は彼女に対しての気持ちがない。どうしてこの後に及んで俺は最後まで望めないのか

 

それほど、俺は心が消えたとでも言うのだろうか、彼女の愛に答えることができない感情をしていた

 

 

すると

 

 

 

「ジーク君!どこだ!!」

 

「ジーク!どこ行ったんや!?」

 

 

「っ!この声はロキ様とヘスティア様!?」

 

「どうやらまだ追いかけてくるようだ」

 

 

シルに集中して気づけなかったが、遠くでロキ達やヘスティア達の気配を感じ声も聞こえた。スプーンアクアから降りてここまで居ると思われる場所まで追いかけて来たようだ

 

今は返事も出せなかったため。都合良く追いかけてくれて助かったが、鉢合わせは流石に困る

 

 

「さて、どうするか。このまま鉢合わせしても今は面倒だがな」

 

「ジーク!ここは私に任せて!隠れる場所を知っている!」

 

「それは宿屋か?」

 

「え?どうしてわかったの?」

 

「皆が、君とデートするとなったら、絶対最後まですると言っていた。それがなんなのかは皆は教えてくれなかったが、夜には宿屋に行くのだと、俺は理解した」

 

 

一旦隠れるために宿屋へと逃げることをシルに提案される

 

別に構わないが、そうするのだとこのデートの結末はわかっていた。このデートをする際、皆が知った時は『最後までする』と言っていた

 

おそらくそれは・・・・・・『宿屋ですること』なのだと、皆には教えてくれなかったが

 

 

 

 

間違いなく『俺を確実に手に入れるために既成事実』を狙っていたのだと、その考えが結論として至った

 

 

 

 

まあ、彼女らしい行動だが、彼女の目論見だったとしても、ロキ達と鉢合わせするわけにはいかない。目論見はそうだったとしても

 

ここは彼女の指示に従おうか

 

 

「だが、隠れるにはちょうどいい。行こう。案内してくれるか?場所はわかるか?」

 

「うん、あっちだよ」

 

「ああ、行こう」

 

 

彼女の指示で、英雄橋から近い宿屋に、シルが知ると思われる場所へ向かう

 

彼女の目論見だったとしても構わない。今はデート中だ、どのように彼女は俺に求めるのか、最後まで見てみたいと言うのもある。彼女の目的がどこまでやるのか、確かめるにはこれしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辿り着いたのは、どこでもある宿屋だ

 

あまり評判がなく、宿泊している人もほとんど居ない。あまり客足のない宿屋のようだ。でも、こういう所こそ、今は隠れる場所にはちょうど良い。人がほとんど居ないのも、目撃者が少ないと言うのもあるため、ここで夜は過ごしても問題ないだろう

 

そして今は

 

 

「疲れただろう。まずはシャワーでも浴びてくると良い。俺はその間にこの部屋に俺たちの気配を隠す魔術を掛けておく、時間が少しかかるから、君はまずは体を洗うと良い」

 

「うん、じゃあ先に行くね」

 

「ああ」

 

 

ヘスティア達にここに来ていることがバレるのが困るため、気配を悟られないために、俺のルーン魔術で気配を今夜だけ消す。その間にシルをシャワーを浴びさせる。昼は踊って汗をかいてたりもしているから、今はその汗を水に洗わねえば

 

今夜だけあれば十分だろう。今だけ二人で居られることができるならそれで、シルと二人で寝るのはこれが初めて

 

いや

 

 

 

あの深層帰りで、ダンジョン18階層で俺の側に居てくれた時以外は

 

 

 

この宿屋、二人で居られるには十分な場所だ。『多分元々そういう宿屋』なんだろうが、彼女が俺をここで二人になりたい理由が、狙いがなんなのか大体分かった気がする

 

でも

 

俺は理解できるだろうか

 

 

「ジーク。着替えはある?」

 

「ああ、ここだ。部屋に魔術を掛けた。今夜はもうバレることはない。精霊でも俺を見つけることができない俺の魔術を使った」

 

「それじゃあ二人で居られるんだね?」

 

「ああ、もう邪魔は・・・今夜は入らない。明日以降は無理だろう。皆には見つかる」

 

「うん、今夜だけで良い。今夜だけジークと居られるなら」

 

 

