鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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text13:ヴィランは無駄に頑丈なのでこれくらいでは死なない

「右隣りに倒壊ゾーンがあるからそこ通って──戦闘しとる生徒がおったらできるだけ助けてあげてほしい──13号先生のとこまで行って。わかった?」

「わかった。あんたは?」

「俺はこのまま山岳・火災・水難巡る。いいか? 必ず二人一組で、や。離れたり勝手な行動したらあかんで? お互いに気を配り」

「わかったー!」「…わかった」

 

今日電車通勤でよかった。

そのおかげでこの広いUSJを駆ける足を持っていたんだから。

 

ブラフ・シューペリア SS100。イギリスのオートバイ。バイク界のロールスロイスと名高いバイクだ。といってもこれが作られたのは個性が世界に広まる前のことなので、この美しさがわかるのはひと握りしかいないんだけど。世界で約383台、当時でもオークションで1000万の値がついたっていうんだから現代ではプレミアがついて───考えるのはやめよう。

ともかく、この時代で使うには少々難しいので、サポート科のパワーローダー先生にちょっとした調整を頼んで…………少なくとも見た目はそのままだった。どうしたかまでは詳しく聞いてない。怖くて。

馬力は数倍に上がっている。

 

そのままバイクを吹かして、片足をステップに乗せる。

 

「か〜〜〜〜っこいいバイク〜〜!!! え〜〜〜今度乗せてよ先生っっ!!!」

「…ええん? 俺の運転技術ワイスピ譲りやけど」

「あっ、やっぱいいです」

「ふは、よく言われるわ」

 

人差し指と中指を揃えて振って、ギアを上げてアクセルを捻った。

目指すのは山岳ゾーンである。

 

 

ヴィランというのは姑息な癖に頭が回る。土砂ゾーンから山岳ゾーンに移動する最中、数人のヴィランが襲ってこようとしたので遠慮なく轢いた。

真正面から吹っ飛ばし、後輪だけで走りつつ前輪でぶっ飛ばし、たまには車体ごと突っ込む。そうやって蹴散らしつつ───ヴィランは体が丈夫なのでこの程度じゃ死なない───山岳ゾーンについた時には全てが終わっていた。

 

「…先生っ!!」

「先生!! うわぁバイクカッコイイ…!!」

「ウェーーイ…」

 

「八百万、耳郎、上鳴、無事…!!! よく頑張ったな…」

 

少しボロボロながらも笑顔で駆け寄ってくる三人に、アントマンはほっとしてハンドルに数秒身を預けた。

これで5人、あと15人。13号の元にいた人影はヴィランを除いて6人。彼らは無事ではないが、どこにいるかはわかっている。あと9人…!

 

先程の命令を受けて集まっていた蟻達を左手でタッチ。10匹ほどの羽アリと、30匹ほどの働きアリ達がそのまま大型犬の大きさまで巨大化する。

 

「あら、なんというか…」

「キモイね!」「うぇーい…」

「酷ない女子? あとさっきから上鳴なんなん? あほ?

とりあえず働きアリ5匹お前らに付けるから、これの案内に従って出入口目指して。さっきまでおったところな。俺はこのまま火災ゾーン行く」

 

それぞれに了承の返事をした三人が───上鳴は最後まで変だった───蟻達に付き添われながら駆けていく。

それを見届けて、アントマンはおもむろに地面に手を置いた。ここかな、ここかな、と探るように触っている。

 

やがてなにか気になったのか、少しひび割れて盛り上がった岩の一部を数回叩き────にっこりと微笑み崩れた土くれの中からヴィランを引っ張り出した。

 

「……!」

「こーんにーちはっ」

 

襟首を掴まれて青ざめるヴィランと、にっこりと笑顔の仮面を貼り付けたアントマンが数瞬見つめ合う。まあマスクしてるのであちらからは見えないんだけど。

それは恐怖によるものか、それとも無謀な勇ましさによるものか。下半身はまだ埋まったまま右手を振りかぶるヴィランに、アントマンはパッと襟首を離し────そのまま腹に雑な蹴りを打ち込んだ。

 

気絶したヴィランを見下ろし一言。

 

「よし! 次ッッッ!!!」

 

 

「ミツケタ トウカイ ニ キンパツ(爆豪) アカガミ(切島)

