オラリオの南西にある街外れの倉庫
そこへ中年の男性が一人でそこで待っていた。もちろんその男性はヴェルフの父
ヴィル・クロッゾ
兵士も連れずに一人でそこで待っていた。もちろん姿は見えていないが、後方にある建物の裏で兵士は控えてはいる。でも約束は約束。ヴィルもヴェルフの父親として息子を引き入れるために約束通り一人で待っていたのだ。
そして
「っ!来たか、ヴェルフ」
「ああ」
そして約束通り、ヴェルフはして居場所にしっかりと魔剣を持ってきた。時間のはずれも無く、言われた通りに来たのだ
だが
「だけど悪い親父。一人で来たわけじゃあないんだ」
「なに?」
「ええ。あなたには悪いけどね。ヴェルフのお父さん?」
「っ!?神ヘファイストス!?」
「心配するな。ヘファイストス様に助けて貰おうとかじゃない。この人は本当に俺が心配でここに勝手に付いて来ただけだ」
「まさか・・・・愚息かあの神ヘファイストスと関係があったとは・・・」
「もちろんヘファイストス様は何もしない。俺のやることに見届けに来ただけだ」
「お前のやることだと?」
ヘファイストスは勝手について来ているだけであって、別に女神に助けて貰おうとかそんなんではない。ただ今からヴェルフのやる事を見届けるだけ。側に居るだけだ
そしてそのやることについて、ヴィルは息子であるヴェルフに聞く
やる事と言うのは、常に一つしかない
「親父!俺はヘスティア・ファミリアの団員だ!!だから俺は親父と共に帰る気はねえ!!!」
「愚息よ・・・・ヴェルフ。今お前は本気で言っているのか!?」
最初から帰るつもりなど無い
ここに来たのは他でも無い。家族と向き合うためだ。
最初からここへ来たのはケリをつけに来ただけ。もう家族のことに目を背ける気はない。因果を断ち切るために、今度こそ折れない魔剣を作るために、魔剣を嫌いになっても、これを使えるようになるためには
『この血に』決着をつけなくてはならないとダメだと。ヘファイストスに言われて今気づいたのだ
「俺は魔剣をお前らなんかに打ってなんかやらねえ。俺は今後折れない魔剣を製作して自分で使って戦う。俺の大切な者のために」
「愚息よ!貴様わかっているのか!?私と共に来なければこの都市を燃やすと言っただろう!?」
「そこだよ。俺が気に食わないのは・・・」
「なに?」
「魔剣を人殺しのために使うんじゃねえ!!!」
「っ!?」
ヴェルフが最も魔剣が嫌いなのはそこだった
エルフの森を昔のラキア兵がこの魔剣で燃やしたと聞いた時から、ヴェルフはなんでそんな殺人鬼のような事をするのか、いくら戦士の誇りがあるラキア王国のやり方でも、ヴェルフは気に食わなかった。その理由もあって故郷も出て行った
あんなの人殺しだ。なにがラキア王国だ、なにがアレス・ファミリアだ。戦争を好きなだけ武力で起こしてきたあのファミリアに愛想が尽きたのだ。
ヴェルフは昔からそんな事を好まない。弱い者いじめとかも、そうやって戦争をすると言う人殺しも、何かのためなら覚悟を決めてやるだろう
でも自分の名誉のためにそれを使うのなら、尚更御免だと。ヴェルフは家族を捨て、魔剣を嫌うようになった
「昔から嫌だった。祖先達も嫌々魔剣を打っていたに違いない。あの主神だからな。俺は魔剣を仲間を守るために使いたいんだ!!魔剣嫌いだけど!俺は仲間を守るために武器を届けて、魔剣で仲間を守る!それが今俺の目標なんだ!」
「そんな下らないことに・・・・」
「下らなくはねえ!!俺はもう・・・・・一度仲間を失ったんだ」
「っ!」
「ヴェルフ?まさかそれって・・・・」
「そうですヘファイストス様。聞いてはいるとは思いますけど。名前は言わねえが、俺は・・・俺のファミリアの団長がある依頼でモンスターにやられて死んだ。魔剣を持っていたにも関わらず俺は助けてやれなかった、一度使っただけで魔剣は砕けた。完全なる力不足だった。あの時はすげえ・・・・悲しんだ。あの時俺がもっと良い武器や良い防具や折れない魔剣を持っていけば助けられたんだ。結果的に『ある女神』によって助けられたが、俺はいつもそうだった。力不足だった。魔剣無しじゃあ仲間をも助けられない。何もかもが情けなかった。お前の言う通りだよ。親父。俺は愚息だ。どうしようもない鉄よりも脆い。ゴミ同然だ」
「・・・・・・」
ヴェルフが涙を流しながら、父親の前で泣き事を吐いた
もちろんそんな姿をも父親であるヴィル・クロッゾも見たことがない。怒っている所や笑っている所しか見た事ない。泣くことは幼少の頃からはなかった。なのに今泣いているのだ。仲間を一度を失って泣いているのだ
ヘスティアからヘファイストス も聞いていたのだ。一度団長である俺、ジーク・フリードがアルテミスの依頼で、アルテミスを助ける代わりに自分が一度死んだ事を。
あの時のヴェルフは悔しかった
自分の作る武器が脆くても、自分がどれだけどうしようもなくても
仲間を失う絶望だけは辛かった
あんな体験は一度もしたくない。冒険者をしているからいつかあの時が来るとは思ってはいたが、やっぱり耐えきれない。仲間を失うだなんて二度とごめんだと、やっぱり力不足でいるのが今辛い気持ちだった
今でも心の傷になっている。二度と癒えない傷だ。その癒えない傷を治す気はないが、それでも魔剣を使って守る道を選んだ。でも家族の事を思い出すと魔剣を使うのが怖くなる。魔剣を否定ばかりしていた自分のプライドが物凄く邪魔だった
魔剣のことでトラブルが多く、魔剣なんて使わなくても仲間を守ってみせると、ここ最近はそう思ってダンジョンで魔剣を今回持って行かなかった。それで完全に思い知った
