鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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text15:夢の中でも現実を見る

「腹と胃の穴はできるだけ塞いだ!!! このまま近くの集中治療室(ICU)へ!!! イレイザーヘッドは?!」

 

「腕の骨折と、頭蓋骨の骨折…!! 頭部からの出血が酷いです!!!」

 

「こっち持ってきな!!! 頭部だけ治してそのまま病院へ!!! 13号!!!」

 

「僕は大丈夫です…!! 先に先輩と茶ノ丸くんを…!!!」

 

「うるさいね黙って体を出す!!!」

 

飯田が引き連れてきた雄英の教師達が来てくれて、ヴィラン達が去って、数分後。

現場の騒々しさに生徒達は身が竦む。リカバリーガールが先生達に檄を飛ばす。囲まれているのは自分たちの担任と副担任だ。

 

───アントマン、出血が酷いです!!!

 

───胃に穴二つ、腹に穴五つ…! 第10肋骨、粉砕骨折……!!!

 

───意識レベル低下…!!! 聞こえる茶ノ丸くん!! 聞こえるなら手を握って…!!

 

ただそんな声が遠く、遠く、お茶子の耳にも届いていた。

体が震える。冷や汗が垂れる。指先が冷えている。たくさんの大人に囲まれた中、脱力した足だけが見えた。

小刻みに、先程まで、心臓マッサージを受けていた彼はAEDでのショックで……とにかく、峠は越えたらしいことを聞いた。

 

心臓マッサージをした。AEDを使った。つまり、それは、数秒の間心臓が止まっていたということだ。呼吸が浅くなる。自分の心臓部分に手を当てて握り込む。遠くからサイレンが聞こえた。嫌な音だ。はやく、はやくきて。こうやって命は取りこぼされていくのだ、と感じる。たった数分、たった数秒の違いで命の灯火が消える。これが現場だ。これが現実だ。日本では、救急車の到着まで平均約8.6分。

 

「────麗日お茶子、さん?」

「………ッ!!」

 

突然声をかけられて、お茶子はなかば悲鳴のように声を上げた。

へたりと座り込んだままだったので見上げると、黒髪の女性の先生が微笑んでいる。

 

「こんにちは、私はミッドナイト。落ち着いて聞ける?」

「…」

 

彼女の右手の指先には、赤い血がこべりついている。どうしてもその色に拭いきれぬ“死”というイメージがせり上がってきて、ふるふると小刻みに首を振った。確か、この先生は、先程まで茶ノ丸の横で声をかけ続けていた先生だ。

綺麗な左手が、温かい白い指が、お茶子の髪や頬を安心させるように撫でた。優しい声で「大丈夫、大丈夫」と言い続けてくれる。

 

「もうすぐ救急車が来るわ。近くの大学病院に搬送される。今は心臓も動いてるし呼吸もしてるけど、いつ容態が急変するかわからない」

「いや、いやや、おにい…!!」

「うん、だから一緒に救急車に乗って同行しましょう。私と一緒に」

 

そのまま抱きしめられるような形になり、お茶子はミッドナイトの肩に目元を埋めた。ぽんぽんと片腕だが、彼女の手が背を優しく叩いてくれる。

少しだけ、落ち着いた。

 

「お、おい。ミッドナイト…さすがに…!」

「うるさいわねマイク。(この子)が呼びかければ茶ノ丸くんはたとえ三途の川の向こうまで行っちゃってたとしても爆速で泳いで帰ってくるわ」

「な、なるほど…?」

 

そんな会話をしているうちに、救急車が到着。

ミッドナイトに付き添われて救急車に乗ると、呼吸器を付けられた兄がそこで眠っていた。救急隊員が何やら作業をしている。

 

「手、握ってあげて」

「…」

 

顔は血の気を失っていた。瞼は固く閉じている。応急処置を終えたものの、割かれた赤黒いヒーロースーツは、負傷の跡をひしひしと伝えていた。ぴっ、ぴっ、と心音を刻むモニターだけが、彼が生きていることを教えてくれる。

 

そっと冷たい手を握る。いつも覆っている白手袋がないため、晒された手は意外も無骨だ。ピアノをやっていたから、兄が家にいた頃は────手が綺麗だったように記憶している。大きな手は細かなものから大きなものまで、傷だらけで固い。この手でどれだけの人を守ってきたんだろう……と思うと、胸がいっぱいになって思わず額に押し当てた。守ってくれた、私達を。

 

ただ、あの時。「────お兄ちゃん!!!」と叫んだあの時、腹を脳無に鷲掴みにされて、唇の端を血で濡らしながらも、その呼び掛けに応えてくれた。一瞬だけこちらに目を向けて笑ってくれた兄の姿が目に焼き付いている。

 

じわじわと感情が溢れてきて、涙となってこぼれた。やっと心が体に追いついたんだろう。大粒のそれは、兄が眠るストレッチャーの布を濡らしていった。

 

