眼が覚めると不可思議な空間に居た。いや、覚めると言う表現が正しいのかはわからない。だって、俺は自分が死んだ事を覚えている。
ベッドの側で泣きじゃくる恋人の声、その彼女に何も出来ない無力さを感じながら、死んだはずなのだ。
「...俺は、死んだはずだった....」
「...その通りです。浪川 蓮司さん....貴方の生涯は、先程終わりました。」
柔らかな慈しみを感じる声がそれを肯定した。その声の主は、綺麗な女性だった。プラチナの髪に、紺色に近いような頭巾、紺と白の服装
まるで修道女のようだと感じた。
「そう、か...成る程」
「...随分と簡単に納得出来るのですね...普通は、取り乱したりなどが多いのですが」
「まぁ、死ぬ時の記憶は残ってるからな....」
どうしても忘れられない無力感、今でもそれが苦しいと思える程度には、心の中に残り続けていた。
そんな思考の中、目の前の彼女は少しだけ納得した様子だ。
「成る程...私は女神エリスです。貴方のような死者の方に今後の道を提示するのが役目です。」
「今後の道って言うと...輪廻転生か、天国地獄かとかか」
「簡単に言ってしまえばそうですね。その中では、貴方は輪廻転生として記憶もなくし新たな生を迎える道、天国...穏やかな世界で過ごす道が該当しますね。」
彼女...エリスが言うには天国でも、輪廻転生でもいいと言う事だ。
天国などに言っても、恐らくは俺は彼女の泣き声に苦しむだけだ。だから、輪廻転生にするとすぐに決まった。
「ですが、貴方にはもう一つだけ選択肢があります。」
「もう一つの選択肢...人生をやり直せるとかか?」
人生をやり直せるなら...恋人との出会いを無くせる、悲しませる事が無くなると思った。
「いいえ、流石にそこまでは出来ません。私の管軸の世界に転生させます。わかりやすく言えば、貴方の記憶と体をそのままに送るようなものです。」
「異世界転生、そんなものに近いか...理由としては、何があるんだ?」
「...その世界では、魔王軍と呼ばれるものが現れ、人が多く亡くなりました。その為に特例で特典などを持たせて転生させる事が許可されています。」
魔王軍に異世界転生、よく聞くフィクションと思えるものが実際に起きている。それに少しだけ奇妙な感覚を感じ、その中で一つの単語が耳に残った。
「特典...特典って言うのは、願いでもなんでもいいのか?」
「えぇ、私に可能な限りであれば構いません」
ならば、もう俺が行く道は決まった。
死んだ身で、もう叶わないと思った夢を叶えよう。
「その世界への転生を、頼む」
「わかりました...では、特典は物ならば種類の書かれたカタログもありますがどうしますか?」
特典は、もう決まっている。今更そんなものに目を通すつもりはない。
「特典は...彼女、最後まで寄り添ってくれた恋人が、一生を幸福に生きられる事にしてくれ」
女神エリスの顔が、予想外だったとでも言うように呆けた。
願いはこれしかありえない...幸福にしたいと願った彼女を、不幸にした。
だからこそ、せめて俺が死んでからでもそれを叶えたい。
「承りました...必ず、そういたします。では、目を瞑ってください。貴方を転生させます。」
少しだけ、哀しげに微笑んだエリスの顔を最後に瞳を閉じた。