自分には魔剣が無くてはなにもできないと
足手纏いだと思い知った。やっぱり魔剣は必要だ。でも魔剣は嫌い、それを克服するにはやはり今家族と向き合う他ない。家族と向き合えないことの悩みから血を受け入れることができない、だから魔剣は砕ける
家族の問題を解決せねば自分は進めない
「だから俺は親父と向き合って!砕けない魔剣を作って、ヘスティア・ファミリアの団員として!仲間を守るための『戦う鍛治師』になる!!!だから・・・・・俺は帰らねえ!親父!!!」
「そうか・・・・愚息よ・・・それが貴様の答えか・・・・・ならこうするまでだ!!出てこい!」
「「「「は!!!」」」」
「やっぱり隠れてやがったか・・・」
「一人じゃなくて、複数の兵士をオラリオの中に引き連れていたのね」
要求に応じなかったため、ヴィルは後ろにある倉庫の裏に控えていた。兵士複数をヴィルは呼び出した。
もちろん要求に応じない場合はこうやって武力で捕らえるつもりだと、残念ながらヴィル本人は父親としてのプライドは持たず、鍛冶貴族の名誉が大事なため、最初から息子を無理にでも連れ帰るのが目的だった
そうでなければもうラキア王国に居場所なく、主神とラキア王の命に従うのみだった
「どうやってそいつらをオラリオの警備門を潜り抜けた?」
「オラリオを恨んでいるファミリアが居てな。その者達に協力を頼んだことで警備門は簡単に入れた。戦争を引き起こしてくれる約束としてな・・・」
「まさか・・・・ジークが言ってた『イヴィルスの残党』か?」
「かもしれないわね。やってくれたわねタナトス」
想像になるが、オラリオを憎んでいるのはおそらく『イヴィルスの残党』で、協力して貰い、オラリオに簡単に入れたと。戦争引き起こす条件でヴィル達を入れたと推測した。警備を簡単に突破できるとなれば、ギルドの警備はざるとしか言いようがないが
少なくとも今数で負けているのは事実。レベル2の今のヴェルフでは勝てるのが怪しいと思っている。いくら相手がレベル1の兵士でも
でもここまで来て引き下がる気はない。どんな形であろうとヴェルフは覚悟を決めていた
「下がってくださいヘファイストス様。もう覚悟はしていましたので」
「一人でやるつもり?」
「こうなることもわかっていました。だからこそ俺だってこうやって武器を持って来ました」
「魔剣は持って来ているのだろうな?」
「ああ、しっかりとな」
こうなることはわかっていた。もし要求に従わない場合は兵士でも呼んで無理にでも連れ帰ることはヴェルフにはわかっている
そしてそれに対抗し反抗するためにも魔剣をしっかりと持って来てある
ただ
「この一本だけだがな」
「は?」
一本しか持って来ていない
いくら魔剣を打てるからと言って、そう簡単に一日で何本も作れるわけじゃない。それに今日はダンジョンの帰りでもあった。半日しか猶予がなかった以上、一本作れただけでもマシだった
「半日しか時間はなかったんだ。いくら魔剣を打てるとしても、一本が限界だ。もちろんホームにも魔剣は置いてない。俺でも作れる数には限度があるんだ。時間も無いし、ダンジョンにも行かないとならない。他の仲間にも武器を作ってあげないとならない。だから今これしか無いんだ」
「ヴェルフ!私と言った事を忘れたのか!?魔剣を多く持って来なければ都市を燃やすと!そう言ったはずだ!!」
「今夜脱出すると言って、今夜までに来いと行ったのは親父だろう!ちゃんと約束通りに来た。魔剣を多く持っていなかったのは俺が今まで全部仲間を守るために使い果たして砕けたか、もう在庫も無く、今日の夕方急いで作ったこの一本だけだ。つまり・・・・・間が悪かっただけだ」
「なんだと・・・」
「それに・・・・・今都市を燃やすと言ったな?今持っている魔剣でか?」
「そうだ!!もちろん私だけではない!他の兵士達もしっかりと所持しているぞ!」
「はあ・・・」
「ん?なにをため息をしている?」
「だってな・・・・・ねえ?ヘファイストス様?」
「私でもわかりやすいくらいわかったわ・・・・」
確かにヴィル・クロッゾ魔剣を所持しているのがわかる。兵士も今自分の持つ武器をヴェルフとヘファイストスに見せている。だが二人はそれを見て驚きもしなければ、むしろ呆れた
なぜなら
「今親父が持っている武器しか・・・魔剣じゃないんだろう?」
「なに!?」
兵士の武器を見てすぐ魔剣じゃないと気づいた。もちろんヘファイストスも気付いていた。ヴェルフの魔剣を幾度も見てきたヘファイストスでも神が嘘を見抜くとは別に。簡単に兵士達の武器が魔剣ではないことも見抜いていた
「あのアレス様が、先代たちが制作した魔剣を国に保管してあるのはわかってはいるが、それを全部お前らに渡すはずがない。仮にも・・・・・・・没落の鍛冶貴族にな」
「わかっていたと言うのか・・・」
「アレスも、ヴェルフの先代達の魔剣を簡単には手放せないわけね」
「はい。いくらなんでも魔剣は念のために取っておく、多分ラキア王の慎重な行動で間違いありません。ラキア王はあのアレス様と違って物事を慎重に動く性格なんです。たくさん他国の戦争をしているのですから、その戦に負けない切り札として取っておいているに違いありません」
「なるほどね。一本だけでは・・・・・ヴェルフを無理に連れて行くのは無理じゃないの?」
「どうします!?ヴィル様!?」
「見抜かれていますよ!?」
「我らは確かに魔剣を所持していません。このままでは・・・」
「おのれ!!だが私が持つこの魔剣は本物だ!!!この魔剣でこの都市を燃やすぞ!ヴェルフ!そんな事をされたくなれば私と共に来い!!!」
「やってみろよ?」
「なに?」
