翌日の早朝
仮眠を取った後、すぐ洞窟を出て浜辺を目指す。アフロディーテの眷属が今もそこで待っている。いつまでも待たせるわけにはいかず、さっさと待ち合わせな場所へ
キュロスは正体を知られたくないために、顔を古いローブのフードで隠す。アフロディーテがその程度の隠しでキュロスの正体を見破ると思うが、少し抜けている部分もあるから他の神にはわからないかもしれない
とにかく連絡した待ち合わせの場所へ
仮眠を取ってから一時間後に到着する
「あ!ジーク様!」
「お待ちしておりました!」
「ベックリン、サンドロ、遅れてすまない」
「アフロディーテ様の眷属ですか?」
「ああ、ヘクトル以外の眷属達だ」
「アフロディーテ様が島でお待ちです」
「アフロディーテ様がとても心配になっています」
「ああ、すぐ乗って向かう」
ベックリンとサンドロが、小さな小舟と共に浜辺にて待っていた
なんとか待ち合わせの場所に、炎獣や炎人に見つかることなく、オリンピアから離れてここまで来れた。今の所、エピメテウスが率いている軍勢も、炎人や炎獣の気配もしない。無事にここまで来れたようだ
ベックリンとサンドロが出した小船に乗って、少し西に離れた小島へと向かう
ベックリンとサンドロがアフロディーテが心配しているから、早く会って欲しいとのことだが、どうやら今のオリンピアがどうなっているのかわかっているのだろう。待機して欲しいと連絡しただけなのだが、どうやら今の現状を把握したようだ
とにかく、急いでアフロディーテの元へ
そして
「ジーク。本当に無事で良かったわ」
「ここまで無事に来られたのも、奇跡と言ってもいいかもな」
アフロディーテの島に30分で到着した
もちろん無事であることを証明されるのに、一時間を手間取った。アフロディーテは説明しなくとも、真の姿を現し、本来のオリンピアが出たことを女神でありながら知った
でも、ヘスティアが天の炎を一体化したことに関しては彼女も驚いていた
アフロディーテも天の炎を破壊するのが目的で毎度ここに攻撃しているらしい。天の炎の穢れに関しては、炎人と炎獣の存在を知った時から危険な状態であることは察していたらしい。だから破壊をしようとしたが、巫女達に邪魔された。プロメテウスに直接会って、天の炎を止める予定だったが、ここまでになるとは思いもしなったようだ
「でもオリンピアの市民をお前が匿うとはな、ユリオス王国に続いて、娼婦の女神でもあるのに、やはりお前は優しいな」
「別にそういうわけじゃないわよ。それに人を救う私を見れば、ジークも惚れると思ったわけだし、優しい女の方が良いでしょ?」
「ほとんどの男性はそうかもしれないが、俺は厳しい女性の方が好みだな。でも人を救うのは女神で誇らしいことだ。お前のその美しさは素晴らしいと思う」
「ジークに褒めてくれるなら、う、嬉しいわね」
と俺に言われて若干照れつつもあるアフロディーテだが
彼女は大炎災でオリンピアから逃げ出した市民を、ここ三百年拠点にして守っている。保護しつつこの島に逃げ出した市民に小さな村を作って、逃れたオリンピア避難民を助けている。無論炎獣や炎人に警戒した状態で、島に辿り着いた時には、ほぼアフロディーテの眷属を警備をしていて、ユリオス王国の半分の兵士を連れてきたようだ
彼女にはこれから再度、オリンピアに挑むと、ここで準備をさせて欲しいと頼み、今は俺以外の団員はそれに備えた修行を開始している
ベルと命はキュロスに剣の技を教わっている。キュロスも剣の扱いは心得ている。恩恵のない人間に武器の手本を教えるのは簡単だ
リリルカと春姫は、今は警備隊のサポートに回っている。サンドロとベックリンに自分たちにやれることないかと、休むことなく働いている
ヴェルフは、今はより良い武器は作れないかと、アフロディーテが連れてきている鍛治師の眷属に教わっている。ユリオス王国は『オリハルコン』を一番に扱う国でもある。それを毎日扱う鍛治師から、なんでもいいからより良い武器を身につけようと、頭を下げてもベルに持たせる最高の武器を仕上げようとする。もちろんここではなくオリンピアの鍛冶場で神器を作るのだが目的だ。天の炎を材料に神器を作るには、まずはオリハルコンの製作をやってみようと、今は鍛冶場で厳しく教わる
イリアはベルが頑張る姿を建物の後ろで見守っている
「ところでジーク。あのキュロスとか言う男だけど、あれって・・・・・・」
