鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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text21:口の悪さが洋画級

「ふははははッ!!! 打倒軽音部!!! 今年、今年こそはあの猛獣共に一泡噴かせてみせるわ!!! ハッハッハッハ…めェ〜〜〜〜!!!」

「文化祭まであと5ヶ月…!!! 半年を切ったわ…!!! 踵の蹄であの減らず口を蹴りあげてみせる…!!! めぇ〜〜〜っ!!!」

 

「…………や、とりあえず、体育祭に目を向けーや。お前ら」

 

音が体育館中に振動するほど大きい音楽が流れていて、茶ノ丸はスピーカーを眺めて溜息を吐く。目を離すとろくなことにならないタイプの生徒達のため、定期的に見に行くことにしている。顧問だし。

ダンス部、軽音部、文芸部、写真部が顧問として受け持っている部活動だ。いや、多いな…。軽音部がヒーロー科2年の生徒達、ダンス部が普通科2年の生徒達、写真部が経営科の生徒達、文芸部が全科の生徒がいる魔境。ちなみに部活動、という名目も彼らが勝手に名乗っているだけだ。そもそも雄英高校に部活動の枠はない。

 

「……めェ、いいんですよ。体育祭なんて、僕らはヒーローの世界一になるんじゃなくて、ダンスで世界一になるんですよ!!」

「そうよ、よく言ったわダーリン。こんなちっぽけな高坊のお祭りより、私たちは世界に名を馳せるの!」

「ああ、ハニー。僕の可愛いシープちゃん…! 僕は君のためなら狼にだって噛み付いてみせるよ…!」

「ああ、ダーリン。それはやめて、私の可愛いひと…! あなたのお髭があの野蛮なクソビ……じゃなかった聞かなかったことにして? あの野蛮な───クソ狼に食べられちゃうなんて嫌よ」

 

「おーい、これ俺いる? あとクソなんとかなんて汚い言葉使うのやめーや」

 

雄英高校2年普通科、崖下剛斗。個性:ヤギの男の子。くすんだ白髪から立派な鋭い角が生えている。口癖は「めェ」。純情で優しい。

雄英高校2年普通科、羊毛マトン。個性:ヒツジの女の子。ふわふわの白髪から立派なラセン角が生えている。口癖は「めぇ」。かなり口が悪い上に性格も……………。

 

それは置いておいて、2人はダンス部の部長と副部長だ。ダンスは小さな頃からやっていたらしく───日本国内の高校生のダンス大会で優勝できるレベルには上手い、らしい。ダンス部は10余名ほどいるが、振り付けもこの2人がしている。

茶ノ丸はクラブとかでしか踊ったことがないのでこういうのはどうも……部の皆には顧問でいてくれるだけでいいと言われるので、まあそんなものかと担当している。EDMってイイヨネ!

 

「やっぱり一番近くにいるヒーロー候補が、あのビッ……………5人ってことが問題だと思うんですよ。めぇ」

「……ああ、うん」

「私、日本のヒーローよりもアメリカのヒーローの方が好きです。カウレディとか、草食動物系にとっては憧れです…! 素敵…」

「………ほ〜〜ん?」

「………聞いてます? アント先生」

「羊毛って草食動物って言うよりは肉食っぽいけどな。あ、知っとる? 4000万頭の人喰い羊が襲ってくるホラー映画があってやな、名前が────」

 

ぶらっく すりーぷ と声に出そうとした瞬間、羊毛の横長の瞳孔が妙に据わっているように見えて茶ノ丸は口を閉じた。怖い。顔が笑っているのに目が笑ってない。てめぇそれ以上言うと角で突き刺すぞという無言の圧力を感じる。

 

羊毛マトンの台詞の節々から感じるだろうが、ダンス部と軽音部はクソほど仲が悪い。あ、クソって言っちゃった…。

 

雄英高校ヒーロー科2年の仲良し5人組で構成されるバンド「CANNIBAL ANIMAL」。そのこうもうちょっとなんとかしてくれと思うネーミングの通り、5人全員動物系、もちろん肉食獣の個性を持つ娘達だ。ハイイロオオカミ(vocal)、サーバルキャット(guitar)、カラフトフクロウ(guitar)、ホッキョクグマ(Drum)、アナコンダ(base)からなる。

対してダンス部はほぼ草食動物系の個性持ち。部長がヤギで、副部長がヒツジだ。

 

茶ノ丸にはよくわからないが、ライバル心というものがあるらしい。廊下で出会えば煽りあい、もう文字では書けないほど汚い言葉飛び交いまくり。もう17歳になるんだからそろそろ落ち着いてほしいな…。止めるのも一苦労である。

まあそんな生徒達でも可愛いのが教師心というものだ。たぶん。

 

まあ仲が悪いと言っても手を出している様子は見受けられないし、表立って罵り合うものの、少し心配になってお互いに話を聞けば悪い印象は抱いていないみたいなので、ダンスとか音楽とかそういうのを抜きにすれば仲良くなれるのかもしれない。無理そうだが。

