ニーベルンゲン・シックザール〜竜殺しの英雄譚〜   作:ソール

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聖火の心火編
ベルの祖父キュロスとこれからの対策


男神キュロス

 

俺たちの力になるため、遥々ここまで来てくれた。なんの神かはまだわからないが、少なくとも俺たちの味方である。助太刀を頼んだの俺ではあるのだが

 

俺よりも、この人物を知る者が居る

 

それがベルだ

 

 

しかも

 

 

「おじいちゃん!!」

 

「うお!?なんだベル?少しは大きくなったと思ったんじゃがな。まだ子供のままだな」

 

「おじいちゃん!死んだって村の人が聞いて、でも・・・・・やっぱり生きてた!」

 

「もう14歳を迎えたと言うのに、まだまだお前も子供だったてわけか、まったくお前は本当に、仕方のない子じゃ」

 

 

「おい、あれがベルの爺さんなのか?ジーク?」

 

「ああ、ベルの本当の祖父ではないが、男神でありながらベルの育ての親として、ベルの故郷で主神をしていた男だ」

 

「でもジーク様、あの神様、他の神よりも神威の強さが・・・・」

 

「奴も一応大神だからな」

 

「でも・・・キュロスと言う、大神なんて聞いたことないのですが・・・」

 

「大神なんて、お前達の知らない神などいくらでも居る。たまたま聞いたことのない男神に出会っただけだ」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「どうしたイリア?お前もあの男でも知っているのか?」

 

 

「い、いいえ、私も知らない神よ」

 

 

「そうか・・・・・」

 

 

ヴェルフ達はキュロスを見て、少し足を震えている

 

キュロスはこれでも神威を抑えている方だ。これが大神と言う、他の神よりも最上級の神の神威である。俺の爺さんはマジックアイテム越しだから、目の前に居るわけではないが、もしも大神が目の前に居たら、すぐにこの神威の重さで誰もがひれ伏すのが多い

 

下手すると跪くであろう。でもベルと俺は通用しない。ベルはキュロスが育ての親、俺も最高神オーディンを祖父に持つ、普段暮らしている家族だから神威を感じても慣れているからなのか感じず、ベルはそんなキュロスでも行方不明となった祖父に出会えて、再会を祝して泣きながら抱きつくくらい平気である

 

でもイリアはどうだろうか

 

まあ、とにかく現状を知らせる

 

 

「ベル。祖父に再び出会えて嬉しい気持ちはわかるが、今は現状報告だ」

 

「は、はい」

 

「キュロス。見ればわかると思うが・・・・ヘスティアは俺たちを見捨て、プロメテウスの頼みを引き受けたが、やり方は残酷にも自己犠牲を選んだ」

 

「予想以上に、天の炎の穢れが膨れ上がる寸前じゃろうな、ヘスティアも限界を感じたのだろうな」

 

「ここまで来てくれたからには、力を貸してもらう、構わないな?断ったらどうなるかはわかると思うが?」

 

「あの男に似て、本当にタチの悪いことを考えとる、ワシは大神でもあるのじゃぞ?その大神に脅迫をするとは、お前はそれでも人間か?」

 

「じゃあ断るってことでいいんだな?」

 

「わかった。やる。やればいいんじゃろ?」

 

「それでいい。お前にも関係することなんだ。それに俺が呼ばなくてもここに来るつもりだったんだろ?」

 

「まあな、プロメテウスのすることをワシが見逃したのも、また事実だからな」

 

「お祖父ちゃん。プロメテウス様に会ったことあるの?」

 

「一度だけな・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

キュロスは一度イリアを見たが

 

それだけで今の状況がどうなったのか、詳細を言わなくてもわかるようだ

 

俺も今回は奴の力がないとヘスティアが犠牲になる。キュロスには脅しを入れてでも、ヘスティアを犠牲を阻止する

 

俺とてヘスティアの眷属だ。おふくろやフレイのように犠牲などさせない。反逆を芽を潰して、俺たちの気持ちは変わらない

 

ここから先は彼女に抗う人間の底力を見せる物語だ

 

 

「さて、協力を頼むと言うが、俺たちは恩恵を封じられている、その前提で、この現状を打破するためにどうしたらいいか、キュロス。お前はどういう考えで行こうと思う?」

 

「まずは一度拠点にする場所に移って、武器を整えてもう一度挑むしかないじゃろうな、あの結界はお前さんならなんとかしてくれると思うが、他のモンスターやあのエピメテウスとか言う男も居る。敵は多く居る。その中で再度ヘスティアに挑むのは無謀でじゃろうな。特に・・・・その恩恵が無くなった状態の『本来の重さ』に慣れていない以上は無理であろうな」