「やってみろって言ってんだ。やれるものならな。俺が必ずこの『魔剣・裂進』で威力を跳ね返してやる」
「ヴェルフ・・貴様!」
「仮にこの都市を燃やしたら・・・・あんたは俺の『団長』に殺されるぞ?」
「なんだと?」
「ウチの団長様はあの『雷帝英雄譚』に出てくる雷帝様、ジーク・フリードだ。それがウチの団長だ!」
「なに!?あの英雄雷帝がヴェルフのファミリアの団長だと!?」
「ああ、都市を燃やしてみたりしろ。絶対に俺たちの団長が報復しに行くぜ?例え主神が止めてもな。都市を火の海にするなんて、後のことを考えなさすぎだ。そんな事をしたらウチの団長が一人でもラキア王国に復讐しに行ってラキア王国を滅亡させるに決まっている。そもそもステイタスを極めたここオラリオに喧嘩を売るなんて他の国でも敵わないほどだぞ。それを相手に実行するとは・・・あの主神もわからねえみたいだな」
「うう!!おのれ!!くそおおおおおおおおおおおお!!!」
いくら我が父でも、後の事を考えが足りないと呆れた
この都市を燃やしたら完全にオラリオはラキア王国を敵と見做し、報復として今度はオラリオからラキア王国を落としに行く事態にもなるかもしれない。そうなればラキア王国は終わり、ステイスを極めた全ファミリアがラキア王国と戦争することになる。例えラキア王国の倉庫に先代の魔剣を多数取っておいても、フレイヤ・ファミリアやロキ・ファミリアまで来ては勝てるわけがない
いくらヴィルの脅しにしても通用しないと、ヴェルフは例え都市を燃やされても相手がタダに済まないと思っていた
特に俺のことを考えると。俺が絶対に敵に容赦はなく、神すら殺す俺に、絶対にそんなことをすればラキアや主神も含めて皆殺しにされると。俺の恐ろしさを団員として理解した上の考えだった
だからどうあってもヴィルの願いは叶わない。このままオラリオにやられるか、大人しく自分を無理に連れ帰らずに去るか、どちらかしかなかった
その気に入らない断言に、ヴィルは
「ええい!こうなれば本当にこの都市を火の海にするまでだ!!」
「ああ!来い!!」
ヴィルは往生際が悪く、例えそうなっても構わないと、手段を選ぶ暇もなく、ヴィル・クロッゾは魔剣を取り出して、その威力をこの都市へと発揮しようとした
それに対抗しようとヴェルフも打ったばかりの魔剣を取り出して対抗する。覚悟を決めていたとはいえ、まさか本当に都市に魔剣を振り出すとは思ってもいなかったが、男らしく戦う以外手段はなかった
だが
「ヴェルフ。その必要はないわ」
「え?」
「なぜなら・・・・・・今助けが辿り着いたみたいだから」
「え?」
ヘファイストスが戦う必要がないと言い出した。その意味になにがあるのかはわからないが、ヘファイストスの言う通りに待ってみる
すると
「はあ!!」
「でやあ!!」
「ファイア・ボルト!!」
「「「「ぐわあああああ!!!!」」」」
「な!?なに!?」」
「ヘクトル!?椿!?ベル!?」
「どうやら間に合ったわね!」
「ごめん!ヘファイストス!遅くなった!」
「隠れていた兵士を探すのに時間がかかってね。今探し終えて制圧したところよ」
「神ヘスティア!?まさか・・・・イリオス王国の主神!?神アフロディーテ!?」
突然。ヴィル・クロッゾの後ろから三人の冒険者がヴィルの周囲に居た兵士を制圧した。その勢いで出て来た冒険者は、ヘクトルと椿とベル。
ヴェルフに家族の事情があることは皆も知っているため、こんなことだろうと思って、俺の指示に従って、ヴィル・クロッゾの企みを阻止するためにヘファイストス・ファミリアの協力して貰い、複数の隠れていた兵士を制圧していた
「ヘスティア様!リリ達の仕事は完了しました!」
「全て制圧完了です!」
「隠れていた兵士は全員捕らえました、今ジーク殿がギルドに引き渡しています!」
「ありがとう!サポーター君!春姫君!命君!これで僕らの仕事は完了だよ!」
「あとはその男だけよ!」
「ありがとう!ジークの言う通りに動いてくれたわね」
「ヘファイストス様?これは一体?」
「ヴェル吉。以前ロキ・ファミリアから連絡が来てな。ヴェルフの親と複数の兵士がオラリオに入り込んだと言う知らせがあってな。それでジークの提案で、ヴェルフを一人にさせれば必ずオラリオに入り込んだヴェルフの親が出てくるはずだと。お前さんを囮にしたのだ」
「は!?ジークの奴・・・・こんなことになる事を予想して対策してやがったのか!?俺を抜きに!?」
「許せヴェル吉。それにお前さんに文句を言う権利は無いぞ?なにせ・・・・今勝手にお前さんは自分の問題だと一人で解決しようとした馬鹿者だからな。ジークもお前さんの性格を把握した上での手前達の行動よ」
「ぐ・・・・確かに」
全て俺の手のひらの上
こうなる事も、ヴェルフが一人で動く事も、全て予想し見抜いていた。ヴィル・クロッゾの行動は全て俺が先読みしていた。だから事前に今日で準備をし。ヴェルフとヴィルが会話している内に俺たちは隠れている兵士を制圧
そして完了し、残るは一人のみ
「さあ。あとはあなただけよ」
「どうするんだ親父?どうせこのまま投降する気はないんだろ?」
「ああ!そうとも!魔剣はここにしっかりある!!だから脅し通りこれで都市を燃やす!!」
「そうかよ・・・」
兵士がやられたにも関わらず、ヴィル・クロッゾは引き下がらない
往生際が悪く、今持っている本物の魔剣で言った通り魔剣で都市を燃やそうとする。今にも刃から火が吹いている。威力だけは間違いなく。一振りを翳しただけで砲撃魔法並みの威力を発揮するだろう
だが
「させねえ!!裂進!!!」
「な!?」
バリン!!バリン!!
