鉄の意志を5ミリくらいは引き継げればいいなっていう男の話   作:藤涙

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text23:Fighting girl

「死んじゃえ」

 

なんて、本心じゃなかった。

当たり前だ。子供心に凝り固まった何かが、少し表に出ただけ。

 

中学校の帰り道、夕焼け小焼けの夏のこと。

些細な喧嘩だ。理由も思い出せないほど、本当に些細な。

少年は少し眉を寄せて、駆け出した。

 

まばたきのたびに、世界はゆっくりになっていくようだった。

信号がちかちかと点滅する。下を向いて必死に走る少年は、それに気づいていないようだった。

 

ダメだ、と叫ぶその前に、フロントガラスが割れる音と、車か急停止する鋭い音が響いた。

真夏のアスファルトに広がる赤い何かは鮮烈に、ガラスが落ちて割れる音は耳を突き刺すように。周囲の人間のざわめきと、遠くから響くサイレンの音。

 

ずっとずっとずっとずっと、それが耳から離れなくて───

 

「本心じゃ、ない………」

 

絞り出すようにして最後に言った言葉は、蝉の鳴き声に掻き消されて、真夏の空に消えていった。

 

◆◆◆

 

「う、わ、あ、あ、あ……!!!」

 

喉奥に詰まっていた何かが吹き飛んだようだった。ロボットまで凡そ3m、ガチガチと腕にハサミを付け加えられたロボットがこちらを見て笑っている。

 

何か話せ────いや、ダメ。

私の個性は無機物には効かない…!!!

 

「た、た、た、()()()()…」

 

4年ぶりのその声は情けないほど小さい。だがその声に伴う個性は正しく働いたようで、声響の声が届いた範囲内の生徒達が援護に来てくれる───いや、ちょっと待って。現在進行形で空中をくるくるしている自分を助けてほしかったのだが…!!!

 

「ごめんちょっと遅れた…!!!」

 

地面に叩きつけられる寸前だった声響を、通形がギリギリのところで助けてくれた……投げ飛ばした本人なので“助けてくれた”という表現はおかしいかもしれない。

 

「なんて───ひどい───私───!!!」

「ん? ああ、声初めて聞いた気がする。素敵な声だね」

「(…!!!)」

 

この人太陽タイプのヒーローだ。

鬱陶しいくらいに眩しい。キラキラと輝いていて、穢れってものを知らなさそう。あまりにも強い光なものだから、周りの影も霞むのだろう。

声響が苦手なタイプだ。何度も言うようだが声響が好きなのは月明かり。たとえそれが同じ光の反射でも、柔らかさが違う。

 

「さて、例年通りだと次は綱渡りなんだけど…アント先生とパワーローダー先生のタッグだからかかなり凶悪だ。どうなってるかなあ!!!」

「(待って!! これ難易度どれくらいなの…?!)」

「うん? うーーん…1年の頃がEASYで、2年の頃がNORMALだとして───今年はHARDを飛び越えてVERYHARDってとこかな!」

 

棄権する────!!! という声にならない言葉は、加速による強風でかき消された。

 

 

「〜〜〜!!! 〜〜〜ッッ!!!」

「大丈夫かアント……腹が、腹が痛いのか……?」

「そ、それもあるけど…ふふ、ふはッ、ダメ。無理、おもろすぎてダメ。なるほど……ここで出るのか声響〜〜〜今ミッドナイト先生に電話したら怒るかな?」

「確実に怒ると思うぞ…香山(ミッドナイト)は今1年の審判だろう」

 

笑うと腹の傷に響くからダメだ。2週間経つがまだ完治してない。笑いすぎて震える腹筋を抑えて仰け反る。ツラい、お腹痛い、でも笑いたい。

 

ゆっくりと心の傷は癒すべきだ、というのがミッドナイトととの意見だったが、多少の荒療治でもよかったらしい。目を細めて少女を見る。口は半開き、瞳には涙、手足は小動物のように縮こまっている。やっと少しだけ、出せるようになった声で何を言っているのかは大体わかる。

「ぁゎゎゎゎゎゎ!!!」、言葉になってないのでこの場合は叫ぶか。

 

「うん、うん、うん────ええことや、ちょっと個性使うてる。ええやん、使えるもんはなんでも使えばええよ。それがたとえ…!!! 仲間でも…!!!」

「……お前が受け持ってる生徒、容赦がなくて恐ろしい。“死なないからOK”みたいな思考は絶対教えるんじゃないぞグルルルル」

「お、怒らんといてやハウンドドッグ先生ぇ…! 別に俺はそないなの教えてないです」

「……お前が生徒の前でそんな戦い方をすると、生徒が見習ってしまうという話だ。現に通形ミリオの戦闘スタイルはお前と酷似───」

 