 

「「「「「っ・・・・・・」」」」」

 

「俺もそう考えていた。だがあまりに猶予がない。あって・・・・・明後日だ。明後日にはヘスティアの儀式が完成してしまう」

 

「そうじゃろうな。それまでにヘスティアの儀式を阻止できる準備しなくてはならん」

 

「準備って?」

 

 

「決まっている。ヘスティアに抗うために、恩恵のない『人間の力』だけで戦うしかない」

 

 

「「「「「え!?」」」」」

 

 

恩恵を封じられた状態で戦うしかない

 

神々が降りる前から、人間は知恵や武器を取ってモンスターと戦った。もちろん魔法やスキルは使えないが、それでも戦った

 

だから俺たちも、神の力に対抗できるように、ステイタスのない戦法を取るしかない

 

そうでなければヘスティアを助けられない

 

 

「でも!恩恵がない私たちに敵うのでしょうか?」

 

「じゃあ諦めるか?ヘスティアを見殺しにするのか?」

 

「それは・・・・・」

 

「神々が降りる前から、俺たち人間はモンスターと戦ってきた。死に物狂いでもあったが、それでも知恵や武器を揃えて戦うしかない。英雄アルゴノゥトだって神々が降りる前から己の力だけで国や王妃を助けてきたんだ。人間の力を発揮する。そうしなければ・・・・・ヘスティアは死ぬ。それだけだ」

 

「・・・・・・やりましょう。みんな」

 

「ベル?・・・・・」

 

「このまま神様を見殺しになんてできない。ジークさんの言う通り、恩恵のない状態で戦う手段を身につけるしかない。それでやろう。みんなはこのままでいいの?」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 

ベルはもう腹を括っている

 

ベルも主神が代償に掛けられていて、我慢できずに、何がなんでも足掻いてヘスティアを連れ返すと、この現状を変えるために、限界や不可能を越えようとした

 

ベルも主神を助けるために、泥水を啜ってでも足掻くことを選ぶ。全ては主神を救うために、

 

その言葉にみんなは

 

 

「くそ!またこうなるのか!でも・・・・諦めるなんてできないよな!」

 

「ヘスティア様の頬を叩いてでも、やりましょう!」

 

「このままなんて、納得いきません!」

 

「ええ、ヘスティア様のところへもう一度行きましょう!」

 

 

「決まりだ。キュロス、イリア。お前らも手伝ってもらうぞ」

 

 

「ワシの力が必要とは思えんな」

 

「私も手伝う、私もそうさせた責任があるから」

 

 

抗う決心は付いた

 

もちろん不可能であることは百も承知。でもそうでもしなければヘスティアは救えない。ヘスティアの言う通り、『英雄』『眷属』は不要だ

 

これは俺たちヘスティアの眷属の物語だ

 

恩恵がなくとも人間の力がそんなものではないと、今俺たちが証明するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、今は抗う術と休める拠点に移動する。

 

その場所は

 

 

「この先にアフロディーテ様の拠点があるんですね?」

 

「ああ。迎えは用意してある。この先に小島がある。今はそっちに移動する。まずはオリンピアからなるべく離れる。あっちは敵だらけだからな」

 

「ウンディーネ様達は無事でしょうか?」

 

「問題ない、ウンディーネとノームはリュー達と別の方向へと、オリンピアに離れている魔力を感知した、そこにヘルメスもヘファイストスも居る。なんとかオリンピアに離れたようだ」

 

「なんとか合流できないですか?」

 

「無理だな。向かって方向が離れすぎている。向かうにも・・・今の俺たちでは敵に見つかって追い込まれたりもしたら終わりだ。今エピメテウスだって血眼で俺たちを探している頃だろうな」

 

「エピメテウス様・・・・・」

 

「あの男がエピメテウスだったなんて、三千年も生きているってことだろう?あり得るのか?」

 

「キュロス。天の炎で可能か?」

 

「可能じゃ。天の炎は寿命を長くする力も確かにある」

 

「不老であっても、不死ではないんだな?」

 

「ああ、不死ではない」

 

「エピメテウスも倒せると思えば倒せる。ま、あいつは神器もあるわけだから、簡単にはいかないと思うがな」

 

「炎に焼かれた炎人に、エピメテウスが率いる兵士たち、三つ巴の戦いになりそうですね」

 

 

ひとまず、抗う術を整えるために一度アフロディーテが拠点する小島へ向かっている

 

本来ならリュー達と合流したいのだが、ヘスティアにあらぬ方向に吹き飛ばされてしまい。リュー達と合流が難しい距離となってしまう。ウンディーネとノームをこっちに召喚させたいが、恩恵を封じられて精霊召喚もできない。だからサラマンダー達も呼べない。幸いアフロディーテが拠点する場所には近いため、止むを得ずその場所へ向かう