部屋にシルが見たことのない文字のようなものを壁や床に描いた。これでもう俺とシルの気配や匂いも含めて探すことは不可能。仮にここを開けられても俺たちの姿は見えることなく、俺たちの姿すらも目で見つけることができない。この部屋に居る限りは

 

つまり

 

これで二人で今夜は過ごせるってことだ

 

 

「それで、君は・・・・今から何をするんだ?」

 

「ジークと一緒に寝たいな」

 

「それだけか?今夜は長いんだ。もう少しで花火も上がる。夜のメインイベントだ。窓を開けた。俺と寝るのも良いが、寝ながら花火を見るのも良いと思わないか?」

 

「それもいいかな」

 

「こっちに来るか?」

 

「うん」

 

 

女神祭の夜のイベント・花火

 

運がいいのか、この宿屋の窓を開ければ花火が見上げられる場所に居る。彼女と共に寝るのも良いが、せっかくなら寝ながら一緒に見ようと提案して、彼女は俺の所に来る

 

タイミングが良いのか

 

彼女が俺に寄り添ったタイミングで、花火が上がった

 

 

バーン!バーーン!!バーーーン!!!

 

 

「うわあ!綺麗!」

 

「そうか?君には負けるがな」

 

「まあ、ジークがそういう事を言うだなんて、私の方が綺麗だなんて、私のお世辞のつもり?」

 

「本当のことを言ったんだが、違うのか?」

 

「ううん、私は嬉しいから、そういうことにしておくね」

 

 

嘘は言ってない。花火なんてたかが少し色が鮮やかで、花のように広がるだけの火花でしかない。俺には価値が残念ながら感じられない

 

だからシルの方が。花の冠を乗せればより美しくなれると、花の関連としてそう思った上での発言をした。間違っているなら教えてくれと言ったが、彼女も嬉しく受け入れたため、どうやら否定は無くて安心する

 

 

花火はある程度上がると、あっという間に静かになる。それは女神祭の終わりの合図である、女神祭は前日祭とかもない。一日だけの祭だ。一日だけってなると。案外祭りもあっけないものだと思う

 

だから、この後はどうなるだろうか

 

 

「花火も長く続かないな。この後はただ寝るだけか?」

 

「うん、でも・・・・・ただ寝るだけじゃあヤダな」

 

「では何を?」

 

 

もう花火も終わり、女神祭は終わろうとする

 

これで終わりじゃないと思うし、夜は長いわけだ。『このまま終わりにする』とは思えない。最後に彼女の目的があるがず、そのために彼女はここへ呼んだはず、果たして、ここへ来た目的は

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を抱いて」

 

「それが・・・・・君の望み」

 

 

 

 

 

 

なんとなく分かっていた。シルを抱くよう言われる。彼女の最終目的

 

 

 

性行為して既成事実を作ること

 

 

 

これをすれば確実に俺は彼女の物になる。手に入るために手段を選ばずに強硬手段をして、俺をここへ引き込んだ。

 

強引だっただろうか、彼女はここまで

 

俺の知るシルならここまでするとは思えないが、彼女はそれを望むために俺を頼んでいる

 

 

 

「これで、私は・・・・あなたと一緒に・・」

 

「・・・・・・・」

 

 

彼女の顔が俺の顔まで迫っている。接吻を望みなのか、もう俺が返事をするまでもなく、彼女は望まれるがままに、俺は何もせずに見届ける

 

彼女の望みが思い通りに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『義弟の返事も待たずに、勝手に私の甥っ子に手を出すなんて、相変わらず貪欲ね?』

 

 

グイ!

 

 

「っ!?」

 

「はあ・・・・・また勝手に出てきたか、ヘル」

 

 

 

ことは無かった

 

突然、俺の胸から霊体化した右腕が出現し、接吻してくるシルの顔を、右腕で押し付けて邪魔をする

 

邪魔をして、出てきたのは

 

 

俺の憎き血の繋がりのある家族

 

 

死霊の女神・ヘル

 

 

シルの勝手なことを行いを邪魔しようと、また俺の魂から勝手に出てきた。彼女の考えが分かった上での行動なのか、二人で居る時間を邪魔しに来た

 

 