「あーーーーッッ!!! そろそろ先頭集団が綱渡りゾーンにーーーッッ!!!」

 

痛いところを突かれまくったので、慌ててマイクのスイッチを入れて叫んだ。横からじろりと鋭い視線が突き刺さるが、ある程度の無礼は許してくれる仲なので無視をする。

 

「はぁーい先頭集団の雛ちゃんたち〜! 言い忘れとったけど、この会場。()()()()()()で〜〜!!」

 

「「「………?!」」」

 

第2関門───谷と島にかけられた綱を渡るザ・フォール。それの攻略に取り掛かっていたなかの一部の生徒は、語尾にハートがつきそうな茶ノ丸の警告に顔を青くしてバッと顔を上げた。

 

「それ早く言って欲しかったなあアント先生…!!」

「嘘でしょさっさと行かないとつまり───!!!」

 

「HAHA!!」

 

根津校長、アウト。

それ以上はいけない。

 

ラスボス───とは言ってもまだ第2ゾーンだが───が出てくる前にさっさと突破してしまおうとする生徒たちの耳に届く、無情な笑い声。そんな恐怖の象徴に、全員の体が震えた。

 

ザ・フォールのすぐ側、なぜか放置された重機群。そのクレーンの中に我が雄英高校の校長。ネズミなのか、クマなのか、犬なのか。初見ではちょっと自分の頭と目を疑う見た目の────根津校長が紅茶の入ったカップを片手に高笑いしながら重機のレバーを引っ張れば、釣り上げられていた鉄製の工事用の枠組みが島に激突する。

腹の底に響くような音が轟き、島は途中から折れて谷の底に沈んでいく。もちろんロープも切れて落ちていき───これから足場にしようとしていた場所がどう蹂躙されていくかを知り、さらに血の気が引く生徒達。

 

「ふはっはっはっはっはっはっ!!! 俺が学生だったら今年の体育祭絶対ヤダーーー!!!」

 

折れた島が倒れる際に隣の島に激突。重みに耐えきれなかったその島も歪み、倒れかけ不安定な状態になる。

グラつく足場に少したじろいだ生徒達。

 

───その逡巡が命取りだ。

 

「さて、どんどん足場は無くなっていくぞ雛共。第2ゾーン如き(こんなところ)で立ち止まるな」

「スピードが命ってとこやね。さっさと行かんと足場は少なくなるし、危険な場所で増えていく」

 

「まあ生徒達の成長のためなら、こんな役目も悪くないのさ! HAHAHAHA! さて、次はどこを壊そうかな!!!」

 

スタジアムの副審席にパワーローダー先生が座っていた。彼はスタジアムの補修担当だが、1年のセメントスと同じく副審も担当している。

彼ははァ、と溜息を吐くと遠くを見るように青空を見た。

 

「……これ直すの俺なんだけどなァ」

「だ、大丈夫ですよパワーローダー先生…! 僕も手伝いますので…!」

 

それを必死に慰めるのは主審担当の13号だ。第2競技にかなりのテコ入れをしないとならないため、修復にも建設にも時間がかかりそう。2人の苦労が伺い知れる。

 

「タチが悪ーーーい!!!」

 

そう言いながらも、足から波動を出し危なげなくザ・フォールを通過していくのは波動ねじれ。ぷくりとその可愛らしい頬を膨れさせ、さぞやご立腹なのだろう。器用に個性を扱い土煙や飛んでくる土砂を避けていく。

────彼女が1年生の頃。自分の個性の扱い方を悩んでいたときに、一緒に計算をして試していった日々を思い出すと、

 

「涙が出てくる………!!!」

「顔が笑ってるぞアント」

 

ニヤニヤ笑いながらそんな言葉を吐くと、キッと波動からヴィランも小便ちびる程のきつーい睨みが飛んできた。残念ながら茶ノ丸はヴィランではないのでそんな睨みなんてそよ風程度のものだけれど。

 

「さて、一番手に躍り出たのはヒーロー科波動───!!! 二番手は名前だとか個性だとかが性格に噛み合ってないヒーロー科天喰───!!! 個性により腕を蛸足にしてロープを渡る───!!!」

 

「ヴッ…!!!」

 

「あれ、落ちた」

「お前のせいだ…!!!」

 

実況中に急に胸を抑えて谷底に落ちていく天喰に、会場内に悲鳴が響き渡る。そろそろふざけているとハウンドドッグ先生が怒りそうなので大人しくしよう。

────もちろん無理だが!!!