 

リュー達も無事であることは魔力気配で感知済み、そこに巫女長のレアも居る。なんとか無事にオリンピアから離れたようだ。

 

 

しかもリュー達の近くに・・・・・あの『二人』が居る

 

なんでよりにもよってあの二人が一緒にいるかはわからないが、『片方』がここに居ることは不快でならない

 

 

とにかく合流は難しい、オリンピアから炎に焼かれたモンスターや炎人も外に出て来て居る。今戦えるのは俺だけ、その状態でモンスター達に囲まれてでもしたら終わりだ。いくら俺もステイタス利用できなくても大昔から鍛えてはいるが、それでも全員を守りきれない可能性もあるため、なるべく戦闘は避けるルートへ行く

 

だが、今日はアフロディーテが待っている浜辺までは辿り着けそうになる。まだ海の塩の匂いもしない。皆もヘスティアの炎を受けて疲れ来ている

 

今は休むべきだと、どこか休める場所を探す

 

 

すると

 

 

「っ!洞窟がある。運が良いな、まずはあそこで休もう。夕食を取って少し仮眠したら出発する」

 

 

ちょうど真横に運良く大きな入り口がある洞窟を見つける。中にはモンスターも人もいないと感知に反応はない。

 

休めるにはちょうどいいと思い、今は腰を休める

 

 

その間に食事を済ます。食材は念のために俺がパンドラボックスから食材を出す。これはステイタスではなくマジックアイテムであるため、まだ使える

 

焚き火をして、俺と命と春姫で料理をし、その料理を食べながらある話を進める

 

それは

 

 

「英雄エピメテウスは何が目的でこんなことをするんですか?イリアさん?」

 

「エピメテウス様は穢れた天の炎を悪用して地上を焼き払うことを目論んでいるんだわ」

 

「なんでそんな有名な人物が、世界の敵になろうとするんだよ」

 

「決まっている。エピメテウスは俺と同じだからだ」

 

「え?どういうことですか?ジーク殿」

 

「俺から聞くより、英雄譚好きであるベルと春姫に聞いたほうがいい。なぜ奴がそんな目的で俺たちの敵になるのか、無論彼の過去に原因があるが、その彼の英雄譚を二人が知っている」

 

「はい、知っています」

 

「詳しく話しますね」

 

 

エピメテウスがなぜ俺たちの敵になるのか

 

未だにヴェルフ達は理解できない。英雄と呼ばれた三千年前の男が、なぜ俺たちの敵になるのか、

 

それはもちろん彼の過去に原因がある

 

俺から話すよりも、英雄譚好きであるベルと春姫の方が詳しいはずだと、二人から彼の過去について口を話す

 

 

 

英雄エピメテウス

 

 

アルゴノゥトやフィアナ騎士団よりも前の時代、三千年前に存在したと言われる古の大英雄、元はタダの神官であるがプロメテウスが地上に落とした『天の炎』の力を初めて使った男でもある。原初の火の恩恵を受けてオリンピアからモンスターを完全に駆除するなどの、英雄に称えられる程の功績を残した。元々は高潔で英雄らしい性格をした人物である、プロメテウスから炎の剣を受け取り、その時からオリンピアを初め、数多の国や人を救い続けて来た。だから名前だけなら知らない人間はあまりに少ない。それだけ伝承がある大英雄である

 

が、しかし

 

徐々に敵が強くなることも多くあり、その強敵の討伐遠征に尽く敗北を重ねてしまう。原典によるとベヒーモスやリヴァイアサンなど、古代モンスターにも立ち向かっているとか、それでも敗北を重ね続けてしまい、助けの手は届かず世間の評価は真逆の物となってしまった

 

『どうして俺たちを助けてくれなかった!』

『お前が俺たちを救ってくれると思ったのに!』

『この嘘つき!何が英雄だよ!』

 

などと、少し助けきれなかった。それだけでエピメテウスは人々に非難を受けることとなった。それだけでなくその戦い戦死した仲間の墓すらも建てられず毎日苦労される日々を送り、その後突然と姿を無くした

 

 

「その後は行方不明になったりとかで、一説によると子孫が居たとかで、生涯の最後は書かれていません」

 

「今まで人々のために戦い続けて来たのに、それでも彼を世界は蔑んだんです。しかも仲間の墓も建てられないなんて」

 

 

「酷でえな」

 

「はい、酷すぎます」

 