 

「私たちね、先生」

「うん?」

「本当はヒーローになりたくて雄英に入ったけど落ちちゃって、普通科入ってね。すっごく悔しくて、すっごく妬んで、cannibal sheepになりそうだった時もあるよ…でもね、」

「あ、自覚はあったんやね。あっごめ続けて睨まんといて…」

 

雄英高校の普通科にはそういう子が多い。ヒーロー科に受験したものの諦めきれなくて、他の科を受けて入ってくる。一応他の科からヒーロー科に編入する制度はあるものの───数はかなり少ない。

 

羊毛はモコモコとする自身の髪を耳にかけて、横にいた崖下の手を握る。目を合わせて微笑み合う。頬に残る恋の色を冷まして、羊毛は顔を上げた。

 

「私、ダンスが好き。剛斗くんも好き。その気持ちは誰にも負けないわ。だからヒーローの副業でダンスをする人間にはどうしても負けたくないの」

「…うん」

「私、本気でダンスをしない人間は嫌い。遊びが一番嫌い。羊だって黙って狼に食べられちゃうわけじゃないわ、蛇の丸呑みだってへっちゃらよ。だからダンスで世界一になる。お金も名声もいらない、ただこのメンバーで踊っていたい。輝かしいステージの上で、幾千ものスポットライトに照らされて、観客達の歓声の中、踊っていたいの」

 

空を睨むようだった。可愛い見た目からは予想もつかないほど強い瞳。そういえば羊って突進がすごい。

 

「…これって進路相談?」

「そうよ、どうか笑わないで聞いてちょうだい。

───私留学したい。アメリカに、本場で。もっと自分を高めたい。もうパパやママには言ってあるの、応援してくれるって言ってくれた…“なにをしたってマトンのことを応援する”って」

「うん」

 

笑わないよ、笑うわけがない。

この飽和するヒーロー社会、どうしようもない挫折という泥の中から彼女は飛び立てたのだ。

ぎゅっと手と手を握り合う2人に、茶ノ丸は目を細める。

 

「崖下は? ついてくん?」

「……ええ、僕、彼女がいないとダメなので」

「そかそか。留学は長期? それとも短期? 在学中に行こうと思ってる?」

「今からでも行きたいわ。できるだけ長く、たくさんのことを吸収したいの」

「調べとくわ」

 

ダンス留学、校長あたりに相談してみるか…と思案する。とんとんと指で頬を叩く。先程から同じ曲をループしていたが、このタイミングで止まった。

 

一通り練習を終えたらしい。

確かこの曲は───母親に向けた曲だ。夢に向かう子供達が、母に心配しないでと願う曲。

 

「…この曲好き」

「踊ってみせようか? 先生、もう完璧だよ」

「本当? どうなんかなあ、俺目は肥えてるんやで。目は」

「へへ、先生がクラブで体を揺らしたことしかないってこと。僕ら知ってるんですから」

 

悪戯っぽく笑った顔に観念して手を挙げた。2人が楽しそうに駆け出していく。

軽快な前奏が流れ始めて、ダンス部の面々は踊り始めた。相変わらずキレッキレでメリハリがいい。まるで群体のような動きで、見応えがある。曲自体は知っていて、もう口ずさめるほどだったので、小声で歌いながら眺めた。

 

「ある日目が覚めて、“もっとできたのに”って思いたくないんだ」

 

「生き急ぎたい 振り返りたくない

だから僕らはここにいる」

 

煌めく汗と、楽しそうな表情に目を奪われて、茶ノ丸も無意識に体を揺らした。曲はサビに入り、ダンスの盛り上がりも最高潮だ。

 

「「「Mama,Mama,Mama.Yeah!!!」」」

 

歌詞に合わせて生徒達の口も動く。

跳ねて、飛んで、回って、歌う。心底楽しそうで、どうにもそれがとても美しく見えて、とても眩しくて。なんだか涙が出てきそうになる。歳かな…と上を見上げた。涙がこぼれないように、というやつだ。

 

「………」

 

胸が痛いな、と感じて胸を抑える。

曲とダンスが終わり、ダンス部の面々がこちらに駆け寄ってくる。それを笑顔で迎えながら、茶ノ丸は手を振った。

 

───太陽が昇る頃に、帰れそうもなかった。

 

 

 

 





ダメそうだったら書き直します…!

今回出てきた生徒ちゃんたち、私が生徒を描写する時に書き分けが苦手でモブに名前をつけてしまえ! と言った感じで書いてるのでそれほど出ないです。
バンドの子達のバンド名は「肉食動物」という意味もありますがどちらかと言うと「人喰い動物」という尖った意味。10年後あたりに死にたくなるやつですね。

(2019/10/13 01:08:06)
ダメそう!!!


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