「キュロス。それがあの男の名前だ」
「でも・・・・」
「頼む。彼には事情があるんだ。今後ともキュロスと呼んで欲しい」
「そ、そう、わかったわ」
アフロディーテはキュロスとか言う男神が、明らかに自分の知る男神だと勘付いた
無論俺も正体は知ってはいるが、とにかく彼の事情のためにキュロスと呼ぶようにと釘付けする。あいつは神威を自由に隠せると思ったが、バレバレじゃないか、まったくある意味拍子抜けな大神だと、俺の母と同じは雷の神のくせにと呆れていた
そして
「ヘスティアは、天の炎と一体化して、己を犠牲にして浄化を果たすつもりで、聖域がもう燃えカスになっているのは知っているけど、ヘスティアがジーク達を見捨てるなんて、本当に馬鹿女だわ」
「エピメテウスも外に出されている。目的はヘスティアを利用するためだったようだが、エピメテウスもヘスティアにやられて外の出されている。今オリンピアの結界内はヘスティアと怪物だけだ」
「あの神議長がエピメテウスだったのも意外だけど、祭壇が完成するとしたら・・・・明日の夜までね」
「ああ。それまでにここで準備する・・・・・のが予定ではあるが、リュー達とも合流しないと」
「他も来ているの?」
「ヘルメスもヘファイストスも居る。眷属やウンディーネもノームもな」
「え!?ヘファイストスも来ているの!?」
「怯えるな。今の彼女は・・・・・『自分のことで怒っている』から、お前を睨む時間なんてない。『神友』を失ったんだから」
「・・・・・なるほどね。ヘスティアもそんなことをしても無駄だって、自分でもわかるでしょうに」
「それを何度もしてきた俺に言われたくないと、俺が文句を言っても聞かないだろうな。彼女は」
来ているのは俺だけではないと、ヘルメスやヘファイストスと合流しないとと、今後の予定を考える
ヘファイストスが来ていると言った瞬間、アフロディーテは怯えた。あれだけ一ヶ月一緒に過ごしたのにまだ怯えていた。天界のトラウマがまだ消えないようだ
でも再度で会ってもヘファイストスは睨んだりしないと俺は言う。だって一番の親友を亡くしている今、止めるはずだったのに、止めることができなかった。弱音を今も吐いていると想像する。もちろん見ているわけではない。オリンピアから吹き飛ばされた後、ヘファイストスには会っていない。でもヘスティアとは一番仲が良かった。きっとこの結末をヘルメスもヘファイストスも知って尚付いてきた。
そのヘファイストスの苦しみをアフロディーテが想像付いた
でも
「ねえ。ヘルメスに聞いたのだけど。また『二度死んだ』って本当?ジーク?」
「・・・・・・・ああ、事実だ」
アフロディーテは今よりも
黒竜事件で俺が二度死んだことを告げられる
ヘルメスもくだらないことまで教えるなと、今ここに居ないあいつに愚痴を思う。ヘルメスが黒竜事件の後、アフロディーテとアルテミスに知らせるために一度オラリオを出たと聞いた
まさか、こんな余計なことまでアフロディーテに教えるとは思いもしなかった。おそらくアルテミスにも伝わっていると思うが、おそらく次二人に会った時にもう自己犠牲をさせないために、説教をさせて貰うためだと、ヘルメスの入れ知恵だとわかった
「ねえ本当に何を考えているの!?ジークはそんなに自分を大事にできないわけ!?」
「そういうわけではない。だが、時にはそうでもしなければ救えない時もある。自己犠牲など愚かしいかもしれないが、冒険者をしているなら死を覚悟しないでどうする、そうでもしなければ家族すら守れない」
無論俺は反論する
理解しなくても構わない、それでも人間はそんなことをしなくては生きれないと。人間の無力を受け入れて欲しいと言う
が、しかし
「だからヘスティアが犠牲になったんでしょう!」
「・・・・・・・・」
ああ、その通りだ
ヘスティアも俺たちを守りたい上で、俺たちをオリンピアの外に追い出したわけではない。でも彼女が背負って終われせなければ天の炎はどうにもできない。そのため自身を犠牲にしてでも、守りたい家族のために彼女は苦痛の選択をした
でも、それが今までやっていた俺だった
今回はベル達の試練だけではない。
俺もだ
もう二度と犠牲にしないための、ヘスティアが自身を犠牲にしたのはおそらく俺の報いであろう、命を蔑ろにした罰、己が決めたことであろうとも、それでも俺が良くて彼女がダメだと理由は通らない。彼女も頑固に犠牲を選んだ