 

谷底に消えた天喰の変わりに、蟹の足が。いや、あれは腕の下、脇腹部分に蟹の足を再現した天喰だ。6本の甲殻類の足で踏ん張り、自分の体を持ち上げる。

 

「おおっと天喰!!! 今日の朝食は蟹か〜〜??」

 

「……蟹フレーク!!!」

 

「ナルホドー!!!」

「今日の朝食について話すんじゃない…! グルル…!」

 

掴む場所が少ない岩場で、蟹足も滑る。ほぼ垂直の壁を登りきった天喰は、ボタボタと垂れる汗を拭い、こちらをキッと睨み───駆けていった。

 

「ええやん坊や、俺を睨む気概ができたんなら上々やんけ」

「……そういうのをマイクを通して言ってやったらどうなんだ?」

「え〜やだ〜、そういうのを偏向報道言うんですよ〜ハウンドドッグ先生ぇ〜」

「今更だろう…!!!」

 

そろそろマジで怒られそう。

雄英高校の先生には13号とセメントス以外、本当に頭が上がらないが───ハウンドドッグ先生あたりは雄英のOBとしてかなりお世話になった故、頭は地中に埋没出来るほどだ。ある程度はふざけて甘えるけども。

 

「さて、通形&声響は…ど、う、か、な、…っと」

 

声響をおんぶしながら、通形が走ってくる。それを眺めて頬を指で叩いた。

 

「(ご機嫌だなコイツ…)」

 

頬杖をついて、指で頬を叩く癖。

茶ノ丸がだいぶ機嫌がいい時の癖だ。本当に楽しんでいる時はこの癖が出る。

だからこそタチが悪い。今ここでその癖が出るのは、それってつまり───

 

「(学生時代にこの性根、叩き直しておけばよかった)」

 

ハウンドドッグは喉を鳴らす。

こちらはご機嫌と言うよりは不機嫌な様子。今からでも遅くないか…なんて、ギラりと目を光らせた。

 

 

 

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理…………!!!」

「すごい早口だね…!!!」

 

小声で言い放ち続けられている言葉はまるで呪文のようだ。首がぎゅうぎゅうと絞められていて、か弱い少女の腕力ながら凄まじい締めつけである。

 

倒壊していく島と、落ちていく土塊を見て声響は怯えている。

通形は彼女の事情は知らない。ただ半年、週に2回、物理の授業で見かけるだけの少女である。ただ教室を出る際に───茶ノ丸と筆談で会話しているのを見たことがある、ただそれだけ。

 

喋れるんだね、だの。

 

なんの個性なの? だの。

 

そんな野暮なことを聞くほど、通形ミリオは野暮な人間ではなかった。

人の心に寄り添えるヒーローになろう。ただ鮮烈なまでに眩しいだけではない。暗闇の中で迷い泣いている、そんな誰かを照らしてくれる、月明かり(ヒーロー)になろう。

 

サーや、茶ノ丸が、そうだったように。

 

走りたいと思うなら手を引こう。

進みたいと願うなら背を押そう。

 

「必要なのは────!!!」

 

「……()()だけ?」

 

くすり、と背で少女が笑う。

被せられたセリフに振り向きながら、通形はぱちくりと瞬きする。なぜだか“勇気”という言葉で、心が高揚する。いや、大変アガる言葉なのは間違いないんだけど、それとは別の何か───これは一体………!!!

 

「“飛べるんだって、俺達は信じて飛ぶしかないんや”…だっけ? たまに気障っぽいこと言うよね。あのひと…」

「…?」

 

小さな声だ。掠れるような声で、声響は囁くように言う。

なんでだろう、妙に“説得力”のようなものがある。声に乗る力、ある種のカリスマ性。音は波となって周囲に反響し、その個性を如何なく発揮する───!!!

 

「さあ、()()()()()()()()()()。私を第3関門へ。私、ちょっと高いところは苦手」

「………うん!」

 

「おーーーっとここで普通科声響の個性がヒーロー科通形に牙を剥くーーー!!!」

 

「…………(人聞きが悪い)」

「あはは…」

 

もちろん茶ノ丸は声響の個性について知っているので、ものすごくニヤニヤしている。ものっすごくニヤニヤしている。横目でチラリと見ながら眉を寄せる。

───未だ妹とまともに話せないくせに偉そうに。

 

「うぐッ…!!!」

「ヴヴヴ…?(どうしたんだアント…?)」

「や、なんか急に心臓が…痛くて…」

 

そんな実況席の様子に満足して、通形にしがみついた。

びゅんびゅんと加速する世界に、目を輝かせる。

 

“世界にはまだ知らないことがたくさんあるよ”

 

その通り!!!