「名前だけはリリも聞いたことはありますけど、そんな残酷な扱いをされる英雄だったなんて・・・」

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

ベルと春姫の口からエピメテウスの英雄譚を改めて聞いたヴェルフとリリルカと命は、ひどい話だと。英雄譚として夢もない話であった。まあ英雄など、目的が果たされなければ罪人か犯罪者と変わりないからな

 

人々のために戦い続けても、全部救いきれないなら、こういう仇を取ってくる。ヴェルフとリリルカと命は、エピメテウスの英雄譚を聞く限りでは虚しさの同情を感じる。もしも自分たちもそんな体験をしたら、もしかしたら世界を憎んでいたのかもしれないと想像する

 

エピメテウスの名前は知っていても、それに憧れる者はいないと聞いたことはあるが、まさかそんな事実があったとは三人は思わなかった

 

だから、今だけはエピメテウスに同情はしている

 

 

しかしだ

 

 

 

「今の話を聞いて酷いと思っているが、もうお前達は一ヶ月前に、『俺の素性を世界に知られて』思い知っているはずだぞ?」

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

 

そう、俺もエピメテウスと同じだ

 

 

俺は世界のためではないが、黒竜を討伐した。全てはそいつから奪った『我が兄』のために、だが兄から授けられた神器を使っても黒竜は倒せない。心臓を自身で喰らいつかなければ、己の体を器にしなければ倒しきれないと、人間の姿を捨てる道を選んだ

 

無論、その姿を見た俺を人間として扱ったのは、家族や故郷や友人のみ、もしも知らずの人間、いや・・・・事情を知っていたとしても、誰も人間扱いしてくれないだろう。例えその黒竜の力で世界を救っても、結局のところは人間の本質で英雄の全てが終わるのだ

 

英雄の苦労する唯一の欠点は『全員は救えない』と言うこと、その苦しい現実を俺は知っていた。二年前に裏切られたその時から、騙された全てに

 

だから俺は自身の関係者だけ守ることを選んだ

 

それで死んでも本望。

 

 

エピメテウスも、俺と同じ人間の本質に蝕まれた

 

 

俺と同じ哀れな英雄だ

 

 

「エピメテウスも、当時は俺と同じくまだ幼い子供だったのだろう。世界の現実を知らない英雄が、その仕打ちを受け、戦死した仲間も時代に残せず、世界に恨みしか残らず、世界を壊すことを選んだ。俺もヘスティアやお前らに出会わなかったら、俺もあんなやつになってたかもしれないな」

 

「確かにな・・・・・俺も市民の連中に怒りをぶつけたかった」

 

「受け入れがたいかもしれないですけど、人権を剥奪されそうになりましたからね。ジーク様は」

 

「ジーク殿も私たちが居なかったら、こんな結末になっていたでしょうか?」

 

「エピメテウスを憧れる人はほとんど居ません。今でも愚物だと言う方がほとんどですからね」

 

 

「ジーク。お前さんも苦労しているのだな?」

 

「英雄ヘラクレスなんて言われているけど、なんか苦労しているの?貴方も?」

 

 

「まあな」

 

 

俺もエピメテウスと同じだ

 

英雄に失敗は許されない。失敗すれば最後、もうその資格は剥奪される。

 

その先に救いは

 

 

仲間が居るなら救われるが、居ないなら孤独で終わるしかない

 

 

俺はベル達がまだ居て、俺の正体を知ってそれでも共に戦ってくれて、今もオラリオに居る

 

エピメテウスは誰も居なかった。寄り添ってくれる仲間も居なかった。だから結局復讐を執行してしまう

 

 

皮肉かもしれないが、これが英雄の地獄の道だ。世界を救うなんて滅多なことをすると、その分の代償が伴う、その救いを完全にしなければそれが不幸に繋がる

 

だから俺からすれば英雄なんてロクなものではない

 

自分の人生を不意にする。最悪な名誉だと言う

 

 

 

「それでも僕は・・・・・エピメテウスは憧れだった」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「ベル・・・・お前・・」

 

「ベル・・・・・・」

 

 

「そう言うだろうと思った」

 

 

ベルはそれでも憧れだ

 

確かに最終的には酷い結末を送ることになった。全てを救うだなんて、神の力を持ってしてでも成し遂げることはできなかった。

 

それでもベルは憧れる

 

彼は英雄であるなら誰でも憧れるのであろう。多くを救う偉大なヒーローになりたい。その夢を、俺の現実を突きつけられる姿を見ても尚、それでも求める

 

何がそこまでこいつを、馬鹿以上の愚か者に育ったのかは知らないが

 

でも、ベルの考えがわかる

 

 

「ベル。お前は最終的にああなっても、救いは間違ってないと思い、それでもあいつを憧れるか?今敵になったエピメテウスを?」

 