「おにい…ッ、ちゃのにい…!! う…うぇ…ッ、うう…う゛〜〜…」

「……」

 

イレイザーヘッドも13号も、そしてアントマンも。あの場で紛うことなきヒーローだった。眩しいほどに、鮮烈に。その輝かしさの裏に、これがある。

 

救急車はサイレンを鳴らしながら、動き出した。

 

 

◆◆◆

 

 

「さ………る、さの────茶ノ丸!!!」

「……………………はえ?」

 

がくり、と身を横たえた衝撃で目が覚めた。

起きてみるとそこは、、、“実家”だった。L字型のソファに横になる茶ノ丸を誰かが揺り起こしている。

ぼんやりと霞む視界でよく見てみると、母だ。

 

「なに寝とるん……もう夕ご飯やで? お休みやから〜って寝すぎとちゃう?」

「あ〜〜…? うん? あれ? おおう?」

「寝ぼけとるな…はよ手を洗ってきなさい」

 

ズキンと、首が痛んだ。

確かヴィランに────脳無にヘルメットマスクを吹っ飛ばされて、少なからず衝撃を受けていたのだろう。当時はアドレナリンがドバドバで痛みはなかったのかも。

 

それより────

 

ソファから起きあがると、母はキッチンに向かっていた。ダイニングテーブルにはたくさんの魚介と酢飯と海苔、手巻き寿司だ。大好き。椅子には父が座っている。

大型のテレビからは関西のローカルテレビ、芸人がトリオ漫才で湧かせていた。リビングは温かみのある光で溢れていた。

 

あ、これ、()()

新聞を眺めている父の姿を眺めて、そう痛感する。息が浅く、遠く、痛いほど───

 

「おにい?」

「…!!」

 

そう声をかけられて、びくりと身を震わせた。視線を向けると、今よりも少し幼いお茶子がきょとんと首を傾げている。可愛い。違うわ。自分はこの時期のお茶子は知らない。だいたい、14〜くらいだろうか? 身長が少し低い。可愛いな…。

 

夢だと気づいた瞬間に、緩やかに世界は止まっていった。鮮やかな幸せの色は消え去り、灰色に塗りつぶされる。

そんな夢の名残りがやはり惜しくて、消える前にお茶子に触れようとして───やめた。

 

「───やはり、お前の夢は面白みがない。そんなに普遍的な幸せが嫌いか?」

「全体的に作りが雑なんですわ。なんで親が老けてないのにお茶子は成長しとんねん」

「ふむ、なるほど。そこか。次からは善処しよう」

 

母と父、そしてお茶子が蜃気楼のように消えていって、残ったのは茶ノ丸と───長身の女性だけだ。

 

パステル系の紫色の影の女性だ。

朧気な姿で煙が人型を保っているよう。

 

学生時代から懇意にしてくれている博士がいると、この前言ったと思う。メールの返信がめちゃくちゃ早い人、それが彼女だ。

人呼んで“()()()()()()”。

 

「人の記憶引っ張りだして勝手に夢作らんといてくださいよ…心臓に悪い…」

「いいじゃないか、幸せだろう?」

「いくら幸せな夢だろうと、それが偽物やって気づいた瞬間に虚しくなるやろ」

「だがこれはお前の記憶にあるものから作ったものだ。偽物ではない」

 

微かに見える形の良い唇から耳聞こえのいい言葉ばかりが吐き出されて、少し苛立った。そういうことじゃない、過去にあった()()()()()()()()()()()を見せられることこそどれだけ残酷なことなのか彼女にはわからない。

 

ズキン、と痛み始めた腹に眉をしかめる。

 

「俺死んだ?」

「死んでいない。今ICUのようだがな…だから入れなかった」

「だから夢に…って強引過ぎひん? ICUか…なんやろ、心肺停止でもしたかな…」

 

痛み続ける腹と首をさする。

自分の勘では胃に穴が空いた気がする。いや比喩ではなく。それのせいかなあなんて思っていると、盛大な溜め息が響く。

 

「お前はここぞという時にダメなタイプの無茶をするな…」

「なんやダメなタイプの無茶て。無茶せんとこういう仕事はやってけんやろ」

「……」

 

紫色の影がこころなしか呆れているように見える。

呆れるのはこっちのほうだと、舌を突き出した。

 

「で、なんの用ですか?」

「お前、今日の夜来れるって言ったのに来なかったろう」

「あ、すいまっせん。ちなみにどんな理由で…?」

「新しい蟻だ。新種を作ったからな。あと装備品の開発と……」

「自由行動できるようなったら見に行きます」

「よろしい」

 

ふう、と息を吐いた。

パステル色の煙が吐き出される。くすくすと笑った彼女は、ひらひらと手を振った。

 

「さて、では待っている。夢は醒めるものだ、さっさと目覚めて回復しろ」

「はいはーい、覚めます。起きます〜」

 

パステルヴァイオレットにもやがかる。

茶ノ丸はいつものように目を閉じた。

 