と、魔剣の火が吹かれる前に。ヴェルフは自分の持つ魔剣でヴィルの魔剣を上へと振り払い。ヴェルフの魔剣・裂進の砲火が天へと吹き出し。空に舞って弾かれたヴィルの魔剣を燃やして砕いた。
もちろんヴェルフの魔剣も砕けたが。これでヴィルの企みも潰えた。あとは本人を捕らえるのみ。
だからヴェルフのやることは一つ
「親父。あんたは・・・・・そんなに名誉が大事か!!」
「ぐは!!!」
父親の呆れた根性に、一発殴った
そんなに名誉と栄誉が大事なのかと怒って実の父を殴ったのだ。故郷を出て少しは考えも改めると思ったが。それでも飽きもせずに、魔剣を悪用していたのだ。腐っても先代の血を引いているにも関わらず、そんなくだらないことで魔剣を人殺しの道具に使おうとしたことにヴェルフは激怒した
そしてそのまま殴り倒したヴィルを無理矢理掴んで立たせる
「親父は・・・なんでそうなった!貴族などどうでもいいだろう!俺たちは鍛治師だ!!仲間のために武器や防具を作ってあげる。それが俺たちのするべきことだろう!なのになんで貴族なんか縋っている!『鉄と槌。そして燃えたぎる情熱。それさえあれば武器はどこでも打てる』『鉄の声を聞け。鉄の響きに耳をかせ、槌に想いを乗せろ!!』全部あんたが教えたことだろう!」
「っ!?」
「貴族の前にあんたも鍛治師だ!鍛治師なら!誇りを持ってそれに励むだろう!それなのにあの主神や国王の言いなりに俺たちの作る魔剣を人殺しのために使いやがって!!あれのせいでエルフの故郷も他の国々も!何人死んだと思ってやがんだ!!!」
「ぐは!!」
「はあ・・・はあ・・・覚えておけ親父!!確かに俺の魔剣は人殺しの道具として、簡単に砕けるこの武器は俺は嫌いだ。だがな!俺は決めた!!俺はもう誰も失いたくない!砕けねえ魔剣をこれから制作する!!そして、その魔剣で仲間を守る!!!俺は没落した鍛治貴族ヴェルフ・クロッゾじゃねえ!!!」
全て伝える。反抗した親父に、全ての想いを。全ての情熱を。実の父に打つように、この血を受け入れるために、自分の信念全てを父に明かす
「俺はヘスティア・ファミリアの団員にして鍛治師!!ヴェルフ・クロッゾだ!!!覚えておけ!!!!」
「ヴェルフ・・・」
「そうだよ。ヴェルフ。君は僕らの団員だ」
「まったくお熱い人ですね。ヴェルフ様は・・」
「でも・・・」
「はい。それがヴェルフ様です」
「ヴェルフ君も。なかなかに泣かせるじゃないか・・・」
「ヴェルフ・・・・・貴様・・・この愚息が・・」
今の言葉を伝えただけでも、まだ理解しないのかヴィル・クロッゾはまた立ち上がって、今魔剣でない武器を持とうとして抗おうとしている。ここまでヴェルフの熱意がある言葉を聞いても、鍛治貴族の名誉の方が大事なのか。実の息子の想いにも無視をするのか、振り払って、ヴェルフを無理矢理連れてこうとする
だが
「もういい」
「っ!?父上!?」
「っ!?爺!?」
「ヴェルフ?あなたの祖父かしら?」
「そうです。爺・・・あんたがここに居るってことは・・・そうだな?」
「ああ。お前を説得する任を受けていた。それで私もここへ来た」
後ろの建物の裏から、ある老人が出て来た。
名前は、ガロン・クロッゾ。ヴェルフの実の祖父であり
ヴェルフに幼少の頃から魔剣を強要させた張本人でもある。そしてまた彼も主神と国王の名により説得を頼むようにと、父同様にここまで来たのだ
しかし
「だが、もうやめだ。我々は身を引く」
「っ!」
「先ほどの言葉を聞いた。『鉄と槌。そして燃えたぎる情熱さえあれば。武器はどこでも打てる』そうだな。お前の言う通りだ。私たちは魔剣に縋るあまり、貴族の名誉ばかりを気にして、鍛治師としての建前すら見失っていた。もうお前を連れ戻そうとはしない」
「爺・・・」
「だがヴェルフ。その身に流れる血は一生お前について回る。一族の宿命とも言える呪いは。お前を魔剣の道へと引きずり込む。その覚悟があって言っているのだな?」
「ああ。俺は魔剣を超える『魔剣』を制作して、仲間を守り続ける。それは俺。ヘスティア・ファミリアの団員。ヴェルフ・クロッゾとしてな」
「そうか・・・・お前の意思は硬いな。まるで鉄のように・・・お前の気持ちは確かに受け取った。生意気な小僧ではあるが、見事だ。その血を受け入れれば魔剣はもう砕けることはないだろう。お前だけが魔剣を打てるのもこれで納得した。それなら行け。己の信念を貫き通せ」
ヴェルフの意思は変わらない
家族を捨てでも、今の共に生きる仲間と共に巣立ちしたのだ。もうこれ以上関わるべきではないとガロンは認識した。そして何処となくなぜヴェルフだけが一族の中で魔剣が打てるようになったのも納得した。人のためにあの魔剣を使うなどと。綺麗事もいいことだが、その言葉に嘘も無ければ、熱意もしっかりと伝わった
仮に今のヴェルフを今無理矢理連れ帰ったところで自分たちのためにもならないと。今自分たちが何をしているのか後悔し、やはり一族の方針として改める必要があると。引き下がることにした
「しかし父上!それでは国に私たちの居場所は。もう!」
「やり直しだ。我々も鉄と槌があり、燃えたぎる情熱さえあれば武器は何処でも打てる。ラキア王国にいる必要はない。我々は鍛治師だ。貴族だとかはもうどうでもいい。鍛治貴族など。ただの地位でしかない。我々の本懐を忘れてはならん」
ガロンは引き下がる事を約束した
孫にこんな大切な事を教えて貰い、見失っていた。孫に鍛治師として誇りを教えられて、情けないにも程がある。だからやり直さねばならない
やり直さねばクロッゾとして意味もなくなると、今になって自分たちが愚かだったと気づいた
そこへ
「終わったのか?俺が駆けつける必要なかったか・・・」
「おお、ジーク」
「ええ、今終わったわ」
そうして俺はヴェルフの所へ来た。兵士はギルドに引き渡した。全員殺してはいない。少し軽傷で気絶してある。引き渡しを完了し、ここへ来たが、もう終わっているようだ。今『強度な武器』を持ってくる必要はなかったかもしれない
「な!?何!?」