「はい。それが僕の答えです」

 

「そうか、やはりお前ならそうすると思った。そう思わないかキュロス?」

 

「まだ子供ではあるが、やはり驚かせてくれるな。ベル」

 

 

嗚呼、ベルはやはりこうだ

 

英雄に憧れる新米英雄。そう呼んでもおかしくない。リトル・ルーキーと呼ばれる理由もわかる。まさしく子供の素直な顔、なんて言うのだろう。嘘をつけない真っ直ぐな子供。

 

最後は己の全てを投げ捨てられる現状を前にしても、おそらく人を救う道を選ぶだろう。女にモテたいからなのか、理由は様々だろうが

 

 

この優しい少年なら、エピメテウスでも敵わないだろうなと、俺は思う

 

 

だから決めた

 

 

「ベル。エピメテウスはお前が倒してもらう」

 

「え!?僕がですか!?」

 

「憧れているなら倒せ。お前しかいない。あいつを倒せるのは、そうだろうキュロス?」

 

「ああ。英雄に疲れ果てたあの男なら、ベルが天敵になるじゃろうな」

 

「もちろんキュロスに奴を倒すための修行はさせるつもりだ。お前が止めろ。あの男を止められるのは、世界に絶望を知ろうとも英雄に憧れるお前だ。なんとかやって見せろ。でなければ英雄にはなれないぞ?」

 

「は、はい!!」

 

 

どんな絶望を受け入れてでも乗り越えるのが、真の英雄だ。神様の想像通りに動くようでは強くなければ絶望にも敵わない

 

常に絶望の中で輝き続ける者だけが英雄になれる

 

ヘスティアを亡くした今のベルならできるだろう。英雄になるなら代償を掛けられているくらいがちょうどいい

 

 

「ヴェルフは、あのエピメテウスに対抗できる神器を造るしかない。あのオリンピアには鍛冶屋がある。そこで制作するしかない」

 

「神創武器を!?俺が!?」

 

「あいつだって神器を使うはずだ。それに対抗できる神器をこちらも使うしかない。それができないならヘファイストスを超えることは不可能だ」

 

「っ!?」

 

「神に頼るな。己の熱だけで鉄を打て、さもなくば神を超える作品を超えられるものか、その手で果たせ」

 

「お、おう!」

 

 

エピメテウスだってプロメテウスから授かった神器である『炎鷹の剣』を使うはずだ。

 

それに対抗できるのは神器だけ、その神器をベルのために制作して挑むしか、エピメテウスを倒すことは不可能。

 

それを果たせるのか、これがヴェルフの今回の試練。今度は神の助けもない状況で神器を造るしかない。

 

それができないなら終わるだけ、血を流しても果せと今回のヴェルフの仕事を言い渡す

 

 

「次は命。お前もベルと同じく、恩恵を封じられようが、自慢の剣捌きで敵を斬れ。技など不要。必要なのはその剣捌きでいかに相手を速く仕留められるかだ。お前にはあの巫女どもの相手をして貰う。あの巫女達は神託の言うことを聞いて、敵になっているはずだ」

 

「自分はヘスティア様に辿り着く道を斬り開くというわけですね」

 

「ああ、タケミカヅチがなぜお前に刀の振り方を教えたか、この時が来ると考えた上で、お前に教えたのかもしれない。もちろんそれでも足りないからそこもベルと一緒にキュロスに教えて貰え」

 

「はい!」

 

 

命は恩恵が無くとも、武神に教わった剣術で敵を斬って道を作るのが、今回の命の試練だ

 

恩恵を封じられようが関係ない。そうでもして戦うしか道がない。極東人は恩恵がなくとも『剣術』と言う戦法がある。それを活用して戦う

 

俺とて恩恵を与える前は、おふくろとフレイで修行をした。それでドラゴンを5歳の時に殺した。人間の限界を出し尽くせば勝てる戦もある。だが今回は例外、出さなければヘスティアを失うだけ、だから恩恵がなくとも武器を上手く扱う。それが命の試練

 

 

「リリルカと春姫は、これをやる」

 

「これは?」

 

「いろんな・・・・マジックアイテム?」

 

「恩恵は封じられてもマジックアイテムは使える。これでなんとかオリンピアの結界ではなく、神殿の結界を破壊する手段を探せ。あの外壁の結界を超えても、ヘスティアが篭っている神殿にも結界が貼られている。リリルカは知恵や判断をフル活用にして突破口を見つけろ、春姫はそのマジックアイテムで回復薬なりなんなりで全力でサポートだ。今更恩恵がなくとも自分の力になれることを探せ、足手纏いなんて言われたくないならな」

 

「「っ!?」」

 