『まさか、ここまで勝手なことをするなんて、相変わらず欲望に忠実な女ね。オーディンお父様に何度説教されたか、昔『ヴァルハラ』でのことを覚えてないのかしら?』

 

「だ、誰ですか!?貴方は?」

 

『あら?まだ『人間のフリ』をする気なのね?この後に及んで見苦しいわね?」

 

「な、何を言って・・・・」

 

『じゃあ、ジーク?貴方もそろそろ分かっているんじゃない?今貴方が居る目の前に居る少女が、誰なのか?少なくとも貴方の知っているシル・フローヴァではないことだけは分かっているんじゃない?』

 

「勝手に出ておいて、また好き放題言うが、まあ、『そうだな』・・・・・・・」

 

「っ!?ジーク?貴方まで何を言っているの?」

 

 

ヘルはシルに対して、『まるで知っている人物』のように話をする

 

だがシルには見覚えはない。ヘルのことも知らない。だからシルは知らないと白を切るが、ここまで言われて理解できないのなら、俺に聞いてみようと話を振る

 

勝手に出てきて好き勝手するが、それについてだけは確かに俺はもう『気づいていた』

 

 

「ロキやヘスティア達がなぜあそこまで俺と君の婚姻を否定するのか、『貴女』も随分と嫌われているのですね?それとも『神々の者たち』からすれば、貴女の考えなどわかると言うことですか?」

 

「何を言っているのジーク?それになんで敬語で喋っているの?」

 

「簡単です、それは・・・・・・」

 

 

彼女はシル・フローヴァと言う名前ではない。ヘルが余計なことをしたことで、もうこの時点で俺は『彼女の正体』を暴く

 

今俺の目の前に居る彼女がシルではないのなら、では誰なのか、そもそもなぜロキやヘスティア達まで彼女との婚姻を反対するのか、それは『まるでシルと言う人物ではない者と婚姻してはならない』と言う感じの喋り方だった

 

ヘスティアは彼女を恐いと言った。今までシルとは何度もあっているはず。なのに今回はシルが怖いと言った。そんな彼女は誰なのか

 

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女が人間に化ける、我が『姉上』だからです」

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

シル・フローヴァの姿をした女性の正体は

 

 

 

 

彼女の名は我が姉・フレイヤ

 

 

 

 

ずっと分かっていたが、まさかデートの時だけ、『彼女の代わり』にシルに化けるとは、全くもって、姉上殿は本当に欲張りで貪欲な神だ

 

俺を手に入れるために、このようなことをするとはな。果たしてこの言葉を受け入れるかどうか

 

 

「え!?私がフレイヤ様!?何を言っているの!?私はシル・フローヴァよ!」

 

「これでもですか?」

 

「え?私の肩を触れて、何を・・・・・」

 

「ゴッド・シェアシュテールング」

 

 

ビリビリ!!!

 

 

「っ!?」

 

 

やはり俺の真実でも受け入れることなく、玉藻誑かそうとする。ここは分かっていたことだから、気にしていない

 

だから暴いてしまおうと、俺は姉上の肩に触れて、神殺しのレアスキルを発動し、その化けの姿を剥がすことができる。俺の体から黒い雷が流れ、姉上の体に流れていく

 

その黒い雷が

 

 

姉上の姿を

 

 

 

「どうして・・・・・私だと分かったの?」

 

 

「とても分かりやすかったですよ、姉上。残念ながら義弟に嘘は通用しません、俺はただの人間じゃあありませんので」

 

 

 

シル・フローヴァの姿から、姉上であるフレイヤの姿に、まるで紙が破かれるように、ビリビリと本当の姿が露わになった

 

もう姿を表すとなると、姉上殿も観念したのか、もうシルとして話すことなく。自身の言葉使いで話すようになった

 

 

「ちなみに、本物のシルは今頃まだ『柱の上で姉上の姿』になっているのですよね?」

 

「っ!?まさか・・・・ジーク。貴方最初から私だって分かっていたの?」

 

「ええ、半神半人は神様の嘘を見抜く力があるようで、もう三つ理由があります。一つ目はシルの姿で体を包んだ力は俺には見えています。二つ目は今回の振る舞いは流石に『シル本人の振る舞い』ではありませんでした。三つ目は眷属の護衛が多すぎること、これではまるで『主神の護衛のような配備』。あれをされてはもう丸わかりです」

