鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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text18:人が倒れていたらまず声掛けしような

『───まったく、呼吸が止まったって聞いてびっくりしたんだからな…』

「あ、ちなみに心臓も止まったで」

『そう…心臓も…………はあ?!』

 

電話口から聞こえてくる驚愕の声に、茶ノ丸は半笑いでうるさくなったそれを遠ざけた。電話の相手はインゲニウムだ。東京都内に事務所を構えるターボヒーローで───名前は飯田天晴。A組の委員長、飯田天哉くんのお兄ちゃん。茶ノ丸とは2歳違いの先輩で───あ、相澤&マイクと同じ歳だ。見えない。あの二人が老けてるのか天晴が若々しすぎるのかどっちだ───歳と離れた弟妹をもつことで気の合う友達だ。

 

「グレープジュースありがとー。美味しそやったわ。まだ飲んでないけど」

『産地直送だからな。胃に穴が空いた…ということは刺激物はまだ駄目なのか』

「んん? まあ、飲めんこともないと思うで。たぶん」

『…適当だなあ相変わらず』

 

インゲニウムとはよく仕事をした。特に4年ほど前に。やーーあの時は若かったなあ、茶ノ丸24歳だったし、相澤達は26歳だった。若い、相澤の小汚さは相変わらずだったけれど。

 

「なあなあ、それよりさ、体育祭のあと辺りに遊ぼーや。俺ん家で、マリカやろマリカ。水島(マニュアル)とか西谷(シンリンカムイ)とか呼んでさ〜〜なあなあ」

『マリカ? いいけど…そのメンバーだったら俺が勝つよ』

「ふざけんな俺のドラテク舐めんな」

『君クラッシュするじゃん』

 

砕かれた噴水の瓦礫を広い集める。自分が戦っていた場所には血の一滴のあともなかった。自分からこぼれたものの後処理を誰かに任せているのはしのびない。

 

『…天哉の様子は?』

「ええ子やで。あの子のおかげで助かったようなもんや。さすが飯田家、速いな」

『そうか…。うん、これからもよろしく。先生』

「おうよ!」

 

そう言い合って、電話を切る。

インゲニウムでお礼電話は最後だ。先輩方の事務所に緊張しまくりながらかけた最初のことを思うと涙が出てきてしまうな。出ないけど。

 

「アント、バイクの修理終わったぞ」

「あっはーい!! ありがとうございますパワーローダー先生」

「だいぶ歪んでたぞお前本当…いい加減にしろよ…」

「ウィッス」

 

 

物理教室に入って、一番窓側の机に座って落ちた陽の残り火を眺めた。青い、深い青、紫色の空。

街は騒がしさを失い、次第に家々の光が灯されていく。

 

───落ち着け、震えるな、大丈夫。

 

机に突っ伏して指先を見つめた。

白手袋を外して、小刻みに震える指を強く、強く握り込む。

ここ2年ずっとそうだ。自分がどこにいるのかわからなくなる。誰もいないたった一人きりの世界に落ちてきたよう。迷子になった気分だ。

 

「まあそれも、言い得て妙やなあ…」

 

少なくとも茶ノ丸には、自分の全ての常識や信じていた物事をことごとく吹っ飛ばされた経験が3回ある。転生前のあの天使と、お茶子と出会って前世の記憶が蘇ったとき、そして───二年前、少し無茶をしたときだ。

 

指先を見る。人間の体は原子で出来ている。手に持っているスマホ、今身を預けている机、眼下にある家。この世のありとあらゆるものは原子という小さな構成単位。哲学的に言うと世界の構成要素となる、単一不可分の微細なもの。

 

頭がおかしくなりそうな時は、こういうことをぐるぐる考えるようにしている。物事の仕組みを考える時は心は静かだ。瞬きごとに変わる不可思議な世界も、行き着いた果てのことも、頭から放り出せる。

 

「………shit(クソが)!!」

「口が悪いな」

 

そんなことを口走れば、そんな声が聞こえてくる。首をドアの方向に向けようとして───そういえば痛めていたんだったと悶えた。

気を取り直して体ごとそちらの方向に向けると、全身包帯だらけのミイラ男。こと、相澤が普段より怖い顔で茶ノ丸を見ていた。

 

「こんなトコで何してる……というか死にかけたくせに退院が早いな…」

「お互い様やろセンパイ。何しとったん?」

「諸連絡だよ…。明日の放課後、職員会議だそうだ。体育祭のことだな時期的に…」

「ウワーーー胃と腕がやばい二人組だからあんまキツイとこじゃないとええな…」

「いや、実況だの解説だのに振られたらそれはそれで悪夢だ」

 

鎮痛剤が切れたのがじくじくと痛み出した腹を抑えて笑った。4月もあともうわずか、体育祭まで2週間というところ。

毎年準備が大変である。

 

腕が大変そうなので、手をかそうかと善意と悪意ハーフハーフの手を差し伸べると、足を踏まれた。

満身創痍なのに酷い人である。お互い様だが。

 

 

「えーーーっと…ここからどうすんだ??」

「……………」

「知らないノコ、とりあえず心臓マッサージしとけノコ!」

「………そうすっか!!!」

 

「そうすっか!!! …じゃないわ!!! ちょ、おぉッ?!?! 待ッ、苦し……ッ、ミッドナイトぉ…!!」

 

「………はいはい負傷者役はちゃんと寝てなさいな、アント。

───鉄哲くんと小森さん、最初から心臓マッサージするって習ったかしら?」

 

臨時休校明けの次の日。

点滴スタンドをよろよろと引きずりながらB組のHRに参加。褒められたのか引かれたのかよくわからない反応を貰い、午後のヒーロー基礎学。

 

初っ端から鉄哲徹鐵の全力の心臓マッサージをお見舞いされた茶ノ丸は、胃ではなく胸を抑えて仰け反った。苦しい、辛い、ヒーロー基礎学ってこんなに教師が痛めつけられるほどキツイ科目だったか。

 

「鉄哲クン…!! 心臓マッサージは…!! せやな…!! 肋骨折れるくらいの力でやらんと意味ないのは正解やで…!! でもな鉄哲クン…!! 心臓動いとるんや俺…心臓動いとる人間に心臓マッサージすると…逆に心臓止まることもあるから…ちゃんと…確認…がくっ…」

「せ、先生ーーー!!!」「teacher(先生)!!!」

 

「茶番はいいから」

 

下の肋骨が折れたと思ったら、上の肋骨も折れそうになるの、だいぶ面白いらしく13号が笑っている。同学年のお友達だったから、茶ノ丸にはわかる。あれ絶対笑ってる。授業終わったらなんとかしよう。

 

B組のレスキュー訓練は、A組の時より教師は多い。オールマイト、ブラドキング、13号、ミッドナイト、外で待機しているスナイプとエクトプラズム、そしてアントマンだ。正直茶ノ丸はあまり役にたたないので、こうやってガチ負傷者が負傷者役やっているのだが…

 

「確か…周囲の確認?」

「そして?」

「…声掛け! ノコ!」

「正解〜!」

 

前途多難だ。

俺、授業終わる頃にはどれだけボロボロになっとるんやろ…と若干虚無の表情を浮かべつつ、茶ノ丸は諦めて目を閉じるのだった。




ミッドナイト先生「どんな怪我を負ってそう? 所見を述べて」

拳藤「胃を抑えているので胃が…」
塩崎「胃の…」
庄田「胃…」

アントマン先生「(死)」
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