鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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案の定長くなったので切った


text12:俺達の打ち合わせと残業の意味は…?

朝から時間は経ち、午後。

ご飯を食べたあとだからか地味に眠い茶ノ丸は、その場で欠伸を噛み殺す。

今朝の格好は生徒達を守るための変装──今から原宿にでも行きそうな若者風(メガネは普通に伊達)──だったので、今はもう着替えている。“アントマン”としてのヒーロースーツだ。

 

赤と黒を基調とした革製のバイク用レーシングスーツみたいな…割とぴっちりしている。腰からはレッグバッグを下げ、脇には頭全体を覆う特徴的なヘルメット。

簡素なほうだが、相棒はさらにその上を行く簡素さなので言えない。

 

「今日のヒーロー基礎学だが…。俺とこのバ……茶ノ丸とオールマイト、そしてもう1人の四人体制で見ることになった」

「なあ、なあ。悪意ない? その言い方悪意ない? バ…って何? 何が言いたかったん?? なんでそこで切ったん??」

「うるさいぞバカ」

 

クラスの人数は20人きっかりなので、4人の先生で5人ずつ見れる。合理的、とは昨夜相澤が言っていたことだ。

マスコミに侵入されて昨日の今日だ。会場であるウソや災害の事故ルームは校舎からかなり離れており、なにかあったらまずい……とのことでプロヒーロー4人が付く。

 

ちなみに警察からの連絡によれば、事情聴取したマスコミの奴らは何も知らなかった。彼らも知らぬうちにセキュリティゲートが崩れ、これ幸いと殺到したらしい。マジで肝心な時に役に立たない奴らである。

 

「ハーイ! なにするんですか?」

「災害水難なんでもござれ!! 人命救助訓練だ」

「イエーイ! 俺の専門でーす!」

 

瀬呂が元気よく手を挙げて質問する。

 

これがいいな、と茶ノ丸はぼんやりと思う。これがいい、子供たちが気兼ねなく笑える世界がいい。いつだって子供たちが時代の指標だ。彼らが放課後、子供たちだけで歩ける時代がいい。彼女らがいつだって、微笑み慈しみ合う世界がいい。愛しいものと手を取り合える、幸せな世の中がいい。

誰だってそうだろうと。少なくとも16歳まではそう思っていた。

 

“人間を善悪で区分けするなど愚かなことだ。人間は魅力的か退屈かのどちらかである。”とはイギリス(現在のアイルランド)の作家、オスカーワイルドの言葉だが、自分を納得させる言葉を探していた茶ノ丸はとりあえずはそれで落ち着いた。

善も悪も人間が勝手に決めた枠決め。人間ひとりひとりを見たってどれもこれも違いすぎる。悪という概念があるから善という概念があるのだ。

 

人間が全員、きっぱりと善というわけではない。先のマスコミのように入ってはいけない場所に入った人間がいて、入らなかった人間もいる。

 

「茶ノ丸、」

「……んー?」

「行くぞ」

「はぁい」

 

この手のことを考えると頭がおかしくなりそうだ。グローブに覆われた右手を擦り合わせるように動かしたり、グッパと開いたり閉じたり、指を波のように動かしてみたり。

やはり首筋がチリチリする。むぅ、と口を真一文字に結んで、ため息を吐いた。

 

久しぶりに手癖の悪癖が出そうだった。

 

 

◆◆◆

 

 

バスの中、窓側に座った茶ノ丸をチラリと見ると嫌に静かだった。

常時笑顔を貼り付けている顔はそっと流れる景色を追っている。大きな瞳に森が写る。普段ならここで騒ぎ出し、生徒達と仲良くお喋りでもしてそうだが、その気配はない。

一層不気味だ。

 

10年間茶ノ丸を相棒としてやってきた相澤の勘が、嫌に騒ぐ。この手の人間が黙る時は、妙なことを考えているか、もしくは妙なことが起こる時である。

 

「…どうした、酔ったか」

「……は〜〜? 酔うわけないやん」

 

個性を使って1.5cmにもなる茶ノ丸は長年の個性使用によって三半規管が強い。ほぼ戦闘時はぴょんぴょん小型化して跳ね回っているので当たり前である。それを知らない相澤ではない。

