清く輝く美しき光   作:凌魔

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一年くらいフルダイブで交流して雪降るある日の夜に初めてサンラクと会う事になって顔を見た瞬間感情が堪えきれなくなって抱きついて耳元で告白する秋津茜概念が見たかったので書きました。


雪の空に響いた告白

その日は俺の住む地方には珍しく、雪が積もっていた。

積もったといっても、それは足首まで届かないような浅い雪で一年に一度はあるような景色だった。しかし、雪の中で出会った思い出は俺が一生忘れることはないだろうと確信をもっていえる。少なくとも()()()で、ここまで強烈な告白をされたことはなかった。

 

―――

 

「ゆりみたいなデッカい噴水で伝わるといいんだが…あれだけ輝いてるなら近くに来れば分かるだろ」

 

コートを着ても少し肌寒く感じる冬の日、俺は秋津茜と待ち合わせをしていた。それもリアルで。基本的にリアルバレというイベントへの抵抗が強い俺がこうして人が来るのを楽しみに待っているのも変な話だが、深い理由があるのだ。あれ?なんで会うことになったんだっけか。シャンフロでクリスマスイベントが実装されないのは勿体ないものだと世間話をしていたところまでは覚えているのだが。秋津茜のやつはリアルバレに忌避感は少ないと聞いていたが二人でオフ会する経緯が思い出せない。

 

「ライオットブラッド神に魂を捧げた代償とでもいうのか、いやいや…そんなわけがない」

 

徹夜明けにライオットブラッドを摂取したせいで約束を取り付けたときは大分おかしなテンションだったと自覚しているが、まだ電車の乗り方を忘れたわけでもない。クリスマスイベントがない話をして、秋津茜がクランでクリスマスっぽいことをしたいと言い出して、クリスマス、デート、遊ぶ、クソゲー…そうだ、メリークソクルシミマスで意気投合したんだ。

なんでも年末に日本最大規模の同人イベントが開かれるのに便乗して世間からクソゲーの烙印を押されたゲームを集めたクソゲーの祭典ともいうべきコーナーが設けられたのだ。今回は国内のクソゲーに限定したが、ゆくゆくは海外からもユーザーを集めて古今東西あらゆるジャンルのクソゲーを集めるサークルになればとは武田氏のお言葉だ。やることがやることなのでSNSを使っての宣伝などは見かけないが、一般のゲーマーはさぞ不思議に思うだろう。誰もが知ってるウルトラクソゲーともいうべき怪作から名もなきフリゲも紹介されるのだ。社会的強者の歴々の力によって大手委託販売会社の協力をとりつけたおかげで、その場で購入することもできるらしい。

俺は武田氏から紹介されて行こうと思っていたのだが、秋津茜は健全な未成年だ。親に相談しても一人で行くのは心配だからと止められていたところ、メリークソクルシミマスの話で行く予定だと分かった俺が現れた。クソゲーの同志を失うのは惜しいので、現役モデルである妹の力を借りて俺が秋津茜を引率すると親御さんを説得したのだ。

 

「ビデオ通話で話したときは緊張したな」

 

さすがに親御さんを前にフルフェイスの不審者では信用されない。つまり秋津茜は…いや、隠岐紅音は陽務楽郎の顔を知っているのだ。初めて知った秋津茜の()()()はシャンフロの素顔はそのままなんだなという感想だった。ただ現実の顔にはジークヴルムの傷など存在せず、髪をポニーテールに結んだ上で肩より長く伸ばされた髪が印象的だった。互いにリアルの自己紹介をして親御さんを説得した後は合流する場所を決めた。

 

「そろそろ時間か。さて、俺は……」

 

 

背中にぶつかられる衝撃。戸惑う暇もなく胴体を拘束すべく巻き付いてくる二本の腕。

頭のすぐ横に女の子の顔があることが分かる。視界の隅に映る吐く息は白く、それだけ密着していることを意識させられる。

 

 

「楽郎さん!好きです、だいすきです」

 

「紅音…だよな?」

 

「はい。私は、私は楽郎さんが大好きです」

 

耳元で囁く声が脳内をぐるぐる回る。戸惑い、驚き、隠岐紅音に告白されたことに気付いた。

告白なんて、NPC相手とはいえ何度も経験したイベント。熱中した頃は一日に何度も告白したものだ。なのに無性に体が熱くなる。

ゲームでは経験したことのない腹の奥からじわじわと滲み出してるくる熱が顔まで昇り、頬から冬の空気に触れて冷やされていく感覚があった。

 

「それは……ううん、あのな」

 

「好きです、好きです!楽郎さん…っ!」

 

少し甲高い声が耳元を刺激する。顔が赤くなった自覚があり一旦落ちつこうと試みるが、囁かれる度に熱量は増すばかりだ。せめて体を離そうとするが一生懸命に抱きしめられた腕を振りほどくことはできず、体が擦れて密着している事実を再認識するだけに終わった。

 

「あっ、あのさ!」

 

「はい!…ごめんなさい。いきなりで驚きましたよね」

 

「その、どうしてまた」

 

「ずっと前から、サンラクさんのことが気になってました。電話で顔をみたとき、恰好いいなって思いました。今日初めて会うために見つけたとき、好きなんだって気付きました」

 

「……ありがとう」

 

「だから、これは私の勝手な告白です。お互い初めて会う日に我慢ができなかった、私の我儘です」

 

「……」

 

抱きしめられていた腕が離れる。

返す言葉が出てこない。俺たちが知り合ったのはずっと前のことだが、()()()()()()()()が出会ったのは今日が初めてだ。でも、それでも分かることはある。感じたことがある。

 

「今日は折角楽郎さんが案内してくれる日だったのに、ごめ」

 

「そこから先は言わなくていい」

 

だから振り返って両腕を掴む。その先を言わせたらダメだと分かる。

 

「俺は今日初めて会った人の告白に返事をすることはできない。それは無責任だと思うし………紅音に失礼だと思うから」

 

「そう…ですよね。ごめ」

 

「でも!!でも、便秘で会った秋津茜は、シャンフロで一緒に遊んだ茜のことは知ってるから!」

 

便秘で知りあって、リュカオーンやクターニッドを一緒に殴り倒した秋津茜を知っている。決めた目標に一直線で、不器用なところもあるけど嘘をついたり冗談で告白をしない女の子だと知っている。リアルとゲームは分けて考える俺でも、この感情は嘘じゃないと知っているから!!!

 

「友達からお願いします……お付き合いを前提に」

 

「……!」

 

息が詰まりそうだ。違う、言うべきことは終わってない。

 

「リアルでも仲良くなって、もっとお互いのことを知って、その後に俺から告白させてほしい」

 

 

 

「はい!よろしくお願いします!!」


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