目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう 作:ROGOSS
戦争は誰かの
「赤城さん、大丈夫ですか?」
「……えぇ、少しだけ考え事をしてしまっていただけよ。そろそろ時間ね」
瑞鶴は少しだけ怪訝な顔をした。彼女は私が気がついていないと思っているようだが、私はわかっている。航空戦隊に普段はいるはずの加賀が今回はいない。彼女だけが別名を与えられ、独立部隊として行動をしている。
瑞鶴はあわよくば加賀が轟沈することを望んでいる。口には出さないが態度で察してしまう。彼女が加賀をよく思っていないことは周知の事実だ。だが、加賀が私達の尻拭いをいつもしていることを瑞鶴は理解していない。それによって、捨てられる命よりも拾われる命が多いことをまるでわかっていない。
「瑞鶴、今回の作戦に加賀さんはいないわ」
「それがどうかしたんですか?」
「無茶をしないようにね」
「言われるまでもないですよ。命を軽視する冷酷な女がいないのだから、今回は特別に死傷者が少なくしてみせますから」
「……そう」
まだまだ若い。
瑞鶴という空母の魂を少女が宿して1年が経っている。1年も戦場にいるのに、瑞鶴は表面的なものしか見えていない。いつかそれが彼女の足下をすくい、死へと直結するだろう。その時になってようやく今まで誰が助けてくれていたのかを理解しても、遅すぎる。
「作戦を開始します。全機発艦開始ッ!」
一斉に戦闘機が発艦を始める。目標は深海棲艦の地上基地に在中する迎撃部隊をおびき出すこと。空をチョロチョロと飛び回る航空機部隊に深海棲艦は間違いなく迎撃を開始する。そこを誘導し、デスポイントとなる防空駆逐艦の待機場所へと誘導をする。たったそれだけのことだ。
「一機でも多く誘導をして……加賀さん、貴女の助けになりたいの」
願うことはいつでも同じだ。
私は加賀がまた生き延びることを望んでいる。私が死んだとしても、加賀さんには生き残って欲しい。
「少しでも助けられますように……」
〇●〇●〇
同時刻 横須賀鎮守府 執務室
「鈴谷、私がなぜお前を秘書艦に選んだかわかるか?」
「さぁ……鈴谷にはわかりませんね」
「嘘が下手くそな奴だ。お前を秘書艦にした理由はただ一つ、お前は艦娘を兵器としての価値観でしか見ていないからだ」
今でも忘れることがない。
着任当初、秘書艦を誰にするかに頭を悩ませていた。
上層部から推薦を受けた者、体を使って自己アピールをする者、ひたすらに直訴を続ける者……様々な方法で秘書艦になろうとする者がいた。しかし、誰も私の琴線に触れることはできなかった。誰しもが人としてあまりにも生き生きとしすぎていた。
艦娘とは結局のところ兵器でしかない。兵器以上の価値を求めてなどいなかった。
どこまで冷酷非道で鎮守府の利益だけを追求する究極の存在……そんな艦娘は誰もいなかった。ついには秘書艦など誰かの名前を借りるだけで済まそうとしていた時、鈴谷が現れた。
丑三つ時の近い真夜中、執務机の扉がノックされた。扉を開くと手に何かを持つ鈴谷が立っていた。
『鎮守府に利益を……熊野は少しだけ長生きしすぎました。そろそろ新しい熊野の体が欲しいころではありませんか?』
月明かりに照らされ、手にもつ物が熊野の首であることがわかった。
鈴谷は熊野が既に3年以上生きてしまっていることで、悪い意味で鎮守府内に影響力を及ぼす存在となってしまっていることを理解していた。おまけに熊野が俺の着任を快く思っていないことを。だから熊野を殺し、新しい体に重巡熊野の魂を受け継がせようとしていた。
『完璧だ』
その一件で俺は鈴谷を秘書艦とした。
彼女ほど、艦娘を兵器として認識している存在はいないだろう。
「加賀は生き延びることができるかな?」
「どうでしょうかね。でも沈んで欲しいんですよね?」
「そうだな。いい加減沈んで欲しい」
「なら沈んでもらいましょう」
「何か用意でも?」
鈴谷は笑った。
「性格の悪い奴だ」
俺も彼女につられて笑った。
加賀の命が今日尽きることを願って……