 

「あ゛ーー…」

 

ガシガシと頭をかいて茶ノ丸が仰け反る。

素直ではない不器用な先輩と、素直ではない偏屈な後輩なのでコミュニケーションは上手くいったりいかなかったりだ。今回は上手くいったほう。

 

「キヲツケマス……」

「……」

 

目を極限に逸らしている茶ノ丸に、相澤もため息を吐く。空は相変わらず、ぼやけたような色を保っている。

 

 

「え、オールマイト先生おらんの? 昨日の俺達の打ち合わせと残業の意味は……?」

「13号に当たるなオールマイトに言え」

 

生徒達がはしゃぐ中、教師3人がコソコソと話し合う。話題はここにはいないナンバーワンヒーローのことで。

 

「すみません、通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで……仮眠室で休んでいます」

「不合理の極みだなオイ」

「うーーーん、人助けしたのを咎めるのもなあ……」

 

ちなみに茶ノ丸と13号は同じ歳の同期である。学生時代は隣クラの仲良しだった。いえーいぴーすぴーす。

まあ、念の為の警戒態勢だ。イレイザーヘッド、アントマン、13号と役割がバラけている三人一組なので、余程のことは無い限り大丈夫かな……とは思うけれど。

 

「(めっちゃ首チリチリするなんなんこれ)」

 

俗に言う嫌な予感とかそういうやつ。13号の生徒への小言を聞き流し、首筋を撫でながら素早く視線を走らせるも、周囲に異常はない。蟻からの危険信号もない。

 

「以上! ご清聴ありがとうございました!」

 

「ステキー!!」

「ブラボー!! ブラーボー!!」

 

お茶子が瞳を輝かせているのを見て心が安らぐ。確か人命救助志望だったか、メールで母から聞いている。

ヒーローになると聞いた時は、なんでこんな危険な道に! とかなんだの思い取り乱したが、目標に向けて頑張っている姿を見ていると応援したくなる。それが兄心というやつだ。もちろん怪我をしたり泣いてしまったりするなら、怪我させた相手泣かせた相手、絶殺(ぜっころ)するけど。

 

自らの個性的に人命救助には片足突っ込んでいるので、13号の説明が終わると共に準備をしようとした。

その時だ、背筋が凍るような感覚が走ったのは。

 

「それじゃあまずは───」

「なあ、イレイザー…! なんか…」

 

USJの中央、噴水のそば。ちょうど今相澤が指を指したあたりに、黒い靄のようなものが見えて茶ノ丸は軽く目を擦る。空間に開いた小さな黒い孔。

 

それはだんだん広がって───

 

「ひとかたまりになって動くな!!!」

 

ずるり、と。

人が。切られた手首のマスクを付けた青年が。這い出てくる。

人が約3人通れるほど広がったそれから、続々と後続の───

 

「13号、生徒を守れ!!」

 

相澤と目が合う。

すぐさまヘルメットを被った茶ノ丸は、近くにいた爆豪の襟首を軽く引っ張る。

 

「なんだアリャ?! また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

 

呑気な声をあげる切島に、相澤がゴーグルをかけながら叫んだ。

 

「動くなあれは───ヴィランだ!!!」

 

 

◆◆◆

 

 

「13号に…イレイザーヘッド、そしてアントマンですか…。先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトがここにいるはずなのですが…」

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

あの黒い靄───蟻に備え付けられていたカメラの映像で見た、と気づくと体の中から燃え上がるような怒りを感じる。落ち着け、冷静に、冷静に、思考はクールに。内頬の肉を噛む。

だが体は熱く、だ。

 

「なんだよ…せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ…。オールマイト、平和の象徴、いないなんて…

 

 

 

子供を殺せば来るのかな……?