「あの要注意生徒共同じ場所に飛ばされとったんか!! どんな感じ? ピンチ?」

「ヨユウ キュウエン イラナサソウ」

 

Bluetoothイヤホンから聞こえてくるリアルタイムの状況に歯噛みしてアクセルを捻って加速する。

 

「スイナン ニ ミドリ(緑谷) カエル(蛙吹) ブドウ(峰田) アリ ピンチ ナシ ダガ チカクニ シュカイ アリ」

 

「ボウフウ カラス(常闇) ドウブツ(口田) レーザー(青山)

 

「カサイ ニ シッポ(尾白) コグンフントウ」

 

働きアリ達が教えてくれた情報で、残り9人の居場所を把握。生きてはいる。良かった、本当に。心からほっとする。

暴風ゾーンにはそのまま羽アリ5匹を向かわせた。残り5匹は自分の横に付ける。

 

「ジュウサンゴウ フショウ ピンチ」

 

「イレイザーヘッド フショウ ピンチ」

 

盛大に舌打ちしながら───向かってくるヴィランを轢き倒す。射撃系の個性のヴィランが異形化した肩の発射台から狙うが、右手で体をタッチ。バイクごと体長1.5cmと小さくなったアントマンはそのまま直進して加速した。

 

個性を使って小さくなると、世界は全く別のものに見える。

 

時間が止まって見える。

()()()()()()()()()()()()()

 

虫から見る世界ってこんなものかと、少し面白いのだ。

 

今は笑っている場合じゃあないんだけど。

 

「なっ…!! どこに…?!」

「ここやで節穴ァ!!!」

 

火炎砲が着弾し土煙が舞うが、アントマンには効かない。空中に飛んでいたそのままの勢いで、左手で元の大きさに戻る。

正直時間が惜しい。ひとりひとり相手していられないので、倒し方が雑になるのは許してほしい。そのまま車体ごと体当たりだ。数百キロの車体+アントマン自身の重さ、破壊力は身に帰ってきているので沁みるようにわかっていた。

 

「なっ…!! 消えたり現れたり不気味な…!!! 黒霧さんと同じくワープ系の…?!」

「ワープ系ではないんやけど、あのクソ野郎の名前“黒霧”言うんやな。アリガトー」

「ぎゃあああ!!!? 何だこの蟻!!!?」

 

遠距離から攻撃しようとしていたヴィランに羽アリが襲いかかる。キシキシと顎を鳴らす大型犬大の蟻はそれだけで不気味だ。もんどり打って倒れるヴィラン達にその倍以上の蟻が群がった。

 

学生の頃、個性を扱い始め最初にやったことは己の個性がなにができるのか、どこまでできるのかを知ることだ。

 

自分の体では1.5cmから20mの大きさまでサイズ可変が可能。ただし体力を著しく消費する。20mの大きさは20秒ほど保てない挙句に内臓に負荷がかかるのでほとんど使えない。

タイムラグはほとんどないが、自分以外のものを縮小化・巨大化するには2秒〜3秒のタイムラグがある。

小さくなる 小さくする ことで体積が変わるため、見た目相応に軽くはなるが、自らが世界に及ぼす影響は変わらない。わかりやすく単純に言うと1()7()8()c()m()()()()()()()()()()()1().()5()c()m()()()()()()()()()()=()なのだ。

ここが一番理解できなかった。運動方程式に反している。ニュートンに謝れ。

 

ここら辺は個性による物理法則のバグだ。

そうやって納得した。……目を逸らしたと言える。

 

体のサイズが変わったとしても、力の大きさは変わらない。

ここで問題が生じる。

 

銃の構造と原理を考えてみよう。

銃の撃針が弾薬の雷管を叩くと、雷管内部の火薬が燃焼し、薬莢内の火薬に引火して激しく燃焼する。火薬が燃焼を始めると発生した燃焼ガスにより内部圧力が高まり───弾頭が押し出されて銃身の中で加速し発射される。その速度は亜音速の毎秒340 m。

 

物理学的に銃火器とは、標的に最大限の破壊的エネルギーを、射手に最小限のエネルギーを伝達する機構だ。

 

