目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう 作:ROGOSS
それを地獄と形容するのは随分と簡単な事だった。
それは阿鼻叫喚とした戦場であることは一目瞭然だった。
『全機、至急母艦の援護に迎え!』
江藤の言葉に返事をする余裕すらない。俺は力一杯に操縦桿を右へ切った。一樹が逐一に敵の場所を報告してくれているが、正直な話、その報告だけではとうてい全ての砲撃を躱すことなど不可能だった。機体に被弾する数が増えてきた頃、ようやく母艦からの通信が入ってきた。
『全機、我々はこれより撤退戦に移行する。繰り返す、我々はこれより撤退戦に移行する。尚、以降は無線での通信を封鎖する。敵は大日本帝国海軍』
耳を疑いたくなるような言葉が飛び込んでくる。
しかし、現実問題、目の前には深海棲艦と大日本帝国海軍所属の何某かの駆逐艦から砲撃を受けている加賀の姿がある。
「これは…これはどういうことなのでしょうか!」
「俺に聞かれてもわかるわけ内だろう! 残念だが俺は他の艦娘に興味はない。それでもハッキリとわかるのは、ここには敵対勢力が二つ存在していることだ。いったい加賀は何をしたら、こんな事になるんだ!」
『甲賀小隊、我々はこれより母艦加賀の護衛任務につく。先程の爆撃のせいか、我々には迎撃装備といえるのは貧相な機銃しかない。それでもやるしかない。なんとして我らの母艦を守れッ!』
「無理難題を言ってくれる……!」
目の前の小隊の一機が対空砲火によって撃ち落とされる。
パイロットは綺麗な敬礼をしながら俺達の行く末を案じるかのように墜落していった。一瞬だけ、そのパイロットと目がある。何も口にはしない。それでも、その視線には「何故、俺はこんなところで死んでしまうんだ……」という無念が込められているのがよくわかる。
俺達、妖精さんが死後にどういった末路を辿るのかはわからない。人として倫理観すら解放された超次元生命体である俺達が死んだ先にあるのは、ただの虚無かもしれない。
「俺は……俺は……」
「宗二さん! 後ろ!」
一樹の言葉で我に返る。
背後には大日本帝国海軍が誇る九十七式がピッタリと張り付いていた。
「なんだって味方同士で殺し合わなければいけないんだ……!」
操縦桿を精一杯に引く。強烈なGに身をさらしながらも、機体は太陽に腹を向け、銃撃を避けた。
「やってやる……やってやればいいんだろッ!」
今度は俺達が九十七式の背後を取った。機体を左右に振り、照準を合わせられないように抵抗をしているが、今の俺の技術ならばエンジンを爆発させることは容易だ。
このまま引き金を絞り、俺はコイツを殺すのか? 同じ妖精で、何らかの命令を受け、大日本帝国という巨大な母国のために戦い、命の限り空を飛ぶことを決意した見ず知らずのコイツを俺は殺すのか?
逡巡が走る。
どうして敵であると認めることができない。
「それでもッ!」
俺の機体から機銃が放たれた。
数発が命中し、数秒後にはエンジンから出火しながら目の前の九十七式は墜ちていった。
「宗二さん……」
息を荒々しくついている俺に心配そうな一樹の声がかけられる。
「やっちまった……」
「……そうですね」
「……クソックソックソッ! クソッたれな世界じゃねえかッ!」
怒りの咆吼をぶちまけた。
それでも俺は戦う道をこの時に選んだ。
俺は同族を殺すことを是として、加賀を守るためにさらなる激戦区へと機体を飛ばすのだった。