鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話 作:藤涙
翌朝目覚めたらミッドナイトは消えていた。恐らくは先日の事件の後処理だろう。当事者なのに参加できなくて誠に申し訳、とメールを送ると、さっさと治しなさい。とだけ返ってきた。まったくもってその通り。
首をCTで調べてみると、幸い筋肉の筋を痛めただけだった。強い回転がかかった負荷がかかるとすぐ外れるようになっていたマスクのため、痛むだけで済み首が撥ね飛ばなくて済んだ…と。医者からは幸運だと呆れられたのか褒められたのかよくわからない。ちなみに作者はパワーローダー先生だ。パワーローダーセンパイ様っ様だな…?! 今度何かしら奢りたい。
肋骨は正しくは第10肋骨粉砕骨折、第9肋骨にヒビ、あと第6〜第10を繋げている肋骨弓というところがことごとく犠牲になったと説明を受けた。泣きたい。
バストバンドを付けることになった。
胃はリカバリーガールが最優先で塞いでくれたおかげで元通りだが、機能的にはぶち開けられた穴のダメージが残っており、未だ弱っているので数日は点滴生活。そのあとは流動食ののちに元通りの食生活に戻れるとのこと。
さすがに茶ノ丸自身の体力的に、リカバリーガールは腹の傷を治すのは断念したようで、直されていたのは胃とズタズタになった腹筋。あとは病院で五つの穴を抜い合わせ、失った血液があまりに多かったため輸血。USJにいる時は一時心肺停止に陥り、本当に危なかったらしい。
───生徒達には悪いことをした。きっと怖かっただろうに。
「……」
「……」
一通り、医師から説明を受けて茶ノ丸は息を吸って吐こうとし───それすらも骨に響いて瞼を閉じた。痛い、めちゃくちゃ痛い、痛み止め増えないかな、と無言でついてくれている看護士さんを見るも、無言で首を振られた。辛い。
ちなみに車椅子に乗っている。リカバリーガールの治療のリターンも抜けないし、肋骨は痛いし腹も痛いし首も痛いので地獄。普通に歩けなかったのでこの処置だ。ちなみに押してくれているのはお茶子だ。まさに天国…!!!
ミッドナイトに眠らされたあと、起きたのはその4時間後。午前9時だ。目覚めて初めに見たのはお茶子の顔だったし、お茶子はずっと手を握ってくれていたらしい。目元は腫れていたし、目の下に隈ができていた。もしかしたら気絶するように寝たのかも───ベッド脇に座りうつ伏せになって寝ていたことからその可能性が高い。体調面とメンタル面が心配だった。
「……」
「……」
その後連絡で13号が回復。相澤が退院…………退院?!?!?!
えっっっっっっ、早くない?!?!?!
となり、メールを送ってみれば、リカバリーガールに頭の傷と眼窩底骨を治してもらったあと茶ノ丸とは別の病院に搬送、一通りの処置が午前中で終わったので退院したと相澤自身から返信が来た。あの人両腕粉砕骨折してたのではなかったか、どうやってメール文打ってるんだろう…と不思議に思っていれば、マイクから写真だけのメールが。相澤パイセン、全身包帯ぐるぐるでミイラ男みたい。ハロウィンはまだまだ先やで……? と送った。たぶん復帰したらアイアンクローである。
昨日眠っている間に知り合いのプロヒーロー達からお見舞い品が届いていたらしく、看護士さんに手渡された。
シンリンカムイ、マニュアル、ファットガム等の学生時代の同期から、仕事を数度共にしたことのあるインゲニウム、ミルコ、リューキュウ等。そして人生の大先輩達、ベストジーニスト先輩様やサーナイトアイ先輩様。 あと何故か……!! エンデヴァー先輩様から…!!! ど、どうして…?!
そして例のヘラヘラした速すぎる男とかなんとか言うやつからも来た、博多明太子だった。何故。
だいたい花や果物の詰め合わせが多い。お花はだいたい女性から。アレンジメントされた花を眺めながらスンスンと嗅いだ。オレンジや黄色の花々は白い病室をパッと明るくする。果物は男性からだ。しばらく食べられないから、日持ちのしないものはお茶子や相澤やミッドナイトにあげてしまおう。人生の先輩御三方の盛り合わせやばい、メロンとか入ってる。シャインマスカット大好き。しかも種無し、ひゃっほう! フルーツジュースやゼリーの詰め合わせもあったし、これは日持ちする。お礼を言って回るのは大変だが、こういうのは素直に嬉しい。エンデヴァー先輩は謎だが!!