「レベル1で戦う他ないからと言って甘えるな。お前達二人は今まで俺たちにサポートをやってきた。血反吐を吐いても自分のできることを探せ。足手纏いで終わるなよ?」

 

「「はい!!」」

 

 

リリルカと春姫には力がない。

 

だからと言って足手纏いで終わらない。なんでもいいから皆の役に立てることをする。小さなことでも構わない。皆の役に立ってでも戦う他しかない。

 

弱いからと言って甘えず、今俺が渡した全てのマジックアイテムで全員サポートする。それが今回のリリルカと春姫の試練

 

 

「そして・・・・残るは俺だ」

 

「ジークはどうするんだ?」

 

「俺はあの神殿に侵入して、ヘスティアを・・・」

 

「神様を?

 

 

俺は今回直接ヘスティアの元へ行く。それで俺がヘスティアに何をするのか

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頬を殴ってでも、俺達の気持ちをわからせてやめさせる」

 

 

「「「「え!?」」」」」

 

「ふははは!!やはり『あの男の息子』じゃな!!自身の主神を自ら殴るに行くとは!」

 

「ほ・・・・本気!?ジーク・フリード!?」

 

 

「ああ。あの馬鹿妹に、こんな不始末をさせたゲンコツを喰らわせてやる」

 

 

俺はヘスティアに怒りを感じている

 

あの馬鹿妹が世界のために犠牲になって俺たちを救い、俺に嘘を付いてまで実行したこの不始末を

 

絶対にあの『ぐうたら女神』に思い知らせてやると

 

恩恵が封じられているのに、若干カオス・ヘルツが発動し掛けている。

 

 

「初めてだ。自身の主神に怒りを覚えたのは、ヘスティアまでもフレイとおふくろと同じ道を歩むだと?俺に嘘をついた挙句に相談もしないで勝手な真似をするとは・・・・もう遠慮など要らないみたいだからな!!!」

 

「「「「「げ!?ジーク(さん)(様)(殿)が久しく怒っている!?」」」」」

 

「まあ、確かにヘスティアが眷属に黙って勝手なことをしたのじゃから、悪い気もするが・・・・」

 

「まさか自身の主神に怒りを向けるって・・・・・本当に彼?英雄?」

 

 

何が神が決着たる物語だ

 

そんなものはヘスティアには絶対に決めさせない。俺が覆してでも、あいつを殴ってでも、あいつを蹴り飛ばして、絶対に儀式なんて全てぶっ壊す

 

家族に怒りを持ったのは生まれて初めてだ

 

その怒りを、明後日にて決着をつける

 

 

「俺はヘスティアを半殺しにして連れ帰る。文句ある奴は居るか?」

 

「「「「「いいえ!!ありません!!!」」」」」

 

「本当に似とるな。あの男そのものではないか」

 

「あははははは、あの黒竜を倒したヘラクレスがこんな怖い人なの?」

 

 

傲慢と言ってくれても結構

 

それだけヘスティアのしたことは許せない。家族に嘘をついてでも世界を救うために自信を犠牲にするだと?

 

俺が許可してもないことを勝手にするとは

 

 

やはり神々はクズだ!!!

 

 

これだから神々は許し難い。おふくろもフレイもそうだが、勝手な振る舞いをすることが多すぎる。神だからと言って何をしてもいいと思っているなら大間違い

 

俺がヘスティアの全てに怒りを込める

 

と、俺は自身のヘスティアに怒りを完全に覚えてしまい。そんな勝手なことをするなら殴り潰してでも連れ帰る。家族として怒ることを選んだ

 

 

「もう全員仮眠をしろ。俺は眠ることはできない。だから俺が見張りをするから、早く寝ろ。四時間経ったら出発する」

 

「「「「「は、はい」」」」」

 

 

そうして全員に今回やるべきことを伝えて、その場に俺以外全員眠りに浸からせる。無論俺が眠ることはない。だから俺が見張りをする

 

今日の疲れがデカイのか、ベル達はすぐに眠りに付いた

 

 

 

「ジーク。お前さんワシを呼ぶには、お前さんだけで十分なようだ気がしてきたぞ」

 

「私も、貴方がここまで言い張るなんて、この男神様の助けなんて要らないと思っているわ」

 

 

「ほう、キュロスはともかく、イリアがそう言うとはな」

 

 

だがキュロスとイリアはまだ起きている

 

俺にまだ聞きたいことがあるのか、眠りに至る前に、俺にいくつか質問をしてくる

 

 

「そんなことを言うが、それはお前の『嫌いな好好爺』だからだろう?」

 

 

「っ!?何が言いたいのよ?」

 

 

「俺はお前もキュロスも『正体を知っている』と言っているんだが?」

 

