目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう   作:ROGOSS

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出撃の軛

「エンジン点火よし、全タラップ解放完了、前方の機影なし、第2小隊5番機から8番機発艦開始」

 

 無線機からの指示に従い九七式が飛び立っていく。俺は彼らが残していった飛行機雲が消えるまで空を見つめ続けた。

 運のよいことに俺と一樹の偵察の番の時には深海棲艦が現れることはなかった。しかしいつまた、接敵するかは誰にもわからない。そんな時、たった4機だけではるかに性能の上回る深海棲艦の戦闘機を相手取ることができるかといえば首を振らざるおえない。お偉方は物資の消費を抑えるために偵察機の数を減らす方針を打ち出していた。だがそれは、あまりにも妖精さんの人命(?)を軽視していることは明白だった。それでもたかが妖精さんである俺達は無茶な命令に従うしかない。反論することは許されない。死ねと言われれば死ぬしかない。

 

「いつ特攻作戦が行われてもおかしくないな……」

 

 テレビで昔見たことがある特攻隊の悲惨な最期の場面が思い出される。多くの隊員は母の名前を呼んで死んでいったらい。俺はいったい誰の名前を呼んで死んでいくのだろうか?

 

「大丈夫ですか?」

 

 一樹が心配そうに俺に声をかけてきた。俺は大きく伸びをすると操縦席から降りた。数時間ぶりの地上を踏めたことに喜びを感じられた。

 

「大丈夫だ。すまないな」

「いえいえ、ボッとしているようなので心配になってしまいまして……」

「そんなに長い間惚けていたのか?」

「えぇ」

 

 俺はふーんとだけ残すと歩き始めた。一樹が後ろをついてくる。

 無機質な廊下を抜けていく。途中食堂を横切ったが、誰しもが疲れ切った顔をしていた。

 食堂にはパイロットだけではなく戦闘機の整備員や艦娘の艤装を管理する仕事を担っている妖精さんもいる。俺はたまたまこの世界で意識を覚醒させて数日しか経っていないが、聞いた話によると空母加賀は横須賀鎮守府を出航してから2ヶ月が経過しているらしい。2ヶ月の間に護衛艦としてついてきた重巡部隊が多くの深海棲艦に戦闘を挑む無茶をしたせいで、当初乗船していた妖精さんの3分の1がこの世界から消えていた。

 それでも不思議なことに妖精さんは一定数減少すると自然と補充要員が現れるらしい。最初は意識のない操り人形のような様子だが、しだいに俺のように誰かの意識が宿り人格を持つらしい。

 

「妖精さんっていったいなんなんだろうな」

「さぁ……それは誰にもわかりませんよ」

「それもそうだな。一樹は目覚めてからどれくらいなんだ?」

「あまり覚えていませんね……でも、加賀が横須賀にいた頃にはもう意識がありましたよ」

「そうなるとこの激動の航海を生き延びたってわけだ。すごいな、お前」

「どうなんですかね……僕は生き延びているけれど相棒は死んでしまいましたし……」

「……そうだったな。すまん」

 

 一樹は一瞬だけ暗い表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。

 彼なりに傷を抱えており、おそらくそれは俺も同じような傷を抱えている。相棒の死は目の前で初めて妖精さんという存在にも死があることを自覚させた。恐ろしいことに記憶力がこんなにもなかったのか、俺があまりにも薄情だったのか死んでしまった相棒の名前を思い出すことが段々と困難になってきていた。

 それ以上の無駄な会話をしないまま俺はあてがわれた部屋へと戻った。二人一部屋となっており、今の同室は一樹だった。しかし、俺達よりも先に訪問者がいた。白い軍帽を被り、腰には煌びやかな軍刀をさしている。

 

「あの……誰ですか?」

「君が宗二くんかね?」

「そうですけれど……」

 

 胸に輝く勲章の数に俺は圧倒されていた。

 白い軍服の妖精さんは大きく頷くと軍帽を被り直す。その時になって俺はやっと襟のところに中尉の紋章が入っていることに気がついた。慌てて俺と一樹は敬礼をする。

 

「そういうのはいいから。私はあまり好きではないのだ」

「ですが規則ですので」

「ふむ……ではなおりたまえ」

 

 中尉の指示を聞き俺達は敬礼を時、休めの格好をする。

 

「さて用件を手短に話そう。私の名前は佐久間という。かつては戦闘機乗りだったが、高い戦闘知識が評価され横浜鎮守府提督の司令により空母加賀の攻撃中隊長を任されている。君達を訪ねたのはほかでもない、間もなく空母加賀は出航し戦地へと赴く」

「どちらへ行くのでしょうか?」

「ニューギニア島東部パプア半島。そこに陸上に設営された深海棲艦の前線基地が確認された。我々は前線基地を叩き、再起不能にし大日本帝国軍の軍港を作るMO作戦の決行を取り決めした。我々は近く、パプア島にある島設備を強襲、沈黙させる任が下される。君達にはその任務の先遣部隊として加わって欲しい」

「つまり……第一陣として参加ということですか?」

「察しがよくて助かる。その通りだ。君達はたった数日で敵深海棲艦を3小隊以上発見するという成果を上げている。妖精さんの練度が落ちている今、それだけの戦果を上げられる者はそうはいない。MO作戦が成功すればはれて君達は一時帰国となる。断ることは……ないね?」

 

 最後の方は脅しだった。

 命がけの任務の報酬は日本への一時帰国のみ。あまりにも割に合わない報酬だ。それでも断ることはできない。これは命令であり今は戦時中なのだ。現代社会ならば断れない命令をする企業に問題があるが、軍隊という組織では上官の命令を遵守するのが絶対だ。

 

「了解致しました」

 

 俺と一樹は用意されていた答えを述べるしかなかった。

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