 

「何から何まで、全部お見通しだったわけね」

 

「二年前、初めて会った時から気づいていましたよ。兄上と若干同じ力を感じる人間の姿に化ける女神が居るなと」

 

「っ!?初めから気づいていたって言うの!?」

 

「俺にとってシルは、それだけ特別だったんです。だから貴方がシルの姿になっても、全然見破りやすかったですよ」

 

 

俺は二年前、初めて出会った時から気づいていた。姉上が人間の姿に化けて酒場で働いているのを

 

 

つまり俺は最初から知っていた。フレイヤ姉上とシルが、お互い姿を化け合って俺に出会ったり、酒場で働いていることに

 

 

全て知っていた

 

 

そして今回、遂に姉上殿が俺を手に入れるために最終手段を取ったため、もう俺も正直に姉上のもう一つの姿を暴いた。生憎と、俺にとってのシルは姉上ではないので

 

 

「ジーク。正体を隠していたのは謝るわ。でも私は本当に貴方が好きなの。だから義弟ではなく。私の夫になって」

 

ブウン!!!・・・・・・キン!!!

 

「っ!?」

 

「姉上。俺に魅了は通用しません。それもおそらく貴女の神の力なんでしょうが。レアスキル関係で姉上の力は何一つ効きませんから」

 

『フレイヤ。まさか魅了で手に入れようなんて、これが美の女神?笑えるわね!心は全然美しないわね』

 

 

残念ながら俺に姉上の魅了は通用しない

 

魅了が効かないスキルとレアスキルがあるため、姉上の力は何も効かない。魅了をして俺を手に入れようとは、なんとも強引な人だ

 

 

『ふふふふふ、やっぱりジークにまで手を出すのね、フレイヤ。兄であるフレイまで手を出そうとした癖に、それに加えて義弟であるジークにまで手を出すなんて、本当に欲張りね』

 

「ヘル。黙りなさい。貴方には関係ないわ」

 

「そうだな。ヘル。俺の体の中に戻れ。あんたの霊体化も。いつまでも俺の中から外に出てると送還されるぞ?」

 

『そうね。フレイヤをおちょくるのはいつでもできそうだし、今日はこれくらいにしようかしら、でもフレイヤ。また変にジークに手を出すと天界に居る私の姉トールに何を言われるかわからないわよ?』

 

「だとしても、これは私とジークが決めること、貴女の言葉は関係ないわ」

 

『ふふふふふ、どうなるかしらね』

 

 

姉上は姿を露わにしても。それでも俺を望むことをやめない。その言葉に横でおちょくりを入れるヘル

 

ヘルの邪魔は鬱陶しいため、俺もさっさと体の中に戻らないと。いくら体を無くして霊体化で俺の体から外に長く居続けると流石に送還されてしまう。いくらヘルのアルカナムでも限度があるため、姉上のおちょくりはこれからもできると言う意味深な言葉を残して、俺の胸の中に入ってく

 

それで返事を出すのだが

 

 

「姉上、先ほど英雄橋で、俺をオーズだと思っていると言っていましたが、本気で言っています?」

 

「ええ、私はジークをオーズだと思い、私の英雄だと思っているわ」

 

「そうですか、昔兄上がいつか俺がオーズになると、予言なのか予感なのかみたいな言葉を言われたことがあります」

 

「っ!?お兄様が・・・・」

 

「俺は今でも分かりません。オーズがなんなのか、人なのか神なのか英雄なのか。まあ、なんにしてもそれが俺だったとしても・・・俺は」

 

 

オーズが俺であるなら、姉上を選ぶだろうか。いや、俺はただ姉上は姉でしかない。俺は愛することを今でもわからない。姉上が俺を欲しがる理由を聞いても。本物の家族になる意味の良さも

 

結局、ここまで来て俺は何も理解できなかった

 

だけど、俺がオーズだとしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺はシルに会いたいです。そして姉上は俺の姉です」

 

 

「・・・・・・・・そう、彼女を選ぶのね」

 

 

俺の今の答えがこれだった

 

結局選んだのは姉上ではなく、俺はシルを選ぶ。彼女に会って話したいことがある。理解できない情けない俺に話をたくさんしたい

 