「(まあエンデヴァー事務所名義になっとるし、あれかな。サイドキックの誰かが気を利かせてくれたんかな。嬉しいわあ、メロン)」
箱を開けてメロンの表皮を嗅げば、そこまで甘い匂いはしない。食べ頃はまだ先だ。よし、手元に残せるぞ…!!!
「………」
「………」
───うん、気まずいナーー。
諸々の連絡や確認を終え、手持ち無沙汰になって忙しなく指を動かした。現在午後。そろそろ事情聴取のため塚内警部と、3つの残りの怪我のうちひとつを治すためにリカバリーガールが来る予定だ。
看護士さんがいなくなったので、病室はとても静かだ。お茶子と茶ノ丸の間には嫌な沈黙が横たわっている。
4月ももう後半で、関東であるここの桜はもう散り始めている。関西だと見頃なのかな…と思いながら窓の外を眺めた。いや、現実逃避をするな茶ノ丸…!! なにか、なにか話せ…!!!
「……帰らなくてええの?」
「え?」
馬鹿野郎─────!!!
これだと“帰ってほしい”みたいな言い方じゃねえか!!! 言ってしまった言葉は取り戻せないので笑顔のまま固まる茶ノ丸、言葉の裏をしっかり読んでしまって困惑するお茶子。
「えっあっちゃう、ちゃうちゃう。帰ってほしいとかそういうんやなくて、えと。麗日サンも疲れとるやろし、さ…」
「……」
アホタレ────!!!
なんでここに誰もいないのに生徒扱いしてしまうんだろう。ニコニコと笑顔の体裁は保っているが、背中は冷や汗ダラダラである。助けてヒーロー!!! 主にコミュ力がある人!!!
「えと、や。その……」
「……」
わたわたと言いよどみながら身振り手振りをしていた茶ノ丸は、次第に手を布団の上に置いた。俯いてしまったお茶子と、ただひたすら冷や汗を流し続ける茶ノ丸に再度沈黙が訪れた。───先程よりも数倍気まずい。
「……アント先生」
「はい!!!」
そう呼ばれて、思わず返事をする。はの発音は限りなくひゃに近いものであったが、自分自身の名誉のために腹筋に力を入れた。あ、痛い。
「USJで、守ってくれてありがとうございました。みんなも、ありがとうって、言ってます」
「そ、そ、そ、そか〜」
「確か警察の人来るんですよね、お邪魔になりそうやし、私はここで…」
泣きそうな顔でにこりと笑って立ち上がろうとしたお茶子の腕を咄嗟に掴む。心臓をぎゅうと掴まれたような心地だ。急に動いたおかげて腹がめちゃくちゃ痛い。その痛みに眉を下げながら耐える(戦闘中ではないので情けない顔だがオッケー)。
「……もう行っちゃうん?」
「う、うん…だって邪魔になるかなって。警察の人来るんやろ?」
「邪魔にならへんならへん。お、お───お茶子も事情聴取受けてないんやろ? ここで受けれて一石二鳥やん。いときいとき」
落ち着け。どもるな。俺は完璧な兄、俺は完璧な兄……とニコニコ笑っていると、同じく眉を下げたお茶子からこんな言葉が。
「あとお母ちゃんに電話しないと…! おにいのことも言っておこうか?」
「……」
「…?」
───咄嗟に、お茶子の手の中にあったスマホを奪った。
いつの間にか奪われたスマホと、無表情になった兄の顔を交互に見ながら、お茶子は困惑する。見たことがない表情だ。あらゆる感情が抜け落ちたような、あらゆる仮面が剥ぎ取られたようなそれ。見たことがないと言っても、お茶子はそんなに茶ノ丸のことを知っているわけではないのだが。
「えと……おにい?」
「……オトンとオカンには俺から連絡しとくよ」
「えっでも、心配してる…」
「うん、そやね。でもさらに心配させたくない」
お茶子はスマホを取り返そうとするが、腕のリーチが違いすぎて届かない。
「俺から連絡したほうが心配もさせにくいし…な?」
「……うん」
ふんにゃりと笑ってみせる茶ノ丸に、お茶子は困惑しつつも頷いた。
病室のドアをノックする音が聞こえてきて、茶ノ丸はスマホを返した。返されたスマホを見ながら、お茶子は思い詰めた表情でそれを見下ろしている。
ガチで死にかけ茶ノ丸くん。
献血ってピアス開けて数ヶ月は行けないんですね…初めて知りました…!
シンリンカムイとマニュアルが確か28歳で、ファットガムが29歳だったはずなのですが、ファットガム28歳ということになってます…! 茶ノ丸くんとは同学年にしたい…!