目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう   作:ROGOSS

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紅に鎮め

 作戦が開始して既に1時間以上が経っていた。陽動部隊の作戦は上手くいき深海棲艦陸上基地内の敵部隊はほぼ出撃し、基地周辺の護りはかなり手薄になっていた。その影響からか今まで敵と遭遇することなく敵防衛戦内に潜り込むことができた。

 それでも油断することはできない。ここは敵陣地内。元は人類が所有していた土地とはいえ、今はどんな罠が各所に仕掛けられているかわからない。

 

「こちら加賀、応答をお願いします」

 

 応答は未だ来ることがない。次の指示がない限り勝手に攻撃を開始することができず、困っていた。

 無線機から聞こえてくる砂嵐が虚しさを実感させる。妖精さんからも出撃はまだかとひっきりなしに質問が来るが私としても「わからない」と答えることしかできなかった。様子がおかしいと感じ始めたのはこの頃からだった。作戦指令書を受け取った時からもちろん違和感を持っていたが、いよいよもってこれはおかしい。

 

「この先に進むのは……危険……?」

 

 環境音として鳴いていた動物の声が途絶える。気がつけば、味方が戦っている戦闘音も随分遠くとなっていた。無線機から音が聞こえてきた。

 

『加賀か?』

「提督……?」

『加賀、君の活躍には私は心底賞賛の拍手をいつも送っている』

「今、その話は必要なことですか?」

 

 無線機の向こうの提督が黙り込む。やがて、提督は本当に拍手を始めた。

 

『いつでも冷静沈着な君を私は横須賀の誇りだと感じている。だがな……』

 

 空気が変わったことが無線機越しわかる。

 胸の中の警鐘が鳴り響く。私は咄嗟に反転する判断をした。例え敵前逃亡だと味方から揶揄され、罰を受けることとなってもこのままここにいるのは危険すぎる。

 

『もう遅いよ加賀。君の死は新たな空母の礎となるだろう』

「なぜ私を殺そうとするのですか?」

『私は新しい物が大好きでね。長生きしすぎなだけだよ。だからそろそろ代替えをして欲しいんだよ』

「身勝手な理由ですね」

『何と言われようが結構。弁明などしないさ。だがしかし、君の命の価値も寿命も決定権を持っているのは私だ。さようならだ加賀。苦しまないことを祈っているよ』

 

 通信が切断される。その瞬間全てを理解することができた。

 提督が新しい物好きであることは噂程度で把握していた。そのために部下の艦娘を故意的に轟沈させていることも知っていた。今回、ついに私が選ばれてしまったらしい。そのために無理難題な命令が与えられ、おそらく不良品と思われる無線機を使わされているのだろう。

 

「まったくもって回りくどいことをしますね」

 

 本当に面倒くさいことをしてくれる。私が邪魔となったのならば、他の鎮守府に明け渡すなどすれば良い。

 

「まだ死ぬことは出来ない」

 

 私はやらなければいけない事がたくさんある。少なくともこの戦争を終わらせるまで家族を養うために敵を倒し続けなればいけない。戦争は家族を養うひとつの手段でしかないのだ。

 その時、私は気がついてしまった。人畜非道な提督は戦争を個人的な趣味を満たすために利用している。そして私も個人的な理由で戦争を利用している。

 

「私と提督、案外もっと仲良くなれたかもしれませんね」

 

 クスリと既に繋がらなくなっている無線機へ笑いかけた。そして私は無線機を海の底へと放り捨てる。今は少しでも自重を軽くして逃げられる態勢を整えることが求められている。

 

「妖精さん、これから撤退戦を始めます」

『撤退戦ですか?』

「はい。正直、撤退戦がどれだけの持久戦となるかは想像がつきません。ですが……付き合ってもらえますね?」

『もちろんですよ加賀さん。僕は貴女の初めての妖精さんですから』

 

 一番の信頼を置いている妖精さんからの返事に勇気をもらえた。

 上空で嫌な音が聞こえてくる。遙か遠くから深海棲艦のものと思われる戦闘機や爆撃機が急速に近付いてきていた。

 

「では……いきましょうか」

 

 弓を構える。普段と変わることなど何もない。目の前の敵を一機でも多く撃破して、命を守る。私はこの瞬間からただの兵器となり、妖精さんもただの道具となる。兵器と道具に求められるのはいかに利用価値があるのか、いかり多くの敵を死んでも落とせるのかだけだ。生きて帰還できるかはおまけでしかない。

 

「さて……私を怒らせたことを後悔させてあげましょうか」

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