 

「っ!?」

 

「そうじゃぞ。お前さん。イリアとか言う名前で偽名を名乗っているようじゃが、ジークには通用せん。この男は半神じゃぞ?儂等の神威だって簡単に見分けが付く」

 

「もちろん神名は言わなくていい。言わなくてもわかるからな」

 

 

イリアもキュロスも正体を知っている

 

二人とも偽名を名乗るとは、一体どう言う理由でそんなことをしているのかは言わなくてもわかるが、どの道二人がここで俺たちに加勢しているのなら、正体を言わなくてもわかる

 

 

「っ!いつから気づいていたの?」

 

「最初からだ、お前警戒心強い割にはそれで神威を隠したつもりか?正体を知るのはとても簡単だった。おまけに自身にステイタスを付けて眷属らしいことをするなど、余計お前が『女神』であることは明白だ」

 

「まったく・・・・だから何度も私の顔を見たのね?」

 

「わかりやすかったさ、とても、だが・・・・・どうして俺たちの味方をする?」

 

「それは・・・・こんなの、流石に間違いだと思うから」

 

「はあ・・・・・・嘘ならマシな嘘を付け」

 

「え?」

 

 

イリアがどうして俺たちの味方をしているのかは知らないが、少なくとも自身の行いを間違っていると気づいたからと言うが

 

それは違う

 

そんなことを思うなら、最初から依頼なんてしない。少なくとも俺たちに味方をしているのではないとわかる

 

その理由は

 

 

「ベルに好意して、ベルを助けるために味方になっているんだろ?」

 

 

「な!?」

 

 

「そうみたいじゃな、ベル。ワシがいない間にこやつに好かれるとは、本当に女神はショタコンじゃな」

 

「意外と多いんだ。ウチのヘスティアも含めてな」

 

「マジ?ベルはいつの間に複数の女に好かれるようになったんじゃ?もしかしてハーレムになったりもしているのか?」

 

「そうだな・・・・五人程だな。俺の知る限りじゃあ・・・」

 

 

「違うから!絶対にないから!!ってちょっと待って!?ハーレムって何!?ベルにそんな好かれる女性がいっぱい居るの!?」

 

 

「ああ。ここに居る春姫とリリルカ、そしてヘスティア、ここに居ないがあのアマゾネスのアイシャ・ベルカも含め。ベルに好意を抱く女性は多い」

 

 

「嘘でしょ!?ベルに好かれる女性がそんなに多いなんて聞いてないんだけど!?」

 

 

もうイリアは隠すことのない発言をする

 

まさかこの女がベルを好きになるとはな、確かにベルは意外にも好意に思われる女性が多い、でもまさかこんな事態でもあるのに、ベルに恋をする女性が出てくるとは意外だ

 

 

「まだ子供だが、良い男だろう?」

 

「まあね、好きになっちゃったのよ。だから助けたくなった。初めてよこんな想いは、これが恋と言うものなのね」

 

「こうなったのワシらのせいでもあるのに、こうなったおかげで此奴がベルに恋をするはな。本当勝手な奴じゃ」

 

「っ!あなたに言われたくないわ!それならあの時私を殺せばよかったじゃない!」

 

「そういきたかったのじゃが、こうも可愛い子娘となると、処刑をするなんてできなくての。ワシ女好きじゃからの」

 

「この好好爺が!」

 

 

「おい、ベル達が寝ているんだ。大声を出して起こすな」

 

 

「う、ごめんなさい」

 

 

「お前もいちいち煽りを入れるな。アホなことをすると、お前の居場所を『あいつ』に教えてもいいんだぞ?」

 

「やめるんじゃジーク!あの『ヤンデレ』を呼ぶのはやめるんじゃ!ワシでも冷や汗をかく!」

 

「どうせいつか再会しなければならない時が来ると言うのに、そんなにあいつが怖いか?」

 

 

こいつらが変な話をしたせいで、大きな声が出てしまい、今仮眠しているベル達が起きると注意する

 

キュロスも変に煽りをするなら、この男神が嫌いな女に知らせると、脅しを入れる。大神に脅しを入れると言うのはどうかと思うが、それでベル達が起きて疲れを増やすなら容赦せず、これでも大神なのかと思うが

 

煽りはここまでにして、大神らしい会話が始まる

 

 

「ジーク。お主のその左半分に巻いてある包帯、良ければ見せてはくれぬか?」

 

 

「ああ、お前ならいいだろう」

 

 

「は?あなた何を言って・・・・・っ!?」

 

 

突然キュロスは、俺が左半分の顔に巻いてある包帯を取ってくれと要求される

 