 

「マッジで真面目に考えたのアホらしいわ。やっぱクレイジーな輩の頭の中身考えても無駄やな」

「オイ離せ先公コラァ!!!」

「自分ほんと口悪いね? ごめんちょっと大人しくしとって」

 

身を乗り出そうとする生徒を手で制しながら後退する。出入口の扉までおよそ30m。背後に敵影なし。冷静に対処すれば生徒だけは無事に帰せる。

暴れる爆豪の襟首をしっかり掴み、思案する。いや、でもここから校舎に走らせるのは…。あと侵入者センサーが反応してない。現れたのは学校全体? それともここだけ? “オールマイト”という言葉から否だと判断する、恐らくここだけ。かなり計画的だ。

 

「ゆっくり全員、下がれ。扉に向かって後退」

 

右手で爆豪を掴み、左手で轟を掴む。

このクラスで出ていってしまうのはこの2人だ。出ていけてしまう個性と精神を持っている2人。ちょっと手綱持ってないと怖い。

 

スマホをちらりと見ると圏外。ヴィランにそういう個性がいる? だとすると厄介だ。増援しばらく見込めそうにないな……。プロヒーロー三人とも、正面切って戦うタイプじゃないだけに。

 

「アント、13号避難開始! 学校に連絡…!」

「ダメです先輩、スマホ圏外!」

「チッ…! 上鳴、お前も個性で試せ!!」

「…ッス!!」

 

ゆっくりと半歩ずつ、2人を引っ張りつつ下がっていく。それに倣うように他の18人も下がってくれた。13号とアイコンタクト。まあお互いマスク被ってるので目の位置なんてよくわからないんだけど。

 

「13号、あんたがこの子らについとって」

「でも…」

「誰か一人はついとらんと、な? 俺の方が戦闘向きやし、殿(しんがり)は任せろ」

 

轟から手を離して、とんと軽く胸を叩いた。相変わらず右手はめちゃくちゃ暴れている。コノヤロウ。

 

「アント、13号、頼む」

「畏まり!」「はい!」

 

その声とともに飛び出していったイレイザーヘッドに、アントマンと13号は短くそれだけを返した。イレイザーを心配してか足が止まる生徒達を引っ張りつつ、出入口に急ぐ。

 

ちらりと後ろを見れば、先輩が華麗に敵をしばき倒しているところで。

 

「凄い…! 多対一が先生の得意分野だったんだ…!」

「緑谷くん、感動するのもわかるんやけどさっさと行こな」

 

「させませんよ」

 

ぞわり、と13号の前に闇が広がる。

イレイザーの一瞬のまばたきの隙、生徒達と出入口の間に現れたそれにこちらも一瞬挙動が止まる。

 

「はじめまして、我々は敵連合(ヴィランれんごう)。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは───平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

思わず右手が緩む。

蟻は雄英の各地に散らしている。ここにも数十匹はいるはずだ。それに「オイデ」と命じて、敵を見据えた。

 

噴水広場からここまで。そして恐らく雄英の外からここまで。30〜50弱のヴィランを連れての大移動。予測できる個性はワープ系というところだろう。思わず舌打ちが出る。

 

「本来ならここにオールマイトがいらっしゃるハズ……ですが、なにか変更があったのでしょうか?」

「はン、なんや敵連合て。大層な名前やけど大したことないんやな。ガセネタ掴まれとるで、それ」

「まあ……それとは関係なく」

 

もちろんブラフである。反応を見たかったがそう簡単にはいかない。

頼むから、という意志を込めて爆豪を後ろに押した。しょうがない、だって右手は使う。正体の見えない不気味な敵に生徒が本能的に一歩下がった。

 

「私の役目はこれ……」

 

蠢き出した闇に警戒心を強めるなか、横をすり抜けていった金髪頭に思わず素で「は?」と声が出る。

爆発音と見事な蹴り。爆豪と切島だ……ここが敵地ではなかったら頭を抱えたい……!!

 

「爆豪切島!! あんたら要注意生徒入りやからな……!!!」

「ダメだ、戻りなさい2人とも!!!」

 

大きく広がる闇──生徒の半数が飲まれるほど──に飲み込まれる刹那、轟とたまたま近くにいた葉隠の腕を掴みながら叫ぶ。

 

「全員近くの子ォのなにか掴め!!!」

 

大きな目に涙の溜まっているお茶子と目が合う。

もう全員殺す……!!!