そして姉上を妻にはできない。どうしても心がシルを思い出させる。もしも愛を取らなくてはならないなら、俺はシルを取る

 

 

「姉上。俺の答えはもう伝えました。今から俺はシルの所へ向かいます。眷属を呼んでおきますので、ここでお休みください」

 

「私を一人にする気?」

 

「ええ、貴女のデートはここまでです。このまま一緒に寝て、既成事実を残すつもりなのでしょうけど、そんなことをしたら皆に何を言われるかわかりますし、何より今は・・・・・・・無性に彼女に会いたいんです」

 

「・・・・・・・・今『あの子』がどこに居るかわかるの?」

 

「はい。なぜかわかるんです。どうしてかは分かりませんけど、眷属をここに呼びます。ここでもうお休みください。俺は彼女の元へ今から行きます」

 

 

俺は姉上に言い訳も聞かずに、この部屋に置いて行き、一人でこの部屋を出る。もちろん姉上を一人にするわけにいかずに、姉上の眷属を探してからシルの所へ向かう。護衛は付けなくてはな

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

俺は、宿屋を出る前に姉上と居た部屋の隣の部屋、その部屋のドアをコンコンとノックをする。すると、ガチャっと誰かが部屋から出てくる

 

出てきたのは

 

 

「オッタル。姉上を頼む」

 

「やはり気づいていたか、ジーク」

 

 

オッタルだ

 

ヘディン達は確かに下がった。が、オッタルの気配が昼から感じられず、どこかで待機しているだろうと思ったが、この宿屋に入った時から、オッタルがここに居るのだと、すぐに分かった

 

 

「気配は丸わかりだ。ヘディン達が近くに居ないと魔力も気配も感じないが、お前の気配だけはこの宿屋から感じた。おそらく姉上は最初からここで夜を迎えるために計画を建てていたのだと、お前が居る時点で分かった」

 

「お前ならフレイヤ様をなんとか守れると分かっていたが、お前がフレイヤ様の手を取ることがないだろうと思い、お前がフレイヤ様を必ず最後には一人にするだろうと、俺は勝手ながらここで護衛をさせて貰った」

 

「お前の推測は正解だよ。あとは頼んでもいいな?」

 

「ああ、今彼女なら・・・・・『お前の知る場所』だ」

 

「そうか、感謝する」

 

 

オッタルから彼女の場所を教えてもらう。やはり俺は彼女を選ぶことをわかっていたようだ。姉上をオッタルに任して、俺は彼女の元へ向かう

 

姉上の気持ちは、悪いが答えることはできない

 

今理解できてない俺は、その答えを知りたいがために、今も待っていると思われるシルの元へ向かう

 

 

 

 

 

彼女に教えて貰いたいんだ。愛とはなんなのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、残された姉上は

 

 

「フレイヤ様。オッタルです」

 

「オッタル。やっぱり着いて来ていたのね?」

 

「はい。ジークはフレイヤ様を姉としか見てないと思い。必ずジークはフレイヤ様の手を取らずに、あの娘の元へ行くと思い、貴女様が一人になるだろうと。勝手ながら少し前に最後に参るこの宿屋で待機させて貰いました」

 

「そう、ありがとう。でもオッタル」

 

「は、なんでしょう」

 

 

 

「今からヘディンたちを呼んで、ジークの仲間、レベルが低い四人の子供が居るわ。その四人を人質にして連れて来なさいと命令を出して」

 

 

 

「っ!よろしいのですか?」

 

「ジークは何がなんでも手に入れる。私たちは家族よ。お兄様の義弟なら、私はあの子の姉、でも姉では満足できない。私が心から愛しかった人はこの時代でやっと見つけたの。私はフレイヤ。正体を見破られても、オーズは絶対に私の夫にする!!!」

 

「・・・・・・分かりました。仰せのままに」

 

 

 

姉上は未だに俺を諦めることはなく、女神祭が終わったこの夜にて、必ず俺を手にするために暴挙に出る

 

絶対に手に入れる。本物の家族と、自分が一番に欲しかった愛する人を夫にするために

 

 

フレイヤは女としての欲を何がなんでも全力で手にする行動に移る

 

 

女神祭が終わった後の今夜は、フレイヤの長い夜遊びが始まる

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。