だからヘスティアに文句を言うことはできないと、アフロディーテの言葉に顔は変えることないが打ちのめされる
「ヘスティアもあなたと同じ頑固にも犠牲を選んだ。あなたがそんな事ばっかするから、彼女も自身を犠牲にしたんでしょ!貴方をも救うために」
「そうかもな・・・・・・なあアフロディーテ」
「なに?」
「世界を敵に回す方か。自分を犠牲にして世界の全てを守るか、黒竜になった俺はどっちが簡単に皆を守れると思う?」
「・・・・・・・・」
俺がオラリオ中に黒竜だと知られた時、二度生き返った時、そう考えていた
絶対的な力の前では想いも愛も不要。全ては力のみ、なら黒竜になった俺を知った後は、そうするしか生きる道は残ってないと思っていた
俺が人間扱いされることは今後もない。皆も巻き込む。そんな災害にもなる生き物を誰が愛するのか、俺も一歩間違えればエピメテウスになっていたかもしれない。でも望んだ俺は揺るがない。
なぜなら皆が居たから
皆のためならなんだってする、それ以外俺の価値なんて、生きる価値もないから、だから頑固に現実に抗おうと己を捧げてきた
全ては家族のために
「教えてくれ。こんな残酷な世界で俺は全てを救えると思うか?英雄が怪物になっても?」
「それは・・・・・」
「だから俺は己の全てを捨ててきた。敵は多すぎる。その中で家族を守るにはこれしかないんだ」
「でも・・・・・」
「ヘスティアと俺は違う。彼女は代わりなんていない。俺は居るんだ。死んでも代わりに」
「ふざけないで・・・・・私は貴方を愛しているのよ!死んで代わりが居るだなんてふざけたこと言わないで!」
「・・・・・・・・・」
なんて言葉をアフロディーテの説教が一時間も続いた
それ以降俺は何も言わなかった。愚かな行為であることは自覚している。おそらく今ヘスティアが自己犠牲をしいるのは俺のせいでもある
まるで鏡を見せられている気分だった
諦めきれないと何にでも抗った、俺は英雄なんかじゃない。ただ力をぶつけただけだ。いやそもそも英雄は己は救えない。全てを背負って消える犠牲の塊
それが俺なんだ
アフロディーテの説教が一時間終えた後、彼女は疲れて自室で休んだ
その間に俺はオリンピアとは逆の方向の浜辺に居た。珍しく一人で、皆は修行をしているのに、俺だけ、周りには珍しく誰も居ない、警備も、誰一人
なんでそこに来たのか、俺でもわからない
どうしてここに来たのか、浜辺まで来ているのに、なぜか無音だ。波の音が耳に入らない。黒竜の浸食で耳にまで感覚を奪われたのか、理由はわからないが、靴を脱いで裸足になり、海に潜るわけではないが、足だけ波に浸かる。黄昏れているにしては、ここまでする必要はない
じゃあなぜ、波を鏡にして自分の顔を見るのか
今になって己の過ちを気付いたのだろうか、理由はどうであれ、裸足にも感覚がない。感情はある程度殺されても、体の感覚までは奪わないはずだ。もし奪っているなら黒竜の浸食のせいであろうが、なんだかこの裸足に浸かっている波が
俺が流した血に見える。
周りはなぜか誰も居ない赤い血の海だ。その赤い血の海を鏡にした俺の顔は血だらけ。体の胸部に剣が刺さったような穴が開いている。まるでもう死んでいるような姿だ。なんでこんな幻覚が見える。なんで今も俺は怯えない。言葉を出さない。わからない。俺が望んだ姿だからなのか
でも一つ
「愛しているって・・・・何だ?ヘスティア?」
それだけが一つ。愛しているって言われて俺は理解できない。愛されていることに気づかないと言うよりも理解できない。カオス・ヘルツが原因?恩恵封じられているのに?なにが原因か俺はわからない。俺が人を愛するならまだ理解できる。そんな感情はない。合っても友愛だけ、
でも愛されていることだけはわからない
なんで彼らは彼女達は俺を想う?愛しているってなんだ?わからない、俺には、化け物な俺にはわからない。今血の海面には俺がボロボロな姿だけではなく、波に足が再度浸かる度に、包帯で巻かれた部分から顔は角や黒い皮膚もある。背中には翼と尻尾もある。実際そんな姿になっていないのに
でも包帯で巻かれた姿がない、半分怪物になった。自分の姿
なんだこれは?怪物じゃないか、誰がこんな怪物を愛した?自身で選んだ結果だからこんな姿を俺は受け入れる。でもなぜだ。どうして愛していると誰もが俺に言う?
