目が覚めたら妖精さんになっていたけど母艦が加賀だから許せるし、めちゃくちゃ楽しそう   作:ROGOSS

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見限られた母

『全機発艦急げ、繰り返す、全機発艦急げ!』

 

 鳴り響く艦内警報音。作戦開始ポイントまでは随分と距離があったはずだ。数分前、母艦である加賀が突然反転すると撤退戦をするとの通達を下してきた。なぜそうなったのかはわからないが、何やら不穏な会話の断片が妖精さんである俺にも聞こえてきていた。

 廊下を走り新たな愛機となった零戦へと向かう。幸いなことに出現している深海棲艦の航空部隊の攻撃開始はされていない。もしも今、攻撃をされている真っ最中ならばこの廊下も妖精さんでごった返しになり、まともに移動できる状態ではなくなってしまっていただろう。

 ふと俺の目に一人の妖精さんが映った。

 

「一樹、先に行っててくれ」

「宗二さん、どこに行くんですか?」

「少し話をしておきたい奴がいただけだ。まだ点検できていない場所があったんだ。どうせ二人で零戦についたところで直ぐにはエンジンをつけられない。点検、頼めないか?」

「……わかりました。待ってますからね、僕」

 

 一樹が言うとおりに航空デッキに向かっていくのを確認すると、俺はズカズカと奴に近づいて行った。俺は唐突に胸ぐらを掴む。どうせ混乱している状況だ、階級云々はいくらでも有耶無耶にできるはずだ。

 

「乱暴だな、宗二くん」

「佐久間中尉、これはどういうことだ」

「何がですか?」

「この耳でばっちり聞こえたんだよ、まさかとは思うが加賀と一緒に海に沈んでも良いって事か?!」

 

 佐久間がニコリと笑う。その表情が妙にかんに障った。

 佐久間は小声で話していたのかもしれない。だがしかし、俺はハッキリと聞いていた。加賀が撤退戦を提案した時、佐久間はそれを快く受け入れていた。加賀の声色から察するにかなり窮地に立たされていることは容易に想像できたはずだ。母艦を守るために妖精さんが戦うのは道理の通り話だ。だが、戦っても勝ち目が薄い戦いにわざわざ命を張らなくてはいけない義務はないはずだ。士官である佐久間ならば、妖精さんがいくら出撃したところで加賀が逃げ切れる可能性が低いことを理解している。それなのに、佐久間は加賀と随分と昔から付き合いがあるという理由だけで、撤退戦を承諾し、俺達に死ねと良いながら出撃を命令した。

 

「俺はまだ死ぬわけにはいかない」

「死にたいと思っている妖精さんはここにはいないさ」

「だったら何故、加賀の申し出を断らなかった? 全機出撃で応戦せよ? 冗談じゃない。機動力では零戦に乗っている妖精さんが上だが速度ではどうしても母艦の加賀の方が早い。出撃などしないで、加賀に逃走することだけに集中してもらえば良かったはずだ」

「母艦が沈んでは元も子もないだろう」

「応援を呼ぶ提案もできたはずだ」

「宗二くん」

 

 

 予想外に強い力で佐久間は俺の手を掴んできた。徐々に力は強まり、俺は逃げるように佐久間の胸ぐらを掴んでいた手を離した。

 

「我々は妖精さんという個でありながら、正規空母加賀のパーツという集団だ。パーツは意思を持つことを許されない。パーツは本体から逃げることを許されない。妖精さんとしてこの世界に生を受けた運命を呪うといい。加賀さんのことを知らずにでかい口を叩く雑兵が。死にたくないなら、さっさと出撃して一機でも多くの敵を墜とせ。口ではなく手を動かせ」

「……!」

 

 言い返そうとした。言葉が出てこなかった。

 俺はなぜ佐久間に突っかかったのだろうか? 恐怖のあまり誰かに八つ当たりをしたかっただけなのかもしれない。佐久間の言ったことは正しい。死にたくないなら、敵を倒す。こんなところで内輪もめをしている場合ではない。

 

「君の無礼は水に流そう。君が生きて加賀に戻ってこれるなら……ね」

「冗談じゃない。死ぬ気はない。帰ってきてやるさ、加賀(かんおけ)にな」

「……面白い男だ」

 

 佐久間に背を向けて甲板へと向かう。既に一樹が発艦の準備を済ませていた。零戦によじ登り、操縦席へと着く。

 

「何を話していたんですか?」

「……」

「佐久間中尉とですよね?」

 

 一樹は俺が佐久間に突っかかることを知りながらも、放っておいてくれたらしい。まったくもって素直すぎる妖精さんだ。

 

「ここで撃墜数を稼ぐことが出来たら、もっとまともな艦娘に異動させてくれってお願いをしたんだ」

「なるほど……? 加賀は結構良い場所だと思いますよ? なかなか沈まないし、それにご飯もそこそこに美味しい。場所によっては激マズ飯を食べさせる艦娘があるとかないとか……」

「飯意外に気になることはないのかよ」

「ありますけど……僕は宗二さんがいるなら付いていきますよ。観測手として出来る事は少ないですけど、本当に信頼している人じゃないと操縦桿を任せられませんから」

「言ってくれるじゃないか」

「え、怒りました……?」

 

『五番機発艦開始!』

 

「行くぞ」

 

 無線が聞こえ、俺は操縦桿を握りしめる。しばらくすると重力が消えさり、強烈なGと共に目の前には真っ青な海が広がった。遙か上空には黒い点が無数に見える。

 

「生きてかえってまともな場所で働いて終戦まで生き延びてやる。俺は死にたくないんだよ」

「そうですね」

 

 戦いが始まった。

 生き延びるために俺は大きく舵を取り、編隊へと合流するのであった。

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