目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう 作:ROGOSS
出撃するのは初めてではない。もはや、片手で数えられる数を優に超えてしまった。幾度となく現れる深海棲艦の奇襲部隊を相手にしながら進軍を続けるのは、非常に骨が折れた。それでも進み続けなくてはいけない。どれだけの妖精さんと艦娘を失う結果となろうとも道の先にあるはずの平和のためには、犠牲は致し方ないと己に言い訳を続ける。もちろん中には瑞鶴のように、私のスタンスに異を唱える者もいる。彼女曰く私を一言で表すならば
「非道で冷酷な人外」
らしい。人にすら見られていないことに怒りよりも悲しみを覚えている。だけれども私は進み続ける。私を信じて付いてきてくれている戦友のためにも、私は輝かしき正規空母として生涯を全うしなければならない。
「はぁ……」
作戦指令書を机の放り投げ、私はため息をついた。丑三つ時を回り、起きている人は哨戒の兵士以外は誰もいない。その兵士ですら、眠そうに瞼をこすりながらただ歩き回っているだけだ。彼らの目を盗んで出撃ドックに忍び込むことはそう難しいことではない。
今回の作戦、明らかに私に対しての負荷が大きい。
噂で聞いたことがある。今の上司の提督は無能ではない。むしろ、辺境の鎮守府で輝かしい戦果をあげて横須賀へとスカウトされたエリートだ。彼の指揮に従えば、間違いなく生還することができる。ただし、それはほんの数ヶ月の間だ。長生きを続ける艦娘に対して、あえて過酷な任務を与え轟沈をさせる。そうして失った戦力を新たな艦娘の補給という形で賄い続けることで、常に最新鋭の艦娘を鎮守府に配備し続ける。新しいもの好きという今の提督の悪い癖だ。私は今の提督のもとで4年間稼働している。彼にとって、新たな正規空母の導入の大きな壁として私の存在があることはよく理解していた。
最新鋭の艦娘を配備するメリットは存外に大きい。まずは兵士の士気に関わる。そして、新たな装備をもつ艦娘は旧装備の艦娘よりもやはり強い。内外の戦力増強を見込める艦娘の新たな配備を重要視する上層部の考えも理解できないことはない。だが、たかが新しい兵器を配備したいがために命を投げ出すことを強要される側としてはたまったものではない。逆らえない命令を机の上から下し、安全圏で戦況を見つめる提督の首をねじ切りたいと何度考えたことか。
「ついに私の番ということか」
護衛をつけないままでの正規空母による単機奇襲作戦。成功すれば敵へ大きな損害を与えることができるのは間違いない。しかし、そもそも空母が護衛をつけないことなどありえない。海上での戦闘能力が皆無の私達が、敵の船団と遭遇した時、いったいどのように戦えというのか。頼みの戦闘機達は遙か彼方の上空で敵戦闘機と戦っている故、呼び戻すことは出来ない。私に残されている道は、敵の砲弾を浴びながら海の藻屑となる運命だけだ。
「私は死ぬのかしら」
ぼそりと呟く。
脳裏に浮かんだ家族の顔が妙に霞がかっている。私が艦娘になってから、一度も会っていないが仕送りは毎月欠かさずしている。飢え死ぬことはないだろう。幸せに暮らせているだろうか?
艦娘となると不思議なもので、人間だった頃の記憶が月日が経つごとに消えて行くのだった。船の魂が人間だった頃の記憶を塗りつぶしていく様がよくわかる。
「死なせないわ」
声が聞こえた。
月日に照らされている赤城が立っている。彼女はゆっくりと私に近付いてきた。
「死なせない。私は加賀という存在を失いたくない」
彼女は私の胸に顔をうずめ嘆いた。
彼女の言葉はどこから発せられたのだろうか? 軍艦として生きていた頃、私達はミッドウェーの海で沈んでいった。お互いが運命に振り回され、海へと沈んでいくことを受け入れることしかできなかった。
赤城という艦娘が産まれたのはちょうど半月前だ。彼女とは何故かうまがあい話す機会は多い。それでも、彼女もやはり私をどこか避けていた。人間として生きている本能が私を遠ざけているのだろう。一方で軍艦赤城の魂は私を求めている。相反する思いに苦しみながら、赤城という少女は私との関係を築いていた。
「それは赤城として?」
「違うッ! 私の人としての言葉よ」
「……そう」
否定はできない。肯定もできない。彼女の言葉を受け入れることもできない。ただ、聞くことしかできない。彼女がどれだけの言葉を発しても、私の冷たい心は永遠に何も受け入れることがない。
「私はいつでも貴女を見殺しにして、より多くの艦娘達を守れるわ」
「それでも構わない。私は貴女が先に死ぬことが許せないの」
「……不思議な人ね」
波がやけに大きく聞こえる。
通信がはいる音がした。
『本日晴天ナリ』
作戦は決行という合図だ。
あと数時間後、私は激戦区に単身飛び込むこととなる。赤城が裏で手を回したからだろうか? 私の妖精さん達は最新鋭の零戦に搭乗することとなっていた。
「私は生きることよりも一体でも多くの深海棲艦を沈めることしか考えられないから」
赤城を胸から話し告げる。一瞬だけ、彼女は悲しそうな顔をした。
「わかっている。私は貴女をサポートするから」
涙を堪えて彼女は笑った。
私はあと何回、誰かを泣かせれば死ぬことが出来るのだろうか。長生きすると辛いことしかない。
「私はいつ死ぬのかしらね」
赤城に聞こえないように言葉を放つ。
それはあまりにも冷たく、鋭い言葉だった。