目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう   作:ROGOSS

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思慮深い者達

 無機質な執務室では男が一人腕を組み、背もたれに体を預けたまま目をつむっていた。この時間は誰も部屋に入らないように厳命を下している。ようやく一人になれる時間を確保できて男は安堵していた。優秀な秘書になると思い秘書官を命じた鈴谷は想像以上の野心家だった。故に、艦娘同士の均衡を保たせるために裏工作をしなければ鎮守府内の秩序を保つことが出来ないでいた。自分の首を絞める人事をしてしまったと気がついた時にはもう手遅れとなっていた。ただでさえ忙しい提督業により一層の忙しさが増していることに不満しかない。

 

「……」

 

 俺は無言のまま一式の書類を手にした。そこにはMO作戦の損益がまとめられている。被害はかつて類を見ないものとなっている。対して利益として得られるものはあまりにも少ない。参謀司令部はパプア島をはじめてする島々からの地下資源の獲得と大日本帝国の安全な海域の確保を望めるとして作戦を立案しているが、現場としてはたまったものではない。間違いなく目の上のたんこぶの存在であり、いつかはパプア島の深海棲艦の前線基地は叩かなくてはいけない。それでも時期尚早としか思えない。まずはパプア島へと通じるための安全な兵站を整えてから作戦を実行するべきだ。艦娘のバカ共は利益を考えることなく、バカスカと砲弾を撃ち込むだろう。それだけで戦争は終わらない。国内での生産ラインが乏しくなっている砲弾の節約は急務だ。簡単に撃たれては困る。航空機もしかりだ。

 

「どちらにせよ、先に内から潰されるか外から潰されるかの差にしか過ぎないか……」

 

 わかりきっている答えを口にしてため息をつく。

 資料をめくる手が止まった。そこには空母加賀の全体像が書かれている。

 加賀は艦娘の中でも思慮深い存在だ。他の空母に比べれば損失は多く出しているが、ターニングポイントとなりかねない大切な戦いでしか航空機達を多く発艦させていない。他の艦娘達は気がついていないだろうが、加賀がいなければ轟沈してしまっている戦いが多くある。

 昨日、加賀に随分と強い口調で命令を下してしまった。頭の中では優秀とわかっていても、数値として結果を出さなくては無能の烙印を押されるのが軍だ。軍と民間企業は実のところ大差などない。人は目に見える数値にしか注意をそそげない。

 

「君は優秀だ。しかしだな、優秀すぎることは正しさではない」

 

 俺はグシャリと資料を手の平で潰した。

 加賀の魂が今の依り代に宿って間もなく5年が経とうとしている。5年も艦娘として生きていけるのはほんの一握りの存在だけだ。

 そして5年も長寿であることが故に、この鎮守府ではひとつだけ困っていることがある。

 新たな空母型艦娘の配備。大本営は加賀の存在を必要以上に評価することで、当鎮守府への新艦娘の配備を出し渋っている。そのくせ、危険な任務があればすぐに白羽の矢を立てる。求めていることとそれに対する恩赦があまりにも釣り合わない。その事実を知っいても大本営が方針を変えることは絶対にしない。割を食うのはいつでも現場なのだ。

 

「そろそろ沈んでもらわないと困るんだよ、加賀」

 

 意地の悪い笑みを浮かべる。

 天井を見つめた。

 間もなく、空には大量の航空機が飛び立つ頃合いだろう。

 そして海の底には……艦娘が沈む時間だ。

 

〇●○●○

 

 名ばかりの会議室には妖精さんがごった返していた。

 

「会議なんてできないだろうに……」

「ですね。それにしても緊急の用件とは一体何なのでしょうか?」

「さぁな。俺達に損がない内容ならいいんだけども……」

 

 無駄話をしていると佐久間が部屋に入ってきた。一同が敬礼をする。佐久間は返礼をすると休むように促した。

 

「さて、諸君等は優秀で勇敢な空の戦士であることはよく知っている。しかしながら、これより展開される作戦ではより過激な空の戦いが予測される。そこで、諸君等九七式乗りには申し訳ないが乗り換えを行ってもらう」

 

 ざわざわとどよめきが起こる。

 乗り換えの話など噂すら聞いたことがなかった。

 佐久間は咳払いを一つすると静粛するように求めた。

 

「もちろんこれは私が上層部と掛け合い決定した内容である。知るよしもなかったことであり、驚くのも無理もない」

「佐久間中尉殿!」

 

 一人の妖精さんが手を挙げた。

 

「乗り換えの件は承諾いたしました。ですが、いったい何に乗り換えるのですか?」

「零式艦上戦闘機……通称零戦だ」

 

 佐久間が誇らしげに名前を告げる。

 再びどよめきが走った。戦闘機乗りにとって零戦に乗れることは名誉に他ならない。不安よりも歓喜の声が多く上がっていることがわかった。

 

「諸君等が搭乗するのは零戦五二型乙とよばれるものだ。従来の零戦よりも装弾数、防御面共に優れている現段階での最高傑作といっても過言ではない」

 

 一呼吸空けて佐久間が敬礼をしながら言葉を続けた。

 

「諸君等の健闘を祈る」

 

 俺は不安でしかなかった。

 大規模な作戦の直前に突然の変更。こういう時は決まって悪いことがあるものだ。想像以上に今回の作戦は過酷なものなのだろう。

 

「生きるってこんなに難しいんだな」

 

 俺はため息まじりに一言だけ吐き捨てた。

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