わからない
こんな姿になった俺は、愛しているなんて言ってくる皆が理解できない。どうしてだ。教えて欲しいと今思う。
なんで愛している?
「そんなこと決まっているだろ!君が大好きだからだ!」
「っ!?」
突然俺の後ろから男の声がした。もちろん俺の後ろに立っていると姿もあると感じる。その声はとても俺が知っている。いや、一番に知っている。この声を、なんで今になって俺に声を掛けるのかは知らないが、後ろの方を振り向かずに俺はその声を聞く
「君が大好きだから、君がそんなになっても君が生きて欲しいと文句を言うんだよ。だから彼女も己を犠牲にする。それは愛情表現だ」
「愛情表現?じゃあ俺が死んだらどうなる?」
「心中しちゃうよ。絶対に、特にあの娘・・・・・・・・シルちゃんって言うのかな?」
「・・・・・・ああ、彼女なら有り得そうだな」
「ジーク。死にすぎだよ。そんなことしても本物の無駄だよ。エピメテウス程じゃないけど、君は世界の英雄じゃなくて、『ヘスティア達の英雄』なんだ。だから死んじゃダメだよ」
「敵が多すぎる。己の命も犠牲にしなくては、なにも守れない」
「勘違いしすぎだ。君は一人で戦っているわけじゃない」
「・・・・・」
まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった
久しく会って、またもそんなことを言われるとは、やはり俺はあいつには敵わない。俺は剣で勝っても志は勝てない。
嗚呼、なんて愛おしい人だ
またも救われたのか、こんな絶望の中で、あんたはまたも俺を輝かせる。こんな俺の体から流れた血の海であんたが輝かせてくれる。後ろに立って俺の顔を見ない癖に、いつもまっすぐ俺の顔を見るのに、今日だけは見てくれない
でも
「そうだな、常に『お前』が居てくれたんだな」
「僕だけじゃないよ。みんな居るよ。君だけが敵と戦っているわけじゃない。みんな君と共に戦っているよ」
「ああ・・・・・・そうだな」
「『僕』はいつでも・・・・君の中で『愛している』」
「ああ・・・・・俺も愛している」
そう言われて、俺の背中から抱きしめてくれる。
今でも顔を見ずに、その抱かれる腕に温かみを抱く、その懐かしい腕に俺の両手で優しく掴む
その瞬間
俺の体から桜色の光を放ち。黒竜に浸食された左部分が人間姿になる
黒竜の浸食をたったそれだけで食い止めたのだ。この愛が、ずっと俺は一人で戦っていると思った。恩恵は封じられているのに、フレイ・リーベも発動してないのに、この輝かしい光が、
この血の海を花畑に変えてくれた
絶望を一瞬で希望に変えてくれた。こんなに愛おしいと思ったことはない。だからこそもう俺は死なない。やっぱりこの調子じゃあ天に逝ってもこいつには会えない。だって
いつもこいつが俺の心で生きているから
この愛を抱きしめて目を瞑り、いつまでもこの愛を忘れずに生きようと、この命を生かすために、全てを変えることをこいつに誓う
この愛をいつまでも抱いて
しかし
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
「っ!」
突然後ろの方で、アフロディーテの拠点から爆発音がした。
後ろを振り向いた途端、アフロディーテの拠点がボロボロになっていた。いつの間にかエピメテウスの気配が拠点から感じる。俺としたことが襲撃に気付けなかった。夢に惑わされるなんて、なんと言う失態だと思う
だが
「いや、夢じゃない・・・・あいつの愛は夢じゃない」
先ほど俺の後ろに居たあいつは居ない。あれは夢だったのではないかと思うだろう、でも違う。夢なんかじゃない。あいつは俺の後ろに居た。天の炎は記憶を元にその姿になる。もしくは俺が与えた物に魔法がかけられて姿を具現化するのか、いや、そうではない。これは誠の愛
その証拠に
「あいつ、俺の『黒竜化』を止めるとはな」
包帯を外したら、人間の姿に戻っていた。
そんなことあるのかと思うだろう。でもあいつがくれた愛と言う魔法なら有り得るだろうなと、俺の黒竜化を食い止めるのは当然、出なきゃ俺だって黒竜を倒せなかった。だからあいつの愛はデカイ。無論だからと言って黒竜が俺の中にあるのは変わらない
でも
「やっとマシな制御ができた。今行く。待っていろ!」
俺はすぐに拠点へと戻る。走っては間に合わないため、靴を拾って、左手から黒い炎を出して、地面に投げてその衝撃で俺は空へと飛んだ。
あいつのおかげで少しは楽に制御ができたよ。だからせめて心の中で感謝を言う
ありがとう・・・・・兄上
と