おそらくヘルメスが流した、俺のヘラクレスの英雄譚には俺が怪物になっていることは書いてないのだろう

 

だがキュロスは気づいている。おそらく爺さんに聞いたからなのか、大神だからなのか、俺の隠している怪物に気配を感じているのか、俺が黒竜に侵食された部分を確認したいと頼まれる

 

無論、断ることもないまま、外す

 

そして

 

 

「っ!?なにそれ!?」

 

「黒い皮膚・・・・間違いなく奴の皮膚じゃな」

 

 

「これならわかるだろう?」

 

 

今度は手袋を外し、包帯も外して左手を見せる

 

外した左手には、人間の皮膚もない、黒い鱗と鋭い爪でできた竜の腕となっていた

 

 

「え!?なにその腕!?竜の腕!?」

 

「そうか、お前さんが本当にあの黒竜を倒してくれたのじゃな。オーディンの言っていた通りじゃった」

 

 

「奴の心臓を食べた、それでこんなになった。そうでなきゃ殺せなかったからな」

 

 

自身の体が黒竜に侵食されていることを説明する。

 

もちろんその話を聞く限りの二人は驚愕の顔をしている、どうやら英雄譚には俺が怪物になったことは書かれていないらしい、だからレアがこの包帯を巻く理由を深く知らないのがわかった

 

 

「ヘルメスが流した英雄譚に全ての事実が書かれていると思ったのだが、そうでもないようだな」

 

「あの生意気ヘルメスでも、お前さんの姿を見れば、あのエピメテウスのようになるからと、そこまでの事実を隠したかったからじゃと思うぞ?」

 

「だとしても、否定するなら否定すればいい、俺は別に英雄になったつもりはない。家族や友人のために戦っただけだ。見ず知らずの関係ない人間を救うなど、いつ掌返しをされるかわかったものじゃないからな、そもそも英雄と言うのは他人が勝手に付けるものだ。誰かが付ける名誉など、要らん肩書きと一緒。心底俺はどうでもいい」

 

「エピメテウス様と同じ苦難があったから?」

 

「英雄になる前にな、俺の敵はモンスターではない。むしろそっちは簡単な方だ。俺の敵は常に人と神だ。今もそうだろ?エピメテウスとウェスタ。人と神が敵になっている。この現状を味わっているならわかるんじゃないのか?」

 

「・・・・・・そうね」

 

 

代償はどんなことにおいても付き物

 

今もそうだ。ヘスティアは眷属と世界を救いたいから己を犠牲にする。エピメテウスは共に戦ってくれた戦士の名前を歴史に名を刻めず、世界を壊すことを選んだ。今も必死に生きる者たちを犠牲にしてでも

 

それが理由で敵になる

 

モンスターとは別だ。人間と神はこう言ったことで争いを起こす。平等もなければ、あるのは弱肉強食だけ、今の時代を最悪と呼ぶか、はたまた次の英雄を用意しても

 

この連鎖と過ちを常に変わらず、俺は常にそれと戦ってきた

 

 

それだけで英雄って呼ばれても、俺は嬉しくない

 

 

だが

 

 

「確かにお前さんの苦悩はこれからも消えんかもしれん、その体と共に、それでも・・・礼をワシに言わせてくれんか?」

 

「っ!?キュロス?」

 

 

「そうか・・・・・・・『マキシム』と言ったか?お前の眷属は?確か・・・・・・『ザルド』としか会ったことはないが、お前の眷属は報われているなら、いいかもしれないな。だが・・・・それは俺ではなくフレイに言うべきだ」

 

 

「だとしても・・・・お前さんだって、苦悩と犠牲を賭けて戦った。必死に変えたこの全てを、ワシは感謝を伝えたいのじゃ。ありがとう」

 

 

「ああ・・・・・・・今も彼らは天の上で・・・酒を飲みながら、俺やベルやアイズの戦いを見ているだろうな」

 

 

それでもキュロスだけは、俺に感謝を伝えた

 

黒竜を滅ぼして以降、兄であるフレイの悲しみを未来永劫泣くことのできない感情を持ち、人間と神の増悪と戦って朽ちる未来しか俺には残されておらず、今も化物と呼ぶ者はオラリオに半分も居る。多くの救いをしても、無駄に終わるとわかっていた

 

でも

 

 

果たした結果が、大神に感謝をされる褒美を貰った

 

 

何かを貰うために戦ったわけじゃない。でも悪くないと思えてしまう。今も、黒竜に犠牲になった人たちも報われているのなら、

 

 

こういう感謝も悪くないと

 

 

見張りをしている身で、いい暇潰しを味わえて、こんな状況だと言うのに、今までやってきた分の行いが報われたと思う日だった

 

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