「貴様が・・・あのジーク・フリードだと!?」
「一年ぶりだな、ヴィル・クロッゾ。ガロン・クロッゾ、やはりお前らがヴェルフの父親と祖父だったか」
「ヴェルフ!?まさかお前の団長と言うのは・・・」
「そうだ。親父。これがあの英雄雷帝、俺らの団長ジーク・フリードだ」
「まさか・・・・貴様が・・・・・」
ヴィルとガロンは非常なまでに俺の登場に驚いている。
多分本人二人は俺があの英雄だからだと他の皆は驚いていると思うが、俺から思うに、この二人が俺を見て驚いているのは『別の理由』
それは
「お前があの英雄雷帝だと・・・・・・ディオメデス!!?」
「「「「「「ディオメデス!?」」」」」」
「ジーク君!?もしかして君があのアレスを殺しかけたと言うディオメデスなの!?」
「一年前にアレス・ファミリアを襲撃したと言ったろ?その時ラキア兵を半殺しにした結果。ラキア王国にそう呼ばれるようになった」
「ラキアの天敵があなただったとはね・・・確かにそう呼ばれるのもちょうど一年前になるわね」
「あのラキアを一人で遇らうなんて、流石はアドニスね」
「あの『筋肉バカ』が俺の故郷の居場所を探そうとしなければ、あんな事をせずに済んだ。全てはアレスが俺の敵になったことが悪い」
アレスを殴り半殺しにした。ラキア王国の天敵
ディオメデスと言うのは俺のことであり、その二つ名はラキア王国に名付けられた。
一年前ラキア王国そのものに一人で襲撃を掛けた。兵士部隊は半分を今持っているこの槍と円形の盾で皆殺しにした。駿足で隊列を全て制圧し、夢想した。そして最後に敵の陣形を簡単に崩した後で、今度はアレスを殺そうと顔を容赦なく何度も殴って連打した
結局後から来たフレイに止められて殺せなかったが、ラキア王国に恐れられた
その名前で付けられたのがディオメデス。『戦の守護者』と言う意味で付けられた名前である
「まさか・・・貴様がディオメデスとはな・・・・驚いた」
「ガロン。言うまでもないと思うが、投降して貰うぞ?あんたの兵士は全員無事だ」
『主様。この方達をオラリオに入れた者たちもたった今捕らえました。やはりタナトス・ファミリアの者でした』
「やはりか・・・・あのクズどもめ」
「っ!?我らをこの中に入れてくれた内通者まで探って、捕えたのか!?」
「大方予想はついていたからな。それでお前たちは?」
今ノームが俺の所へ戻って来た。
ノームにはガロンたちをオラリオの中に手引きした内通者を全員撃退し、捕らえるようにと指示を入れていた。その内通者も全員ノームにひっ捕らえてもらった。今頃ギルドに尋問されている所だろう。土の大精霊であるノームは第一冒険者並の強さを持っている。レベル4程度の暗殺者など簡単に倒せる
とにかく、内通者も兵士も全て制圧した。あとはこの二人が投稿すれば完了する。その答えを俺は再度聞く
「いや・・・・ヴェルフがあのディオメデスが団長であるヘスティア・ファミリアに所属しているとは知らなかった。もう我らに勝ち目はない。貴様が居ては・・・まあそうでなくても、もう我らは投降せねばならん。やり直さねばならないのだからな」
「爺・・・」
「投降します。神ヘファイストス。責任は全てこの老いぼれに。どうか他の者には慈悲を」
「わかったわ。ヴェルフもそれで構わないわね?」
「はい。ジーク・・・・・ヘスティア様もベルたちも迷惑かけて悪かったな?」
「そうだな。お前が勝手な行動をするとは珍しいこともあったものだな」
「だけど今回は君のの家族の問題だ。君が解決せねばならない話だから」
「それに今回は自身の力で親と決着をつけたんだから。今回の件は許してもらう必要ないよ」
「はい、ヴェルフ様はよく乗り越えました」
「ええ、ヘスティア・ファミリアの団員だけのことがある意気込みでした」
「誰よりもカッコ良かったですよ。ヴェルフ様」
「そうか・・・とにかくありがとうな」
「ほう、あのヴェルフにディオメデスだけでなく、いい仲間に恵まれているな」
「まさか・・・・あの愚息に・・・あのような仲間が・・・」
今回の件でヴェルフは大きくなった
家族と今度こそ逃げずに向き合った。そして熱意をしっかりと伝え。もう自分は魔剣を仲間のために使うと、ヘスティア・ファミリアの団員としての意気込みを見せた。今回でまた一歩成長できたと思う。そしてこれ方魔剣を超える武器を作ると言った。目標もでき、事件も解決したと、俺たちはそれ以上な事を言うことはなかった
ガロンとヴィルは大人しく、ヘファイストス・ファミリアの団員に連れてかれ、投降した
そしてその場に残った俺たちは
「にしてもジークが、あのディオメデスだったのかよ。なんで黙っていたんだ?」
「もう俺たちはアレス・ファミリアの侵攻を阻止する依頼をヘスティアが断ったんだ。アレスの戦争に関わる事がないなら言う必要がないと黙っていた」
「ジークさんがラキア王国を兵士を半分殺して」
「あのアレスを殴った子供か」
「ジーク殿ならやりかねませんね」
「もしリリたちがアレス・ファミリアの侵攻を阻止する依頼を引き受けていたら」
「ジーク様は真っ先にその男神様を殺すでしょうね」
「ああ。俺はあの筋肉バカが二度敵になるなら容赦はしない」
「相変わらず敵になった者に容赦がないな。アキレウスは。しかも相手は神だと言うのに・・」
「ジークよ。いつからお主はそこまで恐ろしくなった?」
「幼少の頃からだ」
「ジーク君なら神でもやるからね。本当にウラノスの依頼断って良かった」
「ジークの怒った顔を、私は何度か見たことあるけど。私ら女神でも怖いわ。アレスもよくジークを相手に生き延びたわね」
「フレイが止めなかったら殺していたそうよ?神にも恐れる男か、そんな男でも素敵よ。アドニス!」
『主様は故郷の敵になる者は容赦せずに殺しますからね。フレイ様のファミリアの時はそれは恐ろしい程ですからね』
全員俺がディオメデスとラキアに呼ばれたことに対して。全員に質問攻めされる。別に隠していたのは勿体ぶるとかはどうでもよく、単にもうアレスとは関わりが無いからと言う必要性を感じなかっただけだった
