目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう 作:ROGOSS
着艦と同時に俺は後部に手を伸ばした。
肇の冷たさは今まで感じたことがないヒンヤリとした感覚がした。胸より上に視線を移すことが出来ない。その先にはあるはずの頭がない。
彼は既に死んでしまっている。その事実を受けいれることができなかった。
しばらく呆然としていると機体を誰かが叩く音がした。振り向くと白衣をまとった妖精さんがいる。
「アンタ、大丈夫か?」
「……」
言葉が出てこない。何をもってして大丈夫と答えればいいのだろうか。目の前の現実は想像以上に悲惨な有様だ。
目を覚まし、肇に連れられ戦場に向かうと死が隣り合わせで存在する世界だということを理解しなくてはいけない。叫びたい衝動に駆られる。このまま俺はここで死んでしまうのか?
肇だったものを見つめる。この男はいったいどれだけの時間を生きたのだろうか? この男は何を思ってこの世界で戦っていたのだろうか? 答えが返ってくるわけもない。死人に口なしとは昔の人は上手い言葉を考えたものだ。
医者は勝手によじ登ってくると肇を見て顔をしかめた。胸の前で短い合掌をして俺を見る。
「名前を知っているか?」
「肇……それ以外は何も聞いていない……」
「そうか……二階級特進だな……まったく、命あってのものだっていうのにな……」
医者は大きく手を振った。それに呼応するかのように作業着姿の妖精さんが機体へと集まり、肇の死体を下ろした。そのまま担架をどこから持ってくると肇を担架の上に置き、どこかへと連れて行こうとする。
「どこへ連れて行くんだ?」
「俺達妖精さんは死んじまったらどうしようもない。どういうわけか、肉体は腐るわけもなく死んだままの状態を保ち続ける。だから運び出して……」
不自然に言葉を切る医者に俺は不審な視線を向けた。医者は咳払いをすると言葉を続ける。
「捨てるんだ。海の底にな。このまま残し続けても文字通り死体の山が艦内に出来上がるだけだ。そんな意味のないことはしても仕方がない」
「捨てるって……! そんなのあんまりだろ!」
「仕方のないことなんだ。俺達妖精さんがどういう原理でこの戦場に呼ばれたかのかなんて誰もわかりはしない。ただ、事実としてこのまま放置をしていても何の役に立たないガラクタが増えるだけなんだぞ」
「……だけれども」
「形だけだが、棺に入れ海へと投棄する。昔の海軍のようにな。俺達はこの世界で戦って生き延びるか、死んで海の底に沈む沈むかの選択しかないんだ」
絶句する俺を傍目に作業員達が肇を連れ去っていく。
腰から下に力が入らない。俺は機体に背中を預ける形で座り込んだ。
これがこの世界のルールならば受け入れないといけない。しかし、非現実的な事続きの今は難し過ぎる。俺はいったいどんなところへ来てしまったんだ……
絶望感が体中を支配する。今まで感じなかった恐怖で体が震えた。
怖い怖い怖い……
何も知ることも出来ずに俺もいつか海の底へと沈んでいく。そこにあっては皆の邪魔になるからという理由で捨てられる。
だが現実はいつも勝手に進んでいく。凛とした声が艦内に響いた。
『こちらは空母加賀。全機に通達します。先作戦によって深海棲艦の補給艦の沈没を確認しました。これより我々は一時補給のためにセレベス島スターリング湾に帰投します。各妖精さんはスターリング湾に到着後、偵察のために順次に発艦を願います。補給完了次第、次の激戦区であるジャワ島へと進路をとります。以上、通信終了』
「まだ、まだ戦いが続くのか……!」
絶望しようとも恐怖しようとも戦いが終わることはない。
俺が生き延びるためには戦うしかない。知識はなくとも体が覚えている技術で敵を蹴散らすしかない。元いた俺の世界の知識からこの世界のことは理解することができた。この世界は艦隊コレクションの世界だ。そして見たところ、深海棲艦との戦いはかなり激化しておりゲーム内以上に戦況は悪化してる。大日本帝国海軍は犯された制海権確保のために死ぬ気で攻撃を続けるだろう。俺達下っ端の妖精さんに休む機会など与えられない。馬車馬のように働かされ、死ぬまで操縦桿を握り続ける。
拳を握りしめた。恐怖からではない決意からだ。どうしようもなく戦わざる負えないならば戦うしかない。
「誰かいないかッ!」
俺は立ち上がり周囲を見渡した。
腕を吹き飛ばされた者や頭から血を流す者などが甲板にあふれかえっており、地獄さながらの状況だった。
俺の言葉に返事をするかのように妖精さんが一人走ってきた。服装から判断するに俺と同じ戦闘員だ。
「どうかしましたか?」
「俺は操縦士なのだが観測士が死んでしまった」
「そうでしたか……僕は先の作戦で操縦士を亡くしてしまいました。なんというか、こういう言い方はあまり好きではありませんがお互いに足りない者を探しているのですね」
「……そうだな。俺の名前は宗二だ」
「僕は
「一樹……どうやら加賀は俺達を休ませてはくれないらしい。手を組まないか」
「……いいですよ。わかりました」
俺は一樹と握手をした。
生きるためには死んだ者を忘れるしかない。俺はまだ死にたくなかった。