 

通形は少女を背負ったまま駆け出した。倒壊しかけた島までひとっ飛び。崩れた勢いのまま飛び出して、その次の島に着地。その島も崩れて勢いによって……を繰り返して突破した。

 

「通形と声響、第2ゾーン突破────!!!」

 

実況によると通形と声響で30名ほど。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない、と無理やり解いて通形の背から降りる。怪訝そうにこちらを見る通形に、声響は精一杯微笑んだ。

 

「ここからは自分で走る」

「でも、」

「いい、ありがとうヒーローさん───自分でも走れるんだって、飛べるんだって、証明したいから」

 

すっと澄んだ目で見上げる。

今まで夢を見ていた瞳は、真っ直ぐ未来を見据えている。

 

じゃあね、と手を振った。

 

言った言葉は取り返せない───知っている。

 

この個性は一生ついてくる───知っている。

 

「通形が単独独走ーー! さぁて声響はどうする?」

 

上から降ってくる軽快な声にムッとして、走り始めた。

第3ゾーンは地雷原。威力はないがノックバックや煙、音のある地雷が大量に埋められてある。隣を走っていた同級生が地雷に当たり吹っ飛んで行く様にビクリと怯えたが───しっかりと地面を見つめた。

 

よく見れば地雷を埋めた跡。掘り返された跡があり、微妙に地面の色が違う。吹っ飛ばされる生徒達を横目に、慎重に進んでいく。

 

足は棒のようで、肺は限界を訴えている。喉奥から血の匂いがした。

漏れ出る声に咽び泣きながら走る。

 

人間は空に向かって手を伸ばし続ける生き物だ。泥にまみれて、のたうち回りながら。

人類の先祖は鳥だったのだ、という学者が昔いたらしい。もしそうなら人類はどうしようも無い馬鹿だ。自分で飛べる手段を捨ててしまったのだから。

 

「(私だって飛びたい…!!!)」

 

神話ではカラスは元々白かったのだとか。嘘をついたことがバレて、太陽の神様にその身を焼かれてしまったから、カラス達は黒くなったのだと。

 

総距離4キロ、彼女自身が走ったのはほんの1キロちょっと。ボロボロと涙を流しながら最終コーナーに入った少女を、スタジアムの観客は温かく迎え入れる。

 

「…子供の成長はすごいな」

「おめでと、声響」

 

マイクのスイッチを入れて、その言葉を声高々と叫んだ。

 

「競技終了〜〜〜〜!!! 普通科声響の通過でちょうど42人!!! 次ステージ、第2競技に進みます!!! まだちょーっと舞台の建設にかかるから、15分休憩ッ。お疲れ様〜!!!」




声響 あのね
個性:愛の言葉
“声”自体が彼女自身の個性。常時発動型。
言葉に説得力を乗せることができる。嘘を真にする個性。彼女が言葉を発すると声が届く範囲にいる人間の思考をある程度誘導することが出来る。

(例)普通だと
あのねちゃん「このツボめっちゃ幸運になれるよ…!」
さのまるくん「嘘つけ霊感商法としてしょっぴくぞ」

(例2)個性ありきだと
あのねちゃん「このツボめっちゃ幸運になれるよ…!」
さのまるくん「…………なんかそんな気がしてきた。どないしよ。めっちゃ幸運…めっちゃ幸運…? 俺めっちゃ幸運…?」

使いようによってはどのような立場でも有用な個性だが、本人にある程度の話術と語彙力が必要のため、現在進行形でコミュ障ぼっちの彼女には荷が重すぎる個性。
中学生の頃、この個性のせいとは限らないが、同級生との些細な口論の後にその同級生が車に轢かれ、そのまま────。その出来事が原因となって個性ごと声を飲み込んでいた少女。



攻略方法については八百万ちゃんに引っ付いてた峰田君の件があるしこれで大丈夫かなって。
こういう個性、心操くんとか相澤先生とか、他人がいる事で発動する個性持ちの人達って4歳あたりの時にどうやって個性の目覚めを知ったのかな…。爆豪くんみたいに「手の平バクハツした!」とか、お茶子ちゃんみたいに「なんか浮いた!」みたいなわかりやすいものがないわけだから、病院に行って「あー個性発現してますね〜」とか診断受けたのかも? って考えると面白い…
緑谷くん以外のキャラの4歳の頃、どんなんだったのかなあ
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