そのまま景色が一変した。

 

 

そのまま子供二人を抱えたまま落ちた先は土砂ゾーンだった。セントラルゾーンからは右斜め後ろ。黒靄のヴィランと相対する13号と残された生徒達がギリギリ視認できる位置だ。

 

「キャー!!! アント先生大丈夫??」

「ああ、うん。大丈夫やで葉隠さん。大人の身体っていうのはこういう時のためにあるんやで。ところで服って着てる?」

「着てない」

「そっかあ…」

 

地上から5mほど離れた場所から落っこちたので、せめて二人が怪我ないように受身を取っている。石ころ転がっている地面だったので背中めちゃくちゃ痛い。グリッとした。レゴブロック素足で踏んだ気分。

 

「うっへへへ……やっと獲物が来やがったぜえお前らァ!!! 三人ぽっちとは物足りねえが、さっさと殺して次の狩場に…!!!」

 

「怪我は?」

「大丈夫!」「ああ」

 

「聞けやてめぇ!!!」

 

二人を立ち上がらせて土を払ってやる。セントラルにいた以外にもヴィランがいたようで、この場には20人弱。口煩く喚いて目をギラつかせていた。

もしかして全体で100人余りくらいはいるのでは…? USJが広いだけに、生徒たちも散らされているようだ。単独になってしまっている子がいないか心配だった。

 

「足でまとい二人も抱えてんのにお喋りとは随分余裕だなぁアントマン…!! お前は俺の個性、邪王炎殺黒龍破で…!!!」

 

「お前話長い上におもろないねん。轟」

「…」

「後ろ、頼める?」

 

そのままレッグバッグに手を突っ込み、お目当てのものを取り出す。轟は小さく頷くと、そのままアントマンの後ろに立ってくれた。

なんかいいね、教師と生徒の共闘って感じで。

 

「そんな車の模型でなにが………………………ッッッ?!?!?!」

「まあ君ら丈夫やし、死なんとは思うけど、後始末大変やし頑張ってな♡」

 

取り出したのは手のひらに包み込めるサイズの車の模型のようなもの。具体的に言うと小さなタンクローリー。

左手で投げられたそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

唖然とした顔のヴィラン達に迫るのは、空中にて全長11m、重さ20t(+中身の重さ)の大型タンクローリーだ。アントマンの手からかけられた緩やかな回転を維持しながら、ヴィラン達に大きな影を映す。

 

「アレ、大丈夫なんですか?」

「中身多分水やし大丈夫なんちゃう?」

 

そのまま轟音を立てながら横向きに着地したタンクローリーを指差しながら、葉隠が震えた声で言う。

続いて特徴的なツンとした刺激臭と、それに伴う爆発音と爆風。

 

「あ、ごめん。水は水でも燃える水やったみたい……知らんけどって付け足してもらってもいい?」

「ええーーー!!! ざ、雑〜〜〜!!!」

「くそ雑魚相手に真面目に戦闘しとったら身が持たんわ。まあ適度に手は抜かんとな」

 

目の前で爆発炎上するタンクローリーを眺めながら狼狽する葉隠の頭(だと思われる場所)をぽんぽんと撫でた。

───20tタンクローリーが空から降ってきて、爆発炎上しようとも。ヴィランは体が丈夫なのでこれくらいでは死なない。

 

背後から冷気が伝わってくる。土砂ゾーン全体に氷が走り、炎諸共凍らせる。凄まじい火力である。氷だけど。

 

「おーー1人残してくれとるやん! 偉いな〜グリフィンドールに10点!」

「ぐり…?」

 

軽口を叩きながら次の準備をする。轟が一人残したということは、尋問することをわかっているということなので任せよう。

 

「……このままじゃあんたらじわじわと身体が壊死していくわけなんだが」

「…!」

 

ヴィランの体にさらに霜が走る。

パキパキと広がっていくそれは恐怖の象徴だ。すげえな推薦生…!! 明らかに怯えた顔のヴィラン。これはもう早速ゲロる。

 

「俺もヒーロー志望。そんな酷えことはなるべく避けたい。

───あのオールマイトを殺れるっつう根拠、策ってなんだ?」

 

 

 

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