 

「………………いっっってぇ〜」

 

ズキンと腹が痛んで、それで目を覚ました。

最悪。右手で布団と服を捲って、患部を確認した。やべえ、めちゃくちゃ縫ってある。

部屋は個室のようだ。ベッドサイドのモニターがピッピッと静かな部屋に細かな電子音が鳴る。窓の外からは朝焼けの薄明かりが微かに差していた。

 

「今何時…?」

「そうねだいたいね〜」

「………古」

 

痛む腹に耐えて、そっと起きあがる。

左手が何かに掴まれていて動かせない。目を向けると───お茶子だった。彼女が茶ノ丸の手を握って眠っている。モニターが著しく反応した。

 

「今五時よ茶ノ丸くん」

「香山先輩…次の日ですか?」

「そうね、今日は臨時休校」

「でしょーねー…」

 

あ、なら休んでればいいや。と再度枕に頭を乗せた。

ベット脇の椅子に座っていたミッドナイトにあの後のことを聞けば、無事生徒達は教師に保護。掌ヴィランと黒霧以外のヴィランは捕縛。生徒達は両足骨折の緑谷以外は軽傷が多数だった。

───ともかく、安心した。

 

「先輩と13号は?」

「13号さんは背中から上腕にかけての裂傷が酷いけど、命に別状はなし。相澤くんは───両腕粉砕骨折、顔面骨折。幸い脳へのダメージはないみたい……でも、眼窩底骨が粉々で……目に何かしらの後遺症が残るかもって」

「そう…」

 

どうにもやりきれない気持ちを抱いて、右手をぎゅっと握った。

よりにもよって目を……!!

 

「それで麗日茶ノ丸」

「…はい?」

「第10肋骨粉砕骨折、第9肋骨にヒビ。胃体部に穴二つ。腹に穴五つ! 一時心肺停止で本当…! 本当…! あなたは!!!」

「輸血した?」

「したわよ、当たり前でしょう」

「えーーもう献血行けへんやん」

「馬鹿野郎!!!」

 

早朝五時の病室とは思えないほど賑やかな会話である。未だ倦怠感の残る身体で身動ぎする。この感覚は覚えがあるので、おそらくリカバリーガールがどこかを治してくれたんだろう。復帰したらお礼言わないと…と頭を掻いた。

 

「…妹の前で瀕死になるんじゃないわよ」

「うん」

「泣いてたわよ?」

「知ってる」

 

繋がれている手はほのかに温かくて、指の腹で妹の手を撫でる。なるほど。土手っ腹に穴が五つ、そのうち二つが胃に穴を開け、肋骨が粉砕。まあ最悪それプラス背骨もイってるかなって予想してたので、安心した。死にそうにはなったが死んではないので大丈夫である。

 

「…他に体の違和感は?」

「香山先輩なんだかお母さんみたい」

「体の違和感は?」

「…首が痛い」

「蟻達の記録映像で見たわ。マスク吹っ飛ばされたときね? まったく…無茶しかしないんだから…時間が来たら検査をしてもらいましょう」

「お母さんありがとうっ!!」

 

頬に手を添えてにっこりと笑ってみせると、なんとも言えない表情を浮かべるミッドナイト。しばらく睨み合ったあと、彼女は盛大な溜め息を吐いた。

あれ、デジャブ。

 

「検査時間まで眠る?」

「うん、そうやね、寝とこかな…とは言っても痛みで寝れなさそ────あっなるほどちょっと待ってまだ心の準備とかが…!!!」

 

ミッドナイトの指が茶ノ丸の鼻の下を撫でる。ふわりと薔薇のような香りがして、茶ノ丸の意識は遠のいた。

個性:『眠り香』。瞬殺である。

 




DCではダイアナちゃんとフラッシュくんがすき。
いやそもそも女性ヒーローが好き。ブラックウィドウもスカーレット・ウィッチもペッパーもキャプテンマーベルもドミノちゃんもミスティークもシュリちゃんもマンティスもオコエもガモーラもネビュラもエンシェントワンもネガソニックもヴァルキュリー(ブリュンヒルデ)ちゃんもみんなみんなかっこよくて好きです。

ダイアナちゃんはね〜、もうね〜、大好き(語彙力)
映画の単独作がありましてですね、おすすめなんですよ…「ワンダーウーマン」是非に。女性ヒーローの単独作ってどうしてもまだ少ないので…「キャプテンマーベル」もいい映画でした…! 2人とも激強お姉様なので…!
あとスティーブという名前の男はいつだってそういうことをする…!!!!

フラッシュくんは早く単独作出ないかなあ。加速系の能力っていいですよね〜…クイックシルバー(×2)とかも…飯田くんを上手く描写したい。

オリキャラの貴婦人さんを出しちゃいましたが、普通科ヒーロー科含めてあと6人くらい? のオリジナル生徒さん出そうかな…ってなってます。
貴婦人さんの容姿含めたプロフィールはまた今度
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