ここでアントマンの話に戻る。

1.5cmの大きさで、成人男性の瞬発力と運動能力で飛び回る個性。悲しいかな、()()()()()()()()()()()()最小状態なら亜音速が出てしまうアントマンは、通常の人間の肉くらいなら銃弾のように貫けるようになってしまった。

ニュートンはそろそろ泣いていい。

 

だから調整が必要だった。つまり最速が出ている状態では、他人の血肉を貫く前に大きくなる必要がある。

アントマンの中のニュートンはもう咽び泣いている。もう無理だこの超人社会。

 

シッポ(尾白) キュウシュツ リダツ」

 

カラス(常闇) ドウブツ(口田) レーザー(青山) キュウシュツ リダツ」

 

キンパツ(爆豪) アカガミ(切島) コウハク() アンド トウメイ(葉隠) ト ゴウリュウ」

 

「ならあとは緑谷と蛙吹と峰田やんな…イレイザーの様子は…?」

 

「ヨクハナイ イソグベシ」

 

粗方ヴィランを蹴散らしたアントマンは、その方向に向けてハンドルを切る。

彼の背後には倒れ伏したヴィランたち。数が多いだけに面倒だったが、所詮は数だけだ。烏合の衆というやつだろう。

 

「……13号のところにいる生徒の名前は?」

 

エンジン(飯田) タコ(障子) サン(芦戸) テープ(瀬呂) サトウ(砂藤) オチャ(麗日)

 

「お前らネーミングセンス雑じゃない??」

 

エンジン(飯田) ガ コノバカラ リダツ キュウエン ヨブモヨウ」

 

妹の名前と、その報告に身が引き締まる思いだった。

アクセルを捻る。急発進したバイクは、タイヤをすり減らしながら加速した。

 

 

こんな一方的な暴力があるものか。

 

こんな一方的な理不尽があるものか。

 

少なくとも大半の生徒がそんなものはないと思っていた。

とある少女は「まだ現実味がない」と笑っていたし、今日ほとんどが“本物の自分に向けられる悪意”を知ったはずだ。

 

“未知なる物を恐怖するからこそ、みんな夢や幻想や戦争や平和や愛や憎しみなどを追いかけて、右往左往するのさ”とは英国のミュージシャン、ジョン・レノンの言葉だけれど。

 

「あ…アント先生…!」

 

人は地を這う生き物だ。手を伸ばしたって届かない空を見上げて、みっともなく足掻いて、飛べたもののいれば墜ちたものもいる。ただそれだけの話。

 

「いきなり出てきて人を足蹴って…ヒーローの風上にもおけないなァ…」

「いやぁいきなり出てきて人の生徒襲い始めるのも人間としてどうかと思うで?」

 

蛙吹の顔に伸ばされた掌は、およそ数センチで止まっている。相変わらずニコニコと笑顔を絶やさない副担任は、ヴィランの肩を脚で押している。お互いの力が拮抗しているからか小刻みに震えていた。

 

「もう逃げるん? もう少し遊んでいこうや。俺まだピンピンしてるんやけど」

「終わりの見えたゲームはやらない主義だ。脚を退かせよ、蟻男(ありおとこ)…!」

「ええ、嫌や。もうちょっと! ヴィランくんの、ちょっといいとこ見てみたい! なーんちゃって…

 

まあおふざけはここまでにして、俺相当キてんねん。付き合ってやおにーちゃん」

 

羽アリが三人の生徒の襟首を噛み、引っ張って離脱していく。

これでもう気兼ねがない。しっかり、たっぷりと、雄英に喧嘩売った報いをその身に刻み込んでやるよ…!!! とどこか三下のような思考を持て余しながらアントマンは左手をレッグバッグに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 




映画を見直してよく分からなかった部分は個人解釈で穴埋め。多分ピム粒子がね…すごいんですよ…たぶん…

手近な武器があったら使うタイプなので普段からタンクローリーぶっとばしてる訳では無いです。災害時のための備品的な……レッグバッグにはその他にも大型バスとか食料品やら生理用品を積んだ車とかを小さくして入れてるんじゃないかな。

DCと言えば明日? 今日だったかな? ジョーカー公開ですね〜〜!!! その元カノハイパークレイジーガールハーレイ・クインも単独作おめでとうー!!! 2019年の前半はMARVELの年だったが後半はDCの年。

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