そんな事を話していると。椿が今俺の両手に持つ『円形の盾』と『緑色の槍』の方に目が行く
「ジークよ。さっきから気になっているのだが。お主の手に持つ盾と槍はなんだ?」
「そういえば僕も気になっていました。普段魔剣を持つジークさんが、僕たちの前で使った事のない武器を持っていますが、そちらはなんですか?」
「これか?これは俺の叔父たる男が俺のために作ってくれた武器だ。盾は『パラディオン』槍は『トネリコ』だ」
「その盾もそうだが、槍もものすごく強度の槍をしているな・・・」
「ええ、手前が見てもわかるぞ。ジークのその二つの武器は、見事にいい出来をした槍と盾だ」
「ああ、私から見てもわかる。その盾と槍は恐ろしく頑丈に硬いと見える。私のデュランダーナでも折られそうな槍と盾だ」
「確かに私の眼からしていい武器だと思っているわ、あなたの叔父も鍛治師なの?ジーク?」
「ああ。元は俺の母の眷属だ。今は故郷のために普通の鍛治師として働いている」
『ああ・・・『レギンさん』ですね?あの人はいい武器をいつも主様のために製作して貰いますからね』
パラディオンの盾とトネリコの槍
元母の眷属である『レギン』と言う男が、俺が故郷を守るために戦争を幾度もするため、その戦争用武器として俺のために作ってくれた武器。どんな攻撃も防ぎ、武器すら衝撃を与えただけで折ることのできる軽くて強度な盾。どんな盾をも貫き砕き、他の槍とは比べ物にならないほど軽く、素早く動けて振り回せる。
動きやすさにも強度にも特化した槍と盾だ
「ヴェルフ。お前にもこんな武器が作れる時を俺は待っている。見てみるか?」
「あ、ああ・・・」
ヴェルフに勉強になるだろうと、俺はパラディオンとトネリコを渡す。無論ただのドワーフを製作した武器。ヴェルフでもいつかこの武器のような最高の武器をいつか作れると信じて、俺は団員にドワーフが作った作品を手渡す
「す、すげえ!?・・・なんだこりゃあ!?すげえ軽い!?しかも新品みたいに汚れも無え!すげえ輝いてやがる!盾がこんなにデケエってのに!?」
「これは確かにすごいわ・・・・これをあのトールの元眷属がね・・・・・そのレギンって・・・・ヒューマン?」
「ドワーフだ。もちろん神の手も精霊の手も借りていない。ドワーフ一人で『タダの鉄』で製作した武器だ。高価な金属も使っていなければ鉱石も使っていない」
『はい。レギン様お一人でその盾と槍を製作しました』
「な!?タダの鉄だと!?」
「なのに、この強度なのか!?凄すぎるにも程があるぞ!手前でもタダの鉄でこんな物は作れんぞ!!硬度や輝きも凄い」
「本当にすごいわ・・・・・これをドワーフ一人で作るだなんて、そのレギンって言う子供はなかなかの鍛治師ね」
「レギンは俺に戦争で死んで欲しくないために、その槍と盾を俺に作ってくれた。母の子供を死なせたくない。それで千の矢ですら身を守る盾と、どんなに特攻しても決して折れず貫く槍。そんな想いであいつは俺のために作ってくれた。これを見てどう思う?ヴェルフ」
「ああ。なにもかも伝わってくる。この盾は女神の柄が彫られている。間違いなく。お前のおふくろが常にお前を守っていると言う意味をした盾だろう。この槍もそうだ。刃が物凄く鋭く、一ミリたりとも刃こぼれがねえ。こんないい武器を、そんなそこらにある鉄で作っただなんて信じられねえ」
「想いを詰めるだけで、そんな武器が限界を超えて作ることができる。冒険者だけではない。鍛治師も未知の領域や規格外な知恵を得るだけでこんな物ができる。お前もいつの日かこのような武器を作れる時が来る。俺はそれを待つ、鍛治師として日々精進するんだ。技術で何か足りないと思った時はノームを頼れ。ノームなら鍛治師のことを教えてくれる」
『お任せくださいヴェルフさん』
「ジーク・・・ノーム・・」
団長として団員の悩みとこれからの成長のために助言した
技術ならノームが教えてくれるが、それ以外の精神による迷いなら俺がなんとか助言するし。このままでならないなら、精進させるために俺のできる事をする。
あとは・・・想い人の女神にこれからどう鍛治師として、より想い女よりもいい武器を製作するかを聞けば、もう心の迷いも無くなるだろう
そうして俺はヴェルフからパラディオンとトネリコも返して貰い、撤退する
「もう俺たちのやるべきことは終わった。帰るぞ?もう少しで夜明けだ。帰って朝飯にしてから全員就寝してくれ。椿たちもすまないな」
「構わんよ。主神殿の命でもあったからな。手前たちもホームに帰るぞ!」
「それじゃあヴェルフ。また後でね?」
「ヘファイストス様も後でね?」
「二人とも朝飯までには戻ってこい」
「わかっているわね?ヘファイストス?」
「君でもここは女らしくだよ?」
「わかっているわ。ヘスティア。アフロディーテ。私も女としてヴェルフに向き合うわ」
「お、おい・・・・ジーク?ベル?」
「ヴェルフ。ヘファイストス様から助言を貰って?」
「今のお前にはヘファイストスの言葉は必要だ、二人でしっかり話せ」
そうして俺たちはヴェルフとヘファイストスをその場に置いて先にホームに帰る
二人で話す時間は今のヴェルフに必要だと思った。まあ男同士の話で俺とベルにしかわからないが、今回の事で想い人にこれで良かったのか、もしくはこれから精進するために少しは想い女に助言して貰った方がいいと思い、男として気を遣って二人をその場に残した
もちろんなぜ二人だけを残すのか、事情を知らない春姫と命とリリルカはアフロディーテとヘスティアが無理矢理ホームへと連れていく。女神二人はヘファイストスの気持ちを理解した上だ
そして残ったヴェルフとヘファイストは
「・・・・・俺・・・・間違っていますか?」
「そうとは思えないわ。あなたのしっかりとした熱意だったわ。私は少なくとも間違ってないと思うわ」
「そうですか・・・・」
「それに覚悟は決めていたことでしょう?もう魔剣を仲間を守るために使うんでしょ?」
「はい。それは間違いなく、そう決めました。とても難しい目標ではあります。先代や初代のように砕けない魔剣を打てるかどうかは・・・これからの努力によります」
「そうね・・・・ジークのあの大精霊。土の精霊ノームも鍛治師としての仕事をしているみたいだから、あの子にも色々と教わらないとね」
「はい・・・・でも聞いてもいいですか?」
「なに?」
「俺にどこにも行って欲しくないって・・・・・あれ本当の言葉ですか?」
「!?」
ヴェルフは鍛冶部屋で共に居てくれたあのヘファイストスの言葉を今でも忘れないのか、あれは本気の言葉だったのか聞いてみる。
嬉しい気持ちではあるけど、それが本当なのか聞きたかった。なぜなら毎度のことを『自分は女らしくない』などと『私は女としては不出来』だとか、女として魅力が無いみたいな言葉ばかりを吐く。そんな謙遜のような軽蔑のような言葉を吐いても、ヴェルフとしてはそうとは思ってはおらず
嬉しいからこそ、女として見ていると。あれが本当なのか聞いてみる
「ふう・・・・・そうよ。恥ずかしいけど・・・嘘ではないわ」
「!」
「私もね・・・・女なのよ・・・恋をしちゃったのよ。とても恥ずかしいけど、以前あなただけにこの右目を見せてなにも怖気つくことなく、私の眷属で居てくれるって言ってくれた時は・・・・・・女として嬉しかったのよ」
「あ・・・・確かに言いましたね」
「だからあなたがあのジークやヘスティアのために・・・友人のためにそのファミリアに入るって聞いた時は・・・少し心が痛かったわ・・・・でもあなたが友の為にやっていることだと、あなたの気持ちを分かっているから・・・ヘスティアの所に行かせたの。あなたが居なくても・・・私はあなたが働いていた鍛冶部屋にいつも暇な時は居たわ・・」
「・・・・・」
「ねえ?ヴェルフは本当にこの右目を見ても・・・私を他の神々みたいに嫌厭しないって言える?それでも無理なら・・・別に無理に私を選んでくれなくていいわ。私はただあなたが私を超える武具を製作して欲しいと、成長を見守っているだけだから」
「っ!」
そうしてヘファイストスは自ら右目に掛けていた眼帯を外した
そこにはとても人の顔をしていない。むしろ何かの火で炙られたかのような歪んだ右目をしている。女の右目にしては化物に近い右目、もはやモンスターに等しいほどだ。
ヘファイストスは長年生きているからわかる。と言うよりヴェルフだけではない。自分を愛してくれた眷族は、
だが
自分の武具にも追い付かないどころか、自分の右目を見せて怖気つき、誰も彼女を超える武具をも作れず、誰も自分を愛することなく消えた
だからヘファイストスも失礼ながら思っている
ヴェルフもその内の一人になるはずだと。自分の恋を諦めようとしている。
こんな右目をした女なんて、女神であろうと美しくない。だから女らしくないといつも自分を蔑む。別に自分を超える武具を製作してくれればそれでいい。わざわざ自分を愛して貰う必要はない。でも今だけはこの想いをヴェルフに伝える。アフロディーテが恋をするように、自分も恋をしてしまった
でも届かないと思っている。この想いも
だから今アフロディーテとトールが羨ましいと思っている
アフロディーテは誰にでも優しく、そして美の女神であり女としては美し過ぎるほどに誰でも恋ができる。そんな自分は美しさの欠片もない。右目が怪物な醜い女
そして最もここが重要でもあった。それはトールが羨ましい
トールだって自分と同じく女らしさがない。むしろトールはいつもアレス同様に考えの無い単純な女。女だと言うのにゴリラ並みに力持ち。料理は肉以外は最悪な化粧も知らない女神だと。天界の頃はそう知っていた
でも俺がトールの実の息子だと知った瞬間、羨ましくなった
なぜなら永遠に生きる自分たちに寄り添ってくれる男が居て、尚且つその間に神は子供を産めないと言うのに、俺を産んだ。これが羨ましかった
神に家庭など作れない、子供も産めない、のにトールは産んだ。つまりヒューマンの本物の母親になった。女にとって子供の母親になると言うのは、人それぞれになるが大抵は幸せな者だ。だからアフロディーテも俺に恋をして俺の子供を生み、俺の夫になりたいと。子供たちのようになりたいと、女らしい願いを持っていた
いつか右目を受け入れる男がいるはずだと、最近アフロディーテに言われて信じていたのだ
そして今目の前に現れたのだ
右目を見せても軽蔑もしなければ貶したりもしない男が、そんな男に寄り添いたい。女らしく側にいて、願うなら家庭をトールのように得たい
今だけは
女として見て貰いたい
その恋と言う熱意に、ヴェルフはこう答える
「へえ・・・・・・いつ見ても・・・・拍子抜けだ」
「っ!?」
「ヘファイストス様。まさかこの程度のことで俺があなたを嫌う事になると思っているんですか?俺は絶対にあなたを貰います。必ずあなたよりもいい武具を作って、そしてあなたと付き合って、もうあなたに働かせないくらい、女としての『家事』を俺にして欲しいです。鍛治師の仕事は全部俺に任せて、あなたは俺を支える奥さんになって俺のホームの家事をしてくれる。そんな目標を俺は今建てました」
「・・・・」
「これだけは言っておきます。あなたに鍛えられた俺の熱は。この程度じゃあ冷めやしない」
「・・・・・・」
「だから絶対に諦めませんから、俺は鍛治師で屁理屈で負けず嫌い。特にあなたに掛けては絶対です。必ずいつかあなたを貰います。いいですね?」
強引ではあるが、しっかりと自分を求めてくれた
そんな言葉を聞いたヘファイストスは・・・・
涙を流した
「っ!?ヘファイストス様!?」
「あ、気にしないで、これは悲しいとかじゃないから・・・」
ああ、嬉しかったと、ヘファイストスは『右目』からも涙が出た
こんな言葉を言ってくれた子供は今までいなかった。あんな言葉を言われれば嬉しくて涙が右目からも出てしまった。ここまでの褒め言葉は一回もない。特にこの右目の事に関して、怖気つくことはない。
ただ求め、超えてより自分よりも腕を付け、もう男としての仕事をさせずに女として生きて貰いたい。それも自分の妻に
ここまで求婚と変わりない言葉を出したのだ・完璧なる熱意で言ったのだ。嘘ではない
誠の言葉だった
「そう・・・・」
「っ!?ヘファイストス様!?」
そう言ってヘファイストスは今度は前からヴェルフを抱きしめた
この人なら必ずその日が来て、自分を女にしてくれると信じて抱き寄せ、この人なら全部受け入れると、信じて一言
「待っている」
「っ!」
「その日が来るまで待っているから・・・私を取りに来て?」
「はい!!!必ず絶対に!!!」
ヴェルフは硬い意志を作り、この目標を必ず達成してみせると誓う
必ず彼女よりもいい武具を製作して、必ずこの人を伴侶にすると。絶対に燃え尽きることのない熱意と夢を持って。この道を貫くのだった
その後二人は共にヘスティア・ホームに帰り、もう朝になってしまい、朝食を食べていた。その時に二人が楽しそうな顔をしているのを。俺たちは満足そうに想いが届いて良かったと思っていた
今回の事件で被害などはなかった
もちろん兵士は全員捕縛。ガロン・クロッゾやヴィル・クロッゾも含めて、今ギルドで内通者と共に尋問し、セクメト・ファミリアにはまたも大きなペナルティとブラックリストに載せられ、ヴィルとガロンは今回の事件の経緯をギルドに話し、どのタイミングでアレス・ファミリアが来るかを証言する。そしてアレス戦争が終わり次第。兵士も含め解放すると言う方針に決まった
今回の事件でヴェルフも魔剣に真剣に取り組む事になった。まあ彼の成長するための試練として
俺は一件落着だと。ギルドに報告するのだった
のだが
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ヴェ、ヴェルフ」
「今更後悔しても遅いぞ?」
「なんだよ!?あなたに鍛えられた俺の熱は冷めやしねえ!?馬鹿か!?そんな恥ずかしい言葉をヘファイストス様に言っちまうなんて!?俺の馬鹿!!!!」
あの後、朝の食事を終えた後。寝たい者は好きに寝て構わないと、寝る事なく一日もぶっ飛びで働いたと言うのに、ヴェルフは鍛冶部屋で一人で床に寝転がって頭を両手で抑えて暴れていた
どうやらあのヘファイストスに告白したようなのだが、その時にあまりに度があり過ぎるような、誰もが聞いて恥ずかしい言葉を無我夢中で吐いてしまったようだ。
しかも想い人の前で
「どうしますか?ジークさん?」
「放っておけ、言ってしまった言葉にもう取り返しもつかないんだ。俺たちが何を言ってもこればかりは助けてやれん。本人の気の済むままにしてやれ」
「くそオオオオオオオ!!!俺の馬鹿野郎!!!」
そうして俺はこればかりは助けてやれんと、ベルと共に鍛冶部屋から出ていくのだった
何を言っても聞かないようだと、本人が気が済むまで暴れさせた方が少しは気も済むだろうと、こればかりは本人の精神の問題なため、助けることは不可能だった
そして俺たちはしばらくホーム内を歩いて、先ほどのヴェルフは言葉について本当に恥ずかしいのかどうかお互いに話す
「疑問なんだが、ヴェルフが先ほど言っていた『あなたに鍛えられた俺の鉄は、冷めやしない』と言う言葉なんだが、そんなに恥ずかしいか?」
「ですよね?僕はいい言葉だと思います。まるで英雄が師に鍛えられて、その師に対しての感謝のつもりで言うように」
「まあ・・お前の英雄譚好きな表現とは俺は少し違う疑問なのだが、相手の心を伝えるには十分な言葉だと思うがな・・・・・・・ん?」
「どうしたんですか?ジークさん?」
「あれを」
「ん?・・・・あ」
そう言って俺もベルもあの言葉が恥ずかしいとは思えなかった
ベルは英雄譚好きで物語に出てくるような台詞で好きだと。そう言う表現として捉えているいるのだが、俺だって恥ずかしいとは思えない。相手を伝える言葉として十分な言葉だと思っている。まあ・・・・・単に恥じらう心が無いから、そう思えないだけだろうと思うが
すると
「それでね!それでね!ヴェルフがね!」
「嬉しそうに言うね?」
「恋が実って浮かれているのよ。女らしさがやっと出てきたわね」
「あれは・・・」
「ヘファイストス様とヘスティア様とアフロディーテ様ですね?」
通りかかった、リビングのドア越しで、部屋の中で声が聞こえたため、皮肉ではあるが盗み聞きをしてしまう
「あの子たらね『貴方に鍛えられた俺の熱は、冷めやしない』、なんて恥ずかしいことを言うの!もう、本当にあの子ったら・・・」
「やっとヘファイストスが乙女らしくなったけど・・・これ7回も聞いたんだけど?」
「まあいいじゃないヘスティア。あのヘファイストスやっと女として恋を見つけたのだから、もう少し付き合ってあげましょ」
「「・・・・・・・・」」
と、完全に惚気ていたヘファイストスが居た
無理矢理ヘスティアとアフロディーテに話を付き合わせて。あんな幸せそうなヘファイストスはおそらく今目の前で無理矢理聞かされているヘスティアやアフロディーテもそうだが。俺もベルでも見たことがない
ヴェルフに自分を伴侶にしない方がいいとか言っておきながら、やっとその恋愛対象にされて嬉しいようだ
だが
「ベル・・・」
「はい・・・」
「ヴェルフにはこの事は内緒にしてやってくれ、さもなくばあいつが灰になるかもしれない」
「そうですね。あと今これを聞いていないリリ達にも伝えておきますね?」
「頼む、俺もペルセフォネとエイナとヘクトルに、ヴェルフにこのようなことを言わないように、事情を説明せねば」
惚気ていたこのヘファイストスの言葉を絶対にヴェルフに聞かせないように、俺たちは後でヴェルフ以外の全員に説明をし、必ずこの事は秘密にするように頼んだ
今の状態でヴェルフが聞いたら、
確実に冷めるどころか、逆に恥ずかしさのあまり燃え尽きて、灰になるかもしれないと
恥じらいで苦しがっている今のヴェルフには火に油を注ぐ行為にしかならないと。余計な事も茶化すこともさせないように、全員に指示をした。ヴェルフの命が燃え尽きないために
俺とベルは男として気を遣った